日本代表

新しい攻撃メンバーを軸に乗り切ったサウジとのホーム戦

2016/11/16(水)

――2-1の勝利。まずはお祝いですね。

賀川:ワールドカップのアジア最終予選Bグループの次の試合は来年3月ですから、それまで日本の多くのファンは、明るい気分で過ごせますね。

――監督は新しい攻撃メンバーを登場させました。これまでの、本田、岡崎、香川でなく、大迫をトップに、第2列は右から久保、清武、原口をもってきました

賀川:長谷部キャプテンと山口蛍が守備的MF、DFは右が酒井宏樹、左が長友、中央が吉田と森重、GKが西川でした。前半早々から攻め続け、左右から攻撃を仕掛けました。シュートも8本ありました。

――大迫がポストプレーでボールをおさめたのもよかった

賀川:これまでのレギュラー岡崎は、イングランドのプレミアリーグ優勝チーム、レスターの2トップのひとりですが、ハリルホジッチ監督は大迫を持ってきました。その大迫がボールを受けられたので、攻撃展開がスムースにゆきました。

――攻めて、シュートチャンスもあったが、ゴールはPKからでした

賀川:攻め込んだ後、いわゆるこぼれ球を清武がシュートし、サウジアラビアの選手が体でこのボールを止めたとき、レフェリーは笛を吹いた。スローで見ると、胸で止めたようだったが、見る角度によって、腕で止めたように見えたのでしょう。私はテレビの前で、シュートが飛んで、サウジアラビア選手の体に当たったとき、「PKだ」と叫びましたからね。

――サウジアラビア側は抗議したが、判定がかわることはなく、清武がPKを右足で決めました

賀川:清武はボールをプレースしてから、一度も蹴る方向を見ないで、右足でシュートしました。ゴールキーパーが(清武から見て)先に右へ動いたので、その逆の左ポスト際にサイドキックで決めたのです。試合中のPKもキッカーにとっては大きな仕事ですが、清武は落ち着いているように見えました。こういうところにも、今の彼の充実ぶりが見えましたね。

――大迫にシュートチャンスがありました

賀川:中央でDFを右へかわしてシュートした場面があった。こういうチャンスを決めると、自分自身にも大きなプラスになるはずでした。惜しい場面もあったが、とにかく1-0でリードしてハーフタイムに入ったので、埼玉スタジアムの58000人も、テレビの前の日本中のファンもほっとしたことでしょう。

――後半のスタートからハリルホジッチ監督は、久保に代えて本田を投入しました。

賀川:本田はイタリアで試合に出る機会が少なくなって、動きが悪いということだったが、彼のように止まった形でゴールを受けることのできる選手は日本代表には貴重だと思っています。早々に彼の強いシュートがありました。

――19分には、清武に代えて香川が入りました

賀川:動きの量が多くて、パスもつながり、相手を圧迫して攻め続けていたが、ゴールは奪えない—ということで、香川、本田たち、これまでの攻撃陣を持ってきたのかな。

――後半35分に長友のグラウンダーのクロスから原口が決めました

賀川:長友からのボールを、香川がヒールに当てて、原口に渡し、原口がノーマークシュートを決めました。長友が左に食い込んできてのパスのタイミングや、コースがうまく合いました。このあたりは、彼ら「古い」代表の呼吸かもしれませんね。

――試合後の監督談話では、古株のプレーヤーに対して厳しかったようですが、、

賀川:2点目を取ったときに、これで一安心と思ったが、同時に2-0になったことで失点の懸念も出てきました。試合の終盤に相手が攻めへの意欲を高め、45分に1-2とされるのです。

――PKの1ゴールの後、2点目を取っていてよかった、という気がしました。

賀川:まあ、2点目を取れたという安心感が、1点を失うことになったのかどうか、このあたりにも今の日本代表の問題があるのでしょう。

――ともかく、勝ったことは大きい

賀川:これで、最終予選B組のなかで、上位への望みをつなぎました。日本選手、日本代表の戦いの第一は、全員のチームワークですが、外国のチームに属している選手の多い今の代表には、チームワークを高める期間も必要でしょう。最終予選でそれぞれの試合で結果を出しながら、各個人の能力が高まり、代表チーム全体の底上げが少しずつでも進んでいるのは、うれしいことです。

――選手一人ひとりにも収穫があったでしょう。まずは、よかった、というのが実感です

賀川:もちろん日本代表の進歩という点では、まだまだ個人力についても、チームプレーについても、望みたいことはたくさんあります。

――そういう点については、今後、折に触れて語ることにしましょう

賀川:まずは、選手たち、監督、コーチたち、おめでとう。次に向かっての選手の皆さんの進歩を祈ります。

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全員が最後まで戦いアウェーでオーストラリアと引き分け

2016/10/12(水)

アジア最終予選(Road to Russia)
2016年10月11日 オーストラリア/ドックランズスタジアム
オーストラリア 1(0-1)1 日本

――前半5分に日本は原口のゴールでリードした

賀川:ボールを奪ってから原口のシュートに到る過程が見事でしたね。

――日本陣内の左サイドで相手のパスを取った原口が内側の長谷部に渡し、長谷部が前方の本田にパスした。本田は左側を走り上がる原口の前方のスペースへパスを送り、原口はエリア内でGKラインと1対1になって、その右側(GKの左手側)を抜くシュートを決めた。

賀川:本田からのパスのタイミング、ボールの方向ともに申し分なく、原口は落ち着いて相手GKの構えを見て、シュートの方向を決めるところがテレビのリピートの映像でよく見えていた。

――見事な攻めとゴールでした

賀川:本田を中央のCFの位置に配した監督さんの狙いが当たった。

――この日の攻撃陣は左に原口、トップに本田、右に小林、そしてトップ下に香川を置き、山口と長谷部が支援する形となり、左DFは槙野、右は酒井高、守りの中央部は森重と吉田という不動の2人だった。

賀川:本田は日本のFWのなかでは体の芯が強く、彼のところでボールを止めることができる。もちろん得点力もある。これまで右サイドに配していたのを、この試合では中央へ持ってきた。

――それが最初のゴールにも生きたわけですね

賀川:1-0となったあと日本の攻撃回数は少し増えたが、全体としてはオーストラリアの方がボールを持つ時間が多かった。

――彼らも結構つないできました

賀川:オーストラリアは、今やいきなりロングボールを日本のゴール前へ送ってくるというのでなく、中盤でのボールの奪い合いからボールのキープを高め、左右からのクロスを送る、ときには中央突破もというやり方だった。

――ボールの奪い合いは互いに負けないぞという意志が見えていました。日本にもチャンスはあったのだが

賀川:26分から28分ごろに左からの攻めでチャンスがあった。本田のシュートがGKライアンの正面へ飛んだのもあった。サイドから崩しにかかって、もう一息だったのだが。

――前半の日本のシュートは3本、オーストラリアは5本でした

賀川:前半はじめにも日本が攻めたが6分に相手に攻め込まれたとき、エリア内で倒してPKを与えてしまった。原口が相手の後方から当たってしまった。

――ノーマークになっていたから、これはと防ぎに行ったのでしょうが

賀川:こういうピンチのときになんとかしようという気持ちはあって当然だが、エリア内のファウルはPKで、PKは試合の流れの中の相手のノーマークシュートよりも、なお失点になることが多いからね。

――U-16も立て続けにPKを取られて2-4で負けましたからね

賀川:こういうPKのときはゴールキーパーは先にヤマをかけて動きたいものだが、実際は先に動かないがいいと私は思っている。ビッグゲームでのPKを随分見てきた経験からそう思うのです。

――テレビの前で先に動くなと叫んでいましたね

賀川:でも結局は決められた。ゴールキーパーにとっても緊張する場面だが、相手のキッカーにも同じようにプレッシャーがかかるのですよ。

――そのうちにPK論をまたやってください

賀川:オーストラリアはこのゴールで元気づく。

――日本の天敵とも言うべきベテランのケーヒルも投入してきました

賀川:日本にもチャンスがあった。クロスを小林がヘッド、GKが防いでCKに逃げた。まぁこういうヘッドの強さという点になると私たち古いファンは60~70年代の日本のFW釜本邦茂を思い出してしまう。

――ヘディングがうまかった

賀川:足のシュートも正確ですごかったが、ヘディングはクロスの折り返しのヘッドでも、単に落とすだけでなく狙った仲間の頭上に合わせてヘディングできたからね。

――いまは長身選手も多い。ヘディングのゴールは大きな武器の一つだから、ずば抜けた長身でなくても空中戦で勝つことも大事ですね

賀川:2006年ドイツW杯の初戦でオーストラリアに敗れたのは空中戦からだった。

――日本は小林が倒れて一時は10人で戦う時間帯もあってハラハラした。清武を37分に(小林と交代)、浅野を本田に代えて(39分)送り込んだが、2点目を生むことはできなかった

賀川:アジアでも1、2と言われるオーストラリアとのアウェーで引き分けたのだから、まずまずと言えるかもしれないが、こういう試合で勝つ日本を見られればと思ってしまう。

――イレブン全員が最後まで戦い続け、ともかく勝ち点1を加えました

賀川:普通なら、まずまずと言いたいが、何しろこのチームは最終予選の最初にホームでの試合を落としているから、ずっと勝ち続けなければならない立場にいるのです。代表選手、代表チームというのは責任があって大変だが、このあとももう一段のがんばりを見せてほしいものです。若い選手も伸びてきているし、ヨーロッパ組も代表の環境に慣れて来れば、このあとの試合をいい状態で迎えることができるでしょう。

――――次は11月15日に埼玉でサウジとの試合です

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目いっぱいの戦いでイラクに勝利

2016/10/11(火)

アジア最終予選(Road to Russia)
2016年10月06日 埼玉スタジアム2002
日本 2-1(1-0)イラク

タイムアップ直前の山口蛍のペナルティエリアいっぱいからのシュートが、ゴール前の密集地帯を通り抜けてゴールに飛び込み、2-1。日本代表はワールドカップアジア予選の対イラク戦を制して一歩前進、11日には強敵オーストラリアとアウェーで戦う。

前半26分に右サイドから清武が本田からの縦パスを受けて、ゴールラインまで進み、右ポスト近くの原口にパス。原口がヒールキックしたボールは背後にいたGKハミードの足間を通ってゴールへ転がり込んだ。相手ボールを自陣で奪ったこのカウンターは、奪った清武のドリブルと、本田のパス。その本田がゆっくりキープする間に、清武が後方から右サイドを駆け抜けて本田からのパスを受けるというスケールの大きいパス・アンド・ゴーから、左から右ポスト際まで走り込んだ原口にパス。原口はこのボールを自分の股下で右足ヒール(かかと)に当てると、ボールは原口に密着するように構えていたGKの足間を抜けた。

このパスとドリブルを組み合わせた日本の1点目はそれぞれの選手の技術の高さと清武の長い疾走で生まれたビューティフルゴールとして歴史に記録されるだろう。

後半に入り、15分にFKからのアブドゥルアミールのヘディングでイラクに同点にされると、勝たなければならない日本は、当然攻めに出る。イラクは引いて厚く守りながら、時おり攻め上がりを見せる。

この日の日本のラインアップは、トップが岡崎、第2列に右から本田、清武、原口、ボランチが長谷部、柏木、サイドバックは右が酒井宏、左が酒井高。守りの要のCDFは吉田と森重、GKは西川だった。

前半はじめは、少しパスミスなどもあったが、時間経過とともに選手たちの調子が高まり、粘り強くボールを奪い合い、また運動量も多かった。もちろん相手のイラクは個々のボールをめぐる戦いに強く、相手をイラつかせる心理プレーもなかなかのものだが、日本側の勝とうとする意欲は、そうしたイラクを相手に衰えることはなかった。

日本は後半に山口(22分、柏木と交代)、30分に浅野(岡崎と交代)、36分に大黒柱の本田に代えて小林を送り込んだ。45分ごろからロングボールの攻撃が始まった。自陣からのFKでヘディングの強い吉田が相手ゴール前へ進出した。DFからのロングボールをエリア内で吉田がヘディングで落とし、浅野が飛び込んで場内を沸かした。46分に2本のロングボールがエリア内に落ちた。48分には山口から左へ長いパスが出て、吉田が左コーナー近くでこのボールを取り、イラク側のファウルでFKになった。

このFKがイラクの命とり、日本の貴重なゴールを生むことになる。左コーナーの内側2メートルにセットされたボールを蹴ったのは清武。9.15メートル離れた2人のイラク選手の横を通り、速い球でゴール前へ。GKの前3メートルあたりで両チームの選手がヘディングで競り合い、高く上がったボールがゴール正面、ペナルティエリアのラインのすぐ内側に落ちると、そこに山口がいた。しっかりした助走と的確な踏み蹴りで、山口の右足はボールが地面に届く前にボールをたたき、シュートはゴール左に吸い込まれた。

スローのリピートは背番号16が右足でボールを正確にたたくところを映し、ゴール裏からのカメラはそのシュートがジャンプした19番の下を通ってゴールネットに飛び込んでくるのを捉えていた。2-1となった後の2分ばかりの間に、イラクが攻撃に出たことに、彼らの意地を見たが、日本代表はそうしたイラクの粘りを突き放した。

試合後の選手の談話には、ホッとしたという言葉が多かった。山口には自分の誕生日のゴールだったが、「あのシュートはふかしてしまうことが多いが、うまく蹴れてよかった」と、控え目だった。

日本代表が持ち味のパス攻撃でなく、終盤にロングボールの力攻めを演じたことは、相手を疲れさせ、自らの士気を高める効果はあっただろうが、ゴールを生んだのは、左サイドからのFK、つまりサイドからのクロスボールということになるのが、サッカーの面白さだろう。テレビで見たAFC U-16選手権のイラクとの試合で、相手が闘志をむき出しにして戦いを挑んできたとき、日本にはその感じが見えなかったことがあった。(2-4で敗れた)フル代表は自らが「目いっぱいに」戦うという姿勢を見せ、それが持てる技術を発揮することになったのだろうと感じている。これもまた、この競技の面白さだろう。

90歳をこえて、こういう試合を見られるのは、誠にありがたいこと。監督さんや選手の皆さんに感謝したい。

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灼熱の東南アジアでシンガポール、カンボジアに連勝 ワールドカップアジア予選E組のトップを守る

2015/11/18(水)

◇11月12日(シンガポール) 日本3(2-0、1-0)0シンガポール
◇11月17日(プノンペン) 日本2(0-0、2-0)0カンボジア

――シンガポールに3-0(11月12日)の1週間後に、やはりアウェーでカンボジアと対戦し2-0で勝ちました。東南アジアでのアウェーの2試合を終わって日本はワールドカップロシア大会アジア2次予選E組で6戦5勝1分 勝点16でこのグループのトップに立ちました。来年3月の対アフガニスタン(24日)、シリア(29日、いずれも埼玉)の2試合を残していますが、首位キープで2016年へ向かいます

賀川:現地からの報道ではよく分からないが、カンボジアの首都プノンペンの暑さはシンガポール以上と考えられるでしょう。アジア予選は長距離の移動の上に気候のハンデがついて回る。そのなかでの試合だから選手にはまずご苦労さま、そして勝利おめでとうと申し上げましょう。

――ハリルホジッチ監督はシンガポール戦からまたメンバーを変更しました

賀川:2次予選でメンバーのテストをしていきたいという狙いなのでしょう。シンガポール戦は武藤と金崎という体が強く、大柄な選手を攻撃に起用したこと、ボールをサイドからサイドへ、それもペナルティエリアという相手の危険地帯でボールを動かしたのが効果的でした。

――1点目は本田の右エリアいっぱいからのクロスをファーポスト側で武藤がヘディングで折り返し、それを金崎が決めた。2点目は清武が右サイドのゴールライン近くからクロスパスを入れ、武藤が止めたのを本田が左足シュートで決めた

賀川:入ってくるクロスを直接シュートするのでなく、もう一度、折り返したり、バックパスしたりして、フリーシュートのチャンスを作っていたでしょう。

――相手との相性のいい攻撃陣の組み合わせだったでしょうか

賀川:ハリルホジッチ監督にすれば自分の選手起用ににんまりしたでしょう。

――1週間後のカンボジア戦の前半はそうはいきませんでした

賀川:サイドのDFの左に藤春を置き、右に長友を持ってきた。攻撃陣は右に原口、左に宇佐美、ワントップに岡崎、トップ下に香川、ボランチに山口と遠藤を配した。CDFは吉田と槙野だった。

――遠藤は湘南の選手です

賀川:開始しばらくは動きがスピーディーでボールを動かしていたが、せっかく前の試合でシュートチャンスの時にひと工夫あったのに、またまた一点で合わせるだけの攻めに戻っていた。そうなると相手はエリア内に7人ぐらいが待ち構えているので、フリーシュートにならない。シュートしてもDFの体に当たるという場面が多かった。

――香川がエリアいっぱいで2人かわしてシュートしたのがポスト左へ外れた

賀川:余裕を持って相手をかわすようにシュートへ持って行くのはよいが、ゴールの位置、自分の位置いずれもが自分の体の感覚に入っていない。香川のシュートの前にも原口がゴール前でこぼれ球を左でシュートしたのがあったが、この場面でも並進の形で蹴っているから、ボールはゴール中央に向かって飛び、DFの体に当たってはね返されている。ゴール正面でこういうボールを蹴るのに左のコーナーを狙うといった着意があってもよいだろう。

――それは

賀川:いつも話している通り、ゴール前でのシュート練習の回数あるいは本数が足りないのでしょう。それがもっと若い年齢の時のことか、今のことかは別として…

――それでも後半早々に右からのクロスに香川が走り込もうとするのを相手も妨害してPKとなった。ここで、1点と誰もが思いました。

賀川:PKはこれまで本田が蹴っていた。プレースキックの名手ですからね。その本田がいないから誰かと思ったら岡崎だった。

――ストライカーだから当然といえば当然ですね

賀川:私は前日に岡崎がPK練習したのかどうか、また前半に本田を出さないと決めた時、PKは岡崎が蹴ると監督が指示したのかどうかも知りたいところですね。昔から、ドリブルのシュートでバンバン点を取ったストライカーでも不思議にPKは苦手という選手もいたからね。

――それで岡崎がボールを置いたときに賀川さんは首をかしげたのですね

賀川:岡崎には、相手ゴールキーパーに対する駆け引きもなく、目線でのフェイクも感じなかった。

――なんだかあっさりと右足でシュートしました

賀川:ゴールキーパーの届く範囲へ右足インサイドで右方向へ蹴ってしまった

――失敗した岡崎には心に残るでしょうが

賀川:やはりノーマークシュート、それも1対1のプレースキックの不成功だから本人も周囲もあとあと原因を考え、上達をはかるべきでしょう。

――賀川さんは滝川二高出身の岡崎のファンですが…

賀川:失敗は誰にでもあります。次にどう生かすかですよ。

――本田圭佑が後半17分に宇佐美と交代で入りました。後半早々にすでに柏木が遠藤にかわって起用されていました

賀川:本田が入る前にFKからゴールが生まれた。誰か突っかければいいなと見ていた時に原口がドリブルした。倒されて、FKを柏木が左足で蹴り、高いボールを岡崎がジャンプヘディングした。ボールは岡崎ではなく相手DFの頭に当たって見事なシュートという感じでゴールとなった。

――そのあと何度も攻め込み、チャンスはありました

賀川:その努力は後半45分の2点目になった。藤春が左サイドを走りゴールラインいっぱいを少し入って、ふわりとクロスをあげ、本田がヘディングで決めた。宇佐美が出ていた時から左サイドから深くえぐるような攻めは出せなかったが、最後の藤春が見せてくれた。

――本当はもっと得点が見たかったが、その終了直前のゴールで少し気が楽になりました

賀川:ヨーロッパや日本の秋とは違う、暑い東南アジアで選手たちは頑張りました。

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【お知らせ】観戦記「ロシアへの道」を更新

2015/11/13(金)

ワールドカップ予選のシンガポール戦の観戦記がサンスポに掲載されています。
今後の予選各試合も紙面、ウェブに掲載予定です。

サイド攻撃の意識高まった

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強敵シリアを破って日本がEグループ首位

2015/10/18(日)

日本代表 3(0-0、3-0)0 シリア代表

――前半はチャンスをつくりながら得点できなかったが、後半に3点を奪い快勝しました

賀川:アジア予選Eグループでは日本が首位になるだろうと予想されていたが、第4戦でようやく3勝1分でトップに立った。勝って当たり前のように見えるが、どこの国でも、その国のナンバーワンスポーツとしてのプライドがあって、日本に一泡吹かせようと工夫し、局面でのボールの奪いなどでもがんばるから、アジア予選を突破するのは決してやさしいことではない。まあ、5ヵ国リーグの1試合ずつで、トップに立ったのだから、JFAの幹部もハリルホジッチ監督も選手たちもホッとしているでしょう。

――収穫もあった?

賀川:GKが西川周作になって、ともかく無失点できた。ディフェンダーにとって自信になったでしょう。シリアは予想通り個人的な強さもあり、しっかりしたチームだったが、後半に疲れが出たという感じだった。日本側も暑さのためか、前半終わりごろのコーナーキックのピンチの場面でも、選手たちは相当に消耗している感じが見えたが、後半に圧倒して、チームとして底力のあるところを見せてくれました。

――後半10分に先制ゴールを奪ったのがよかった

賀川:PKを本田が決めたが、これは長谷部のロングパスと岡崎の突進で生まれたもの。

――縦への速攻は監督も強調しているとか

賀川:サッカーは縦105メートル、横75メートルの広いグラウンドでの競技で、攻撃は縦も横も必要です。このゴールのもととなったのは、まず長谷部の見事なロングパスでした。相手が攻め込んできて、日本が奪い、右サイド酒井高徳、GK西川とのパスのやりとりがあり、相手がそれにプレッシングをかけてきて、そして西川から本田への高いパスを相手が強引なヘディングで奪った。ただし、そのボールを彼らはミスパスをして、日本側の吉田麻也が奪うことになった。

――シリア全体が前がかりになっていた

賀川:吉田はすぐ前の長谷部に短いパスを出し、長谷部はボールを受けて前を向き、前方にロングパスを送った。

――守勢になっていた体勢からボールを取った瞬間に相手の裏を狙ったというわけ

賀川:前方の岡崎は長谷部のキックの瞬間に動き出していた。ボールは相手側25メートルあたりに落下した。

――長谷部が蹴った位置も日本側25メートルあたりでした。

賀川:そう、50メートルのパスですね。落下点から前方ペナルティエリアの内側、右寄りに転がるボールをノーマークで追った岡崎を追走した背番号2のアルサリフが体当たりして、岡崎が倒された。レフェリーの判定はテレビではすぐにははっきりしなかったが、ファウルだった。

――レフェリーがPKを指示しました

賀川:岡崎は早いスタートで、思うところへボールが来たから余裕があったでしょう。ボールに近づく前にスピードを緩めておいて、相手が来たときに走り抜けようとした。アルサリフは腕も使ったから、当然イエローカードも出たはずです。

――このPKと本田が左足でGKアルメハの右を抜いて決めた。誰が見ても、申し分ないカウンターのチャンスメイクによるPKゴールでした

賀川:前半にもチャンスはあったがエリア内で岡崎の右足シュート、本田の左足シュートは、ともにゴールのポストの外へ出た。これらのシュートチャンスは押し込んでから短いパスとエリア内でつないだものだった。

――2点目は25分の右FKからでした

賀川:21分に宇佐美貴史が原口に代わって投入された。日本側のパスがスムースに回り始め、右サイドでの酒井高徳へのファウルでFKのチャンスとなった。

――本田が後方へパスをした

賀川:そこに宇佐美がいて、左へパスを送った。ゴール前に集まっていたその外側に香川真司がいた。ボールを受け、一人を縦にかわしてゴールラインの近くから内へドリブルし、ゴール正面へグラウンダーのパスを送った。ゴール前へのパスは死角に見えたが、香川は相手選手の股抜きのパスを通して、中央にいた岡崎が決めた。

――2-0となりました。このFKからの展開はちょっと目新しい感じでしたね

賀川:香川がゴールライン近くで内へドリブルしたとき。ゴール前の相手の一番痛いパスコースを選択したのも見どころだった。

――引き分けも考えていたシリアにとっては0-2で苦しくなりました

賀川:シリアは内戦でサッカーどころじゃないとも言える状態ですが、ワールドカップ予選に代表を送り込んで来た。シリアのナンバーワンスポーツですから代表には当然プライドも意地もあります。0-2となってから彼らの個々の競り合いでもゴール前へと飛び込みでも、気力を見せていました。

――残り10分というところでは、危ない場面もありました

賀川:日本は34分に清武弘嗣を投入(香川と交代)、40分には武藤嘉紀(岡崎と交代)をピッチへ送り出した。

――相手のFKがゴールポストに当たるというヒヤリとした場面もありました

賀川:押し込まれた状態から42分に左サイドからの反攻、3点目を取りました。

――タッチライン際の競り合いからボールを拾い、清武が縦に流すと本田がエリア内で内側へヒールパス、走り込んできた宇佐美がゴールキーパーの右を抜いて右サイドキックのシュートを決めました

賀川:清武からオープンスペースへボールが出された時の本田のスタート、それに合わせて外から内へ走った宇佐美の速さなどが見事に生きたゴールです。この試合の前に、イタリアで本田と長友が試合に出ていなかったことでコンディションがどうかと懸念されたが、2人ともしっかり仕事をしました。

――日本代表のアジア予選は今後も続きますが、まず一安心です。次は実力者イランとの強化試合がありました。それについても近い機会に話を聞きます。

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アフガニスタンに6ゴールで勝利。チームの形が整い始めた日本代表

2015/09/09(水)

FIFAワールドカップ2015ロシア アジア第2次予選
日本代表 6(2-0、4-0)0 アフガニスタン

――アフガニスタン相手の第3戦は6-0でした。対シンガポール(0-0)、対カンボジア(3-0)。日本の多くのファンは不評、不満だったはずですが、今度はどうでしょう

賀川:アフガニスタンはもう少し攻めに出るかと思ったが、やはり引いて守ることがほとんどでした。選手たちは体格が良く、闘争心もあったが、日本に早いうちの先制ゴールでプレーに落ち着きがでた。まぁ、いいところでしょう。

――9日の朝のサンケイスポーツに賀川さんのコラムが掲載されていました。見出しは「香川が攻撃の起点、特長出し切った日本」でした

賀川:「出し切った」かどうかはともかく、カンボジア戦のように香川が自分で点を取りに行くという気配を見せるのでなく、攻撃のためのパスの起点になり、効果あるつなぎに加わったりした。ドルトムントでの日頃の試合のように、攻撃展開に彼がかかわれば、チャンスを多く生み出せること証明しました。

――もともと、それは誰もが知っていることでしょう

賀川:ハリルホジッチ監督には選手全員を試しつつ、予選を勝ち抜いて行きたいという思いがあるでしょう。しかし仕事の比重が少しパスの起点の方に傾いて、そういうポジションにいた方が、彼のプレーは生きるはずです。そして、もう一つの仕事「ゴールを狙う」も、逆に効果的になるものですよ。

――その香川が先制ゴールをしました

賀川:スターティングラインアップの発表で、カンボジア戦での先発と違ってMFの左サイドに原口元気が入りました。

――前回の試合は武藤で、あとから宇佐美が出ました

賀川:前回の武藤は日本の右サイドからの攻めに合わせて点を取ろうと、左から内へ、中央部へ早く入ってくることが多かった。

――原口は少し違う?

賀川:自分でボールを持ち、ドリブルで仕掛けるプレーヤーです。ドリブルしたときにシュートまで行こうという気迫があるので、相手のDFもそれに反応します。

――前半10分の1点目は原口が内にドリブルして、すぐ内にいる香川にパスを。香川がボールを受けて接近する相手をターンでかわして右足でシュートしました。サイドキックでなく(笑)、右足でしっかり叩きました

賀川:ペナルティエリアの外でしたが、このあたりでボールを受けて内側へドリブルするのは香川の十八番(おはこ)プレーのひとつで、ボールを受けたとき、持ったときの条件が良ければ、自信満々の「持ち方」になります。相手を回転してかわしたときに、彼の得意のキックの型でした。シュートに入り、成功するのは当然のようなものです。

――パスを出した原口が縦に走りました

賀川:そういうまわりの動きも承知でシュートの体勢に入ったのでしょう。

――ボールがゴール左隅に入ったとき仲間が香川に駆け寄りました

賀川:本人もホッとしたが、周囲もカンボジア戦の二度のビッグチャンスでの彼のサイドキック失敗が気になっていたはずです。

――本田がとても喜んでいました。賀川さんもにんまりしていましたね

賀川:一番ホッとしたのはハリルホジッチ監督だったかもしれません。起用した原口の「突っかける姿勢」がこのチャンスのひとつのポイントでしたからね。まじめな人柄で自分のシュートの失敗などが顔に出る方だから、香川が気を楽にしてプレーすることは仲間にとってとても大事なことです。その香川の会心のゴールを原口が引き出すのに一役担いだわけです。

――アフガニスタンは選手たちの体格が良く、接触プレーも強いと聞いていました。そういう相手が引いてくると、崩すのは難しくなるとも懸念したが、思った以上に隙があったように見えました。

賀川:アフガニスタンもやはり、大人数がペナルティエリアに入って守っていた。しかし、守りの隊形としては、第2列まで後退しすぎることが多く、日本が押し込んでから、自分たちの守りの外でボールをつなぐのを、それほど強い妨害に出なかった。前の試合では、早いうちにエリア内に入ろうとした香川が、相手の守備網の外でボールを動かしたので、ボールは幅広く移動して、相手側の守りの隙が少しずつ広まったこともある。同時に、第2列、第3列の選手がゴール前へ走り込んだ。このため相手側は、人数はいても、走り込む日本側に対応してマークがずれることもあった。

――2点目はゴール前へ走り込んだ森重でしたね

賀川:その10分前の27分と28分に森重が右足で1本、左足で1本ミドルシュートしました。

――彼は右のキックは強い球を蹴りますね

賀川:その森重のシュートを促すような香川のプレーがとても面白かった。左サイドの開いた位置にいて、二度中央の森重とパスのやりとりをして、森重がしっかり踏み込んでシュートするスペースと時間を作りました。

――27分の森重のシュートがゴールキーパーのすぐ前で地面に落ちてバウンドし、バーに当たって跳ね返ったのは覚えていますよ

賀川:ディフェンダーにも、ゴール正面で狙えるなら、シュートする手もありますよ…という感じのやりとりだった。

――森重の攻撃意欲も強くなりますね

賀川:35分の2点目は、まず、左サイドの原口がドリブルからのクロスで左CKを取ることで始まります。

――左CKは香川が蹴ることになっていました。このときはショートコーナーで原口に渡し、そのリターンをもらって、左タッチライン近くで相手DFを前にゆっくりキープしました

賀川:そこから後方、ゴールから40mあたり、中央左寄りの長友に長いバックパスを送りました。長友は少しキープして、ペナルティエリア内へロブのボールを送りました。ボールはゴールエリア少し手前、正面やや右寄りに落下した。

――そこへ飛び込んでいたのがコーナーキックのためにゴール前まで上がっていた森重でした

賀川:彼のジャンプヘッドのシュートをGKアジジが手に当てて防ぎ、ボールは左ポスト横を外に転がった。ボールが出て、またコーナーキックになりそうなときに本田圭佑が走り込んで、左足をいっぱい伸ばしてゴールライン上でとらえた。

――テレビの前ですごいと叫んでいましたね

賀川:ゴールラインを出て、またコーナーキックかと思ったときに本田が走り込み、スライディングキックでボールを内へ戻したのですよ。ラインいっぱい、目いっぱいプレーする本田のプレーでした。

――そこに森重がいた

賀川:森重が決めたのだが、この時にもゴールキーパーもDFもなんとか食い止めようとしたのには感銘を受けました。相手側の懸命さが伝わってきた。

――森重と一緒に、長友のボールに向かったのが岡崎慎司と本田の2人で、ここにも彼らのゴールへの意欲があらわれていましたね

賀川:カンボジア戦の前半は本田と酒井の右サイドからの攻め込みが多かった。この試合では本田はそれほど目立たなかったが、このゴールライン際のプレーでやはり本田らしいところを見せましたね。前半終わり近くのFKからのシュートが入って入れば、本田ファンは喜んだのだが…

――左ペナルティエリア、縦ラインからのFK、香川とのサインプレーですね。香川からのパスをゴール正面でダイレクトシュートしたが、DFのマークが厳しく、強いボールを蹴れなかった。

