オリンピック

PK戦に強いドイツのPK戦負け

2016/08/23(火)

リオのオリンピック・サッカー(男子)の決勝はブラジル対ドイツという好カード。1-1の同点のまま90分と、さらに15分ハーフの延長が過ぎてPK戦となり、ブラジルが5-4で勝った。

PK戦が主要国際大会で初めて登場したのは1976年の欧州選手権で、ベオグラードでの決勝の西ドイツ対チェコスロバキアで2-2の後、チェコがPK戦を5-3で制した。このPK戦で敗れた西ドイツ(ドイツ)は以来ユーロやワールドカップでのPK戦には常に勝ってきた。選手にもPK戦についての意識が強かったのだろうが、PKを蹴る選手のオーダー(順番)にも工夫が見られ、私の頭の中には「PK戦はドイツが強い」が定説になっていた。それが、リオの決勝でブラジルに敗れた。

このPK戦はドイツが先に蹴り、両チームとも4人目まで成功し、ドイツの5人目のニルス・ペーターゼンがGKに防がれ失敗。ブラジルの5人目のネイマールが決めて、5-4として金メダルを獲得した。

失敗したペーターゼンという選手についてはよく知らないが、彼のキックの前の所作を見ると、ボールをプレースして、シュートに入るまでの時間がいささか短いようだったし、シュートそのもののコースを相手GKに読まれていた上に、コースがGKのリーチの範囲だった。シューターの失敗といえるだろう。

相手の5人目の失敗の後を受けて、ブラジルの5人目はネイマールだった。5人目という、ひとつの「けじめ」となるキッカーにブラジルはチームで最も信頼のおけるネイマールを置いたのは常識的であっても、正しい判断だった。ネイマールは相手GKに自分のコースを読ませずに右足でしっかりと決めた。

取材で立ち会ったビッグトーナメントでの最初のPK戦は1982年ワールドカップの準決勝、西ドイツ対フランスだった。それ以来、PK戦のドラマチックな面白さはサッカーの試合中のゴールとはまた別の楽しみとなった。

今度のオリンピックサッカーの決勝を見て、改めてPK戦の面白味を皆さんと話し合いたいと思っている。

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日本スポーツの底力を見た400mリレーの銀メダル

2016/08/22(月)

リオデジャネイロオリンピックが終わりました。テレビ放送のおかげで、とても楽しい夏の日々でした。

日本のメダル数は、これまでの最多でした。それぞれの競技のコーチや選手たちの努力や進歩を示すものとして、お祝いしたい。そして、なにより私にうれしいのは、陸上競技の400mリレーで銀メダルを獲得したこと。専門家やメディアはリレーのバトンタッチの技術のうまさをその原因にあげている。その通りには違いないが、日本の4人の走者の実力が前回より高くなっていることを証明したことが、とてもよかったと思っています。

もちろん日本の短距離がアメリカや英国より上とまでは言いません。100mの決勝に進出できなかったことが、それを語っていますが、今度の400mリレーでの快挙は日本のスポーツ界全体に「速く走ろう」という気風を高めるものと期待しています。長いオリンピックとの付き合いで、私は日本が100mの世界トップクラスののランナーを持っている時には、サッカーにもまた足の速い、いいプレーヤーがいたことを知っているからです。

リオデジャネイロ大会の閉会式で、東京の新しい女性知事さんがリオの市長から五輪旗を受け取りました。これからいよいよ東京オリンピックに向かっての会場の準備に向かうことになります。

今から52年前、1964年の東京オリンピックのときに新聞社のスポーツ記者であった私は、60年ローマ大会が終わって、いよいよ「東京」だぞと、日本のスポーツ人の気分が高揚したのを改めて思い出します。

2020年の大会を自分の目で見られることができれば、いま91歳の私にとっては、とても幸せなことになります。今度の大会(といってもすべて、テレビ観戦ですが)があまりにすばらしかったので、つい欲が出てきたというところでしょう。

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夏のオリンピック テレビ観戦

2016/08/15(月)

皆さん、テレビをご覧になっていますか。リオでのオリンピックは前半の体操、柔道などのメダルラッシュで盛り上がりました。

91歳の私は小学6年生のとき、1936年のベルリン・オリンピックの実況ラジオ放送を、わが家の電蓄(でんちく)- 電気蓄音機をこう呼んでいた -で深夜に聞いた覚えがあります。その内容については覚えていませんが、ガーガーという雑音の混じったアナウンサーの声を思い出しながら、80年後のいま、テレビの画面でさまざまのスポーツを、その全景から細部にいたるまで見せてもらっています。

1952年に産経新聞に入社してスポーツ記者となった私には、その年のヘルシンキ・オリンピックがジャーナリストとして出会った最初のオリンピックでした。特派員となった木村象雷(きむら・しょうらい)部長がタイプライターひとつを持って出発するのをかっこいいなと見送ったものです。以来、64年間、オリンピック大会は私には特別なものとなっています。

記者としてオリンピックを取材すること、そして特派員として海外のオリンピック大会に出かけることは、若いスポーツ記者にとっての願いでした。特派員の方は残念ながら機会に恵まれなかったのですが、オリンピック記者としての勉強を重ねたのを覚えています。
日本で一番盛んなスポーツ、野球はプロフェッショナルのセ・パのリーグがあって全国民に親しまれていますが、オリンピック大会の正式種目には入っておらず、今度のリオの大会でも開催されません。種目のほとんどは、野球やサッカーに比べると、日ごろ日本人の多くにはなじみの少ないものですが、それだけに試合の模様を丹念に画面に映し出すテレビ放送は多くの人をひきつけ、選手がそれぞれの国の国旗を付けたユニフォームを着て戦うのですから、応援に力が入ることになります。

サッカーも長い間、日本ではマイナースポーツだったのが、東京オリンピックで多くの国民が実際の国際試合を目の前で見たのが、今日の隆盛のもととなったのです。

そんなオリンピックの流れを思い浮かべながら、毎日のテレビを見る。ことさら暑いと言われ、年寄りは暑気あたりには注意しなさいと警告されながら、今年の夏は、誠にうれしいものとなっています。

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神戸FC・岩波拓也選手の壮行会

2016/07/19(火)

15日金曜日の夜、神戸磯上のKR&ACのホールで、神戸FC(フットボールクラブ)によるオリンピック代表の岩波拓也選手の壮行会に出席しました。

1963年、つまり東京オリンピックの前の年にスタートした兵庫サッカー友の会が1970年に神戸FCとなったのですが、その神戸FCで少年期を過ごした少年からリオデジャネイロ・オリンピックの日本代表が生まれたのです。クラブ発足のときの理事であった仲間は去り、いまでは私ひとりです。

神戸からは多くの日本代表が育ち、輝かしい実績を残しましたが、オリンピックの本番でプレーするとなると多くはありません。それだけに神戸で生まれ育ち、神戸FCでボールを蹴った岩波選手の五輪出場はクラブの会員にとって、とてもうれしいこと。会場は100人の出席者でいっぱいになりました。

クラブの少年会員(ボーイズ)たちの岩波選手に対するさまざまな質問もあり、新聞各紙の記者の取材もありで、2時間の壮行会はあっという間に過ぎました。

岩波選手は小学生のころから神戸市の選抜となり、ヴィッセルのユースからヴィッセルのプロとなり、オリンピックの日本代表となりました。ポジションはCDFで身長186センチ、ボールテクニックが確かで、日本の守りの柱となっています。壮行会での多くの会員からの質問や、かつてのコーチたちからの激励に対しての受け答えも丁寧で、誠実な人柄があらわれていました。

いまのサッカー界ではオリンピックはワールドカップよりも格下の大会とみる風潮がありますが、オリンピックはなんといってもオリンピックで、特に日本では全国民が注目するもの。リオデジャネイロでの日本代表の試合ぶりは日本サッカーの今後にとってもとても重要なものとなるはずです。岩波選手の顔を見ながら、彼がその大切な舞台でいいプレーをして、レベルアップしてほしいと心から願いました。

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Photo By H.Kato

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日本代表が3-2の勝利 U-23のアジアのトップ(続)

2016/02/05(金)

――前半0-1、後半始まってすぐに韓国が2点目を取りました

賀川:2点目を奪われたきっかけは、守りから攻めに出ようとしてハーフライン手前でボールを奪われたのですよ。後方からのボールをヒールパスで相手の意表をついたつもりの短いパスを取られたのです。

――奪ってからの韓国の攻めは鮮やかでしたね

賀川:7番のムン・チャンジンがドリブルし、ターンしてボールを戻しておいてもう一度右サイドから攻めた。ここからの速い短いパスをつなぐ韓国の攻撃は見事なもので、すべてワンタッチでした。ペナルティエリア右側いっぱいからのクォン・チャンフンのラストパスもダイレクトでした。日本の守りは左側(相手の右側)にひっぱられて中央のチン・ソンウがゴールを背にして足下でボールを受けたときにはマークはひとりだけでした。チン・ソンウは反転し、左足シュートで決めました。

――0-2になったとき、どう感じました

賀川:僕はテレビに向かって、ここからひっくり返せば君たちは男になれるぞと言っていました。

――そのあとも韓国のチャンスはあった

賀川:左からDFの2番の選手が左ポストまで持ち込んでくるという、きわどいプレーもあって、彼がポスト際から中へ入れたのをGK櫛引が足に当て、高く上がって右ポスト側へ落下、韓国側がヘディングした。ボールは高く外れたのでこちらは助かった。

――ヘディングしたのは7番でした。それでもこのあとに日本にはチャンスがあった

賀川:14分に大島に代わって浅野が入っていた。左サイドで原川が縦に走ってエリアの根っこから後方へのクロスを送り、浅野がシュートした。

――シュートは弱くて、GKキム・ドンジュンが正面でキャッチした

賀川:得点にはならなかったが、ボールがまわり、後方からの飛び出しもできるようになった。「いいぞ」という感じになった。久保のスルーパスも見事だった。

――このあとすぐビッグチャンスが来た

賀川:相手のロングボールをヘディングではね返し、右サイドで久保と矢島が相手と競ってボールを取り、矢島が相手のバックラインの裏へスルーパスを送った。

――矢島から浅野の位置が見えていたんでしょうかね。いいパスでした

賀川:中央から右斜め前へ走った浅野がペナルティエリア右より4メートルほどに入ったところで、飛び出してくるゴールキーパーの前で右足でシュートした。これが浅野だ、という感じでした。

――すばらしいゴールで1点返した後すぐに2点目がきました

賀川:相手のキックオフからのボールを取って左サイドから攻め、山中がコーナー近くからクロスを上げた。中央にいた矢島がジャンプヘッドでゴールにたたき込んだ。

――深いところからのクロスに対して、ニアサイド(ボールに近い側)に浅野が走り込んだ。それに相手もつられて生まれた空白地の裏へボールが落下し矢島が飛び込んだ。マーク相手の背後から走り込んで勢いにのったヘディングは止めようがなかった

賀川:韓国にとっては2失点は魔のような時間でしたね。しかし2-2となって韓国はまた攻めはじめた。

――ヒヤリとする場面も再びあったが、日本もカウンターで攻め返した

賀川:29分に矢島の足の調子が悪いと見て、豊川に交代させた。

――後半33分に、韓国はノッポの9番のキム・ヒョン(18番と交代)、8番イ・チャンミンに代わって、11番キム・スンジュンが入った

賀川:韓国の局面での競り合いの強さが少し落ちてきた。それでも攻めて点を奪おうと意欲を燃やしていた。35分にも韓国は左から大きなクロスを上げ、そのこぼれ球を右から攻め続けようとした。

――その韓国の攻めを防いだあとに日本のチャンスが来た

賀川:左から中央へ持ち込んでペナルティエリア中央、3メートル外からシュートしたのを遠藤がそのコースに入り、足に当てて防いだ。リバウンドのボールを拾って前方へ送り、相手DFキックしたボールが、センターサークル(相手陣内)に落ちるのを中島がダイレクトで前方へ送り、浅野が相手DFと競り合って、このボールを奪い、そこからドリブルでペナルティエリア中央に進入してすぐ、左足シュートした。ボールはゴールキーパーの右を通ってゴールの右端に転がり込んで、3-2と逆転しました。

――テレビになにか言ったとか

賀川:これで勝ったら「ベルリンと一緒だ」とね

――1936年のベルリン・オリンピック、あのスウェーデン戦の逆転勝ちですね

賀川:韓国はさすがに大したものですよ。2-3からでも何度も攻めた。しかしFKなどでも低いボールで彼らの高さを生かせないシーンも出てきた。日本にも40分過ぎに右サイドからチャンスを生む機会がありました。

――3点目からあとの両チームの選手たちの戦いは、互いの意地が出て見ごたえがあったが、気分的に有利な日本は相手の反撃を抑え込みましたね

賀川:48分に豊川のシュートが相手の背中に当たったあと、笛が鳴りました。

――1936年から、ちょうど今年は80年です

賀川:日本のサッカーの歴史で初めてオリンピックの本番に参加したのがこの大会です。初参加で強豪スウェーデンに逆転勝ちしたスコアが0-2からの3-2でした。チームプレーの性格は違うが、当時はほとんどが大学生で、いまのU-23と似た年齢でした。

――オリンピックの本番でもドラマが期待できますね。

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日本代表が3-2の勝利 U-23のアジアのトップ

2016/02/04(木)

AFC U-23選手権 カタール 2016(リオデジャネイロオリンピック・アジア最終予選)
最終日2016年1月30日カタール

U-23日本代表 3(0-1、3-1)2 U-23韓国代表


――逆転勝ち、3-2のスコアで、とても面白い試合でした

賀川:前半は韓国のペース、1-0とリードされ、後半初めに2点目を奪われた時には、今日はダメかなと思った人も多かったでしょう。

――テレビを切って、寝たという人もいましたよ

賀川:2-0とした韓国がちょっと気分的に楽になったせいか、そのあともチャンスを作ったが3点目を取れなかった。私は戦前の旧制神戸一中のころから全国大会で当時日本の一地域であった朝鮮地方の代表と試合をしたので、日韓戦は80年前から経験していますが、そのときから互いに2-0は安全圏ではないといわれていました。

――この試合で日本が0-2から逆転したのは選手起用の妙、巧みな選手交代にあったとも言えますね。浅野の投入がとても効果的でした

賀川:サンフレッチェ広島の2015年の優勝に、浅野という若く速いFWの力が発揮されていた。その彼の速さと得点力がこの試合で生きました。彼はこの大会ではここまで得点していなかったのですが。

――その前に、日本の失点について語ってください。大会のここまで、どの試合も失点1までで、守備力が高く評価されていたのですよ

賀川:2人のDF――中央のセンターバック植田直道と岩波拓也、そして控えの奈良竜樹も防ぐという点では強かった。長身の植田、岩波は守りのヘディングも強いだけでなくCKやFKのこちらのチャンスにも空中戦での武器でもあった。GKの櫛引政敏もいい働きをしてきた。その守りが2点を失なったのです。前半の失点はひだりからのクロスからだった。韓国が中盤を制して右から左へ長いパスを送り、左タッチ際、ゴールライン5メートルの深い位置から、高いクロスを送ってきた。ペナルティエリア内PKのマークあたりに落下してきたのを韓国側がヘディングをとり、このボールがゴールエリア左角近くに落ちたのをクォン・チャンフンがボレーシュートした。ピシャリと蹴ったのでなく、ちょっと当たり損ねのようなボールだったが、低い軌道でゴールに向かい、岩波の左足に当たって方向が変わってゴールとなった。

――DFの足に当たったのは不運でした

賀川:そう、不運と言えば不運です。相手のボレーシュートのときに体を寄せに行かなかった。ヘディングのボールを落下するのを日本側は見ていましたよ。点を取られるときはこういうこともあるといった感じでしたね。

――前半22分でした。日本側も攻めはしたが流れとしては韓国の攻撃回数の方が多かったかな

賀川:日本は右・左からのクロスが低くてはね返されることもありましたね。

――後半早々に日本はFWのオナイウ阿道に代えて原川力を送り込みました。久保裕也とオナイウの2トップだったのを久保のワントップにして中盤を厚くしようとしたのでしょうね

賀川:中盤は韓国の方が強かったからね。彼らのドリブルの時の切り替えしは引き技になっていて奪いにくいのです。まぁこれはいつものことだが…

――メンバーの交代の効果が出る前の後半1分半に韓国が2点目を取った。日本の中盤のパスミスを奪って、右サイドから攻め、中へつないでCFがゴールを背にして受け、ターンで日本のDFをかわして左足でシュートを決めた。日本のボールを奪って右サイドからの攻めと、ゴール前へのパスなど、とてもいい攻めでした

賀川:テレビを切ってしまった人の気持ちもわかります。しかし、このあと日本が3点を奪うのだからサッカーは面白いものですよ。(続く)

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日本サッカーの伝統的なよさで五輪出場を決める

2016/01/28(木)

AFC U-23選手権 カタール 2016(リオデジャネイロオリンピック・アジア最終予選)

U-23日本代表 2-1(1-0、1-1) U-23イラク代表

――勝ちました。2−1です。U-23代表のリオデジャネイロ・オリンピック出場が決まりました


賀川:手倉森誠監督とチーム全員の纏まりですね。この大会の1次リーグで北朝鮮(1-0)、タイ(4-0)、サウジアラビア(2-10と3勝した日本は、準々決勝でイラン(2-1)を破り、この日の準決勝でイラクを倒し、決勝に進出しました。決勝の相手は準決勝でカタールを破った韓国です。オリンピックには上位3チームが出場するので、日本はアジアの五輪代表となったのです。

