世界のサッカー

FIFAクラブワールドカップ ジャパン 2016を見て

2016/12/21(水)

実力が下とみられていた鹿島の大健闘でFIFAクラブワールドカップ決勝のなかでも特筆ものの面白い試合となった。私たちにとって強敵を追い詰めた鹿島に日本サッカーの伝統を見たこと、そして、それでもなお、世界の頂点には及ばないことを知った。すばらしい120分だった。

前半5分まで中盤でボールを奪って鹿島が攻めに出ていた。6分ごろからレアルもボールをキープし、パスをつなぐようになり、モドリッチのシュートから1-0とした。ペナルティエリア外へ鹿島がはじき返した。いわゆるこぼれ球をモドリッチがシュートし、GK曽ヶ端が体を右に伸ばしてゴロのボールを防いだが、つめていたベンゼマが曽ヶ端のはじいたボールをサイドキックできめた。GKの防いだリバウンドに対して、2人がつめていたのはさすがというべきだろう。

1-0、レアルに先制されれば、たいていの相手チームは気落ちしてしまうものだが、鹿島の意欲は変わらなかった。ボールの奪い合いの場面でもひるむことなく戦い、1人の相手に複数が対応(動きの量が必要)して攻撃を続けようとした。攻められてもゴールを奪われない辛抱強い守りが44分の同点ゴールで報われた。左サイドからの攻め込みを柴崎が決めた。やさしい態勢ではなかったが小さく浮いたボールをしっかりシュートした。1-1.このシュート場面をテレビのスローで見た私たちは、こういう場面での鹿島と日本の攻撃力アップを知った。

後半7分に鹿島が2-1とした。攻め込んでCKを取り、その相手エリアからのボールを攻めにつなぎ柴崎が浮いたボールを競り合って取り、左足シュートで決めた。レアルの守りの中央部はこのクラスのチームとしては、特に強力と言うわけではない。しかし欧州のトップチームのCDFと競り合ってゴールしたのだから…

せっかくのリードは後半16分のPKで同点にされてしまう。PKを蹴る前、ボールをプレースするときにテレビのアップでロナウドの“本気”の表情が映し出された。彼の速いゴロの左下へのシュートはGK曽ヶ端が方向を読んでも取れないものだった。2-2、レアル側に「さあいくぞ」という気配が満ち、攻撃が続く。しかし、曽ヶ端のファインセーフを含む鹿島の好守は失点を許さず延長に入る。

試合の始めのうちしばらく、ドリブルやトラッピングで珍しくミスのあったロナウドが、前線に残るようになって、本来の強さが生き始めていた。その威圧感が鹿島ディフェンダーを後退させる形となりレアルは余裕を持って攻める。それを食い止め反撃する鹿島の闘志もまた素晴らしかったが、延長前半8分ついにレアルに3点目が生まれた。

パスを受けた時にマークをかわしてシュートの形に持って行くロナウドの不思議な能力が発揮された。ビッグゲームのテレビで何度も見せられた、最前線でボールを受けシュートを決めるロナウドの形がでるようになればレアルの試合となる。延長前半の終わりごろ右から攻めたレアルは鹿島のクリアを拾ってロナウドへ。こういう形勢の時の彼にはマークがいてもいなくても同じように見える。左足シュートで4-2となった。

FIFAクラブワールドカップで私たちはこれまでも日本チームの健闘を見てきた。そして日本サッカーの進歩も感じてきた。今度のFIFAクラブワールドカップで私たちは鹿島の戦いによって世界のトップへ勝負を挑むことが不可能でないところまで来ているのを知った。と同時に、力の上では、まだ一段のレベルアップも必要だと改めて知った。

私にはこの試合でレアルがより身近になったのはうれしいことだ。一昨年のFIFA会長賞受賞の時、私のとなりの席にいたロナウドがその日、彼を囲む記者団の多さでその人気の高さをあらためて知ったのだった。今回のロナウドを見て、私たちはメッシやロナウドのようなプレーヤーと同じ時期に生きたことを誠に幸運なことと思った。

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驚きと喝采 岡崎のオーバーヘッドシュート

2016/03/18(金)

――岡崎慎司がオーバーヘッドキックで見事なゴールを決めました。今シーズン7点目です。プレミアリーグ第30節の試合でした。この岡崎のゴールが唯一の得点で、彼のレスター・シティはニューカッスル・ユナイテッドに勝って首位をキープしています

賀川:レスター・シティはロンドンの北150キロにある
イングランド中部の中都市で1884年創設の古いクラブです。歴史は古いが、マンチェスター・ユナイテッドやアーセナル(ロンドン)といったプレミアリーグの優勝と争うトップチームでなく、長く下のリーグ(フットボール・チャンピオンシップ→プレミアリーグの下の2部にあたる)にいて、昨シーズン(2014-15シーズン)にプレミアに昇格して14位でした。

――それが今年、開幕から首位を走っていてイングランドでの驚きのひとつです

賀川:こういう試合をテレビで見ることのできるのはサッカー人にとっていい時代にいる証と言えるでしょう。

――私は、19位のニューカッスルが手強いのに驚きました

賀川:プレミアリーグはどのチームもレベルが高いのです。試合の展開を見るとスペインリーグのバルサのような高いテクニックを生かして見事なパス攻撃というのは多くはありませんが、激しく速く、局面での1対1、ボールの奪い合いなどは、まさにイングランドのサッカーというところでしょう。個人的に技術レベルの高いプレーヤーもいて、テレビ視聴者にもとても楽しい試合が多い。

――さて岡崎のビューティフルゴールは

賀川:前半はじめはニューカッスルが激しいプレッシングで勢いづいて押し込む形勢だったのが20分ごろからレスターもボールがつながりはじめ、岡崎が左サイドの裏に走ってゴールライン近くからクロスを上げるシーンもありました。24分06秒の岡崎のゴールはレスターの攻め込みから一旦戻して右サイドでFKをもらったことから始まります。

――右タッチラインすぐ近くゴールラインから30メートルあたりのFKを26番のマレスが左足で蹴りました

賀川:身長ではニューカッスルの方が高い選手が多いように見えました。もちろんレスター側のW・モーガン(ジャマイカ)、フート(ドイツ)といった長身センターバックがこの攻撃に参加しました。

――マレスの蹴ったボールはエリア内PKマーク当たりに飛び、ニューカッスル側がヘディングでクリアした

賀川:それをペナルティエリア左角でレスター側のカンテ(フランス)がワントラップして再びクロスを送り、右ポスト側ゴールエリア少し手前で9番のバーディがヘディングで折り返して、そのボールがゴール正面のゴールエリアいっぱいに落下した。そこに岡崎がいた。

――岡崎の近くに3人のニューカッスルの選手がいたが、岡崎はためらうことなくオーバーヘッドキックで落下するボールをダイレクトで叩いた

賀川:高めのクロスが相手DFの頭をかすって、そのまたバーディの上へ落ちたことがラッキーでしたが、そのバーディのヘディングの折り返しをシュートした岡崎の判断はすばらしい。また、オーバーヘッドキックできちんとインステップに当てているところも流石でした。

――まさにストライカー岡崎ですね

賀川:FKのボールが相手のクリアで一旦ペナルティエリアいっぱいに飛んだあと、左からカンテ(フランス)がクロスをあげるときに岡崎はそのボールに合わせて相手のマークを外す動きを見せています。