賀川:後半は5分に香川の左からの右足シュートで3-0、12分にエリア内へ後方から飛び出した山口にパスが出て、山口が中央へパスをして岡崎が4点目を決めた。岡崎は15分に5点目を決めた。これは本田のシュートがDFに当たったリバウンドのボールを空中でとらえたもの。岡崎だからこそ、とも言える得点。6点目は本田が宇佐美貴史(酒井宏樹と交代)の左からのクロスを決めた。

――香川のシュートはカンボジア戦での失敗が話題になり、この試合では2本のビューティフルシュートが次の日の各紙の見出しになりました

賀川:香川の2点目は①左サイドの長友の左ミドルパスが相手に奪われたのを奪い返し、②本田から左前方の香川へ、③香川からすぐ後方の原口へと渡す、④原口は相手DFに囲まれながら前方の香川にパス、香川がドリブルして、左足のシュートで決めた。ボールを受けてからの一連のスムースで正確な技と、3人の相手を引き付けて意表をついた原口のヒールパス技術が楽しかった。香川が左足のシュートでしっかりと蹴り足を振り、しっかり叩いていたのは、彼のシュートをネタに仲間たちにゴール前でのサイドキックシュートが難しくて案外不成功が多く、足を縦に振るインステップでの方が成功しやすい、などと話している私としては、とてもうれしいことだった。

――4点目の岡崎のゴールはその前の山口の飛び出しで「勝算あり」という感じでした

賀川:ペナルティエリア外、やや右寄りで、本田からのパスを香川が受けた時、その右外を後方から山口が走りあがり、その山口の前のスペースへ香川が左足のサイドキックで見事なスルーパスを送り、ノーマークの山口がゴール正面ノーマークの岡崎にパスをした。飛び出した山口に向かったゴールキーパーのいないがら空きのゴールに岡崎はボールを送り込んだ。

――こういうプレーを見るとまさに「チーム」という感じですね

賀川:ハリルホジッチ監督はこのあと、武藤嘉紀、宇佐美貴史、遠藤航を投入しました。宇佐美については、すでにプレーも知っているし、武藤も同じだから、ゴールする、あるいはチャンスに絡むことで自信を持たせたかったのかも。遠藤選手は私もこういう場で見たいひとりでした。

――全体として、予選の3戦目でようやくチームの形が整い始めたと言うところでしょうか

賀川:アフガニスタンは国内の事情もあって、普通ならこういう場に代表を送り込んでくるのもなかなかのことだと思います。練習環境などが必ずしも満足いかないのは彼らのプレーを見ていれば察しがつきます。戦中派でサッカーをする日本の環境が今よりはるかに悪かった時代のものとしては、アフガニスタンの選手たちの立場には同情します。しかし、相手の事情がどうあれ、サッカーの国際試合の場を踏みながら、日本代表は自分たちの力を少しずつ伸ばし、チーム力を積み重ねていかなければならないでしょう。

――アフガニスタンとは戦後間もないころに試合をしています

賀川:1951年ニューデリー(インド)での第1回アジア競技大会で、日本のスポーツは国際舞台に復帰しました。戦争を引き起こした国として、第2次世界大戦後、国際試合ができなかったのを、アジアの仲間たちから復帰が認められたのです。

――たしか賀川さんの兄、太郎さんも日本代表でした

賀川:私の母校の神戸一中の卒業生から10人の代表が選ばれ、16人のチームの主力になりました。準決勝でイランと引き分け、再試合で2-3で敗れ、3位決定戦でアフガニスタンを破って、アジアの3位になりました。いまから64年前のことです。私たちには国際舞台復帰の記念すべき年であり、記念すべき試合でした。

――その時戦ったイランの首都で、3位を戦ったアフガニスタンとの試合でした

賀川:大会の3試合を経て、ようやくハリルホジッチ監督と日本代表が、前2試合の不評から抜け出すのも、何かの因縁かもしれません。

――それはそうと、9月7日に東京で日本スポーツ学会の表彰式に出席、スピーチをしたとか

賀川:立派な賞を頂きました。スピーチの後先、日本代表の話題も多くありました。

――余計なことですが、8日の帰宅の際に台風は

賀川:新幹線で途中一部徐行があっただけで無事でした。それよりも台風が伊勢湾に向かって知多半島を直撃して北上したのには少し驚き心配しました。

――えっ、何故

賀川:サッカー和尚さんとして有名な鈴木良韶さんのお寺が知多半島なのです。被害はなかったかと、電話しました。特に難しいこともなかったということでした。

――和尚さんは

賀川:イランへ日本代表の応援に出かけて留守でした。私よりもずっと多くの日本代表の試合を応援し、世界のサッカーを見ている和尚さんですからね。

――鈴木和尚さんも6-0で、テヘランへ行かれた甲斐もあったでしょうね

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1ゴールに終わった香川 不満はあったがとにかく勝点3

2015/09/05(土)

FIFAワールドカップ2018 アジア2次予選
日本代表 3(1-0、2-0)0 カンボジア

――雨の降りやまない埼玉スタジアム、それでも54,716人のサポーターが詰めかけました。

賀川:ありがたいことです。ここしばらく中国での東アジアカップで欧州組不在の代表を見ていて、香川、本田をはじめ欧州組が顔をそろえるのだから、サポーターの皆さんの期待も高まったはずです。

――プレミアリーグ2人、セリエA2人、ブンデスリーガ4人、国内組はGK西川周作(浦和)、DF森重真人(FC東京)、山口蛍(セレッソ大阪)の3人がスターティングラインナップでした。カンボジア側は23歳以下が多く、日本を相手にどこまで頑張れるかということでしょう

賀川:力の差を考えれば大量ゴールを予想した向きもあったはずだが。

――しかるに「さにあらず」でした。日本は90分を通して34本のシュートを打ち、12本のCKのチャンスがあったが、前半28分本田圭佑の左足ミドルシュート、後半5分吉田麻也のこれもペナルティエリア外からのシュートで1点ずつ、後半16分ペナルティエリア内での岡崎のシュートのリバウンドを香川真司がインサイドキックで決めて3点目を奪いました

賀川:ゴールの決まった場面以外にも、これは入るだろうと多くの人が思ったチャンスもたくさんあった。

――なかでも惜しかったのは香川の前半2度のチャンスでした。ドルトムントでの今シーズンの活躍から見て香川への期待が大きかっただけに、ちょっとショックでしたね

賀川:今年のドルトムントはゴール数も多いし、チーム全員の運動量が多くて、開幕から3連勝だが、その攻撃展開の元となっている香川のパスが実に見事です。もちろん、彼のパスを受けるチームメイトの能力も高いのですが。パスの一つ一つに香川の技が光っています。開幕試合の先制ゴールは香川が左後方からのパスを受けてダイレクトで自分の左側にいるロイスに横パスを送り、ロイスがこれを受けて小さくドリブルをしてシュートを決めました。右足インサイドでのそのパスのコースといい、タイミングといい、グラウンダーの強さといい、パーフェクトでした。今年の彼は攻撃の際のゴールに結びつく、決定的なパスも、その一つ前のキラーパスの予備的なパスというべき、チャンスへの入り口になるパスでも非常に丁寧で成功している。

――サンケイスポーツの翌日の紙面の賀川さんのコラムに、ハリルホジッチ監督の香川の起用法が見出しになっていました

賀川:監督さんにとってはまだまだ全選手の能力を試したいところでしょうが、香川の攻撃展開の巧さを活用することが、今後のチーム作りに大事なのではないかと思っています。

――彼のパスを受ける側にも、香川はここへパスを送り込んでくるという判断をさせるということですね

賀川:彼は左右にボールを散らすときはどういうボールをどのタイミングで蹴るか…などはそう難しくないはずですが、実戦で生かすためには、実戦で互いに「あ・うん」の呼吸と言うべきものを重ねることが大切でしょう。

――ハリルホジッチ監督はもう少し選手たちの特徴を見たいと思っているのでしょうか

賀川:監督は、自分の指示や言葉が日本代表には予想以上に強く影響していると思って、まだ各選手のチームでの役割の指針を出すのは止めているのかもしれません。

――それにしても香川はエリア内の多人数守備の相手であっても、いいところへ入ってきますね

賀川:決定的とも言えるチャンスがあって、そこで点を取らないと目立つことにもなりますよ。

――そのことで、本人がまた慎重になりすぎるということもあるでしょうか。パスのサイドキックのとても上手な香川がカンボジア戦で、ノーマークのサイドキックを2本失敗しました

賀川:ゴール前での成功、不成功を精神的な面からみる場合もあります。香川は真面目人間で、得点しなくてはいけないと思い込んでいて、そのため慎重になりすぎるのだという見方です。

――テレビの解説でもそういう声がありました

賀川:たしかにその通りかもしれません。しかしだからと言って、どうやって落ち着いてシュートするのか、あるいは気楽に肩の力を抜いてプレーするのかは本人の仕事でもあり、コーチ、監督の「声」あるいは「ヒント」なのか…

――デットマール・クラマーはアドバイスが上手だったと聞きました

賀川:私も、いくつかの例を知っています。言葉の魔術もあるでしょうね。もう一つは技術の問題です。

――というと

賀川:ゴール前へ走り込んできて、短いシュートを決めるとき、インサイドキックが多いはずですが、このインサイドキックが「曲者」です。前半1-0となったあと、30分を過ぎた頃に右からのグラウンダーのクロスを香川が右ポストの外1mほどのゴールエリアにいて、左足のインサイドに当てて右ポスト(ニアポスト)の右外に外しました。そしてその後で、今度は左サイドから武藤がドリブルで走り込んできて出したグラウンダーのパスを右足のインサイドで、相手ゴールキーパーの方へ流してしまいました。自分の前のゴールはガラ空きだったのに…

――彼の右足のインサイドキックのパスのうまさを見た者には信じられない光景でした。

賀川:だから心の問題だとも言えますが、私はその時の体勢ではインサイドキックが良かったのか、インステップキックの方が良かったのを考えてみては…と思っています。ゴール前に走り込んできたとき、サイドキックは案外難しく、インステップキックの方がずっとやさしい場合があります。これについては、選手が自分で考えるべきですが、サッカー好きで議論してもらってもよいと思います。

――この点は自信をお持ちのようですが、その議論はまた後に聞かせてもらいます。カンボジア戦の香川は?

賀川:香川は2度のチャンスを失敗したが、それでも1ゴールしました。後半途中から監督さんは彼を左サイドに回しました。彼はトップ下も上手ですが、この日は左サイドの武藤が早くから中へ入ってくるため、左サイドの外のスペースを使うことが少なかったのです。香川が左へ回ったことで、長友も縦に動くようになりました。攻撃の幅が広がったことでチャンスは増えました。

――3点目の香川のシュートは右足インサイドキックでした。これについては?

賀川:エリア内の正面で岡崎が反転シュートし、それが相手側に当たってリバウンドした。入り込んでいた長友と、もう一人(武藤だったか)が相手DF一人とリバウンドボールを奪い合い、そのボールが香川の前に来た。十分な余裕があって、しかも自分の前にあるボールです。彼はインサイドキックで右ポストギリギリに決めました。

――相手はいつも5人のDFがエリア内にいました。時には双方で10人以上が狭いペナルティエリア内で攻め、守るという場面もあり、スペースは極めて狭いのですが、香川のこのシュートの瞬間は僅かな時間と空間がありました

賀川:彼もそのタイミングを逃さなかったということです。カンボジアの若者が疲れても粘り強いプレーを続けたのは立派でした。

――やはりサッカーは面白いものですね。再出発の代表のテヘランでのプレーに期待しましょう

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東アジアカップ シュート力をはじめ個人のレベルアップを

2015/08/12(水)


9日<男子>
日本代表 1(1-1、0-0)1 中国代表

――日本は前半10分失点しました。相手の右スローガンからだった。ボールがエリア内に投げ入れられて長身のCF22番ユ・ターパオが受け、そこからバックパス、横パスを続けられ、15番ウー・シーがキープして左後方へバックしてエリア正面すぐ外からフリーの7番ウー・レイが見事なシュートを決めました

賀川:相手に接近して囲んでいるが誰も奪いに行っていなかった。ペナルティエリア内だからタックルに行ってファウルになるとPKだという恐れがあるにしても…日本のDFの問題の一つではあるが…

――スローインがエリア内のFWの足元に届くというのも考えなければならないでしょう

賀川:日本のゴールは前半の41分、左サイドを走りあがった倉田に槙野からうまいスルーパスが出て倉田は早いタイミングで中央へ送り、武藤が走り込んで決めた。

――ビューティフルゴールでした

賀川:槙野がドリブルで持ち上がったとき、中国側の動きがパタっと止まった感じになった。そのとき倉田がダッシュした。その倉田のクロスに合わせた武藤のダッシュも速かった。日本サッカーらしい一瞬に気持ちが一つになる瞬間でした。こういうタイミングを自分で作り出すようになってくれればサッカーも面白いのだが…

――日本は前半始めに何度も攻め込んだチャンスもありました。その始めの10分間に点を取られて、相手に先制された

――リードした中国は守りに傾き、日本が攻め、中国がカウンターを狙う形になった

賀川:そのカウンターでヒヤリとする場面もあった。もちろんこちらにもいくつかのチャンスがあったが結局同点ゴールを生んだのは41分の速攻だった

――後半には雨も激しくなった

賀川:日本は後半も良く攻めたが、サイドへの展開が少なく、中央の狭いスペースでの速攻が多いのがもったいない感じだった。

――24分には相手DFのボールをFWがプレッシングし、右サイドで奪って武藤のシュートチャンスがあった

賀川:ノーマークシュートで、こういうチャンスは案外ゴールにならないが、そこを落ち着いて決めるようになってもらいたいシーンだった。

――28分に武藤に代えて柴崎をピッチへ送りました

賀川:パスが回るようになったが、こういうときにいつも言っているように、利き足でない足(右利きの選手なら左足)で3~5メートルの短いパスをつなげるようになれば、もっと楽な展開になるはずです。パスを出すのにそのつど右に持ち替えるのは実にもったいない。

――また、こういう五分五分の試合では利き足以外は使いにくいでしょう

賀川:だからこそ、若いうちに左足を練習しておけば楽になるのですよ。中国だってほとんど「片足サッカー」ですから余計にそう思いました。

――37分に浅野が永井に代わって入りました

賀川:永井は良く頑張ったがシュートチャンスにシュートできなかったこともあり、この試合は前の選手でなく第2列、第3列の飛び出しでゴールしました。だからFWの浅野にそのチャンスが来ればと願ったのです。

――中盤は山口蛍が動き回って目立っていました

賀川:中国はファウルの多いチームです。疲れてくると、アフタータックルが増えるのです。そういう相手に比べると山口のタフな動きは誠に素晴らしかったが…

――こういう双方に疲れが出ているときに宇佐美のドリブルなどが効果的なはずです

賀川:ドリブルだけでなく上手なプレーヤーが目いっぱい動いてみることもまた試合の打開にプラスするのだが。

――47分に柴崎がペナルティエリア右サイドでシュートチャンスがあった

賀川:中へパスを1つ奪われましたね。そのあと右サイドでFKがあり、柴崎が蹴って、遠藤が高いジャンプヘッドをとったが、ボールは右外へ飛んだ。攻めながらゴールを奪えないまま終わってしまった。

――雨中で両チーム力を出し切った試合でしたが、それでも勝ってほしかった

賀川:国内組だけで編成した日本代表はいいところもあり、不満なところもあった。武藤のようにJで活躍して選ばれ、この大会でも2ゴールした者もいた。伸び盛りのプレーヤーの中からこの大会を足場にして、もっと上達していく者が現れると考えるのはうれしいですよ。

――宇佐美はどうでした

賀川:この試合の前半でもいいシュートをしたが、やはり点をとらないとね。この仲間の中で自分でチームを引っ張る気をもう少し出しても良かったと思います。

――2部セレッソでごひいきの山口蛍は?

賀川:彼は動きの量も質も高い選手で、この程度は当然ですが、精度の高いプレーをしなければならないでしょう。

――日本代表と選手たちのステップアップを期待しましょう

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2014年10月14日ブラジル戦(下)

2014/10/21(火)

――後半に日本は本田圭佑を投入しました

賀川:本田がなぜ前半プレーしなかったのか。コンディションの問題だったかもしれません。イタリアでは好調で点も取っていたが、このシリーズは波が落ちていましたね。残念なのは本田が入って、テレビ観戦の皆さんが期待を高められただろうに、柴崎のミスからアッという間に2点目を取られたことです。

――後半始まってすぐ、日本にFKのチャンスがあった。ハーフウェイラインから少し相手側へ入ったところだった。柴崎がゴール前へボールを送り込もうとしたが、低くて相手のヘディングにクリアされた

賀川:その後、中盤での奪い合いが続き、時計は2分16秒だった。日本はDFラインでボールをキープし、自陣センターサークル左よりから森重が中央の田中にパスを送った。相手ゴールを背にした形でボールを受けた田中に、2人が間合いを詰めた。田中は右横にいた柴崎に短いパスを出し、自分は前で受けようとした。柴崎はこのボールを右足のアウトサイドで田中へリターンパスしようとしたが、足に当たったボールはコウチーニョ(オスカルと交代で後半に入った)に渡った。奪ったコウチーニョはドリブルし、日本のDFの裏へボールを送り込んだ。ボールは塩谷の右側(相手から見れば左側)を通り、そこへ走りこんできたネイマールが取った。ネイマールはペナルティエリアまでドリブルし、前進してきたゴールキーパーの右側を抜くシュートをゴールに送り込んだ。

――柴崎のミスが痛かった

賀川:森重が田中に縦パスを送った時の両チームの配置は、ブラジルはペナルティエリアから12~13メートル前方に4人のDFラインを引き、その10メートル少々前方に3人のMFがいた。FWの2人とMFの1人はハーフウェイラインにいた。いわば、4人、3人、3人の3つのラインが日本の攻撃に備えていた。

――守備の方として安定していた?

賀川:こういう時は、昔はサイドへボールをまず散らしたものだが、このごろは中央にくさびを入れたがる。それはそれで効果もあるが、ゴールに背を向けてボールを受けるのは奪いにくる相手にはよく、受ける側は相当能力のいる仕事となる。森重の前方には本田がいて、左タッチライン沿いには太田がいた。彼らは半身の構えでボールを受けられるポジションだった。

――受けやすい選手がいるのに、あえて難しい方を選んだと?

賀川:サッカーは時には無理なこともしなければならないが、ボールポゼッションという点なら、まずサイドに出して、そこから入ったばかりの本田に渡しておくのが普通のやり方でしょう。何しろ相手はブラジルですよ。こういうところにチーム全体の若さが出ていた。柴崎だけの問題ではありません。

――人数からみると、ハーフウェイラインから相手側の最終守備線の30メートルの間に日本側は8人、ブラジル側は10人いた。そしてブラジルの2本の守備ライン(4人と3人)に日本は2人と5人が向かっていた

賀川:この態勢で柴崎がボールを奪われた。ブラジル側はコウチーニョのドリブルにあわせて前方へ走ったのはネイマールだけだったが、コウチーニョの後を追った柴崎も、酒井、塩谷、森重の3DFもネイマールのスタートダッシュに完全に置いてけぼりになってしまった。ネイマールのスペースを見つけようとするうまさ、ドリブルからシュートへ入る時の落ち着きなどは、すばらしくてほれぼれするが、コウチーニョのパスも見たでしょう。
――というと

賀川:彼はドリブルしハーフウェイラインでスルーパスを蹴ったが、右足のトーでボールの下を蹴っている。ボールは日本DFの間を抜ける時は小さく空中に浮き、落下した。後はスピードが落ちてネイマールの取りやすいボールになっていた。かつてのパスの名手マラドーナも別の蹴り方でパスの速さを調整していたのを見たが、リバプールで働く22歳のコウチーニョもセレソンらしい、パスの技術を見せていた。

――あとの2ゴールについても、彼らの技術が生きているわけですね

賀川:日本は小林に代えて、武藤を投入しました。

――彼も柴崎もネイマールやコウチーニョと同じ22歳です

賀川:岡崎のシュートがあって、日本側に期待も生まれたが、ブラジルもネイマールの3点目に近いチャンスがあった。彼のポスト際のシュートはポスト左へ外れたが、ドリブルの後の切り返しの深さと大きさに日本のディフェンダーは振り回された。

――このピンチも中盤で奪われてカウンターを受けたものでした。

賀川:ボールを取ってからの彼らの速攻を見習いたいですね。後半20分には日本のファンにも馴染みのロビーニョがジエゴ・タルデッリに代わってFWに入り、カカがエリアスに代わってMFで登場した。

――30歳のロビーニョも、32歳のカカもしっかり仕事をした

賀川:0-2となってもブラジルが点を取りにきた。こういう時にはこちらもチャンスが来るはずだが、ジャマイカ相手に突破力を見せた武藤も、この相手ではなかなかシュートチャンスをつかめない。

――3点目はカカがピッチに入った1分後、日本が攻め込んだ後、ブラジル側にボールが渡った

賀川:ロビーニョが自陣ハーフウェイラインから15メートルの左寄りでクリアボールを拾い、すぐに前方のネイマールへパスを送った。中央から道へ斜走したネイマールはノーマークで右寄り30メートル近くでボールをとり、エリア右角から中央へクロスを送る。シュートもうまいがパスも確かな彼からのクロスをカカがヘディングした。ボールは川島が辛うじてセーブして、ボールはエリア外へ。さらにエリア左角からのシュートを川島がセーブしたが、はじいたボールはゴール前にいたネイマールのところへ。彼は左足でボールをダイレクトにとらえ、ボールはゴールに転がり込んだ。

――ハットトリックのネイマールは、さらに36分にヘディングの4点目を決めました

賀川:この時の左サイドのロビーニョとカカの見事なパス交換と縦への動きは、まさに理詰めの攻撃展開でしたよ。そのチャンスメイクのフィニッシュとなるクロスをカカが丁寧に蹴ったのに感銘を受けた。いわゆるペナルティエリアの根っ子近くからのクロスで、定石ではフワリと上げるのだが、その定石どおりのフワリをしっかりボールの底を蹴ってファーサイドで待つネイマールの頭上に届けた。こうしてみると、日本が弱いというより、久しぶりに強くてうまいセレソンを見せてもらった90分だった。

――セレソンの好プレーは多くの日本ファンや選手にプラスになるのでしょうか

賀川:一昨年のコンフェデレーションズカップの第1戦で、意欲満々で待ち受けるブラジルに日本代表が強烈に叩かれたのをファンは覚えています。格上の相手との試合のやり方は日本代表としての蓄積があるはずだが、4年ごとに監督が代わると、その都度監督にも選手に新しい経験のようになる。ゼロからの出発などという言葉も聞こえています。新しい気持ちという程度のことなのか?これまでの経験や蓄積を全否定してのゼロからなのか?どうだろうね。

――ブラジルのいいプレーの話になりましたが、実際に肌で感じたはずだから選手たちがこの経験を生かすでしょう。日本代表のひとりひとりについては、別の機会に話し合うことにしましょう。

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2014年10月14日ブラジル戦(上)

2014/10/20(月)

――ブラジルとネイマールのうまさや強さばかりが目立つ試合でした。どんなサッカーでも面白いという賀川さんにはいかがでしたか

賀川:日本代表チームがボカボカと殴られているのを見るのは決して楽しいものではありません。試合前にスターティングラインナップを知らされた時に、まず驚きました。監督さんはどういうつもりなのかと不思議に思いました。

――相手がブラジルであっても今の代表には選手選考試合であるという話でした。もちろん試合をする以上、勝ちを目指すとも言っていました

賀川:その監督の意向に添いたいと選手たちはそれぞれ一生懸命にプレーをしたが、初めて組んだ仲間と世界的なチームを相手にする試合はとても分が悪かった。

――ブラジル側は個人力が高い上に連係プレーもしっかりしていた。それに対して個人力の低い当方が初めてチームを組んだのだから選手たちは大変だった

賀川:多くのファンはテレビの前でゴールを奪われるたびに口惜しさを味わいつつ、相手のあざやかなゴールに感嘆したことでしょう。私は日本選手たちが今の自分たちと世界のトップレベルとの差を実感したと思います。彼らがこの試合のビデオを何度も見直すことで、体験をステップにしてほしいと思っています。

――会場となったシンガポールのナショナルスタジアムは5万5千人収容の屋根付きスタジアムですが、芝生があまりよくなかったとか

賀川:テレビ画面でも全部緑というのではなく、痛んでいるところもあったようです。屋根付きでの芝生の管理はどこも苦労するはずです。2002年に竣工した神戸のノエビアスタジアムもしばらく芝の評判はよくなかったが、今はよくなっています。竣工して5年というシンガポールもこれからでしょう。

――ブラジルの先制ゴールは、前半18分でした。右サイドのキープから、その後のスルーパスをネイマールが決めました

賀川:このゴールの直前にブラジルにFKのチャンスがあった。左サイドでネイマールがドリブルで仕掛け、3人目の柴崎が体を押さえにいってファウルとなった。ペナルティエリア外左ゴールポストから約20メートル少し外よりの地点だった。日本の壁は5人、カナリアが3人立った。ネイマールは一度蹴る仕草で日本の壁がその前に飛び出すのをレフェリーにアピールしてやり直した。助走なしの右足キックは左ポストの上部を直撃して左へ流れた。GK川島は全く動くことができなかった。9月の対コロンビアでは彼の右ポスト側のFKが右ポストギリギリに決まっていた。このストレートパンチのFKの正確さは彼の名誉回復シリーズの4試合での気合い充実の証(あかし)だろう。

――この後、スルーパスからネイマールのゴールが生まれました

賀川:この攻撃はブラジルの右サイドでのゆっくりしたパス交換で始まった。第3列(DFライン)と第2列のウィリアンとのパス交換からボールはジエゴ・タルデッリに渡る。ジエゴ・タルデッリはこれをダイレクトでウィリアンに渡し、リターンを受けて森岡をかわし、短いドリブルの後に日本DFの裏へスルーパスを送った。

――ジエゴ・タルデッリが受けた時、ハーフウェイラインより日本側のフィールドには日本のDF4人とMF5人の計5人がいたが、ブラジルは右タッチ際にひとりと、パス交換のウィリアン、ジエゴ・タルデッリ、そして右トップに出ていたエリアスと左トップの位置にいたネイマールの合計5人だけだった。

賀川:ネイマールはピッチの中央、日本のDFライン4人の一番右の酒井高徳の外側にいた。しかも2歩ほど前、つまりオフサイドポジションにいた。

――このときのスルーパスとネイマールの動きにテレビの前で、うまいと声を上げていましたね

賀川:ゆっくりとしたパス交換の後、ジエゴ・タルデッリがウィリアンにパスを出してリターンをもらう時の「緩から急」への変化の見事さ、そしてボールを受ける時のネイマールの位置を見ておいて3歩ばかりドリブルして日本のDF塩谷と森重の間を通すパスでオープンスペースへ送り込んだ。点を取れるFWとしてのジエゴ・タルデッリの感覚に思わず声が出た。

――テレビ解説ではネイマールの動き方をほめていました

賀川:もちろんすばらしいものだった。オフサイドポジションからいったん後方へ戻り、酒井の背後からニアサイドに現れた。酒井はジエゴ・タルデッリのドリブルの方を注視していたからネイマールがニアサイドに現れて初めて気が付いた。

――ジエゴ・タルデッリからのパスが日本のDFラインの裏へ出たときにはボールの一番近くにネイマールが走っていた

賀川:彼はペナルティエリアの手前でボールを取り、エリア内にドリブルし、出てきた川島を右へかわして無人のゴールへしっかりシュートした。

――リピートの映像で、ネイマールが酒井の背後からうちへ入ってパスを受けにいく速さがよく出ていますね。

賀川:相手の視野の外にいて、そこからボールを受けるストライカーの動作は日本では1936年のベルリン五輪の代表CF川本泰三さん(故人・第1回日本サッカー殿堂入り)の得意なプレーで、彼はこの動作を「消える」という言い方で後輩のFWにも勧めていました。

――外国に消えるという言い方はないとか?

賀川:サイドからのクロスに対して、ファーサイドに隠れてニアサイドに現れるのが典型的なひとつで、日本では釜本もこれが上手だった。イングランドのリネカーの得点はこの消えて出てくる形が多かったと記憶しています。しかしこの動作についての技術用語とか戦術用語があるのかどうか、不勉強な私には判断できません。1966年のイングランドのマーティン・ピータースが突如としてゴール前に現れるのをゴーストと評した記者もあったが。

――マーク相手からマークを外す個人戦術の一種ですね。

賀川:私が感心するのは、ネイマールのようにドリブルもシュートもすばらしく高度で、しかもスピードを持っているストライカーが若いうちにこうした駆け引きもできるということです。この点から見ても、彼の非凡さが見えるでしょう。

――そのストライカーを生かせるチーム全体もやはりハイレベルだということ

賀川:ゆったりキープして日本のDFの足を止めておいて、スピードを上げて突破する気配を見せたジエゴ・タルデッリが唯一のタイミングでパスを出したのです。

――ドゥンガ監督はセレソンがブラジル国民の信頼を取り戻すための代表試合シリーズと言いました。格下の日本が相手と言っても、この先制ゴールでチームに余裕が出たことでしょう

賀川:彼らは10月11日の北京でのアルゼンチン戦に2-0で勝利しました。ライバルを相手に、彼らはおそらく力一杯プレーし、チームは充実したはずです。もちろん疲れはあるだろうが、チーム全体のコンビネーションや攻撃の際の流れのつかみ方などに彼らの充実ぶりが推察されました。

日本のサッカー指導にかかわる人たち、また、プレーの上達を心がける人たちは、この試合のビデオで効果ある攻撃のためのスタートのタイミング、スペースの使い方などを見ていただければ多くのヒントがあると思います。

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国際親善試合 ベルギー2-3日本 その1「ベルギーに逆転勝ち」

2013/11/24(日)

ザック監督の攻撃力アップが生きた

――オランダと2-2で引き分けた後、テレビのインタビューで選手たちは勝てなかった悔しさを語りました。その気持ちがベルギー戦でも出ましたね

賀川:高いレベルのチームを作るためには、まず自分たちの攻撃力に自信を持つことが大切です。どんなに押し込まれても、そのうちに1点取れるとか、うちのチームはどんな相手からでも2点は取れるのだという希望がなければ、労の多いサッカーのようなスポーツを90分戦って勝つことは難しいはずです。

――その点を取る形、あるいはコースをつくるというのが日本の攻撃力アップにつながるとザック監督は唱え続けてきた

賀川:2010年ワールドカップの時にあらわれた本田圭佑を軸に、香川真司を加え、徐々に攻撃陣が整ってきた。新しく柿谷曜一朗と大迫勇也がトップをつとめるようになった。清武弘嗣と岡崎慎司がその個性をチーム戦術のなかで発揮するようになってきた。もちろんボランチや両サイドの能力アップもあってのことだが、攻撃力は増してきた。

――ところがアジア予選以降の試合で、まずコンフェデレーションズカップの対ブラジル、対イタリア、対メキシコで3連敗の洗礼を受け、キリンチャレンジの対ウルグアイでは完敗したが2得点した。グアテマラ(3-0)とガーナ(3-1)という適当な相手との国内強化試合で、点の取り方を積み重ねた

賀川:ただし、その後の対セルビア、対ベラルーシの東欧シリーズで1ゴールもできず2連敗した。

チーム全体に気迫が出てきた

――メディアの論調も厳しくなった。出場できない選手の不満の声も出ていたとか

賀川:こんどの2試合は相手がオランダとベルギー。欧州でもスペイン、イタリア、ドイツに次ぐランクだから、選手たちにも危機感と緊張感があった。

――もちろんザック監督にも

賀川:ザックさんは勝っても負けても攻撃力アップの姿勢を変えず、チームも常に攻撃を志向し、前がかりの試合をしようとした。

――東欧シリーズはそれでも無得点でした

賀川:日本のサッカーはボールをつないで攻める。そのためにはまず走らなければならず、攻撃に人数をかけるから、展開途中でボールを奪われるとピンチになり、それを防ぐためにもまた余分に動くことになる。

――ランプレーが大切ですね

賀川:サッカーは本来楽しいものだが、勝つためにはまず「しんどい」が当たり前にならないと日本流は生きてこない。

――敏捷性を生かすためにも…

賀川:そのためにはコンディションが大切で、また試合中あるいは前・後半での選手の交代もチームがいいコンディションで試合をするために必要となるのです。

――対ベルギー戦のメンバーはオランダと違ったものになった

賀川:オランダ戦はGKはいつもの川島ではなく西川周作でした。ゴールキーパーはDF陣との連携が大切だから、控えにも実践の経験を積ませることが大切なのでしょう。DFは足の具合のよくない長友に代えて酒井高徳、右は内田に代えて酒井宏樹にした。CDFは今野を休ませ、森重真人を起用して吉田と中央でペアにした。サイドバックは長い距離を走ると同時に、ポジションプレーの習熟も身につけやすいところだから、若い二人の台頭を監督はチャンスと見たのでしょう。

