なでしこ/女子

なでしこの敗戦 キラリ光る進歩への意欲

2016/03/15(火)

澤さんとともに好成績を残してきた“なでしこ”たちの踏ん張りが期待されていたのですが、初戦のオーストラリアに敗れ、韓国と引き分け、中国に負け(1-2)、ベトナムに勝ち、北朝鮮(1-0)にも勝ったが、リオデジャネイロの本番への資格は失いました。

賀川:佐々木則夫監督は、ワールドカップの優勝と2位、オリンピック銀メダルという輝かしい成績を持ちながら、今度はアジア予選敗退です。色々な理由があるでしょうが…

――日本の組織サッカーが発揮されないように見えました。ロングボールの蹴り合いの場面を見ながら、どこのサッカーかと思うこともありました

賀川:なでしこリーグというトップクラブのリーグ戦がようやく世間にも関心を持たれるようになりましたが、そのリーグでの試合だけでは不十分だとしたら日本代表としての合同練習や試合の機会をもっと多くすることでしょう。もちろんJFAも“なでしこ”自身も新しい体制や練習を考えているはずです。まずはこれからのなでしこジャパンの再スタートを見つめていきたいですね。新しい選手の育成やベテランの選手の進歩などについて、それぞれのプレーヤーが自分の課題に向き合うことはこれからとても大事なことです。私は大会の後半の試合でもうれしい進歩を発見しています。

――というと

賀川:あとの2試合に右サイドバックで出場した近賀ゆかり選手(INAC)です。彼女はワールドカップ優勝メンバーで、神戸のINACの選手です。代表の右サイドは昨年のワールドカップで有吉佐織が進歩を見せ、故障があってしばらく出ていなかった近賀のポジションを務めていました。攻撃の2試合を近賀は右のDFで出場して攻守に良いプレーを見せたのですが、うれしかったのは彼女が従来のプレーよりも左足を使うプレーが多くなっていたことです。

――Jリーグでも右サイドの選手で右足のクロスはいいが、切り返したあとの左足のクロスは、相手のCDFへゆくまでにインターセプトされる、その程度の左キックが多いと言えますが…

賀川:右サイドへ出て、右足で蹴る能力は当然ですが、左足でのクロスも大切です(相手が、右足をおさえにかかるからです)。中盤でも左足を使えれば簡単な横パスはタイミングよく送ることができます。もちろん右に比べれば不得手な左足だから難しいことはできなくて当たり前、しかしいちいち右に持ち替えなくても左でシンプルなつなぎのパスを出せればそれだけ、チーム全体のパスワークがスムースに展開するのです。

――それを近賀がしていた

賀川:そうです。地味なプレーですが、これも一つの進歩なのです。新しく役立つプレーを一人の選手がひとつ増やすことで、チーム全体のパスの組み合わせも増えるのですからね。大試合でそういう新しいプラスを見せるというところに近賀ゆかりの進歩があり、なでしこのベテランたちにも進歩があるということです。

――ただし、そうした小さな進歩の積み重ねが大きな効果にならなかった

賀川:もちろん全体の進歩の度が少なかったのかもしれないが、ここの選手が30歳になっても上達しようという気構えでいることが大切だと思います。

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日本女子1分1敗で第3戦へ

2016/03/04(金)

大阪の長居で開催されているリオデジャネイロオリンピック女子のアジア代表最終予選で日本は第1戦の対オーストラリア(1-3)、第2戦の対韓国(1-1)で1分1敗。予選突破は難しい状況となった。

――オーストラリア戦は痛い敗戦でしたね。

賀川:もともとオーストラリアは体格は大きく走力も平均して日本より上というのが、女子スポーツ界では常識でしょう。サッカーにとっての大切なボールテクニックも随分レベルアップしてきていました。

――それに比べて「なでしこ」は伸びていない、とこれまで何度も言ってきましたね

賀川:神戸の中央図書館内にある神戸賀川サッカー文庫のなかでも試合が近づくと慎重な見方や悲観論もありました。神戸をホームとするINACのベテランたちの伸びしろがほとんどなかったからです。

――INACがレベルアップしないということは「なでしこジャパン」のベテラン陣が伸びていないということですからね

賀川:まぁ、そういうふうに切り捨ててしまえばその通りです。しかし、それでも彼女たちには、技術や体力とともに精神的な強さの伝統が残っているのではないかと期待していました。

――それが第1戦で、全然、気が入っていないようにみえましたね

賀川:3月1日に長居へ行く予定でしたが、午後から急激に寒くなると言うのでテレビ観戦にしました。風邪をひいたりして周囲の迷惑になるといけませんからね。

――第2戦は長居へ出かけたとか

賀川:佐々木監督さんの記者会見にも出て、選手の多くは第1戦は緊張して調子が出なかったと知りました。

――いわゆる「固くなっていた」というわけですね

賀川:澤穂希さんという、これまでのフィールド上での大黒柱がいなかったのが響いたのかどうかはわかりませんが、私にはワールドカップの本番を2度も経験した世界のトップ級の選手たちがアジア予選での第1戦で固くなっていたとは思いもよらなかった。

――女子プレーヤーの難しさかもしれませんね

賀川:実力どおりの仕事をしてもオーストラリアとは五分よりも少しきついという感じのチームだから勝点3は無理だったのでしょう。

――第2戦はどうでした

賀川:いい試合をしましたよ。第1戦とメンバーを代えたほか、宮間を前へ上げたのもよかった。パスのコースやタイミングが相手の意表を突くということがなかったが、まず、とてもいい方の試合ぶりだと思います。

――問題はシュート?

賀川:男子の代表を含めて、ここしばらくの日本代表はゴールに近づいたときにシュートの気持ちや構えに入るのが少し遅いように見ていた。U-23のオリンピックアジア予選を突破した手倉森監督のチームはそれが少し早い選手がいた感じでした。パスワークもそれほど、いいというわけではないがペナルティエリアの少し手前からシュートしようという気概を持ったのが良かったと思っています。

――なでしこはそのタイミングは遅いと?

賀川:シュート力そのものも、男子と違って弱いからシュートレンジが短いのは当然ですが、女子のシュートの強さを上げるシュートの距離を伸ばすのは当然代表一人ひとりの日頃の練習でしょう。

――日本の1点目は相手GKのフィスティング(こぶしでボールを叩く)のミスがあり、落ちたボールが岩渕の頭の上へきた

賀川:とっさのことだったが、彼女のヘディングがゴールになりましたよ。この時の右からの川澄のクロスは彼女自身でしっかり狙って大儀見の上へ落とそうとしたのでしょう。高く上げて(途中でインターセプトされないように)ゴール正面ペナルティキックマークより少しゴールに寄ったところへ落下した大儀見の入りが良かったから、長身の5番がマークしていてもゴールキーパーは飛び出してフィスティングしようとしたのでしょう。

――それがDFの体が邪魔になってボールに手が届かず、すぐその横にいた岩渕のところへ落ちたわけですね

賀川:ゴールキーパーの判断ミスでもあるけれど、ここがサッカーという競技の面白いところです。良いクロスが来て、大儀見が先に位置取りしてジャンプする、それにつられて相手DFもジャンプ、ゴールキーパーも飛び出す、宮間も触れずにボールがその裏へ落ちる、そこにもう一人いた。ゴールとはこういう入り方もあるという見本です。

――せっかく喜んだのに、そのあと1点を奪われてしまう

賀川:韓国はロングボールをエリア内へ上げて、そこで競り合わせ、こぼれ球を拾うという形を仕掛けていた。41分に右サイドでキープして日本の2人を引き付け、ゴールライン6mからバックパスをしてそれをキム・アンヨンが右タッチライン内側3mから右足でエリア内に高いボールを送った。右ポスト、ゴールエリアラインに来た高い球をGK福元がジャンプキャッチした。

――一安心と思ったら

賀川:ボールを持ったまま着地するとき前にいた熊谷の肩に福元の持つボールが当たって彼女の手からボールが落ちた。そこに韓国のチャン・ソルビンがいた。彼女のシュートも良かった。彼女はゴールを背にした形でボールを取った後、反転して右足で蹴った。スロービデオを見ると、ボールの底を蹴ってわずかに浮かせているのが素晴らしい。このため日本側はゴールカバーに入りながら腰より上にとんできたボールは体と右ポストの間を通り抜けた

――もしゴロのボールなら足で止められていた?

賀川:韓国側の執念が彼女に表れましたね。

――日本の守りがエリアに引いたときに、中盤で拾われて、何度かハイボールを上げられたのを戦術的にケアをするということをしなかったのがちょっと惜しい。

賀川:1-0としたあと上背のある相手がどんどんボールを上げてくるとき、そのキッカーをフリーで蹴らせていた。こういう時には日本のDFは男子も女子も強くないのは歴史的にわかっていることですからね。

――好運にも相手が点を取れなかった時には勝てました

賀川:後半0-0のときにエリア内で日本側にハンドがあってPKとなった。それを福元が止めた時にこれはいけるぞと思った人も多かったでしょう。彼女のファインプレーでした。キッカーのボールへのアプローチの角度が浅いので福元が止めてくれるだろうと予感しましたが…

――PKを蹴るときサイドキックなら深いサイドキックなら深い角度の方が読まれにくいという賀川説はどこかのスピーチでも話しましたね。改めてもう一度話してもらいましょう

賀川:折角良くなってきたのだから、第3戦でしっかり勝ってもらいましょう。彼女たちにとってもこの苦境の中で勝点3を取ることはこの後のサッカー人生にとっても大切ですからね。

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東アジアカップ 最後の2ゴールで勝利と自らの成長をつかんだなでしこ

2015/08/11(火)

8日<女子>
日本代表 2(0-0、2-0)0 中国代表

――8月の第3戦でなでしこジャパンは中国代表に2-0で勝ちました。90分の終わりの所で1点を奪い、アディショナルタイムで2点目を取りました

賀川:相手の中国が後半に疲れて動きが鈍ったことも原因だが、暑熱のなかの過酷な90分を走り抜いて、最後に点を取る形を作って2点を奪ったこと、相手の個人力の攻めを無失点で防いだこと、ピッチの選手もベンチの選手も心をひとつにした試合でしょう

――そういう経験が、何よりと言うことですか

賀川:その試合で勝ったということは、今後に大きなプラスで残るでしょう。

――なでしこらしくない試合で始まった東アジアカップだったが…

賀川:今年のなでしこジャパンは、カナダのワールドカップにしても、今度の東アジアカップにしても準備が充分だったとは思えません。いろんな理由があるのでしょうが、試合を重ね、フィールドプレーヤー全員をピッチに登場させながら、最終戦にはともかく、その総力を出すようになったのだから、監督さんも選手たちも立派だったと思います。

――危うい場面もありました。例によって中盤でのパスミスを取られて、カウンターされることも一度や二度ではなかった

賀川:INAC神戸のFWで、国内リーグでも点を取っている京川舞を右サイドバックに置くという佐々木監督の意図は理解できても、京川にとっては不慣れなポジションで、初めは難しかったと思います

――経験を積ませる時間が足りなかった

賀川:佐々木さんはおそらく京川に長い距離を走る、あるいは防ぐこと、そしてサイドでのプレーを、もちろん攻撃も含めて身につけさせようとしたのでしょう。古い時代でもたいてい優秀なストライカーは若いうちにはウィングプレーヤーで登場していることが多いのです。現在ではサイドバックがそのウィングにあたりますからね。

――第3戦の得点では京川がドリブルで持ち上がってチャンスをつくりましたね

賀川:だれしもサイドバックで初めてプレーし相手のサイドも強いとなると、守りに気がいくもの。彼女はそこから攻撃にも出て持ち味を発揮するようになった。

――つまり京川のように新しいポジションでも3試合目にはこなせるようになってきたと?