――そのボールが途中で相手DFの頭に当たって右外にいたバーディの上へ飛んだのですね

賀川:こうして言葉で書くと長い時間がかかりますが、この間はほんの何秒かのこと、そのバーディのパスとも言える折り返しのヘッドのボールの落下点へ誰よりも早く入るところ、そしてオーバーヘッドシュートをしたところに岡崎慎司のストライカーとしての非凡さがあるといえます。彼自身は一瞬の判断だったようでしょうね。

――話を聞いてもう一テレビの録画を見たくなりました

賀川:サッカーの母国、イングランドのプレミアリーグの首位を行く、レスターでのこの岡崎のゴールは日本サッカーの歴史に残るだけでなく、今シーズンのバロンドール授賞式の表彰対象のベストゴールにノミネートされるのではないかとさえ思います。

――そうですね。このあとのニューカッスルの頑張りもあってレスターは追加点を奪えず、後半の終盤にはかなり攻めこまれて危ない場面もあったから、この岡崎のゴールはプレミアリーグの優勝争いにもとても重要でしたね

賀川:レスターが首位を走るという大異変をイングランドではどのように見ているのでしょうかね。今年イタリア人のクラウディオ・ラニエリが就任したときも経験あるラニエリでも成果が上がるのを疑問視する人が多かったと聞いています。首位をキープしていても、もう落ちるだろうとみる人が多かったともいいます。

――テレビでの観戦の賀川さんは

賀川:全員の守備意識が高く、選手たちも適材適所という感じですね。その守りの強さの中に当然、岡崎の守りへの献身も入っています。2トップから相手ボールにプレスして、その攻撃を限定し、ときには高い位置で奪って守りから攻めに転じるところは見事です。このためこれまで優勝争いの常連とも言えるチェルシー、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッドやマンチェスター・シティ、あるいはトッテナムやリバプールといったチームを下に見て残り9試合でまだ首位をキープしているのですからね。

――レスターという人口30万人くらいの町は市民全体がわくわくしているでしょう

賀川:ドイツのブンデスリーガに多くの日本人が加わって私たちにも近い存在となりました。プレミアリーグの優勝を争っているチームに岡崎選手がいることでサッカーの本家への興味が大きくなりますね。

――岡崎慎司という選手という選手については?

賀川:何といっても地元の神戸・宝塚の出身ですからね。彼は滝川第二高校で黒田和生先生の教え子でした。滝二が全国優勝するようになったころの選手でした。個人的に取材したとか、話し合ったことはないがずっと気にしていました。海外に出て目立つようになり、代表のFWになりましたからね。

――神戸出身の香川真司も好きな一人ですね

賀川:真司(香川)と慎司(岡崎)の二人の「しんじ」がいます。香川はボールタッチやドリブルの上手さで少年期から目立っていて仙台のクラブを経てセレッソ大阪に加わってJリーグに出場しヨーロッパへ行きました。岡崎慎司の方は滝二で全国大会で優勝し、Jリーグの清水に入ってそこからヨーロッパへ移りました。年齢は岡崎の方が少し上です。

――岡崎を注目していたのはどの点でしょう

賀川:ひたすらゴールを目指すストライカーとしての大切な精神的な資質を持っていること、そのために相手側との接触プレーを嫌がらずに、ここと言う場面にボールめがけて飛んでいくところです。ストライカーには技術的にボールを蹴る(シュート)、ボールを止める(トラッピング)、ボールを運ぶ(ドリブル)などという基礎的な技術を狭いスペースで、あるいは、とても短い時間内に、正確に行えることが大事なのだが、相手が守ろうと予測している場所へも敢然と飛び込んでいくことも必要なのです。岡崎は滝二のころからいわば修羅場とも言うべきその場所へズカズカと入って行く強さがありました。それがダイビングヘッドの得点であったり、相手とともにつぶれたチャンスメークであったりしました。

――今でも、そういう場合を見ることができる?

賀川:先日プレミアリーグ、レスター対ニューカッスル・ユナイテッド戦でも彼の特色は出ていましたよ。

――このときのオーバーヘッドシュートでリーグの7得点目を記録しましたが、その前の6点目のゴールも相手ゴール前で高いバウンドしたボールへ彼はジャンプヘッドに行き、それが失敗となると、次にもう一度体に当てて押し込んでいます。

賀川:対ニューカッスル戦の10分までに岡崎は高いボールを相手の選手と競り合ってともに「つぶれて」攻撃のチャンスを作りました。また、相手のドリブルを追走しての防御や相手DFへのプレスでパスを抑えるなどの場面を見せてくれました。

――そういう守備プレーを重ねながらチャンスと見ると、重要な場所へ入って行くのですね

賀川:クロスが来るときには、しっかり顔を出しています。自分が裏へ走ってボールをもらい良いクロスを出したりもしています。

――ヘディングが強いと言うのも、その「飛び込み」の一つでしょう

賀川:そうでしょうね。ヘディングが強くなることは空中のボールに対して自信を持つことになるのでしょう。岡崎選手は浮いているボール(空中のボール)に対しても「競り合い」に自信を持っているのでしょう。あのオーバーヘッドキックのゴールの前にクロスに対しての彼の動きをスロービデオで見直してみるととても面白いです。

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(続)FIFAクラブワールドカップでサッカーの粋(すい)を見た

2015/12/29(火)

賀川:バルサの決勝での先制ゴールはテレビでも何度も流されていたでしょうが、まずボールを受けてシュートしたメッシのプレーが驚きでした。もっともその直前のパスの経路やチーム全体の動きをテレビのリピートで見直すとバルサ側の攻めのうまさを感じることになります。

30分をすぎてFKがあり、メッシが右ポストへ低く落ちる球を蹴った。バルサ側がボールをつないでの展開からドリブルで崩そうとする場面も増えてきた。34分にバルサは後方でのボールキープからピケ~ブスケツ~マスケラーノと左へ振り、そこから左タッチ際のアルバに。アルバが持ち上がり、戻ってきたネイマールへ。そのネイマールのリターンパスがアルバとリバープレート側の奪い合いとなり、そのボールを1)ネイマールが内側へドリブルし、2)奪いに来る相手の足の間を通してメッシに渡す3)中央左よりペナルティエリア15メートル手前で受けたメッシが右ななめ前へドリブルした。4)リバープレートの4人が防ぎに来るとメッシは右外へパス。5)そこにダニエウ・アウベスがいた。6)ペナルティエリア右角から少し内に入ったあたりでアウベスはダイレクトで高いクロスを蹴った。7)ボールはゴールエリア左角の2メートルほど前に落下し、ネイマールがジャンプヘディングで折り返した。8)ゴールはメッシの前に落下。すぐ前にマーク相手がいた。9)メッシは落下するボールを左足でタッチするそぶりを見せただけで、地面に落ちたボールを胸のあたりで止め、10)左足サイドのボレーシュートをした。11)しっかりとアウトサイドで叩かれたゴールはGKバロベロが伸ばした手の外を通り、ネットへ飛び込んだ。12)別の角度からのスローを見ると、バウンドしたボールが上がってくるのを右の太ももや体に触れさせ、胸で前へ落としたように見えたが、そのボールが地面にもう一度落ちる前、左足アウトのボレーで蹴っている。DFのマイダナの手で肩を押さえられながらバランスを保ってシュートしているのも、まさにメッシのプレーだろう。トラップの時、右腕の付け根を使っていてハンドだという説もあるが、ハンドと言えるかどうかは?