――選手の競争心をかき立てるのにもよかったという声が多かった

賀川:ボランチは長谷部誠と山口螢。

――トップに柿谷を置き、第2列は清武、本田、香川でした

賀川:岡崎でなく、清武を持ってきたのは柿谷との相性を見たかったのでしょう。

――そういえばこの前に柿谷をCFに置く時の清武の話を賀川さんはしていましたね

賀川:パスのうまい彼が柿谷とどう組むかは誰もが見たいはずです。

――その先発メンバーで早いうちに失点しました。川島のポカと言えますね

賀川:ベルギーはキックオフ直後にロングボールを送って激しく攻めてきた。ミララスが右から中へドリブルして左足シュート(CDFに当たり、GK川島が取る)もあった。ベルギー側はやる気満々という感じだった。

ベルギーの速攻

賀川:日本の早いテンポのパス攻撃を受けて、日本ボールの時のベルギー側の攻から守への切り替えが早くなった。すると日本は横へパスをし、第3列から攻めを始める。そのボールを日本の攻撃陣が受けるところをつぶしにかかった。ファウルを含むタックルは厳しいものだった。80年のヨーロッパ選手権ではじめてベルギーが欧州の大会で上位で争うのを見て以来、この国の代表には親近感を持っているが、ホールディングやプッシングが多く、かつての激しいがフェアな印象と違っていたね。

――日本側も激しくいって、ファウルも多くなった。はじめの15分は日本の方がファウルを余計に取られた

賀川:接触プレーの相手の絡み方か、こちらはファウルをしても目立ってしまう。それでもファウルになってもつぶしに行こうという姿勢は気迫を見せていてよかった。

――そのつぶし合いのなかから15分のベルギーの先取点が生まれた

賀川:14分に左から香川が中へドリブルして、逆へ振ろうとしたとき、ぶつかられてボールがこぼれてから、1分間に3度ばかり取ったり取られたりの状態になった後、アザールが日本DFの裏へ長いボールを蹴った。

――原則通り…とテレビを見て言っていましたね

賀川:右サイドの酒井宏がドリブルしてすぐ前の本田にパスを送った。ボールが弱くて、受けるところをフェルメーレン足を出してインターセプトし、そのボールがアザールの足元へのパスとなった。アザールは右足のタッチでコントロールし、森重を背にして半身の構えからスルーパスを蹴った。ハーフウェイライン手前3メートル、センターサークル外2メートルの位置だった。アザールがトラップした時、ハーフウェイラインの8メートル日本側センターサークル近くにいたルカクがスタートし、左前方のスペースへ向かっていた。

80年来の「またか」

――ボールは左の広いスペースへころがり、俊足のルカクが吉田の追走より早くペナルティエリア左角近くでボールを取った

賀川:驚いたのは、川島がゴール前からそのペナルティエリア左角外まで飛び出してきたことだった。

――川島は自分が取れると思ったのですかね

賀川:90年ワールドカップでコロンビアのGKイギータのエリア外へ出ての守りが話題になったが、彼の場合は広い守備範囲が看板だったからね。今回は川島の判断よりもルカクの足の方が早かったし、スペースもあって、ルカクの方が有利だった。

――普通は切り返したくなるのに、ルカクはそのまま縦に川島を(吉田も)はずし、中へクロスを入れた

賀川:いくらルカクが早くても川島と吉田と2人でコースを限定すれば、クロスが来ても日本のDFの誰かが防ぐはずなのだが…
ゴール正面に戻っていた酒井高徳の背後からミララスが走りこんできて、酒井の前(ニアサイド)に入って左足で無人のゴールに押し込んだ。

――テレビに映ったザック監督の顔は「またか」という感じでしたね

賀川:私のような古いサッカー人には、1930年の対中華民国戦以来の「またか」ですよ。相手の突進力で日本の守りか個人力が対応できずに失点するのは、日本代表の「伝統」か「宿命」の一つでしょうね。

――アザールの縦パスに何か言っていましたね

スルーパスの定石

賀川:スルーパス、相手のDFラインの裏へ狙うパスを出す典型的なタイミングの一つだったからです。先のウルグアイ戦で1点目を取られたのも、DFからの裏へのロングパス、それを蹴るときの構えが、後方へ戻るようにして反転キックした左足のパスです。この時にも話したはずだが、2006年にオランダの試合を見たとき、ロッベンが裏へ走り、それへ出したファン・ペルシーのキックが体を横に向けたまま(前へ向かずに)左足でボレーだったことを覚えています。ライカールトも同じ形でスルーパスを出していたのを見ました。前を向いてからパスを出すのではなく、横向きのまま蹴るところにスルーパスの効果があるのです。

――それを受ける側もわかっていて早いスタートを切りましたね

賀川:サッカーの定石のひとつなんですが、その早いタイミングのオープンスペースへ足の速いルカクが来たことで、日本側があわてたのかもしれない。

――相手のDFのキックの姿勢をもっと注意して見ることですね。日本代表はこのブログを読んでいるのかな。まあそういう「またか」があっても、くじけないところが、このシリーズの日本代表だったと言えますね

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国際親善試合 日本 2-2 オランダ

2013/11/21(木)

――オランダに2-2で引き分けた後、すぐに話を聞いたら、今度は2試合を終わってからの片言隻句にしようということでした。WHY?

賀川:ファン・ペルシー抜きのオランダが相手でしたからね…ザックさんがずーっと求めてきたことは、世界のレベルの高い相手に何ができるかをチーム全体で確かめたいということでしょう。上のクラスと戦うためには、まず心と体の充実が大切です。今度のシリーズは中2日ですから、選手の体調によって交代起用ということもあるでしょう。

――いわば、代表の総力戦となるわけですね。控えの選手たちが起用されてどこまでやれるかということですね

賀川:面白かったのは、第1戦の対オランダは香川真司と遠藤保仁の代わりに清武弘嗣と山口螢が先発したでしょう。

――ザック監督が競争原理を導入したという人もいました

賀川:いずれにしてもオランダ代表が後半になって動きが鈍った時に遠藤、香川が入りました。2人のことだから前半の間にオランダの動きを見て、自分たちのすることをしっかり考えていたはずです。

――オランダの監督も後半に2人が入ってから変わったと言っていましたね

賀川:試合運びにこういうやり方もあることをザックさんは実際に示してくれた。

――大迫勇也を先発で起用したのは

賀川:大迫という選手は彼が鹿島に入ってからずっと誰もが注目してきました。私もサッカーマガジンのシーズン前の予想で毎年のように得点王の予想に彼の名前を挙げていました。

――一度も当たらなかったが、期待をこめてと言っていましたね

賀川:前田遼一より若く、いわゆるセンターフォワードとしてシュートもでき、パスもでき、ボールを受けることもできる。基礎的な技術がある。体の強くなるのを毎年見つめてきた。鹿島の方針かもしれないが、少し時間がかかった気もするが、今年は姿勢もよくなってゴール数も増えた。代表監督としては、柿谷とともにぜひチームに加えたいストライカーでしょう。


――オランダ戦は2失点しました。1点目はロングボールを内田篤人がヘディングで処理ミスをして、ファンデルファールトに先制ゴールを決められた

賀川:多くの日本サポーターはテレビの前で、また同じパターンで失点したと思ったでしょう。内田の気の毒な場面となったが…

――ハーフウェイラインから長いパス一本だった。ファンデルファールトのスタートが早く、ダッシュの勢いもすごかった

賀川:日本のサッカー全体の「バックパス」について、技術委員会あたりでもっと考えるべきでしょう。少し不利になるとすぐバックパスをする習慣があって、これが時にもっと悪い状態になることは98年ワールドカップ対クロアチアの失点以来、代表の失点のパターンになっているのです。ただし、今回はそういうことにひるむことなく攻める気持ちを持ち続けたのがよかった。

――口を挟ませてもらえば、2点目の失点、ロッベンが右から内へ持ってシュートするのは彼の定石なのだから、日本のDF陣にとっては反省課題になるでしょう

賀川:オランダのプレスが強く日本は苦労したが、パスをつなげばシュートチャンスを作れることも見せた。それでいて、2点を失ってしまった。ただし面白いもので、2-0としてからオランダはホッとした感じになり、勢いが止まった。

――前半44分の大迫のシュートは試合の流れから言って、とても重要でしたね。

賀川:0-2で前半を終わるのと、1-2で終わるのではずいぶん違います。相手ボールをいい位置で奪って長谷部誠がドリブルし、左前方の大迫へ送ったパスのタイミングもコースもよかった。長谷部が持って出たときに大迫が左前へ動いて相手のマークを外したのがすばらしかった。彼らしく自然にマークがずれるような動きで、そのスペースでボールを受けてダイレクトシュートを右足で決めたからね。

――オランダにとっては一瞬のミス、スキを突かれたことになる

賀川:大迫はそれまで2本シュートした。左から来るボールを左ポスト際でダイレクトシュート。もうひとつは右後方からのパスを右足だった。いずれも相手に防がれたが、こういうラッキーなチャンスをものにしたところが、今の彼の充実ぶりを示していると言えるでしょう。

――後半は日本が攻め、オランダが守ってカウンターの形になりました

賀川:日本が1点を取ったが、それ以上のゴールは生まれなかった。日本の2点目は遠藤の右へのロングパスを内田が受けて、これぞ日本代表という短いパスのつなぎから。内へ入った内田が縦にパスを出し、DFの足に当たって大迫に渡り、大迫が左へ流れながら右足アウトサイドで後方の本田にパス。本だが左足のダイレクトシュートをゴール右ポストいっぱいに決めた。

――内田が面目を発揮した攻撃参加でしたね。2-2となってからも日本にはチャンスがあり、香川の左足シュート、73分から入った柿谷のシュートもあった。前者はGKが防ぎ、後者は右ポストをわずかに外れた。

賀川:柿谷のシュート不成功は本人にとっても残念だっただろうね。

――オランダ相手に大善戦でしたが

賀川:いまのオランダはFWのファン・ペルシーとロッベン、そして中盤のファンデルファールト、N.デヨングが軸で、若い選手が多く、ヨーロッパのメディアはその点に不安ありとしている。この試合では、マンチェスター・ユナイテッドのストライカー、ファン・ペルシーが欠場していた。はじめに申し上げたようにこれが大きく響いていた。

――まあFWのS.デヨングはこれまでほとんど出ていなかったこともある

賀川:飛車と角のどちらかの駒が抜けているオランダだったから、2-2の引き分けも私はそれほどうれしくはなかった。だから第2戦を見た上で強化試合全体を判断したいと考えたのです。

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自分たちの得点の取り方 実戦的技術を持つスラブ人

2013/10/22(火)

――日本がはじめのうち勢いよく攻めたので、今日は楽しいぞと思ったら、90分で無得点、前半の終了間際に1ゴールを奪われて0-1。結局、東ヨーロッパの強化試合は2連敗となりました

賀川:ベラルーシはワールドカップの欧州予選I組で最下位(8戦1勝1分6敗、得点7、失点15)に終わっているが、強敵にもまれて徐々に力を上げてきたようです。11月11日の最終戦、対スペインが1-2、その前の9月10日の対フランス(ホーム)が2-4でした。

――しっかり調べていたのですね

賀川:いや、不勉強で予習していなかったのだが、テレビで彼らの厚い守りとボールを奪ってからのカウンターの手順がずいぶん上手、というより手馴れているという感じだったので、あわてて外国雑誌を読み直しました。

――日本がアジア予選でのアウェーでいつも手を焼きながら勝ってきたのですが、東欧まできて同じタイプの試合になるとは…

賀川:スラブ人のチームだから、アジアの相手よりは体格がよく、プレーも粘り強いところがあります。

――ふーむ

賀川:ソ連邦時代にオリンピック代表の監督だったカチャーリンから「他民族のソ連では選手の民族性も参考にします。その点でスラブ人は体が強く、辛抱強くて守備にいいプレーヤーが出ている」と聞いています。

――その守備の得意なスラブのサッカーにやられたということ

賀川:ファウルも含めて、執拗に体を寄せ、ぶつけに来る相手と競り合いながら、日本側のボールテクニックの正確さが落ちたこともあります。

――奪われたゴールは、前半の終わりごろでした

賀川:もう一つ言っておきたいのは、彼らのテクニックは決して超高度というわけではありませんが実戦的ですよ。たとえば、クロスを蹴るのに、しっかりとボールの底を蹴って高いボールを送り込むということです。日本代表でサイドからのクロスがいまも相手にはね返されますが、ベラルーシのゴールは、右から、左から送り込んできたクロスが狙ったところへ落ちていたからなんです。

――得点になる攻めのスタートはFKからでした

賀川:香川と長谷部の小さいパスの失敗でシトコがドリブルするのを本田がファウルで防いだのが原因だった。(1)そのFKが右へ送られ、後方から飛び出した17番のチゴレフがペナルティエリア右角からファーポスト側へクロスを送った(2)その高いボールを折り返し(3)ペナルティエリアすぐ外、中央右寄りでカラチェフが受けてすぐ右前のチゴレフに渡し、(4)リターンをもらって、中央へ送る。それを(5)長谷部がヘッドでクリアしたが(6)左サイドで拾ったベレチロが30メートル左よりの地点から左足のクロスを蹴った(7)ボールは再びペナルティエリアいっぱい中央右寄りに落下し、(8)そこにいたカラチェフが後方のチゴレフにパス。チゴレフがエリア外からビューティフル・ゴールを決めた。

――クロスが狙ったところへ落ちてくるというわけですね

賀川:必ずしも中村俊輔ほどのピンポイントとは言えないが、まず狙ったゾーンへ送り込んでいます。早いカウンター攻撃を受けて、戻ってきた日本側の守りはこれで右・左とゆさぶられてマークが甘くなって、最後はノーマークシュートでした。

――カウンターもサイドからが多く、特に右サイドが働きました

賀川:シンプルにサイドを縦へ出て、そこからのクロスというのは、昔からの攻め方ですが、横から来るボールの方が、中の者には(後方からのスルーパスよりも)合わせやすいという利点があります。

――日本のパス攻撃で相手の裏へ出すスルーパスは、ヤッタ!という感じはするが、ここのところなかなか得点になりませんね

賀川:だからこそ、新しいトップ柿谷曜一朗をこのシリーズで試したかったのでしょう。

――日本のチャンスでのシュートが入らないことについては、また別にするとして、2試合とも試合の終わりごろにハーフナーを投入していますが、彼の長身を生かせるようなボールが出ていません

賀川:それは先ほどのベラルーシのクロスと比べてみることです。特に右サイドから浮かせてくるクロスは何本かありましたが、その蹴り方は参考になるでしょう。日本にはボールを高く上げて狙ったところに落とす中村俊輔という選手がいるのに彼のレベルに達する者が少ないのも不思議なことです。

――東欧の強化2試合はいろいろな勉強をしましたね

賀川:私は今の日本代表はアジア予選突破の後、大物チームとの対戦が続いて少し調子が落ちているのではないかと思っています。その点はあまり心配はしていませんが。

――FWのトップ、あるいはストライカーがまだ決まりませんが

賀川:いろんな策があるでしょうが、8月のNHK特別番組のメキシコ五輪銅メダルの試合を見ても、いいストライカーがいれば、と誰もが思うでしょう。

――今日は代表の攻撃の分析とは別に欧州予選最下位のベラルーシの攻撃を眺めることで反省点を考えた―ということにしておきましょう

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セルビア、ベラルーシ 2つの敗戦から

2013/10/21(月)

――日本代表の10月のアウェー強化試合は、11日の対セルビアは0-2、15日の対ベラルーシは0-1で敗れました。ファンの間からも不満の声があがっています

賀川:対セルビア戦のテレビの画面を見ながら、セルビアのような強い相手と戦うためのチーム全体の準備もひとりひとりの選手の心と体の準備も出来ていないと感じました。今年アジア予選を突破した後、コンフェデレーションズカップの第1戦でブラジルと対戦した時も、テレビから「天下のブラジル」と戦うのだという高揚感が感じられなかった。それとよく似ています。

――第1戦を見ながら、真司のコンディションがよくないとつぶやいていましたね

賀川:まあ、昔のユーゴスラビア連邦国家のころから、セルビアは東欧のブラジルと言われていたほど、ボールテクニックが高く、同時に伝統的に1対1の奪い合いの時の狡猾さは感心するほどです。体はしっかりしていて、ヤバいと思った時はごく自然にファウルプレーで止める。

――ワールドカップの欧州予選A組の3位で本番へは出られないセルビアだが、実力は高いということですね

賀川:その強チームを相手に新しいストライカー柿谷曜一朗を加えた攻撃のテストをし、あわせて積極的守備(前からのプレッシング)で守備力アップの自信を深めたい――そんな意図だったらしいが…

――それには相手が上だった

賀川:セルビアのCDFのイバノビッチはプレミアリーグのチェルシーのDF、もうひとりのナスタシッチもマンチェスター・シティのCDFですよ。後半はじめに日本が左サイドで攻め、本田が柿谷へスルーパスを送ったのをイバノビッチは読んでいて先にボールを取り、ライン際で柿谷が奪いに来るのをヒールでの切り替えしで内へ外して、左足アウトサイドで仲間に短いパスを送った場面があったでしょう。

――ふーむ

賀川:背が高く、体がしっかりしていて、柿谷がぶつかっても通じそうにないディフェンダーが日本のFWのように、かかとで切り返し、大きな足のアウトサイドを使ってパスを出すのですよ。彼のプレーを見て一瞬スウェーデン代表のセルビア系FWズラタン・イブラヒモビッチを思い出しましたよ。

――ああ、バルサにもいた、いまはパリ・サンジェルマンの

賀川:2人のCDFがプレミアリーグのトップチームのCDFであることだけでなく、真司と同じマンチェスター・ユナイテッドにヴィディッチ(ケガで昨シーズンはあまり働いていないが)がいることも忘れてはいけません。

――今年の欧州チャンピオンズリーグを戦う32チームに、確かセルビアの選手は合計10人いるはずです

賀川:そういう個人レベルの高いチームを相手にするためには、日本代表はまず何をするか。

――技術を生かし、組織力で戦うことですか?

賀川:そのためには走ること。運動量を多くすることが大切です。柿谷が相手の裏を狙う一発勝負だけでは通じないのですよ。

――今回は柿谷が代表攻撃陣の一角を担うかどうかが注目でした

賀川:清武をなぜ右サイドで使わなかったのかが不思議のひとつ。柿谷のボールタッチのうまさを生かすためにも、パスの出所を増やすことが必要で、特にこの日は真司と遠藤の調子が落ちていて、左サイドが起点になりにくかった。

――賀川さんは岡崎を買っていますよね

賀川:岡崎のゴール前に飛び込む果敢さと、粘り強い守りとキープはすばらしいが、柿谷という新しい力を試す、それもプレミアリーグのレギュラーCDFを相手にしてということになれば、こちらもいいパスの出し手を揃えることでしょう。

――68分に柿谷に代えて、清武が登場しました。入れ替わりでした

賀川:清武は香川よりも長いボール、高いボールを蹴ることができる。香川と違った視野の広さもある。

――そういえば、香川、柿谷、本田、清武の揃ったナイジェリア戦は悪くなかった。それでもザックさんは岡崎に固執しましたね

賀川:その理由はそのうちに明らかになるでしょうが、柿谷にも代表にも大事なチャンスを失したと思っていますよ。

――失点は

賀川:1961年に日本のアマチュア代表が初めてユーゴスラビア代表と東京で試合したのを見て以来、ユーゴスラビア系のプレーヤーのボールの持ち方のうまさはいつも見て楽しいもの。逆に相手側にはやっかいなものだと思ってきた。彼らの特色のひとつに「切り返し」のうまさと「深さ」がある。74年のワールドカップでドラガン・ジャイッチが足元でのキープと切り返しでブラジルやスコットランドのDFを翻弄するのを見たが、今度のセルビアの先制ゴールは、右サイドの18番バスタの切り返しが効果的だった。

――相手のハーフウェイライン近く、右寄りのFKからでした

賀川:ロングボールを警戒した日本の守備ラインを見て、右サイドの浅いところでボールをつなぎ、バスタが右外へドリブルすると見せかけて内へターンして長友をかわし、ペナルティエリアに入ってさらにもう一度切り返した。日本側は長友、遠藤、香川といたが、バスタは右足でシュートを敢行。そのボールがゴール正面にいたタディッチの足元へ飛んだ。タディッチが左足で止め、右足でニアポスト側にシュートを決めた。

――バスタの2度の切り返しからのシュートとそのシュートをしっかり止めて正確に蹴ったタディッチの2人のプレーが見事に組み合わされた。タディッチの近くに今野と吉田がいたが、タックルできなかった

賀川:ゆっくりパスを回していたのが、バスタの切り返しから一転してシュートへ持って行ったテンポの変化などはなかなかのものですよ。まあ、はじめに言ったように香川の動きの鈍いのも、こういうところで響いていた。

――遠藤の間合いの詰め方に問題という報道もありました

賀川:故障で前日まで別メニューで練習していたとか聞いたが…
コンフェデの時にも申し上げたが、新しい強化シリーズに入るときのコンディショニング―心構えも含め―がよくないのが気になりますよ。シーズン中で故障の多いのは致し方ないとしても、いい控えもいるわけだから…

――マンチェスター・ユナイテッドで少なくとも昨年は注目されていた香川がセルビア勢を相手に1対1で苦労しているのを見ると、世界は広いと思いましたね

賀川:だから日本にはラン―走ることが必要なんですよ。自分たちの敏捷性を生かすためにも…

――2点目を失ったのは後半の終了前に日本が攻めこんだ後、前方へのクロスを細貝が失敗して、相手DFの最前列にカットされ、一気にカウンターを食いました

賀川:日本が攻めるというのは、人数を多く前方へ送り込むわけだから、パスの失敗があると大変ですよ。相手はこのカウンターからゴールを左から右へ、右から中へと動かしてヨイッチが決めた。速いカウンターの攻め上がりの後、ゴールをサイドへ散らし、サイドからのボールを決めるという、点を取るための定石を知っているという感じですね。

――日本にもチャンスはあったが

賀川:前半に本田―長谷部―香川と渡り、香川は相手の守備ラインの裏でボールを取った。香川、本田に長谷部と3人になったのが生きたが得点にはならなかった。

――香川は長谷部からのパスを左足でシュートしたが、GKストイコビッチに防がれました

賀川:相手守備ラインの裏へパスを通して走りこむ攻めは、このところゴールに結びついていない。狭いスペースで相手のゴールキーパーも前進してくることもあり、これまで指摘してきたことだが、裏へ走りこんだ選手の工夫、そのパスのタイミングやスペースにも工夫があっていい。これについては、またお話ししたいと思っています。

――せっかく個人的に強い、チーム戦術のいいセルビアと対戦しながら、存分に戦ったという印象のないまま終わりました

賀川:レベルの高いチームを相手に、攻撃を組み立てて、ゴールを奪って自らの攻撃力に自信を持つという狙いは外れましたね。前半2本、後半5本のシュートのうち、ゴールの枠へ行ったのは、本田のFKと香川、柿谷の各1本(いずれもGKが防ぐ)だった。シュートそのものに原因があるのか、ラストパスに問題があったのか、精度うんぬんという抽象的な言い方でなく、何が悪かったかをプレーヤーやコーチがしっかり突き詰めることだ。

――右のCKをショートCKにして、本田―香川と渡り、香川が右ペナルティエリア根っこに持ち込み、岡崎へのパスを出してシュートしたチャンスがありました。

賀川:その岡崎へのパス、岡崎のシュート体勢にコースがあったかどうか、選手自身もテレビを見たファンも考えること、工夫することが本番でのゴール力アップにつながると思います。

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FIFAコンフェデレーションズカップブラジル2013 日本-メキシコ

2013/07/08(月)

――ブラジルやイタリアというワールドカップ優勝国はともかく、メキシコには勝てるかもしれないと思っていましたが、3敗目となりました

賀川:3連戦の最後、相手もそうだがチーム全体に疲れが重なっている時です。イタリアとの大接戦で力を使った日本は動きの量が落ちて当然ですが、この試合も本田圭佑と長本佑都の2人のコンディション不十分が響きましたね。

――体調の問題は、この大会はじめからでした

賀川:今の日本代表は、まず「ひたむき」に走ることが彼らの技術・戦術を生かせる前提になっています。しかし人は年がら年中ひたむきに走り続けるわけにはゆきません。こんなことはもっとレベルの低かった70~90年前から言われていることです。イタリア戦でも、あの暑さのなかで、イタリアは時に「ひと息」入れながら試合をしていた。そして、ここぞという時にはパンチ力を集中しました。

――メキシコ戦でもその傾向がありました

賀川:前半の序盤は日本の方が攻めてパスがつながり、香川、本田、遠藤たちを中心にチャンスをつくった。岡崎は守りの面、相手のボールを奪う面でも、イタリア戦と同様にとても貢献しました。

――前半10分までに惜しい場面が2度、香川真司がペナルティエリア内でのシュートを防がれたのが最初、遠藤保仁のシュートを岡崎がタッチして方向を変え、ゴールに入ったがオフサイドだったのが2つ目

賀川:25分にも、本田が左でシュート。これはペナルティエリアいっぱいからだったが、、GKに防がれましたね。そう、彼や香川の空振りもあった。

――いいチャンスを作っても、点を取らなければなんにもならない、と真司くんも言ってますが

賀川:パスをつないで見事に攻め込んでいるようだが、最後のシュートの場面でボールを受けるときに相手の守る側から見れば意外性はなくて、ボールの動きもシューターの動きも見えているはず。だから防ぎやすい。

――というと

賀川:ボールを動かすスピードやそれとともに動く日本選手の動作が同じ調子に見えました。

――一本調子という記事もあったかな

賀川:それとラストパスがサイドからでないから、相手DFもマーク相手とボールを視野に入れているのと違うかな。

――ふーむ

賀川:日本の攻撃でなく、メキシコの先制ゴールを見ると。

――後半9分、左サイドのグアルダドのクロスをニアでエルナンデスがヘディングで決めました

賀川:前半の中ごろからメキシコのボールポゼッションで、30分からの15分間に5本のシュートがあった。後半もメキシコの圧迫が続いて4分ごろから5分間、日本側はゴール前に釘づけ状態になっていた。左から右から攻め込まれ、エルナンデスのシュートを酒井宏樹が足で防ぎ、ドスサントスの右から内へ長友をかわしてのシュートは細貝萌が頭で止めるなど、ピンチを防いだ。このゴール前攻防からいったんボールがメキシコ側後方でのキープに変わり、そこからCBレイエスが高く長いパスを左サイドへ送ったのが8分0秒、ハーフウェイラインから45メートルの左タッチライン際でグアルダドはジャンプして左足タッチでボールを足元に置いた。(1)酒井が間合いを詰めてくると(2)グアルダドは左足アウトサイドでボールを前に押し、そのままクロスを蹴る体勢に入る(3)彼が左足で蹴ったボールは、止めようとした酒井の左足を越えてゴール前へ飛んだ(4)このクロスのスピードに合わせて第2列からスタートしたエルナンデスがGK川島の前でジャンプヘディングし、ボールはニアポストいっぱい、ネットに飛び込んだ。

――それまでパスをつないで、あるいはドリブルを交えて、サイドから崩してシュートに来たのが、一発のロングパスとその直後の早いタイミングのクロスとテンポをきた

賀川:そういうこと。ペナルティエリア近く、あるいはエリア内に侵入してきたのが、長距離からのクロスにした。しかし酒井を抜いてから蹴るのではなく、相手DFを前に置いてのクロスだった。

――日本側の対応は

賀川:グアルダドがボールを受けたのは、ペナルティエリアの横のラインの延長上、つまりゴールラインから16メートル50のところでした。このとき日本は右の酒井がグアルダドに、中央を今野泰幸、その右を栗原勇蔵、左に長友がいた。

――クロスを蹴った時は

賀川:グアルダドはフェイントを入れてクロスを蹴った。テレビの計時では8分8秒だった。グアルダドがボールを受けた時には、ペナルティエリアのなかにヒメネス、外の右側にサバラ、左よりにエルナンデスがいた。グアルダドがキックの動作に入るところでエルナンデスはスタートし、ボールが酒井の足を越えたときには栗原の方へ動いていた。日本のDFの目はボールに注がれていて、後方から走りこんでいるエルナンデスをとらえていなかった。

――川本泰三流に言えば、消えていた位置からあらわれた

賀川:エルナンデスは得点能力で知られているFWだから、当然マークしているはずだが、試合の流れのなかで後方にいて、それが速攻に切り替わって瞬間にそれにあわせてあらわれてきたということでしょう

――ヘディングの能力に自信があるにせよ、攻撃の変化という点で相手が上だったと

賀川:そういうことになりますね。しかも外から来るボールには、シューターは合わせやすい。シンプルな早いクロスをニアであわせた彼らの勝ちです。

――そういえば2点目もエルナンデスのヘディングでした

賀川:後半21分の右CKでした。日本は吉田麻也(前田遼一と交代)を入れた。

――3・4・3にしたのですかね

賀川:CKを蹴るのは右サイドのドスサントス。小柄でドリブルがうまく、長友も彼のためにいつもほど攻撃に出られなかった。

――彼のキックは一番近くへ走りこんできたミエルの頭にピシャリと合った。彼はバックワードへのヘディングでファーポスト側へ送り、そこにエルナンデスがいた。酒井に代わって入っていた内田篤人が、判断が遅れたのを悔やんだという記事も読みましたが

賀川:まさにセットプレーそのものですね。最初にニアでヘディングしたミエルにしても、はじめからそこにいたのではなく、右ポスト側の後方から斜めに走ってゴールエリア一杯(ゴールポストから5メートル50)で頭に当ててボールのコースを変えたのです。そのボールに対して、エルナンデスは初めはゴール正面にいたのをいったん後方に下がってボールの高さを見極め、体を寄せていた内田から離れてジャンプヘディングしています。マンチェスター・ユナイテッドのストライカーらしいプレーですね。

――セットプレーは日本代表の得意な攻撃のひとつですが、この場面はメキシコ側の息がピタリと合いましたね

賀川:飛んでくるボールの高さや速さを見極める「未来位置の予測」の確かさといえるでしょう。

――メキシコとも差がないようであったというわけですか…

賀川:嘆くことはありません。日本だって進化しているのだから…こちらが追い上げたゴールは、遠藤が右へ出て、そこへ香川からのパスがわたり、遠藤のクロスを岡崎が決めました。自分たちの個人能力をもっと高め、それを結び付ければいいわけです。もちろん今出場しているメンバーだけでなく、自分にもこれくらいはできると思っている選手もいるでしょう。そういうプレーヤーは自分が何ができるかを国内、国外の試合でアピールし、代表の舞台でも発揮できるようにすればいいのですから。

――岡崎や本田、そして香川をはじめそれぞれのここについても機会をみて話し合いましょう

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FIFAコンフェデレーションズカップブラジル2013 イタリア-日本

2013/06/24(月)

先制しながら勝ちきれず

――強豪イタリアとのシーソーゲームはとても迫力がありました

賀川:2-0とリードした時はひょっとすると勝てるかも、、、と思った人も多かったでしょう。その後イタリアの底力を見せつけられた。彼らの圧迫から日本側にミスが出て、結局勝ちきれなかった。

――もったいないことをした

賀川:もちろん両チームの実力を比べれば、負けても不思議はないのだが、こういう時に勝ってほしいものですよ。

――まあ、考えようによっては対ブラジル戦であれだけ不出来の日本代表が気持ちを入れ替えてこういう試合をやれることを見せたとも言えますが…

賀川:どんどん前からプレッシングをかけてゆこうという日本としばらく様子を見ようというイタリアだったから、前半初めは日本にはやりやすい展開となった。

――暑さと湿度がイタリア側の動きを慎重にしたのかも

賀川:中盤で相手がプレスに来ない時の日本チームは攻撃は上手です。それに、ともかく動こう、前からつぶしてゆこうという気迫があった。先制ゴールは相手バックパスを追う岡崎のがんばりがあり、そのためにブッフォンのファウルから生まれたPKを本田が冷静に決めたもので、好運でもあったがチームの活力を増す源になったでしょう。

――2点目もピルロのボールを奪った岡崎からの攻撃展開でした

賀川:ハーフウェイラインでピルロのボールを奪った。相手の攻撃の起点となる選手だから、カウンターも効果的になる。前田や長谷部のランが加わって右CKとなり、このCKから香川のエリア内での反転左足シュートというビューティフルゴールが生まれた。

――右CKを本田がショートコーナーにして、一気にクロスを出すのではなく工夫があった

賀川:右サイドでのパス交換から前田がエリア内で左ボレーシュートに入り、そのボールが相手側とのからみで高く上がった。それがエリア外へ落ちてきた時に今野がタッチして小さく浮かしたのには感服した。