賀川:京川だけでなく、各選手それぞれが監督さんの指示なり、考えを理解するようになったのでしょう。京川を例に挙げましたがチーム全員がそういう意味で進歩したと思います。

――1点目の前に京川のドリブルからチャンスが生まれましたね

賀川:相手の動きが鈍って、中盤でボールを取れるようになると、攻めの回数が増えた。ただし中国のDFも出て来ないで守り一辺倒になるから、崩し難くなる。

――ロングシュートが多かったのは、そのため

賀川:シュート力があるといいつつも、蹴る力はそれほど高くはない。遠くからだと力むことになる。まして前方に相手4~5人のDFが見えるのだから、成功率は低い。

――増矢を投入(後半21分)していた佐々木監督は横山をピッチに送りました。後半38分です

賀川:まぁこのあたりが大会を通じてチームの力が監督の手の内に入っていた証(あかし)でしょうね。MFに川村と中島という、大きな動きをして強い球を蹴れる2人を配したのもそうです。

――京川のドリブルの持ち上がりと左足サイドキックの相手のDFラインの裏へのパスを横山がシュートまでいったがゴールキーパーが飛び出して防いだ

賀川:相手ゴールキーパーがスライディングしてくるときに、こういうボールを浮かせてゴールへ入れるようになればレベルの高いストライカーということになるのだが、さすがにそこまでは行かなかった。それでも次のチャンスを横山が決めた。

――中盤で横山のドリブル、パスを奪われたのを、また日本側が奪い返し、スペースの広い中盤でゆっくりボールをまわしたあと杉田-中島と渡って中島がドリブルで進み、相手DFの間にスルーパスを出し、横山が走り込んだ

賀川:右から攻めた横山が左に回って行った動きも良かった。横山のトラッピングをDFの一人がスライディングで止めようとしたが、ボールは横山の前に転がり、シュートした。走り込んだ横山の勢いがボールを自分のものにしたのでしょう。

――後半43分で1-0、これで勝ったと思ったが、中国も攻めに出る

賀川:開催国の意地でしょうね。アディショナルタイム5分の表示は見ている方には心配だったが、彼女たちはそのアディショナルタイムでもう1点取った。右からのパスを受けて菅澤が相手DF2人と競り合い、エリア内でバランスを崩しながらもボールをキープして、後方の杉田にパスした。杉田はペナルティエリアすぐ外から右足サイドキックで正確なダイレクトシュートをゴール右ポスト内に送り込んだ。

――2-0となりました

賀川:この自分たちの2ゴールは彼女たちにはイメージとして残るだろう。もちろんビデオでの再発見もあるだろうが、東アジアのこの舞台で自分たちが作り上げたチャンスはなでしこの財産となるはずです。3試合でなでしこの彼女たちはチームとして個人として成長できたのですよ。

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東アジアカップ 韓国に逆転負け

2015/08/07(金)

――男子は韓国に1-1の引き分けだったが、女子が1-2と逆転負けし、北朝鮮との2試合と合わせて、女子2敗、男子1分1敗となりました

賀川:女子日本代表は4年前のワールドカップの優勝、そして今年のカナダワールドカップの中軸となっていた選手に比べると、次の世代のレベルアップが遅れています。第1戦でもパスの失敗が多く、そのために何度もピンチを招きました。ピンチを招くだけで、攻めに出ようとしてパスミスでボールを奪われると、余計な労力を使うことになります。男子も含めて、サイドキック、特にダイレクトのインサイドキックをもっと正確に蹴れなければなりません。

――日本は前半30分に中島のシュートで1-0とリードしました

賀川:韓国側がボールの奪い合いに強くて試合は韓国が攻め、日本が守る形で続いていた。中島の先制シュートはペナルティエリア外2メートル中央やや右寄りのところで、右足で蹴ったもの。押さえのきいた素晴らしいシュート。韓国のDFに当たって方向が変わったのもよかったが…

――中島はINAC神戸でもキックの上手な選手として知られていますね

賀川:面白いことに、このチャンスは29分の左CKからで、まず中島が右足でCKを蹴り、そのハイボールのこぼれ球を中島がエリア左外からダイレクトでクロスをあげた。これはミスキックで高く上がってエリア外(ゴール正面)右寄りに落ちた。日本側がエリア内へ高いボールを送り、このボールが再びエリア外へ出てきたのを中島が蹴った。左CKに始まった彼女の3度目のキックが好シュートとなった。

――1-0でリードして後半は少しは良くなるかと期待した。しかし10分に同点ゴールを奪われました。

賀川:後半7分に日本の攻めでタッチ際ゴールラインから12~3メートルのところでFKがあった。キッカーは中島で、右足で蹴り、GKが防いで韓国側がDFでキープし前方へパスを送った。これがミスパスで日本のDFが取った。パスが最終ラインから中盤の上辻に送られたとき狙っていた韓国のチュ・ソヒョンが奪い一気にドリブルで持ち上がってペナルティエリアすぐ外の正面でシュートし、左ポスト側に決まった。彼女がシュートしたとき、3人の日本選手が近くにいたが、だれもタックルに行かなかった。

――佐々木監督は上辻の代わりに川村を入れて中盤の強化を図った

賀川:ボールキープの時間も多くなったが攻撃の大事なところでミスが出るのは変わらない。相手も1対1で自信を持ってしっかり守っていた。

――引き分けかと思ったら48分相手側にゴールが生まれた

賀川:FKから10番のチョン・ガウルの見事なシュートだった。暑い中で選手たちはよく頑張ったが、新しく加わった川村にパスが通ればと思う場面もあった。チャンスを何度も作ったのだから、やはり技術をもっと上げること、もちろん北朝鮮ほどの体格でなくても、もう少し体を強くすることでしょう。京川や猶本のような優れた選手でも、もう1ランク上のプレーができないと、ワールドカップのタイトル奪還などとは言えないでしょう。

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最後まで攻めの意欲を持った大会

2015/07/07(火)

FIFA女子ワールドカップ 決勝
日本 2(1-4、1-1)5 アメリカ

――完敗でした。前半5分間の2点が痛かった。これで0-2。14分と16分にも、こちらのミスから2点追加されました。

賀川:アメリカの方が気迫が充実しているように見えましたね。対日本のやり方を工夫していたようです。

――1点目は前半3分の右CKからでした

賀川:正確には2分32秒にラピノが右足で蹴り2分36秒にゴールが入った。

――4秒間になにがあったのか

賀川:ラビノは右足で低い球を蹴った。グラウンダーの速いボールだった。

――CK、FKでアメリカが相手だからなでしこは空中戦を覚悟したでしょう

賀川:速いグラウンダーに誰も触らずゴール正面に入ってきた。そこに岩清水がいた。しかし、岩清水が蹴る前にロイドがダッシュして左足のアウトサイドに当て、ダイレクトシュートがGK海堀の左を抜けた。

――ロイドはCKの直前はどこにいたのですか?

賀川:スロービデオで見直したら、ペナルティエリア正面外、10メートルぐらいのところにいて、キックの瞬間に走り出した。

――キックの瞬間は誰もがボールを注視します

賀川:ゴール中央正面、ボールが飛んでくるところにいた岩清水はキックの瞬間にボールを見る。そのときロイドはスタートを切っていて、ボールにプレーしようとする岩清水のニア(ボール側)に入ってきて、左足に当てた。当てたというよりアウトサイドで押さえたダイレクトシュートといってよいのかな。

――彼女は右左でボールを蹴る、ドリブルも突進も速いから要注意と試合前に賀川さんは言っていました

賀川:誰でも警戒すべき相手の一人と思うでしょう。当然なでしこ側も警戒していたはずだが、見事にやられたね。

――高いボールでなく速いグラウンダーのCK。それをエリア外から走り込んできたロイドが決めるという筋書きだったのでしょうか?

賀川:まぁそうでしょう。日本もCK、FKはいろいろ手を考えるでしょう。同じように相手も工夫しますからね。その相手が速くて、強い、一人だった。

――1点取られ、宮間がキックオフ前に皆を集めて何か言っていました

賀川:落ち着かせようとしたのでしょうね。

――他のスポーツなら監督がタイムを取るところだが、サッカーはできない

賀川:そこでキャプテンやベテランの指示や存在が必要となるのだが、強敵を相手に先制されてしまうと、落ち着けと言っても難しい。

――頭の中が真っ白になるとか

賀川:そんな状態の時にペナルティエリア右外で相手のFKが生まれた。ロイドとホリディの2人の攻撃からだった。

――1点目の右CKより、少し内側つまり、ゴールに近づいたところでのFKだった。

賀川:今度もグラウンダーだった。ボールにニアポスト側のゴールエリア右角(アメリカから見て)手前で小さくバウンドし、それをジョンストンが体の下で右足ヒールに当てた。ボールは密集する選手の上を抜け、ゴール正面、4メートルに落ちた。そこに来ていたのがロイド。今度は右側に回ってから入ってきたからボールを迎える形になった。バウンドしたボールを右足で押さえこんだように落とした。奪いに来た熊谷も、彼女をマークした岩清水も防げず、ボールは熊谷の足の間を通ってゴールへ入った。

――2点目のFKはそれほど速いボールではないように見えたが

賀川:ニアポストのジョンストンに合わせようとしたのかもしれない。1点目のCK、2点目のFKはそれぞれ示し合わせたものだったのでよう。

――2点をリードされた日本は?

賀川:当然、点を取りに行くことになったが、必ずしもパスが上手くつながったわけではない。パスミスがあってボールを奪われると相手の攻めとなり、そこにスピードのある何人かが絡むと難しくなるわけです。

――12分位に鮫島のクロスが一本ありました。これが初めての日本の攻めだった(GKソロがキャッチ)

賀川:ボールをつながずに互いに蹴りあう状態になるのは一番好ましくないこと。そのやりとりの内に相手の3点目が生まれた。13分37秒にアメリカの右サイドから日本のペナルティエリア内にロングボールが来た。そのワンバウンドを岩清水がどういうわけかヘディングで高く上げてしまった。ペナルティエリア中央やや右寄りに落下したところへホリディが走り込んでボレーで蹴った。乗っているチームはこういう偶発的チャンスも決めてしまう。ボレーシュートは見事にゴールに飛び込んだ。3-0。

――こういう状態の時のチーム、そして選手個々のプレーを立て直すのは難しいものですかね

賀川:そんな試合をしている間もなく、今度はハーフラインからのロングシュートが入ってしまうのです。

――キックオフした日本が、ボールを回して右のDFラインから中央の大野に渡り、そこから前方の宮間、そしてバックパスとなったボールが味方に渡らず、相手側に渡った

賀川:奪ったのはロイドだった。彼女は短いドリブルをしてGKがゴールから前へ出ているのを見て、ハーフラインからロングシュートをした。そのボールがなんと、海堀の上を越えてゴールに飛び込んだのですよ。

――女性でハーフラインからゴールへ目がけて蹴ってはいるのですから大したものです

賀川:私はかつてミッシェル・プラティニにインタビューしたとき、彼が16歳のころハーフウェイラインのキックオフマークからゴール目がけてボールを日に何十本と蹴ったと言う話を聞きました。彼の20メートルのFKがコントロールキックである理由「がその時知ったのだが、ロイドのキック力はまさに男勝りですね。

――感心ばかりもしておられないが、こういう選手のいる相手と戦うのがワールドカップですね

賀川:だからこそ、チームワーク、チームプレーが大切と日本のサッカーは対外試合のときに強調し、練習を繰り返してきたのだが、この場面は個人力を見せつけられたところだった。

――4-0といえば絶望的なスコアだが、そこからともかく1点を返そうと攻め始めたのがなでしこでした

賀川:21分の阪口のシュートが初シュートですから、ここまでワンサイドだったことがよくわかります。モーガンの左からの突進を有吉が防げず、左から中へ持ち込んだモーガンのシュートが25分にあった(シュートは弱く、GKがキャッチ)。

――そのあと27分に大儀見がいいゴールを決めた

賀川:右の川澄が中へドリブルしペナルティエリアで中にいた大儀見の足元にパスを送った。相手の4人DFの中央、CDFを背にして大儀見はマークを外して左足で落ち着いて決めた。彼女が実力を見せたいい場面だった。

――テレビの前で日本中が盛り上がったでしょう

賀川:30分には岩清水が相手のパスを奪って出てチャンスをつくり、宮間のシュートがあった。チーム全体の調子が上向きかけた時に、岩清水に代えて澤を投入し、さらに川澄に代えて菅沢を送り込んだ。