――ゴールへ至る過程を詳しく見ましたが

賀川:少し長く書いたから、サッカーのゴールの「一瞬」という感じから少し遠い言い方になりますが、こう見てくるとネイマール、メッシのドリブルがあって、その後右外へのパスからダイレクトパスが続いて、メッシのシュートとなる。そういうテンポの変化も、このバルサに限らず、いいチームの攻撃にはよくあることを知っておきたいからでもあります。もちろんメッシのプレーはメッシ独特のもので、彼はビッグゲームでの彼のゴール集に、また新しいページを加えました。

――左足故障があり、その前にも体調不良の時期があったのですが、それらを克服して、この決勝のピッチに立ったということですが、出場すれば、こういうプレーをするのがすごいですね

賀川:この先制ゴールで相手が同点ゴールを狙ってくることになり、そのカウンターを狙うこともできるので、一気に有利になりましたね。

――後半4分はまさに絵に描いた通りのカウンターでスアレスが2点目を決めました

賀川:相手が右サイドから攻めに来て、パスが少しずれた時に、ブスケツがつぶして、そのこぼれ球をイニエスタが拾って、前方へ出ていたブスケツに渡し、ブスケツが右サイドを相手のDFラインの裏へ出ようとするスアレスに長いパスを送った。

一般論でゆくと、相手のDF裏へのボールは大チャンスのようで、実際はそう簡単にはゴールにならないこともあるけれど、スアレスはやはり専門家という感じで決めました。シュートのボールはGKのバロベロの股間を抜けたのだから、際どいシュートとも言えるが、やはりシューターの自信がゴールを呼び込むというところでしょう。

――3点目が後半24分に入ります。

賀川:これはバルサがスルーパスで攻めてからの二次攻撃でした。メッシの縦へのドリブルから相手のクリアを拾ったネイマールがペナルティエリア左角からエリア中央へふわりとクロスを上げ、それをゴール正面、ゴールエリアのライン近くでスアレスがジャンプヘディングして、ゴールの左サイドネットへ決めました。

――試合の後で、リバープレートの監督さんが、はじめ30分はうまくいっていたのに、メッシのゴールで計画が狂った、という話をしていましたが、大一番はバルサの強さ、巧みさを見る試合になりました

賀川:バルサというクラブの選手育成法など、学ぶべき点は多いのですが、ともかくサッカーの面白さを楽しんだ一日でした。

もちろん、彼らの技術を発揮するための動きの量や、ボールを奪われた後、すぐに奪い返しにゆくところ、攻と守、守と攻の切り替えの早さなどはすばらしいものです。

――いいサッカーを見た、これに追いつきたいと多くの人は考えたでしょう。

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FIFAクラブワールドカップでサッカーの粋(すい)を見た

2015/12/28(月)

――フィギュアスケートの羽生結弦やラグビーの日本代表、そしてテニスの錦織圭などの活躍があって、2015年はとてもうれしい1年でした。その年の締めくくりにサッカーもまたすごい喜びがやってきました

賀川: FIFAクラブワールドカップ2015で、開催国代表のサンフレッチェ広島が1回戦でオセアニア代表を破り、準々決勝でアフリカ大陸代表を倒し、準決勝で南米代表リバープレートに惜敗したが、アジアNo.1の中国の広州恒大に逆転勝ちして大会の3位になりました。そのうえ大会決勝で欧州代表バルセロナがリバープレートを相手にすばらしい試合を演じて、3-0で勝ちました。そのプレーのひとつひとつは、世界中のサッカーファン、スポーツファンにこの競技の面白さを味あわせました。高いレベルの個人の技術力が結集し、足を使うフットボール特有のパスワークの妙と、ゴールを奪いゴールを守る技術と組織力の粋を見せてくれました。

――広島のがんばりは、我が意を得たりですが、バルサのプレーに賀川さんも高い評価ですね

賀川:大げさでなく、90歳をこえていきていたおかげで、12月20日という日を楽しめました。

――バルサのプレーから話してください

賀川:いくら強いと言っても、サッカーは何が起こるかわからないスポーツです。しかも今年のバルサはシーズン当初には故障者が多く、中ごろからよくなってレアル・マドリードにも4-0と完勝しましたが、この大会の準決勝ではMSNのメッシとネイマールを欠き、ムニルとセルジ・ロベルトが起用されました。イニエスタとラキティッチ、ブスケツの第2列、ピケとマスケラーノのCDFとアウベスとアルバの両サイドはそろっていたが、看板FWの二枚がいないのを懸念する人もありました。そんななかでも準決勝ではスアレスのハットトリックがあり、またバルサらしいチームプレーも随所にみられました。

相手となったアジア代表の広州恒大は、豊富な資金でブラジルから元代表選手と名監督スコラーリを招いて急速な実力アップを図り、この大会の準々決勝で中南米カリブ海代表のクラブ・アメリカ(メキシコ)を破ってのベスト4進出でした。いくつかの攻めも見せたがバルサとの間にはまだ差がありました。

――準決勝でのバルサの1点目はラキティッチのロングシュートをGKが前にはじき、それをスアレスが決めたものです

賀川:70%をこえるボールポゼッションで自在に組み立てて、バルサが39分に先制した。押し込んだ形にして、中央ゴール正面25メートルあたりにスペースをつくると、ラキティッチが十分な態勢で強いシュートを打ちました。右足インステップで、ややアウトサイド気味に叩かれたボールは、GK側から見えるとまっすぐから少し右へ行く気配から左に曲がっていたので、キャッチが難しかったのでしょう。リバウンドしたボールが転がったところへスアレスが走り込んできました。

――バルサにとって大会の初戦のこのゴールで、気分は楽になったでしょう

賀川:でしょうね。それまでもチャンスはあったが…。大会での優勝は当然というふうに見られていた彼らは、百戦錬磨であっても、やはりゴールを先取することは、とてもおおきなことのはずです。

――スアレスが後半4分にイニエスタからの浮き球のスルーパスを受け、胸でトラップして右足ボレーシュートを決めて2-0としました

賀川:自陣でボールを奪い、マスケラーノから左サイドのアウベスへ。アウベスが横パスをスアレスに入れて、スアレスはそれをイニエスタにバックパスした。イニエスタはスアレスのポジションと動きを見て、フワリとボールを上げ、DFラインの背後へ落ちるパスを送った。この短い浮き球のパスをスアレスはゴールを背にして胸のトラップで落とし、右足ボレーでシュートしました。胸でトラップする時は、左肩前のいわゆる半身で受け、トラップからシュートへのスムースな動きはさすが当代のストライカーという感じでしたね。

――スアレスはウルグアイ代表の一人ですが、モンテビデオのナシオナルのカンテラ出身です

賀川:1980年、81年の年末年始に開催された、コパ・デ・オーロのとき、モンテビデオへ取材にゆき、ナシオナルの練習グラウンドへ足を運びました。とてもいい環境で、その時もカンテラから1軍へ上がった若い選手の誕生日のお祝いがあって、とても楽しかった。スアレスもあのグラウンドで練習したのですかね。もっともスアレスの生まれる(1987年1月24日)の6年も前の話ですが…

――3点目もスアレスで、後半21分にスルーパスを受けてエリア内に走り込んだムニルが倒されたPKを彼が右足でゴール左に決めました

賀川:スアレスという個性的なストライカーがバルサ流になり、どんどん実績を積むところがバルサのすごいところですね。自分のところの育成システム、カンテラ育ちが多い中に、外から獲得する選手がレギュラーとして働くのを見ると、しっかりと選手を見る目を持った人がいるのでしょうね。もちろんイニエスタという抜群のパスの名手がいるからではありますが。