――フワリと上がったボールの下に、岡崎と香川がいて、イタリア側も2人いた。もうひとり加わってきたが、誰も触らずにボールは落下し、バウンドしたボールを香川が反転してシュートした。

賀川:狭いスペースでの香川らしいプレーだった。右も左もシュートできるようになっている香川だが、この左ボレーは見事だった。インステップで押さえるように叩いて、右ポストいっぱいにライナーを決めた。

――香川がマン・オブ・ザ・マッチに選ばれました。ひとつにこのボレーシュートがあったのでしょう

賀川:この後も、日本はいくつかのチャンスを造った。点目を先に取っておけばと…

――イタリアには前半のうちに得点しておこうという意欲が見えていた。身体能力のずば抜けたバロテッリだけでなく、多士済々、誰もが試合巧者で、ここという時に力を発揮する

賀川:右CKをピルロが蹴り、デロッシがヘディングでピシャリと合わせた。長谷部がマークしたが、防げなかった。


「ひたむきさ」だけでなく、イタリア的老獪さも

――後半に入っても、イタリアの攻めは続いた

賀川:後半5分にゴールライン際でジャッケリーニが吉田との競り合いから抜け出してゴールエリアの左から中へクロスを送ると、これを防ごうとする内田の足に当たってオウンゴールとなった。中央にボロテッリがノーマークでいたから、そこへボールが行くのをスライディングして防ごうとしたのだが…

――スローで見ると、高くバウンドしたボールを吉田が処理しようとする時に、ジャッケリーニが体をこじ入れるようにして奪い取ったが、吉田はシンプルに外へ出す(たとえCKになっても)ことができたはず

賀川:それにしても7~8メートル離れている位置から、吉田のバウンドボール処理を奪うために突進したジャッケリーニの判断と動きの速さと、球際の粘りに、さすがイタリア代表、彼らの老獪さを改めて見た。

――こうなると、運は急速にイタリア側へ移っていく

賀川:7分にイタリアの右サイドから中央へ送られたクロスをペナルティエリアいっぱいでバロテッリがジョビンコにパスし、ジョビンコがシュートした。この時タックルに入った長谷部の右足に当たったボールが地面に落ちてバウンドし、彼の右手に当たってしまった。

――レフェリーはハンドをとりました

賀川:故意に手を使ったのではないから、ハンドではないと言えるのだが、こういう時にはハンドにしてしまうレフェリーも多い。ましてこの試合で日本は前半にブッフォンの反則でPKをもらっている。

――レフェリーはPKを出しやすい状態でもある

賀川:まあそこまでは言わないが、ともかくバロテッリがPKを蹴り、3点目がイタリアに加わった。後半が始まって7分のうちに、2失点。前半の41分の1点目とあわせると、10分ほどのうちに3ゴールを立て続けに奪われた。

――ブラジルが日本に対して前半と後半のそれぞれ5分にならないうちに1点づつ奪ったのと似ている

賀川:まあ、計算したかどうかはともかく、点を取ろうと意欲を高めれば、取る力があるのか、この試合でのイタリアのシュート12本のうち、7本がこの10分間に記録されていますよ。

――2-3とリードされても、この日の日本代表はくじけなかった

賀川:イタリアの攻勢でいささか受け身になっていた日本は、1点の挽回を目指す。リードしたイタリアが後退して守りに入ったこともあって、ボールをポゼッションする時間が多くなる。

――確かに相手守備網の外でボールをまわしている時間が多かったこともあります

賀川:後半24分にペナルティエリア右外でのFKのチャンスが来た。遠藤のキックを岡崎がゴール正面で見事にヘディングシュートした。35分にも岡崎のシュートがポストに当たった惜しいチャンスがあった。攻めて防がれて疲れがたまる。イタリアは守備の時間から攻撃の時間に転じた。

――日本側の動きが鈍ってきたのがはっきりしてきました

賀川:40分に小柄なジョビンコとの左サイドでの奪い合いの後、吉田が今野にバックパス、これを今野がダイレクトに前方へ送ったのが相手MFのデロッシに渡り、そこからのスルーパスを走って受けたマルキージオが中へパスを出し、正面に入っていたジョビンコが決めた。

――タフなことでは随一と言われている今野のクリアにミスが出たのは、それだけ疲れていた、体がいっぱいだったといも言えますね

賀川:労の多い日本サッカーがなかなか得点できないのに、イタリア側は守り時間は守り、点を取られるとそれまで残していた力を使ってゴールを奪いに来て成功した。

――試合の流れをつかむうまさですね

賀川:あるいは試合の流れをつくるうまさというべきかもね。日本にも個人的には見事なパスを出し、攻撃展開の妙味をつくりだすプレーヤーが出てきたが、試合全体の流れや緩急をチーム全体でつくっているイタリアからみれば、まだまだということになる。また、これができないとワールドカップで多くの試合を重ねて上位に進むことは体力的にも難しい。

――この日はPKを含めて17本のシュート、相手イタリアはPKを含めて12本のシュートです。そのシュートの力の差については

賀川:別の機会にお話ししたいが、35分に岡崎のシュートが右ポストにあたった場面があった。十分に余裕があり、助走してしっかり踏み込んだ左足シュートだったが、横殴りのキックだった。ボールのどこを蹴るのか、足のどの部分で蹴るのか、シュートの精度を上げるためのキックと、その反復練習が大切でしょう。

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ブラジル-日本(続)

2013/06/19(水)

チーム全体のボール運びと攻めの緩急

――後半も開始3分に2点目を奪われました。やはりサイドから中央へ送ってきた速いクロスをパウリーニョが決めました。右サイドからのボールという点が、先制ゴールの左サイドからのパスと違っているが、まず同じ系列のチャンスづくりでした。

賀川:早い先制ゴールでブラジルは前半を余裕たっぷりという感じでプレーをした。日本にもチャンスらしきものがあったが、このクラスを相手にして、ゴールを奪えるものではなかった。

――6分の本田のFK(バウンドしてジュリオ・セザールが前へはじいた)、8分に清武のクロスをファーポスト側で本田がジャンプボレーシュート(オーバー)。17分ペナルティエリアいっぱい中央右寄りで本田が右足シュート(GKが防ぐ)とあったが…

賀川:なぜゴールを奪えなかったという話は、あとまわしにして、まず2点目を見てみましょう。日本とブラジルの違いも知ることになるはずです。

前半のゴールは、左サイドのマルセロのクロスだったことは先述の通りです。そしてそのすぐ前には、ボールは右サイドから左へ大きく動き、そこでネイマールのシュートがあり、長谷部が止めたリバウンドがマルセロに渡った形になったのを覚えているでしょう。

――そうです、右から左へ送り、そこでシュートがあり、そのこぼれを拾ってのクロスでした

賀川:今度は右のアウベスのクロスですが、そのスタートは日本の攻めを防いだ後、ブラジルが右サイドでキープし、一度左へ送ってネイマールを中心にキープし、そしてネイマールが中へドリブルしてシュートの気配を見せ、右にいたルイス・グスタボに渡し、グスタボがさらに右後方のアウベスにパスしたのです。

――1点目と似た形(左右は逆であっても)だが、時間がかかっている

賀川:そう、右から左へ送り、また右へ戻してきた。その間に縦の突破の気配を見せながら短いパスをつないで、ゆっくりした動きを多くしていった。

――ゴール前を固めた日本の前のグラウンドを横切る動きを見せつつ、チャンスをうかがっていた

賀川:その圧迫感で日本の最終守備ラインはペナルティエリア内にまで後退していた。

――ビデオを残しておられる方は、もう一度見ていただければ面白いところですね


パウリーニョのトラッピングとシュート

賀川:アウベスが右足で強い、低いクロスを蹴った時には、ペナルティエリア内に黄色ユニフォームが5人いた。ファーポスト側、一番遠くにいたネイマールでなく、その内側のパウリーニョにボールが届いた。日本側もエリア内に5人いた。遠藤がこのクロスをカットしようと足を出したが一瞬遅れた。パウリーニョはノーマークでボールを右足で止め、前方から吉田がタックルに来るよりも早く、右足のインステップでボールを叩いた。

――GK川島は左へ(川島から見れば右へ)飛んで両手に当てたが、地面に落ちたボールはバウンドしてゴールへ飛び込んだ。

賀川:この場面で私が一番強い印象を受けたのはパウリーニョが右足でバウンドボールをトラップし、立ち足の方向をゴールに向けて(それまで体はゴールに対して後ろ向きになっていた)しっかりと蹴ったことだ。スローで見てみると蹴り足のバックスイングからインパクト、そしてフォロースルーの一連の動作を見事なフォームで演じている。パウリーニョという選手は昨年のポーランドでの対日本戦の先制ゴールをトーキックで決めた時から注目しているが、守備的ミッドフィールダーである彼がペナルティエリア内でのこのような落ち着いたシュートを決めるところにブラジルのセレソン(代表チーム)のレベルの高さがあるのでしょう。

――ブラジルがいわゆる左右のゆさぶりで攻めてくるのに、日本側がジリジリと後退してシュートチャンスをつぶすには間合いが広くなっていたという見方もあります

賀川:そうですね。50センチ、1メートルつめておけばよかったということになるのでしょう。この件に関しては、ブラジル側が左右にボールを散らすことで日本の守備選手の目が外に向けられ、マーク相手との間合いがズレを生じたのかもしれません。

――攻撃を組み立てても、シュートが決まらない日本に比べると、ブラジルのこの2得点は左右からのクロスを中央で受けてシュートという形としてはごくシンプルなものでした。

賀川:それぞれのクロスが日本側に防がれることなく、目標に届く、そのボールを受けた者は、そこできちんと仕事をする。つまりシュートをするということですね。

――シンプル攻撃もこうなるとすごいです

賀川:日本だから成功したという見方もあります。ただし、そのクロスに至る全体の流れ、緩急自在のキープや突進で相手を押し込んでいくチーム全体の感覚を共有しているところがブラジルでしょう。この大会でB組のスペインとともにサッカー好きにはその1試合、1試合が見逃せないチームですね。

――日本については

賀川:奪われた3点目の話も大切ですが、まずはコンディションを整えて、イタリアにぶつかることです。アジア予選が終わったところで本田をはじめ多くの選手が口にしたのは、個の強化・向上でしたね。

――記者にも同意見が多かった

賀川:1968年のメキシコ・オリンピック銅メダルの時のレポートに同時の岡野俊一郎コーチが今後の課題は個人技アップが第一と言っています。その32年前のベルリン・オリンピックでスウェーデンに逆転勝ちした日本代表の感想にも、個人力アップをしなければ世界との差は縮まらない、とありました。私のような古いフットボーラ―は75年前から聞き続けている言葉です。

――なかでもシュート力は

賀川:日本にもストライカーが育った時もありました。諦めてはいけないのですよ。その個の力も年月とともに向上しているのですが、まだまだこれからも…ということでしょう。

――そのブラジルの2得点を振り返れば、その個々の技術、ボールを止める、蹴るの技と力の差を改めて知りました

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FIFAコンフェデレーションズカップブラジル2013 ブラジル-日本

2013/06/17(月)

FIFAコンフェデレーションズカップブラジル2013
ブラジル 3-0(2-0)日本


――完敗でした。やはりブラジルは強かった

賀川:がっかりしました。午前3時過ぎからの中継を見た後、日曜日は全く暗い一日でした。もうちょっとやれるかと思ったのだが…

――力の差が大きすぎた

賀川:力の差の大きいことは試合前からわかっていることでしょう。それでも勝ちにゆくと言ったようだから、よほどの意気込みなんだろうと思っていたが、そういう気配ではなかった。動きの量も少なかった。コンディションも決して万全とはいえなかった。強気の発言はあっても、実際には力の差のあることを知っているから、逆に意気込みが、かえって体を硬くさせたのかも知れないが、自分より強い相手と戦う時に、こちらの方の体調が良くなければ話にならない。テレビの画面を見ながら、まずそのことに失望しました。ザック監督のスタッフは日本代表特有の長距離移動や時差の影響、あるいは気候の変化などへの対応がまだ不完全なのか…などとも思った。

――開始早々3分に、しかも相手の若いエースのネイマールにゴールを奪われたのだが、一番響いたという声が多いようです

賀川:私はこのブラジルの先制ゴールが、この日の試合を象徴していると思います。

――得点のコースとしては(1)左サイドのマルセロが速いライナーのクロスをゴール正面に送り込み(2)ペナルティエリアすぐ外、中央あたりでフレッジが胸で落とした(3)その胸のトラッピング的なパスを、右足で叩いてゴール右上隅に蹴りこまれた

賀川:ネイマールは右足のインステップで見事にとらえたが、少しスライス気味となってゴールキーパーには届かない右上隅に飛び込んだ。ネイマールはしばらく代表でゴールしていない。バルセロナへの高額移籍も決まったあとでもあり、注目されていたのだが、ワールドカップの1年前のホームでのコンフェデ杯初戦という大事な試合でゴールするところが、やはりスターでしょうね。

――一発のロングパス、その後ダイレクトで落とし、ダイレクトでシュートするというアッという間のゴールでした

賀川:この攻撃はまず前半2分過ぎにブラジルの右サイドにいたMFオスカルがハーフウェイライン中央右寄りから(1)左サイド前方のネイマールへライナーの長いパスを送るところから始まった

――日本が攻めこんで香川真司、清武弘嗣とわたって、清武が奪われた後、奪い返せずにファウルになった。その中央のFKから短く右へボールが動いて、そこからオスカルが長い斜め前へのパスを送りました

賀川:(2)ブラジルのFWのネイマールはペナルティエリア左角あたりで、内田と競り合ってボールを自分のものとし、後方へドリブルしながら(3)内側へ持ち込んで右足でシュートした。(4)シュートコースに入っていた長谷部が右足に当てて防ぐ(5)ボールは高く上がってペナルティエリア左角の左外へ落下し、フッキが取って後方へパスする。(6)左タッチライン際でマルセロがこのボールを取って、中央の仲間のポジションを目で確認して左足でパスを送った(7)そのボールが9番をつけたフレッジの胸めがけて飛んでゆき(8)以降は前述のネイマールが低いバウンドを蹴るボレーシュートとなった。

――マルセロのパスも見事だった

賀川:マルセロがフッキからのバックパスを止めて前を向き、長いパスを蹴るまでに4秒近くの時間があった。この間、マルセロに対してのボール奪取あるいはキックのインパクトの瞬間を押さえようとする日本側の動きは全くなかった。

――ふーむ

賀川:日本のDFはペナルティエリアの中央部に3人がいた。内田がエリア左角(ブラジルから見て)の外、その10メートルばかり前方に第2守備線の4人がいた。

――そうです。フレッジから胸のパスをもらうネイマールはこのDFラインとMFラインの中間の空白地帯にノーマークでいた

賀川:ネイマールはまず、(4)のところでシュートをして長谷部に止められた後、中央の方へ移動していた。

――マルセロはそのネイマールに直接パスを送るのではなく、まずゴールに近いフレッジへ速いボールを送り込んだ

賀川:そう。そこが、ミソですよ。しかもフレッジのすぐ左前方には、この一連の攻めの最初のパスを送ったオスカルが右MFの位置から上がってきて、攻めの先端部にいた。

――フレッジにはオスカルというチョイスもあった

賀川:ネイマールを選ぶのは当然だろうが、彼一人だけではないところが、やはりブラジルでしょう。

――ということは、相手の攻撃陣がポジションを変えて動いているのに、日本側がきちんとマークできていなかったわけ

賀川:強い相手との試合は、まず早いうちの失点は避けるのが常識で、相手FWの動きには複数防御で対応するが、重要なのはボールを自由にさせないこと。

――マルセロをまるでFKのように余裕のあるキックをさせたこと、フレッジへの詰め、ネイマールのマークも甘かった

賀川:このゴールはフィニッシュのネイマールのシュートがあまりにもすばらしいので、多くは「出来すぎのゴール」のように見たかもしれないが、シューターは練習を重ねていれば不調のときでもビューティフルゴールが出てくるもの。そしてこのチャンスは一連の流れのなかで、明らかにブラジル側が仕掛け、その目論見通りになったのだと思う。

――「試合の入り方が悪い」というような言い方を専門家はするが、日本側はこんどもそれで…

賀川:ブラジルを相手に、アジア予選で一番手慣れたポジションでなぜスタートしなかったのか、よくわかりませんがね…前田遼一をトップに本田をトップ下に、右に岡崎、左に香川とすれば、左サイドは長友との強いペアができる。そして岡崎の守備の強さが相手の左サイドへ来るネイマールとその関連の動きに対して効果があったのじゃないか、と思っていたのだが。まあチーム内の事情はどうだったのか?

――守りを考えるより、今日はまず1点を取ることを考えたのでしょうかね

賀川:一人ひとりの技術でも、走るスピードでも、体の強さでも個人力はブラジルの方が上ですよ。日本側にも何人かは起点になり得る個人はいるが、日本側がもし優位に立てるものがあるとすれば、労力、運動量とそれを生かした組織力ですからね。

――調整不足で、その運動力が落ちていたとすればちょっと辛い話になる

賀川:いくら挑戦だと言っても、いきなり点を取られて相手の調子があがってしまうと大変ですよ。ブラジルとすれば、日本以上にこの大会は開催国として勝ちにこだわっているから、まず先制点でぐっと落ち着きができた。

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記憶に残る2013.6.4.

2013/06/11(火)

――長い間、日本代表を見てきた賀川さんのアジア予選突破の感想、あるいは感慨は

賀川:日本のサッカーは、いつも何かハンディキャップを背負って、世界へ挑戦してきた。しかし少年少女がいいサッカー選手になるための環境は、いまや世界ランクの上位にある。芝生のピッチも日本中にできた。体格の小さいことはかつて欠点のように言われたが、それは欠点ではなく「特徴」だというふうなグローバル・スタンダードの考え方に変わってきた。

――だから今のようなレベルの代表ができた

賀川:まだまだレベルアップの余地はあるが、上手になり、強くなったことは確かですよ。ここで申し上げたいのは、その歴史上高レベルにある日本代表が最終戦でどういう試合をし、どういうゴールを奪取するかということです。

――ケーヒルを中心とした相手が意図した攻めで、危ない場面もあったのをともかく防いだが、ザックの言う「偶然」のようなゴールを奪われた。

賀川:オーストラリア側から見れば、好運のゴールでしょう。

――そういえば、日本のゴールも意図した攻撃とは違った形のPKでした

賀川:試合のディテールを文字にして伝えたいという私の記述を読んでいただければわかるのですが、もう一度申し上げたいのは、最後の右CKは監督の意図もたぶんノッポのハーフナーや吉田の空中戦だったでしょう。そのために、ハイクロスをピンポイントに蹴る清武を投入していたはずです。その清武がゴール前へ直接ボールを送らずに、ショートコーナーにした。本田がボールをくれと言う話をしたそうだが…

――そして本田が短いパスをライナーで中へ送って、ハンドが生まれた。(本田自身はミスキックと言っていた)

賀川:監督やチーム戦略とは別に、そのプレーの瞬間に選手が判断しプレーしたことが、「偶然」あるいは「好運」のような結果を生んだのです。

――ふーむ

賀川:「サッカーではどんなことも起こる」
親しかったドイツの代表監督ユップ・デアバルさん(故人。釜本邦茂の留学の時に指導した)がよく言っていた言葉です。何が起こっても諦めずに守り、攻めれば、何かが起こるということでしょう。

――今度のオーストラリア戦で代表はそれを経験した

賀川:相手のオーストラリア側も同じことを体で感じたことでしょう。日本のサッカーの歴史の中でも先人たちが同様の経験をしてきたのですが、私たちはこのレベルで、やはりサッカーはこういうことなんだということを知ったわけです。歴史的にもいい体験として記憶されるべきでしょう。

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オーストラリア戦を振り返って~仲間の協力で本田、香川の力をもっと引き出す

2013/06/07(金)

――6月4日の興奮から3日たちました。代表はすでにイラクとの試合(6月11日)のため、ドーハへ向かいました。この予選最終戦が終わると、ブラジルでのコンフェデレーションズカップ出場です。ブラジル、イタリア、メキシコとの対戦も興味一杯ですが、その前に対オーストラリアの話をもう少ししましょう。日本の攻撃や本田圭佑や香川真司のぷれーについても語ってください。

賀川:日本代表の攻撃展開を見ると、ずいぶん上手くなったと誰もが思ったでしょう。前半の12分に右CKがあったのだが、コーナーキックになる前の日本の攻めは、とても面白かった。ピッチの右半分を使って、香川-長谷部のパスに始まり、のべ9人の選手がタッチして、最後に右のゴールライン近くから内田がクロスを送り、相手DFが防いで右CKとなった。

ボールにからんだのは、香川-長谷部-内田-香川-長谷部-前田-本田-岡崎-内田の6人ですが、ペナルティエリアの15メートル手前から相手9人が守る形になっている間をパスを通しドリブルし、ボールを止め、ダイレクトで渡し、というふうにボールと人が動いて、ペナルティエリアの右の「根っこ」のところで内田がクロスを蹴ったのです。キックオフ後12分4秒から12分28秒までの24秒間に8本のパスが続いたことになりました。

――ボールポゼッションから相手の守りの隙を見つけてシュートへ持って行こうというバルサ型ですね。

賀川:昔は遅攻(ちこう)という言い方で「早いプレー」の好きな日本では歓迎されなかったが、近ごろはバルセロナの影響もあって、この攻撃の面白さを好む人も増えています。

――日本人の敏捷性を生かすためにと、代表チームは古くからショートパスを使っての攻めが伝統になっていましたね

賀川:もちろん相手の守りの人数の少ない時には早く攻めて広いスペースを有効に使うのは当然です。そういう攻撃を見せてくれたから、多彩な攻撃を楽しむことができた。

――本田の落ち着いたプレーと、香川のボールを受けてからのパスコースの選び方のうまさが目立ちました

賀川:代表チームはバルサのように同じチームで毎週試合を重ねているわけではない。今回のように久しぶりにレギュラーが揃っても、本田や、岡崎、長友たちがベストコンディションとは言えないのが残念だった。

――本田と岡崎は前日に帰国。長友はけがの長期離脱からの復帰だった

賀川:そういう条件からゆけば、いい試合をしたということになるでしょう。

――別の見方から、新勢力はまだ育っていないと言う人もいますね

賀川:しばらく欠場していた本田が無理なスケジュールでも試合に加わったことで、改めてこの選手の力を知ったということになっているが、もともとサッカーはそういう個人力あるプレーヤーの影響の大きい競技ですからね。野球はホームラン王でも、打てない打者でも1試合に打席に入る回数はほぼ同じだが、サッカーは上手な選手に何度でもボールにタッチしてもらうことができるのですからね。

――本田のゆっくりした動きのキープとシュート体勢に入るかもしれないという威圧感と、香川のボールコントロールのうまさと、それに続くパスコースやドリブルのチョイスの確かさが、このチームの攻撃のための転嫁を美しく、スムースにしていました。これで得点が多ければ、言うことはないのですが

賀川:先述の通り、体調が万全でないこともゴールできない理由かもしれないが、攻撃展開がやや中央部にかたよったこと。サイドをもっと使えばペナルティエリア内でも、もう少しDF陣の間が拡がるのだが…

――監督もそういう指示も出していたとか


賀川:このところ日本のサッカーではサイドから攻める、サイドの選手がゴールするといった感覚が少なくなっているように見える。本田と香川が軸となったときも、外へ開くことをチーム全体で考えるのが必要でしょう。

――そういえば、バルサのテレビを見ていても、メッシが右から斜めにドリブルで入ってきて、シュートかなと思うと、左オープンスペースへパスを出し、サイドの選手がシュートしたり、またクロスパスを入れたりしています

賀川:まあサッカーの常識ではあるが、結構、実際の試合でも有効なのですよ

――長友が後半の34分のメンバー交代の時、左のDFからMFへと前に上がった時、いきなり突進してペナルティエリアに入ってシュートしましたね

賀川:見事な攻撃でした。長友は後方からの浮き球をヘディングで香川に渡し、香川からリターンパスを前方へ送られて突進した。ドリブルでペナルティエリア深くへ入って、シュートしたが、GFシュウォーツァーに防がれた。コンディションが良ければ、もっと強いシュートができたかもしれないし、またシュートでなくゴール前にいる本田へのパスを選択したかもしれない。

――前半に長友が、左サイドから本田へパスをした場面がありました

賀川:本田が長いドリブルでエリアまで持ちあがり、左へ駆け上がってきた長友にパスをした。長友はそれをダイレクトでリターンパスした。いいパスだったが、相手のCDFが本田へボールが入ってくるのを狙っていて、ボールに絡んで結局シュートは出来なかった。本田のコンディションがよければ、シュートまでゆけたかどうかだが…この時、長友が自分のシュートというチョイスがあったかどうか?です。この日のオーストラリアは本田や真司のシュートを警戒していたはずですからね。

――相手側の心理の逆をつくということになると

賀川:逆を突くことよりも前に、長友からみてシュートチャンスもあると見えたかどうかです。もしシュートして入ればすごいし、得点しなくても相手にオヤッ?と思わせることになるはずです。

――サッカーのプレーは常にチョイスがつきもの。選手の判断力が大切ということですね

賀川:それも選手たちが話し合い、練習することで連携のよさが高まります。クラブチームのように常に合同練習はできなくても、レベルの高い選手が集まっているからそれは可能なはずですよ。

――香川真司のドリブルでの侵入や相手に囲まれながらの巧みなボールコントロールと身のこなしでシュートにもってゆくところはすばらしかったのですが、ゴールは決められなかった

賀川:本田との2人の関係だけでなく、彼の動きを見て受けられるスペースへ動いてみる選手がいてもいいでしょう。

――オーストラリアとの試合で、いい攻めを見せたが、まだまだこれからということ

賀川:いい連携もすべて反復練習からです。

――シュートに関しては

賀川:19本のシュートでPKの1点ですからね。代表の全員がそれぞれのポジションでのシュート練習が必要です。ストライカー育成については、クラーマーとも話し合ったこともあり、機会をみてお話ししましょう。

今はイラク戦とコンフェデの間に折角の皆の技術の合作といえる攻撃力アップを願いたいものです。新しいメンバーももちろん積極的に加わってくれるでしょう。

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ワールドカップブラジル アジア最終予選 オーストラリア戦

2013/06/06(木)

――スゴイ試合でした。あと10分のところで先制されて、追いつき、同点引き分けにしました。

賀川:日本はこれでB組で4勝2分1敗で勝ち点14、残りのイラク戦を残してB組の1位が確定し、5大会連続出場となった。5日の朝に流政之(ながれまさゆき)さんから電話があって「すごい試合だったな。よかったな」と喜んでくれた。89歳の世界的な石の彫刻家もテレビの前で応援してくれていたらしい。日本中に関心が高まっていました。埼玉スタジアムの入場者が6万2172人で入場券の申し込みは60万人をこえていたそうです。

賀川:盛り上がっている時に、本番出場を決めることはサッカー発展のためにも大事なことですよ。埼玉で予選突破の瞬間を味わった人にとっては、人生のとてもいい経験になったと思います。

――選手たちは喜びのなかで、これからのレベルアップに取り組むことが大切と言っていましたね

賀川:ブラジルのワールドカップ本番で、上位へゆくにはもっとチーム力を上げなければならないし、個人技術も体力も判断力も高めなければならない。そのことは選手たちがよく知っています。

――試合を振り返ってください

賀川:本田圭佑と岡崎慎司が合流したので、久しぶりにレギュラーメンバーが揃いました。GKは川島永嗣、4DFは右が内田篤人、左が長友佑都、CDFは今野泰幸と吉田麻也、MFが長谷部誠と遠藤保仁をボランチに、トップ下に本田、右に岡崎、左に香川真司、ワントップに前田遼一をもってきました。

――いろいろ試していたようだが結局はこれまで通りのメンバーでした

賀川:監督から見れば、一番頼りになる組合せでしょう。予想通り日本は本田を軸に短いパスをつないで展開し、オーストラリアは先端のディム・ケーヒルを中心に、時にサイドを使って攻めようとしてきました。日本の攻めに対してはペナルティエリアのなかには、5~6人がもどってきました。1週間前に来日してコンディションもよいようでした。日本側では、さすがに直前に戻ってきた本田と岡崎がベストとは言えなかったが…

――後半の35分までは0-0でした。ブルガリア戦や、予選のヨルダン戦で0-2、1-2と2点取られていたから心配する人も多かった

賀川:サッカーのようなスポーツでは、まず気構えが大切。ブルガリア戦は「キリンチャレンジカップの楽しみ」のところで指摘したように、戦う姿勢が見えない選手がいた。この日はピンチにも「体を張って」とアナウンサーがよく言うプレーもありました。

――内田が相手のシュートを2度体で止めた。あとで腹を押さえていたのもあった。ケーヒルのシュートを吉田がスライディングで止めた場面はテレビの前で拍手しましたよ

賀川:178センチと大きくはないが、ジャンプ力があり、空中戦に威力を発揮するケーヒルを今野がしっかり防いでいた。バネのあるケーヒルは空中戦だけでなく、瞬間的な早さでこれまで日本戦で点を取ってきましたからね。

――前半には相手の右のオープンスペースへボールが出て、ダッシュ競争で遠藤が振り切られてロビー・クルースがノーマークでシュートした。GK川島が飛び出して、ファインセーブ(右手に当てた)して救ったが

賀川:この場面でも遠藤はスピードの点で気の毒だったが、それでもいったんコースに体を入れようとしていた。やられても粘ろうとしていました。

――ブルガリア戦で「ぶれダマ」FKで失点した川島が、このファインセーブでいいところを見せたのに、後半36分にトミー・オアーのハイ・クロスが予想外に伸びてゴールに入ってしまった。ザッケローニ監督は「偶然のような形」という表現で川島をかばっていました

賀川:ゴールキーパーは守りの最後の責任者ですからね。僅かな時間だったが、目測を誤ったことは間違いないでしょう。野球の外野フライで、目測を誤ってヒットになることもあるが、川島自身には悔いが残るでしょう。このあとPKの得点が生まれたのは川島のためにもとてもよかったと思います。

――まあ反省はしても、引き分けとなったのだから、後々にしこりみたいに残っては困りますからね

賀川:ただし、この偶発的なクロスも、両チームで一番若いオアーが左サイドで日本側3人を相手にドリブルしてペナルティエリア左外から蹴ったボールです。

――つまり、相手の若者に個人突破のクロスキックを許したということになるわけ

賀川:オーストラリアの選手は個人能力が高い。それを押さえることがこの試合のテーマのひとつだった。

――次にPKについて聞かせてください。試合中のPKでも、大会などでのPK戦でも、キッカーの気持ちの強さが出る場面が多いですね

賀川:本田が正面に蹴った時にはゴールキーパーは右へ飛んでいた。サイドネットで決めるという定石どおりではなかったけれど彼の勝負強さがあらわれた結果でしょう。

――最後まで緊張感の続いた93分はこのPKで1-1。日本はブラジル行きを決めました。この試合でまたPKが話題になるでしょう

賀川:野球というスポーツで停止球から始まるプレーについては理解しやすい人も多いですからね。特に近頃は高校選手権のようなノックアウト方式の大会でのPK戦がありますから。

――それについて旧制中学のせんしゅのころからPKのキッカーだった賀川さんの話を聞きたいが、ここは日本のあれだけ上手な攻撃で結局PKの1点だけだったことについての話を聞きたいです。


続く

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国際親善試合 20130322 カナダ

2013/03/25(月)

――3月22日カタールでの日本代表強化試合、カナダ戦は2−1で日本が勝ちました。カナダが予想していたよりも強かったのか、押し込まれる時間帯も相当あり、相手のチャンスも4、5回ありました。26日のヨルダン戦に不安はありませんか

賀川:本田と長友という代表のなかでもハイクラスの2人を欠くのだから影響が大きいのは当然でしょう。それを補い、3月26日に勝てるチームを作り上げるのが監督、コーチと23人の選手たちの腕と頭の見せ所でしょう。

――前半のメンバーには驚いたでしょう

賀川:中村ではなくトップ下に香川を置いたことですかね。ザック監督は本田の代わりのトップ下はこのチームなら憲剛だと思っていたはずです。私もザックさんの常識と同意見だから、なぜまた真司をトップ下にしたのかと考えましたよ。

――で、ザックさんの見た乾は

賀川:テレビでの試合後のザックの言葉で、前半は何回かチャンスをつくった、そのチャンスに得点しておかないと、というところがあった。冒険するかどうか、監督さんのハラでしょう。