――賀川さんは「えっ」と言いましたね

賀川:まぁ岩清水の気分を考えてのこと、川澄は調子が上がっていなかったのだろう。一番近くで見ている監督さんの判断だから正しいのでしょうが…

――交代の効果は?というより、このあと日本のロングボールの攻撃が増えました

賀川:2トップにそれに強い選手を置いたというのかもしれないが、サイドからの攻めの回数は少なくなった

――前半にせめて2-4にしておきたかったが

賀川:後半はじめはアメリカが攻めた。もう1点取って叩きのめそうという気構えでしょう。その攻めが一休みした時、日本にFKのチャンスが来た。ハーフウェイラインから少しアメリカ側へ入ったところ。

――宮間の長いキックが行きました

賀川:競り合ったアメリカ側のヘディングがゴールへ流れてオウンゴールとなって2-4。

――アメリカは再度攻勢に出てきました。このあたりはすごいと思った

賀川:アメリカが左サイドの攻めで例によってゴールラインのニアポスト際まで入り、そのクロスから左CKとなった。キッカーはホリディ、ゴール正面へ蹴ってきた。このボールを叩こうとした海堀の手に当たらず、ボールはファーポストに落ちて、そこにその外にいたブライアンがサイドキックで中央へ折り返し、ヒースが決めた。

――モーガンが飛び込んできましたね

賀川:海堀がボールの落下点を見極めてジャンプの構えに入った時、ニアポスト側へモーガンがジャンプして飛び込んできた。彼女の飛び込みで海堀のフィスティング(こぶしで叩きだす)は不成功、ボールはファーポスト側へ落ちたのですよ。このあたりにこの日のアメリカのCK、FKの手法の多彩があるようにみえた。

――ハーフタイムで確認したかもしれない

賀川:日本から点をもぎとることに執着心が強かったのでしょう。

――宮間キャプテンは、常に「勝ちたいと強く思う方が勝つ」と言っていましたが…

賀川:アメリカは強い気持ちだけでなく、戦術的にも準備をしっかりしてきたのでしょう。点差が3点になっても日本はあきらめなかった。懸命に攻めたが、時間がたつにつれて「ロングボール」一点張りの攻めになった。このやり方では、一見攻め続けているように見えるが、それほど有効ではない。

――気持ちの上では攻めている気になるが…

賀川:岩渕の投入も、サイドからの崩しなどがあって生きるのだが、久しぶりに大儀見のようないいストライカーを持ち、いろいろな個性を集めながら結局それをうまく結びつけるパス攻撃、あるいは組織攻撃が仕上がる前に決勝が来てしまった、という感じだった。言い換えれば、準備期の不足、あるいはチームとしての練習量あるいは時間の不足かな。

――海外でプレーしている選手もいる。なでしこリーグもあるなかでの強化ですね

賀川:そういう大きな流れの話になる前に、もう一度この日の試合、あるいは大会をゆっくり振り返ることが監督、コーチ、選手たちにも大切でしょう。大会の最終日まで私たちを楽しませてくれたことに感謝のほかはない。

――女子のワールドカップは面白いと多くの人に感じてもらいましたからね

賀川:2011年は堪えて堪えて勝った女子ワールドカップだったが、今回は点差に諦めずに最後まで攻めの意欲を持った大会として記憶に残るでしょう。

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負けない気持ちで今度もファイナルへ

2015/07/02(木)

FIFA女子ワールドカップ 準決勝
日本 2(1-1、1-0)1 イングランド

――前半はPKでともに1点ずつ、後半アディショナルタイムで相手のオウンゴールが決勝点。壮絶な戦いは2-1でなでしこジャパンの勝利となりました

賀川:後半の45分が過ぎてあと3分の表示が出てからのゴールだった。どちらも疲れていた時だが、右サイドからの連動が相手にはアンラッキーな、日本にはラッキーなゴールを生んだ。

――中盤で奪ったボールを奪い返され、相手の体に当たって熊谷のところへ来たボールを彼女は落ち着いて右の川澄に渡した

賀川:このときイングランドの4人のDFラインはそろっていたが、中盤の2人がハーフライン近くにいて、川澄はフリーで受けた。彼女の上前方には大儀見と岩渕がそれぞれ「右寄り」と「左より」の中央にいて宮間が遠く左サイドにいた。

――川澄がドリブルを仕掛けたとき相手は出てこなかった

賀川:だから余裕を持ってクロスを送ろうと判断したのでしょう。ライナーのボールを蹴った。

――大儀見に届くかと見た時に、DFのバセットが右足をのばしてインターセプトしようとした

賀川:クロスはその手前へ落下してバウンドし、そのバウンドボールがもう一度地面に落ちようとするところだった。それにバセットの右足が当たった。多分足の先端部かな。ボールは空中に上がり、GKバーズリーを越えてゴールの右上角に近いクロスバーに当たった。

――当たって下へ落ちた

賀川:大儀見がこのボールに飛び込み、DFも防ごうとした。ボールが蹴りだされたように見えたが、レフェリーが「GOAL」を宣告したらしい。

――スロービデオが画面で、バーに当たったボールが50センチほどゴール内に落ちたことを見せてくれた

賀川:レフェリーがすぐに判定したのはゴール判定機のおかげかな。

――この大会では「ゴールラインテクノロジー」(ゴール判定技術=通称GLT)のひとつであるHawk-Eye(ホークアイ)システムも導入していたからです

賀川:ホークアイ、つまり「タカの眼」という名前ですね。しっかり見つめるわけだ。

――Hawk-Eyeは両ゴールやゴール近くに7台のハイスピードカメラを設置し、それぞれ違う角度からボールの正確な位置を撮影して、映像をソフトウェアが瞬時に解析する。ボールがゴールラインを通過すると審判の公式腕時計に暗号化された信号が送られる。そして公式腕時計が振動すると同時に「GOAL」と表示され、審判にゴール認定を伝える。1秒以内に判定を下すことができる。Hawk-Eyeは1会場について20万ドル費用が掛かるというのです

賀川:その機械導入のおかげで、歴史的なゴールの判定が正確に伝えられたということですね。

――この試合で、例によって岩渕が投入され、彼女の突破力で日本が受け身から盛り返そうとした。それをイングランドは防いではロングボールというシンプルだが彼女らにとっては効果的な展開を続けてきた

賀川:今のなでしこにとってイングランドは、決して戦いやすい相手ではないが、そこを我慢し、堪えることで防いで、こちらの形に持って行こうとした。必ずしもうまくいったわけではないが、最後までゴールを奪おうという強い気持ちが幸運なゴールになったのでしょう。こういうところはやはりなでしこジャパンです。

――これで決勝は、またまたアメリカとなりました

賀川:アメリカとドイツの準決勝はなかなかの好試合でした。アメリカの方が個人技術の上でドイツより少し優れたプレーヤーがいたのが勝ちにつながったが、もしドイツが前半のPKで先制していたら、どうなっていたかわからないような試合でした。

―― 一番上手な選手がPKをはずしましたから

賀川:イングランドは奪い合いの時のホールディングやプッシングの反則が多いので、PKで1点になると思っていたら、前半に有吉のペナルティーエリアへの走り込みからPKをもらった。

――宮間がしっかり決めてくれた。誰もが緊張する場面でしたが…

賀川:PKを蹴るときのボールへのアプローチの角度がドイツのキッカーと比べても理にかなっていた。日本の技術の高さを示すものですよ。こちらもPKを取られたがコーナーキックの競り合いの中から生まれたものだった。空中戦を強いられると、その落下点の競り合いもある。相手はそれを望んできたから大変だった。

――追いつかれて、力攻めで押し込まれてもなんとか持ちこたえた

賀川:イングランドはシュート力もあるが、そのシュートチャンスになでしこは体を寄せていきましたからね。幸運もあったが、彼女たちの負けない気持ちで今度もファイナルへ進めることになったのでしょう。

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なでしこ 力の強さまざまざ

2015/06/30(火)

2015年6月27日(日本時間6月28日)
FIFA女子ワールドカップ 準々決勝
日本 1(0-0、1-0)0 オーストラリア

――なでしこが完勝、オーストラリアを破ってベスト4に進みました。

賀川:すばらしい試合でした。欲を言えばキリはないけど、よくここまでチームが一つになりましたね。4年前の優勝経験を持つ選手と新しい顔が、それぞれ役割を果たしてのベスト4進出。佐々木監督がめぐまれた組合せをいかして、1次リーグのひとつひとつを足場にチームをまとめ、ノックアウトステージに入ってからも、オランダ、オーストラリアと、進化してきた大型チームを連破しました。

――後半の40分まで攻めながら得点できなかったが

賀川:後半20分あたりから、オーストラリアの選手の動きが目に見えて鈍くなってきました。前半から日本のパス展開を追いかけた疲れが出たのでしょう。

――暑い日中の試合でしたからね

賀川:内陸部のエドモントンは気温も高いはずです。日本選手に比べると暑さの響きやすいオーストラリア選手には開始早々からのプレッシング作戦で体力を消耗したのでしょう。

――ハーフタイムにも、相手のプレッシングが予想ほどではないというテレビのコメントがあったようです

賀川:私たち日本のサッカー人は夏の日中の練習や試合の苦しさを知っていますが、経験の浅いオーストラリアの若い選手のはじめの勢いは次第に消えはじめました。

――なでしこには、それほど暑さが影響したようにはみえなかったが

賀川:そこが彼女たちの我慢強さ、辛抱強さですよ。パスはよく通って、いいシュートチャンスもあった。しかし得点できなかった。こういう時は、自分たちの戦いを続けることだと攻め続けたのでしょう。

――監督はハーフタイムに、このやり方を90分、いや120分続ければ必ず勝てると選手に言ったそうです

賀川:それが40分を過ぎてからの左CKからのゴールになった

――少し詳しく説明してください。

賀川:スターティングメンバーは、GK海堀、DFが右が有吉、左が鮫島、中央が岩清水と熊谷、MFが阪口と宮間がボランチ、川澄が右、宇津木が左、FWは大野と大儀見という配置でした。

――オランダ戦から固定という感じでした

賀川:ポジションのひとつひとつに理由があり、それぞれは妥当だと思います。これに岩渕が攻撃の交代、澤が守りの交代メンバーとみてよいでしょう。

――大野は攻めの先端に出て、いい仕事をした。シュートチャンスも3本あった。得点は出来なかったが…

賀川:点を取れば満点ですが、72分の攻撃プレー、守りのプレーも十分に相手の脅威になった。その彼女に代えて、岩渕を投入した。

――彼女のドリブルはヨーロッパでも知られているとか。オランダ戦の2点目は彼女のドリブルがきっかけになりました

賀川:40分に阪口が相手のパスを見事にインターセプトした後、持ちあがって岩渕にパスをした。岩渕は相手を前にして、右足でピタリとボールを止め、左でシュートした。DFが足を出し、それに当たって左CKとなった。

――この時テレビを見ながら、賀川さんはニヤリとしていましたね

賀川:止めてからシュートに入る岩渕の動作はスムースでこの人の素質を表していますが、ここでもう一つシュートのフェイクでDFのタイミングを外してほしかった。うまいけれど、まだ若いなという感じでした。

――左CKは例によって宮間が蹴りました。たしか左足でしたね

賀川:上背があり、ヘディングの強いオーストラリアに対して、日本はCKの時、4人が縦に並んで相手のマークをまごつかせ、キックの前に一斉に散開するやり方でした。この時は、これまでのようにはキチンとした列ではなかったが…宮間のキックが中央ややニア寄りへ落ちてきた。熊谷がそのボールに飛び込み、相手DFの頭に当たったボールがペナルティエリア内で高く上がって落下した。

――宇津木がすごい勢いでこのボールの落下点へ走った

賀川:相手がいたが、足を出して蹴ろうとするところに走り込んで足を伸ばした宇津木の方に勢いがあった。彼女の足に当たったボールがゴール右ポスト寄りに詰めていた岩清水のところへ来た。