――そうですね。DFラインから第2列でのパスのやり取りなども、ひとつひとつ感心しましたね。これでメッシやネイマールが入ってくれば…と思いました。

賀川:決勝はその二人が加わった。そしてメッシが先制ゴールを決めました。このゴールはパスを受けて左足のアウトサイドでのシュートを決める、彼でなければできないプレーでした。  (続く)

賀川サッカーライブラリー「コパ・デ・オーロの旅」

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香川のドルトムント移籍

2014/09/12(金)

香川がドルトムントへ移籍してよかったですね。と神戸の図書館、神戸賀川サッカー文庫でボランティアで目録作りに携わる仲間が言う。神戸出身というだけでなく、真司のプレーに好感を持つ人たちはワールドカップの不振と、その後のマンチェスター・ユナイテッドでの立場を心配していたのだった。そこでしばらく、香川真司の話となる。

――マンチェスター・ユナイテッドでファーガソンが去った後、次の監督になって出場機会が少なくなりました。怪我もあり、また日本代表でもブラジルでは初戦の働きが悪いことで、かつての評価を落としました。ドルトムントへ戻ったのは、彼にはプラスと見ていいのですか

賀川:マンチェスター・ユナイテッドは新しい監督になって、全く違ったチームになってしまった。それをオランダ代表監督だったファンハールが新監督として立て直すことになったのでしょう。しかしファンハール監督のもとでプレーするよりも、ドルトムントに望まれて戻ったのだから、ドイツ帰りは歓迎すべきことと思います。

――もともと、ドルトムントからユナイテッドへ移ったとき、賀川さんはちょっと早いのじゃないかと言っていましたね

賀川:私だけでなく、デットマール・クラマーは、あのとき、もう1年ドイツにいるべきで、ドルトムントから出たければバイエルン・ミュンヘンがいいという意見でした。電話での簡単なやりとりで、その後来日した時は、彼は風邪気味でサッカーの話はほとんどしないまま、お互いに年だから「体を大事に」という程度に終わってしまいました

――また、神様クラマーの見通しは怖いくらい当たりますね

賀川:彼の意見はともかく、ブンデスリーガのドイツ選手をはじめ、多くの選手は体格がよく、スピーディーです。しかしプレミアとなると、高い報酬でよりレベルの高い選手がいっぱい加わっています。東欧、アフリカからのプレーヤーも技術レベルが高く、身体能力も高い。おそらく真司も最初にプレミアでプレーし、相手と体の接触があった時に重さが違うと感じたと想像しました。

――重さ?強さではなく

賀川:単なる体重という意味ではなく、当たった時の感覚で感じると思いますよ。小柄な真司にとっては、接触プレーはやりにくい相手が多かったでしょう。ブンデスリーガでは、持ちこたえられても、プレミアでは少しやっかいだと感じたでしょう。

――彼の速いドリブルにしても、からまれると厳しい

賀川:その対策が不十分だったし、守備に回った時でも、相手への寄せの間合いが効果的でなかったのでしょう。

――日本でも今のサッカーでは攻めも、守りも重要とされています

賀川:プレミアでの苦い経験を活かして、もう一度ドルトムントで腕を上げればいいことでしょう。

――ここで失敗しないことですね。怪我など体のケアも大切です。

賀川:順調にすくすく伸びてきた香川が、どこかで苦い目にあっても不思議はありません。サッカーの世界は広くてレベルが高いのです。

――ブンデスリーガも高いレベルのリーグです

賀川:私は、彼がドイツへ戻ったこと、そしてまた多くの日本選手がブンデスリーガで今年も働くことで、日本のサッカー人がドイツのサッカーへの興味を強くしてくれるだろうと密かに喜んでいます。

――いつも言っているように、経営もしっかりしたリーグで、またドイツはブラジルでの優勝だけではなくて、ヨーロッパチャンピオンズリーグでのバイエルンの優勝をはじめ、実績はすごいですからね

賀川:そうです。ブラジル大会優勝の後、早速ドイツ関係の出版物が多く出て、ドイツがここ20年間の不振から立て直したことをいろいろ紹介しています。なかにはドイツサッカーは力づくだけだったのが、技術が上がるようになったなどという論もありますが、ドイツのサッカーは歴史的にも早くから技術指導に熱心で、その育成組織や指導法はある時期世界の頂点にあったのです。すでに何度も書いていますが、バルサの成功者グアルディオラを招いたバイエルンのクラブの姿勢が、ドイツサッカーのより高いレベルを望む姿勢と思ってほしいものです。

――今度の大会のスペインの1次リーグ敗退で、バルサのサッカーは古いという論もあります

賀川:バルサ、スペインのレギュラーたちが少し年齢が高くなっただけかもしれませんよ。スペインリーグのバルセロナの今期のスタートを見ても、相変わらず彼らは自分たちのポゼッションサッカーをしています。要所要所で奪いにゆくときの強さも戻ってきているように見えました。ドイツサッカーを勉強するのは、もちろん今回の優勝国という点もありますが、単に一時的なものであっては困ります。

なにしろ、ドイツサッカー協会(DFB)はプレーヤーの登録人口630万人で、単一競技の一国のスポーツ団体として世界最大の組織を持っているのです。じっくりと取組み、私たちの参考にしたいものです。

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エウゼビオ

2014/01/20(月)

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――エウゼビオが亡くなりました

賀川: 1942年1月25日生まれ。Eusebio da Silva Ferreira、エウゼビオ・ダ・シルヴァ・フェレイラという名だが「エウゼビオ」で世界中通っていた。

1966年ワールドカップイングランド大会でポルトガルが3位になった時のFW、東アフリカのロレンソ・マルケス(当時ポルトガル領)の黒人家庭に生まれ、少年期から注目されてベンフィカに入り、このクラブの黄金期をつくるとともに、ワールドカップでのポルトガルの名声を高めた。66年大会では1次リーグ3組でハンガリー(3-1)、ブルガリア(3-0)、ブラジル(3-1)を破り、準々決勝で北朝鮮と対戦して0-3とリードされながら彼自身の4ゴール(うち2PK)を含めての大逆転(5-3)のヒーローとなった。準決勝でイングランド(優勝国)に2-1で敗れ、3位決定戦でソ連を倒した。ポルトガルの6試合のうち、彼は9ゴール(4PK)を叩きこんで、大会得点王となった。

エウゼビオはベンフィカとともに1970年大阪万博の年の8月に来日し、8月25日(神戸)、29日、9月1日(国立)と日本代表を相手に3試合して3戦全勝した。(3-0、4-0、6-1)神戸の試合の2日前に彼らが御崎で練習するのを見た後、控室で彼の自叙伝「マイ・ネーム・イズ・エウゼビオ」にサインしてもらった。「わが名はエウゼビオ」というこの英文のペーパーバックは彼がよくペレと比較され、ペレ2世などと言われるのに対して、私はペレでもなく、ペレの亜流でもない、私はエウゼビオだと言ったことから書名となったもの。ついでながら、66年ごろの日本の新聞の多くは彼のことをオイセビオと呼んでいた。これは当時日本サッカーを指導していたデットマル・クラマーが彼の名をドイツ語式にEUをオイと呼んだためで、私は田辺製薬の貿易部のポルトガル語に詳しい人に聞いて、エウゼビオと書いたのだが、会社の記事審査室から「他の新聞がオイセビオなのになぜ産経だけがエウゼビオなのか」と問題にされた。日本サッカーがまだ世界に目の向いていないころの話である。