――これまでこの世代の選手はU-17、U-20 などの年齢別の試合でアジアの壁を破れずに世界大会の出場経験はなかった。それが年齢別の最後といえる23歳以下でアジアのトップに近づきました。

賀川:U-23代表は守りが強く、イラクの攻勢を耐え忍び、前半28分と後半の終了直前に得点しました。前半のゴールは鈴木武蔵が左サイドを突破して左からのクロスを送り、久保裕也が走り込んで決めた。43分にイラクの右CKから同点とされ、後半の終了直前に決勝ゴールを決めた。右サイドからのクロスをGKがフィスティングで防いだボールを原川力がエリア外から左足のビューティフルゴールを決めたものだが、残り10分ごろからイラクの運動量が目に見えて落ちていた。この2点目の攻撃は日本のCDFからのロングボールを相手のCDFがヘディングに失敗し、それを浅野拓磨が拾ってペナルティエリアの右外(ゴールラインから8メートル)からバックパスした。エリア内で受けた南野拓実が縦にドリブルして、高いクロスを送り、それをGKファハド・ラヒームがフィスティングした。そのボールがペナルティエリア正面の外へ落ち、そこに原川がいてシュートした。落下するボールのトラッピングにも余裕があり、相手の一人が妨害してくる前に左足を強く振ってシュートした。

こういう時のトラッピングからシュートへ入る動作をテレビの録画で見直してみると、この世代の代表たちは勝てないことで評価されていないが、ひとつひとつの個人技術がしっかりしていることを改めて見ることができるでしょう。

――手倉森監督の采配、選手起用のうまさもよかった

賀川:メディアでもそのことは話題にしています。大会でのこれまでの試合を見れば、当然、監督さんの指導力を評価するでしょう。私は監督さんたち、このU-23を指導した人たちが、自分たちが選んだ「上手だがひ弱い」と言われた、ある時期のこの世代を長い目で見守って、今の強さに持ってきたところに、いまの日本のサッカーの厚さを感じています。

――もちろん、賀川さんには不満もあるでしょうが

賀川:ひとつひとつのプレーや、個々の局面については、改良の余地はあるでしょうが、なによりもサッカーはチームゲーム、それも11人だけでなく、選ばれた代表全員のゲームという感じが出た。いわば、日本サッカーの伝統的なよさがこの世代に見られたことが、とてもいいと思います。

もちろん、彼らの一人一人が相手との1対1の奪い合いでも負けまいとする姿勢も買っています。そのためファウルの多いのは育成期からのボールの奪い合いの訓練で考えなければなりませんが…

――決勝の相手は韓国です

賀川:韓国は日本と戦う時は120%の力を出すと言っています。そういう韓国に勝ってこそ、アジアナンバーワンといえるのですから、リオへゆけることで満足しないで、このステップの上にもうひとつ優勝という実績を積んでほしい。

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強敵イランを倒して準決勝へ、リオ五輪も目前に

2016/01/25(月)

日本 3(0-0、0-0、1-0、2-0)0 イラン

――難関の対イラン戦に勝って準々決勝を突破しました。次の準決勝に勝って大会のトップ2に入れば、リオのオリンピック行き、もし負けても3位決定戦で勝てばやはりオリンピックに行けます

賀川:ともかくイランに勝ったことをまず喜びましょう。1次リーグの初戦で体格・体力も上の北朝鮮に勝ちましたが、今度のイランは体格・体力だけでなくその粘り強いプレーに定評がある。手や腕を使ってのファウル、遅れたタックルなども多い、戦いにくい相手に勝ったのです。

――90分間よく負けなかったという感じでした

賀川:90分間に日本にもチャンスはあった。イランにも、彼らには「惜しい」というチャンスもあった。しかし、90分のうち、後半30分を過ぎてからイランの選手の運動量は落ち始めていた。90分終わって延長戦に入ってからは、その兆候が目立ちましたね。

――倒れてすぐ立ち上がれない選手も増えた

賀川:日本の選手も疲れはあったはずだが、動きの質も落ちなかった。日本の交代も効きましたね。

――後半37分に久保に代えて浅野を投入し、43分に矢島の交代として豊川を送り込んだ

賀川:1次リーグの3試合で23人のメンバーのうち、22人を試合に起用した。バランスよく休養が取れて、選手のコンディションも良かったのでしょう。

――監督は、持久力はイランよりこちらが上だと言っていたようです

賀川:延長はまさにその通りになった。イランは中盤で人数をかけて日本をつぶしたのに、それができなくなった。延長に入って、まず2分に右サイドの室屋側から攻めた。3分には相手ボールを右サイドで奪って、左へ展開し、オナイウ阿道がノーマークだったが、タイミングが合わずボールは右へ流れるという場面もあった。相手のロングパスでオフサイドがあり、そのFKから左に回し、ここからボールが中へ、右へと移って、4分47秒に右タッチライン際、ゴールラインから17メートルで室屋がキープした。

――右から左、左から右と攻撃展開の幅が広く、動きの鈍ったイラン側はボールへの寄せが遅くなっていました

賀川:室屋は余裕を持ってキープし、タテにフェイントをかけ、後方へ切り替えして左足でクロスを送った。

――ボールはペナルティエリアの中央へ飛び、赤いユニフォームのイランの2人のDFを越え、ゴール正面、ゴールエリアのすぐ前へ落ちてきた。そこに豊川がいた

賀川:相手CDF 4番のチェシュミの上を越えたボールをノーマークでヘディングした。室屋のクロスもスピード・高さともに申し分なく、豊川が一旦ニアに寄ってマーク相手を牽制しておいて落下点へ入る動きも良かった。ビューティフルゴールでしたね。

――そういえば初戦の対北朝鮮の1点は山中の右からのCK、左足で蹴ったカーブボールでした

賀川:CDFの植田がボレーで蹴りました。同じ質のカーブキックでしたね。

――日本がこの1点で元気づくのは当然ですが、イランはこのあともがんばりましたね

賀川:元気を奮い起こすようにがんばりましたね。

――日本のGK櫛引の素早い飛び出しやすぐ近くからのシュートのキャッチなど大事な働きがありました。その前半の動きが終わって延長の後半に入りました

賀川:イランのキックオフから始まった後半の4分に日本が2点目を取りました。

――相手の2人がオフサイドになった日本のFKからの攻撃がその始まりです

賀川:FKからのロングボールが相手ペナルティエリアの左角近くに落ちて、高くバウンドしたのを浅野が取りました。ゴールライン近くまで動き、そこからバックパス。ペナルティエリア左角近くで受けた中島が後ろへドリブルして相手のマークを外し、ペナルティエリア左角からシュートしました。

――GKアハバーリの意表をついた?

賀川:後方へドリブルする感じだった。シューターの方はそのつもりでも、ゴールキーパーからは予想外だったでしょう。相手DFを前にして右足、左足のタッチでボールを動かすフェイントのあと少し大きく右へボールを動かしておいてシュートしました。ペナルティエリア内に日本側が2人入っていたから、クロスがくるかも…とは予想したかもしれないが。

――ゴールラインから少し前に出ていたゴールキーパーは、戻ってジャンプしたが、その右手の20センチ上を通ってボールはゴールに飛び込みました

賀川:蹴った方は会心のシュート。日本中がテレビの前で安心したでしょう。サッカーの醍醐味の一つと言えるロングシュートでしたね。

――さすがのイランも2ゴールにはガクッと来たはずですが

賀川:次のキックオフからイランはボールを左サイドへ送り、ハーフウェイライン手前からロングボールを送ったが、日本はこれを奪ってハーフウェイラインに戻し、中島が取って、前方のスペースへパスを送り込む。浅野が走ったが、相手DFがGKにバックパス、GKはダイレクトでクリアしたのを日本側が取って、再び左サイドの中島にボールが渡る。

――その中島のドリブルからの攻めが3点目を生む

賀川:中島はドリブルして相手DFと向かい合いペナルティエリア左角で中へドリブルで持ち込み、エリアライン上から右足でシュート。

――今度はGKもシュートしてくると見たハズですが

賀川:ドリブルを始めてからシュートまであっという間だった。GKのニアサイドの上を向いて飛び込んだ。

――そのあと浅野のシュートは相手GKに止められましたが、立て続けにチャンスがきました

賀川:浅野の速さに相手DFがついていけないという感じになった。彼は自分の得点はなかったがやはり「効いていた」という感じですね。

――イランがそれでも1点でも奪おうとしたこともあって120分の試合は最後まで緊張感があったが、3-0。日本の快勝となりました。

賀川:延長後半10分のイランのノーマークシュートがバーに当たりました。全員のがんばりと、ほんの少しの幸運で日本は大きな関門を突破しました。

――監督はチーム一丸の勝利と言いましたが…

賀川:日本の監督さんの選手起用の巧さと、23人全員の能力の高さがうまく合ったのでしょう。

――ただし、まだオリンピック予選を通過したわけではありません

賀川:「しびれるような試合」と誰かが言っていたが、こういう試合を勝つことでU-23代表が強くなっていく。若い彼らが、自分たちの力でこれまでの実績を越えて、一歩一歩、オリンピック本番に近づくのを見るのは本当に楽しいことです。

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リオオリンピック予選で3連勝 もっともやり難い相手を突破してベスト4へ進もう

2016/01/21(木)

――カタールでのAFC U-23選手権 カタール 2016(リオデジャネイロオリンピック・アジア最終予選)でU-23日本代表は1次リーグを3連勝。B組1位で22日の準々決勝でイランと対戦します

賀川:Bグループリーグの初戦で北朝鮮に1-0で勝って、チーム全体が自信を持ち、盛り上がったという感じでしたね。第2戦の相手のタイは北朝鮮に比べると、日本には戦いやすい相手でした。ここで攻撃展開や得点へのプレーを体感し、最終戦の強敵サウジアラビアにも2-1で勝ちました。

――メンバーがそれぞれの試合で大きく変わっていたのにも驚きました

賀川:監督さんのうまさというのか、選手の気持ちをまとめるうまさに感服しました。1ヵ月近い長い期間でのアジア選手権であり、リオの予選なのですが、多くの選手をピッチでプレーさせることで、チーム内に競争と当時に全選手の試合への意欲が湧くはずです。このことが勝利へ一丸となる気風を増しているのだと思います。若くて伸び盛りのプレーヤーが監督さんの巧みな選手起用で力を伸ばしているように見えます。

――北朝鮮戦ではどこに目を付けました?

賀川:この世代の選手たちは北朝鮮の代表には各世代の試合で勝っていません。しかし、日本は層が厚く、また個人的にはボールテクニックの基礎の力が高いので、私は年齢をかさね体力、体格で負けなければ勝てるようになるのではないかと見ています。

――右コーナーのキックからの先制ゴールの1点が唯一のゴールとなりました

賀川:プレースキックを正確に目標へ蹴ることができる技術と、そのファーサイドへ落下してきたボールに植田がいて、正確にシュートしたことで先制ゴールが生まれました。試合の早いうちで、相手側はこのCKでもニアを警戒しましたね。

――守備に追われる時間もかなりありました

賀川:北朝鮮にもチャンスはあったけれど、シュートが不正確でした。このあたりは私が旧制中学生のころの1930年から対戦してきた朝鮮半島の多くのチームとよく似ていますね。力強いシュートはできるけれど、コントロールがあやしいのです。

――タイとの試合はFWは鈴木武蔵と久保のペアだったのを、この試合は広島の浅野と鈴木を組ませました

賀川:先制ゴールは鈴木が後方からのパスのバウンドを頭で処理して相手CDFと並走しつつ右足のシュートを決めました。鈴木という大柄で体格の強いFWのいいプレーでした。いいCFがいるチームでは常識的なゴールの一つですが、ここしばらくの日本代表ではあまり見ることのできないシーンでした。久しぶりににんまりしたのを覚えています。

――トップの選手はポストプレーはよく見るが、後方からのボールを相手DFと競り合いながら決める場面は、そういえば少なかったですね

賀川:2点目は右サイドから深く切れ込んできて後方にパスをし、そこから一旦クリアされたのを左で拾って一気に縦にドリブルしてゴールライン近くからクロスを上げ、矢島がヘッドで決めました。若いのに攻めるコツ、点を取る形を作るコツを知っているなと嬉しかった。

――フル代表がアジア勢相手にボールキープの時間帯は長くてもゴールが少ないと言われてきた。このチームは短いパスでつなぐというより、どんどん前方へボールを送って走っているという感じが強いですね

賀川:チャンスと見れば縦に突っかけることは大事ですよ。もちろん、サイドへ散らして相手側の視線を外に向けさせることも必要ですが、このチームはドリブル突破できるプレーヤーもいて、ボールを回すことより、点を取る有効なパスは何かを掴もうとしていて、とても見ていて楽しいですね。

――サウジ戦も楽ではなかったが、ペナルティエリア外からの2本のシュートが利きました

賀川:サウジは相手に攻められるとペナルティエリア内に多数が後退して守る。すると、その前のスペースが空いてくる。1点目はその広いスペース、ペナルティエリアから10メートルあたりの中央右寄りで、南野がドリブルし、後方の大島へバックパスした。大島のボールを奪いに来たのは相手の一人だけだったから、大島は右足アウトサイドで相手のタックルを右へはずし、しっかりと狙ってシュートの構えに入り、右足で叩いた。ボールは素晴らしいシュートでゴール右寄りに突き刺さった。

――まるで、ヨーロッパの試合のようでした

賀川:日本の選手でもしっかり叩けば強いシュートができるという見本でした。

――後半も南野のドリブルから

賀川:相手守備ラインの外側を右から中へドリブルした左足でシュート体勢に入ろうとしたが、シュートしないで中央同じ位置にいた井手口に横パスを送った。井手口はこれをダイレクトシュートした。ノーマークだったから、余裕を持ったシュートはゴールキーパーの守備範囲だったが、球の強さがものをいって2点目となった。

――不運なPKで1点を奪われた。これ以外のピンチもありました

賀川:シュート力不足が日本の課題と言っていたのに、このアジア予選のU-23はシュートが良かったから勝ったと言えるでしょう。もちろん入らなかったシュートへの反省は必要だし、まだまだ中盤でのボールの奪われ方の良くないところもありますが、全員がよく走ること、相手との1対1で負けないぞという気迫のある点が頼もしい。

――ちょっとファウルが多いのでは

賀川:これはJリーグでもそうだが、1対1の奪い合いで相手の肩を掴むプレーが多い。相手の動きに一瞬遅れた時にも腕で止める。共同動作で守るとともに守るとともに日頃の試合で正しいプレーを身につけることも大切でしょう。

――準々決勝の相手はイランです

イランは日本選手にとって体格や体の粘っこさなどでやり難い相手です。これまでも痛い目にあっています。ひるむことなく、激しい動きとクレバーなサッカーで倒してベスト4へ進んでほしいものです。

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オリンピック講演会を開催します。

2014/09/22(月)

スポーツ記者の“長老”がオリンピックを語ります!!

として元神戸新聞運動部長の力武敏昌氏とのトークイベントを開催します。
以下は神戸市サイトからの抜粋です。


今年は東京オリンピック開催から50周年、また、6年後には再び東京でオリンピックが開催されることが決定し、神戸市でも参加選手団キャンプの誘致活動等オリンピック開催に向けた取組みを始めています。
元サンケイスポーツ編集局長で現役最年長サッカーライターの賀川浩氏と、元神戸新聞運動部長で現在もフリーランスとして活躍される力武敏昌氏が、オリンピックの歴史、意義や日本人金メダリスト、プロとアマの違い等について対談形式で語ります。
講演会の詳細

テーマ:「オリンピックと半世紀」(仮題)
日時:平成26年10月11日(土曜) 14時から16時
会場:ノエビアスタジアムコンファレンスルーム(会議室)
場所:神戸市兵庫区御崎町1丁目2番地の2
定員:100名(事前申し込みが必要です。)
申込受付:平成26年9月20日(土曜)~10月10日(金曜)
申込方法:電話、図書館窓口で先着順に受付けます。
【電話】オリンピック講演会担当(078-371-3351) 10時から17時
【図書館窓口】中央図書館1階登録カウンター 開館時間中随時

神戸市の告知へ

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ロンドンオリンピック 3位決定戦 韓国代表戦

2012/08/15(水)

U-23日本代表 0-2(0-1)韓国代表


――3位決定戦の日韓の対決は韓国のものとなりました。44年ぶりの銅メダルはまたお預けですね。

賀川:惜しい試合で、折角ここまで勝ち上がってきた選手たちにはメダルを取ってもらいたかった。しかし負けは負け。成長期の彼らには次のチャンスもある。

同時にJFA(日本サッカー協会)にとっても、オリンピックという大きなイベントで勝つことの効果がわかっただろうし、成長期にあるU-23代表の強化への力の入れ方を工夫しなければいけないでしょう。

――そのためにも試合を振り返ってみましょう。前半の中ごろには攻勢が続いた時間帯がありましたね。

賀川:韓国ははじめロングボールとドリブルで押し込みながらファウルが多かったが、キャプテンマークを付けたク・ジャチョルが再三ファウルをするのでエキサイトは見せかけで、こちらを挑発しているのかと疑ったくらいですよ。

――まあ気合いがはいっていたのですかね。

賀川:裏にスペースがないだけ、永井の俊足を活かすスペースは少なかったが、彼の瞬間のダッシュや、小回りのきく敏捷さは狭いスペースでも役立つと思うのだが…

――たとえば?