――岩清水が左でシュートした

賀川:崩れそうな姿勢だったが、岩清水の左足はボールをとらえた。目の前にDFと赤いユニフォームのGKウィリアムズがいて、ボールはウィリアムズに当たった。

――互いのからみ合いのなかで、岩清水がボールを足に当てた

賀川:ボールがもう一度ニアポストに戻った時、はじめゴールエリアの外にいた岩渕がいた。バウンドしたボールを右足ボレーで叩くのに躊躇はなかった。

――2人のDFが手を上げて何かを叫んでいた

賀川:こういう時のDFは大抵「オフサイド」と叫ぶのだが、実際はどうだったか…

――いつもだったら、誰かがボールを取りにゆくことが多いが、このゴールインの瞬間、皆が抱き合っていました

賀川:43分に日本は阪口に代えて澤を送り込み、守りの体勢に入った。ロングパスの空中戦を挑んだオーストラリアだが、最後のロングシュートがGK海堀の正面に飛んで、キャッチで終了の笛が吹かれました。

――何度ビデオで見ても飽きない場面ですが…

賀川:いまの日本代表でできる試合を冷静にしかもよく走って、自分たちの技術を発揮して勝った。怪我で戦列を離れた安藤を含めて、チーム全体の勝利と言えるでしょう。

――ベスト4はほぼ予想通りの顔になりました

賀川:ここまでカナダの女子ワールドカップは好試合が多く、女子のレベルアップを示すものものです。女子サッカーの美しさと彼女たちの戦闘意欲、そしてフェアプレーはFIFAの大きな組織の頂点で取り沙汰されているスキャンダルとは全く別のもの。これほどすばらしい女子サッカーを盛んにしたFIFA自体が自分たちが生み出した大会同様にフェアプレーに立ち戻ってほしいと、つくづく思います。

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女子ワールドカップ 対カメルーン戦(続)

2015/06/17(水)

――カメルーン戦の個人力による突破を防ぐのに苦労していました

賀川:17番のエンガナムイが特に目立ちましたが、このプレーヤーは足が速く、また、体力があった。強いだけでなく足が早く出てくるところが北欧などの大型選手と違うところです。ハーフタイムで指示されたのでしょうが、後半は前半よりも日本選手のマークの距離を近くしてきただけに、日本側も少しやりにくくなりました。もちろんホールディングやトリッピング、特に遅れて入ってくるタックルになでしこの各選手はやりにくかったと思います。彼女たちは自分たちのファウルをそれほど悪質でないと思っているようで、彼女たちのためにもレフェリーはもっと強い調子の笛を吹いた方がいいと感じました。こういう相手に接触プレーはできるだけさけ、早いテンポで、早めにボールを動かせばいいのですが…

――それにはサイドキックを始め、短いパスの正確さと 、動きの量も必要ですね

賀川:そのとおりですが…縦パスを失敗して相手に奪われると一気にピンチになることが多い。今年のなでしこは第3列(DFライン)からトップの2人へ入れるパスが多くなっていますが、このパスは「出し手が見えること」「受け手は背を向けてボールをとること」で相手のCDFたちにとっては奪いやすいのです。そして宮間が左サイドのMFになると、どうしても長いパスになる。いくら良いパスでもボールの距離が長ければ、相手にはつぶしやすい。宮間に限らず、スイス戦でも、カメルーン戦でも気になりました。

――FK、CKという停止球の宮間は素晴らしいのです

賀川:彼女のことだから考えがあって自分のパスの長短、強弱を試しているのかもしれません。ノックアウトステージに入ってから、どうするか期待はしているのです。

――澤選手は

賀川:第1戦は途中まで、第2戦は途中から入りました。前回のワールドカップのときと同じと言えるかどうかわかりませんが、チャンスメイクの力、ピンチを見る目などはやはり「澤さん」というところです。この試合で長いクロスに飛び込んで行ったプレーもありました。もともとヘディングも強いのですが、カメルーンのような個人力の強い相手には澤さんであっても、単なるクロスでいいのかどうか…

――そういうクロスやパスの精度も試合で高めてゆくことになる?

賀川:それがなでしこジャパンです。世界チャンピオンの経験者に新しく代表に加わった力のあるプレーヤーもいるのです。これまでの準備の時間の足りなかった分を、大会中に磨いていくことを続けていますよ。ともかく全員で勝ち取った勝点6でここを足場にいよいよ強敵との戦いに向かって行ってほしい。

――もちろん、第3戦、相手は少し力は下ということです、どういう顔ぶれで試合をするのか、あるいはその間に休養を取ることが大切なのか

賀川:経験豊富な監督と選手たちがこの大会をどう乗り切って行くのか見るのも楽しみですね。

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見る者をハラハラさせながら、ともかくセカンドステージへ

2015/06/16(火)

――なでしこジャパンが2勝でCグループのトップに立ち、ノックアウトシステムのセカンドステージへ進むことが決まりました

賀川:初戦の対スイスが1-0、対カメルーンが2-1と1点差の際どい勝負でした。スイス戦の後半も、第2戦の後半も、相手に何度かチャンスもあって、ハラハラしました。それだけに勝った喜びも大きいのですが…

――まさに、なでしこジャパンの試合というところでしょう。カメルーン戦は前半の早いうちに見事な攻めで2点取ったから3点目を取れば楽になると誰もが思ったでしょう

賀川:バンクーバーまで駆けつけたサポーターもテレビの前の皆さんもそう思ったでしょうね。2-0の試合は次の3点目をどちらが取るかで形勢が変わることが多い。この試合の3点目はカメルーン側だったが、試合の終り頃だった。

――それでも勢いに乗ったカメルーンは残り時間でも惜しいチャンスを作った

賀川:足をつって海堀に助けられていたエンガナムットのヘディングシュートが左ポストぎりぎりに飛びましたからね。試合前にカメルーンの選手たちが国家を歌う姿や、スタンドのカメルーンサポーターらしき人たちを見ていると、女子のワールドカップが急拡大して24チームになったのも悪くはないと思いました。大戦後の1960年に独立したこの国は、男子のサッカーではすでにアフリカの強国のひとつになっているが、女子のワールドカップでも大西洋を渡り、カナダの西端までやってきて、太平洋岸のバンクーバーで試合をする、その会場でサポーターも選手も国家を歌うのですよ。

――今年は戦後70年だから、賀川さんのような戦中派には格別な思いがあるのかも…

賀川:大戦中はヨーロッパの植民地だったアフリカ諸国が戦後に続々と独立し、国家としての経営がうまくいっているところも、そうでないところもあるようですが、サッカーのこうしたひのき舞台で、しかも女子のチームがプレーするようになったのを見ると…

――なんのかの言っても、世界は少しずつ良くなっていると?

賀川:そう思わない人もいるらしいが、私たちのようにフットボールにかかわってきた者には、少しサッカーが誇らしげに思いますよ。

――ただし試合を見ながらカメルーンのファールの多さにぶつぶつ言っていましたよ

賀川:74年から98年までのアベランジェ会長、さらに98年から今まで続いているブラッター会長のもとで、FIFAは世界中のサッカーの浸透を図りました。2010年南アフリカでのワールドカップもそのひとつですが、その拡大策にFIFAがもうひとつ掲げる「フェアプレー」の浸透が追いついていない…という感じもあります。

――FIFAの内部にフェアプレーでないものがあって事件になっています

賀川:そういう芳しくない事件と併行しての女子ワールドカップです。だからこそ、前回チャンピオンのなでしこジャパンは、フェアで気持ちのいいフットボールをすることが大切でしょう。

――前半の2点は日本の技術、戦術の高さを見せてくれました

賀川:この試合は、第1戦のメンバーとは先発を5人変えました。GK海堀、DFラインは右から近賀、岩清水、熊谷、宇津木、MFに川澄、阪口、宮間、鮫島、2トップは大儀見と菅沢でした。近賀と川澄がスタートから出場したことで、右サイドからの攻めが目立ったでしょう。宮間がトップ下にいたので、パスの距離が短くなって、有効な組み立てができた。
――1点目は右タッチ近くで宮間-近賀-川澄とわたり、少し内側でボールを取った川澄はノーマークでゴール前へ速いクロスを送り込みました

賀川:中央の大儀見が飛び込み、タッチできそうだったがボールに触れず、左へ流れたのを鮫島が走り込んで左足でゴールへ叩き込みました。

――ゆっくりしたペースパスから、川澄の速いクロスがあり、大儀見の飛び込みのところに相手DFが2人引っ張られて鮫島はフリーになっていた

賀川:左MFに鮫島を配置したのは、佐々木監督にとってはテスト済ですが、鮫島は左利きですから速いクロスのバウンドにもしっかり足を合わせることができました。監督は腹のなかで、ニコリとしたでしょう。

――2点目は左のショートコーナーからでした。キッカーの宮間がショートコーナーにして、戻ってきたパスを受けてペナルティエリア左外から蹴って、高く上がり、右ゴールポスト際へ落下するボールを蹴りました。高く上がったので、飛び出したゴールキーパーはジャンプしても届かず、その外側へ落下したボールを菅沢がヘディングでゴールネットへ叩き込みました

賀川:CKの時、コーナーからファーポストへ蹴ることのできる宮間ですが、やはり距離的に「いっぱい」の感じです。ショートコーナーにしたことで、宮間は少なくともコーナーよりは近い距離からのクロスになり、コントロールキックを蹴るときも余裕が生まれます。こうなれば、彼女のクロスは高さもスピードも意のままで、世界的なぎじゅるが発揮できるのだと思います。

――1点目は右サイド、2点目は左サイド、パス攻撃の流れの中と、CKという停止球からの攻めに違いはありますが、どちらもサイドからの攻めでした

賀川:サイド攻撃での2ゴールです。そうそう、ショートコーナーは、キッカーにとって距離が近くなるだけでなく、一つパスがサイドで入ることで、それだけ相手DFの目がサイドに向けられるので、攻撃側はマーク相手の視線から「消える」動きもできるのです。

――だから、ファーポストの選手がフリーになっていた

賀川:カメルーンのDFたちの守備についての訓練不足もありますが、このサイド攻撃のゴールで、なでしこの自分たちのゴールへの展開に新たな自信を持ったでしょう。

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第1戦でスイスを破り勝点3 ケガの安藤さんに感謝し、回復を祈ろう

2015/06/05(金)

――カナダでのFIFA女子ワールドカップでなでしこジャパンはまずグループリーグで1勝しました

賀川:対スイス戦はハラハラしたから、それだけ勝点3を取って、良かった良かったという感じです。

――物足らぬという人もありましたが

賀川:2011年のワールドカップ優勝から、ロンドン五輪でのメダル、なでしこリーグなどの一連の日本女子サッカーの動きや、代表の試合を眺めてみれば、ひとつの大きなヤマを越えたなでしこジャパンのメンバーが4年後にもう一度ワールドカップに挑戦する…自分たちだけでなく新しく育った後輩たちとともに連覇にチャレンジする、そのためにカナダへ渡って行ったこと、そのことだけでもなかなかのことです。そして、初戦で勝点3を取ってグループリーグを有利に戦えるのですからね。試合を重ねることでチームの調子が上がり、適切な休養と試合の繰り返しで選手のコンディションも良くなると期待しています。

――カナダのバンクーバーで日本-スイス戦に3万人を越える観衆が集まったのだから現地も盛り上がっているのでしょう。

賀川:前回のドイツ大会での日本の優勝が世界の女子サッカーの刺激になったことは確かでしょう。いま4年前の大会と比べると今度の大会は各国ともに進化していることが見て取れます。

――第2戦以降でなでしこジャパンに期待することは

賀川:宮間キャプテンの位置が少し後ろの感じで、パスの長さが気になります。まぁ、経験ある人だから、いろんなテストなり、やり方を考えてのことかもしれません。澤穂希さんの調子がまずまずなので安心しました。こういう檜舞台の映像を見て、若い女子選手も男子選手も彼女のひとつひとつのプレー、技術の確かさ、それを効果的にするランと読みを堪能してほしいと思っています。