私が彼のサインをもらっている時、当時の日本代表のひとり、釜本邦茂もサインをもらっていた。彼にしては珍しいことだが、66年ワールドカップの得点王のシュート力に68年オリンピック得点王も一目置いていたのだろう。今から思えば、釜本がエウゼビオからサインをもらうところをカメラに収めておけば、とてもよい記念になったのに…

エウゼビオのシュートの特色については、賀川サッカーライブラリーわが心のゴールハンター」でご覧になってください。

エウゼビオ(1)C.ロナウドの活躍から思う、ポルトガルの“ブラックパンサー”
エウゼビオ(2)ストリートサッカーに勝利し、ボールやシューズを手に入れた少年
エウゼビオ(3)名将ベラ・グッドマンの執着。東アフリカから名門ベンフィカへ
エウゼビオ(4)対サントス、対ペニャロール。強豪相手のゴールで一躍スター
エウゼビオ(5)レアルを倒して欧州王座に。追撃、勝ち越し、突き放しのシュート
エウゼビオ(6)63年の世界選抜でスタート名を連ね、66年W杯の激戦で本領発揮
エウゼビオ(7)0-3からの逆転劇を演じ66年大会の得点王となり釜本邦茂にも影響を与えた
エウゼビオ(8)68年メキシコ五輪の得点王釜本が抑えの利いたシュートを学んだ
エウゼビオ(9)多才な芸の中でひときわ目立った抑えの利いたシュート
エウゼビオ【番外編】「ペレでも、キングでもない。私はエウゼビオ」
エウゼビオ【特別編】「PKは落ち着いて、思い切って蹴るだけ」。上から叩くシュートは、低い弾道でゴールに飛び込んだ

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コンフェデレーションズカップ ベスト4の戦い

2013/07/10(水)

――1次リーグが終わって4強はA組のブラジル、イタリア、B組のスペイン、ウルグアイとなって、ブラジル対ウルグアイ、スペイン対イタリアの準決勝となりました。

賀川:グループリーグでブラジルが強さを発揮した。それもネイマールという若いスーパースターの活躍があったから。大会は非常に盛り上がることになった。ブラジルにとってはウルグアイとの対戦にやはり苦戦した。

――1950年の第4回ワールドカップ、20万人収容のマラカナンスタジアムでウルグアイに逆転負けして優勝を逃したという苦い歴史がある

賀川:いまはどうだろうか。開業前のスタジアムを訪れた観光ツアー客はこの敗戦の物語を聞くことになっていましたからね。今度もウルグアイの固い守りに苦戦した。前半には相手のCKの時、ファウルがあってPKを取られ、フォルランのPKをジュリオ・セーザルが止めたからよかったが、これで先制されていれば、もっと難しい試合になったかもしれない。

――南米勢は互いにホールディングやシャツプリング(シャツをひっぱる)といった手を使う反則が巧みで、トリッピングやアフタータックルなど限界一杯で渡り合うから1対1での優位はほとんど中盤では消し合ってしまう

賀川:その1対1の優位をどこで出すかとなれば、やはりゴール近く。ここではファウルはPKになることは自分たちも経験している。前半の41分にネイマールが生み出したチャンスはまさにそれですよ。

――左サイドでボールを奪ったネイマールが内にドリブルして、中央左よりのパウリーニョにパスをした。そのまま前方へ走り出したネイマールの前へパウリーニョが高いロングボールを送る

賀川:ネイマールはペナルティエリア内に走り込み、落下点でジャンプして胸のトラップ(肩に当てたようだった)で前へ落とし、2人の追走を受けながらゴールエリア左角を過ぎ、左ポスト手前で右足のアウトサイドでタッチ

――飛び出してきたGKムスレラの上を越そうとしたが、ムスレラの体に当たって内側へリバウンド(ゴール前へ)した

賀川:そのボールをブラジルのフレッジが狙っていたのだろう。勢いよく走りこんで、右足ジャンプキックで叩いた。正確に叩けずに右足アウトサイドでかすったという感じだったがボールはゴールへ入っていった。

ネイマールというストライカーは、王様ペレ以来の右足・左足でボレーを決められるストライカーですよ。ボールタッチに非凡の素質がある。いわば、ペレ、マラドーナ、メッシの系列に入るボールプレーヤーで、しかも両足でシュートできる選手といえます。日本戦の1点目の右足ボレーや、メキシコ戦でのクロスのリバウンドボールを決めた左足ボレーは、彼の左右の両足でのシュート能力が非凡であることの証明でしょう。

――賀川さんはペレが右と左のボレーシュートを決めるのを生で見た?

賀川:1970年にサントスと来日した彼はサントスの3ゴールのうち2点目を右で、3点目を左で、ともにボレーで決めた。どちらも自分で仕掛けて、ボールを浮かせて抜いてのシュートでネイマールのシュートとはちょっと違うが、利き足の右はともかく、そうでない左でもボレーシュートがきちんとできるというところがペレ以来というわけです。

――ボレーシュートはペナルティエリアいっぱい、いわば中距離シュートでした

賀川:ついでながら、大きな大会でのボレーシュートは、その美しさや、威力のすごさで長く語られるもの。74年ワールドカップの西ドイツ対スウェーデンでスウェーデンのエドストロームがエリア外からすごい右ボレーシュートを決めた。そう、88年のEURO決勝でオランダのマルコ・ファンバステンがエリア内右側からボレーシュートを決めて一躍世界のストライカーの一人となった。

――日本の李忠成がアジアカップ決勝でビューティフルなボレーシュートを決めましたね

賀川:彼にはその次の勲章が必要だったのに…
それはともかく、ネイマールは両足でボレーをしっかりインステップで蹴って狙ったところへボールを送り込むのだから、それぞれの立ち足のバランスが良いことになる。ここに彼はドリブルで右へも左へもボールを運び、体を動かしていくという点との結びつきもあると思う。1メートル74センチとペレよりは背は高いが、いまの選手としては大きい方ではない。スリムな体つきから弱々しく見えるが、バネがあり、2011年の来日の時にも、昨年の対戦の時にも、高いボールに対する感覚の優れていることにも感心したものです。

――このチャンスにも、後方からのロングボールを、先に自分が落下点へ行き、先に体でコントロールした

賀川:ペレにもジャンプ力があって、ヘディングも上手だったし、空中のボールの処理も優れていた。彼もペレと同じように17歳ごろから注目されていた。

――その期待の大きさの割にメディアやファンから、時に非難され、辛い批評もあったらしい

賀川:2011年にトヨタカップで来日し、彼とサントスがバルサに完敗した時に、この素材がいつ人を喜ばせるのか…と思ったものだが、とうとうという感じになった。

――後半にウルグアイに同点にされたブラジルは、86分に決勝ゴールをあげたが、ネイマールのCKからだった

賀川:ネイマールはFK、CKのキッカーとしても、すでに実績はある。特に右足CKの時にはファーポストへ直接曲がって入るキックで知られているそうだ。

――それが今度の決勝点に結びついた

賀川:彼のような体つきの今の日本選手なら、CKの場合ニアポストなら狙ったところへゆけるが、ファーポストは難しいのが普通ですよ。ところが彼はファーポストにもコントロールキックでゆけるらしい。そしてうれしいのは、高さの調整がしっかりできることです。この対ウルグアイの決勝ゴールを生んだ左CKも右足で蹴って高く上げ、ファーポスト手前で落下した。後方の外にいたパウリーニョは助走もジャンプもパーフェクトでヘディングした。ネイマールのこういうキックを見ると、ブラジル人のキックに対する気持ちの入れ方、あるいは、懲り方が今の日本のプレーヤーよりも強いような気がします。