賀川:清武のシュートをGKが防いで、そのボールを右のペナルティエリアの根っこで東が取った。永井がエリア内にいて、近くにDFもいたがパスをしても面白かったように思う。

――東はクロスを中へ送ろうとしてDFの足に当たった。

賀川:CKを取る気だったのか、それとも本当に中に入ってくる誰かに渡すつもりだったのかな。

――CKでは酒井が左ポストぎりぎりに強いボールを叩いたのがあった

賀川:右CKの扇原のボールをファーポスト側でヘディングした分ですね。左ポスト20センチほど外れたのが惜しかった。まあ、そうしたチャンスらしき場面はあったが、結局は得点できないまま時間が過ぎ、日本の左からの攻めを防いだ右DFの オ・ジェソクのロングボールで試合は韓国側に一気に傾いてしまう。

――大津がドリブル突破を仕掛けて倒れた。日本側はファウルだと一瞬動きを止めたが、オ・ジェソクはロングボールを蹴った。

賀川:ハーフウェイライン手前で落下したボールは、高くバウンドして吉田の頭を越え、一人だけ残っていたパク・チュヨンのところへ。
(1)ハーフウェイラインから5メートル日本側へ入った右タッチ近くで、パク・チュヨンはボールを取り、高く上がったボールを走りながらコントロールした。
(2)日本は守りにいるのは鈴木一人。右サイドの酒井も吉田も、MFの山口もバックアップを急ぐ。
(3)パク・チュヨンはまず鈴木に向かい、次いで右へのフェイントをかけ、続いて左へ行くと見せかけた後、右へターン。右足アウトサイドで右のスペースへボールを動かし、右足インステップで強く叩いた。
(4)パク・チュヨンの動きについてゆけず鈴木は左足に体重がかかったままの状態でパクがシュートの構えに入ってゆくのを防げず、追走の山口もバランスを崩してしまった。
(5)パクの右足で叩かれたシュートは、権田の右を抜いてゴールに飛び込む。

――CFがドリブルシュートを決める、古くからあるDFとの1対1の勝負ですね。

賀川:韓国とすれば、攻め込まれていた、あるいは攻めさせていたということになるかもしれないが、日本が前がかりになってDFライン後方に大きなスペースがある時間帯が一番のチャンス。だからDFからロングボールを送り、たまたま日本側のヘディング失敗で1対1の場面が生まれ、それがゴールになった。

――韓国との試合になれば、ロングボールは必ずと言っていいほど相手の戦術にあるわけだから、準備はしていたはずですね。

賀川:ロングボールを含めて、ヘディング対策で吉田というオーバーエイジの適役を加えた。鈴木もヘディングは弱い方ではない。ところがこの場面は、ドリブルでの1対1となった。

――それもあり、と予想していたのでしょう。

賀川:実際にどういうふうにディフェンダーは考え、相手を想定し、準備をしたかでしょうね。

――たとえば?

賀川:パク・チュヨンは右利き。そうすると、右を押さえることが先だろう。左は右に比べてどれくらいできるか、など、まずシュートの型を頭に入れて、そしてドリブルの癖なども、もちろんスピードもそうだが。

――しかしパク・チュヨンは簡単にドリブルし、シュートしたように見えます。

賀川:右利きのシューターはその右のスペースを空けさせるためにシュートの前に左へ行くと見せかけるのが普通です。マラドーナと同時代のアルゼンチンの左利きのシューター、ラモン・ディアスは、まず右へ行き、そして左を空けて左へ持ち出してシュートした。ユースのときも、大人になってもそうだった。パク・チュヨンは自分のいい形でシュートするために左に行って右を空けた。そしてその左へゆくステップの前に少し右へ牽制した。

そういういろいろな手を使うようだが、最後は自分の得意へ持ってくる。もし左足でシュートするなら、たいていは得意の右より振りも遅いし、強さも正確さも違う。効き足でない足でいいシュートをする人も多いが、多くは角度がひとつだから、効き足よりはゴールキーパーには読みやすいはずです。

――ゴールキーパーとの協調、協力が大切

賀川:そう。この場合は、相手は一人だけ、こちらはゴールキーパーを含めて2人いるのだから、冷静に対処して防ぐというのがディフェンスの考え方です。まあ、第三者は理屈はこねるが実際は難しいものだろうかね。

――だけど実例もあると

賀川:いくつでもありますよ。74年ワールドカップの時にベッケンバウアーは1対1でなくて2人を相手にゴールキーパーと協調して防ぎましたよ。

――あの人は別格でしょう

賀川:相手も別格のヨハン・クライフともうひとりはストライカーのヨニー・レップだった。

――それはすごい

賀川:詳しくはいまさら言わないが、ぼくはその場面を何べんも録画で見て頭に入れた。だから、31年後に彼が日本に来た時に話を聞いた。彼もよく覚えていて答えてくれました。一番先に思ったのは、彼の前にドリブルしてくるクライフをスローダウンさせることだったと言っていた。自分がクライフにかわされないよう間合いをとりつつ、クライフがレップにパスを出すように仕向けた。レップがシュートした時には、ゴールキーパーのゼップ・マイヤーが前進守備でシュート角度を消して止めてしまった。

――1人で2人を防いだ。もちろんゴールキーパーと協力して

賀川:まあそんな古い話でなくても、いいDFはそういうプレーを積み重ねていますよ。

――現代のサッカーは前からのディフェンスが大切とコーチはおしえてくれます

賀川:だからと言って、前からの守りで攻撃をいつも防御できるとは限らない。万一ということもある。この大一番で万一が起こったわけですよ。

――まあ選手もコーチも、日本全体でこうした場面の勉強をし、防ぐことが大切ですね。

賀川:やや押し込まれそうだった韓国は、このパク・チュヨンのシュートで一気に勢いが出た。自分たちのやり方に自信を持った。何と言ってもオーバーエイジのパクが点を取ったことは、U-23の選手たちにもすごくプラスになるはずですよ。

――後半は日本のボールポゼッションが増えた

賀川:1-0だから日本は攻勢に出る。韓国はしっかり守ってカウンターということになれば、思うつぼと考えたでしょう。そしてその通りになる。

――ずっと日本が攻勢に出ていた後半12分でした。

賀川:ゴールキーパーのキックをパク・チュヨンがヘッドで後ろへ落とし、ク・ジャチョルが飛び出して、日本DFに競り勝ってシュートを決めた。

――これも日本が攻めて、大津がエリア内まで入ってシュートするときにすべって失敗した直後です。

賀川:彼が地面を叩いて口惜しがっているのがテレビ画面に映っている間に、ゴールキーパーのキックが一気に日本人30メートルに落下し、パクと吉田が競り、ボールはク・ジャチョルの前へ落ちた。彼はゴール正面、ペナルティエリアに入って5メートルのところでシュートした。鈴木は追走し、右足を伸ばしたが、ク・ジャチョルが右足で叩いたボールは、鈴木の右足に当たり、足の下を通ってゴールへ転がり込んだ。権田がセービングで伸ばした右手も防げなかった。

――勝負ありですね

賀川:スペインを前からの攻撃的守備、いわゆる前方からのプレッシングで倒して以来、この一手で戦ってきた。それが無失点につながってきたわけだが、ゴールキーパーや最後列のDFからのロングボールで一気に攻められ、その局面での奪い合いに勝てずにゴールを奪われるという形になってしまった。

――こうなると、U-23代表だけの問題じゃない

賀川:もちろん、ここまで勝ってきたのも監督、コーチ、選手たちの功績だし、この敗戦もまた、このチームの責任ですよ。ただし、この試合のシュートひとつとっても、2ゴールの韓国選手のミートはしっかりインステップで叩いているのに、日本のシュートはほとんどインサイドキックで押している。そういう基本的なことになると、育成期からの問題のようにも見える。

U-23というチームは短時間でのメンバー構成になる。それをここまで作り上げた関塚監督の仕事は立派だが、JFAの技術関係者全体にU-23の強化をどうするのか、もっと工夫することになるでしょう。何といってもオリンピックでの勝負けはサッカーにとっても大事なことですからね。

――その技術の問題の基本的なことは、なでしこの分もあわせて、またの機会にお願いします

賀川:しかしこんな話ができるのも、U-23がここまで試合を戦うまで成長してくれたからなんですよ。選手たちは得るところが大きかったはずで、次のステップへのきっかけになることと思っています。

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ロンドンと東京の閉会式

2012/08/14(火)

賀川:閉会式のテレビを見ましたよ。サッカーの選手は銀メダルのなでしこも、4位のU-23代表も帰国していますが、この閉会式に日本の女子バレーやレスリングの選手たち約200人が出席しました。

――賀川さんは東京オリンピックの閉会式の原稿を書きましたね

賀川:半世紀近く前のことですが、今も覚えていますよ。開会式を親友の北川貞二郎記者(当時デスク、のちのサンケイスポーツ社長)が書き、閉会式は私が担当することになっていた。北川さんは選手の入場行進を同じ場所での1940年の学徒出陣の入場行進に思いをはせてすばらしい原稿を書いた。同じ戦中派のぼくも開会式はそういうテーマになるだろうと思っていたが、やはり読んでジーンときた。新聞社のなかでも評判になった。

――閉会式の担当も力が入りますね。

賀川:私はその6年前の第3回アジア大会の閉会式を書いて、ずいぶんほめられた。ちょっとセンチメンタルだったが…
それが東京の閉会式はイメージとは全く違った。入場が行進ではなく選手がバラバラに入ってきた。歩くもの、走るもの、踊るものもあった。笑うもの、スタンドにカメラを向けるもの…

――いまもそういう感じですよ

賀川:閉会式の入場はこのときに変わったのですよ。時のIOCのアベリー・ブランデージ会長が「無秩序で好ましくない」と言ったくらいです。

――書き手としてはとまどったでしょう。テーマはどうしました?

賀川:それぞれの国の選手たちの大会終了への思いが違った表現になったこと、そこに世界の広さがあり、それぞれの国や民族の違いがある。それがこの大会中ひとつになった…というふうに考えつくまでちょっと時間がかかりました。

――ロンドンの閉会式は?

賀川:開会式、閉会式でのショーはいまやオリンピックという祭りのあと先の大ページェントですからね。開会式はブリテン島の古代から始まる歴史絵巻だったが、こんどはミュージシャン総動員でロックのオンパレードというところでしょうか。私のような老人にはいささか長くて見るのに体力が必要でした。やはり、英国式というべきか、選手の入場は行進でなくても東京より節度があった。

――五輪旗が降ろされて、ロンドン市長からIOC会長を経て、ブラジルのリオデジャネイロの市長に渡されました。2016年の会場への引き継ぎでした。オリンピックが次にも続くのだなぁという実感ですね。

賀川:五輪旗は、1914年にクーベルタンが制定し、1920年のアントワープ大会から使用された。開催都市が次の4年間保管するのだが、1936年のベルリン大会の後、大戦になってベルリン市庁舎にあるはずの五輪旗はどうなったか心配された。市庁舎は市街戦などで破壊されたからね。するとベルリン銀行の地下の大金庫に無事に保管されていたことが分かって、関係者はすごく喜んだ。1948年のロンドンオリンピックの時に掲げられたのは、その時残った五輪旗です。

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ロンドンオリンピック決勝 アメリカ女子代表戦(後半)

2012/08/12(日)

賀川:後半はじめも日本が攻めた。アメリカも攻め返して見ている第三者にはとても面白い展開になった。

――こういうときが日本側には危険でもある

賀川:日本サッカーの攻撃は短いパスをつないでゆく。だから攻めるのに人数をかける。攻め込んでボールを失ったときが危険になる。

――アメリカの2点目はそれだった

賀川:澤から左の川澄にボールが出て、川澄がキープし、追い越した鮫島が左サイドのかなり深いところ(ゴールラインから10メートル)から左足クロスを送った。それを相手DFがヘディングで防ぎ、落下点での奪い合いの末、アメリカ側がボールを取った。

――ワンバックでしたね

賀川:攻撃参加に前進していた熊谷の前でワンバックが高いバウンドをヘディングで奪った。このボールを中央のモーガンがワントラップの後、左に開いていたラピノーに渡した。
(1)左サイドでボールを受けたラピノーは、ドリブルでハーフウェイラインを越え、右へ走り上がってきたロイドにパス。
(2)センターサークルあたりで受けたロイドはそこからドリブルする。
(3)モーガンが左へ走り抜け、ワンバックが右に開いたために生まれた中央のスペースへロイドはドリブルで進んだ。
(4)彼女を阪口が迎え撃つ形になったが
(5)ロイドは右斜め前へドリブルして、ペナルティエリア近くで右足シュートした。ボールはライナーで左ポストをかすめてネットに飛び込んだ。
(6)ロイドのスピードに阪口はついてゆけず
(7)近賀や熊谷はモーガン、ワンバックを警戒してロイドに詰めなかったため
(8)ロイドはさながら無人の地を走るごとくで、その勢いを乗せてのシュートだったから福元にも絶望的だった。
(9)それにしても自分のペナルティエリアから発進し、センターサークルあたりでボールを受けてからの30メートルの高速ドリブルとシュートを成功させたロイドの強さには脱帽のほかはない。

――こういう個人技を見て、日本選手と比べると、改めてサッカーの世界で戦う大変さを知ることになります。

賀川:このことは何十年も前から誰もが理解しているはずです。サッカーは体力や技術だけでなく、智力やチームワークの戦いでもあります。だから1930年の極東大会や、1936年のベルリン・オリンピックを足場に日本流サッカーを積み上げてきたのです。なでしこジャパンもその流れにあって、このアメリカ戦はいわば本領発揮の大一番なのですよ。

もちろん局地での1対1のボールの奪い合いに勝とうという気迫がなくてはなりません。特に攻撃のときはボールを持っている方が、有利だと思わないと現代の発達した守りを崩してゴールすることはできません。

――なでしこもその強い気持ちで10分後に1ゴールを返しました。

賀川:まさになでしこという見事な攻撃からのゴールだった。

――福元からのゴールキックから始まり、DF間のパスから左サイドに渡り、大野が仲にドリブルして右へ大きく振って近賀に渡すところから攻めの仕掛けらしくなった

賀川:(1)ゴールから35メートルあたり右タッチ近くの近賀は
(2)田中(59分に阪口と交代)にパスし、自分は前進
(3)田中は右外に開いていた宮間にパス
(4)宮間は飛び出した近賀をおとりにして大野とパス交換
(5)その大野の飛び出しにあわせて、ぴたりとパスを届けた
(6)ペナルティエリア内、右寄りでパスを受けた大野はエリア内斜め後方、中央に入ってきた澤にパス
(7)澤のダイレクトシュートはDFの足に当たり
(8)そのリバウンドを澤がスライディングで取りにゆき、相手ともつれてゴール前にボールが転がるのを大儀見が決めた
(9)こういうボールが来るところにいるのがストライカー大儀見の感覚ですね。

――大野の飛び出し、そこへの宮間からのスルーパスは白眉でした

賀川:まるでシャビのようだった。その前の右サイドでの縦横のボールと日本選手の相手の動きに惑わされて大野の飛び出したスペースもパスコースも空けてしまった。澤がエリア内に入っているのにノーマークだったからね。

――1-2になって期待も高まった

賀川:ゴールはなかなかだった。岩渕や丸山の投入も追加点を生むまでにはゆかない。

――相手のカウンターもあり、ピンチも増えた

賀川:CKやFKのチャンスも防がれた。ひとつ象徴的だったのは左CKで宮間のシュートコーナー、川澄へのパスを奪われたこと。

――狙われていた?

賀川:それもあるが、U-23も含めてインサイドキックの強さの問題、あるいは使用頻度の問題があるかもしれない。まあ育成部門のこともあるから別の機会に、としておきましょう。

――72分の右FKは宮間の蹴ったボールのリバウンドを熊谷がシュートするチャンスがあった。

賀川:難しいリバウンドによく合わせたが、DFに当たって防がれてしまった。

――日本の武器のひとつだったFKやCKも追加点には結びつかなかった。

賀川:宮間のプレースキックは女子の世界では第一級で、そのコントロールの良さは申し分ないが、相手がアメリカほどになってくると、そう簡単にミスの誘発というわけにはゆかない。となると、空中戦の強さをもう一度考えなくてはならないでしょう。長身のプレーヤーを含めてね

――澤が完調ならヘディングもチームの大事な武器でしたが…

賀川:ここまで回復できたことは天に感謝すべきことでしょう。そういう意味ではこのメンバーでここまできたのは、やはり立派な業績ですよ。大儀見はじめ、何人かの進歩もあったが、リベンジを狙うアメリカ側の進化がが一歩先だということかな。

――なでしこジャパンの、ロンドン終戦にあたっての感慨は?