――安藤さんがケガで戦列を離れました

賀川:貴重なゴールのもととなるPK、相手のゴールキーパー衝突したための故障です。わたしたちは彼女に感謝し、残りの試合に出られない心情を察して、回復の早いことを祈りましょう。

――なでしこジャパンは彼女のためにもしっかり戦うでしょう。テレビの前で応援しなくてはなりませんね。

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INAC神戸の優勝

2013/10/19(土)

――なでしこリーグで、INAC神戸レオネッサが4試合を残して優勝を決めました。女子サッカーの推進者のひとりでもあった賀川さんとしては

賀川:神戸のINACのようないいチームがいてくれるので、とても楽しい日々ですよ。BSフジで毎週の試合を見られるのもとてもうれしいですね。Jリーグの各クラブも力を入れるようになって、なでしこリーグ全体のレベルアップが進んでいるが、INACは澤穂希という別格の選手がいる上、川澄、近賀、海堀といったワールドカップのチャンピオンになった選手がいます。若い伸び盛りのプレーヤーも多くて、毎週の試合は見逃せないものになりました。

――テレビの前で試合を見ながら、つぶやいている内容をそのうちまとめてみたいですね
賀川:13日のテレビ観戦はとりわけ力が入りましたよ。

――というと

賀川:INACのトレーナーの山田晃広さんがブログで私のことを知り、いくつかの質問があるというのでティータイムに会いました。その時、澤穂希と近賀ゆかりの2人の選手も一緒だったので、にぎやかで楽しい時間になりました。

――ふーむ。それはよかったですね

賀川:サッカーに打ち込んでいる若い人と会話をかわせば、そのプレーヤーが気になるものです。ましてワールドカップ優勝の2人ですからね。

――で、優勝決定のテレビ観戦の感想は

賀川:サッカーの質から言って、INACの優勝は当然ですが、澤のコンディションが回復し、故障で長期離脱していた近賀が復帰しての連続優勝決定だから、とてもよかった。1-1の後の決勝ゴールは、チ・ソヨンが持ち上がり、中央やや右寄りの川澄にパス、川澄がそれを右サイドを駆け上がる近賀へ。近賀がダイレクトで早いクロスを送ったところへ、チ・ソヨンが飛び込んでヘディングを叩きこんだ。後方から走りこんできた勢いそのままのすばらしいヘディングシュートだったが、近賀のクロスはパーフェクトだったし、そこへパスを出した川澄のドリブルとボールを離すタイミングも見事だった。自陣で奪ってからチームの多くがからんだこういうゴールを決めた時に、おそらく選手たちはサッカーというチームゲームをやっていてよかったと思うだろう。この日スタジアムに集まった観客にとって、サッカーの醍醐味を感じつつ、ホームチームの優勝を見つめるという幸福な時間。女子サッカーのレベルアップをリードするINACにとっては、次のステップへ上がるための励みとなる優勝決定だろう。

――なでしこジャパン、なでしこリーグについても、これから話を聞かせてもらいたいと思いますが、INAC神戸は19日の試合でも浦和に2-1で勝ちました。

賀川:テレビで見ましたよ。DFのボール処理が遅くなってボールを奪われて、先制点を取られた後、前半の早いうちに同点ゴールと2点目をもぎ取って逆転しました。1点目は右サイドにいた高瀬がライナーのクロスを送り、相手DFに当たって高くゴール前に上がったのを澤が相手とジャンプヘッドで競り合い、こぼれた球をゴーベル・ヤネズが左足でシュートを決めたもの。右からのクロスが送られた時に、ペナルティエリア内に4人が入っていて、相手に当たったリバウンドを澤が長身DFと競り合った。その時のスロービデオを見ると、身長差のある相手に精いっぱいのジャンプをして互角以上に競り合っていたのがとても印象的で、このためボールはポトリとゴール前に落ちて、ゴーベル・ヤネズのシュートとなった。彼女の左足シュートにしても、右足でしっかり立っているために、バウンドの高さにあわせてボレーを蹴っていた。こういう落ち着きと、体のバランスの良さが彼女の得点力のひとつとなっているのだろうと、改めて感服した。

――2点目は

賀川:後方でのDF間でのパスを受けた右サイドの近賀が、ボールを右足で止めるとすぐ前方に向き、縦のパスを川澄の前へ送った。例によってさりげなく正確なボールで、川澄はペナルティエリア右いっぱい、ゴールライン近くでダイレクトでクロスを送り、ファーポスト側へ入ってきた高瀬がヘディングで叩きこんだ。シンプルで美しいゴールだった。

――浦和も進歩したということですか

賀川:体力面でも、ボール扱いの面でも、個人的に上達しているのだろうが、ボールをつなぐよりも前方へ蹴って走るというサッカーだから、攻めるときにチームワークという感覚が生まれにくい。代表チームの底上げということを考えると、個人技と同時にチームゲームのセンスを高めることが大切だろうと感じた。もちろん2-1となった後、INACに追加点が生まれなかったのは不思議でもあり、男子の日本代表と同様に、シュートの練習の不足していること、またキックについての一人ひとりの工夫が足りないようにも見えた。

――その他には

賀川:気づいたことは多いが、優勝した試合直後、テレビでクローズアップされた川澄キャプテンのホッとした表情は忘れられない。いつの試合でも、最後まで運動量を落とさない彼女の責任感と努力にはただただ感嘆です。

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アルガルベカップ

2013/03/21(木)

――ポルトガルで開催されたアルガルベカップでなでしこジャパンは5位といういささか不満な成績でした。新しい代表チームを作り上げるために新メンバーの経験を積ませようとしたのでしょうが、試合内容もパッとしなかった。

賀川:もともとこの大会はヨーロッパの一番西にあるポルトガルの一番南のアルガルベ県一帯が気温温暖なのに目をつけたノルウェーの申し入れで20年前に国際親善試合が生まれたのです。

――20年前と言えばノルウェーは女子サッカー先進国でしたね

賀川:スウェーデンもそうだが、これら北欧は3月はまだ冬だから、この地方の暖かい気候が魅力だったのでしょう。なにしろ海の向こうはアフリカのモロッコですからね。

――それで1994年に米国、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、ポルトガルの6カ国が参加して国際大会を開催した

賀川:2002年には12チームが集まるようになった。12チームのうち、レベルの高い8チームがA、Bグループに分かれ、各グループ内の上位で優勝を争うことにして、ポルトガルを含むC組は下位リーグとしている。

――ポルトガルは男子はクリスティアーノ・ロナウドをはじめワールドクラスの選手をたくさん生み出し、ヨーロッパの競合のひとつだが、女子はまだ強いとはいえない。それでもこういう大会をするだけの数多くの芝生のグラウンドがあるのですね。それも大都市でなくてね

賀川:テレビを見ても、観客は少ないようですね。今年は風雨の強い日もあったが、親善試合で交代も6人できるということもあって、各国の代表強化の大事な大会となっているのです。日本にとっても一昨年はワールドカップの前に、昨年はロンドン五輪を控えて、いい経験の場となったね。

――佐々木則男監督は2年後のワールドカップ(カナダ)を目標にする代表の新しいスタートの場にしたわけですね。

賀川:今度のなでしこジャパンには澤穂希をはじめ宮間あや、大野忍、阪口夢穂たちを招集しないで、若い新しいメンバーを加えてきた。その合計23人のプレーヤーを、1次リーグ3試合と5位決定戦の合計4試合に全員をピッチに送り込んだ。ゴールキーパー人を含めてです。

――選手に経験を積ませるという意味ではまずまずですか

賀川:先述のベテランたちがもう必要ないというのではなく、将来に備えて新しい顔ぶれを実際に試合させようということと同時に澤や阪口、宮間たちがいなくても、これまでの中堅選手たちがどれだけやれるかを監督さんは見たかったのだろうね。

――賀川さんの評価は

賀川:DFは岩清水(3試合)、熊谷(4試合)のこれまでの2CDに長船加奈(仙台)が2試合に出場した。サイドはレギュラーで故障中の近賀ゆかりと3試合に出た鮫島彩に、加戸由佳(湯郷)、有吉佐織(日テレ)がそれぞれ3試合、2試合に起用されてまずまずでした。

――第1戦の対ノルウェーで2失点しましたが

賀川:これは相手の左サイドの攻撃に対して当方の右サイドの守りの相性が全く悪かったためで、これは5人の新顔を先発に起用したことで、むしろ采配ミスでしょう。

――監督さんもそう言っていましたね

賀川:日本の選手育成は個人能力、特にポジションプレーの向上ということに未発達な部門があります。男子代表が今度のイタリア人監督ザックさんになってポジションプレーという考えが強くなっているようですが、守でも攻でもポジションプレーの基礎ができなければチームワークは成り立ちません。

――MFは大ベテラン陣がいたところだったから…

賀川:今回もここが問題でした。守備的MFとしては田中明日菜(INAC)と宇津木瑠美(モンペリエ)が主力になり、攻撃的MFにはおなじみの川澄と高瀬愛美のINAC勢、田中陽子と中島依美の若手INACも起用された。若い2人はこれからの可能性が見えましたが、川澄と高瀬がこれまで実績があるだけにもう少し成長を見せてほしかったところです。

――FWではドイツにいる大儀見優季の評判がよく、小柄なドリブラー田中美南(日テレ)がドイツ戦でゴールしてヒーローになりましたが…

賀川:フランスのリヨンにいる大滝麻未は期待の割には働けなかった。フランスの試合でどれくらい出場しているのかな。大儀見の妹の永里亜紗乃は技術もあり、体がお姉さんのようにしっかりしてくれば…

――ゴールキーパーは187センチの山根恵里奈が2試合に出場し、これまでのレギュラー海堀と久野吹雪が1試合ずつ。

賀川:日本人の女子代表で初の180センチを超える大型ゴールキーパーですね。

――ということになると、今度は少し体格の点ではこれまでより少し大きくなっています。

賀川:それは悪くないが、日本のサッカーの特色であるボールテクニックの高さ、動きの早さという点でどうでしたかね。体格、体力という点ではヨーロッパ勢や中国選手に比べると見劣りしますが、技術と早さと運動量で買ってきたことを忘れては行けないでしょう。小さくても田中美南の早さがドイツ選手に通じていたのです。

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FIFA U-20女子ワールドカップ 3位決定戦 U-20ナイジェリア女子代表

2012/09/10(月)

ヤングなでしこ 2(1-0)1 U-20ナイジェリア女子代表


――しんどい試合でしたが、ヤングなでしこ耐え抜きました。3位を取りました。

賀川:ナイジェリアの女子のチームがものすごくがんばるのに敬服した。彼女たちが勝っても不思議ではない流れだった。

――日本にツキがあった

賀川:誰もが言うことだが、ツキも努力なしではやってこないから、日本の勝ちにはそれだけの値打ちがありますよ。ただ私はアメリカの女子社会でこのくらいのチームが(前大会2位だから)どんどん出てくるようになったことに女子サッカーの世界への浸透ぶりを感じましたよ。

――アフリカも地域によっての差はあるでしょうが、ナイジェリアは個のボールテクニックもパス交換のテクニックもしっかりしていた。

賀川:フィニッシュが今一息だった。それも日本のディフェンスがボールをまわされても、逆を取られても諦めずに体を付けていったからです。

――ドイツ戦の教訓が生きた

賀川:内実は違うけれど、1968年の杉山隆一や釜本邦茂たちの銅メダルと経過はすこし似ているでしょう。準決勝でハンガリーに5-0の完敗をし、そのショックから立ち直って3位決定戦でメキシコを破った。2点先行し、あと押しまくられたが、粘り抜いて防ぎきって無失点で勝った。

――あの時は試合途中からメキシコ人サポーターがメキシコチームにブーイングをするようになった

賀川:今度のヤングなでしこには2万9400人の声援があった。いまの日本は、いいサッカー国になろうとしていますよ。

――田中陽子の先制ゴールに驚きましたね

賀川:相手の守備ラインの外、25メートルからの左足シュートは彼女の気迫と技術がこもっていた。本田圭祐ばりのシュートだった。ドイツとの試合は途中でベンチに引っ込んだ。いいプレーができなかったことで、チームのために自分の何をどこで表現するかを考えていたのだろうね。試合後のインタビューは「蹴っちゃいました」だったが、心に思い、頭の中で組み立てていたことがあの瞬間に出たのだろうと思いますよ。