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真司のハットトリックとユナイテッドの伝統

2013/03/05(火)

マンチェスター・ユナイテッド 4-0(1-0) ノリッジ

――真司がハットトリック。オールドトラフォード、75000人の大観衆の前で、アジア人選手としてプレミアリーグでは初めてということです

賀川:NHK BSでさわりの映像を見せてもらっただけで、試合全体(90分)を見たわけではないが、彼の良さがフィニッシュにあらわれていた。(水曜日に放映があるとか)

――1点目は前半の終了近く。46分でしたか

賀川:ゴールの瞬間のユナイテッドのチームメイトの喜びようを見ると、下位のノリッジを相手に点を取れなかったそれまでの気持ちがよく表れています。

――ゴールへの過程は
(1)右サイドに開いていたバレンシアが後方からのパスを受けて
(2)相手DFを前にフェイクを仕掛け、DFを前にして左で早いクロスをゴール正面へ送った
(3)ファン・ペルシーが左足の先端に当て、右前方へ落とす(高く上がって落下)
(4)そこに香川がいて、落下してくるボールを右アウトサイドに当てて
(5)ゴールキーパーと右ポストの間を抜いた

賀川:ファン・ペルシーからのボールを見て、とっさに右足アウトサイドで蹴れる態勢を取っておいて、高く上がったボールがほとんど地面近くまで落ちてくるのを待ったところがすごい。

このフィニッシュのボールタッチは真司独特のうまさだが、その前の(1)のバレンシアにボールが渡った時にペナルティエリア外3メートルにいた真司が(2)のクロスにかかるのを見て、エリア内へ入ってファン・ペルシーの右前へ出てゆくところがこれまた香川の特徴ですよ。


――さわりのテレビを見て声を出していましたね

賀川:もうひとつ、このゴールのヤマとなるポイントは、バレンシアのライナーのクロスと、それを無理やりに止めて真司へのパスにしたファン・ペルシーのすごさですよ。

――香川の話では、ロビン(ファン・ペルシー)がいいボールをくれたとなっています

賀川:前半のこのクロスまでを見ていないから想像するしかないが、それまでノリッジの多数守備にゴールを取れなかったバレンシアが通常のクロスでなくライナーを蹴ったのでしょう。それがすこしずれてロビンは胸で止められずになんとか足を伸ばしてタッチした。左足の先端に当たったように見えたが、あの速い強いボールに左足を出せるところに彼の体の大きさと左利きの特徴が生きているのでしょう。きっちりと彼が止めたのなら、ノリッジのDFも対応したはずだが、ロビンは能力いっぱいで止めているのだから、ノリッジのDFたちにも想定外のボールの動きになった――と私は見ています。

――多数防御を破るため、賀川さんが時々口にする「つぶれ(潰れ)」ですね


賀川:そう思っていただいても結構です。パスをまわし、ドリブルで突破するという、いわば正攻法の攻撃(DFを避けてシュートへ持ってゆく)のではなく、ボールや人の動きに異変が起こったのですよ。それを起こしたのが、バレンシアのキックであり、ロビン・ファン・ペルシーのボールタッチへの執念でしょう。

――相手ディフェンダーたちの全く読めないボールが動いたところに真司がいたというわけ

賀川:パーフェクトなポジショニング(オフサイドぎりぎり)でパーフェクトなフィニッシュをしたのだから、仲間たちが喜んだのも当然でしょう。ルーニーが駆け寄り、キャリックが抱きしめたのをビデオで何度も見直しながら、つくづくマンチェスター・ユナイテッドはいいチームだな、すごいチームだな、と思いましたよ。

――2点目はそのキャリックからのルーニーの前へのロングパスが発端です

賀川:キャリックの後方からのパスがハーフウェイラインを越えて落ちて、ルーニーが快足を飛ばしてボールを取り、ペナルティエリアに入り、ゴールエリアの右外角3メートルで切り返して、相手2人を引きつけておいて、中央へ上がってきた真司に丁寧なパスをサイドキックでくれた。

――まさに“くれた”という感じでした

賀川:ウェイン・ルーニーという選手はご存じのように「やんちゃ」なストライカーとして評判だったのが、ここ2年ほどの間に周囲を使ううまさが目立っている。自身のシュート力は相変わらずすごいが、その彼のスピードとゴール前の威圧感を活かして決定的なパスを周囲に渡すようになってきている。

――この時も自分でシュートできるチャンスでした

賀川:自分の左足シュートよりも確実にゴールを取れる角度へ出てきた真司に渡した方がいいと判断したのでしょう。まあ「オレのパスを見てくれたか」というところでしょう。
――そのルーニーの期待通り香川は走りあがった勢いを止めず、右足アウトサイドでゴール右下に決めた

賀川:走る勢いはそのままに、ただしサイドキックのコントロールシュートでした。ルーニーは「やはり真司」と思ったでしょう。

――真司は「ボールを流し込むだけでよかった。ルーニーに感謝したい」と言っているようです

賀川:しかしルーニーの突進に続いて中央を走りあがった真司の動きを忘れてはならないし、こういう決定的な場面で点を取るという技術の大切さも強調しておかないといけないでしょう。同じような場面で得点できなかったロンドンオリンピックの例もありますからね。

――3点目もルーニーから、今度は自分は動かないでポストプレーのスクエアパスでしたね

賀川:(1)ダニー・ウェルベックがハーフウェイライン中央あたりで右の香川にパスを出し
(2)右前へ出てリターンを受け、そこから左内側へターンして斜行ドリブルし
(3)ペナルティエリア近くのルーニーへパスをする
(4)ペナルティエリアぎりぎりに守備線をつくったノリッジの5人のDFは
(5)ルーニーがシュートレンジでボールを受けたこと
(6)ウェルベックが左へ走ったこと
に注意が向く。

――そこでルーニーがダイレクトで真司の前のスペースへパスを出しました

賀川:エリア直前でこのボールを受けた香川はワンタッチやや大きめに出て、一気に右前へ進み、飛び出してくるGKの前で右足インフロントでボールの下を蹴った。ボールは飛び出してスライディングするGKの上を抜き、ゴール中央のネットに飛び込んだ。

――ウェルベックと香川とルーニーの3人だけで5人の守りを突破してのゴールです

賀川:1点目が前半46分、2点目が後半31分、3点目が42分、4点目がルーニーで45分ということだったが、こうしてみても1点目が大きな意味を持っていることがよくわかるでしょう。レベルの高いプレミアリーグでは首位ユナイテッドであっても下位のノリッジを相手に(守備の頑張りが続く間は)なかなかゴールできないものです。

――その中でのハットトリックは値打ちがありますね

賀川:真司が試合に出ていない時も、常に前向きに練習しチームにどうすれば貢献できるかを工夫していることをルーニーたちも見ているのでしょうね。彼がこうしてユナイテッドの一員となってゆくのを見られるのはとてもうれしいことですよ。