賀川:終戦ではなく、銀メダル獲得でしょう。彼女たちは1年少しの間にワール
ドカップのチャンピオンとオリンピックのランナーズアップとなった。 昨年は
ドイツ、今年は英国という本場のヨーロッパの中でも中心となる王国で、すごい
業績を残したわけです。彼女たちのおかげで、日本サッカー全体 が活気づきま
した。もちろん選手たちには未熟なところもあります。体力強化を含めての個人
技術、個人力アップも大事な仕事になるでしょう。

――なでしこのロンドン大会の総まとめは

賀川:サッカーの楽しさをオリンピックという多種目のスポーツ大会の中で私た
ちは味わうことができた。ここまで勝ち上がってくれたおかげですよ。 これま
でも多くの試合を見てきた87歳の私が新しいサッカーの魅力に気がつきました。
サッカーの基本となるキックの種類といったことに改めて思い 当ることもあり
ました。そういう私自身の内省を含めて、まずは関係者の皆さんに、

よかったね ありがとう ご苦労さま

というところです。

オリンピックはロンドン以降も続くように、このブログもまだ続けたいと思って
います。

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ロンドンオリンピック決勝 アメリカ女子代表戦(前半)

2012/08/11(土)

第30回オリンピック競技大会(ロンドン/2012)決勝
なでしこジャパン 1-2(0-1)アメリカ女子代表


◆最高の舞台での歴史に残る日米対決

――残念ながら銀メダルに終わりました。しかし、とてもいい試合でしたね。

賀川:ウェンブリー・スタジアムという壮大な舞台で、女性フットボーラーの最高の試合が演じられた。3度目のオリンピック開催地ロンドンが21世紀の世界に送ったすばらしい勝負として歴史に残るでしょう。

――両チームとも闘志あふれるプレーで、技術的にも戦術的にも高いレベルでした。

賀川:試合の流れはアメリカが左サイドの速攻からモーガンのクロスをロイドが飛び込んで先制ゴールし、後半9分にはカウンター攻撃からロイドのドリブルシュートで2点目を加えた。日本はその10分後にみごとなパス攻撃から1点を返し、なお数多くのチャンスを作ったが同点ゴールは奪えなかった。

――その7分のアメリカのゴールを振り返ってください

賀川:日本のDFから左の川澄へのパスがタッチラインを割って、アメリカの右サイドのスローインから攻撃が始まる。右から左へ横パスが通って、
(1)左DFのオハラが受けて前方のヒースへ送る
(2)日本の右DF近賀は内側にいてヒースは全くノーマークで受け、ドリブルで前進
(3)日本の4DFは横一線の守備ラインでペナルティエリア10メートル前後からヒースのドリブルを見ながら後退してゆく
(4)ヒースはペナルティエリア外3メートル、ゴールラインから10メートルあたりかで中へグラウンダーのクロスを送った
(5)そのクロスにあわせて走りこんできたのがモーガン
(6)岩清水の前に入り、左足でボールを止め、
(7)止めたボールをゴールエリアの根っこ近くから左足でクロスを蹴った
(8)ボールは日本DFの岩清水、熊谷を越えて、ファーポスト側のワンバックへ
(9)ワンバックがボレーシュートの体勢に入った時
(10)後方からロイドがダッシュし、頭から飛び込んでヘディングで決めた

――ものすごいダッシュでした

賀川:申し分ないフィニッシュで、クロスに対して第2列からの飛び込みというコースの模範例のようだったが、そのひとつ前のモーガンのトラッピングとその後のプレーが山場でもあった。パスが少し後ろに来て、左足で止めたのが大きく左へ転がった。彼女はすぐボールに追いついたが、日本のDFは岩清水をはじめ誰も間合いを詰められなかった。その一瞬の空白の時間にモーガンは左足でいいクロスを送ったのですよ。

――反転してのクロスだった

賀川:モーガンのトラップが大きくなったのは、止めそこなったのか自分でそうしたのかはわからないが、日本のDFには予想外の形になって、すぐ体がついてゆかなかったのだろう。この時私は、74年ドイツワールドカップでのゲルト・ミュラーの決勝ゴールを思い出した。彼が右からのボンホフのパスをアウトサイドで止めたとき、ボールは後方へ大きく流れた。止めそこなったらしいが、そこから彼はお家芸ともいうべき戻りながらの反転シュートを演じて勝ち越しの2点目を決めた。ボールを止めた方向がオランダDFには予想外だったから、シュートチャンスをつぶせなかった。

――想定外のトラッピングだった

賀川:そう、ミスであっても今度も先に動いたモーガンの勝ちだからね。フランス戦でのピンチのひとつにゴール前でネシブがボールを受けてシュートし、福元がファインセーブしたのがあったでしょう。ネシブはミスなく止めてシュートという動作に入っていたが、こちらのDFも体を着けて守っていたからシュートコースは限定され、福元が防いだ。

――きちんと手順よくプレーしても得点にならず、ミスまがいのプレーが得点につながる?

賀川:だからサッカーは面白いし、油断ができない。その不意の瞬間に体が動くように訓練するのだが…

――モーガンは速い上に右も左も蹴りますからね。

賀川:モーガンに言葉を費やしたが、このチャンスでの展開はアメリカの進化を示すものでしょう。そう、フィニッシュのところでもワンバックの左足ボレーシュートよりも、飛び込んできたロイドのヘディングシュートの方が防ぎにくかったといえる。

――なでしこにも川澄の左からの攻め込みとシュート、大儀見のヘディングなどもあったが…

賀川:アメリカのDFもよく守ったね。ゴールカバーに入るとか、危ないところは2人3人と複数で防いでいた。もちろんGKのソロはご存じのように優秀なゴールキーパーだから、彼女のレンジを外すか、シュート前にゆさぶるかしないと、そう簡単にはいきません。彼女たちは日本のやり方も知っていて、男子も含めての日本チームのバックパスの多いことや、横パスのスピードが遅いことも知っているようで、何本かを奪われた。

――中盤でワンバックが日本のバックパスを奪ったりするので驚きましたよ

(続く)

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日本と韓国の3位決定戦をひかえて ~ロンドンオリンピック 3位決定戦 韓国代表戦プレビュー

2012/08/10(金)

――U-23日本代表はロンドンオリンピックの3位決定戦で、隣国であり、ライバルである韓国と顔をあわせます。

賀川:アジアの二強の対決は世界も注目していますが、他ならぬサッカーの本家、英国が舞台というのもすばらしいことです。

――というと

賀川:韓国にとっては1948年のロンドンオリンピックがその代表の国際初舞台でした。日本でも有名な金容植さんも選手兼コーチで出場したのです。

18カ国参加のノックアウトシステムの大会で、韓国は8月4日にメキシコと対戦し、5-3で勝ちました。オリンピックの初勝利でした。

――今度も1次リーグで評判の高いメキシコと引分けました。

賀川:次の準々決勝(8月6日)の相手がスウェーデンだった。のちにセリエAで活躍する選手もいた強豪で、12-0で敗れた。金容植さんにとっては、1936年に自分も出場した日本対スウェーデンの逆転劇のことを考えがんばったが、前半4-0、後半8-0と大きく開いてしまった。

――スウェーデンはこの後デンマーク、ユーゴスラビアをやぶって優勝した。

賀川:大敗に終わったロンドン大会だが、初めて独立国のチームとして出場した意義は大きかった。もちろん選手たちにはとてもいい経験になった。

――敗戦国で参加できない日本より一歩早く大戦後の世界へ目を向けたのですね。

賀川:金容植さんは1960年に私が会ったとき「私は英語が得意だったから、この時サッカーの本をたくさん買って帰った」と言っていた。サッカーの神様と韓国の人たちに尊敬された金さんたちの48年ロンドン大会参加はその後の韓国サッカー進歩の基盤となったのです。

――国際デビューの48年大会から64年後の大会で3位決定戦ですね

賀川:日本サッカーにも、このロンドン大会で銅メダルを獲得するのはとても大事なことです。英国はサッカーの母国であるだけでなく、私たちの日本サッカー協会(JFA)設立にも関わっています。

JFAの創立は1921年ですが、その2年前にロンドンのFA(イングランドサッカー協会)からシルバーカップが贈られてきた。駐日英国大使館の要請に応じてFAが製作して日本に送り届けたのだが、このカップを受け取る競技団体としてJFAが1921年に誕生したのです。同時に全国優勝大会(現天皇杯)が創設され、勝者にシルバーカップが贈られることになったのです。

――なるほど、ロンドンからのカップで日本は協会が誕生し、韓国にはロンドンが国際デビューの地というわけです

賀川:そうした歴史の意味を考えつつ、両国の若者のすばらしいプレーを期待しましょう。日韓サッカーには両国の歴史も加わって、独自の雰囲気がありますが、ここはスポーツ発祥の地、スポーツでジェントルマンを作るところです。特有の戦闘的プレーは当然ですが、スポーツマンシップのある試合展開を見たいと思っています。

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ロンドンオリンピック準決勝 メキシコ代表戦(後半)

2012/08/10(金)

賀川:日本の先制ゴールが12分、相手のCKからの同点ゴールが31分、この20分間は日本のシュートは15分の山口の1本だけだった。相手の守備ラインの前でパスをつなぎ、今度は第2列の山口が前進して東からのパスをダイレクトシュートしたが、右足のスイングで正確にボールを捉えられず得点にはならなかった。

――この山口のシュートの動作について意見があるのでしょう。

賀川:それは次の機会にして、試合の流れとしては
(1)相手が深い守備ラインをとった
(2)そのため、その前のスペースで日本はボールをキープし、シュートまで持ってゆけた。

――メキシコ側はこれは困ると…

賀川:じゃ中盤でプレッシングにゆけ、となる。

――前からのプレッシングは日本の特色だったが

賀川:どの国でもやろうと思えばやりますよ。体力的に続くかどうか。仲間との連携も大切。メキシコのサッカーというより、世界のサッカーの基本は1対1のボールの取り合いから始まっている。それがプレッシングに来るわけだから…

――アジアのチームは日本にプレッシングは効くと思っている

賀川:だから韓国はいつも自信を持っている。他の国々は韓国ほど体がもたないので、いつも仕掛けるとは限らない。

――攻め込み、押し込んでCKから同点にした。メキシコはこれでゆこうと元気も出る。

賀川:後半はじめ、日本が攻めた。右サイドを崩してクロスから山口のシュート、永井のシュートがあった。

――こういう自分たちの得点機に決まらないと苦しいですね。

賀川:相手はドリブルもうまいし、パスの精度も高い、再び押し込まれる形が続いて、後半20分にメキシコが2点目を取った。

――19分にメキシコがハーフウェイライン手前から左サイドへ深いロングパスを送った。タッチ際でチャベスが頭でボールを前へ突いて、ゴールラインぎりぎりから中へ返したが、それをペラルタがダイレクトでシュートした。

賀川:ペナルティエリア左角やや内側からだった。強いシュートが飛び、権田がキャッチした。防いだが、すごく迫力ある攻撃だった。メキシコ側のゴールへの執念と走力と技術が結集されたシーンで、日本DFは置いてゆかれたね。

――そのすぐ後にゴール。

賀川:権田がボールを蹴らずに中央30メートルの扇原に投げた。キックで前に蹴ってもすぐに失うと見たのだろうが。

――実はそこが一番危険だった。

賀川:後方から来るボールを受けた扇原に右からアキノが詰め寄り、扇原がこれをかわすと、そのボールを前方から寄せたペラルタが奪った。すぐシュート体勢に入り、右足で左上隅へ決めた。ボールを奪ってシュートし終わるまでノーマークの状態だったから、ペナルティエリア中央すぐ外からのシュートを代表のストライカーが失敗するはずはなかった。

――2-0になった。扇原は自分の処理がまずかったと悔やみ、権田は狙われている彼のところへボールを送ったのが失敗だと、それぞれ試合後に自分を攻めたようだが…

賀川:一瞬の判断ミス、ボールタッチの失敗が試合を左右する、それがサッカーの恐さでもある。疲れが重なっているところへ、押し込まれ予期しないピンチがあって、権田のセーブでそれを切りぬけたあと、チーム全体に空白が来たのでしょう。そういうのは第三者の見方だが、選手たちにはとても辛い失点となった。

――逆にメキシコは、してやったりですね

賀川:日本は点を取りにゆく。メキシコは守る。

――ここから後は、メキシコがしっかり守り、カウンターで来るというわけですね。

賀川:多数防御を崩してゴールを奪うという試合は、ロンドンの本番ではなかった形勢です。

――東に代えて、長身の杉本を投入し、その後清武に代えて宇佐美、扇原に代えて斎藤と新手を送り込んだが、ゴールを奪えなかった。

賀川:相手が守りに人数をかけたから中盤ではキープできるのにそこでもミスパスが再三出た。相手はファウルもし放題という感じになって、ボールはキープしても苦しいことになる。

――個人的に打開できる選手がいれば…

賀川:宇佐美のドリブルがこういう場面で流れを変えるほどであればいいのだが、そこまではゆかなかった。

――あと5分というところで斎藤が杉本に当ててリターンをもらい、シュートしたのがありました。

賀川:それも自分のいい形でシュートしたのではない。サッカーは恐いものでこちらに勢いがある時は小さな欠点も目につかないが、体勢がおもわしくないとこれまで目立たなかった欠陥があらわれてくる。

――アディショナルタイムがあと1分というところで、右サイドをコルテスに突破されて3点目を失った。

賀川:メキシコの2点目が試合のヤマと言えたが、そこから挽回することはできなかった。

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ロンドンオリンピック準決勝 メキシコ代表戦(前半)

2012/08/09(木)

U-23日本代表 1-3(1-1)メキシコ代表


◆まだ銅メダルのチャンスがある

――先制ゴールを奪いながら負けてしまった。金メダルをめざすという望みは消えて3位決定戦で韓国と対戦することになりました。

賀川:金や銀でなくても、まだ3位のチャンスも残っているのですよ。サッカーの母国でアジアの日本と韓国が3位を争うのは両国のためにもアジアのためにもすばらしいことでしょう。ヨーロッパの人たち、世界の人たちに東アジアにこんなに優れた二つの若いナショナルチームがあることを見せてほしいですね。

――そのためにもまず準決勝を振り返りましょう。試合は最良の教師でもあるとデットマール・クラマーさんも言っていますからね。U-23日本代表は何がよかったのか、何が不足だったのですか。

賀川:試合を流れを見ながら話を進めましょうか。心配された永井がスターティングラインナップに加わったのはよかった。回復ぶりは明らかでなかったが、90分フル出場だった。ただし、これまでの“躍動感”には遠かったと思う。

――彼の速さは攻めにも攻撃的防御にも効き目があった。それが体調不十分とは。

賀川:メキシコがはじめ5分間攻め、そのあとこちらが攻め返した。パスはつながってもスルーパスは通らない。パスそのものが悪いこともあるが、メキシコの守備ラインが後退しているので、裏のスペースが小さいこともあった。永井を警戒してのことだろうね。

――広いスペースに走られるのを嫌がった?

賀川:前半12分の大津の先制ゴールはその引いて守っている守備ラインの前で仕掛けた彼の会心のゴールでしょう。

――パスがよくつながりました。

賀川:永井に対するFKを後方に戻し、そこから再び永井に出て、東にわたって、彼から左サイドにいた大津にまわるというのが攻撃のスタートだった。
(1)大津は東にパス
(2)東~扇原~山口~扇原~徳永とつないで、左外の徳永から
(3)内側の東にパス
(4)その間に大津は東の内側、つまりゴール正面やや左のペナルティエリア外側に移動していた
(5)そして東からのパスが来て、大津はためらうことなくシュート体勢に入り右足で強く叩いた
(6)メキシコのDFはペナルティエリア前に3人いたが、近くの永井を警戒したのだろうか、あるいは大津のシュートを予測しなかったのか、誰も大津を妨害しようとしなかった。

――20メートルほどのすごいライナーがゴール右上に突き刺さりました。

賀川:大津はこのU-23代表のなかではめずらしくインステップ(足の甲)でシュートする選手ですよ。

――近頃の日本ではシュートをインステップで蹴る選手が少なくなってきたと前にも言っていましたね。

賀川:このことはロンドンが終わってから話した方がいいと思う。私たちの神戸一中で日本スタイルのサッカーの原型とも言うべきショートパス攻撃を始めたことは歴史上の定説で、そのショートパスで大切なのはサイドキックだった。それはいまも変わらないはずだが、近頃はシュートにもこれが多いということです。そんななかで、大津はインステップで叩くというシュートの基本の形を持っている選手です。

――小さなバウンドが落ちたところを見事にとらえたすごいシュートでした。

賀川:1点を奪われてもメキシコは気落ちの様子はなく、どんどん攻撃を仕掛けてきた。

――そして31分に彼らの同点ゴールが生まれた。右CKからでした。

賀川:左利きのドス・サントスが蹴ってニアポストのエンリケに合わせ、ゴール正面へ落ちてきたボールをファビアンが頭であわせた。ニアポスト側に永井、吉田、酒井と3人いたが、ボールに触れたのはエンリケ、ファビアンは徳永の前に入っていて、彼らには計算通りだっただろう。

――ドス・サントスはドリブルもうまいがこの短い助走で蹴ったやわらかいニアポスト際へのクロスを見るとキックも一流ですね。

(続く)

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ロンドンオリンピック準決勝 フランス女子代表戦(後半)

2012/08/07(火)

賀川:前半を終わってフランスのシュートは8本(日本は1本)だったのが、後半中ごろには合計20本を超えた。そのうち7割はペナルティエリアの外からだったからあまり脅威ではなかった。

――シュートはうまいはずだが

賀川:ネシブをはじめ、いいキックを持っている選手は多いが、何と言っても女性だからね。それが少しずつペナルティエリアのなかでのシュートチャンスが出てきた。

――少しヤバいと?