――2点目は柴田と西川のゴールでした

賀川:柴田が相手のDF網の外でどういうボールの受け方をしたのか、テレビの画面だけではわかりにくいのだが、彼女のドリブルのうまさと、右へかわして左へ流し込んだパスのうまさ、その柴田のドリブルの体勢を見て、マーク相手の裏を抜けてパスを受けた西川と、その後のシュートがよかった。

――韓国戦では1点目に西川がパスを出し、柴田が決めたが、今度は柴田がパスをして西川が決めた

賀川:西川は右回りで右足でシュートする方が得意らしいが、今度は左前へ出て左足のシュートを決めた。パスのタイミングがよくて、全くのノーマークで相手は前へ出てくるGKだけだった。こういう点の取り方は、彼女にもプラスになったでしょう。

――後半に2人を投入した監督の采配もよかった

賀川:そうですね。柴田は小柄であっても体の踏ん張りがきく点では、このチームでも右翼でしょう。彼女を登場させない手はないだろうと思っていたら、やはり使ってきた。

――小柄で知られていた賀川さんは小兵の利も知っているはずですね

賀川:彼女のボールコントロールは、男でいえば香川真司の感じですね。この試合でも後半に田中陽子や田中美南、あるいは西川といった選手が決定的と思われるチャンスで止めそこなった場面があったが、柴田にはそういう記憶はない。バルサのメッシやイニエスタをはじめ、何人かの選手を見るとき、サッカーはボールコントロール、ボールタッチの感覚がまず素質の重要部分ということが理解できるが、柴田のプレーを見ていると、その大切さを改めて思いますよ。もちろん素質があるといっても、常に練習していなければならないが…

――ナイジェリアの攻撃を耐えての、いわば全力を尽くしての勝利といえるでしょう

賀川:選手や監督が6試合をここまで戦い勝ったことは、まさに銅メダルに値するチームであることを証明したが、ベスト4のひとつ、優勝したアメリカとは未戦、ドイツに負け、ナイジェリアと大接戦という結果をみれば、次に金メダルを目指すと言ってもそうやさしいものではないと言えます。韓国も追い上げるでしょうし、北朝鮮だって実際に試合すればどうなるか。世界の女子サッカーの進歩を考えれば、日本もここで安心してはおれないでしょう。しかし、何といってもホームで日本のメディアと観衆の前で彼女たちが6試合を立派に戦ってくれたことで、こうした世界の女子サッカーのこともサッカーファンが理解できたのですから。やはりヤングなでしこの今回のがんばりには敬意を払い感謝すべきですよ。だいいち、彼女たちは試合ごとに成長した。もちろん相手によって力を出せなかったこともあるが、そうした大きな経験をつんだことはすばらしいことです。

――個人技上達を強調するあまりにチームワークへのヒントや練習がおそろかになったのでは――という見方もありますが

賀川:そういう「根」の問題についても、これから折に触れ語り合いたいと思います。

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FIFA U-20女子ワールドカップ 準決勝 U-20ドイツ女子代表

2012/09/09(日)

ヤングなでしこ 0(0-3)3 U-20ドイツ女子代表


◆静かに闘志を燃やしていた?ドイツ

――完敗でした。ドイツ強しでした

賀川:不勉強でこれまでドイツのU-20代表を見たことがなかったが、リーグの運営も選手育成組織も世界で一番しっかりしているドイツのこと、まして女性だからドイツの今度のチームは強いだろうと勝手に想像していた。

――で、そのとおり

賀川:というより、最初彼女たちがピッチに散って、キックオフしボールを何人か触った時、いい選手たちだ、これこそヤングなでしこにとって全力で戦える相手だと思った。

――負けるとは?

賀川:というよりも、うれしかった。先制ゴールを取られた時もまだそういう気持ちだったが…

――いい相手どころか、いきなりガツンとやられて、こちらは縮んでしまった

賀川:そういえばキックオフ前にテレビがピッチに入場する直前の選手たちの表情を映していたでしょう。その時、ヤングなでしこたちは互いにおしゃべりし笑い合っていた。遠足にゆく感じに見えた。それを見ながら強敵を相手に彼女たちは気持ちを高めるのにこういう形をとるのかとか、あるいはこういうものを平常心と思っているのかな、などと思いました。

――というと

賀川:相手のドイツのU-20たちは皆黙っていた。互いに話もしていなかった。日本選手の笑いさざめくのにチラリと目をやるものもあったが、大半は知らぬ顔をしていた。その対比がとても面白く、また不思議だった。

賀川:準々決勝の韓国戦の時もやはりスタンド下の通路で日本選手たちはおしゃべりし、笑い合っていた。韓国もそれに対応するように、何やら互いにおしゃべりしていたのを思い出した。

――90分後のドイツは抱き合って喜びあい、日本は涙にくれた

賀川:そういう試合のあとさきの情景はともかく、試合はスタートからドイツ側の思い通りだったといえるだろう。

――なにしろ1分以内のゴールですから

賀川:このゴールの発端は、日本の左サイドでドイツ選手が3人がかりで猶本のボールを奪うところからですよ。ひとりが持ち出して、マロジャンにパスした。14番をつけた長身のストライカーです。彼女は後方からのボールを戻るようにして受け、藤田が奪いに来るのをかわして前方へいいタイミングでスルーパスを送った。ボールは日本のCDF土光の右側を通りDFラインの裏へ。それをロイポルツが後方から走り抜けて取り、右足シュートをゴール左下隅へ決めた。ロイポルツは自陣センターサークルにいたのだが、猶本のボールを仲間が奪うと、タイミングを計りながら前進し、ボールを注視していた土光の背後を走りあがったから土光は気づくのが遅かったと思う。

――先制されガクッときた日本はしばらく立ち直れなかった

賀川:事前にどれだけ情報を取り、それの対応策をどれだけ工夫したのかな。頭の中の工夫でなく、たとえば4日の間に接触プレーなどを実際にしたのかなということもある。

――たとえ付け焼刃でも

賀川:自分より大きい相手が早いぷレッシングに来る。予想より早い強い動きにとまどう、ボールを取られる、いつもなら取り返せることもあるが、相手はしっかりとキープしてしまう。いや、キープよりもどんどん突っかけてくるので混乱する――ということになる。

――気がついたら0-3になっていた

賀川:それほどでもないだろうが、何とかしようと思っても、これまでは自分たちが仕掛けて勝ってきたのが、受け身になってしまうと弱点が出てくる。こういう時にはそれが積み重なる。

――日本が少し攻める時間帯も出てきたが、12分過ぎに2点目を取られました

賀川:五分五分の攻め合いという流れのなかで、相手のマロジャンのシュートがあり、それを土光が体に当てて防いだ。そのリバウンドを左DFの浜田が前方へハイボールを蹴った。西川を狙ったのだろうが、相手ボールとなりタッチライン際からロングボールが返ってきた。このボールを木下がヘディングに失敗し、ワンバウンドしたボールをマロジャンが蹴って前進したGK池田の上を抜いた。長身の彼女に気を取られて木下がボールの落下点の目測を誤ったのだろうが、それまでハイボールを使っていなかったドイツが、日本が高いボールを蹴ったのに反応して後方からハイボールを蹴ったという感じだった。

――ハイボールの応酬がマロジャンのタナボタのようなゴールにつながった。

賀川:身長差がそのまま出る日本にとっては実に防ぐに難しく、相手にとっては誠にやさしい2点目だった。

――3点目はCKからのヘディングで、相手の得意の形でした。

賀川:先制ゴールの効き目もあるだろうが、自分たちの方が上手だと思っていた、その技術がなかなか通じないのは、選手たちの立ち直りを遅くしたのだろうね。


◆個人力アップとチームワーク向上の両方を

――後半は攻めたが、ゴールにはならなかった

賀川:ドイツは走力も落ちなかった。なでしこが勝つには技術と走力が相手以上でないと難しい。

――相手側に対する準備は

賀川:日本側もドイツの試合のビデオを見てはいたようだが、まず走り勝つという気構えが必要だったかも。

――もちろんそれを実行できるコンディション調整がどうだったか、ということになるが
賀川:こういう相手とほんとうに全力を出し切る試合をしてほしかったとも思うが、こういう負け方をして、その悔しさをバネに、もう一度自分たちの素質や技術を見直すチャンスを得たと思うこともできる。通用したプレーもあったのだから、個人力アップに努めてきたこれまでのキャリアの上に、チームゲームとしてのサッカー、個人技をチームでどれだけ役立たせるかを工夫すること、そしてこれまでと違って不得手なプレーの克服をもう少し考えることだろうね。

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FIFA U-20女子ワールドカップ 準々決勝
 U-20韓国女子代表 上

2012/09/02(日)

FIFA U-20女子ワールドカップ 準々決勝
ヤングなでしこ(U-20日本女子代表)vs U-20韓国女子代表

ヤングなでしこ 3 (3-1) 1 U-20韓国女子代表

◆典型的で高レベルの女子日韓戦を制してベスト4へ


――ヤングなでしこが、この大会で初めてベスト4に進みました。それもライバルの韓国を倒してのことです。

賀川:試合としても、とてもいい試合だった。両国代表の特徴がよく出ていてまさに「日韓戦」だった。

――早いうちに先制ゴールを取りました。

賀川:すばらしい速攻で、すばらしい個人技の組合わせで生まれたゴールだった。少し固い感じのあったヤングなでしこだったから、この早いうちのゴールは効き目があった。

――ハーフウェイラインあたりから左サイドの田中陽子から足下へのパスを西川が受けるところからですね攻撃は

賀川:(1)後方からのパスをCDFのキムを背にして受けた西川は
(2)少し戻り気味にトラップしつつ半身になり
(3)右足で相手のDFラインの裏へスルーパスを送った
(4)ボールはもう一人のCDFシンの裏へ出て、彼女が懸命に伸ばした足の前を通り過ぎる
(5)シンの右側、つまり中央にいた柴田がいいスタートを切っていて、ゴールへ転がっていくボールを追う
(6)飛び出してきたゴールキーパーがボールを蹴ろうと右足を振るより一瞬早く柴田が右足のトーでこのボールを突いた。ゴールキーパーの右足は空振りとなり、ボールはそのままゴールへ吸い込まれていった。

――西川がパスを受けて、相手DFを背にボールを止めてターンしつつ、スルーパスを出したのが第1の山。第2はゴールキーパーよりも一瞬早く柴田がボールに触れたこと。賀川さん流に言えばこうなりますね。

賀川:この日のラインアップは、ワントップがこれまでの道上ではなく西川だったでしょう。この人はスイスとの第3戦で途中から交代出場して、チームの3点目を決めた。田中陽子の右足と左足のFKで2−0とした後だったからメディアではそう大きな扱いにならなかったが、CKだったかのリバウンドを後方へ戻りながら振り向きざまにニアポストぎわに右足でピシャリと決めたのが印象に残っていた。

――というと

賀川:この時、この選手は反転して右でボールを蹴るのが形になっているという感じだったのです。もどって左肩を前にしてのターン、円弧を描くのは香川真司の何年か前からの持ち芸のひとつだが、西川も似ているかなという感じだった。対韓国の重要な先制ゴールも、彼女の得意の形のキック(つまりパス)が生んだといえる。柴田選手のスタートの早さを合わせ考えると仲間内では理解していたのだろう。そして、もちろん監督さんも2人の組合わせでこうした局面をイメージしていたかも知れない。(これほどうまくゆくと思ったかどうかは別として)

――このゴールはそういう解釈になりますね

賀川:これまでのグループリーグ3試合では個人力を見せつけようという感じが強かった。はじめは少し偏り過ぎのようにも見えたが、対韓国戦をひかえてのデモンストレーションという気もした。

――日本流組織サッカーを封印していたと?