――香川真司については

賀川:ガンガン来るこういうチームで香川が本田のように中盤で「持ちこたえる」選手でないことは、誰もが知っていることでしょう。ただし、この試合の2得点を見ると前半9分の岡崎のシュートはその直前に香川の相手DF裏への飛び出しに長谷部がスルーパスを出し、そのボールをGKがクリアし、岡崎に渡してしまった。GKのミスでしたが、香川の飛び出しの早さから生まれた相手のミスが岡崎へのパスになったわけでしょう。

――決めた岡崎もさすがでした

賀川:日頃からの努力の賜物ですよ。日本の2点目(後半29分)はハーフナー・マイクがエリア内で左足シュートを決めたのだが、左サイドの酒井高徳からのクロスをゴールエリア左角で香川が相手DFの前に走り込み、DFの足に当たってゴール正面へ飛んだボールをマイクがダイレクトシュートしたのです。

――2得点とも香川の飛び出しがからんだということですね。そのほかでは遠藤のFKぐらいでしたからね

賀川:真司の飛び出し、ペナルティエリア内での速さと技術はヨーロッパでも評価されています。この地域ではひどいファウルはPKだけでなくレッドカードになるので、彼の速さが生きるわけです。酒井高徳がある程度攻撃ではいけるメドがついたから、真司を自由に動かせるやり方がゴールへの近道になると言えます。

――前田に代わって後半にワントップとなったハーフナーは

賀川:代表での試合は今度が2回目ですが、チームになじんできましたね。オランダでの経験も増えたのでしょうね。

――後半すぐのフリーシュートを失敗しました

賀川:本人はGKの上を越そうとしたらしいが、まあこういうゴールは決めておかないと…その後の胸でトラップしての左足ボレーも適度の高さにボールが落下するまで待ちきれずに蹴っていた。まだまだ上達の余地はいっぱいあるが、この大きさは魅力ですよ。25歳の若さとあわせてね。

――失点に関して

賀川:カナダ側は前半にも後半にもシュートチャンスがあった。よく動いてセカンドボールを拾ったこともあり、その点では日本の守備にもいい訓練になったはずです。奪われたゴールは左CKで、このときFWのヘイバーとDFの長身エドガーの動きがうまかった。エドガーをマークした吉田がファーポスト側まで動くことになり、ゴール前の中央部にヘイバーの方が伊野波より少し早く体を寄せ、ハーフナーを越えて落下してくるボールにヘイバーが伊野波の体の前へ頭を突き出すようにしてヘディングした。ボールは右ポスト内へ飛び込んだ。

――日本側のノッポ、ハーフナー・マイクは

賀川:ゴール前中央、落下点近くにいたが、相手に先にジャンプされ、のしかかられて動けなくなっていた。この上を越えてボールが落ちてきたのです。

――話を攻撃に移します。2、3点の得点力をつけようということにあっているはずなのだが…

賀川:日本サッカーもどんどん進歩しているが、といって得点力不足が解消しているわけではない。ゴールを奪うことに個人的にも意欲を高め、実際に力をつけてきた本田がいないのが今度のヨルダン戦です。

――正念場です

賀川:それだけにベテランの長谷部、遠藤から新しい選手に至るまで全選手に取ってはとてもやりがいのある試合ですよ。こういう大事な場面でいいプレーをすることはチームにも自分にも大きな意味があるでしょう。

――26日には埼玉スタジアムではパブリックビューイングもあるそうです。全国のテレビの前で多くの人たちが声援されるでしょう

賀川:代表チームが皆さんの声援を受けていい試合をし、ひとりひとりが実りのあるプレーをしてほしいと思います。

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続 ブラジル戦~ひとりの個人力の重要さ

2012/10/30(火)

――ブラジルに完敗してから1週間たちました。サッカーマガジンをはじめ、専門誌で両チームの分析や、海外の反響など後追い記事が出ていました。このブログでも賀川さんの「ブラジル戦続」を聞きたいですね。

賀川:そういえば、少し間が空きましたね。ごめんなさい。あの試合は力が上のブラジルが先制して優位に立ったからと、とりあえず先制ゴールを詳述したのですが…そう、続をはじめましょうか。

――両チームの違いやプレーの内容などに入る前に1点目にこだわったのはなぜですか

賀川:格下のチームが格上のチームと互角に戦って勝つためには、まずゴールキーパーの超人的な働きが必要です。10月12日のフランス戦でも川島の働きがありました。

――フランスのテレビの司会者の福島原発にひっかけたような発言もあった

賀川:話が横にそれますが、フランスには日本文化への造詣の深い人もたくさんいる。ゴールキーパーの絵に描き加えるなら、原発の影響を想像するより、千手観音を思い出してもらった方がフランスらしい…余計なことかな。

――その川島が1点目を防げなかった

賀川:あのトーキックのシュートは予想するより半呼吸ぐらい早く蹴ることになる。それとゴールからの距離もあったから、おそらく川島は相手の動作がすべて見えているにもかかわらず、シュートのタイミングをつかめなかったのだろう。ゴールキーパーは一般論で言えばその試合の最初のシュートが自分の読みに合っていれば自身が生まれる。ましてジャンプしてセービングが成功すれば、調子があがるものでしょう。ぼくたちは旧制中学のころから、ゴールキーパーの予測を狂わせるのもFWの大事な仕事と思っていた。

――川島は、この先制ゴールの読み違いが後に響いたと?

賀川:アトランタオリンピックでブラジルを1-0で破った時は、川口能活がものすごい働きをした。72年前のベルリンでスウェーデンを破った時も、GK佐野理平さんが何度も防いだ。佐野さんは外国人の評論家から大会最高のゴールキーパーとまで言われた。

――そういうゴールキーパーの活躍が大敵に勝つ大きな要素のひとつですね。

賀川:その川島の神通力はこの試合では発揮できなかった。2点目がPKだったが、これを止めればまた彼も勢いづいただろうが、ネイマールがそうはさせなかった。

――そうでしたね

賀川:26分のこのPKの後に日本が攻めて、中村がエリア内で裏へ流して、香川がオフサイドになったのを見たでしょう。

――短いパスの攻めは成功しそうに見えた

賀川:ペナルティエリアのラインに並ぶブラジル守備線を短いパスで突破しようとする日本の攻めはバルサにも似ていた。しかしこの次にブラジルが日本のテンポとは全く違う攻めを見せた。
(1)左DFレアンドロのパスを中央で受けたラミレスがキープ。彼の右にパウリーニョがいて、日本は3人でこの2人を囲みに行く。
(2)ラミレスは背後から来る中村を右手で押さえつつ、長谷部と遠藤の間へパスを送る
(3)そこへ前方からオスカルが戻って受けて、左へドリブルしさらに左前方のネイマールへパス
(4)ネイマールは内にドリブルする。日本は吉田、今野、長友の3人がその前方に守備線を引く
(5)ネイマールはドリブルしつつ、DFラインの裏へ吉田の左側を通るパスを送り、内から外に駆け抜けたパウリーニョがペナルティエリアすぐ外で取る
(6)パウリーニョは前進守備の川島の前を左へ抜け、左足シュート。ボールは右ポストの外へわずかに外れた

――見ていてヒヤリとしましたね

賀川:機会あるたびに言っていますが、日本の攻撃はパスを多用するので、人数が多くなる。この日のように積極的に攻めてゆけば、後方に人数を残しておけない。もともと1対1の守りはアジア勢相手にでも1~2点は取られやすいものだ。今度はそれがブラジルですよ。スピードで突破されるのを恐れて間を開ける。すると相手は自在のパスを出すことになる。

オスカルから受ける前のネイマールの動作や、ドリブルのコース、同じスルーパスを出すにも、小さなフェイクが入っているのをスロービデオの画面でご覧になればとても面白いですよ。

――パウリーニョに2点目を決められたら、さすがにガクンときたでしょうね

賀川:PKそのものは、エリア内で右サイドのアドリアーノからのパスを受けたカカに今野がスライディングタックルにいき、その時、地面についた手でボールを止めた…つまりハンドを取られたわけです。意識的でないのだからハンドの判定はおかしいという声もあるが、ポーランドのレフェリーはハンドにした。この時のカカとアドリアーノのプレーも見事だった。

――アドリアーノはあのバルサの右DFですね

賀川:ゴールライン近くへ侵入し、大きく長友をかわして後方へのパスを送ったところは「さすが」という感じ。この時のカカの受け方も見事で、この日の彼はいよいよいい状態になっていることを示した。ここで言っておきたいのは、右利きの右サイドDFの彼も必要なときは左足を使ってプレーしていることです。日本の右サイドのDFで左足をほとんど使えない(使わない)選手が多く、私の嘆きのひとつですが、アドリアーノクラスはちゃんとできるのですよ。

――追々、個人能力の比較が出てくるのはありがたいが…

賀川:自分たちのFWが相手のDFに対して優位に立っているということを知れば、チーム全体がとても楽になるでしょう。日本でも本田がひとりいて、そこはすぐにはボール取られないとなると戦術の上でも気持ちの上でも手がかりができる。

――第1戦は前田がいなくて、ハーフナーという経験の浅いトップで、しかも本田を欠きましたからね。

賀川:第1戦の後で、選手もメディアも勝ちはしたがこれほど一方的に攻められるとは…と不満足のようでしたが、本田も前田もいなかったのだから不思議ではないのです。

――ボールをキープできて、またシュートチャンスを自ら作りシュートできる選手ですからね

賀川:話が本田選手のところへきたから書いておきますが、この彼不在のフランス戦と彼のいたブラジル戦で改めて日本チームでの本田の存在の大きさを多くの人に知らせただけでなく、チームのなかでひとりの個人力の重要さも多くの指導者に見てもらえたと思います。いま私がサッカーマガジンで連載している日本とサッカー90年でも、ちょうど69年に釜本邦茂が病のために代表を離れ、日本代表は70年ワールドカップのアジア予選で敗れたところを最近の号で書きましたが、40年前がレベルが低かったばかりではなく、サッカーのチームワークというのは、そういうところがあるのです。

――前田もいて、どこまでやれるかを見たいブラジル戦でもあった

賀川:中央でボールを受けられる日本人CF(センターフォワード)が本当に前田一人しかいないのかも問題ですが、2001年にセレッソの西澤がスペインに渡った時、森島はじめいい選手がいるのに中央でボールを止める西澤ひとりいなくなっただけで攻撃がダメになったこともありましたよ。前田だけでなく、守備力のある右のMF岡崎もブラジル戦でその効用を見たい選手でした。まあこういうことを言うのは、ブラジルのような相手と試合するためには攻撃と同時に守備力がどれくらい大切かを言いたいのです。

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個人の決定力 パウリーニョのトーキック

2012/10/23(火)

――10月の日本のヨーロッパ強化試合はフランス代表に相手のホーム、パリで1−0の初勝利(10月12日)、ブラジル代表と中立地ポーランドで0−4の完敗(10月16日)でした。

賀川:相手のシュートが21本(日本は5本)というほとんど守勢だったフランス戦とは違って、ブラジル戦はこちらの攻撃場面も多く、シュートは10、相手は14、CKは日本が10、ブラジルが2だった。互角とまではゆかないが、ボールをキープして攻め込んだ時間もあったのに1点も取れず、終わってみたら4−0だった。

――現地からの選手の声は、フランス戦は「勝ったけれご、納得できない(もう少しボールポゼッションできるはずだったのに…)」、ブラジル戦は「負けたけれど、ある程度自分たちの力を出せた(自分たちのやり方で攻撃、シュート場面をつくれた)」でした。

賀川:どちらの試合も私にはとても面白かった。ネイマールやオスカルといった、若く上手な攻撃プレーヤーのいるブラジル代表が徐々にチームワークがよくなっているのも見えてとてもうれしかった。

――ブラジル代表と日本代表の一番の差はやはり個人技ですか

賀川:Jリーグでのブラジル選手の働きをみれば、ブラジルプレーヤーのレベルの高いことは理解できるでしょう。日本でも放映される欧州チャンピオンズリーグの32チームの約640人の選手のうち、ブラジル人プレーヤーが67人いるのですよ。日本は香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)と内田篤人の2人だけです。

――スペインのバルサやレアル、バレンシア、マラガ、イングランドのチェルシー、マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティ、アーセナルなどが参加しているヨーロッパの最高のリーグのなかに

賀川:そこに一番多く選手を供給しているのがブラジルなのです。

――日本との試合でプレーしたセレソンは、GKがジエゴ・アウベス(バレンシア)、ダビド・ルイス(チェルシー)、アドリアーノ(バルセロナ)、チアゴ・シウバ(パリ・サンジェルマン)、レアンドロ(ローマ)、MFがボランチがラミレス(チェルシー)とパウリーニョ(コリンチャンス)、攻撃的MFが日本にもいたことがあり、現在はロシアのゼニトにいるフッキ、それにオスカル(チェルシー)とカカ(レアル・マドリード)、FWがネイマール(サントス)でした。

賀川:ネイマールは2014年の自国でのワールドカップまではブラジルにいるという話ですが、これも欧州のビッグクラブが欲しがっている選手です。

――国の内外にタレントが満ちあふれているとうわけ

賀川:2014年大会では開催国優勝と全国民が思っているでしょう。メネゼス監督は、2010年からチーム編成にとりかかっています。今年のロンドンオリンピックのU−23チームの監督もつとめて、優勝こそメキシコに奪われたが、ネイマールたちのチームで銀メダルを取りました。

――アジア勢を相手に中国代表に8−0、イラク代表に6−0でで勝っています。個人力のあるチームがチームワークもよくなってきているのでしょうか

賀川:個人力違いと言っても、いろいろな見方があります。それを取り上げていくと一般論になりやすいので試合の経過のなかで見てゆきましょう。

――となるとやはり前半12分の先制ゴールからでしょうか

賀川:この日の日本はザッケローニ監督の「勇気を持ってチャレンジ」を実行し、キックオフから高い位置でのプレッシングを敢行し、攻撃に出ました。

――日本はGK川島永嗣、DFに今野泰幸、長友佑都、内田篤人、吉田麻也、ボランチが遠藤保仁、長谷部誠、第2列に中村憲剛、香川真司、清武弘嗣、ワントップに本田圭佑でした。

賀川:本田の調子が良くなったのは何よりよかった。彼のところでボールの持ちこたえが期待できるからね。

――こちらの動きにブラジル側もちょっと押されたのか、左DFのレアンドロがミスキックする場面もあった

賀川:オヤッという感じだった。しかし長友が仕掛けてアドリアーノを抜けなかった時に“やっぱり”手強いとも思った。1対1での突破よりもパス攻撃の日本は、攻めに出ると攻撃に人数をかける。そのためボールを奪われた時に早いカウンターには守りの人数が少ないことも起こる。その危険を承知で攻撃した。

――前半15分までに日本は清武と本田のシュートがあった。清武のは相手の守備網の外から相手に当たり、本田のは清武ー香川ー本田とつないで、パスを受けてペナルティエリアへ入ってのシュートだった。

賀川:同じ時間帯にブラジルの攻めもあった。ヒヤリとしたのは3分だったか、日本が攻め、左サイドのエリア近くで奪われ、そこからカカのロングパスが前方のネイマールに渡った時だった。50メートルの正確で強いパスをネイマールが受けて、ドリブルして中央へパスした。オスカルとカカが上がった後方のスペースにラミレスがいて、ノーマークだったがシュートをしないで、右のフッキへスルーパスを出して不成功になった。ネイマールは吉田をひとりでかわそうとせずに仲間の上がりを待ち、その2人でなくスペースのあるラミレスに渡したのを見て、ドリブルの名手と言われる彼のパスを選ぶ眼にも感心した。

――この時はフィニッシュまでゆかなかったが、5分にオスカルのボレーシュートがあった。

賀川:右コーナー近くで長友と向き合ってボールをキープしたフッキが左足でフワリと浮かすパスを送った。それをオスカルがジャンプボレーでシュートした。うまくゆかずボールは高く上がってゴールを外れたが、意表をつくプレーでしたね。

そして先述の本田のシュートがあって、その2分後にブラジルの先制ゴールが生まれたのです。

――今日はなんとかいけそうだと勢い込んでいた日本側をピシャリと叩くようなゴール。ブラジルイレブンを落ち着かせる効果も大きかったでしょう。

賀川:ブラジル側がゆっくりボールをまわしたあと、
(1)左DFのレアンドロがまっすぐ前方へボールを送った(ネイマールが目標)
(2)自分に向かって飛んで来たボールを内田がヘディングした
(3)ノーマークのヘディングだが、このボールが内側にいたオスカルに渡ってしまった
(4)ドリブルしたオスカルは外から内田、内側から遠藤がつめてくるのを見ながら内側へパスを出す
(5)日本のDFはペナルティエリアの前に3人いて、相手FWの2人をマーク。ゴール正面20メートルあたりの広いスペースへゆっくりボールがころがり、そこへパウリーニョが走り込んできた
(6)パウリーニョはボールの勢いとコースを見てシュートの体勢に入り
(7)右足のトゥ(つま先)でボールを蹴った。ボールはまっすぐゴール左ポストぎわに飛び、ワンバウンドしてゴールに飛び込んだ
(8)パウリーニョのシュートに対して、川島は左(キッカーから見て)へ飛んでセーブしようとしたが、ボールは川島の右手の前に落下し、バウンドして右手の下を通り抜けた

――トーキックのシュートが一つのポイントですかね

賀川:2002年の日韓ワールドカップで優勝したブラジルのストライカー、ロナウドがトルコ戦でトーキックシュートを決めたのを見たでしょう。

――トーキックは防ぐ方には難しいとか

賀川:インステップやインサイドキックよりもインパクトのタイミングが早い。そしてボールの勢いも違う。また突き方によってはボールが途中で落下するのでGKには難しくなるはずです。

ぼくたちの少年のころ、小さなゴムボールを蹴ったから、トーキックは誰も経験がありますよ。神戸一中と神戸大学で2年上の則武謙さん(故人、第1回アジア大会日本代表)がトーキックが得意で早大WMWとの朝日招待で彼が相手の裏に走り、まっすぐ突進してトーキックで決めたのを覚えています。

――まっすぐ前方へボールを送り込むのに役立つキック

賀川:この場面でパウリーニョがトーキックを選んだのは、至極当然のことでしょう。私はそれと同時にオスカルが内田のヘディングしたボールを止めて、少し内へドリブルして右足アウトサイドでスローなパスを送った時に、彼もやはりここはトーキックだと思ったのじゃないかな。アウトサイドのパスはキックというより押し出しというタッチでパウリーニョが走り上がる前でほとんど停止球と同じ状態でした。パウリーニョは走って来た方向そのままにまっすぐ蹴ればゴールポストぎりぎりにゆくわけです。

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驚きのカウンターゴール

2012/10/16(火)

――フランスに勝ちました。2012年10月12日午後9時(日本時間13日午前4時)キックオフ、パリ近郊のスタッド・ド・フランス競技場でした。

賀川:タイムアップ直前の後半42分26秒の相手のコーナーキックからのすごいカウンターで1点をもぎ取っての勝利です。CKの後、落下したボールを取って今野泰幸がドリブルを始めたのが42分27秒、香川真司のシュートがフランスゴールに飛び込んだのが42分37秒、つまり10秒の攻撃でそれまでの劣勢を覆して、ヨーロッパサッカー強国のひとつ、フランス代表に勝ったのですよ(このタイムは公式ではないが、テレビ画面の表示を書きとめたもの)

――1996年のオリンピック・アトランタ大会のブループリーグの初戦で日本代表がブラジルに1−0で勝ちました。U-23代表の公式戦、こちらはフル代表の親善試合という違いはありますが、強豪国代表に勝つという、日本のサッカー史上のマイルストーンをふとつ加えました。

賀川:テレビ放映のおかげで、その歴史的な一部始終を見ることが出来たのは、誠にありがたいこと。テレビ局の関係者にも、バックアップしてくれたキリンをはじめとするスポンサーさんにもお礼を言わないといけませんね。

――そのクライマックスを賀川流に反芻していただきましょう

賀川:後半40分をすぎて、フランスの攻勢はさらに強くなっていた。0−0で終わるわけにはゆかなかったのだろう。ストライカーのベンゼマは前半で退いたが、後半22分にはリベリーを投入してきた。ご存知バイエルン・ミュンヘンの左サイドのチャンスメーカー。この直前のブンデスリーガで、2得点を決めていた。その彼が入ってからフランスが再び勢いづいた。40分に日本の左CKを跳ね返した後、右サイドから攻め込み、ジルーがシュートした。ジルーに2人が寄せた日本側の守ろうという意欲に対して、長いリーチを活かしてシュートまで持っていった。192センチの長身ジルーもさすがといえた。その難しいシュートを川島がセーブして左CKとなった。

リベリーが蹴り、ファーポスト側の落下点で競り合った後のボールを小柄なバルブエナがボレーシュートした。空中のボールを上から叩き付けてのシュートで、やさしいボールではなかったが、これも川島がセーブして、また左CKとなった。今度のキッカーはバルブエナ。ボールはゴール正面に飛んで、フランス4人と日本5人が争う。その誰かに当たったボールがペナルティエリア外へ転がり出た
(1)誰よりも早く飛び出したのは、今野泰幸。エリア外10メートルでボールに追いつき、一気にドリブルで持ち上がる。
(2)ボールが落下し、ペナルティエリア外へ出たのは42分26秒、今野が拾ったのが27秒、ハーフウェイラインを越えたのが31秒だった。
(3)今野の前方には、CKの時からハーフウェイラインに残っていた中央の香川真司と左タッチ際の乾貴士がいた。それに対してフランス側は3人のDFがラインを引いていた。
(4)今野がハーフウェイラインの向こう側のセンターサークルを越えた時には、右手側に長友が上がって来て、その左に少し遅れて内田篤人も走り上がってきた。今野の後方から3人のフランス勢、長友の後をリベリーが追う。
(5)ドリブルを続ける今野に対して、フランスのCDFサコがエリア手前10メートルで応対しようとした。
(6)サコの4メートル手前で今野は左足で右前方へパスを送る。
(7)そのタイミングを待っていたかのように、香川真司が左斜め前方へ走る方向を変えた。
(8)今野からのパスはペナルティエリアへ。長友がエリア内右寄り12メートルあたりで右足でダイレクトパスを中へ。
(9)ニアサイドにいたCDFコシールニーが戻りながら右足を伸ばしてインターセプトしようとしたが届かず、ボールはそのすぐ左に走りこんできた香川の右足インサイドでゴールへ。GKロリスは前進していた。ボールは無人のゴールの真ん中へ勢いよく飛び込んだ。
(10)シュートの際に倒れた香川は右コーナーへ向かって走る殊勲者今野の後を追う。

彼らにとってはイメージそのままのゴールだったかもしれないが、5万余の観衆にも深夜テレビの前の日本サポーターにも想像を超えた瞬間だった。

――香川のフィニッシュをほめる人もありました

賀川:その前に右へ走り上がった長友にも目を向けましょう。左サイドで何度も長いランを繰り返して攻撃と守備に働いた彼が、このチャンスに右サイドへ飛び出したのだから、そのタフさと判断に拍手したい。

香川は長谷部と細貝、中村と乾が交代した後半17分からトップ下へ入っていた。このコーナーキックの時は、彼と乾がハーフウェイラインに残り、彼は中央やや右寄りにいた。今野のドリブル直進にあわせて、彼も前進し、今野のパスを出すタイミングを計って左へ移動した。ボールが右へ渡り、長友がパスを出すタイミングには、フランスのDFの眼はボールに注がれる。だから香川はニアサイドからファーサイドへ移ってCDFコシールニーの背後に入っていて、その視野から消え、あわせて自分の有利なシュート体勢に入っています。ドリブルする今野を見ながら、手で合図をしていたようにも見えた。右へパスを出してくれということだったのかな。

――交代出場の乾がよかった

賀川:長友とあわせて、ドリブル突破できる選手が左サイドに2人いることになって、攻めやすくなった。そうそう、いつだったか乾くんの夢を見ましたよ。彼が真司と同じように左足でうまいトラッピングをした。上手になったと思ったら目が覚めました。

――フランス戦というと、これまで一度も勝っていない。サンドニでは0−5という大敗もありました

賀川:2001年3月24日、日韓ワールドカップを目指す代表の強化試合でした。

――フランスにはジダンやトレゼゲがいました。

賀川:相手も強かったが、こちらのコンディションもよくなかった。滑りやすいピッチ状態も加わって完敗だった。

――それとよく比較されますが

賀川:10年経って、日本全体のレベルが上がっているのは確かでしょう。

サンドニの滑りやすいのは変わっていないが、前半に相手が14本のシュートを1本も決められなかったのは川島のファインセーブもあるが、滑りやすいピッチとフランス代表のシュートも原因でしょう。

先述した、1996年のマイアミでのブラジル戦は全く一方的なブラジルの攻撃に耐えて、一本のロングボールからミスもあって1ゴールを奪ったのだった。その時唯一のゴールを決めた伊東輝悦は、日本代表でも活躍しこのフランス戦0−5でもプレーしています。

その伊東が、この間J2からJ1に昇格を決めた甲府でプレーしていましたよ。彼のように経験ある選手とともにプレーすることで、若い選手の進歩も早くなります。今度の対フランス初勝利のゴールは、マイアミのような僥倖(ぎょうこう)ではなく、選手たちの技術・体力・戦術の結果で奪い取ったものです。ここに16年間の日本の進歩があるといえます。マイアミの功労者伊東輝がいまもプレーを続けていることも、その進歩を支える日本サッカーの厚みといえるでしょう。

――さて、その進歩がブラジル相手にも見られるかどうかですね

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秋の日本サッカー 香川真司はWORLD SOCCERの表紙に

2012/10/04(木)

――日本代表のワールドカップブラジル大会予選は9月の対イラク戦1-0で、まず5チームリーグの前半を終わり3勝1分でBグループの首位に立ちました。なでしこジャパン、U-23代表と、そしてU-20ヤングなでしこのメダルという夏の好成績の後、いよいよJリーグの終盤の決戦が続き、代表は10月中旬のヨーロッパでの対フランス、対ブラジルが注目されます。

同時にまた、ヨーロッパでは2012-2013シーズンに入って、イングランド、イタリア、ドイツでの日本選手の働きも気になるところです。

賀川:しばらくごぶさたになってしまいました。ヨーロッパでの日本選手のプレーぶりはそのまま代表チームにつながることもあって、Jリーグと同様にメディアの扱いも大きくなりました。

――テレビ欄で、香川真司という文字が頻繁に出てくるようになりました

賀川:マンチェスター・ユナイテッドでは、ウェイン・ルーニーが復帰してきたので、いよいよこれからが香川真司の働きの見せ所でしょう。ファンペルシーとルーニーというストライカーと真司の組み合わせはワクワクしますね。

――取材に行きたいところですね

賀川:体がきいて、時間に余裕があればね。私の今の夢のひとつは、オールドトラフォードでボビー・チャールトンやデニス・ローとともに、真司のプレーを眺めることです。

――真司にとっての2人のユナイテッドの大先輩と並んでですか

賀川:かつて訪れた時に、ここのスタンドにはボビー・チャールトン用の席があると当時の会長から聞きました。試合を見ながら、彼らの真司に対する意見を聞かせてもらえば、と想像するだけでも楽しくなります。

――ドイツにはずいぶん多くの日本選手が移っていった。それがまた、開幕早々から評価が高いようです

賀川:ヨーロッパでのプレーはなかなか大変でしょう。スタートで評価が上がるとは、とてもいいことだが、問題は試合を重ねるごとに、いいプレーを続けてゆけるかどうかでしょう。

――宇佐美がドリブル突破でゴールを決めたとか

賀川:自分の持ち味を見せられるようになったのはとてもうれしいことです。彼の速さは相手によくわからないところがあるのだが、まあこれからです。ドリブルだけでなく、清武や香川と同じようにボールをしっかり蹴れるところが有望視されるのだが、体力をつけ、守備で働くことがそれほど苦にならなくなれば、周囲からも信頼されるでしょう。

――清武は

賀川:パスのセンスと言う点では、ドイツの選手の水準を超えているでしょう。自分でゴールを決める意欲がつけば、真司と同じように人気が高まるでしょう。中距離パスや高く上げて落とすといった、チームメートにあわせた長い球、高い球も蹴ることができるので、評価はもっと高まっても不思議ではないでしょう。

ヨーロッパで成功するためには強い体が大切ですが、キックの技術をその時、その場で使い分け発揮できることが何よりです。もちろん、キープ力、ドリブル力も大切だが…

――乾がゴールを連発しています

賀川:テレビでドリブルシュートの場面を見ながら、長居でのプレーを思い出しました。直線的で、間合いの取り方がとてもいい。体が強くなって、急によくなったと思ったら、ドイツに移りましたね。縦に抜いて出る鋭さは別格です。その後のシュートの時に、冷静さがつけばという感じのドリブラーでした。右足のシュートは小さな振りでも蹴るし、変化がありますよ。ドイツの各チームのディフェンダーが彼の得意の形を知って、片側を抑えにかかった時にどうするかでしょう。自分の工夫で切り抜けてくれるでしょうがね…

――真司がここまで評価されるとみていましたか?

賀川:8月にロンドンで発売されたワールドサッカーの9月号の表紙はSHINJI KAGAWAでした。彼のプロフィールに6ページを使っていますよ。2007年のセレッソ大阪がJ2の時代からの得点記録や、ドルトムント時代、そして代表を含めてきちんと表示されています。立派な内容ですよ。

――そういうヨーロッパ組のためにも今度のフランス戦、ブラジル戦は値打ちがありますね。

賀川:ザッケローニ監督は、これまで作ってきた代表チームについて、ある程度の自信を持っているだろうが、アジアではボールポゼッションで優位に立てても、ヨーロッパの上のクラスを相手にするとどうなるかです。もちろんどこと戦うにも日本チームの敏捷さを生かすための動きの量や、個々の技術の組み合わせを高めるのは当然です。まず、大づかみにヨーロッパ組を含めて日本代表が世界のどの位置にいるのかを見てみたいと考えているはずです。

――もちろん当日の調子にもよりますが

賀川:相手をふくめて、サッカーはそういうものですが、それでも代表がフランス、ブラジルとの試合を経験することで、選手もチーム全体も監督やスタッフも多くを会得することができるでしょう。

――勉強ではなく勝つ気でね

賀川:試合する以上、当然です。私が今サッカーマガジンで連載中の日本とサッカーの90年で、ちょうど68年メキシコ五輪が終わったところですが、そのころの選手たちは今よりも国際経験も少なく、技術も低かったが、ブラジルのパルメイラスであっても、イングランドのアーセナルであっても、とにかく勝とうという意欲で試合していた。大抵は負けはしたが、技術や経験が上の相手にも何とかして勝ちたいと挑んでいた。それを横から眺めながら、分不相応と思うこともないではなかったが、その努力がやはり上達につながり、いまだに男子オリンピックで破られない記録になっているのですよ。

――いまや、こちらもプロフェッショナルですからね

賀川:そういう意味でも、ヨーロッパでの2試合のテレビはとてもサッカーファンの楽しみになるでしょう。もちろん週末のJリーグの激戦も見逃すわけにはいきません。

――浦和、柏の激戦をはじめ、エキサイティングな試合も続いています。これからはそちらの面白さも語ってもらうことにしましょう。そうそう、女子リーグも上向きになったと言っていましたね。これについても機会を見て聞かせてもらいます。

Sep2012cover


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【更新情報】日本代表 vs ベネズエラ代表

2012/08/20(月)

「キリンチャレンジカップの楽しみ」 を更新

2012年8月15日 日本代表 vs ベネズエラ代表

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キリンチャレンジカップ プレビュー

2012/07/10(火)

――ロンドンへの壮行試合としてなでしこジャパンとU-23代表の試合が同じ日に東京国立競技場で開催されます。

賀川:第20回ロンドンオリンピック大会にサッカーは男女がそろって出場できる。その壮行試合で両チームを声援できるのだから、サポーターにもまたとないチャンスですね。大会本番はU-23代表が26日にグループリーグの第1戦(スペイン)、なでしこが25日にやはりグループリーグ第1戦(カナダ)と2週間後ですよ。

――U-23代表は英国に移動した後、18日にU-23ベラルーシ代表と、21日にはU-23メキシコ代表と親善試合を組んでいます。

賀川:なでしこも対フランス(19日)を予定している。こちらの方はいったんフランスで合宿してから、ロンドンへ向かうことになっている。いずれにしても、ヨーロッパへ入ってから仕上げに入るのだろうが、まずはその出発前に元気なプレーを日本のファンに見せてほしい。

――男子代表はオーバーエイジ枠に徳永悠平と吉田麻也を加えた18人、なでしこは昨年のワールドカップ優勝のメンバー18人ですね。男子はこれまでよりも海外組が多くなっています。

賀川:移籍したばかり、契約したばかりという人もいるが、新しい傾向ですね。

ーーメンバーを見た感想は?