賀川:それでも福元のファインセーブや選手たちの体を楯にするなどして防いでいた。

――とうとう後半23分に1点を取られました。

賀川:フランスがメンバーを代え、中盤でのプレッシングを強めたことも日本が奪ってもキープやカウンターにつながらず、すぐまた押し返されるようになった。

――相手のパスがペナルティエリア内でネシブに渡ってシュートされる場面もあった。うまいトラッピングで岩清水を交わしてシュートした。ボールは右ポスト際に飛んだが、福元が左手で止めた。

賀川:大野に代えて安藤を投入した直後に、こちらの左サイドでボールを奪われ、そこからのフランス右サイドの攻めで崩された。中央右寄りでボールを受けたデリが右へドリブルし、ペナルティエリア内へパスを送り、トミがペナルティエリア右の根っこより内側で取って、中へ速いクロスを送り、ルソメル(56分にティネと交代)が強いシュートを決めた。その前にトミの長いドリブルで日本の守備網が破られたのが響いたかもしれない。日本選手たちの足は止まり、ボールをはじき返すのがやっとという状態になっていた時だった。

――その2分後にPKを取られた。

賀川:左サイドからペナルティエリアにドリブルで入ってくるルソメルを止めようとして阪口が体を止めてしまった。誰もが2-2だと思っただろうが、PKのキッカー、ブサグリアのキックは右ポストをかすめて外れてしまった。

――何か問題が?

賀川:右足のサイドキックで右ポスト近くを狙う。そのキックに入ってゆく角度としてはちょっと浅かったかな。福元の読みが外れて左へ動いているのだからポスト一杯を狙わなくてもよかったのだが、そこへ蹴るには角度が浅く、したがって足首を強く使いすぎたかもね。

――メキシコと似てきました

賀川:68年の釜本邦茂たちの銅メダルは2-0のリードの後押しまくられて後半にPKを取られた。1点をとられたらガタガタと崩れそうな時だったが、GK横山謙三がコースを読んで防いだ。キッカーの方が重圧でキックを失敗したのですよ。

――そのことをテレビの前でも

賀川:これはこちらのツキかな…と思ったよ

――その後もフランスは攻めました

賀川:ああいうことがあると、ガクンと来るものだが、フランスも頑張った。しかし勢いは少し落ちた。ここであの大儀見のドリブルシュートが決まっていれば文句なしの3-1だがね。

――まあそれではフランスに残酷すぎるかもしれません

賀川:アディショナルタイムにネシブのエリア左外からのシュートを福元がしっかりキャッチし、笛の直前にあった危険な場面も福元が防いで1点差を守った。

――サッカーの聖地ウェンブリーでの歴史に、女子のすばらしい記録と記憶を加えました

賀川:サッカーは体力や技術、頭脳とハートの戦いということを両チームが見せました。その双方の努力に対して、今回はサッカーの神様が日本に勝ちをプレゼントしてくれたのかもしれない。

――もうひとつの準決勝も大激戦でアメリカが延長で4-3でカナダを破りました。

賀川:そのアメリカと戦うために、まずは選手たちはゆっくり休んで調子を整えてほしいですね。

ヨーロッパへ来てから強敵フランスと対戦したのをはじめ、ここまでの準備のひとつひとつが生きている。それを積み重ねるために努力した関係者、バックアップしたスポンサー、選手を後押ししたサポーターたち、このチームを支えてくれたすべての人たちと自分たちのためにいい試合をしてほしい。そうすれば、神様ももう一度微笑んでくださるかも知れません。

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ロンドンオリンピック準決勝 フランス女子代表戦(前半)

2012/08/07(火)

なでしこジャパン 2-1(前半1-0)フランス女子代表


◆フランスの猛攻に耐えたなでしこサッカー

――準決勝を突破しました。ブラジルに続いてフランスも破りました。2位以内、メダルも決まりです。

賀川:90分で相手のシュートは27本だがこちらは4本か5本でしょう。前半32分と後半4分にそれぞれFKからゴールを奪って2-0としたけれど、ゲーム全体ではフランスの攻勢、日本の守勢でピンチの連続という場面もあった。しかも後半28分には1点返された。

――ブラジル戦以上の大苦戦だった

賀川:33分にはPKを取られる大ピンチがあって、ここで同点と誰もが覚悟しただろうが、シュートは右ポストをかすめて外へ出た。この後もフランスの猛攻が続いたが、耐えきった。ペナルティエリアの外からのシュートの多いフランスだったが、エリア内への侵入も多くて追加点を取られないのが不思議なくらいだった。

――ハラハラ、ドキドキの連続

賀川:ピンチのひとつひとつのプレー、シュートコースへの入り方、ジャンプヘッドされても体をくっつけて、自由にはさせなかったこと、GKの福元が落ち着いていたこと、など守りのすばらしさは、そのひとつひとつを書き残しておきたいほどですよ。

――その守りも、いつも賀川さんが言うように先に点を取っていたからこそ持ちこたえれた。しかも2ゴールをね。その話からゆきましょうか。

賀川:アディショナルタイムの4分の最後のところでもゴール前に落下したボールを相手の長身のルナールが右足のアウトで蹴ったシュートがあった。それを福元が止めたのだが、これでも少し集中力が鈍っていたら同点ゴールになったかもしれない。そういう影の功労がとても重要なことをまず強調しておいて、ゴールシーンを見てみよう。

◆宮間あやのFKの精度とそのアイデア

――2ゴールともFKからで宮間のキックがすばらしかった

賀川:日本が一番警戒していた187センチのCDFルナールのファウルによるFKだった。彼女はその前にもタックルの際に大野の足を自分のソール(シューズの裏)で押さえてイエローをもらっている。この時は大儀見へのキッキングの販促だった。

――距離は40メートルくらい、ハーフウェイラインより少し相手側、ほぼ中央少し右寄りの地点だった。

賀川:この大会で宮間は流れの中ではパスをよく失敗していた。前にも話したかな、大儀見の進化で中央へボールを出しやすくなったこともあるのだが、もう少しサイドを使った方がよい場面でも中へ出してとられることが多かった。しかしプレースキックに関してはCKもFKもやはりスペシャリストらしく、正確な右、左だった。この時も彼女の右足のキックがチャンスを生んだ。

――キックの地点からゴールまではかなり距離があった

賀川:(1)相手のDF陣はロングボールが来ると見て
(2)熊谷と阪口、大儀見の3人が白ユニフォームの相手4人の中に入っていた。熊谷をルナールが背後からマークしていた。
(3)キックは相当なスピードでゴールエリアへ飛び、
(4)そこへゴールキーパーが飛び出してジャンプキャッチした、と思ったら両手でつかめずファンブルした。
(5)ボールはゴール前3メートルに落ちた。そこに大儀見がいて、左足でボールに触れた。相手は2人いたが、誰もこれを止められなかった。

――ファンブルしたのが命取り

賀川:まずそうでしょうね。しかしボールが速かったのと、ルナールが目の前にいたのにゴールキーパーは気が取られたかもしれない。すごいのは大儀見ですよ。彼女は宮間のキックの前は、日本の3人では一番左にいたのだが、キックの直前に右へ出ようとした。スローで見るとルナールに突き飛ばされた熊谷がよろめいて大儀見と当たりそうになり、それを大儀見が左手で押し返し、その反動で右へ走った。だからボールが落下した時、人ごみのなかから一番早く到達し左足にあった。

――なるほど

賀川:こういうところがストライカーのカンだろうね。昨年から今年へのなでしこで一番進歩が目立つ彼女の一面をこの場面はよくあらわしていますよ。

――宮間はそこまでイメージした?

賀川:彼女に聞いてみたいが、ゴール正面には187センチのルナールと手を使えるゴールキーパーがいることはわかっていても、あえてそこへボールを送り込む。飛び出してくるゴールキーパーは、前から飛び込んでくる日本側と戻ってくるフランスDFたちと交錯する形になる場面も起こる。そんなイメージがあったと思う。そして、その通りのボールを蹴った。

――熊谷、阪口、大儀見の3人も同じことを考えていた?

賀川:驚いたのはボールがゴールに入った時には、左側に澤も走り込んでいたことですよ。すごい感覚です。

――日本の守り重視のやり方をブラジル代表の監督さんは批判していたようだが、こういう正確なキックやイメージの共有するチームということも知っておいてほしいですね。

賀川:フランス代表の監督さんも、体力でも速さでも突進力でもシュート力でも上の自分たちがなでしこに負けるとは考えていなかったでしょう。オリンピックという多種目の競技大会を見て、それぞれのスポーツの特徴を見ればサッカーのチーム競技のおもしろさがよくわかり、このスポーツが世界で最も盛んになったことも理解できるでしょう。このFKもまさにその技術と瞬間の判断という、人間の持つ特性が見れるのですからね。

――2点目は後半の4分でした。前半はじめにフランスは前からのプレッシングに来ないで、割合深い守りで慎重な構えでした。失点してから攻勢に出たのですが、後半はじめもちょっと慎重に見えましたね。

賀川:日本代表はなでしこも男子のフル代表も前からプレッシングをガンガンやられると案外弱いところがある。韓国はそのことをよく知っているのだが…

――プレスが弱いとパスが回り、日本が攻め込み、宮間のシュートもありました

賀川:相手をかわして左足シュートしたが、高く上がった。前へ踏み出せず、体重がうしろにかかって、しっかり叩けなかったのだが、その後のFKになるとこれも素晴らしいボールを蹴った。

――大儀見へのファウルのFKで、今度は前の位置より少し右寄りでゴールから40メートルくらいのところだった。

賀川:ペナルティエリアの外、ペナルティーアークあたりに相手の守備線があった。今度もその裏を狙ったが、コースは少し変えて右へ流れてボールを蹴った。
(1)例によって相手の白ユニフォームの前に熊谷、阪口、大儀見、澤の4人がいて
(2)キックの時に大儀見が右へ走り、阪口と澤が左へ開いた
(3)相手の4人は中央の熊谷をルナールともう一人がマーク、大儀見に一人がついた
(4)左側に一人いたがそのニアサイドに阪口が入ってヘディングした
(5)自分の後方へ落下してくるボールのヘディングだからやさしくはないが、強いヘディングシュートがゴール右ポスト内側へ入った。

――ビューティフルゴールでした。

賀川:修羅場のピンチの局面とは違って、ゴール場面の再現は技術の組合せに見えるが、阪口の身体や首の強さがこのヘディングの大きなポイントでもあることを強調するとともに、その阪口のところへ祝福に集まってくる大儀見たちの笑顔を見ると、彼女らがチームとしての動きでFKを得点にしていったという実感がテレビを通しても伝わってきますよ。

――この後のフランスの攻撃はまことにすごかった

(続く)

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ロンドンオリンピック エジプト代表戦

2012/08/06(月)
U-23日本代表 3-0(1-0) U-23エジプト代表

◆スペインでもエジプトでも同じ挑戦者として戦いベスト4に

――永井がすばらしいゴールを決めて1-0とリード。その彼が足を痛めて去るといういう波乱のスタートとなったが、3-0でエジプトを破ってベスト4へ進みました。

賀川:なでしこのブラジル戦とはまた違った難しい試合でもあったが、日本は自分たちのプレーを続けて勝ちました。退場者が出て10人となったエジプトがあきらめずに後半も攻めたので、緊張感のあるいい試合でしたよ。私には、というより日本のサポーターには永井の負傷が気がかりです。

――ゴールは清武が相手ボールを奪ってすぐに出した見事なパスからでした。

賀川:前半14分だった。清武と永井の呼吸は見事に合っていて、飛び出したゴールキーパーの前で永井がワンバウンドのボールを胸に当てて前へ走り抜け、右へ流れて無人のゴールへボールを流し込んだ。その時飛び出したゴールキーパーと永井を追ったDFが衝突して2人は倒れたままだった。永井もシュートした直後に戻ってきた大型の選手に後ろからぶつかられて倒れた。起きてゴールを喜んでからまた倒れた。太ももに相手の足が当たった打撲という話だったが、相手の大きさや重量を考えると心配ですよ。ここのところ、体が強くなってきた永井であってもね。

――エジプトは相当激しいプレーも多かった。それが10人になる原因になったかも。

賀川:この1点目の清武のボール奪取にあるとおり、U-23は相手がスペインでもモロッコでもエジプトでも、まず守備をしっかりする。FWは相手DFのボールを奪いに行くというやり方を続けてきた。オーバーエイジの吉田と徳永が入って守りの安定を図った監督は、それまでの実績をもとに体の強い戦えるプレーヤーを選び、オリンピック本番では前から相手ボールを奪取に行く攻撃的守備を徹底した。

――初戦のスペイン戦でそれが成功した。

賀川:相手が変わってもこのやり方を変えずに続けたから、全員にそれが浸透した。

――前から奪いに行く労力には感心しますね。清武のようなテクニシャンタイプはこういうことは好きでないものもいるが…

賀川:ドリブルやパスのうまい彼が奪うことにも面白みや工夫のあることを知った。とすれば、本人にも大きなプラスですよ。現代のサッカーは攻撃も守備もできるのがトップクラスのプレーヤーの条件です。

――少し前はセレッソの森島寛晃が目立っていました。

賀川:ヨーロッパでは80年代からそういう傾向が出ていた。マルコ・ファンバステンがACミランにいたときに話を聞いたら「ライカールトはすごい。攻めも守りもできるから」と言っていた。当時のストライカー第1人者のファンバステンがそういうのですよ。またフランス代表のアラン・ジレスも「相手のボールを奪う能力のあるジャン・ティガナを同じMFとして尊敬している」と言っていましたよ。

――ボールを奪うという地味な仕事を重要だと華やかなプレイメーカーやストライカーたちも80年代から感じていた。

賀川:これはいまのサッカーの常識だが、このためには体力が必要となる。また逆の見方をすれば、取った後、取り返しにくる相手をかわす技術もすぐに相手にパスする技術も、ドリブルもより高いものを身につけなければならなくなっている。

――柔道でも返し技、そのまた返し技がこの大会で目立ちました。

賀川:だから視野の広いキックの正確なプレイメーカーである清武が奪えるようになれば、一気に攻めに転じてゴールを生むことになる。

――その前からのプレッシングでも足の速い永井の存在はとても大きい。ボールを持つ相手に寄せる速さがすごいからディフェンダーやゴールキーパーでも処理にもたつくと危険になる。

賀川:彼がいるといないとでは攻守に大きく影響するがこの日は永井の後に斉藤を投入し、やはりプレッシングを続けた。その斉藤の裏への走り込みから相手のファウルがあり退場者が出た。前半41分だった。

――清武が奪って高く上がったボールをダイレクトで東に渡す。東はこれをすぐにDFラインの裏へ流し込んだ。奪ってから2人ともワンタッチのパスだった。このボールを斉藤がペナルティエリアで取る直前にエジプトのサードが斉藤を背後から押し倒した。

賀川:後半10人で戦ったエジプトは攻めようとしたが、シュートは1本だけ。数の上でも優位に立っている日本だが、あくまで慎重。東に代えて酒井高徳、清武に代えて宇佐美も投入して次に備えるところも挑戦の姿勢を崩さないU-23らしい試合ぶりだった。

――男女ともに次はウェンブリーです。

賀川:U-23はすでにグラスゴーのハムデンパークやニューカッスルのセントジェームスパークといったスコットランドサッカーの故郷やイングランド東北の要所、そして中部のコベントリーで戦い、4試合目で世界的人気クラブで香川真司の新しいホームの芝を踏んだ。移動続きで大変だがその中で無失点の記録を続け、ベスト4までやってきた。いわば日本サッカーの先輩たちの多くが夢見た総本家での巡礼を成功させた最高の果報者の集団といえる。彼らがその喜びをさらに大きくするためにまず聖地での1勝を記録してほしい。さすれば、次の扉は自ら開くことになる。

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ロンドンオリンピック ブラジル女子代表戦

2012/08/05(日)

なでしこジャパン 2-0(1-0)ブラジル女子代表


◆強いブラジルに対してなでしこの本領発揮

――すごい試合でしたが、なでしこらしく粘って耐えて、無失点、技ありの攻撃で2得点しました。超しんどい試合だったが、みごとな勝利ですね。

賀川:なでしこの本領発揮でした。日本が最初に左から攻めて大儀見がボーれ―シュートした。速いプレッシングからの攻撃で、今日は調子が良さそうだと思ったら、このあと20分くらい押されっぱなしになった。

――ブラジル選手は動きは速く、パスも正確でどんどん前へ出てきた。

賀川:現地からの報道で、「相手は12人いるのか思った」という日本側の話があったが、まさにその感じ。ボクも、ブラジルはこんないいチームになっていたのかと思った。

――これはアカンと?

