――岡崎慎司がオーバーヘッドキックで見事なゴールを決めました。今シーズン7点目です。プレミアリーグ第30節の試合でした。この岡崎のゴールが唯一の得点で、彼のレスター・シティはニューカッスル・ユナイテッドに勝って首位をキープしています
賀川:レスター・シティはロンドンの北150キロにある
イングランド中部の中都市で1884年創設の古いクラブです。歴史は古いが、マンチェスター・ユナイテッドやアーセナル(ロンドン)といったプレミアリーグの優勝と争うトップチームでなく、長く下のリーグ(フットボール・チャンピオンシップ→プレミアリーグの下の2部にあたる)にいて、昨シーズン(2014-15シーズン)にプレミアに昇格して14位でした。
――それが今年、開幕から首位を走っていてイングランドでの驚きのひとつです
賀川:こういう試合をテレビで見ることのできるのはサッカー人にとっていい時代にいる証と言えるでしょう。
――私は、19位のニューカッスルが手強いのに驚きました
賀川:プレミアリーグはどのチームもレベルが高いのです。試合の展開を見るとスペインリーグのバルサのような高いテクニックを生かして見事なパス攻撃というのは多くはありませんが、激しく速く、局面での1対1、ボールの奪い合いなどは、まさにイングランドのサッカーというところでしょう。個人的に技術レベルの高いプレーヤーもいて、テレビ視聴者にもとても楽しい試合が多い。
――さて岡崎のビューティフルゴールは
賀川:前半はじめはニューカッスルが激しいプレッシングで勢いづいて押し込む形勢だったのが20分ごろからレスターもボールがつながりはじめ、岡崎が左サイドの裏に走ってゴールライン近くからクロスを上げるシーンもありました。24分06秒の岡崎のゴールはレスターの攻め込みから一旦戻して右サイドでFKをもらったことから始まります。
――右タッチラインすぐ近くゴールラインから30メートルあたりのFKを26番のマレスが左足で蹴りました
賀川:身長ではニューカッスルの方が高い選手が多いように見えました。もちろんレスター側のW・モーガン(ジャマイカ)、フート(ドイツ)といった長身センターバックがこの攻撃に参加しました。
――マレスの蹴ったボールはエリア内PKマーク当たりに飛び、ニューカッスル側がヘディングでクリアした
賀川:それをペナルティエリア左角でレスター側のカンテ(フランス)がワントラップして再びクロスを送り、右ポスト側ゴールエリア少し手前で9番のバーディがヘディングで折り返して、そのボールがゴール正面のゴールエリアいっぱいに落下した。そこに岡崎がいた。
――岡崎の近くに3人のニューカッスルの選手がいたが、岡崎はためらうことなくオーバーヘッドキックで落下するボールをダイレクトで叩いた
賀川:高めのクロスが相手DFの頭をかすって、そのまたバーディの上へ落ちたことがラッキーでしたが、そのバーディのヘディングの折り返しをシュートした岡崎の判断はすばらしい。また、オーバーヘッドキックできちんとインステップに当てているところも流石でした。
――まさにストライカー岡崎ですね
賀川:FKのボールが相手のクリアで一旦ペナルティエリアいっぱいに飛んだあと、左からカンテ(フランス)がクロスをあげるときに岡崎はそのボールに合わせて相手のマークを外す動きを見せています。
――そのボールが途中で相手DFの頭に当たって右外にいたバーディの上へ飛んだのですね
賀川:こうして言葉で書くと長い時間がかかりますが、この間はほんの何秒かのこと、そのバーディのパスとも言える折り返しのヘッドのボールの落下点へ誰よりも早く入るところ、そしてオーバーヘッドシュートをしたところに岡崎慎司のストライカーとしての非凡さがあるといえます。彼自身は一瞬の判断だったようでしょうね。
――話を聞いてもう一テレビの録画を見たくなりました
賀川:サッカーの母国、イングランドのプレミアリーグの首位を行く、レスターでのこの岡崎のゴールは日本サッカーの歴史に残るだけでなく、今シーズンのバロンドール授賞式の表彰対象のベストゴールにノミネートされるのではないかとさえ思います。
――そうですね。このあとのニューカッスルの頑張りもあってレスターは追加点を奪えず、後半の終盤にはかなり攻めこまれて危ない場面もあったから、この岡崎のゴールはプレミアリーグの優勝争いにもとても重要でしたね