賀川:なでしこは佐々木監督が言っているように、故障上がりの多いこと。本番までに完調まで持ってゆけるかどうか…ヨーロッパ合宿を含めて注目したいところです。

ーーアメリカに完敗した試合もあって、ワールドカップに続いての金メダルに黄信号という見方もありますが

賀川:なでしこの昨年のドイツでの世界王座獲得はすばらしいこと。選手たちはすごい仕事をするのに、心身ともにすりへったことでしょう。その後の環境激変もあり、この1年はなかなか大変だったと思う。本番前のこれからの合宿生活でもう一度落ち着いたサッカー漬けの日々にして、昨年全員が100%働いた時の気持ちと体を取り戻すことが一番でしょう。

――なでしこリーグにお客が増え、いいことも多かったがそれだけ負担も多かったと

賀川:いろいろな事情が重なって、日本のトップ選手が昨年の優勝を足場にもう一段進化したかということになると、必ずしもそうではない。

――ふーむ。

賀川:これまで何度も話したように、あれだけ大仕事をして、すぐそこから再スタートで上に向かえというのはとても難しいこと。アメリカやドイツやブラジルやスウェーデン、フランスといった、日本に刺激を受けた国々の巻き返しが目立つのは当たり前でしょうかね。

――ドイツが出ないので、一つ強敵は少なくなったといえますが

賀川:6月8日の神戸の試合で、澤穂希選手が何回か彼女らしいプレーを見せていた。彼女にかつてのキラリとした動き(早さ、読みの質、切れ味)がもどりはじめたのは、とても大きいことですよ。このキリンチャレンジカップでも、その澤選手の復活の足取りと、各選手のコンディショニングづくりの過程を見せてもらえるでしょう。

――U-23代表男子の方は?大迫選手がはずれましたね。

賀川:アジア予選を勝ち抜いて、いよいよヨーロッパ、南米、アフリカなどの代表と戦うようになると、どうしてもフィジカル面がクローズアップされる。フル代表で本田圭佑といういい見本があったように、攻撃の軸となる何人かは、技術や走力の上に、少々当たられてもバランスを崩さない体の強さが大切な要素となる。今度はその点を考えたように見える。監督さんも苦心したと思いますよ。

――19歳の俊足、宮市選手が落ちたことを監督に尋ねた人もいました。

賀川:大型で足が速いということは素材としてはとてもいいのだが、その足の速さを活かしてどこで何ができるか、ということになるとまだこれからだとみたのでしょう。

――清武弘嗣や扇原貴宏、山口螢などセレッソの選手もいます。

賀川:清武は故障もあり、海外移籍の件もあった。フル代表との掛け持ちもあって、必ずしもU-23では十分に働いてきたとはいえないが、ロンドン大会で一段上に上がってほしい選手ですよ。これは誰も同じことですが、清武にとっては今度が本当の勝負になる大会だと思いますよ。

――宇佐見貴史は?

賀川:体力不足、守備不足と言われてきた。自分の特徴であるテクニックを活かすとともに、全力を出し切ることを覚えてくれるのじゃないかとみています。齋藤学というやる気満々の突破型もいる。上昇中の名古屋の俊足、永井謙佑もいる。

――いい素材がそろっていますね。

賀川:DFの補強でチームの後方がしっかりして、終盤から前もいいプレーヤーが揃っています。ちょっとの伸びの遅いのが不満だったが…

――U-23だからまだ若いと思っていたが

賀川:23歳といえばプロサッカーではもう一人前ですよ。彼らにとってオリンピック本番はこれ以上ないすばらしい舞台なのです。だからここで勝ちを目指すことで自分の力も伸ばすことですよ。歴史に残る1963年のベルリンオリンピック、スウェーデンを3−2で破った日本代表の主力は22〜23歳のアマチュアだった。

――メダルはもちろん、ロンドンで伸びることです

賀川:勝ちにこだわること。勝つために守ること、点を取ること、チームが一体となること。それを実現するために個人力を最大限に発揮することです。

――そういうU-23の意気込みをキリンチャレンジカップで見たいものですね。

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2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選 オーストラリア代表戦 下

2012/06/16(土)

――レフェリーはひどかったと思いませんか。

賀川:不満を言っているのは日本だけでなく、オーストラリア側も同じでしょう。しかし、はじめに言ったとおり、主審の最低は最終のものです。その裁定について両チームとも異議を申し立てることはできないが、この主審についてはAFC(アジアサッカー連盟)やFIFA(国際サッカー連盟)の審判委員会が注目するでしょう。その問題については、そちらに任せることにして、一般論で行けばホームチームに1人退場という処分をすれば、その相手側に少し厳しくなって不思議はないというのも一般論になりますよ。

――埋め合わせをする、と?

賀川:そこまでは言わないがね…私が見た試合では、74年ワールドカップ決勝、西ドイツ対オランダ(2-1)でクライフを倒したドイツ側のファウルにためらうことなくPKを与えたテイラー主審がその後、今度は西ドイツのヘルツェンバインがエリア内で倒されたとしてPKを与え、1-1となったのだが、ヘルツェンバインは自ら相手の足にひっかかって倒れたというのが多くの見方だった。テイラーさんを引き合いに出すのは気の毒のようにも思えるが、そうしたこともありうるのがサッカーですよ。

――だからヨーロッパの監督はよく「サッカーではどんなことも起こりえる」と言いますね。

賀川:ミリガン選手の退場処分が前半だったから、ハーフタイムにザックさんは主審の判定がこちらに厳しくなるかも知れないから、エリア内での競り合いにはファウルと疑われるプレーをしないようにと注意したかもね。

――アウェーでレフェリーの判定など、いろいろあったが、まずは1-1の引分けはよかったということでしょうか?

賀川:日本の方が明らかに進化したサッカーを演じたこと、その進化があってもブリスベンでは相手のパワーサッカーを制圧できなかったことは確かだが、もう少し上達をすれば、こういう相手とのアウェーにも勝ちえるようになると思いますよ。

――そのためには?

賀川:今度も守りもよくがんばった。いいディフェンダーが育っていることも見せてくれた。しかし日本の場合、こういう体力勝負で技術もある相手には1点取られてもと、覚悟しておくべきでしょう。その失点を上回る得点力をつけること。2点目を取ることですよ。

――それにはシュート力向上ですね。

賀川:ヨーロッパでも特典は少なくなっているという人もいるが、日本はもっとシュート技術を磨き、シュートレンジで冷静にその技術を発揮する練習をするべきでしょう。チャンスを生む力はどんどん上がっているのだから、それを決める力を増すことでしょう。

日本サッカー全体の進化の先頭に立つ代表チームが、これまえの積み重ねの上に得点力を積み上げて、各層の選手に大きな刺激を与えてほしいものです。もちろん予選を突破し、本番でもいいプレーをしてほしいと誰もが願っているでしょう。まずは皆さんと6月シリーズはおめでとうと喜びあい、次の試合に期待しましょう。

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2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選 オーストラリア代表戦 上

2012/06/15(金)

2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選
日本代表 1-1(0-0) オーストラリア代表

◆アウェーでの1-1 いろいろな条件のもとでの勝ち点1は成功

――オマーン戦、ヨルダン戦とは全く違った相手との試合で、オーストラリアに退場者が出て有利になったと思うとPKをとられ、試合が終わるころにはどちらも10人になった。テレビ観戦も疲れましたね。

賀川:試合前のセレモニーを画面で見ながらたくさんの観衆がSOCCERROO(サッカールー)の文字の入ったマフラーを掲げて声援しているのを見 ながら、オーストラリアにもサッカーが根付いているのだなあ、などと感慨もあったがキックオフ直後からの彼らのロングボール攻撃と激しいプレッシングで見 る方も戦闘ムードになってしまった。

――凸凹のピッチやアウェーの雰囲気だけでなく、レフェリーの判断が試合の流れに大きく影響したのもこれまでとは違っていました。

賀川:レフェリーに関してはこの競技ではその裁定が最終のものとなっていて、両チームともそれぞれ不満・不服はあっても、それに従った。当然と言い ながら、まずはよかったと思う。現地で取材したベテラン記者の大住良之さんの話では、主審はずいぶん太っているように見えたそうです。経験のあるレフェ リーだが、運動量や速さがこれまでと違ったかも。

――ふーむ。ビデオで調べてみようかな。それにしてもオーストラリアは徹底的にロングボールできましたね。

賀川:第1に彼らの長所、フィジカルの強さを活かしリバウンドを含む空中戦で優位に立とうとしたのでしょう。第2に中盤でボールをつないでということになると日本特有のプレッシングを受けてボールを失う懸念もある。したがって中盤を省略した方が得策だと見たはずですよ。

――そこで第3列、あるいは第2列の深いところからでも高い、長いゴールを送りこんできた。いまどき流行らないさっかーじゃないですか。

賀川:プロフェッショナルになって技術レベルがアップすると、見て面白いサッカーとは何かを工夫し、見事なパスの展開を楽しませるチームも出てく る。技術的、芸術的そして戦闘的という言い方の当てはまるチームも出てくるが、一方では「パワフル」で売るところもある。ワールドカップの予選は、まず勝 つことだから、オーストラリアが自分たちの長所を全面的に押し出すのにロングボールを使うのはおかしいことではない。日本代表もザッケローニ監督も当然そ の対応を考えていたはずですよ。

――しかし前半はじめは押し込まれ、危ない場面もあった。

賀川:体と体のぶつかることもある。接触プレーの多いサッカーではその相手の体の強さ、重さ、粘り強さなどはまず現実に当たってみてわかるもの。頭で前もって理解していたつもりでも実際となるとね。

――ケーヒルはすごかったですね。

賀川:彼はその前のオマーン戦には出なかったそうだ。暑い土地での消耗を避けて、涼しい母国での大一番に備えたのだろう。

――なるほど。それで日本側はすこしたじたじとなった。

賀川:ケーヒルは2006年にも日本からゴールを奪っている。上背はそれほどでもないが、ガッチリしていてジャンプ力もあって、高いボールにも強い。強いだけでなく、その空中のボールに対する駆け引きも狡猾でもある。しかも足のシュートもうまいからね。

――15分までに相手のシュート6本、こちらは本田のシュートが2本、16分にはこちらのゴール前で「やられたか」という場面も。

賀川:内田と栗原がゴールカバーし、栗原が倒れたままボールを蹴りだした。ヒヤリとしたね。その後、日本もキープし攻勢に出ることもあって互角の形 となった。MFのベテラン、ブレシアーノという選手が故障でミリガンに代わったのは相手側には誤算だったかな。日本は自分たちのペースでボールを動かせる ようになりはしたが、相手のプレッシングはしっかりしていた。

――ファウルをともなう激しいタックルもあったが…

賀川:深い鋭いスライディングタックルをしてきたね。内田のノーマークのシュートチャンスもスライディングで防がれた。日本代表はこの6月シリー ズでサイドからの攻めを習熟するかと期待したが、この試合では少なかったね。ひとつには第1、2戦ほどには長友、内田を前に出せなかったかもしれ ない。

――あるいは出さなかったのかも…

◆日本代表の進化は続く


賀川:それでもこちらの1点は右CKをショートコーナーにして本田が右からエリア内に侵入し、ニアポスト近くからのクロスを入れて、ファーポストの栗原が決めた。サイド攻めの一つで本田のアイデア、その本田からボールを受け、本田へもう一度戻した長谷部のうまさなどが重なった。

――相手のゴールキーパーはそう簡単に崩せない名手ですが、ゴールラインに沿ってドリブルする本田に対しては難しい守りとなった。

賀川:これまでも語っている通りパスで崩してゴールを奪うやり方のなかで、昔も今も変わらないものに、ペナルティエリア周辺あるいはエリア内に入ってからのラストパスがある。そのなかでもエリアのラインとゴールラインの交わるところ…私はエリアラインの根っこと呼んでいるが、そこへ持ち込んでからのパスが効果ありとされてきた。

――というと

賀川:ゴールライン近く、それもペナルティエリアぎりぎりだから、相手の守りの目はそこに注がれる。

――いつも言う、外に目がいく

賀川:だからゴール前にいる攻撃側はボールに目を注いでいる守備者の視野から消えやすい。いったん消えてニアサイドに現れると効果は大きい。あるいは、またファーポスト側にいても、相手はニアポスト側を見ていて見えなくなっている。

――ただし、攻撃側も工夫をしないと、エリア内にいる守備陣にパスがひっかかってしまう。

賀川:したがって、エリアの根っこに持ち込んだときは、
(1)斜め後方へのパスをして仲間にシュートさせる
(2)フワリと浮かせたクロスをファーポストへ上げてヘディングを打たせる
(3)ゴールラインと平行に強い球を送りこみ、ワンタッチでのゴールを狙う。
というのが、ここへはいってきたものの常識というのか、基本的なパスコースとなっている

――なるほど

賀川:こういうサイドからの攻めの常識は、1930年代もいまもあまり変わっていない。もちろんディフェンダーの能力、ボールテクニックや身のこなし、組織での守り方など進化はしている。攻める側の技術も高くなっているはずだが、いまでもこの3つのコースをきちんと蹴れない場面をよく見ますよ。

――本田選手はその平行の短くて速いパスを選んだ?

賀川:それも、うんとニアポストに接近するということで相手の意表をついた。だから速いグラウンダーは相手DFの足の間を通り、GKも手で止めることができなかった。このペナルティエリア内に入ってからのパスの効果について、NHKの解説者で元日本代表のコーチをしていた山本昌邦さんが折に触れて言っているはずです。パス(クロス)の距離が短いために守る側は対応しにくい(遠くからのクロスであればそれだけ時間があって守る側も対応しやすい)とね。

――その意味で、本田圭佑はサイドからの攻めについて自らのアイデアを表現した

賀川:本田の右CK、ショートコーナーからの攻めの棋譜のひとつとなるでしょう。香川真司は6月シリーズの第1戦で左のエリア根っこに入って来て、斜め後方へのパスとフワリのクロスを見せた。フワリの方は本田のヘッドの後、岡崎のゴールになったのはご存じのとおり。彼は不得手なはずの左足でこれをやっている。(本田のこの試合も右足サイドキックだった)

余談だが、こういうところで原則的、あるいは常識的であっても、そのうちのコースをその時々に応じて選択でき成功させる選手がヨーロッパで評価されるということになるのでしょう。

続く

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2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選 ヨルダン代表戦 下

2012/06/10(日)

(承前)

――31分の3点目はこれも遠藤が右のオープンスペースへ振ったボールを岡崎がひとつ内側にかわして左足シュートし、DFに当たってファーポストにボールが流れ、そこに本田がつめていて押し込んだ。35分の4点目は香川でした。

賀川:これは右から攻め込んだ後、ゴール正面エリアぎりぎりで、内田からパスをもらった香川が右足のシュートを決めたのだが、ぼくは内田→香川のパスの前の日本のカウンターに日本の伝統の労を惜しまないすばらしさを見た気がしましたよ。

――攻撃の発端は

賀川:中盤でボールの奪い合いがあって、ヨルダンのハイルが右タッチぞいにドリブルしたのを香川が追って長友と協力して左コーナー近くでボールを奪って、そこからの香川のドリブルで日本の攻撃が始まったのですよ。
(1)香川は自陣のペナルティエリア左角あたりまで持ち上がって遠藤に渡し
(2)右へ振って内田へ
(3)内田がドリブルで一気にハーフウェイラインを越え右タッチ際の岡崎へ
(4)岡崎はドリブルし相手DFにからまれながら外の内田へパス
(5)内田はキープの後、内側後方の本田へ
(6)本田は左足アウトのダイレクトパスを右サイドの深いところへ送り
(7)長谷部がゴールラインぎりぎりからクロスを上げる
(8)ニアで岡崎が競り高く上がったボールを
(9)前田とGKアメル・シャフィが競って
(10)アメル・シャフィが叩いたボールを
(11)エリア内に入っていた内田が拾って中央の香川にパス
(12)香川がエリアぎりぎりからシュートし、ボールはゴール左隅へ。ゴールカバーに入っていたDFが足を伸ばしたが防げなかった。

――ひとつひとつのプレーの結果になるわけですが、自陣のコーナー近くからの攻撃開始というところが、まさに現代のサッカーですね。

賀川:セレッソの賀川の先輩、森島寛晃の大きな動きを思い出したね。

――後半8分にPKで本田、44分にCKから栗原勇蔵がヘディングで決めた

賀川:栗原は吉田の故障で交代で入った。彼にはいい経験だが、吉田の故障はこのあとチームにも本人にも心配なことですよ。栗原のヘディングはファーポストだった。遠藤がショートコーナーにして長友が右足で蹴ったところにこのCKの面白さがあるでしょう。本田のPKは前田がペナルティエリアで仕掛けてファウルされたもので、本田が譲り受けてハットトリックとなった。

――大量点ですが、不満は?

賀川:相手のコンディションがどうだったのか。もちろんシュートにも攻めの構成にも注文もあるが、今のこのチームは監督さん、選手たちの工夫でどんどん積み上げていけるから見ていて期待は高まりますよ。オーストラリア戦で何を見せてくれるか楽しみですよ。

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2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選 ヨルダン代表戦 上

2012/06/09(土)

2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選
日本代表 6-0(4-0) ヨルダン代表



――6-0の圧勝でした。前半27分にヨルダンの14番をつけたアブダル・ディーブが2枚目のイエローで退場し、10人となったこともあって、見ている側としては安心もしたが、ちょっと緊張感がゆるんだといえば贅沢ですかね?

賀川:選手たちは第1戦と同じように緊迫感をもってゲームをはじめて、それが先制ゴールにつながった。厚く守る相手から、早いうちに点を取りたいという狙いが第1戦と同じように成功した。

――その先制ゴールが前田遼一のヘディングでしたね。

賀川:試合の前にピッチに入ってきたヨルダンの選手を見て、オヤッと思った。第1戦のオマーン先週に比べて長身が少ないことだった。いまごろこんなことを言うのは不勉強でもあるが、そのとき瞬間的に今日はヘディングゴールもありと思ったね。そのあと、すぐオヤッが2つ続いた。

――何が?

賀川:4分に相手の背後へ遠藤保仁のみごとな浮き球のスルーパスがあった。岡崎慎司が右斜めから走り込んで受けた。ちょっと速く入ったものだからゴールを背にして受ける形になって…

――ああ、オーバーヘッドキックのシュートが決まりませんでしたね。

賀川:あれを決めれば最高だが、それよりも第1戦ではやや調子のよくなかったヤット(遠藤)の体調がもどったな、と感じた。もうひとつのオヤ?はその時の右CKを本田圭佑が蹴ったことだ。

――日本のCKは右も左もここのところ遠藤でしたからね。

賀川:彼は名古屋グランパスでデビューしたころから左足のキックは目立っていた。ノルウェー人のFWの上へアーリークロスのいいのを送っていたからね。

――右CKを左利きがければゴールに向かうボールも蹴れますね。

賀川:本田のキック力はCKの場合にファーポストまで狙って蹴れるでしょう。古い話だが、カズ(三浦知良)もキックは上手で、95年にウエンブレーの対イングランド戦の左CKを蹴ってニアサイドの井原正巳のヘディングでゴールを奪ったことがある。ただし、カズを含めて日本の選手のキック力ではファーポストまで楽にコントロールというわけにはゆかない。

――本田はそれができる、と。

賀川:右CKを本田が蹴ることになったのは、本田自身の発想なのか、監督の提案かは知らないが、第1戦と違う変化のひとつだった。

DFに吉田麻也という高い選手がいて、FWに前田がいるから、攻撃陣の中では長身でヘディングの強い本田にキッカーをさせてもよいという計算もあったと思う。

――本田の右CKは速いボールでゴール正面あたりで高いところから落ちましたね。

賀川:いわゆる無回転でなく、キリキリ回転しながら高く上がってから落ちてくる、中村俊輔の十八番に似た軌道だった。前田はしっかりとジャンプし、相手と競り合って自分の肩に当てた。その体の勢いでボールはゴールに飛び込んだ。

――この1点はききましたね。

賀川:ヘディングというより肩で押し込んだ直後に前田がコーナーの本田に駆け寄り、仲間も一斉に集まって祝福した。それを見ながら、本田のこのチームでの存在感とともに、右CKを彼が蹴ることにした意義をイレブンが理解し、期待していたあらわれのような気がしたね。

――22分に今度は本田が遠藤からのスルーパスを決めた。第1戦は2点目までに時間がかかったが、今度は4分後だった。

賀川:その前にもいくつかチャンスがあった。前の試合でも話したように、岡崎のパスを出すタイミングやコースがよくなって、右からの攻めもあった。長谷部誠の飛び出しも目立っていた。左側からの香川の強いパスを本田がダイレクトシュートし、場内がどよめくシーンもあった。

――香川は本田のダイレクトシュートを予想したのかな

賀川:ペナルティエリア近く、ゴール正面右寄りにあらわれる本田へ、強いグラウンダーを送ったから本田はノーマークで止める余裕もあり、そうなると次に香川は自分がもう一度受けることもできる。いろんなチョイスのための速いパスだったと思う。本田はそのボールの速さを利用して、左足でダイレクトシュートした。面白かった。これが入っておれば、彼にも香川にも日本サッカーにも新しい棋譜になるところだった。

――2点目も棋譜として残るでしょう

賀川:このゴールへの攻めは右タッチラインの本田のスローインから始まった。この直前に右でキープしパス交換があって、本田がボールを取ろうとした時に相手がスライディングタックルに来た。足を痛めるおそれがあったからだろう、本田はそこでがんばらずにマイボールのスローインにして、自分が投げた。
(1)すぐ後方の長谷部に渡し、
(2)長谷部は後ろへドリブルして内田へ
(3)内田は本田に渡そうとしてDFにカットされ、そのボールが
(4)より内側の後方、相手ゴールから30メートルやや右寄りの遠藤の前に転がった。
(5)内田のパスのインターセプトの後ボールは(ヨルダンから見て)前へころがったものだから守備配置にいたヨルダンの選手の目はすべて前を向いていた
(6)その守備ライン4人の中央にできたスペースへ向かって本田が右から走り出すと遠藤がダイレクトでパスを出した
(7)フワリと上がり、ヨルダンの第1防御ラインの上を越えたボールはペナルティエリアの1メートル前に落下
(8)本田はMFアブダラー・ディーブの前をすり抜け、
(9)DFアナス・バニヤシーンが伸ばした足の前を通ってきたボールを
(10)左足で正確にプッシュし
(11)GKアメル・シャフィの左わき下を抜いてゴール左下すみへ決めた。

――ボールがいったん相手側からはじき返され、相手選手の目が前を向いたときに本田が裏へ走り、そのスペースへ遠藤からのスルーパスが出た。構図として簡単ですが、バルサのシャビとメッシのそれに似ています。

賀川:そこまで言うとセルジオ越後に相手が弱すぎるといわれるかもね。さて、2-0となってまずこちらは気分的にも(高揚しつつ)落ち着く。相手は焦る。そういうなかで、2枚目のイエローカードでヨルダンに退場者が出た。

――長谷部とのヘッドの競り合いのときに長谷部の頭に相手の肘が当たった。腕を使ったという判断でした。

賀川:アフタータックルや腕を使うファウルなどが少し目立っていたからレフェリーもイエローを出したのだろうが、2枚目だったからここで試合としてはヤマが見えてしまった。

――もちろん日本を手を緩めずにプレーしたからではあるが、まず危なげなかった。

(続く)

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2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選 オマーン代表戦

2012/06/08(金)

 2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選
日本代表 3-0(1-0) オマーン代表

――すばらしい試合でした。3-0

賀川:本番の6月シリーズの3試合をひかえた5月23日のキリンチャレンジカップ 対アゼルバイジャン戦でザッケローニ監督は選手のテストをした。長いケガの後(ロシアではリーグ戦に出ていたが)日本代表に久しぶりに復帰した本田圭佑の体調が回復していただけでなく、彼特有の進化を止めていなかったことにザックさんだけでなく、日本中が安心した

――本田のメドが立ったからザックさんはやりやすくなったでしょう。

賀川:この試合から本番第1戦までに10日というこれまでにない長い期間、合同合宿ができた。だからベストメンバーでの攻撃のパターンの反復練習もできたはずです。

――それが先制ゴールを生んだ左サイドのパス攻撃ですね。

賀川:右から攻め込んで防がれた後、今野がハーフウェイライン近くの左よりでボールをとり、そこから前田-香川-前田-長友とつながって、長友がゴールライン近くから中へクロスを送り、本田が左足ボレーで決めた。サイドを崩すパスの見本のようだった。

――試合を見ながら前田と香川のパス交換があったのがよい…と言っていましたね

賀川:ワンタッチの早いテンポのなかで、タテへ出すだけでなく、内へ(横へ)入れてそこで一呼吸、間(ま)を置いたのは、こういう早いテンポでボールを動かしながらタイミングをずらせる間を稼げるチームになったのか…と、とてもうれしかった。

――パスのテンポや間という点についての詳しい話は後に譲るとしてチーム全体の動きはよかったのですか?

賀川:とてもよかった。まだベストの調子でない選手もいたが、攻撃の核の本田が安定し、香川がドルトムントでの働きぶりそのままの好調だったね。いわば攻撃の2本の柱が実力を出し、前田が日ごろJでやっているとおりの前で張るプレーをしたからボールはスムースに動いた。

――岡崎は?

賀川:前半はいささか気合いが入りすぎたというシーンもあったが、パスの出し方などもうまくなっていた。ゴール前の大事なところへちゃんと詰めてところは相変わらずえらいものですよ。オマーンのゴールキーパーのような高い守備力を持つ相手にはボレーシュートのようにタイミングのつかみにくいプレーそしてリバウンドに反応するFWなどが大切になるんですよ。

――DF陣は?

賀川:左の長友の実力には驚きのほかはない。右の内田は相手のファウルに気を悪くしていた。交代で出た酒井は勢いはあったが、クロスのミスがあったね。中央の守りは吉田、今野ともにまずまずだった。吉田は高さの面でも力を出していた。

――ザックさんはサイドの攻めにこだわった?

賀川:相手は後退して厚い守りをひくことを予測し、サイドから崩すことを考えたのでしょうね。当然のことですよ。昔から攻めはサイドからだった。かつてのウイングプレーヤーのような特殊技能を持つサイドのアタッカーが少なくなっている(世界的にも)が、グループのボールキープパス交換でサイドを崩し、そこからチャンスボールを送るのが近頃のやり方になっている。今回は相当それに力を入れたのでしょう。

――前田が2点目、3点目は前田のシュートのこぼれ球を岡崎が決めた。香川のゴールはなかった。

賀川:前田がゴールし、3得点すべてにからんだという結果は、彼のためにもチームのためにもうれしいことですよ。長いこと国内で実績を重ねストライカーとしてのゴール数も多いのにちょっと地味な感じだったのが、本田、香川といったいい仲間との協調動作で結果を出したのだから…なんでもできるけれど、国際舞台ではどこか物足りないと思っている人たちにも彼の良さを示した試合だったね。

――で、香川は

賀川:点を自分で決めるシーンはなかったが、この日の香川を見て、私はつくづくサッカーを長く見てきてよかったと思った。ヤンマーやセレッソでメキシコ五輪得点王の釜本邦茂、そして小柄で試合の流れを変える森島寛晃たちの若いころから、引退までを見た。そして、いままた香川がぐんぐん伸びて欧州のトップチームで注目されるプレーヤーになるのを見続けている。試合中そう思ったらうれしくて一人で笑みがこみ上げて来ましたよ。

2点目の前田へ送ったパスは自分のドリブルの進路で、ドリブルシュートのコースでもあったのだが、相手にその意識を持たせておいてパスを送り、突如としてそのコースへ出てきた前田に通した。パスは低いライナーで、エリア内にいる相手のDFがスライディングしても取れない高さで、前田の足のところでちゃんと足元へ落ちたね。

そういう技術の丁寧さと周囲の情勢を把握する力がどんどん高くなっているのがすばらしい。相手ゴールに背を向けているときにも見えているという感じにみえる。マラドーナの若いころを思ったね。

――ターンがよいとか。

賀川:もともと小さなターンはうまいので、右へも左へも反転する。中盤からゴール前のプレーヤーではあの98年大会優勝のフランスのジダンのピボットターンが有名。彼のは足の裏を使うのだが、香川はそうではなく、抱え込むやり方でしかもジダンのように小さな反転でターンするところがすごい。

――そういえば相手の3人が置き去りにされましたね

賀川:まあ、3点目の前に左サイドで香川と長友がドリブルで突破するのかキープするのか、相手を困惑させた後で中央へボールを送った場面があった。それを見ながら日本サッカーもここまで来たかと思いました。

――第2戦も期待できる

賀川:サッカーは相手あってのもの。今度はオマーンよりも強いらしい。また日本を研究し、本田や香川対策も考えてくるから、それほどやさしくはないはずだが、それをどう崩すか。

だからサッカーは面白い。

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【お知らせ】上田亮三郎先生著「やらなあかんことはやらなあかんのや!」に対談掲載

2012/01/31(火)

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大学サッカー界の大御所・上田亮三郎先生(現・大阪商業大学サッカー部総監督)の著書、「やらなあかんことは やらなあかんのや!」が、1月28日に発売されました。

賀川浩との対談『これからのサッカー指導者に必要なこと』も掲載されています。
数時間にわたる対談をギュギュっと濃縮したクロストークを、お楽しみください!

※ご購入はこちらから

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大型日本代表FWハーフナー・マイクのゴール。長い記者生活での初体験、194センチの豪快ヘディング(下)

2011/10/19(水)

●2014FIFAワールドカップブラジル アジア3次予選 GroupC
 第1節 2011年10月11日19時45分キックオフ
 日本 8-0 タジキスタン
   (4-0、4-0)


――中村憲剛のトップ下も良かった。

賀川:1点目は右サイドでのパス交換のキープのあとのクロスをハーフナー・マイクが叩き込んだが、これは
(1)長谷部誠からのパスを受けた駒野友一が、
(2)前へ出た中村にスルーパスを送り、
(3)ペナルティエリア外、ゴールライン近くの中村が駒野に戻す。
(4)それを駒野がダイレクトで右足でクロスを蹴り、ファーポストに走ってジャンプしたマイクが力強くヘディングした

――憲剛の得意の飛び出しですね。

賀川:このとき、相手側はエリア内でゴールを守るために5人いた。日本は岡崎慎司とマイクの2人だけだった。憲剛の深い位置からのクロスではまだマイクの体勢ができていなかったから、中村は後ろへ戻した。このスルーパスのあとのバックパスで、タジクのDFの目はボールに注がれる。後方からジャンプヘッドの体勢に入ってくるマイクは気付かれないうちにいいポジションで踏切に入れたのですよ。

――身長差があるうえに、“消えた”位置から出て来たマイクに相手のDFは勝てなかったというわけですね。

賀川:ヘディングをしたときのマイクは首一つどころか胸から上が出ていたくらい相手より高かったからね。

――ザックさんも自分の狙いが当たって喜んだでしょうね。

賀川:ハーフナー・マイクが自らのゴールで代表チームの中での自信をつけたハズ。そのことが何よりだね。

――小さいのが“売り”のようでもあった日本代表に、194センチのノッポが加わった。オランダからの帰化人という点に抵抗はありませんか?