賀川:まあこちらは中学生のころから見た目に圧倒されながら勝った試合を何度も経験している。記者になってからも、日本代表が強いときもそうでなかったときも、苦戦、大苦戦の中での勝利を見て来ているから、アカンとは思わず、ほらほら正念場が来た…という感じだった。なでしこは、この前半はじめの守勢を防ぎきったことで、勝利への道を開いた。

――早いうちに左サイドからのアーリークロスにファーポスト際でクリスチアネがジャンプヘッドした。ボールは外へ外れたが、最初のヒヤリでした。

賀川:その後4分にFKがあって、マルタとフランシエレがボールの近くに立った。マルタがボールをまたいで、フランシエレが右足でシュートした。壁の中に入っていた黄色ユニフォーム3人が空けたスペースを通ってゴールへ飛んだ。GK福元の正面だったが、当然のことだがFKにもいくつかの「テ」を持っていて、しっかりやれるのだなと思ったね。ただし、ボクはマルタの左シュートをまず見たかったのだが…

――14分に大ピンチがあった。やはり左からの高いクロスでなでしこはDFも福元も取れずに落下したボールをレナタ・コスタがシュートした。

賀川:彼女ともう一人の長身選手が落下点のゴール正面に入っていた。日本側は人数はいた。競り合ったがヘディングできず落下したボールが相手の体に当たって後方へバウンドした。それをレナタ・コスタがボレーで蹴った。ピンチではあったが、このシュートは難しいもので、入らなくて当たり前だった。

――というのは

賀川:あのリバウンドボールをシュートするにはボールが自分のいい高さに落ちてくるまで待つことになるが、たいていは待ちきれないで蹴る。するとボールの下から力を加えるので、バーを越えてしまう。

――なるほど

賀川:ブラジル代表(男の方ですよ)のジーニョが日本戦で同じような局面でのボレーを決めたのを思い出した。今回のよりは余裕はあったが、自分のいい形になるまで、それもほんの一呼吸か半呼吸を待ってシュートした。(1995年アンブロカップ@リバプール)

――まだ女子はそこまでいっていないと

賀川:いや、マルタがあの場にいたらどうだったかね

――そのマルタがこの20分間にあまりめざましい働きではなかったように見えた

賀川:日本の2人のDFが彼女とクリスチアネをしっかり防いだ。澤も彼女たちを意識してよくつぶした。倒してファウルをもらったこともあった。ひとつには相手の勢いにこちらが押し込まれる形になり、狭い地域での攻防となった。そのためマルタのスピードあるドリブルを活かせるスペースがなくなっていた。

守勢のなかから、ときおり反撃に出たことも守りを助けた。得点できなくてもこちらがキープして攻め込む時間帯があれば、DFは一息つけるし、相手マークの確認もできる。

なでしこの攻撃のプレーヤーは守備もよくがんばったが、持ち前のパスワークや突進で、守り全体に息をつかせた。そうそう、10分に近賀が飛び出して、澤からのパスを追ってペナルティエリアまで走り込んだ。相手2人に防がれたが、相手をヒヤッとさせたはずですよ。

――そういえば、この動きあたりからブラジルの“圧倒”の感じが小さくなった。

賀川:25分にフォルミガのミドルシュートがあった。右足アウトサイドにかかってスライスするいいシュートだったが、福元にはキックの瞬間から見えていたから落ち着いて防いだ。

そのころに左サイドでスローインを3度続けて攻め上がったのも“なでしこ”は賢明だね。体はこれだけ忙しくても、頭もちゃんと働いていると安心したよ。

――スローインはオフサイドがないから、相手の一番嫌な、賀川さんの言うペナルティエリアの根っこまでいきやすいわけですね。

賀川:ハーフウェイライン近くで川澄とマルタが奪い合って丸谷ハンドがあった。彼女は自分から下がってボールをもらいに来たり、中盤でボールの競り合いに加わったりするようになった。だいぶイライラしているのだろうと思っていた。

――このFKを宮間が蹴って大儀見がGKの前でヘッドした。すぐ後に川澄のシュートもあった。

◆大儀見のスタートと丁寧なシュート

賀川:流れが日本側へ来始めたかなという時に、左タッチ際で川澄が倒されてFKとなった。ハーフウェイラインより2メートルくらい相手側、左よりの地点でころがってきたボールを澤が手で押さえ、FKをすばやく前へ送った。

ファウル地点はタッチライン際だったから、ボールのプレース地点はだいぶずれていたが、この早いリスタートが効いた。ボールは15メートル前方の大野を過ぎて、前方へ。それを左に開いていた大儀見が追った。

2人のCDFのラインをすり抜けたボールを大儀見が取ったのはペナルティエリアぎりぎり。追うDFとは2メートル以上開いていて全くノーマークで大儀見は右足でシュート。前進してきたGKアンドレイアの右を抜いた。

――スローで見ると澤が蹴るときには大儀見はスタートしていましたね。左タッチ近く、大野よりは後方だったから、オフサイドは全く問題なしだった。

賀川:まさに「あうん」の呼吸だが、澤のFKの位置がファウルされた地点とは少し離れていた。テレビのカメラはそれが気になったのだろう。最初の画面では澤のキックのすぐあとにレフェリーのアップになった。レフェリーは何か叫んでいるようだったが、笛を吹かなかったので、すぐ大儀見がボールを取ったところに切り替わった。おそらく本場のカメラは澤のキック位置からピンと来て、レフェリーをまず映したのだろうね。ボクは相手の意表をついて早くFKを蹴った澤と大儀見の呼吸になでしこの「チームワークのプロ」を見たが、カメラマンもプロだと思ったね。

――そうでしたか。

賀川:レフェリーのヘイキネンさん(フィンランド)はおそらく流れを止めたくないから、プレイオンとかとか何とか言ったのだろうが、杓子定規な人だったら蹴る前に位置が違うというかも知れない。澤の持つ運の強さかもしれませんね。

――大儀見も丁寧なシュートでした。

賀川:この27分のゴールで勝負は大きくなでしこに傾いた。私は今年のブラジル女子チーム闘争心の強いのに感心した。技術の高いこと、体もよく鍛えていること、さすがは王国、女子もどんどんレベルアップすると感じた。ただし、こういう状況になると、彼女たちの「負けん気」は逆にイライラという形になりやすい。

――なでしこの面々はそういう試合中の相手の心理も読めるのですかね。

賀川:彼女たちはその点、百戦錬磨ですよ。

――昨年から技や体力の進化がなくても調子が回復すれば、と言っていたのはそういう総合力あってのことですか

賀川:もっとも第三者の思惑に関係なく、この後もブラジルは同点にしようと強い意欲でプレーする。

――30分にクリスチアネが鮫島へアフタータックルしたのも、その闘志からくるイライラのあらわれですね

賀川:宮間の珍しいファウルで得たFKをマルタが蹴った左足のいいシュートだが、バーを越えた。彼女は右CKをニアに蹴ってゴールラインを割ったこともあった。前半の終了直前には左サイドの深いところでボールを取り、岩清水と向かい合ったが突破しようとせず、クロスを蹴った。おそらく近賀が後方から助勢に来たこともあるのだろうし、岩清水の手強さを知ったこともあるだろう。

――疲れていた?

賀川:そう、それもあったでしょう。1-0となってからのブラジルのクロス、ハイボール攻撃、どれもゴールにならなかった。

――後半、日本も攻め、ブラジルも攻めた。マルタが阪口と競ったところで、足を上げたとしてイエローを出されて、ものすごい形相をした。

賀川:彼女にすれば、足をあげているところへ阪口が頭から突っ込んできたと言いたいのだろうがね。その後の宮間のFKがオーバーした。ゴール正面のFKをマルタがほとんど助走なしで蹴ったが右へ外れた。一番のピンチは62分の左からのライナーのクロスをクリスチアネがヘッドで合わせたシュート。15センチくらいオーバーだった。

――後半このころからしばらくまた守勢一方となった

賀川:ブラジルは全員が攻撃マインドになっていた。

◆カウンターの範 鮫島、大儀見、大野の2点目

――耐えた後にビッグチャンスがきた。

賀川:左タッチ際でボールを取った鮫島が前方の大儀見へパスを送った。大儀見が空中のボールを胸にあて、相手DFと入れ替わるというすばらしい動作で前へ抜けた。大儀見は左足でDFの上を越える長いパスを送った。すばらしい判断とボールだった。

大野がペナルティエリア内の落下点で追いつき、トラップし、中へ切り替えして追走のDFを内にかわし、左足シュートを決めた。これもまた彼女の判断とシュート技術が発揮された見事なシュートだった。

――いくら攻めても点にならないブラジルと、鮫島から始まる2本の長いパスと、大儀見、大野の対敵動作とキックの力がまことに簡単に見えるゴールにつながった。

賀川:ウェールズの首都カーディフに居座って体を休め、いいコンディションで戦うという戦略は成功したが、監督はこの後大野に代えて安藤、さらには大儀見に代えて高瀬を送りこんだ。最後まで緊迫した試合は、監督と選手たちが描いた考えと願い通りの結果となった。

――ラグビーの聖地カーディフのミレニアムスタジアムから今度はサッカーの聖地ウェンブリーですね。

賀川:このスタジアムは昔はカーディフ・アームズ・パークと言い、99年の大改装で新しいミレニアムスタジアムとなったが、1896年に初めてイングランド代表とウェールズ代表の試合が行われたところ。サッカーの歴史でいえば、最も古い「国際試合」の会場でもあるのですよ。その地に女子サッカーの新しく強くなった日本とブラジルが、最高の試合を展開して、3つの世紀にまたがるスタジアムの歴史に新しい1ページを加えたことは、フットボール史のなかに残ることになるはずです。

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ロンドンオリンピック ホンジュラス代表戦

2012/08/04(土)

U-23日本代表 0-0(0-0)ホンジュラス代表


◆控えに経験を積ませつつグループ1位を確保

――日本は5人を入れ替え、杉本健勇をワントップに宇佐美貴史、大津祐樹、齋藤学を第2列に、ボランチは山口螢と山村和也にした。DFは中央はこれまで通りの吉田麻也と鈴木大輔、右は村松大輔、左は酒井高徳でGKはいつもの権田修一。

賀川:なでしこの第3戦と同じようにすでに準々決勝への進出は決まっている。ここで控えのメンバーにプレーのチャンスを作るというのは定石でしょう。ただしD組の1位で準々決勝に進みたい。それには失点しないことで、中央の守り2人とゴールキーパーはちょっと休ませるわけにはいかない。

――D組2位ならC組1位のブラジルと当たりますからね。

賀川:メンバー構成に監督さんは苦心したことでしょう。チーム全体は強敵相手に2勝して士気が高まっているだろうからね。その空気を壊したくない思いもあるだろうし、。

――前半39分に大ピンチがありました。

賀川:(1)ホンジュラスのMFマルチネスが日本側の10メートルあたり中央右寄りからフワリとロブのボールを送り
(2)ボールはペナルティエリア内に落下してきた。
(3)トップのベントソンが左から斜めに走り込んで鈴木と吉田の間で胸トラップからシュート
(4)ボールは吉田の足のしたを抜けてゴールへ向かった
(5)権田がセーブ
(6)ゴール前に転がるボールにロサノが村松ともつれながら突っ込んできた
(7)権田が飛びついてしっかり抱え込んでピンチを切り抜けた

――ひやりとしました

賀川:シンプルなロビング攻撃だが、走り込むベントソンとの呼吸が合っていた。ひとつにはマルチネスに渡るまでに右サイドから横パスを2本つないで、こちらのDFラインの足を止めたこともあった。その間に誰もプレスに行かなかった。

――まあ前半はうまくゆかなかった。それでも時間とともによくなりましたが

賀川:宇佐美は大会前のメキシコ戦の前半以来だが、体の強い相手に対してやはりうまいと思わせる場面もあった。ホンジュラスの選手はモロッコほど大きくはないが、速くてボール扱いの上手な選手もいる。接触プレーにもふるまずに来るし、ファウルのやり方もなかなかのもの。そういう相手とのボールの奪い合いは宇佐美にはプラスになったはずですよ。もちろん不満なところもあるけれど、彼のキック力を見られたし、よかったと思う。

――後半に入ると日本側の動きがよくなり、相手の運動量が少し少なくなった。清武を杉本に代え、あと10分のところで、齋藤に代えて永井を送り込んだ。監督は点がほしかったのか。それとも2人の呼吸を確かめてみたかったのか。

賀川:短い時間でも試したいことがあったのだろう。永井は途中から入っても自信に満ち、堂々として見えた。清武からの長いパスをもらって左から侵入してシュートして、GKに防がれた。ボールを受けるのもシュートに入る動作もすっかり板についたという感じだった。

――30分以降だけで5本のシュートがあったが、ゴールできなかった。いいシュートもあったのだが。

賀川:シュートに関しては、ちょっと考えてみたいことが歩けれど、別の機会にしましょう。それよりも英国のピッチでU-23もなでしこもパスのボールが弱くて途中で奪われることが多いのが気になる。中盤での横パスやバックパスを取られてピンチを招いたこともあった。芝生のせいもあるが、大事な場面でボールを失うのはピンチのもとだから準々決勝に入る前に改善しなければならないでしょう。

――控えの実戦もあった。レギュラーも少しは休めた。それでグループ1位になったのだから申し分ない展開です。エジプトとの試合はどうでしょう。

賀川:エジプトはアフリカで最も古くからのサッカー国。オリンピックにも1920年のアントワープ大会に初参加している。当時ではヨーロッパ以外からの唯一の参加だった。1回戦でイタリアに1−2で負けている。メダルを取ったことはないが、私には東京オリンピックに出場し、4位になったことがアラブ連合という当時の国名とともに記憶に残っている。

この大会では、Cグループのブラジル戦(2−3)、ニュージーランド戦(1−1)、ベラルーシ戦(3−1)の成績が示す通り得点力のある強チーム。

――日本はまず守備でがんばらないと

賀川:そうなるだろうが、そのためにも前線からの積極守備が大切でしょう。試合を重ねるごとに厚みの増したU-23の総力戦で、まず第1関門を突破するでしょう。

――会場はマンチェスター・ユナイテッドのオールド・トラフォード。香川真司の新しいホームグラウンドというのも不思議な縁ですね。

賀川:そう。マンチェスターの目の肥えたファンの前で、シンジの母国としていい戦いをしてほしい。シンジを高く評価するユナイテッドのファーガソン監督は、彼の技術とともに頭の良さと労を惜しまないことを強調しています。U-23のシンジに負けない躍動でアフリカの古豪をおさえてほしいものです。

次はウェンブリーだからね。

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ロンドンオリンピック 南アフリカ女子代表戦

2012/08/02(木)

なでしこジャパン 0-0(0-0)南アフリカ女子代表

◆控えに経験を積ませ主力は休養

――F組の最終試合は引分けでした

賀川:いろいろな話があったがともかく、1勝2分、勝点5、得失点差2でスウェーデンに次いでF組2位になった。

――F組3位は1勝1分1敗のカナダ、4位は南アフリカになりました。日本は2位でよかったのですか

賀川:この試合に控え選手を送って経験を積ませたこと。レギュラー組に休みが取れたこと。そして会場の移動がないことなど、最良の結果と言えるでしょう。

――GKに海堀あゆみ、DFがいつもの近賀、岩清水、熊谷に左は鮫島ではなく、矢野喬子が出場。MFは宮間と田中明日菜、そして高瀬愛美と岩渕真奈。田中と岩渕はすでに出場はしているが、ツートップに安藤梢と丸山桂里奈を持ってきた。丸山は故障後はじめての登場で、安藤は誰もが知っているベテランだが、この大会でスターティングラインナップははじめてだった。

賀川:控えのメンバーに大会の雰囲気やピッチの状態をプレーさせて肌で知ってもらうのは大切なこと。また試合の感覚をつかむためでもある。もちろん監督が実戦の場での彼女たちの調子を把握できたのは大きなことでしょう。

――賀川さんの目には?

賀川:丸山が相手ペナルティエリアのゴールライン付近でうまいターンをを見せた時には会場で歓声があがったでしょう。昨年のドイツ戦の得点者の回復も監督の目にはまずまずと映ったはずです。それぞれのプレーに特徴が出ていたから、彼女たちのファンも安心したのじゃないかな。僅かな時間しか出場のチャンスがなかった安藤が長い時間ピッチに立ったのは彼女のためにもチーム全体にもよかった。

――ノックアウト戦に入って、いよいよ総力戦ですからね。

賀川:これからの試合は、90分で終わらない場合もある。延長もあればPK戦もある。体力を消耗するだけでなくケガやカードのこともあって、18人の総力戦となる。98年ワールドカップで開催国フランスが優勝した時も、1次リーグ2勝で16強への進出が決まった時にフランスは第3戦でがらりとメンバーを替えた。このデンマーク戦にも勝ったがエミール・ジャケ監督は1次リーグ終了時で登録22人のうちGKの控え以外の20人すべてに出場経験を積ませた。

※賀川サッカーライブラリー
フランスが3戦3勝20人が大会の経験積む

◆移動なしで試合できるF組2位の魅力

賀川:優勝チームにはそういう周到さも必要な時代になっている。この第3戦はまた、各グループの順位が決定し、それによって準々決勝の組み合わせが決まる日でもある。

――順位が決まるのは、同じ組のもうひとつの試合の結果にもよりますね。

賀川:そう。監督さんはおそらく、まずF組2位になろうと考えたはずだ。

――というのは

賀川:F組2位は準々決勝(8月3日)でE組2位とカーディフで対戦する。

――同じ試合会場ですね

賀川:F組1位なら遠いグラスゴーまで動く。相手はG組2位でおそらくフランスです。フランスには大会前に手合わせして負けている。私はフランスにも欠点があって、アメリカほど強いとは思わないが、グラスゴーへの移動はずいぶん時間がかかる。それよりも居座った方がはるかに体は休まる。もしここで勝つと次の試合はロンドンで、カーディフからの移動もグラスゴーからよりはずっといい。

――まず会場の問題からですね。E組の順位は同じ日の英国-ふら汁戦で決まる。日本の試合が終わる時にはまだ決まっていない。

賀川:開催国イギリスと当たる場合もあるが、そうした相手のことよりまず自分たちがいいコンディションで試合できる方を優先したのでしょう。Fの2位になると言ってもスウェーデンとカナダの試合の結果はどうなるのか、カナダがもしスウェーデンに勝てば2勝1敗、日本が南アフリカに負ければ3位になってしまう。だから引分けがいいとなる。引分けと思っても何かのはずみで南アフリカのロングシュートが決まったりすることもある。だからそれをいつ決めて、いつ選手に伝えるかが難しいところでした。

――サッカーは何が起こるかわかりませんからね。

◆監督の苦心の判断

賀川:テレビを見ていたら後半5分ぐらいにチームは監督の近くに集まっているとアナウンサーが伝えた。その後ですぐ2-1だったスウェーデン-カナダが2-2となった。試合が再開されると、日本をボールをキープするだけで攻め込まなくなった。佐々木監督が0-0の引分けを指示したのだなと思いました。