――どれほど個人技術があってもチームのために少し無理をしても働くという姿勢がユナイテッドの伝統なんでしょうね

賀川:誰でも口にし、実行しようとするが、ユナイテッドの伝統はそれを相当なレベルで続けているということでしょう。だからこそ、真司のハットトリックを皆で喜んでくれるチームなのだと思います。

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2013年 年初に見た香川真司

2013/01/31(木)

――年末年始は風邪で寝正月とのことでしたが、新しい年のブログをぼつぼつ始めたいと思います

賀川:長期間のブランクにして申し訳ありませんでした。12月はFIFAクラブワールドカップも取材に行きましたし、年末年始のテレビもたくさん見ました。サッカーの話題の一杯の時期だったのですが…

――高校選手権はもちろん、女子の高校選手権も皇后杯となった日本選手権もテレビがありました。ヨーロッパの各国リーグも見ていたのですか

賀川:バルサの試合はやはり見ますね。レアルもですが、もちろんマンチェスター・ユナイテッドは香川真司がいるので

――最近の彼はどうでしょう

賀川:そうそう。トッテナムとのアウェー戦があったでしょう。先発で出場し、後半途中でウェイン・ルーニーと交代した。全体としてまずまずの感じでした。

――ファンペルシーのヘディングで先制し、終わりごろに追いつかれました。1-1。トッテナムの方が攻め込みも多かった。

賀川:ファンペルシーのゴールは香川が後方からのパスを小さく右へ振ってからの仕掛けになりました。右サイドから左へのパスがつながり、左から今度はウェルベックが中へドリブルして中央からまた右へパス、そのあと右からのクロスがファーサイド側のファンペルシーへ送られ、ノーマークでヘディングでゴールが決まったのです。

――ゆさぶりがよかった?

賀川:右から左へ、左から右へ、そして右からクロスというようにゴール前でボールがサイドからサイドへ動いた。そしてウェルベックのドリブルがあってスパーズの選手の目はボールを追うことになり、その後右からクロスが来たときにはファンペルシーがポジションを外へずらしてノーマークになっているのに気がつかなかった。その最初の攻めの前の「つなぎ」のパスを出したのが香川です。アウトサイドを使った簡単に見えるパスだが、このボールで受ける側に少しのフリーの時間が生まれ、余裕を持って次の展開ができたのです。

――真司のパスのうまさが発揮された

賀川:この日の彼のパスはやはり丁寧に仲間の取りやすい位置へボールを流し込んでいた。トップ下の位置にいて、パスの経路も強弱も好調時に戻っているようでした。テレビ解説の早野さんの言っていたとおり、ゴールに絡むためにもっとシュートをすれば、という感じはありましたが…

――守備でも働いていた

賀川:競り合いにも負けず、ファウルも取られたし、ユニフォームを引っ張っているところも見られた…つまり接触プレーでもかなりがんばっていた。

――9月のトッテナム戦ではその点が弱い感じでした

賀川:トッテナム・ホットスパーズ、通称スパーズはプレミアリーグらしく体格のいいプレーヤーが多く、ロンドンの古いクラブでプレーも激しい。9月のホーム戦では香川がボールを奪われるところもあった。今度も2回くらい取られていたが、前よりは少しよくなっている。点に絡めないのは、香川のプレーへの周囲の理解が進んでいないのか、彼自身の仲間への要求や話し合いがまだ不十分なのか…

――シュートが外れた場面もあった。エリア内での彼からのバックパスのシュートチャンスでつぶされたこともあった

賀川:ルーニーやファンペルシーは彼のプレーを理解し、パスのやりとりは上手だが、けがで休んだこともあり、誰とでもうまくいっているとは限らない。

――ユナイテッドはメンバーも多く、攻撃陣のMFの組み合わせも多様ですからね

賀川:それでもベンチ観戦の選手から見ても、香川のパスのうまさは理解できるはずだから、仲間とのコンビネーションはもっとよくなるでしょう。シュートの外れ方を見ると、ゴール前でのプレーの回数が少ない、という感じですね。チームでの練習が増え、試合での出場も増えれば「やはり香川」というプレーが見られるでしょう。

――トッテナムは日本にも来たことがありますね

香川:1971年の黄金期に来日して、神戸と東京で当時の(アマチュアの)日本代表と3試合して全勝した。体格がよくて、実力ある選手がそろっていた。GKにパット・ジェニングス(北アイルランド)、MFには70年のワールドカップでペレのマーク役だったイングランド代表のアラン・ムレリーと若いスティーブ・ペリマンがいた。彼は後に日本で監督をしたこともある。攻撃にアラン・ギルジーンやマーチン・チーバースといった大型で技術もしっかりしていたFWがいた。ビル・ニコルソン監督が1958年からずっと見ていた時で60-61シーズンにリーグとFAカップの2冠を取り、71年もリーグカップで優勝していた。ホームスタジアムの通りにビル・ニコルソンの名がついているらしい。

――大監督ですね

賀川:そうだろうね。彼とパット・ジェニングスはイングランドのサッカー殿堂入りしていますよ。

――当時の日本代表は

賀川:病気からようやく回復した釜本邦茂に杉山隆一、宮本輝紀などメキシコオリンピックの銅メダル組もほとんどがまだ代表にいた。スパーズとの3連戦は神戸で0-6、東京で2-7と0-3というスコア。日本側の得点は杉山と釜本の二人だけでした。

――20年後の1991年にもスパーズは来日しています。日本代表が4-0で勝ちました

賀川:日本が進歩したこともあるが、20年前のチームに比べると、この時のスパーズはいささか見劣りした。

――100年以上の長い伝統を持つイングランドのトップクラブと30年前から交流があったのですね。いまや日本選手がその名門中の名門、マンチェスター・ユナイテッドに加わる時代になりましたね。

賀川:プレミアだけではなく、イタリアでもドイツのブンデスリーガでもオランダやベルギーのリーグにも日本選手がいます。彼らのヨーロッパでの活躍や成長がますます楽しみになりますが、同時にその働きぶりから世界基準のプレーが見えてくるでしょう。

――Jリーグの開幕が近づいてきました。代表のキリンチャレンジカップも2月に神戸で予定されています

賀川:2013年のサッカー界はいよいよ忙しく、いよいよ楽しくなるでしょう。

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バルサ・レアルのクラシコから(続)

2012/10/18(木)


賀川:1-0の直後にレアルは2点目を取る大きなチャンスがあった。

――再開のキックオフの後、バルサが自陣でDFが横パスの交換をしていた時に、CDFがボールを止めそこなって、ロナウドに拾われてしまった

賀川:ハーフウェイラインから10メートル入ったところで、ボールを取ったロナウドは一気にドリブルした。ミスをしたマスチェラーノがなんとか防 いだが、レアルはこの左サイドのスローインから、ボールを後方へ戻して、シャビ・アロンソがセンターサークルのペペへパスをし、ペペから右のアルベロアへと展開
した。
(1)そのアルベロアが7メートル前方のケディラへ縦パスを送るところからレアルの仕掛けが始まる
(2)ケディラは止めてすぐ、右タッチライン際にいるディマリアへ。
(3)ディマリアは前方やや内側のエジルへ。
(4)エジルは内にトラップし、自分を追い越して前へ出たケディラへ。
(5)ケディラはペナルティエリア右外ゴールラインから7メートルの地点で、このボールをダイレクトで中へ
(6)エリア内に走りこんできたエジルが受けて、左足でゴール正面のベンゼマへパス
(7)PKマークの近くにいたベンゼマが、このボールをダイレクトシュート
(8)ボールはGKバルデスを抜いたが、右ポストに当たる
(9)そのリバウンドをディマリアが走りこんで右足に当てたが、ボールは右ポストの外へ外れた