賀川:ボクのような古い日本人にとっては、60年来見続けた代表で初めてこれほどの長身FWが日本にできたことはとても嬉しいことですヨ。日本にも、1968年メキシコ五輪銅メダルチームには釜本邦茂という当時の大型ストライカーがいた。彼は身長182センチで日本代表の中ではズバ抜けた体格だった。GK横山謙三が175センチの頃ですヨ。世界的に見ても、74年ワールドカップ優勝チームの西ドイツ代表GKゼップ・マイヤーが182センチだった。ということは、大型化された今の世界のサッカーで各国のトップ級GKは187~188センチから190センチが普通でしょう。となると大型FWといえばやはり190センチクラスとなる。
 1988年のオランダのマルコ・ファンバステンルート・フリットの登場以来、大型化が進み、2006年ワールドカップ優勝のイタリアチームには3人の190センチクラスがいた。一人はFW、一人はサイド、一人は中央のDFだった。

――バルセロナのような小兵の攻撃陣が活躍するチームも出てきていますが……

賀川:そう、そこがサッカーの面白いところですよ。しかし日本は、自分たちが平均して欧米人より背が低いからといって大型選手を諦めてはいけない。かつての釜本の例もあり、この1億2,000万の人口、長い日本列島の中には大型の優秀プレーヤーになる素材が少なくないハズです。

――バレーボールを見ても大型のいい選手はいますね。

賀川:今度はたまたまハーフナー・マイクというオランダ系のプレーヤーが代表に加わった。これは日本サッカーがこういうオランダの家族をも魅きつける力を持った、日本全体のサッカーが大きくなったといえるでしょう。こういう例を見れば、日本人で大柄な少年がサッカーへの興味を増してくれるだろうし、また、家族のバックアップも違ってくると思いますヨ。

――その意味で、賀川さんはこの試合が歴史的だというのですね。


【了】

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大型日本代表FWハーフナー・マイクのゴール。長い記者生活での初体験、194センチの豪快ヘディング(上)

2011/10/18(火)


●2014FIFAワールドカップブラジル アジア3次予選 GroupC
 第1節 2011年10月11日19時45分キックオフ
 日本 8-0 タジキスタン
   (4-0、4-0)


――日本代表が11分にハーフナー・マイクのヘディングシュートで先制して、前半に4-0とし後半も攻撃の手を緩めず4得点を加えて8-0で大勝した。タジキスタンはこのグループでウズベキスタンと北朝鮮に2敗していますが、どちらも0-1という僅差だったから日本側も相当警戒していたのですが……

賀川:これで3次予選は3戦2勝1分け。同じ日にウズベキスタンが北朝鮮を破って2勝1分けと勝敗数で日本と並んだ。日本はこの8ゴールで得失点差で大きく上回って、残りの3試合が有利になった。しかし何より、私にはハーフナー・マイクが代表初ゴールしただけでなく、新しい大型FWとして代表のメンバーとなったことが嬉しいね。

――大型FWが必要――は、賀川さんの長年の意見でしたが、それが平山相太でなくてハーフナーだった

賀川:日本のサッカー史上で194センチの長身FWが代表のメンバーとして出場してヘディングで得点したのは初めてのこと。クラブでも昨季、J1昇格の力となっていた。

――ザッケローニさんは目をつけていたのでしょうね。

賀川:194センチの高さは魅力。上背があるからヘディングは自分の武器だと心得て練習を積めば、能力を増す。高さだけでなく体全体が強くなり、足元のボール扱いもしっかりしている(一家挙げてプロを目指しているのだから当然だろう)。J1でのプレーを観察した監督さんが放っておくハズはないでしょう。

――3次予選シリーズに招集し、第1戦の対北朝鮮、第2戦の対ウズベキスタンに途中出場させた。得点はなかったが威力はあった。

賀川:このタジク戦の前のキリンチャレンジカップ、対ベトナム(10月7日)にも出場させる予定だったが、メンバーの故障などでピッチに立てなかった。しかし、この高さは生きるとザックさんは思ったのだろう。

――それが先制ゴールになって表れ、チームもスタンドもムードが一気に良くなり、8-0の完勝につながった。

賀川:この日の長居では選手たちもしっかりプレーしようという気迫があった。キリンチャレンジカップのベトナム戦は、相手が抵抗力のあるチームであったことと、遠藤保仁が休み、岡崎慎司も欠場した。何といっても遠藤がいないと日本代表チームの攻めの幅や深さが違ってくるからね。ベトナム戦で調子の上がらなかったぶん、代表チーム全体に気持ちが強まっていたハズですよ。
 日本チームがやる気になって、動き出しも早くなっている。しかも相手のタジクはボールの競り合いのときに粘りがない。第1、2戦ではファウル気味のタックルがずいぶんあったのに、今度はそうではない。相手のプレッシングが弱ければ、日本の技は冴える。しかも気持ちも動きも最後まで落ちなかったから、長居に集まったサポーターにはとても楽しい夜になった。


【つづく】

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ハーフナー・マイク起用の効果 W杯アジア3次予選 vs北朝鮮(下)

2011/09/06(火)

●2014FIFAワールドカップブラジル アジア3次予選 GroupC
 第1節 2011年9月2日19時キックオフ
 日本 1-0 朝鮮民主主義人民共和国
   (0-0、1-0)



~右CKからの決勝ゴール。時間の迫っているなかでの冷静なショートコーナーに代表の進化を見る~



――その空中戦の決勝ゴールに、賀川さんは日本代表の進化を見たとか?

賀川:ハーフナー・マイクを後半25分に入れ(李忠成と交代)、明らかにロングボールもあるぞ――とか、空中戦もあるぞ――とかいう意思表示をした。相手もそれを警戒することになる。
 日本のMFたちにとっても、スペースがなければハーフナーの頭上へというチョイスができる。後半の終わりごろの攻撃は凄まじいものだった。

――ハーフナーを投入する前に柏木陽介に代えて清武弘嗣を入れました。このとき、岡崎慎司を左に回し、香川真司を中央トップ下の位置に、そして清武を右サイドにしています。

賀川:この配置変更は効果があったね。29分のハーフナーの右足シュートがバーを叩いたのをはじめ、いまにも“ゴール”というシーンが再三生まれた。48分には今野泰幸の左足ボレーがまたバーを叩いた。今野はヒーローになり損ねた。一般にこういうときにも、日本選手のシュートは素直だからね。
 49分にGKのファインセーブ(遠藤保仁の左CKを香川がバックヘッドで合わせたものを止めた)で右CKとなった。14回目のCKですヨ。

――この右CKを清武が後方へ、いわゆるショートコーナーにしました。

賀川:ここから決勝ゴールへのプレーが始まった。アディショナル・タイム(ロスタイム)残り少ないのにショートコーナー――つまりパスを一つ余計に入れる――を選択した。
(1)ボールを受けた長谷部誠がタテにドリブル。ペナルティエリア外側、ゴールライン近くまで行って反転し、後方へパスをした
(2)そこにコーナーから戻っていた清武がいた
(3)ノーマークの彼は、ペナルティエリアの少し外から狙ってゴール前の中央部へクロスを送った
(4)ボールは吉田麻也の前に落下、吉田が強いヘディングシュートを打ってGKを抜いた

――どこかのテレビで北澤豪(元日本代表)が、あの残り時間少ないときにショートコーナーにしてタイミングをずらしたのが良かった――といっていました。

賀川:そうだね。このときファーポスト(左ポスト側)に目立つノッポのハーフナーがいた。ニアサイドに岡崎たち、そして中央に吉田がいた。
 ショートコーナーにして、長谷部がそこからクロスを送るのでなく、ドリブルで突っかけたのがポイント【1】。長谷部はそれまで再三ドリブル突破して、エリア内に入り込んだり、ゴールラインからクロスを送ったりしていた。相手DFの目は彼のドリブルに注がれ、複数のDFが妨害に行く。そこで長谷部はターンをして後方を向き、今度はもう一度バックパスを清武に送ったから、清武はノーマークで落ち着いて狙ったところへクロスを送った。

――これまでも遠藤と中村俊輔のコンビでのショートコーナーの成功を見ましたね。

賀川:日本選手のキック力(長蹴力)ということになると、まずCKのときにコーナーから蹴ると、ニアポスト際からゴール中央まではコントロールキックできるが、ファーポストへは距離的に難しい。そこでショートコーナーにしてタッチラインからかなり内側、ペナルティエリアに近づいてクロスを上げればコントロールキックで中央部あるいはファーポストへも届く。

――前のオリンピック・チーム監督の山本昌邦さんは解説のとき、「ペナルティエリアからのクロスは短い、短いから時間も少なく相手方の対応もしにくい」とテレビでよくいっています。

賀川:まさにその通り。パスの距離が短いのは、相手に対応する時間を少なくすることですヨ。今度も清武はタッチラインからでなくエリアのラインに少し近づいたところからクロスを蹴った。それも速いボールをね。

――吉田は「キヨ(清武)からいいボールが来たので、合わせるだけだった」といっています。

賀川:いいヘディングでした。彼は前にも代表でヘディングのゴールをしている。キリンカップの対チェコ戦では惜しい場面があった。CKのヘディングは彼の主戦場になってくるでしょう。

――CKからのヘディングといっても単に蹴って合わせるだけでなく、クロスまでにいろいろな仕掛けがあり、タイミングを遅らせ、距離を近づけ、相手が守りにくくしていたということですね。

賀川:そう、相手選手の目がボールに注がれているときに、こちらは相手のマークを外す、いわゆる“消える”動きもできる。そういう攻めの面白さを、この決勝ゴールで見せてくれたわけです。

――ジーコ監督のときのアジア予選で同じような、対北朝鮮、ホームの試合であわや引き分けというのを強引にもぎ取って2-1にした試合がありました。

賀川:会場も同じ埼玉だったハズですヨ。相手に当たったリバウンドを大黒将志が決めた試合でしょう。あれもスリリングだった。※編集注:2005年2月9日/日本2-1北朝鮮
 今度のゴールには選手たちの気迫とともに技術や読みが入っていて、それだけ代表が進化したといえると思っているんです。

――今日はここまでにしましょう。

【了】

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ハーフナー・マイク起用の効果 W杯アジア3次予選 vs北朝鮮(上)

2011/09/05(月)

●2014FIFAワールドカップブラジル アジア3次予選 GroupC
 第1節 2011年9月2日19時キックオフ
 日本 1-0 朝鮮民主主義人民共和国
   (0-0、1-0)

●ロンドン・オリンピック アジア最終予選
 日本 3-0 タイ(2011年9月1日15時30分 山東スポーツセンター)
 日本 2-1 韓国(2011年9月3日19時 済南オリンピックスポーツセンター)



~右CKからの決勝ゴール。時間の迫っているなかでの冷静なショートコーナーに代表の進化を見る~



――90分を過ぎて得点なし、5分のアディショナル・タイムでの、それもあと1分というところで吉田麻也のヘディングで1点を取り1-0で勝ちました。

賀川:ボール・ポゼッション(支配率)が66.1%、シュートは20本、CKも14回もあった。その14回目のCK(右)からの20本目のシュートが決まった。スリル満点の試合だった。

――9月1日から始まったなでしこジャパンのロンドン五輪予選でも、第1戦の対タイ(3-0)はともかく、韓国との第2戦は大接戦でした。2-1で勝ちはしましたが……。やっと――というべきか、テレビ解説の岡田武史前監督のようにすごく盛り上がった――というべきかですね。

賀川:なでしこジャパンと韓国代表のチーム全体の力を比べると、日本の方が少し上だろう。しかし、その差は当日のコンディションや試合のどこかの局面のちょっとした狂いなどがあれば、勝敗どころを変える――ということになる。まあ、それくらいの差ですヨ。
 もちろん韓国がいまのままの個人力アップの上にちょっとした試合の工夫をつけ加えれば(いまのままのなでしこと)対等になるだろうし、体に力があるから追い抜くことも可能だね。

――なでしこは、必ずしも万全の状態で中国の済南に乗り込んでいったわけではなさそうですからね。

賀川:ワールドカップ優勝のあとのいろんな行事があって、充分に練習したとはいえないだろう。また、ドイツの大会で力を尽くして、身体的あるいは精神的疲労はそう簡単に取れているかどうか――。
 1974年のワールドカップに優勝した西ドイツの主力6人のいたバイエルン・ミュンヘンが半年後に来日して国立でプレーをしたとき、ゲルト・ミュラーをはじめとする代表選手たちのコンディションはひどかったからね。

――そうそう、この年のバイエルン・ミュンヘンはブンデスリーガでもなかなか勝てなかったことを覚えています。

賀川:なでしこが今度のアジア最終予選を切り抜けてロンドンへの権利を取れば、それだけでもすごいと思いますよ。

――彼女たちについては、あとで聞かせてもらうとして、まず「サムライ(SAMURAI BLUE)」の方から――。

賀川:2010年のワールドカップのベスト16はまさに全員の頑張りだが、やはり本田圭佑という新しい攻撃の核ができたことがプラスになった。以来、代表で欠かせぬ攻撃の柱だった本田が故障のために戦列を離れた。攻撃が武器の日本代表で、こういう中心選手が抜ける影響はとても大きい。そうしたなかで、最初の試合で北朝鮮に勝ったのだから、それだけでバンザイですネ。

――といっても、ハーフナー・マイクを投入し空中戦を挑んだやり方で、日本らしくないという声も出ているのじゃないですか?

賀川:本田が出られないという報道があったとき、ハーフナー・マイクを加えたという発表を見て、ボクは、ザッケローニさんはこの手も考えていたかと思いましたよ。

――そういえば賀川さんは長い間、大型FW必要論を唱え、平山相太に執着していましたね。

賀川:いまの多くのファンは、日本人の大型ストライカー・釜本邦茂を見ていないから無理もないが、当時182センチだった彼は右足左足のシュートとヘディング能力が素晴らしかった。もちろん、大きいだけでなくボールの高さを見極める目の確かさ、落下点へ入る速さとうまさ、そして滞空時間の長いジャンプなどが組み合わされ、さらにボールを叩くときのインパクトのうまさもあるのだが、基本的には長身が武器の基礎だった。
 74年ワールドカップ優勝チームの西ドイツ代表GKゼップ・マイヤーが182センチだから、釜本は当時のワールドクラスのGKと同じ大きさだったといえるだろう。今はGKは188センチ以上が普通だから、長身のストライカーといえばそれくらいの大きさが欲しいと私は思っている。だからこそ、平山の成長に期待したんですヨ。

――ザックさんはハーフナーに目を留めた。彼は190センチ以上ありますからね。

賀川:ヘディングもシュートも釜本には及ばないとしても、ここのところ上手になりJ2でゴールも増えていた(甲府で昨季J2リーグ戦20得点、今季J1リーグ7得点)。ザックさんが目をつけて当然でしょう。

――ふーむ、2006年ワールドカップイタリア代表が優勝したとき、賀川さんは190センチが3人いたのがミソだといっていましたね。もともと体の小さい選手の多い神戸一中のショートパス育ちの賀川さんが空中戦好きとは――と、あのとき驚きました。

賀川:ボクのような小さい選手でもヘディングで点を取ったこともあるのですヨ。一つ、この際いっておきたいのは、エリア内にはじめ4人で守り、相手が攻めてくれば6人にも7人にもなる。そしてCKやFKとなると狭いところに双方の10数人がひしめいている、といった現代サッカーで、地上のボールをシュートしても誰かの体に当たって弾き返される。もちろん、誰かの体に当たってGKの意表をついて入ることもあるが、統計上は跳ね返る方が多いハズです。足でシュートするときには、人が混み合っているからスペースも小さく、シュートにかかる動作もスムースにゆかないこともある。
 ヘディングというのは、第1に足でいえばダイレクトシュートで、相手GKは予測しにくい。第2に、頭で叩くだけだから頭を振るスペースは地上のボールを蹴るときのスペースより小さくて良い。したがって、キッカーのボールが狙っているところ――高さ、位置――へ落ちてくれば、ジャンプヘディングは理論的にはゴールを奪いやすい有効な手段なのですヨ。

――日本も空中戦を攻めの武器の一つにすればいい、と。

賀川:攻め手は色々ある方がいい。近頃ではFCバルセロナの小柄な攻撃陣の魅力が人気を集めているが、彼らについてはまた別に機会にお話しするとして……

――その空中戦の決勝ゴールに、賀川さんは日本代表の進化を見たとか?

【つづく】

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AFCアジアカップ カタール2011 日本4度目の優勝から(下)

2011/02/09(水)

――延長に入って、ザッケローニ監督は前田遼一に代えて李忠成を送りこみました。

賀川:前田はこの日、惜しいシュートチャンスを逃していた。彼は攻撃だけでなく守備でもとても働いた。ヘディングの強い彼は相手のCK、FKのときは守備でもその高さが大事な武器だからね。その高さを失うのは冒険ではあったとザッケローニ監督は試合後に語っていたが、目いっぱい働いた前田に代えて新しい戦力を送りこんだ。

――それが当たりました。

賀川:このゴールは、まず日本の攻撃のCKのあと、相手GKが前方へキックし、それを日本側が取ったところから始まった。
 本田圭佑が長友佑都にパスを送り、長友がタテへ仕掛けるドリブルを見せておいて後方へ戻った。相手のDFルーク・ウィルクシャールーカス・ニール主将も遠い間合いにいた。
(1)そこで長友はボールを後方の遠藤保仁に渡し、
(2)遠藤はまた後ろの今野泰幸にパスをした。
(3)今野はちょっと右へ出すと見せてターンし、また左タッチ際の遠藤に戻す。
(4)遠藤はまっすぐタッチラインに沿ったパスを長友に送る。
(5)長友はゆっくりキープする形から一気にウィルクシャーを縦に外し、
(6)左足でゴール前中央へクロスを送った。
(7)そのゴール正面、エリア中央に李がいた。
(8)ノーマークで文句のないパスだったが、李はそれをボレーで見事に捉えた。

 名手と言われたGKマーク・シュウォーツァーも防ぎようのないシュートだった。

――李の近くに、相手選手は誰もいませんでした。

賀川:遠藤と今野のパス交換の間にボールに視線が行って、李がマークを外す動きをしたのを見ていなかったのだろう。ここらが遠藤のタイミングの取り方のうまさだろうネ。

――大会MVPを受賞した本田が、遠藤のうまさについて話していましたね。

賀川:チーム全体も、また、日本のサッカーファンは遠藤のタイミングあるいは攻撃テンポというものについての理解をするようになっているのでしょう。
 それにしても、フィニッシュへ持ってゆく長友のクロスも李のシュートもパーフェクトだった。色々反省点はあっても、こういうゴールを生み出せるようになったチームを見るのはとても楽しいことですヨ。

【了】

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AFCアジアカップ カタール2011 日本4度目の優勝から(上)

2011/02/08(火)

――今回は決勝の話の続きをお願いします。
決勝で98分、つまり延長前半8分に李忠成前田遼一に代わって入り、その彼が延長後半4分にすごいシュートを決め、これが決勝ゴールとなりました。

賀川:大陸大会の決勝ゴールでは、1988年のマルコ・ファンバステン(オランダ)の対ソ連戦の右からのボレーシュートが歴史に残るビューティフルゴールと言われている。李忠成のボレーもその美しさで並ぶだろうね。アジアでもこうしたプレーが生まれるということを世界に見せたという点でも嬉しいことだ。

――ファンバステンはゆったりとした大きな構えのボレーシュート。李は歯切れのいいボレーでしたね。

賀川:天下のファンバステンに李が肩を並べたとは言わないが、この決勝の舞台でのシュートの成功は、彼にとって大きな自信になるでしょう。

――それにしても、長友佑都の左からの崩しが素晴らしかった。

賀川:これは試合途中のメンバー交代と配置がえが成功した。

――テレビの解説でも、新聞でもそういっていましたね。しかし逆の見方をすれば、はじめのメンバー編成がおかしかった? とも言えませんか。賀川さんはオーストラリア相手にCDFは2枚とも長身を持ってこないと――と、前日にも言っていました。

賀川:今野泰幸は178cmでヘディングそのものは上手だが、190cm近い相手になると身長差を補うのは大変ですヨ。まあ監督さんは様子を見て岩政大樹(178cm)に代えようと思っていたのだろうネ。勝ってきたメンバーをいじるのは難しいし、攻撃に自信もあったのだろう。

――その攻めで、負傷の香川の代わりに藤本淳吾をスターティングメンバーにしました。しかしうまくゆかなかった。

賀川:サッカーは面白いもので、始まって早々のオーストラリアの攻撃でゴール前左でのマット・マッカイのシュートが外れた。左利きの彼はこの日のラストチャンスのFKをはじめシュートを全て失敗した。まあ、そういう点では運がよかったとも言える。ケーヒルとキューウェルというヘディングが強くシュートも上手い2人を何とか押さえたが、そのコボレを拾う役のプレーヤーのシュートが全部上手くゆかなかったのだから――。

――まあ、そういう危ないところもありましたが、後半に入って11分に岩政大樹を藤本に代えて送り込み、今野を左DFに置いて長友を左の前へ出し、岡崎慎司を右サイドに移しました。

賀川:そう。つまりケガで離脱した香川のポジションに長友を置いて、CDFを吉田麻也と岩政の長身の2人にし、左DFに今野を置いた。これでいい構成になった。

――もっともその前に、いったん岩政がピッチに入ろうとして止めてしまいました。ポジションに関して、選手の中から異論が出たということでした。

賀川:試合の後で今野自身が語ったところによると、岩政を藤本に代え、今野はボランチの位置へという指示が出たが、それに対して今野はここしばらくボランチをやっていないから無理だと言い、それを知った長谷部誠キャプテンが監督に伝えたらしい。

――今野には、ケガで無理だというのもあったようですね。そこでちょっと時間をおいて、監督は長友を前へ上げ、今野は左DFということになったのですね。

賀川:この配置がズバリと当たった。この日の長友は相手の右サイドに対してずーっと優位に立っていた。オーストラリア全体に疲れが見え始めてからは、特にここの有利がはっきりしていた。

――それまでに何度もピンチがありました。それをGK川島永嗣をはじめ全員の頑張りで何とかしのいでファインゴールにつないだ。本田圭佑も見ていて痛々しいほどの疲れようでしたが……。

賀川:皆で何とか防げば自分たちのチームはチャンスに点を取れると思っていたのだろうネ。後半17分と21分に“長友効果”のチャンスがあった。21分の長友からのクロスを岡崎がヘディングしたシーンは、岡崎の十八番。右へ外れはしたが……。

【つづく】

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AFCアジアカップ カタール2011 日本代表4度目の優勝(下)

2011/02/03(木)

――そういえば、賀川さんは内田篤人には厳しい見方をしますよね。

賀川:彼の資質からいけば、もっと上へゆけますヨ。

――ふーん。

賀川:スピードがあり、ボールテクニックがあるのだから、それを生かすための体の強さをつけなければならないのにそのままだった。ドイツへ行って、そのことの大切さを知ったと思う。テクニックにしても、彼ならもっと精密なプレーができるハズですヨ。

――その内田(出場停止)に代わって出場した伊野波雅彦カタール戦で逆転ゴールを挙げました。

賀川:バックラインにそうした変化と進歩があって、ボランチの長谷部誠キャプテンと遠藤保仁の二人が素晴らしい働きだった。南アフリカでもしっかりプレーしたが、この大会の二人の仕事にもまたまた感嘆した。

――二人のポジショニングのうまさで、DFラインは相手を囲んでとることができたし、攻めでもいいパスを出すだけでなくトップへ走り上がる見事な動きも見せました。

賀川:遠藤は彼の持つ独特の“間(ま)”の取り方で日本の攻撃に余裕を持たせるとともに相手のDFを「立ち止まらせる」という効果があるのだが、どうやら代表選手たちの間でそのことの理解が深まってきたようにも見えた。

――それも今度の収穫といえますね。

賀川:攻撃では先に話した香川という新しい力が加わり、前田遼一もレギュラーとなった。シリア戦の途中から(香川に代わって)ピッチに立った岡崎慎司が自分の粘りでPKを獲得(本田圭佑が決めた)して調子が上がり、第3戦の対サウジでハットトリック、そのあとは負傷(右太もも肉離れ)の松井大輔に代わって攻撃陣で頑張った。前田もサウジ戦で得点している。

――サウジがグループリーグ敗退が決まって元気がなかったこともありましたが……

賀川:こういうときでも手を抜かずプレーし続けたし、監督も控えを実戦に使えた。
 そして何よりこの大会では本田圭佑のラストパス――フィニッシュにつながるパスの能力を見ることができたのはとても良かった。彼も香川と同じようにこの大会でベストのプレーとはいえなかったが、それでも突破のドリブルやシュート、FKとは別に、プレーメークの才をタイトルマッチのなかで発揮したのは大したものですヨ。

――それぞれの具体的な事例は、次の機会に聞かせてもらいましょう。

【了】

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AFCアジアカップ カタール2011 日本代表4度目の優勝(上)

2011/02/02(水)

――日本代表のアジアカップ優勝で、日本中が沸き立ったという感じですね。

賀川:大相撲が終わったあと、ビッグスポーツの空白期だったからね。同じ時期にあたったラグビーのトップリーグやスキーがちょっと気の毒な感じもしたが、アジアの大会でこれだけメディアも取り上げ、多くの人がテレビを見たのも初めてでしょう。

――地上波のABCは、準決勝の対韓国が34.2%、決勝の対オーストラリアが33.5%(瞬間最高39.2%、いずれも関西)。放送局としてはビッグヒットでした。

賀川:ワールドカップは各局の抽選だったが、今度は朝日放送が日本の全試合を中継した。狙いが当たったことになる。面白かったのは、次の日のどこかの番組でタレントの爆笑問題の太田クンが「サッカーあったの、知らなかった」と言って、それこそ爆笑をとっていた。

――サッカーを見なかった、ということがお笑いのネタになると。

賀川:私たち古い世代の人間にはまさに隔世の感というところだ。ワールドカップで各地を歩いて、その土地土地で一つの国がこんなにサッカー漬けになるとき、サッカー嫌いはどうするのカナと思ったことがあった。

――日本にもそういう時期が来ましたかね?

賀川:いや、それはまだまだでしょう。ただし、昨年のワールドカップでの頑張りや、今度のようなことで、これまでより多くの人が関心を持ち面白いと感じてくれることが嬉しいし、サッカーの発展やさらなる浸透に大切ですヨ。

――ヒヤヒヤする試合の連続で勝ち上がっていったということは、それだけ、一つ間違えば負けていたことになります。その点の反省は?

賀川:もちろんそうだが、勝負事は苦難を乗り越えて勝つことが大事だからね。

――話はちょっと違いますが、この間、1月27日にサロン2002の集まりで神戸一中の話をしたでしょう。考えてみれば、11年間に7回も全国大会に勝ったからこそ歴史の上でも話題になるわけですね。

賀川:60年も70年も前の話で、全国中等学校選手権(現・全国高校選手権)といっても参加校は少なく、兵庫県の予選と全国大会と、どれもノックアウトシステムだから合計8試合を勝ち上がれば優勝です。いまなら8試合勝って兵庫の決勝でしょう。しかし毎年のように1敗もせず8試合勝ち抜くというのは一つの学校クラブとしてそう出来ることではないでしょう。
 日本代表に話を戻すと、もちろん反省点はいくらでもある。チームの進化のために、それを振り返り修正することも大事だが、ボクは今回の日本代表が岡田武史の南アフリカ16強入りのチームからさらに前へ進んでいることが嬉しい。

――というと?

賀川:右足小指の付け根を骨折して決勝には出られなかった香川真司にしても、南アフリカ大会ではプレーしていない。彼が代表に加わったことでボールキープできるところが一つ増えたわけでしょう。もちろん個人での突破という手も増えた。
 また、中澤佑二と田中マルクス闘莉王という二人のベテラン長身CDFが不参加だったが、吉田麻也岩政大樹が、最後はオーストラリアの高さに対応できることを示した。今野泰幸は南アフリカでは故障もあって働けなかったが、今度の監督は大会の前半は岩政を控えにして吉田と今野をCDFにした。今野は身長178センチで高い方ではないが、総合的な守備力では優れているから何とかもってきた。それに長友佑都がイタリアで自信をつけ、内田篤人も進歩した。

【つづく】

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AFCアジアカップ カタール2011 準々決勝 vsカタール(下)

2011/01/25(火)

――カタールに取られた1点目はどうです?

賀川:いつも言っているように、組織防御をいくら強調しても、守りの基本は1対1の対応にある。この場合はテレビでは見にくいが、オフサイドをかけ損なったのか、あるいはレフェリーが見逃したのか、いずれにせよセバスティアン・スリアにDFラインのウラに走られ相手の後方からのロングパスで一気に突破されてしまった。

――それでも、左ポスト近くでセバスティアンが中へ切り返したときに吉田麻也が追いついたように見えました。長友もいたかな。

賀川:せっかくシュートコースに立ちはだかったように見えたが、セバスティアンの左足シュートは吉田の足の間を抜けてゴールへ飛び、GK川島永嗣は左手に当たったが防げなかった。

――1対1の能力アップを監督も選手も口にしています。

賀川:攻撃も強い相手との対応が大切だが、こちらの方はボールを持っている(味方がボールを持てば攻撃だが)形で、それについての練習はある程度自分たちで工夫できる。だが、守りでは強い相手あるいは適当な相手との対応を経験することが上達の一番の早道ですヨ。もちろん、肉体的な素質やそれを鍛える努力も大事だが、いろいろな強い相手との対決によって経験を積むのがいい。
 吉田にとってこの日のウルグアイ人(カタール国籍に帰化した)のセバスティアンは体も大きく、ボールの競り合いも狡猾でちょっとやりにくい相手だったろう。密着マークを逆手にして体を寄せられ、そのためにファウルを取られたりもした。

――10人になって2-1とリードされるという大ピンチを跳ね返したことについては素晴らしいですね。

賀川:成長過程のこのチームと選手に不満もあるし、まだまだ改良点はいっぱいあるが、ハンディのなかで自分たちの力を信じて攻めに出たところは立派なもの。その体力と気力は誇っていいと思う。そしてそのゴールにも、こちらの個々の選手の良さが組み合わされているのが良かった。

――2点目、3点目はまた後ほど解析してもらいましょう。

【了】

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AFCアジアカップ カタール2011 準々決勝 vsカタール(上)

2011/01/24(月)

◆10人での逆転勝ち。気力・体力と攻めへの意欲の強さが逆境を跳ね返した

――スゴイ試合でした。前半1-1、後半、日本側に退場者(吉田麻也、2枚のイエローカード)が出て10人となり、しかもその反則によるFKで2点目を失った。後半18分でした。その10人の日本が8分後に同点にし、44分に3点目を奪って勝った。

賀川:スリル満点。とても面白かったし見どころの多い試合だった。
 10人で逆転勝ちだから素晴らしいね。2失点については当然、反省・工夫の余地は大いにあるのだが、勝とうという意欲でゴールを奪いにゆく気持ちを全員が持ち続けたのは立派なものだ。

――香川真司が得点したのも、チーム全体の大きな活力になるでしょう。

賀川:この前の試合のときにも少しふれたが、テレビ画面で見るだけではあるが、動きの小さいのが気になっていた。だがこの試合ではそれがよくなっていた。

――サウジ戦でハットトリックした岡崎慎司が調子を上げているのも心強いですね。

賀川:まあテレビ画面からの想像にしか過ぎないが、サウジ戦の岡崎の飛び込みヘディングを香川が自分のパスで演出したときに、ボクは、彼が自分の一番得意な形のクロスパスが得点につながったことで少し自信を取り戻すだろうと思っていた。
 直接に話を聞いているわけではないが、初めてのヨーロッパのトップリーグで半年以上プレーを続け、日本に戻ってチームに合流し、また、コンディションの違うカタールへ出かける。普通の旅行者やボクたち取材する人にも、この時差と気候の変化は厄介なものだったし、コンディションの維持が難しかったのだと思う。

――真面目な彼はその調整についても真剣に考えたでしょうか。

賀川:特にヨーロッパでプレーする日本選手には、このコンディショニングの難しさがあると思う。あの中村俊輔のような大選手でも、2006年も2010年のワールドカップもベストの体調で迎えることができなかった。

――そういう点の、個々の選手へのバックアップ体制も大切ですね。


◆1点目に香川の復調を見た ~ドリブルかパスのチョイスと長い疾走~
 攻撃に見る連動と個々の得意技の組み合わせ

賀川:選手のことを考えると、つい話がそれてしまう。話を香川に戻すと、日本の1点目はその香川の“冴え”が戻ってきた証とみている。

――というと?