――川澄が投入され、阪口が宮間と代わった。それぞれ点を取らないようにという意向を伝えたのだろうと想像しました

賀川:さあ、決定的なことでなく、ニュアンスを伝えたかもね。

――となると前半に得点がなかったのがよかったことになりますね

賀川:まあ、こういう試合の難しさはそこにありますね。監督にとっては本来の勝負でなく、引分けて2位にするという難しいテーマをともかくも成功したのはなかなかの仕事ですよ。

――メキシコ五輪の釜本さんたちの銅メダルも1次リーグは1勝のあと2引分でした。第2戦でブラジルはリードされたのを、準々決勝の相手が開催国のメキシコよりフランスを選んだ。幸いなことにその順位は前日に決まっていた。それでも当日のもうひとつの同じ組のブラジル-ナイジェリアの得点をにらみながら、まず無失点の引分けを考え、後半25分に引分けにしようと長沼監督は決断し、交代に送った湯口を通して「引分けに持ち込む」ことを全員に伝えたのだった。そしてフランスに快勝した後、ずーっとアステカに居座って試合できる条件に恵まれた。

――日本のシュートがポストを叩いて、長沼監督がヒヤリとしたという話も残っています。

賀川:湯口の指示が必ずしも全員に理解できなかったらしい。

――つまり引分け狙いと簡単に言ってもやさしいものではないということ

賀川:メダルへ勝ち上がっていくためにあらゆる条件を考え、最良の道をとるのが監督、コーチの仕事だが、こういう大会では、その時々に苦心するものですよ。

――もちろんテレビで深夜に見る人たちはゴールを奪うシーンを見たいし、その放送を計画した関係者ならなおさら点を取るために賢明にプレーする姿を見せたいでしょう。しかしこれもサッカーのひとつということでしょうか。

賀川:こういうのを面白いと思うか、好きじゃないかと言うかは見る人それぞれでしょうが、こうした監督と選手が自分で描いたプランを足場に次のブラジル戦でいい試合をしてくれることが何よりと思っています。

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ロンドンオリンピック モロッコ代表戦

2012/08/01(水)

U-23日本代表 1-0(0-0)モロッコ代表

◆作戦通り関塚監督とイレブンの勝利

――U-23日本代表、2勝目をもぎとりました。モロッコから。1次リーグは初戦で勝った後の2戦目が大切だということを実行してくれました。

賀川:先日我が家を訪ねてきてくれた後藤健生さんとモロッコ戦の話をした。彼はスペインよりは下だろうし、揺さぶれば弱いと言っていた。私は不勉強でモロッコについてはあまり知らないが、ゴールキーパーにいい選手が出る所だから、もしそうなら日本のシュート力では点を取るのはむずかしくなる、というような会話を交わした。CKはひとつのチャンスであると見ていたが。

――なぜ?

賀川:モロッコはワールドカップの開催地にも立候補するほど、フランスの影響を受けてサッカー熱の高いところだが、人種的にはベルベル人、アラブ人でサハラ以南のいわゆる黒人種とは違う。体格は良いがバネという点では黒人ほどではないからヘディングは日本は取れる可能性ありとみていた。

――だからCKはチャンス

賀川:ヘディングシュートというのは、「頭でのダイレクトシュート」でそれも足のようにスイングは大きくないから、ゴールキーパーにとっては難しいものになる。だからCKはどの国にも大気なチャンスなのですよ。

――そのゴールキーパーのファインプレーで前半の鈴木大輔のヘディングシュートを食い止められた

賀川:ゴールラインからもう少し中へ入っていたら先制だった。まあゴールキーパーを褒めないとね。

◆清武のパスのタイミング

――ゴールキーパーの働きもあり、日本はいい攻めをしながらゴールできなかったが、後半39分に永井謙佑が見事な得点をものにした。

賀川:このゴールは相手ゴールキーパーの自陣からのFKを鈴木がヘディングではじき返し、鈴木~清武~永井のわずか2本の速効で生まれたものです。そのFKもやはり永井が突進して相手DFともつれ彼がファウルを取られたことからなんですよ。
(1)ゴールキーパーのキックが日本側のペナルティエリア15メートルあたりに飛び、それを鈴木がヘディングで前方へ送った。
(2)ボールはセンターサークルに落下し、清武がトラップし、相手ゴールに対して後ろ向きの姿勢から、前方へ浮かせたパスを送った
(3)センターサークル内にいた永井がスタートした。
(4)相手のバックラインは3人、そのうち一人は永井のすぐ後方にいたが
(5)永井は一気に追い抜き
(6)ペナルティエリア数メートル手前でボールに追いついて
(7)飛び出してきたゴールキーパーのすぐ前で右足アウトサイドでバウンドボール蹴った
(8)ボールはゴールキーパーの上を越え、ゴールの3メートル前に落ちてゴールへ。

――永井の速さ、突進力、ボレーのボールにうまくあわせた技が光った。

賀川:鈴木のヘディングがいいパスになって中盤の清武に届いたこと。そしてその後の清武のパスがすばらしかった。

――コースが

賀川:まず後ろ向きでボールを受け、コントロールするとそのままの姿勢で浮かせたスルーパスを相手DFラインの後ろへ出したことですよ。これはスルーパス成功のひとつのパターンで、相手ゴールを背にしているとか、横を向いているというタイミングでボールを蹴り、パスを出すと相手側はタイミングが読みづらい。

――つまり自分たちの読みより、一呼吸早くパスが出てくる

賀川:2006年のワールドカップでオランダがセルビア・モンテネグロと対戦したとき、右タッチぎりぎりにいたファンペルシーが横向きの形のままスルーパスを送って俊足ロッベンを走らせてこの試合唯一のゴールが生まれるのを見た。

――ファンペルシーが

賀川:それまで彼のことはよく知らなかったが、このパスの出し方がとても印象に残っていた。ストライカーとして成長したのだが、彼のシュート感覚にもこの意表を突く左足のタイミングが残っている。

――ロッベンと永井、超高速選手の突進を生み出すパスの出し方がファンペルシーと清武と同じだったと

賀川:清武は周囲がよく見えていて、パスを出すセンスはずば抜けている。私はもう一歩その後前に出て、自分も点を取るようになってほしい。そのことがパスの巧さをさらに高めることになると思っている。

――そういえば、彼のことをあまり褒めませんでした。

賀川:能力からみて、まだまだ伸びるプレーヤーだと思っているからね。それにしてもこのタイミングで永井の走る前にうまく落ちるボールを蹴ったのだからスゴイ選手ですよ、彼は。

――永井もスペイン戦でも再三チャンスがありながら得点できなかたのが、この大事な第2戦でみごとな決勝ゴールをつかんだ。

賀川:ロンドン大会は永井が世に問うチャンスと言ってきた。もちろんもう一歩上に上がるためには、技術的に工夫の必要なところがあるが、なにより自分がムダにも見えるほど走りまわってきたのがムダでないことも体得しただろうし、彼のストライカーとしての能力はいよいよ高まるでしょう。

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ロンドンオリンピック スウェーデン女子代表戦

2012/07/31(火)

なでしこジャパン 0-0(0-0)スウェーデン女子代表


◆技と力 好試合を演じた両チーム

――0-0の引分けでした。

賀川:とても面白い試合だった。パスを組み立てて、守りを崩してシュートにもってゆこうとするなでしこと、そのボールを奪ってドリブルで突進し、ロングボールでゴールに迫るスウェーデンという異なったスタイルの攻撃がめまぐるしく繰り返された。

――サッカーの母国イングランドの人たちの女子サッカーへの興味を高める試合といえますね。

賀川:前半はなでしこのシュートが2本、スウェーデンは4本、後半は日本が8、スウェーデンも8だった。後半の攻防がとりわけ面白かったが、前半の鮫島彩のシュートとヤコブソンのシュートにも互いの特徴が出ていた。

――鮫島は左外から中へドリブルして、右足でシュートして、GKがキャッチした。

賀川:ペナルティエリアの左角から少し内側へ入ったところからのシュートで、この位置からはシューターの定石として(1)右ポスト(遠い方のゴールポスト)の内側を狙うか、(2)ニアポスト側を狙うかの2通りのコースを持つのが定石。彼女はニアを狙った。コントロールされたシュートだったが叩きつける強さに乏しく、GKがキャッチした。

――ヤコブソンは右サイドから内へドリブルして左足で蹴り、ファーポストの外へ外れた。威力があり、場内がどよめいたのがテレビ画面から伝わってきた。

賀川:彼女はペナルティエリア右角の少し内側あたりからの左足シュートだが、ここからなら鮫島の逆で、左ポスト内側いっぱいを狙うコースとニアポスト側に叩きつけるのと2通りあるのだが、ファーポストの方でボールは飛んでいった。

――常識的に左足でフックボール(内側へ曲がる)でなく、アウトサイドにかかって、外へスライスしていった。

賀川:つまり鮫島はコントロールシュートだが球に強さがなく、ヤコブソンは威力のある球だがコントロールされていなかった。

――お得意のシュート理論を展開してほしいところですが

賀川:いや、その技術云々は別として、一方はコントロールする技術を、もう一方には叩きつける力があるとみるところが面白いのですよ。この距離と角度からのシュートがゴールに結びつくためにはどちらももうひとつ工夫がいるということですよ。

――技と力をシュートの場面で見ましたか。スウェーデンには、一人いいシューターがいましたね

賀川:8番をつけたシェリンでしょう。一本、右で蹴ってGK福元美穂の正面へいったのがあったが、いいストライカーですね。日本側の2人のCDF岩清水梓と熊谷紗希が彼女をシュート1本におさえたのがこの試合でのポイントのひとつだった。

――そう、こちらのミスを奪って出てくるときのスウェーデン側の勢いはすごかったが、そういうピンチにもなでしこのディフェンスすばらしかった。

賀川:シュートコースへ入って体で止めたのもあり、シュートチャンスにタックルに入ってつぶしたり、本当にいい守りでしたよ。

◆澤のコンディションは

――大儀見に後半2本のシュートチャンスがあった。

賀川:後半15分から10分ばかりの間にチャンスが続いた。左サイドの川澄奈穂美~大野忍、そしてエリア左根っこからの「もどしのクロス」が澤穂希に渡ったのはすばらしかった。澤は左足ダイレクトで蹴ったが、蹴ったというより足に当たったという感じだった。

――パスのボールの問題

賀川:調子のいい時の澤ならなんとかできたはずだが…第1戦である程度はできた。そのコンディションが維持できているかです。

――本番の第1戦に出場するまで、大変だったからそこでぐっと疲れが出たのかも

賀川:まあ、監督、コーチ、トレーナーの優秀な人がそろっているから、なんとかいいコンディションに持っていってほしいね。

――彼女に代わって田中明日菜、大野に代わって岩渕真奈が登場しました。

賀川:田中が入って中盤での運動量が上がってから攻勢が続いたでしょう。

――左サイドだけでなく、右サイドからも攻めましたね。

賀川:近賀ゆかりは斜め前に送るクロスのタイミングと、コースを掴んできている。大儀見にはいいパートナーになりそうだ。

――テレビで宮間あやのプレーにブツブツ言っていましたね。

賀川:チームを仕切っている感じはいいが、ちょっと一発でのキラーパスにこだわっている感もある。彼女にとってもこの大会は、もう一段のステップアップの大切な試合が続きますよ。

◆ボールが走らない芝への工夫

――チーム全体に芝の影響があるのでは

賀川:さきほどの近賀のパスなどは、ちょっとスピードが鈍っているように見える

――全体になでしこのパスが弱くてカットされることが多かった。

賀川:まあサイドキックのせいもあるが、近賀の場合、遠い距離からのクロスやパスでなく、もう少しパスの起点を近づけて(内側にする)ことも考えるべきでしょう。

なでしこの選手たちは経験が豊富で適応力があるはずだから、この程度の芝の滑りの違いをハンデだと思わない方がいい。それよりも大儀見に少しボールが集まって左右に広く散らすという感覚が薄れている気がします。

――ともかく1勝1分で勝点4をとった。準々決勝へ出られる見込みがついたのだから。それにしてもF組何位でゆくかとか、この試合は勝った方がいいのか引き分けた方がいいのか、という話が試合直前に監督の話としてメディアに載ったのは驚きでしたね。

賀川:準々決勝ではF組の順位によってフランスのような強い相手と当たることも考えられる。次の組合せを監督やコーチがいろいろ考えるのは当然ののことですよ。選手はどの試合も勝ちたいのは当然だが、コーチはいかに有利に勝ち上がるか、試合会場の場所や相手との相性を考えるものですよ。ただしそれは監督、コーチの胸のなかの話だけのこと。

――それがメディアやインターネットに出て選手はそこで驚かされた。

賀川:それが今様(いまよう)ですね。まあ、メディア側が監督の胸の内を探ろうといろいろ仕掛けるからね。

――1968年の釜本邦茂、杉山隆一たちのメキシコ五輪銅メダルチームにも1次リーグで引き分ける作戦がありましたね。

賀川:第1戦を勝ち、第2戦に強敵ブラジルに先制されたのを追いついて引分けにして、1勝1分。第3戦は強いスペインだった。これに勝てばこの組の1位で準々決勝は開催国メキシコと当たる。2位になれば、フランスと対戦する。長沼健、岡野俊一郎の監督・コーチはフランスの方がやりやすいと見た。しかしスペインに負けると、もうひとつのブラジル対ナイジェリアの試合結果次第で三すくみになることもある。

――だから第3戦の試合の進んでいる途中で決断した

賀川:引分けを狙っても負けては困るところに、この時の難しさがあった。

――結局、引き分けて狙い通り2位となり、準々決勝でフランスに勝ってベスト4へ進みました。

賀川:この試合中のな監督の指示や選手の反応にはとても面白いエピソードがある。ここでは長くなるので、ちょうどサッカーマガジンで連載中の「日本とサッカー90年」がこの時期に来ているので、そこを読んでもらうことにしましょう。

――まあこの時は直前まで監督の心の中はメディアに出なかった。

賀川:なでしこは団結して取り組める明るさと大らかさがある。まあ、どんな相手にも勝ちにいくという選手の気迫が大切で、勝つためにはどのプレーが必要かという技術的な積み上げをチーム全体でしてほしいね。

オリンピックの本番でひとつひとつ勝ってゆく難しさはすでに見えている。なでしこもU-23も期待が大きいだけに大変だが、今の気迫を続けてほしいね。

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ロンドンオリンピック スペイン代表戦(後半)

2012/07/29(日)

――後半は相手が10人だからもっと楽になれると思ったのですが苦しい試合でした。

賀川:前半のタイムアップ直前にもプレッシングからゴールのチャンスがあったが、得点できなかったけれど、後半への期待は高まったのは確か。

――相手が10人だからこちらへのプレッシングが少なくなる。宇佐美を出して、得意のドリブルで数的優位をさらに増やすということは考えなかったのですかね。

賀川:そう思った人もあるでしょう。調子がどうか、メキシコ戦の前半には動きが悪く、後半に齋藤学に代わってしまった。

――その齋藤が故障した大津に代わって投入された。

賀川:キックオフから前の選手は相当な運動量になっている。スペイン選手との接触で痛めつけられてもいる。試合の形は10人のスペインがゴールをキープして攻め、それを11人の日本が防ぐという面白い形が続いた。

――10人が攻めてくるから、11人の方のチャンスは増える。

賀川:こちらのシュートチャンスの後に相手の攻めがあって、全てスリル満点でした。スペインとすれば、なんとか同点にして勝ち点1と考えたのだろう。

――25分、酒井宏樹が左足を痛め、いったん場外へ出て戻りはしたが、またダメとなって酒井高徳が入った。

賀川:こうなると、監督としては攻撃的な選手を入れて、もう1点を取るというよりも次のけが人のことも考えなければいけないし、むずかしくなったね。

――スペインも結構ファウルしますからね

賀川:このごろのバルサのプレーからサッカーの技術大国スペインという印象が強いが、かつては激しいプレーで有名だったからね。

――EURO2012のイタリアの決勝でもイタリアのお株を奪う激しいファウルもありましたね。

賀川:1982年にバルサに移ったディエゴ・マラドーナがファウルで半年間プレーできなくなったこともあるところですよ。その気になれば、ずいぶん激しいプレーもしますよ。

――あと10分というところで、スペインは3人目の交替を入れた。ともかく点を取ろうとする気迫はすごいですね。

賀川:日本の守備はこの試合ではほぼ完璧に近かった。吉田、鈴木、徳永が落ち着いていた。あと5分のところで扇原に代えて山村和也を入れて逃げ切りを図った。

――その直後に永井が再び突破してノーマークシュートした。左足で蹴ってGKに当たってCKになった。

賀川:これだけのチャンスをつくって、点が取れないとチャンスをつくったことより決められない方が記憶に残る。せっかく攻撃陣がすごい働きをし、守りに大貢献したのだから、もう1点取ってほしかったのだが、、

――シュート力不足ですかね

賀川:これについては、別のところでも既に触れているが、まず今日はこれだけの重労働をしたのだから、別の機会にしましょう。そう、タイムアップ前に山口がノーマークになって、ボールにつまづいくようにシュートミスしたが、ぼくは山口が力を振り絞って相手ゴール前まで出て行ったことに感心したね。

――グラスゴーのスタジアムに集まった観客は10人対11人の力を出し尽くした試合を見て、そのゴール前からゴール前のスリルを十分に味わってくれたのじゃないですかね。サッカーの母国でのオリンピックの人気盛り上げにもとてもよかったと思いますよ。