賀川:封印とまではゆかなくても、サッカー特有の1+1が3になるような組合わせみせていなかった。グループリーグを見て、このチームは多くの選手がゴールに向かって蹴る、つまりシュートについて一般的な日本チームの選手(男女ともに)よりは自信を持っている、言い換えればシュートの練習回数が多いようにみえた。自分から仕掛けて突破、あるいは相手をかわしてのシュートというシーンが多かったでしょう。

――そのかわり、ヒザを叩くようなパスワークはあまり見なかった。それがいきなり先制ゴールにあらわれた。しかし韓国はすぐに同点にしました。

賀川:左サイドをドリブルで破られたゴールラインぎりぎりでイが左足で見事なクロスをあげ、チョンがフリーでヘッドした。韓国側は自信を持ったと思う。その前にも右から何回か突破しているからね。ぼくのメモに韓国の監督はサイドを走らせれば何とかなると思っているだろうと書いていますよ。

――3人で囲みにいってクロスをあげられましたからね

賀川:まあこのあたりが日韓サッカーの面白いところですよ。ヨーロッパ人から見れば韓国選手は決して大きいとは言えないが、ヤングなでしこより平均してひと回り体が大きい。ヤングなでしこは今の女子サッカーでは体格はいい方だが、それでも韓国の方が丈夫そうにみえる。もちろん逆に言えば日本側は敏捷で軽快ということになる。

――その動きの量のハンデになる条件は、韓国は気力でカバーしてきます。

賀川:だから日本側はいつも先行し、点差を開けておくことが大切で、それは私が神戸一中の蹴球部にいた75年前、当時の朝鮮半島の普成中学、培材中学などと全国優勝を争っていたころから日韓戦の歴史でまず変わらないことなのですよ。

――で、ヤングなでしこは同点から4分で2−1にした。

賀川:これは右サイドから攻めて田中美南が中央のペナルティエリア外にいた柴田へ速い横パスを送り、柴田が左へドリブルして左足のシュートを左隅に決めたもの。インターセプトされないようにスピードのあるパスを送った田中美南の判断と技術と、柴田のドリブルからシュートへの動作といい、パーフェクトだった。

――相手DFは人数はいたが、つぶせなかった。

賀川:柴田選手のシュートの構えへ持ってゆく速さと、スムースな動きとシュートそのもので勝負ありでした。

(続く)

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アジア予選を勝ち抜くのは大変なこと、ロンドン五輪の権利を取ったのは立派 ~なでしこジャパン vs 北朝鮮代表~

2011/09/09(金)

女子サッカー ロンドン・オリンピック アジア最終予選
2011年9月8日15時30分 山東スポーツセンター
日本 1-1(0-0、1-1) 朝鮮民主主義人民共和国


――大苦戦でしたが引き分けました。そしてこのあとのオーストラリア対中国で中国が負けたので、4試合で勝点10の日本の2位以上が決まり、ロンドン五輪に行けることになりました。

賀川:永里優希が後半38分にいい動きで岩清水梓からのロングパスをシュートして、日本が先制した。彼女のシュートがゴールキーパーJO YUN MIに当たり、そのリバウンドがDFに当たってオウンゴールになったのだが、本当に、3分足らずの日本の時間帯のときに決めたゴールだった。

――いくら押されていても、ゴールを取れば勝てるんだと誰もが思いましたね。

賀川:そこからアディショナルタイムを含めて10分を持ち堪えられなかった。

――まあ、この試合は北朝鮮のペースでしたね。相手の方がずーっとよく動いていたし、体をぶつけてくるのに日本側はタジタジとなっていた。

賀川:これまでにも何度も言っているように、日本のサッカーは男女とも運動量が大切。組織プレーといっても走らなければならないからね。韓国や北朝鮮といった朝鮮半島のチームは運動量でまずこちらと互角、あるいはこちら以上となる。そして彼らは体の接触をいとわない――というより積極的にぶつかってくる。また、ボールキープのときに、手を使って相手の体の寄せを食い止めることもする。つまり1対1にも強い、そういう相手と戦うためには、今度の「なでしこ」のコンディションはいいとはいえなかった。

――男子の代表でも、フルメンバーが揃っていて、そのコンディションが良くないと、どこと戦ってもしんどいことになる。

賀川:なでしこには、いつもとは明らかに調子の落ちている選手もいた。女子チームでは調子が悪ければ代えるといったふうには出来ないのかもしれないし、選手起用については監督が一番よく見ているのだから、周囲がどうこういう問題でもないのだろうが、ちょっと気にはなったね。

――試合中に、テレビの前でバック同士のパスのことで叫んでいましたね。

賀川:韓国との試合で1点を奪われ相手を勢いづかせたのは、相手が詰めてきているのにその前でDF同士の短い横パスがあり、一人がスリップして姿勢を崩してボールを奪われ一気にピンチとなったのがきっかけだった。
 北朝鮮の同点ゴールも、近賀ゆかりのクリアし損ないからだが、そのミスの前に、相手が疾走してくる前でDF間の短いパスがあった。ボールを受ける側が、受ける体勢になっていなかったから、大ピンチでCKとなり、そのあと攻め続けられ近賀のミスが出たのですよ。

――自陣で短いパスを頻繁に使いますが、ときどきヒヤリとすることもあります。

賀川:ボールを動かすサッカーといっても、自分でクリアできるボールをわざわざ後方の仲間に短いパスを渡し、そこを狙われていることもときどきある。

――1998年のフランス・ワールドカップのクロアチア戦で賀川さんが書いてましたね。バックパスを奪われ、そこから相手の唯一のゴールが生まれたと。

賀川:そう、中盤のバックパスを取られてピンチとなり、いったん防いだが再度同じ左から攻められ、最後にダボール・シュケルのシュートで0-1となり負けてしまった。
 今回のなでしこ、最終予選の会場のピッチは芝が不揃いで凹凸もあるようだから、DF同士の短いパスのときでも、受け手の体勢を考えなければならないでしょう。

――それにしても、レギュラーが5人欠け若手主体の北朝鮮の一人ひとりのスピードや体力、技術には感心しました。

賀川:まあ、この国はサッカーに力を入れている。女子サッカーで国の威信を高めようとなると、練習環境なども整えるだろうし、指導者たちも頑張るだろう。韓国の台頭もあり、オーストラリアというヨーロッパ系のチームもあり、老舗のハズの中国もいるので、アジアの予選を勝ち抜くのは大変なのですよ。

――ワールドカップに勝ったからといってアジアではそう簡単に勝てないだろう、という話は現実でした。その厳しいなかで勝ったのだから……

賀川:負けなかったというべきかナ。立派なものですよ。澤穂希キャプテンは相変わらずしっかりしたプレーをしていたからね。チームとしては、これまでの問題を洗い直す意味でも、中国との試合はしっかりやってほしいね。若いプレーヤーもたくさんいることだし、ロンドン五輪進出を決めたあともここでまだ1試合できるのはとても大きいことですよ。


【了】

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ハーフナー・マイク起用の効果 W杯アジア3次予選 vs北朝鮮(上)

2011/09/05(月)

●2014FIFAワールドカップブラジル アジア3次予選 GroupC
 第1節 2011年9月2日19時キックオフ
 日本 1-0 朝鮮民主主義人民共和国
   (0-0、1-0)

●ロンドン・オリンピック アジア最終予選
 日本 3-0 タイ(2011年9月1日15時30分 山東スポーツセンター)
 日本 2-1 韓国(2011年9月3日19時 済南オリンピックスポーツセンター)



~右CKからの決勝ゴール。時間の迫っているなかでの冷静なショートコーナーに代表の進化を見る~



――90分を過ぎて得点なし、5分のアディショナル・タイムでの、それもあと1分というところで吉田麻也のヘディングで1点を取り1-0で勝ちました。

賀川:ボール・ポゼッション(支配率)が66.1%、シュートは20本、CKも14回もあった。その14回目のCK(右)からの20本目のシュートが決まった。スリル満点の試合だった。

――9月1日から始まったなでしこジャパンのロンドン五輪予選でも、第1戦の対タイ(3-0)はともかく、韓国との第2戦は大接戦でした。2-1で勝ちはしましたが……。やっと――というべきか、テレビ解説の岡田武史前監督のようにすごく盛り上がった――というべきかですね。

賀川:なでしこジャパンと韓国代表のチーム全体の力を比べると、日本の方が少し上だろう。しかし、その差は当日のコンディションや試合のどこかの局面のちょっとした狂いなどがあれば、勝敗どころを変える――ということになる。まあ、それくらいの差ですヨ。
 もちろん韓国がいまのままの個人力アップの上にちょっとした試合の工夫をつけ加えれば(いまのままのなでしこと)対等になるだろうし、体に力があるから追い抜くことも可能だね。

――なでしこは、必ずしも万全の状態で中国の済南に乗り込んでいったわけではなさそうですからね。

賀川:ワールドカップ優勝のあとのいろんな行事があって、充分に練習したとはいえないだろう。また、ドイツの大会で力を尽くして、身体的あるいは精神的疲労はそう簡単に取れているかどうか――。
 1974年のワールドカップに優勝した西ドイツの主力6人のいたバイエルン・ミュンヘンが半年後に来日して国立でプレーをしたとき、ゲルト・ミュラーをはじめとする代表選手たちのコンディションはひどかったからね。

――そうそう、この年のバイエルン・ミュンヘンはブンデスリーガでもなかなか勝てなかったことを覚えています。

賀川:なでしこが今度のアジア最終予選を切り抜けてロンドンへの権利を取れば、それだけでもすごいと思いますよ。

――彼女たちについては、あとで聞かせてもらうとして、まず「サムライ(SAMURAI BLUE)」の方から――。

賀川:2010年のワールドカップのベスト16はまさに全員の頑張りだが、やはり本田圭佑という新しい攻撃の核ができたことがプラスになった。以来、代表で欠かせぬ攻撃の柱だった本田が故障のために戦列を離れた。攻撃が武器の日本代表で、こういう中心選手が抜ける影響はとても大きい。そうしたなかで、最初の試合で北朝鮮に勝ったのだから、それだけでバンザイですネ。

――といっても、ハーフナー・マイクを投入し空中戦を挑んだやり方で、日本らしくないという声も出ているのじゃないですか?

賀川:本田が出られないという報道があったとき、ハーフナー・マイクを加えたという発表を見て、ボクは、ザッケローニさんはこの手も考えていたかと思いましたよ。

――そういえば賀川さんは長い間、大型FW必要論を唱え、平山相太に執着していましたね。

賀川:いまの多くのファンは、日本人の大型ストライカー・釜本邦茂を見ていないから無理もないが、当時182センチだった彼は右足左足のシュートとヘディング能力が素晴らしかった。もちろん、大きいだけでなくボールの高さを見極める目の確かさ、落下点へ入る速さとうまさ、そして滞空時間の長いジャンプなどが組み合わされ、さらにボールを叩くときのインパクトのうまさもあるのだが、基本的には長身が武器の基礎だった。
 74年ワールドカップ優勝チームの西ドイツ代表GKゼップ・マイヤーが182センチだから、釜本は当時のワールドクラスのGKと同じ大きさだったといえるだろう。今はGKは188センチ以上が普通だから、長身のストライカーといえばそれくらいの大きさが欲しいと私は思っている。だからこそ、平山の成長に期待したんですヨ。

――ザックさんはハーフナーに目を留めた。彼は190センチ以上ありますからね。

賀川:ヘディングもシュートも釜本には及ばないとしても、ここのところ上手になりJ2でゴールも増えていた(甲府で昨季J2リーグ戦20得点、今季J1リーグ7得点)。ザックさんが目をつけて当然でしょう。

――ふーむ、2006年ワールドカップイタリア代表が優勝したとき、賀川さんは190センチが3人いたのがミソだといっていましたね。もともと体の小さい選手の多い神戸一中のショートパス育ちの賀川さんが空中戦好きとは――と、あのとき驚きました。

賀川:ボクのような小さい選手でもヘディングで点を取ったこともあるのですヨ。一つ、この際いっておきたいのは、エリア内にはじめ4人で守り、相手が攻めてくれば6人にも7人にもなる。そしてCKやFKとなると狭いところに双方の10数人がひしめいている、といった現代サッカーで、地上のボールをシュートしても誰かの体に当たって弾き返される。もちろん、誰かの体に当たってGKの意表をついて入ることもあるが、統計上は跳ね返る方が多いハズです。足でシュートするときには、人が混み合っているからスペースも小さく、シュートにかかる動作もスムースにゆかないこともある。
 ヘディングというのは、第1に足でいえばダイレクトシュートで、相手GKは予測しにくい。第2に、頭で叩くだけだから頭を振るスペースは地上のボールを蹴るときのスペースより小さくて良い。したがって、キッカーのボールが狙っているところ――高さ、位置――へ落ちてくれば、ジャンプヘディングは理論的にはゴールを奪いやすい有効な手段なのですヨ。

――日本も空中戦を攻めの武器の一つにすればいい、と。

賀川:攻め手は色々ある方がいい。近頃ではFCバルセロナの小柄な攻撃陣の魅力が人気を集めているが、彼らについてはまた別に機会にお話しするとして……

――その空中戦の決勝ゴールに、賀川さんは日本代表の進化を見たとか?