――ノーマークシュートをポストに当てたベンゼマは頭をかかえていました

賀川:守備のしっかりしているぱずのバルサがレアルの攻めで誰もボールに触れることなく、フィニッシュまで持っていかれている。とても珍しいこと だった。

――モウリーニョ監督は、イグアインよりもベンゼマをファーストチョイスにしているというのに

賀川:こういう長身プレーヤーには、案外難しいシュートだったのかもしれない。右足インサイドで、あののけぞるような姿勢では、ボールをきちんと 叩いていなかったのだろう。彼本人にもレアルにもとても惜しいチャンスだったが、高額収入のトッププロでもこうした瞬間があるということ。まるで 無抵抗に見えたバルサ側にも、言えることですがね…
――だからサッカーは面白い

賀川:大ピンチを逃れた後、バルサがボールポゼッションを高め、攻め続けて同点ゴールをもぎ取る。

――ダニエル・アウベスがモントーヤに交代しました

賀川:足を痛めたとか。そのアウベスの表情がテレビに映った直後、右からのペドロの速いクロスからのバルサのゴールが生まれた。前半31分だっ た。

――このバルサの得点に至る攻めの始まりはハーフウェイラインでのFKからでした

賀川:そのFKのボールがブスケツを経由してメッシに渡る。
(1)メッシは相手側センターサークルから左へドリブルし、左サイドに渡して短いパス交換の後に
(2)再びボールが中央にもどり、今度はシャビが受ける
(3)シャビは短くドリブルし、右のイニエスタへ
(4)イニエスタは右外のペドロへ
(5)ペドロはこのボールをダイレクトで蹴り、強いクロスを送る
(6)ボールはセルヒオ・ラモスの足に当たり、さらにシャビ・アロンソに当たって高く上がる
(7)ペペがジャンプしてヘディングしようとしたが
(8)ペペの体制は悪く、ヘディングできないまま落下して倒れ
(9)ゴールエリアぎりぎりに落下しバウンドするボールにメッシが走り寄って左足ボレーシュート。カシージャスの左を抜いた。

――きれいなパスワークからのゴールではなく、ペドロの強いクロスが相手DFに当たったリバウンドをメッシが取ったという形

賀川:ペペのジャンプの踏切りがよくなかったのかどうか。空中でバランスを崩してヘディングできなかったのが分かれ目となった。ただし、こういう異変の起こったところへ走りこんでくるメッシの早さと、ボール処理の的確さは彼が優れたストライカーである証左と言えるでしょう。私たちはワールドクラブカップの決勝でも、彼のすばやいダッシュと「胸のシュート」に感嘆したことがある。このゴールもドリブルシュートやFKでの妙技とは別の「メッシの飛び込みゴール」ともいうべき系譜に入るのだろうか。

――同点にしてからバルサの攻勢は強まったが、ゴールは生まれず、1-1で前半を終わり、後半はじめはレアル・マドリードの攻撃が目立った。

賀川:9分にはロナウドのFKのチャンスもあったが、壁に当てた。この後からバルサが勢いを取り戻して攻め続ける。

――16分にメッシが倒されて、いい位置でのFKとなった

賀川:セルヒオ・ラモスがドリブルするメッシにタックルに行って、トリッピングになった。ペナルティエリア外約9メートル正面の中央より少し右に寄ったところにボールが置かれた。マドリード側はペナルティエリアのライン一杯に5人が壁を作り、その横にバルサ3人が並んだ。

――短い助走でした。

賀川:3歩だったかな。左足でとらえたボールは壁を越え、カーブしつつ右ポストいっぱいに飛び込んだ。

ゴール裏のカメラの映像はジャンプしたレアルの白いユニフォームの壁、中央の6番ケディラの上を越えたボールがゴールに飛び込むのをとらえている。バルサの3人が壁に並んだことで、GKカシージャスからはキックの瞬間が見えていなかったかもしれない。カシージャスがジャンプし、伸ばした手よりも早く、ボールはゴールラインを通過した。

――パーフェクトはFKですね。

賀川:彼にとって得意の距離だったのだろうね。プレースキックはメッシの大きな武器ではあるが、こういう大試合で決めるところがやはりメッシということでしょう。倒された時にセルヒオ・ラモスにイエローカードを出すべきだとレフェリーにジェスチュアをしていた。すでに1枚もらっている彼にはカードは出なかった。

イエローをアピールするメッシを見ながら、こういう気持ちの昂ぶりもまた彼のキックへの集中力になっていくのかなと思ったりしましたよ。すごいプレーヤーですね。

――リードされたのを追いつき、勝ち越したバルサがいよいよ有利になったと思ったら…5分後にレアルが2-2にしました。

賀川:1-2となったレアルは、再開キックオフの前にベンゼマをイグアインに代えた。そのイグアインがいきなりブスケスを倒した。

――前からの守備をしっかりしようということですね。

賀川:左から攻めたレアルがエジルのクロスから左CKをとった。そのCKのときにロナウドがオーバーヘッドのキックにいって、空振りし、左半身で落下する場面があった。

――リードされて奮い立ったという感じになった

賀川:ロナウドのオーバーヘッドキック直後のカシージャスのキックから始まった
(1)右サイドの攻めが行き詰まって、ペペが長いバックパスをGKカシージャスに送った。ハーフウェイラインのレアル側には白いユニフォーム3人とバルサの赤が4人いた。
(2)ペナルティエリアの外10メートルあたりにボールを運んだカシージャスはそこから左足でロングボールを蹴った。
(3)ボールは相手のペナルティエリアとハーフウェイラインの中間、中央やや右寄りに落下し、そこでの奪い合いをレアルが制し、トップ下の位置にいたエジルにボールが渡った。彼の右前方にイグアイン、左前方ぬにロナウドがいた。
(4)ロナウドが右前方からバルサのDFの内へ走りこむタイミングをエジルは逃さずに左足でパスを送り込む。
(5)バルサのCDFラインの間を通ったパスはペナルティエリアへころがり
(6)PKマークのいすぐ手前でロナウドがこのボールを右足でシュート。GKバルデスの右を抜いた。

――低い位置でのカメラのリピートを見ると、ロナウドはオフサイドぎりぎりであってもオフサイドでないこと、そしてエジルは深い角度のキックで2人のCDFの間を通すスルーパスを出しているところを映し出しています。

賀川:昨シーズンの終盤のクラシコで右タッチ際からエジルが裏へ出して、中央を走ったロナウドが決勝ゴールしたのを覚えているでしょう。今度のホットラインもエジルの左足のパスのすごさと、それをゴールに結びつけるロナウドの実力を見せつけましたね。

――カシージャスはこういう場面を想定してロングボールを蹴ったのでしょうか

賀川:少なくとも、両チームの状態を考えれば、この場面ではつないで攻めるよりも、相手のゴールに近いところに高いボールを送ったほうが得だと考え、そのためにキックの位置を上げたのでしょう。後から思えば、メッシが2点目を決めたFKの位置に近かったのも面白い符号だったが…

そのカシージャスの意図を生かして、ボールの落下点での奪い合いを制したケディラたちの3人の強さ、競り合いの中で短いパスを、信頼するエジルに預けたところなどもやはりバルサと違った形のチームワークでしょう。

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