賀川:レスターが首位を走るという大異変をイングランドではどのように見ているのでしょうかね。今年イタリア人のクラウディオ・ラニエリが就任したときも経験あるラニエリでも成果が上がるのを疑問視する人が多かったと聞いています。首位をキープしていても、もう落ちるだろうとみる人が多かったともいいます。
――テレビでの観戦の賀川さんは
賀川:全員の守備意識が高く、選手たちも適材適所という感じですね。その守りの強さの中に当然、岡崎の守りへの献身も入っています。2トップから相手ボールにプレスして、その攻撃を限定し、ときには高い位置で奪って守りから攻めに転じるところは見事です。このためこれまで優勝争いの常連とも言えるチェルシー、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッドやマンチェスター・シティ、あるいはトッテナムやリバプールといったチームを下に見て残り9試合でまだ首位をキープしているのですからね。
――レスターという人口30万人くらいの町は市民全体がわくわくしているでしょう
賀川:ドイツのブンデスリーガに多くの日本人が加わって私たちにも近い存在となりました。プレミアリーグの優勝を争っているチームに岡崎選手がいることでサッカーの本家への興味が大きくなりますね。
――岡崎慎司という選手という選手については?
賀川:何といっても地元の神戸・宝塚の出身ですからね。彼は滝川第二高校で黒田和生先生の教え子でした。滝二が全国優勝するようになったころの選手でした。個人的に取材したとか、話し合ったことはないがずっと気にしていました。海外に出て目立つようになり、代表のFWになりましたからね。
――神戸出身の香川真司も好きな一人ですね
賀川:真司(香川)と慎司(岡崎)の二人の「しんじ」がいます。香川はボールタッチやドリブルの上手さで少年期から目立っていて仙台のクラブを経てセレッソ大阪に加わってJリーグに出場しヨーロッパへ行きました。岡崎慎司の方は滝二で全国大会で優勝し、Jリーグの清水に入ってそこからヨーロッパへ移りました。年齢は岡崎の方が少し上です。
――岡崎を注目していたのはどの点でしょう
賀川:ひたすらゴールを目指すストライカーとしての大切な精神的な資質を持っていること、そのために相手側との接触プレーを嫌がらずに、ここと言う場面にボールめがけて飛んでいくところです。ストライカーには技術的にボールを蹴る(シュート)、ボールを止める(トラッピング)、ボールを運ぶ(ドリブル)などという基礎的な技術を狭いスペースで、あるいは、とても短い時間内に、正確に行えることが大事なのだが、相手が守ろうと予測している場所へも敢然と飛び込んでいくことも必要なのです。岡崎は滝二のころからいわば修羅場とも言うべきその場所へズカズカと入って行く強さがありました。それがダイビングヘッドの得点であったり、相手とともにつぶれたチャンスメークであったりしました。
――今でも、そういう場合を見ることができる?
賀川:先日プレミアリーグ、レスター対ニューカッスル・ユナイテッド戦でも彼の特色は出ていましたよ。
――このときのオーバーヘッドシュートでリーグの7得点目を記録しましたが、その前の6点目のゴールも相手ゴール前で高いバウンドしたボールへ彼はジャンプヘッドに行き、それが失敗となると、次にもう一度体に当てて押し込んでいます。
賀川:対ニューカッスル戦の10分までに岡崎は高いボールを相手の選手と競り合ってともに「つぶれて」攻撃のチャンスを作りました。また、相手のドリブルを追走しての防御や相手DFへのプレスでパスを抑えるなどの場面を見せてくれました。
――そういう守備プレーを重ねながらチャンスと見ると、重要な場所へ入って行くのですね
賀川:クロスが来るときには、しっかり顔を出しています。自分が裏へ走ってボールをもらい良いクロスを出したりもしています。
――ヘディングが強いと言うのも、その「飛び込み」の一つでしょう
賀川:そうでしょうね。ヘディングが強くなることは空中のボールに対して自信を持つことになるのでしょう。岡崎選手は浮いているボール(空中のボール)に対しても「競り合い」に自信を持っているのでしょう。あのオーバーヘッドキックのゴールの前にクロスに対しての彼の動きをスロービデオで見直してみるととても面白いです。