――第1戦で勝ち点をあげた後、次の第2戦が大切ですね。

賀川:そう。アトランタ五輪でブラジルに勝った後、第2戦のナイジェリアに敗れましたからね。ナイジェリアはブラジルに勝った日本というのではじめは警戒していたというより、ビビっていた感じがあったのに、こちらも消極的になって負けてしまい、このため第3戦に勝って2勝しながらグループから抜け出せなかったこともある。

――68年のメキシコ五輪はナイジェリアに3−1で勝ったあと、次のブラジル戦は0−1でリードされながら、1−1の同点で引き分けた。これが効いて次のスペイン戦も引き分けて準々決勝に進みましたからね。

賀川:サッカーは何が起きるかわからない。次の試合、しっかり戦ってほしい。けが人もあり、疲れもあり、ここからが正念場です。モロッコ戦を期待しましょう。

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ロンドンオリンピック スペイン代表戦(前半)

2012/07/28(土)

U-23日本代表 1-0(1-0)スペイン代表


――すごい試合でした。U-23日本やりましたね。スペインに1-0。

賀川:選手と監督で考え、実行したゲーム運び通りになりましたね。これも日本でのキリンチャレンジカップにはじまった準備試合、英国に来てからの 対ベラルーシ、対メキシコと実にいい相手と戦った。第3試合のラストで力が上のメキシコを相手に2-1で勝つことができた。監督も選手も一体となって戦えばどことやっても負けないぞという気になっていたでしょう。

――NHKの試合直前にも山本昌邦さんが選手の気構えが顔にあらわれていると言い、相手チームの選手個々についての特徴も細かく説明し、強い相手 だがゆけますよ、という話でした。

賀川:山本さんが相手のことに詳しいということは日本代表チームのスタッフも十分に相手の研究を積んでいるということですよ。事前の偵察はこちらの方が進んでいたはずです。

――はじまってすぐニヤリとしていた

賀川:中盤で相手とのボールの奪い合いに勝って、左へ大きく振って、永井がボレーシュートした。シュートはうまくヒットできずにGKの正面にころ がったが、シュートはともかくボールの取り方がよかったからね。

――それでも5分にペナルティエリア左角の外からスペインのシュートがあった。

賀川:ああ、右ポストの外へ出た。やっぱりボールを止め、味方に渡す技術はしっかりしている。ディフェンスラインの外からのシュートだけでなくエリア内へのスルーパスも出始めた。うまいなあとは思ったが、日本の嫌いなロングボール攻撃でなく組織攻撃だから日本も対応できそうだった。なんといってもシャビやイニエスタがいるわけじゃないからね。

――そういう攻めに対する守りの安定が見られるうちにチャンスもあった

賀川:メキシコ戦で相手のミスもあって相手陣内のエリア近くでボールを奪って右へまわし、そのクロスを東が決めたでしょう。

――あれで高い位置からのプレッシングの効果を肌で感じた

賀川:どこの国の代表であっても深い位置でプレスにこられるといい気はしない。その効果はわかっているが、体力的にきついからプレッシングはもう少し後方からになっている。それをこの日はペナルティエリアにまでプレッシングに行った。

――スペインのサッカーはクライフのオランダ流でDF間のパスのやりとりもありますからね。

賀川:そこへプレスにゆく。永井の速さにまず相手は驚いたに違いない。

――永井は6月のグランパスの試合でも走り回る、という感じだった。

賀川:速いだけという感じから体が強くなって相手との接触プレーにも強くなってきた。

――縦の速さを攻撃に活かそうということだったが、その速さは守りにも効果があった?

賀川:そう、高い位置のプレスというのは守備的攻撃というのか、攻撃的守備というのか、奪った位置によって、すぐチャンスになるからね。永井自身もその面白さに気づいたのだろうね。

――ボールキープはスペインだが、シュートの数は日本という感じだった。

賀川:25分ごろにマタの左足シュートを権野がセービングでCKに逃げたのがあった。いいシュートだがマタの蹴るところも権野から見えていたから大ピンチというほどでもなかった。その前と2度のカウンターで永井が1本は左から、2本目は右からとチャンスを作った。前者は左からのクロスを防がれ、後者はエリア内で切り返しでかわそうとしたのを奪われた。

――ノーマークのチャンスのつくり方としては日本の方がうまいようにみえた。

賀川:ここまでくるとフィニッシャーとしての技術や経験がポイントになる。これまでは永井はフルタイムで使われていなかったでしょう。秘密兵器的存在で、後半になって相手が疲れた時にスピードで威力を見せようという程度でストライカーとしてのシュートの形や反転、スワーブあるいはスクリーニングやドリブルといった訓練をどれだけ積んでいたかということでしょうね。

――速いということが万能薬みたいになっていましたからね。

賀川:速さはすごい才能のひとつ。その速さで重大な場面に顔を出したとき、そこで何をするのか、何度できるのか、そのために本人の身にどの技術をつけるかが大切なのでしょう。

――グランパスでは点を取りました。

賀川:そのフィニッシュの力がこのオリンピックで通じるかどうか、この日は目一杯に動いたから、この後もたくさんのチャンスがありながら彼は無得点に終わった。

――視察したザッケローニさんがもう1、2点取ればと言ったと新聞にのっていた

賀川:誰もがそう思うでしょうし、そのことは彼が一番身にしみているはず。自分で上手になってゆきますよ。いや、大会中にもっと点をとるようになる可能性もある。ひとつ何かをつかみさえすればね。なにしろ彼ほど速くて強い選手は世界にもそういないのです。

――相手のパス攻撃も上手だが、日本のカウンターも効果ありそうとテレビの前で私たちが希望を持ちはじめたときに、右CKから待望のゴールが生まれた。CKはカウンターの産物でした。

賀川:33分にスペインが右サイドの深いところからファーポスト側へ高いクロスを送った。酒井が相手と競って再び高く上がった。落下したボールをスペインはオーバーヘッドでシュートを試みたがゴールへは飛ばずにエリア内の左へ落ちてきた。
(1)このボールを徳永があわてずに落ち着いて前方の清武へパスしたところからカウンターの攻撃がはじまった
(2)清武がヘディングで前へ送る(ヘディングした後、突き飛ばされて倒れる)
(3)それを東がとってドリブルで右斜めに進み
(4)ペナルティエリア15メートルのところから右へ振り
(5)リターンパスをもらって右からクロスを蹴り、相手に当たって右CKとなったのですよ。

――DFからボカーンと蹴るのではなく、徳永がパスをつないだのが、まずひとつのポイント。それをうしろへ戻すことなく前方へ運んでいった。

賀川:3人いた相手のDFは永井の突破が怖いものだから、ボールを奪いにこないで後退した。だから東が深いところでクロスを蹴ることになり、コーナーキックとなった。

――キッカーは扇原でした。

賀川:オーバーエイジの徳永がベテランの落ち着きでカウンターのチャンスをつくったのだが、このCKにはもう一人のオーバーエイジの吉田の長身が効果があった。

――扇原の左足のキックはゴール正面に落ちてきた

賀川:吉田の動きにDFが引き寄せられ、ポカリと空いたスペースにボールが落下し、そこへ大津が走り込んできた。DFとの絡み合いを振り切ってのダッシュで足下に来たボールを押し込んだという感じだった。GKも飛び出せなくて大津のシュートに足を出したが防げなかった。

――大津はアジア予選でも大事なところで得点してきた。ドイツでは試合に出る回数は少ないのに、それでもフィジカルの強いところでの接触プレーにに強さが出たのですかね

賀川:なにより、ゴールへの意欲が強いという印象ですね。これで試合は一気に有利になった。

――そして40分のカウンター攻撃で永井の突破をファウルで止めたマルティネスが退場になってスペインは10人になってしまった。

続く

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ロンドンオリンピック カナダ女子代表戦

2012/07/27(金)

――なでしこが初戦に勝ちました。2-1です。

賀川:欲を言えばもう1点くらい欲しいところだが、グループリーグの第1戦で勝ち点3を取ったのだから、まずは申し分ないといえるでしょう。

――アメリカとフランスとの前哨戦の完敗で心配する人もいましたが、この試合で懸念は消えましたか

賀川:まだまだ不満はあるでしょう。それは選手自身もよくわかっています。ただ澤穂希が彼女らしいプレーを取り戻しはじめていたのが、本番に入ってやっぱり澤だというプレーを見せましたからね。

――何といっても、昨年のワールドカップ最優秀選手、FIFAでメッシと並んで2011年の賞も受けた人ですからね。1点目も彼女のパスから生まれたものでした。

賀川:パスの経路としては、極めてシンプルなもので、
(1)左タッチのスローインを澤が投げ
(2)受けた大野忍が澤へリターンし
(3)それをもう一度澤が“走る”大野の前へ落とし
(4)大野がエリア内の深いところでキープ
(5)左外から走り込んできた川澄奈穂美にソールをを使ったパスわ渡す
(6)そのボールを川澄が右足アウトサイドを使ったトラッピングで止めて、シュート角度を少し広くして
(7)ゴールキーパーの右側(川澄から見て)ファーサイドのネットで高いシュートを決めた

――シュートにかかる川澄のプレーがすばらしかった

賀川:大野のソールパスを受ける時にはシュートだと決めていたのでしょう。トラッピングからシュートへかかる動作が速くて美しかったね。まあ彼女の力からすれば、当たり前みたいなプレーだろうが…

――パスのコースがシンプルだったと

賀川:澤が投げて、そのリターンをもらって、また前へ送る。澤から最初にボールをもらった大野が澤にもどして、自分はすぐ前へ走りだす。言ってみれば、ワンツーパス、サッカーで言えば1930年代あるいは20年代の旧制神戸一中がやっていたパスの基本中の基本。最初にパスを受けた大野がリターンパスを出して、すぐ走り出すのも何十年前からのパターンですよ。ただしその極めてシンプルなボールと人の動きのなかに、やはり女子の世界最高にあるなでしこらしい技が入っていた。

――澤さんのフワリと浮かせたパスですね。

賀川:大野の走るコースをマークしていた9番のライトと競りながらスワーブして目的地へ向かっていた。相手のDFも2人いたから、グラウンダーのパスより浮かせた方が取られないと澤は判断したのでしょう。そしてまた、グラウンダーよりもフワリパスの方が到達するのに少し時間がかかるから、大野には受けやすいとの配慮もあったはず。

――そのあたりが同じシンプルなパスでも丁寧さがある。

賀川:そう。大野がゴールを受けた時には川澄がペナルティエリアとゴールライン際、私の表現では「エリアの左根っこ」だが、そこへ走り込もうとしていた。

――相手の守りの一番痛いところですね。

賀川:これも1930年代からの日本サッカーの定石なんだが、その川澄のh知り込みにあわせて、大野はマーク相手を背にしてボールをコントロールし、ソールで自分の身体の後方へボールを動かした

――完全に相手の意表をつきました

賀川:バルサでイニエスタがいろんな形でパスコースを変えるでしょう。それと同じ効果、いや今回の相手にはそれ以上の効果があった。

――ふーむ

賀川:DFのライトは大野をマークし、ボールを受ける所からずーっとついていて、少し遅れ気味に走っていた。だから大野が弾むボールをゆっくりコントロールしている間も、その後方にいて監視するだけで、川澄が走るのは視野に入っていなかったのじゃないか。

――他の選手だったら

賀川:うーん、大野と川澄の両方を視野に入れる位置のDFもいたのだが、マンマークで最後までついていった彼女には難しい仕事でしょう。もちろん大野のスタートダッシュとその後のスピードで彼女が遅れ気味だったこともあるが…

――澤、大野のいわばシンプルなワンツーパスが高度なテクニックや意表をつくアイデアを織り交ぜて、第3のプレーヤー川澄にわたったということですね。

賀川:オリンピックの歴史に残るゴール場面の一つでしょう。実際にプレーに絡んだのは3人だけだが、その前に左から攻め、防がれて右へ展開し、右の近賀から大儀見を経て、また左へ移り、その左側のキープが相手の強いスライディングタックルでタッチラインを割り、澤のスローインとなった。こうした全体の大きな流れ(主として横のボール回し)からサイドをタテに崩す動きに移るという展開全体も、この攻略の伏線としてよかったといえます。

――なるほど、シンプルだが高度な技と読みをともなうパスワークとシュートの1点。それも大きな展開の後のタテへの崩しというわけですね。

賀川:オリンピックというのは20いくつの競技があって、多くはその競技の最高を争うものになる。多くは個人競技だがね。

――そのひとりひとりの努力や工夫のあとをメディアが報道していて、それもスポーツ発展をあらわすものといえる。

賀川:そういうトップクラスの他のスポーツと比べても、サッカーという競技が世界で最も盛んなスポーツであり、しかもチームゲームであるだけに、個々の走力や技術も非常に高く、またその連係プレーを成功させるための瞬間の判断には、人間の持つ頭脳という高度な機能を働かせることになります。そこにその競技の面白さがあるのですよ。いままで日本のスポーツ界で、今年ほどオリンピックのなかでサッカーに関心を集めている時期はないでしょう。サッカー好きの皆さんもこのサッカー特有の楽しみを多くのオリンピックファンの友人に伝えてほしいと思っています。

――その個人の力アップという点で、これまでのところ賀川さんはちょっと不満のようですね

賀川:何度もこの欄で申し上げ、また雑誌などにも書いているように、昨年の大仕事(ワールドカップ優勝)の後、身体能力や技術の面で個人的に特に目立つという選手が少なかった。それでも私は昨年につかんだ自信はとても大きいと思っています。

――大儀見優季の進化をほめていましたね

賀川:ドイツでプレーを続ける大儀見は得点能力の上に、強い体を活かしてのポストプレー、ボールを受け、チームの攻撃の起点をつくるプレーが上手になった。男子フル代表の本田圭佑とタイプは違うが、同じように重要な役割です。この競技では攻撃メンバーのなかに彼女(彼)のところにボールがゆけば、相手には奪われないというプレーヤーがいるかいないのかで全く違ってきます。

――カナダ戦でも目立っていましたね

賀川:ボールを受け、キープし味方に渡す、という目立たないが、重要な仕事をし続けていた。シュートチャンスに点を取れなかったのは本人も口惜しいだろうが、この試合の2点目も私には彼女の存在が大きかったと思っています。

――左の鮫島のロングボールを相手DFとGKが防ごうとしたが、ボールを取れずに宮間あやがヘディングしてゴールを決めた。

賀川:鮫島からの高いクロスが飛んできたとき、ゴール前に大儀見がいた。彼女にそのヘディングを度々取られている相手DFは、大儀見のところへ3人も集まった。彼女への恐怖からでしょう。その3人だけでなくGKも飛び出してきて参加した。手を使えて有利なはずのGKは仲間の3人が邪魔になってボールに届かず、その背後にボールが落ちた。そこに宮間がいた。

――宮間は鮫島のキックを見て落下点へ入っていた?

賀川:大儀見の動きにつられて3人のDFとGKが同じ所でジャンプした。スローを見ると大儀見はボールが落下してくるときには人ごみから抜け出している。ここでは取れないと判断していたのだろうね。その彼女につられたのがカナダには災難。宮間と日本にはしてやったりのゴールですよ。

――一人のプレーヤーの進歩はチームにとっての大きな戦力アップといつも言っているとおりですね。

賀川:1968年メキシコ・オリンピックの銅メダルの時には釜本邦茂という大会得点王のストライカーがいたが、彼もその年の冬から一段上のプレーヤーになったのだからね。

――それでチームは銅メダル。

賀川:だから今回の大会前に選手の個々の能力が少しでも伸びれば日本を目標として進歩の速い各国に対しても優位を保てると踏んでいた。

――それが必ずしもそうではなかった

賀川:カナダのレベルアップ、川澄が左サイドで相手のDFを一人で一度もドリブルで抜き切れなかったところにもあらわれている。失点の場面も、ここの左サイドで続けて2度パスを奪われ、その後のボールを奪い返そうとして結局とられて、ここからの相手の右サイドによる速いクロスにしてやられた。

――コンディションの問題も

賀川:細かくみていくと不満もあるし、やっぱりなぁーと思うこともある。得意のパス攻撃と言ってもペナルティエリアの根っこへ攻め込んだのは2回だけだった。

――カナダより一段上のチームには苦しいと

賀川:いやいや、何といっても澤が調子を取り戻したのが大きい。まあ6試合持つかどうかは神に祈るとしてもね。チーム全体にもよくなっているところもある。そしてまず勝ち点3を取ったことで、気持ちに余裕が出るだろうから、彼女たちの本来のものが姿を現すだろうと思っている。

――そうなると、しめたものですが…コベントリーのスタジアムにも日本のサポーターが多かった

賀川:コベントリーは工業都市でね、第2次大戦でドイツ空軍の爆撃を受けて、壊滅的な打撃を受けたことがある。大戦中、コベントリーを破壊に結び付けてコベンタライズという言葉が生まれたほどですよ。

――その破壊された街のすばらしいスタジアムでの試合でした。

賀川:この街のクラブ「コベントリー・シティ」はマンチェスター・ユナイテッドのようなビッグクラブではないが、100年以上の伝統があり、日本代表もここで試合したことがある。

――1978年でしたか

賀川:釜本が代表から退き、永井良和、細谷一郎たちがFWにいた。そうそう、いまNHKでいつもいい解説をしてくれる山本昌邦さんがまだ若くて国士舘大学の学生だったときに、この遠征に参加していますよ。

――ゆかりの街でのなでしこのロンドン五輪初勝利、まずここを足場にメダルへの道を進んでもらいましょう。

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