【つづく】

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おめでとう、なでしこジャパン

2011/07/19(火)

FIFA女子ワールドカップ・ドイツ大会2011(6月26日-7月17日)
決勝
7月17日20時45分キックオフ ※現地時間
日本 2-2(PK3-1) アメリカ



◆幸運を引き寄せた諦めない心

――女子ワールドカップ優勝、なでしこジャパン、やりましたね。2011年7月18日午前3時45分(日本時間)からのNHK BSテレビにはとても興奮しました。

賀川:試合そのものもよかったね。開催国で大会の優勝候補であったドイツに勝ったあとから一気に勢いづいた。勝てるという保証はなかったが、澤穂稀キャプテンをはじめチームの心がサッカーの神様を惹きつけたとしか言いようがないね。

――幸運もありましたが、選手のプレーぶりも素晴らしかった。

賀川:19日に帰国した選手たちの記者会見(ザ・キャピタルホテル)が中継放送された。そのときに澤さんが、佐々木則夫監督のことを「強運の持主」といったら、監督はすかさず「強運の選手たちを持った」と返していた。自分たちが勝てたのは運もある――しかし、運を引き寄せるのは自分たちの力だし、何より最後まで諦めない気持ちだったと(自信を持って)言っているようだった。



◆“先輩たちの歴史のおかげ”自分たちの立場を知っての勝ちたい意欲

――女子選手の方が男子よりしっかりしているように見えた――という声もあるようです。

賀川:そういうふうに言いたい人もいるだろうね。その議論は別として、選手たちの多くが、この優勝は自分たちのすぐ上の先輩、あるいは自分たちが生まれる前から女子の代表チームで頑張ってきた人たちのおかげです、といっていた。

――合宿などで、女子サッカーの歴史をまとめたビデオを見せていたという話もあります。

賀川:澤キャプテンという、15歳から18年も代表チームでプレーしている先輩がいる。また、女子代表の歴史が比較的浅いこともあって、彼女たちには歴史が身近な感じなのだと思う。
 東日本大震災で自分たちのチーム・東京電力のサッカー部が廃止となった選手もいた。
 そうした環境のこともあり、選手たちは、いま自分たちがサッカーをするのは――ということも考えたハズ。歴史の意味、周囲の人たちへの感謝や気配りもあった。そういう点で、精神的にもタフというか、それこそ諦めないぞという粘りが強かった。澤キャプテン自身がメダルの手前で悔しい思いをしてきていることもあった。

――お得意の歴史ですね。

賀川:そう、先輩たちの歴史を身近に感じるという点では、この選手たちは1936年のベルリン・オリンピックの日本代表――当時はもちろん男子だけだが――あるいはメダルということでは1968年のメキシコ・オリンピック釜本邦茂杉山隆一たちもそれに近いものがあった。

――JFA(日本サッカー協会)の創設が1921年。ことしは90周年ですね。私たちにははるか昔の話ですが、ベルリン大会はその15年後だし、メキシコといっても47年後。

賀川:そういう意味では、なでしこの今度の快挙はJFA90周年のなかでの最大の功績の一つとなる。同時に日本女子サッカーの歴史のなかでも飛躍の最大のステップになるでしょう。

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75年前のゆかりの地で“なでしこ”が大金星 ~女子W杯~ (下)

2011/07/13(水)

FIFA女子ワールドカップ・ドイツ大会2011(6月26日-7月17日)
準々決勝
7月9日20時45分キックオフ ※現地時間
日本 1-0 ドイツ



◆最後まで走った気力と技術と組織の勝利

――延長後半の丸山佳里奈のゴールも素晴らしかったです。

賀川:永里(優季)が前半に惜しいシュートチャンスを逃し、後半はじめに丸山を投入した。日本のFWは前から守備をするために結構疲れがたまる。安藤梢でも、見ていて気の毒なくらいの働きだからね。ドリブルで仕掛けられる丸山を登場させたのも成功したが、同時に、日本のランプレーに相手のバックスも疲れていた。そのときにダイレクトプレーが2つ続いて丸山がオープンスペースに走った。

――中盤でのやり取りから、岩渕真奈がアウトサイドで浮かしたボールを澤が落下点でとらえてダイレクトで前へ送りました。

賀川:丸山の動きや、前のスペースが分かっているところが、澤のすごいところだね。しかもダイレクトでひっかけ気味に蹴ったボールの回転もいい具合に丸山の前に落ちた。相手のDFには、これを奪いにゆく走力はなかった。

――シュートは易しい角度じゃありませんでしたが……

賀川:得意の角度という感じの、自信ありげなシュートに見えたヨ。

――あれだけ攻めて点を取れなかったドイツが、数少ないチャンスをつかんだ日本に負けたということですね。

賀川:そこがサッカーの面白いところですヨ。もう一度試合をしても同じように勝てるかどうか分からない相手に、大舞台で勝った。このことは選手たちにも日本の女子サッカーにも、いや日本全体にとってもとても大きい。

――賀川さんのように長い間サッカーを見てきた方にも、ドイツという舞台での女子の大金星は感慨ひときわでしょう。
 そうそう、澤さんには大会前に会っていますよね。

賀川:『Sankei SAL』というフットサルのフリーマガジンで草葉達也さんがインタビューをするときにつき合って、少しばかり話をしました。彼女は神戸の住民になって、神戸のクラブの選手ですからね。自分がひたむきにサッカーに打ち込んできたことに対して、自信を持っているのが嬉しいね。試合の流れを読み、ここで奪う、ここで攻めるということのつかみ方だけでなく、全人格的なプレーのできる選手でしょう。

――準決勝の相手はスウェーデンです。

賀川:ドイツで、スウェーデンと大事な試合を戦うというのも75年前の因縁かな。オーストラリアとの試合を見て、一人ひとりのプレーには感心した。実は私はオーストラリアのスピードの方が日本には難敵と思っていたのだが……

――そのオーストラリアより強い?

賀川:ボールをしっかり扱える選手がいる。体はドイツより平均して大きい。そして接触したときに重さがあると思う。スウェーデンはしばらく停滞していたが、協会がテコ入れを図り男子も女子も上昇中という。こちらとしては、無失点でゆくのは難しいかもしれないが、点を取ってもらえば焦りも消えるだろうし、自分たちのやり方でゆくことでしょう。この大会でシュート能力を上げ得点力を高めるぐらいの気持ちでいってほしい。
 とにかく、ここまでくれば準決勝と決勝、あるいは3位決定戦と2試合、素晴らしい経験ができる。同じ経験をするなら決勝までいってほしいネ。


【了】

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75年前のゆかりの地で“なでしこ”が大金星 ~女子W杯~ (上)

2011/07/12(火)

FIFA女子ワールドカップ・ドイツ大会2011(6月26日-7月17日)
準々決勝
7月9日20時45分キックオフ ※現地時間
日本 1-0 ドイツ



◆イングランド戦の完敗からキャプテン澤を中心に立ち直り、
 優勝候補ドイツからの大金星


――やりましたね、なでしこジャパン。ドイツに勝って、初のベスト4入りです。次はスウェーデンですよ。

賀川:澤穂稀キャプテンをはじめ選手や監督コーチ、全ての日本女子サッカーの人たちの願いが、とうとうすごいことになった。
 ボクは試合のテレビを見ながら、初めて日本のサッカーがオリンピックに出場して優勝候補といわれたスウェーデンを倒した、75年前の1936年ベルリン・オリンピックを思い出した。当時小学生であった私はもちろん実際に試合を見てはいないが、古い書きものやニュースのフィルムの伝えるところでは、体格差の大きなハンディを豊富な運動量と頑張りで防ぎ、巧みなパス攻撃で3点を奪って3-2の逆転勝利をつかんだ。

――四半世紀前の男子オリンピックですね。

賀川:体格、体力差を、動きの量と敏捷性を生かして対抗するという昔からの考え方が、日本の女子サッカーの対外試合の考え方にも根をおろしていた。

――今度のドイツ大会は、ここ数年の女子サッカーの向上を世界のスポーツ界に示すことになる、といった声もありました。そのドイツ大会での、なでしこの活躍です。

賀川:女子サッカーそのものは19世紀からかあった。しかし、女性にサッカーのような激しいスポーツは不向き――という見方もあって、必ずしも発展しなかった。しかし1991年に第1回女子ワールドカップが中国の広州などで行なわれ、1996年(アトランタ)にはオリンピック種目にも入った。以来各国ともに力を入れ、FIFA(国際サッカー連盟)も男子と同じように女子サッカーの普及、向上を図ってきた。

――日本でも、まだ多くの人の関心のなかった頃から、この90年代から国際大会にも積極的に参加してきましたね。

賀川:兵庫県サッカー協会の高砂嘉之会長(故人)も熱心な推進者だった。そうしたたくさんの人の努力とプレーヤー自身、それにJFA(日本サッカー協会)の組織的な強化と普及策が少しずつ選手層の厚みにつながってきた。

◆身長差にも粘っこいマークでヘディング・ゴールを許さず

――今大会の1次リーグでは、ニュージーランドに勝ち(2-1)メキシコを破り(4-0)2連勝。テレビでも新聞でも大きく報じられました。もともとFIFAランキング4位で、今度は優勝を狙うと目標を高く掲げていましたしね。

賀川:それが、第3戦の対イングランドで0-2の完敗をした。疲れもあったのだろうし、2勝してともかくグループリーグを突破したという安心感もあったのだろう。

――イングランドはすごい勢いでぶつかってきました。

賀川:女子の世界では、米国、ドイツ、ブラジルの3強が頭抜けていて、日本がその次ということになっていたが、イングランドもスウェーデンも、あるいはオーストラリアもレベルがどんどん上がってきていた。そのイングランドが、グループリーグ突破のために気迫のこもった試合をしかけてきた。受け身になった日本は動きの量も少なく、局面の勝負にも勝てなかった。

――逆にいえば、この敗戦は選手たちには対ドイツ戦へのいい薬だったかも……

賀川:負けたショックよりも、やっぱり自分たちは自分たちの走るサッカー、つなぐサッカーをしようと思っただろうね。イングランド戦は中盤のプレッシャーから長いボールが多かった。自分たちの流儀で攻めて点を取ることが重要だと感じたのだろう。

――立ち直ってドイツ相手にしっかり食いついてゆきましたね。

賀川:ドイツの方は、開催国で強い強いといわれていたから「優勝」がプレッシャーになっていたのだろうと推察される。1974年の男子のワールドカップのときも、72年の欧州選手権(EURO)を制覇していた(70年W杯も3位)西ドイツは、大会の前半は動きも良くなくて1次リーグで東ドイツに負けたくらいだからね。

――西ドイツには、皇帝ベッケンバウアー・キャプテンがいました。

賀川:今度の女子代表はどうだったのかナ。日本には澤キャプテンがいて、皆が本当に一丸となった。相手の長身のCFにもしっかり背後からマークし、シュートされてもコースを押さえるようにしていた。身長差で高いボールのヘディングは勝てなくとも、しっかり寄せてジャンプしていたから相手のヘディングシュートは狙い通りには飛ばなかった。


【つづく】

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