賀川:このゴールは香川が中央左寄り、ペナルティエリアの左角から10mほどハーフラインに寄ったところで
(1)香川がボールをキープしたことから始まる。その前に日本の攻めで、カタールはエリア付近に後退して7人が守っていた。
(2)長友佑都からパスを受けた香川は、いったん戻りながらターンして右足でボールをキックして前を向く。例の左肩を前にした得意の持ち方ですよ。
(3)ペナルティエリアより前にいた相手の3人が彼の突破を警戒して囲もうとした。
(4)このときの香川には選択肢が3つはあった。
   A:3人の隙間を見つけてドリブルするか
   B:右に開いている岡崎の動きに合わせたパスを出すか
   C:本田圭佑に渡すか

――エリアいっぱい、正面やや左に前田遼一がいました。長友はボールを渡してすぐ左サイドへ前進していた。

賀川:
(5)その3つの選択肢のなかで、香川のチョイスは本田の足元だった。
(6)スクエアパス――いわゆる横パスを送った。一番安全で取られないパスだった。
(7)そのパスが足元に来たとき、右サイドの岡崎がスタートした。本田はダイレクトで――近ごろはワンタッチというらしいが――左足で前方へ蹴った。
(8)本田は立ったままノーステップで左足を正確に使える選手で、これは彼が高校から名古屋グランパスに来た時以来、私が感心しているプレーの一つ。
(9)本田のパスは少し浮いて、右へカーブを描きながら落下した。相手のDFには取られずに岡崎の走る前へ落ち、
(10)そのリバウンドを岡崎が足を伸ばして捉え、飛び出したゴールキーパーの上を抜いた。
(11)ふわりと上がったボールがゴール左上隅近くへ落下してゆくところへ
(12)香川が走り込んでジャンプヘッドしてこれを押し込んだ。
(13)スロービデオのリピートを見ると、香川は本田にパスを出したあと一気に前方へスタートし、ゴールまでスピードを緩めなかった。相手DFの一人が気づいて追走したが、香川のスピードが勝っていた。

――香川は「岡ちゃん(岡崎)のゴールみたいなものです」と言っていましたが

賀川:これこそ、今の日本の攻撃陣の“あうん”の呼吸とそれぞれの持ち味の出たゴールだった。岡崎の飛び出しを生かす本田のワンタッチパス、香川の長いランが生きた。

――香川が本田にパスを出したとき、この展開を読んでいたのでしょうか。

賀川:そこのところは想像でなく本人に聞いてみたいネ。ただ、彼はパスを出してすぐ前方へスタートを切ったところがいい。そして途中で疾走を止めないところが素晴らしかった。もちろん、本田-岡崎ラインは見事に冴えていたけれど、香川にとってもこれに絡んだことで「ご馳走さま」のゴールではなかったといえる。

【つづく】

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AFCアジアカップ カタール2011 vsサウジアラビア(下)

2011/01/20(木)

――3点目は前田でした。

賀川:左サイドで柏木が深いスルーパスを送り、長友は疾走し止めないで左足のクロス、前田がニアサイドでジャンプボレーで合わせて叩き込んだ。柏木のパスから長友のクロスまでが速かったのとコースが良かったので、相手のDFオサマ・アルハルビの動きが遅れて前田は速いダッシュでノーマークとなったのだが、まあドンピシャリのタイミングだった。

――10分ほどの間に3得点して、一気に勝負が見えたという感じになりました。

賀川:サウジは攻撃にはかなり熱心だったが、守りとなると球際での粘りも強さも速さもなかった。それだけ気落ちしていたのだろう。
 日本が韓国にいつも苦戦するのは韓国のプレッシングが強いからで、この大会の第1戦、第2戦でもヨルダンもシリアもファウルも辞さない激しさでボールの奪い合いをしたが、そういう試合に比べるとこの日はいわゆる相手のプレッシングが強くなかったから日本選手は余裕があり技術を発揮できた。
 こうなるとパスワークは上手い。特にスピードアップを心がけたようだ。この左からのクロスへの前田の飛び込みに見る通り、走り込んでのシュート(ヘディング)という形が出ていた。

――後半に内田に代わった伊野波雅彦が右サイドを突破してクロスを送り、前田がニアサイドでヘディングしたのもそうですね。

賀川:5点目の岡崎のペナルティエリアの中での反転しての左足シュートもいいゴールだった。それから4点目、長身のセンターフォワードと期待されている前田がヘディングでゴールを取ったことも、本人にもチーム全体にも嬉しいことだ。

――香川があまり上手くいっていないという声もあります。

賀川:得点がないからそういう声も出るのだろうが、かなり彼のプレーは光っていますヨ。生真面目な方だから、ザックの言葉の範囲内でプレーしようとしているのかもしれないけれど、まあ自分で解決するでしょう。ちょっと動きが小さいのが、テレビを見ていて気になるけれどネ。

――準々決勝の相手は開催国カタールですね。

賀川:ここで勝てば、この後は準決勝。ベスト4ということはさらに2試合できる勘定になる。選手にとってもザッケローニ監督にとっても、アジアのトップクラスのタイトルマッチでの難しさやイヤらしさを肌で感じるいい機会。2014年のブラジル・ワールドカップといってもアジア予選を勝たなければいけないのだから、この後の試合で日本が成長することが大切でしょう。オーストラリアや韓国といったしっかりしたチームもベスト8へ上がってきたようだから、いよいよアジアカップの終盤は楽しみですヨ。


【了】

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AFCアジアカップ カタール2011 vsサウジアラビア(上)

2011/01/19(水)

――5-0とはやりましたね。岡崎慎司がハットトリック、賀川さんが気にしていた前田遼一が2得点です。

賀川:サウジアラビアは、このアジアカップで日本と並んで3回優勝の実績を持つアラブのサッカー大国。この大会の開幕前の予想ではグループBでは日本の一番の強敵だと言われていた。2007年大会でもイビチャ・オシムと日本代表は準決勝でサウジに2-3で負けている。

――2007年はベトナムなどが会場で、イラクが戦争のハンディを乗り越えて優勝しました。そのときの決勝の相手がサウジでしたね。

賀川:そうした過去の実績があっても、今度はB組で連敗してグループリーグ突破の望みは無くなっていた。

――そういう相手に対しての岡崎の先制ゴールは効きましたね。

賀川:それまでに日本は前田遼一に2度シュートチャンスがあった。1本目は岡崎からのボールを受けて、DFをかわしてシュートした。GKワリード・アブドゥラの正面だった。2本目は左の香川真司からのパスを受けてのもの。右へパスを送るテもあるがシュートを選んだ。だが相手に絡まれシュートできなかった。そんな惜しいチャンスと、その後の嬉しくない内田篤人へのイエローのあとで1点目が生まれた。

――遠藤保仁からのパスでしたね。

賀川:
(1)左タッチ際の長友佑都から香川-柏木陽介と渡り
(2)柏木が後方の遠藤に戻したのを
(3)遠藤がダイレクトで右足で蹴って相手DFラインの背後へ落とし
(4)右から中へ走り込んだ岡崎がノーマークで取って
(5)バウンドしたボールをボレーでタッチして浮かせ
(6)飛び出してきたGKワリードの上を抜いてゴールへ入れた。
 飛び出し屋の岡崎の特長を生かした見事な遠藤のパスだった。

――遠藤は冴えていますね。

賀川:第2戦の不利な状態のときにも冷静だった。香川や前田、岡崎たちのそれぞれの特長を見ながら、どのようにボールを配るかができるプレーヤーだからね。このプレーは実はスロー映像で見直すととても興味があるのだが、長くなるから2点目にゆこう。

――13分には香川がドリブルして左タッチ際から中へドリブルして送ったクロスを、ファーポスト側にいた岡崎がダイビングヘッドで決めました。

賀川:これはセレッソ時代から香川が見せていた十八番(おはこ)のドリブルとパスのコースですヨ。相手の攻めを中盤で日本が奪って、遠藤が左に開いていた香川にパスを送ったところからこの攻撃が始まった。
(1)遠藤からボールを受けた香川は、相手ゴールラインから40m、左タッチラインの内側数mのところでゆっくりキープ。相手側2人が向かってくると
(2)縦にドリブルし、その外を長友が走る。
(3)香川は右足アウトで内側(いったん後方へ)へ切り返し
(4)ペナルティエリア左角の数mの位置から中央へクロスを送る。ペナルティエリア内には前田が中央、左外に岡崎、そしてそれぞれに一人ずつ相手のマークがついた。
(5)ボールは前田を越えて、その背後へ走り込んだ岡崎へ。岡崎は飛び込むような形でヘディングし、ゴールキーパーの右を抜いた。

【つづく】

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AFCアジアカップ カタール2011 vsシリア

2011/01/17(月)

――すごい試合でした。日本代表は対ヨルダン戦よりも速い動きが見えて、前半に長谷部誠のシュートで1-0。この他にもチャンスをつくったから、後半もこの調子でゆけると見ていたのに、76分(後半31分)にPKで同点とされた。しかもGKの川島永嗣がレッドカードを出されて10人になってしまいました。それを、この場面の少し前から(香川真司との)交代で入っていた岡崎慎司が相手のペナルティエリアで反則をもらい、今度は本田圭佑が決めて2-1として一人少ない劣勢を切り抜けて勝点3をつかみました。

賀川:シリアは第1戦で強豪サウジアラビアに勝って勝点3を取っている。この日この試合の前に行なわれた試合でヨルダンがサウジを破って勝点4となっていたから、日本はこの試合に勝っておかないと非常に後が苦しい立場にあった。

――まあ、最後には勝って勝点は合計4。得失点でこのグループの首位(2位はヨルダン)となり、一歩前進して一息つきました。まだ最終戦にサウジを残していますが、1次リーグ突破の有利な状態にあるのは確かです。
 それにしても、日本が失ったPKの場面、線審はオフサイドの旗を挙げていたし、私もそうかと思っていたのに、イラン人の主審はPKにしました。この説明から始めて下さい。

賀川:ヨルダン戦に比べてまず右サイドの松井大輔、内田篤人の動きが良くなり、初めからどんどん仕掛けた。左の長友佑都も前へ出るようになり、本田圭と香川真司との関係もよくなって攻めはヨルダンのときより良くなっているようだった。
 35分のゴールは
(1)本田がエリアいっぱいのところを縦にドリブルして
(2)ゴールラインから中へ――エリア中央に転がったボールを
(3)香川が左から中へ走り込み
(4)右へDFを外したあと、切り返して
(5)左足でシュートした
(6)前進していたGKモサブ・バルフスが手を伸ばして防ぎ
(7)そのボールがペナルティエリアから外へ転がってゆくときに
(8)松井が走り寄って短くパスを出して、自分は相手DFの前に立って長谷部のシュートコースをあけた
(9)長谷部の右足のシュートはゴール右に飛び込んだ

――攻撃に関わった一人ひとりの仕事が素晴らしかったです。

賀川:あとでまた説明したいが、このときの連係ぶりや個々のプレーのスピードなどはなかなかのものだった。

――これなら大丈夫かなと、テレビの前のサポーターは思ったでしょう。

賀川:もちろん、この前にも後にもチャンスがあった。この勢いのあるときに複数ゴールが取れない代表チームにはやはり痛いツケがまわってくる。

――シリアの後半の頑張りもすごかった。

賀川:後半はじめに10番をつけたフィラス・アルハティブが入る(MFサメル・アウアドと交代)とスタンドの歓声が大きくなった――とテレビは伝えていた。スター選手なんだろうね。前半からシリアの意気込みはなかなかで、中東らしく手を絡める、足を蹴るなど結構ラフだったが、後半はさらに激しくなる。
 日本の攻めを防いでボールが自分のモノになると、前半よりもロングボールを多用するようになった。日本側はそれをヘディングで跳ね返すのだが、そのジャンプの際に相手が体をひっつけ、腕を絡めてくるものだから、跳ね返すボールの勢いも弱くなる。それを拾われる、という場面が増えた。

――シリアのPKはそうした流れの中から生まれました。

賀川:後半19分頃から相手の左CK、右CKさらには右からのクロスといったチャンスがあり、日本が攻め込んだあと相手のクリアボールが大きくバウンドした。高く上がったボールを日本の吉田麻也がヘディングしようとするとき、サンハリブ・マルキが体をくっつけて妨害に来る。2人が競って落下したボールをアルハティブが拾って前へ出る。今野泰幸がこれを潰しにゆき、25m中央あたりに流れたボールを長谷部が取る。相手2人に対して4人がかりで奪ったのはいいが、そのあと長谷部が中央から右へドリブルして、そこからGK川島へバックパスをした。

――ボールの勢いが弱く一瞬ヒヤリとしました。

賀川:(1)川島がペナルティエリアいっぱい近くまで出てきて左足で蹴ったとき、マルキが足元へ滑り込んできた。
(2)そして川島の蹴ったボールは右斜め前へグラウンダーで転がった。これをアルハティブと今野が競り合って、どちらかに当たったボールがゴールに向かって転がってきた。川島とマルキがこのボールを取りにゆく形になった。

――てっきりマルキがオフサイドだと思ったのにそうではなかった。

賀川:主審のPKのジェスチャーに、日本選手はオフサイドだといった。モーセン主審は、川島の蹴ったボールを今野がまたバックパスをしたと見たらしい。プレーをした選手が相手方であればオフサイドにはならないということで、マルキはオンサイドとなり、そのマルキをファウルで止めた川島はレッドカード、そしてPKということのようだった。

――実際に今野の足に当たったのかどうか……

賀川:近くにいたレフェリーがそう判断したということだね。この問題については、日本代表は納得できないと抗議文を出すと言っていた――手続きの遅れで意見書ということらしいが。

――日本代表はGK川島の退場でFWの前田遼一に代えてGKの西川周作を投入しました。西川はPKは防げなかったが、急の交代出場だったがこのあとしっかり守った。

賀川:同点になったのが76分だから、まだ20分ばかり時間があった。アウェーの、しかも一人少ない条件で2点目を取るという大事な仕事があった。相手側は引き分けでも勝点4だからね。

――賀川さんは、2点目を取れると……

賀川:選手たちが攻めはじめたからネ。すぐに本田圭のシュートがあり、皆の動きも衰えなかった。

――遠藤からのパスを受けた岡崎がペナルティエリア内でファウルをされ、PKをもらいました。

賀川:3番のアリ・ディアブが腕で妨害して岡崎と競り合っているとき、2番のベラル・アブドゥルダイムがそこへ足を出して岡崎を倒した。

――そのPKを本田圭が得意の左足で決めた。

賀川:本田圭ほどの選手でも、ちょっと気持ちが昂りすぎていたのかな。GKモサブ・バルフスが右へ先に飛んだが本田のシュートはそのGKの足をかすめてゴール正面へ入った。足に当たっていたら……まあ彼の気迫で決めたゴールということだろう。

――現地からの話では、岡崎はファウルをよく取ってくれた――という言い方でしたね。

賀川:こういうエキサイティングな試合でああいう微妙な判定のPKで1点を取った後は、シリア側にもPKを取られる危険が大きくなるものですヨ。レフェリーはお返しをするわけではないけれどネ。
 74年ワールドカップ西ドイツオランダのときも、イングランドのテイラー主審は前半早々にオランダにPKを与えた後、西ドイツにもPKがあった。テイラーさんは重要な試合を見事にコントロールしたとして評価が高かったのだが、西ドイツのPKをもらったヘルツェンバインは自分から相手の足に引っかかって反則をもらうことの上手い選手だった。レフェリーも人の子、微妙な心理が働いても不思議はない。

――そのあとはハラハラもしましたが、波乱万丈の第2戦をよく乗り切りましたね。

賀川:選手たちの頑張りや、監督の交代選手の起用なども良かったと思う。ただしロングボールで受け身になったときの落ち着きや処理は、これまでの代表と同じ伝統手な弱さもある。そしてまた、いい攻め込みをしながらゴールが少ないのも改善されていない。

――それにしても、アジアのサッカーは大変ですね。それだけ面白いですが……

賀川:それでも、昔から見ればレフェリーも良くなっているし、グラウンドも悪くはない。西アジアのアラブやアフリカ等のプレーヤーたちと厳しい試合をすることで代表はチームも個人も伸びると思いますヨ。

――2-1としたのが82分、残り13分。それにアディショナルタイムが5分もありました。

賀川:最後のところで岡崎がペナルティエリアすぐ外でファウルされ、そのとき相手のナディム・サバクがイエローを出され、このFKを本田圭がキックするときにサバクがボールに近づいて2枚目をもらって退場になった。試合が終わったときにレフェリーに抗議してアリ・ディアブもイエローをもらった。

――第1戦のヨルダンも今度のシリアも、決して大きな国でもなく、人口も多くないのに、代表チームはなかなか力がありますね。

賀川:ワールドカップの16強に入ったといっても、アジアで勝つのは簡単なことじゃない。サッカーが世界でどれほど盛んで、各国ともにレベルアップに力を入れているかがこの大会でも見ることができる。そして同時に、それぞれの気質によって色々なスタイルのチームや選手をみることができる。その意味でも、アジアカップでテレビ朝日やNHK BSが放映してくれるのはとても嬉しいことですヨ。

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いいパスも展開もすべてゴールを奪うため(下) ~AFCアジアカップ カタール2011 vsヨルダン~

2011/01/12(水)

◆多数防御のヨルダンに手を焼き苦戦したが、0-1から1-1にしたのでまずまず

――前半の終了直前にゴールされたのですが、日本側にもいくつかチャンスはありましたね。

賀川:前半15分頃に、長谷部誠からのクロスが本田圭佑に渡ったが、相手2人に体を寄せられモノにできなかった。

――南アフリカの対カメルーン戦の再現!! と思ったのですが…

賀川:ゴール正面だったし、相手の守りの厚いところだからね。あとから考えれば、長谷部は外にいた香川へクロスを送るべきだったかな……。しかしこの辺り、ヨルダンはしっかり守っていた。
 25分には左CK(遠藤)の相手クリアから長谷部のボレーシュートがあり、GKアメル・シャフィが防いだリバウンドを吉田麻也が決めたがオフサイドだった。

――解説の山本昌邦さんが、「ヨルダンDFが前に出てオフサイドを取ったところが意識統一ができている」と言っていました。

賀川:そういうことをしっかり訓練したのだろうネ。

――27分には左サイドから長友佑都、遠藤保仁とつなぎ長谷部からのパスが右へ出て、内田篤人が胸でトラップしてゴールラインぎりぎりから中へ送ったパスを、FBとGKとに防がれたのがありました。

賀川:大きな揺さぶりのあと、右サイドのゴールラインまで食い込んで、しかもエリア内までという攻め方にはいい形だが、多数防御の相手だから……

――内田のパスをDFが辛うじて左足で止め、それをGKが取った。

賀川:こういうときのパスのスピードだネ。例えば相手に当たることも頭に入れて強いシュート性にするとか、膝の高さに浮かせるとか。

――1936年の話もありますね。

賀川:ベルリン・オリンピックの頃のCF川本泰三さんが、同じ早大の加茂正五さんに要求したのは、ペナルティエリアの根っ子のところから後ろ目のクロスを出せ、それも相手DFのスライディングなどに引っかからない脛(膝)の高さに浮かして――ということだった。まあ、一番のチャンスメークのポイントへ入ってくるようになったワケだが、そこからの出し方もこれからの工夫であり楽しみでもあるわけですヨ。
 その3~4分後に、左から香川がクロスを出している。強いライナーだった。仲間に通らなかったが、彼はおそらくエリア内にたくさん守っている相手を見て強い球を選んだハズですよ。



◆不満はあっても、日本代表のサッカーは面白い

――40分に香川が中央で裏へ出て打ったシュート(GKが防いだ)も惜しかったです。

賀川:ああいう狭いスペースでの彼のプレーの上手さが出たけれど、ここで決めておくべきだっただろう。ゴールに近いところからのシュートは叩きつけるのもいいが、高さがあってもいいし、ファーでなくニアを狙ってもいい。香川にはちょっと口惜しい場面だった。

――その香川が後半、中へ入ってトップ下に、本田が右に移ってからチャンスも多くなりました。

賀川:本田が内へ持ったときには左足のキックという強い武器があるし、彼が左へ流れれば相手にはとても脅威になる。
 香川は、右前へ出るときのスピードとボールタッチの上手さはすでにブンデスリーガで証明されている。それだけでなく、左へ持っても左足のシュートまで行けるようにもなっている。そういう自信は相手にも反映し、相手の対する威嚇にもなる。そういう心理的なものも試合の中では作用してくる。

――攻撃の柱の組み合わせですね。

賀川:監督さんも色々考えて組み合わせるだろう。いま伸び盛りの二人が代表チームの攻撃を担うのだが、その特徴を仲間がしっかり掴むこと、そしてまた岡崎慎司前田遼一、李忠成たちが自分がどこでどういう特色を出すかを工夫していくことでしょう。
 もちろん、この2人にとっても守備は大事ですヨ。守備をすることは次の攻撃の第一歩だからネ。

――DFの吉田は2つの得点に絡みましたが、良かったですね。

賀川:長身でボールを扱う形がいい。やはり新しい日本のサッカー選手だネ。高校選手権を見ても、彼のような選手がいれば滝二のFWのように頑丈でシュートのできる若者もいる。日本のサッカーはいま多彩なプレーヤーが育ち、充実期にある感じがする。だからこそ、アジアカップで、そのいいところを出してほしい。

――今回は、点を取ろうという全員の意欲が最後に吉田のヘディングになって表れ、どうにか引き分け勝点1を取れました。

賀川:引き分けと負けではずいぶん違うからね。その点は選手も監督もしんどい試合をともかく引き分けたのは良かったと思いますよ。
 こちらも疲れ、相手も疲れていたときの左CK、キッカーの香川へ長谷部が駆け上がってニアでもらい、ファーポストへ高いボールを送って吉田が素晴らしいジャンプヘッドでゴールを決めた。その前の右CKのときにキッカー遠藤の方へ香川が寄ってショートコーナーにしようとしたが、途中で止めた。

――この試合では、そういえばショートコーナーは初めてでしたね。

賀川:多数防御の相手に対して、CK一つをとっても手を変え品を変えという工夫や着意が必要なのだが、今回は久しぶりにそういう試合になって、皆の気の配り方が足らなかったのかもしれない。

――いい反省点になったでしょう。

賀川:多数守備を破ることについては、私には前から言っているやり方もあるが、それはまたの機会に。第2戦を楽しみにしておきましょう。

【了】

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いいパスも展開もすべてゴールを奪うため(上) ~AFCアジアカップ カタール2011 vsヨルダン~

2011/01/11(火)


◆あのスペインでも南ア大会でスイスに敗れた例もある。だからいいとは言わないが…

――アジアカップの第1戦、対ヨルダンは1-1の引き分けでした。楽しみにしていたのに、ちょっと当て外れというところでしょうか。

賀川:そう感じる人も多いだろうね。ワールドカップ2010で16強へ進んで、そのあとのアルゼンチン戦をはじめとする国際親善試合でも南アフリカでの蓄積に香川真司の進歩が加わって、日本代表に一種の充実感のようなものがあったからね。

――ヨルダンは守りを厚くして、局面の競り合いでも非常に激しく、足や体にぶつかるのは当然という感じでやってきましたから、日本代表もやりにくかったでしょう。

賀川:だからこそ、サッカーは面白い。ワールドカップの1次リーグで日本と戦った相手・カメルーンオランダデンマークは国際的にも名の通った選手もいたし、全体的にレベルが高い。したがって、ボールポゼッションは相手が上で、こちらはまずそのボールを奪うこと、危険地域で潰すことに力を注ぎ、チャンスに攻めに出ることになる。
 それがアジアカップのような大会の1次リーグでの戦いはその逆の立場になるからね。

――そういうことは、分かっていても難しいものなんですかね。

賀川:南アフリカのワールドカップの1次リーグで、あのスペインが初戦でスイスに負けたでしょう(0-1)。もちろん、フェルナンド・トーレスの調子が悪かったこともあったが、彼らだってほぼベストに近いメンバーでスイスにしてやられたのだから……

――ふーむ。だからといって、日本がヨルダンと引き分けていいというわけじゃないでしょう。

賀川:もちろんそうだ。今度の代表のスターティングラインナップにヨーロッパ組が8人いた。フィールドプレーヤー10人のうち7人が欧州組ですヨ。

――レベルの高いところにいるのだから、ヨルダンぐらいなら……と考えたくなります。

賀川:ヨルダンの選手は意気込みがまず強かった。モチベーションの高め方が良かったのだろうね。日本はそれを始めに叩いておくことができなかった。

――というと

賀川:キックオフからすぐ、本田圭佑がドリブルで右コーナーまで持ってゆき、2人に絡まれ、また持ち直して内へ上がってきた内田篤人にパスをした。内田はペナルティエリアすぐそばから中へパスして、そのパスが仲間に渡らずに奪われてしまった。ボクはあのときテレビの前で失望した。内田がシュートをするかシュートの構えに入るかと期待したのだが。

――本田が個人的な強さを見せつけたのだから、そのあとのプレーも強気でゆけというわけですか。

賀川:もちろん試合中は選手はそういう風に理論的に考えるわけではないが、あの勢いに乗った本田の動きのあと、内田にも勢いに乗りシュートしてほしかった。走り込んだときに彼にはシュートのつもりがあったのかどうか。

――日本選手ならあの位置で仲間を探しますよ。

賀川:「兵は勢いなり」と昔からいうが、ボクはあそこでシュートの気を起してほしい。もし前が詰まっていてパスを選択するとしても、シュートの気配を見せることでコースも開け、タイミングも違ってくる。

――なるほど

賀川:得点になってもならなくても、本田の突破とそれに続く内田のシュートでヨルダン側から見れば「お主(ぬし)やるナ」という感じになるハズ。


◆気候風土がすっかり変わる西アジアでの試合の経験はザッケローニ監督にとってもいい経験になる

――前田遼一がワントップでしたね。

賀川:10分までに相手ゴール前でヘディングシュートをしたのと、本田からのパスを受けて左足でシュートした。ヘディングは弱くてDFに胸でカットされ最後はGKにキャッチされ、左足シュートは右ポストの外へ出た。彼らしいプレーだと思ったヨ。

――Jでの2年連続得点王ですからね。

賀川:このプレーヤーはストライカーとして上背も(日本人の中では)あるし、色々な技術もあって相手を背にしたプレーもできる。ただし今のJリーグでは、CDFはほとんどが日本選手で外国人プレーヤー独特の大きさとか重さとか、あるいは速さ、イヤらしさといったものに出会うことが少ない。彼にとっては、こういうチームは格下だが、結構激しくて強い西アジアの選手を相手に良い経験を積んでゆくだろう。

――後半には李忠成が交代で入りました。

賀川:ザッケローニ監督は色々試したいのだろう。何といっても、攻撃での大事なところだからね。

――しかし、テレビを見ていて、ヨルダンもなかなかやるなと思いました。

賀川:日本の方が技術は上だという声もあるけれど、それはチームプレーを構成するという点では日本の方が統制されているが、今ここでシュート、とか、ここで相手をかわすといった局面での個人プレー、つまり試合の流れで役に立つプレーについてはヨルダンの方が日本より下手とはいえない。
 前半終了間際に奪われた得点はパスの成功からでなく、当たったリバウンドを奪われ、そこから間合いが遠かった遠藤がスライディングに行ったのをハサン・アブデルファタにかわされ、そのアブデルファタの左足シュートに足を出した吉田麻也に当たってコースが変わりゴールへ飛び込んだ。

――吉田選手は気の毒でした。

賀川:ヨルダンは偶発的にも見えるチャンスをモノにしたわけだが、それでも、その一つひとつのプレーはしっかりしたものですヨ。

【つづく】

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2011年 新春問答(下)

2011/01/08(土)

◆年男たちの充実と代表の底上げを
 いいときほど用心深く足元を見つめ、個人力を高めよう


――1987年生まれの卯年は、つまり今年の誕生日で満24歳、いま23歳ですね。

賀川:本田圭佑(CSKAモスクワ)が86年6月13日生まれ、興梠慎三(鹿島アントラーズ)や岡崎慎司(清水エスパルス)も86年だから、彼らと香川真司(89年/ボルシア・ドルトムント)内田篤人(88年/シャルケ04)森本貴幸(88年/カターニャ)たちの間ということになる。

――アジアカップ(1月7日-29日、カタール)の日本代表候補に選ばれた50人を見ると、87年生まれは槙野智章(サンフレッチェ広島→1.FCケルン)森重真人(FC東京)西大伍(アルビレックス新潟)たちDFと浦和のMF柏木陽介、それにガンバのFW平井将生がいます。柏木と平井は賀川さんと同じ12月生まれだから、ことし11月までは23歳ですが。

賀川:早くから芽を出す選手もいて、必ずしも年齢は基準にならないが、それでも長い目で選手を見ていると、当たり年の24歳はある意味で最盛期・充実期の大切な節目といえる。
 釜本邦茂がメキシコ・オリンピックの得点王となり銅メダル獲得の主役となったのが24歳だった。昨年の2010年に大活躍して大ヒーローになった本田圭佑もまさに24歳、長友もそうだった。大分からセレッソへ移ってチームの中心としてリーグ3位に働いた家長昭博(現・マジョルカ)も本田と同じ86年6月13日生まれで24歳だった。

――せっかくの当たり年の皆さんには充実した2011年であってほしい、と……

賀川:彼らのあとさき、ベテランも若い選手もザッケローニ監督はまず50人を選んで、その時々にコンディションのいい選手を組み合わせてゆくだろう。

――今度のアジアカップはそういう意味でもワクワクしますね。

賀川:昨年から日本サッカーは全体に上げ潮ムードになっている。そして、その中で選手たちは代表であってもクラブであっても、チームは心を一つにして“戦う”ことの大切さを知った。と同時にワールドカップで、個人力をもっと高めないといけないことを選手たちが知ったハズ。その個人力アップをどうするかについては、JFAの技術担当の人たちも充分考え工夫していると思う。
 いまドイツでも評判の香川真司に3年ほど前にインタビューしたとき、この若者のサッカーへのひたむきさに感心した。いまそのときのメモを読み返すと、この選手の成長は当然のような気がしてくる。

――香川くんの大ブレークで関西全体に勢いがついてきた感じです。

賀川:釜本が山城高から早大へ入って1年目から関東大学リーグの得点王となったとき、次の天皇杯のときにスタンドに「釜本頑張れ」のノボリを持って応援するグループが現れた。その頃のサッカーでは初めての現象だった。いい選手の活躍は出身地域全体を明るくしますヨ。

――大学選手権で関大が優勝し、女子も勝ちました(INAC/全日本女子サッカー選手権大会)。高校選手権でも滝川第二と京都の久御山が国立での決勝に勝ち上がっています。

賀川:滝川第二は黒田和生監督の最後の年に全日本ユース(高円宮杯)で優勝したが、高校選手権ではまだ優勝はない。面白いのは、前のチームと同じように今度のチームも遠くからシュートを打っている。この学校のクラブは蹴ることを重視するようになってから、大会でも一段上へ進めるようになったのだが、今度もそれが生きているようだ。もちろん、走力もあるし、競り合いの粘りもある。他の学校にはズバ抜けたプレーヤーも見受けられたが、滝二の勝ち上がりを見ていると、戦前の神戸を思い出して嬉しいね。
 サッカーは何が起こるか分からないのだが、高校選手権もアジアカップもとても楽しみですヨ。

【了】

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10月12日 日本代表 vs 韓国代表(下)

2010/10/15(金)

伸びる時期の日本代表に、相性のよさそうなザッケローニさん
日本サッカーをあげて“蹴る”工夫を

――2試合を見た総括的な印象は?

賀川:ザックさんという監督の全てが分かったわけではないが、この落ち着いた、真面目そうな人柄の監督さんは、南アフリカで単に1次リーグ突破というだけでなく日本代表チームとして基礎ができたところ、しかも伸びしろのある選手のいるところへ、うまくそれに適合した監督が来た――という感じがする。ザックさんにとっても代表選手にとっても、この2試合は決して悪い経験ではなかったハズだ。

――先のことは別としても、今のところはまずはよかった、と

賀川:といって、日本代表の得点力が低いことは変わりはない。多少、突っかける選手、仕掛けようというこれまでと違った攻めのタイプが出てきたのがいいという程度です。一番大切なのは、いつも言うとおり、選手が自ら工夫して上手になること。もちろん組織プレーもだが、自分の技を一段でも半段でも上げること。

――例えば?

賀川:長谷部の第1、2戦の働きぶりは南アフリカでの経験を足場としてさらに良くなっている。第1戦(対アルゼンチン)ではこぼれ球を見事にシュートして岡崎のリバウンドシュートのゴールを生み出した。右足のインステップキックで鋭く捉えたボールはちょっとアウトにかかってスライス気味に飛び、相手ゴールキーパー(GK)の判断ミスを誘い、GKは自分の前へセービングボールを落としてしまった。
 あの素晴らしいシュートに比べると、ソウルで彼が2度行なったシュートはクロスバーを2度とも越えてしまった。スペースが少なく助走が短かったこともあるかもしれないが、折角ポジションへ走り上がっていながらいいシュートができないのは、彼のためにも代表チームのためにももったいないことだ。彼が走り込んでのゴールを増やせば、ドイツのクラブでの評価もさらに上がる。これは基礎的なプレーだが、年齢が高くなってからでも工夫で身につくものだ。
 元セレッソ大阪のモリシこと森島寛晃も、長谷部と同じように後方からゴール前へ長い距離を走り上がる選手だったが、チャンスの場面にいながらシュートが決まらなかったことがある。それが2000年のシーズンに自らの工夫でシュートの成功率が上がり、セレッソはJリーグ・1stステージの優勝争いをしたことがある。モリシが28歳のときですヨ。

――長谷部は練習熱心のようですから。

賀川:彼はチームのために労をいとわぬ選手。その献身的なプレーに感嘆の他はないが、折角のシュートチャンスを得たときに決めることができた方がいいに決まっている。そういう点を、JFAの強化本部の優秀なコーチ達が一緒になって考えることもあっていいと思っていますヨ。

――ザック監督も、このチームはまだまだ伸びる、自分の素質に気付かない選手がいると言っています。

賀川:ステップアップする楽しみを、ベテランも若手も感じてほしいものだネ。


【了】

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10月12日 日本代表 vs 韓国代表(上)

2010/10/14(木)

韓国に勝てなかったが負けない気迫に敬意
ただし、ゴール奪取は双方とも未開発。負けん気は技術進化にも



――ソウルでの韓国との試合、0-0でしたが迫力満点でしたね。

賀川:両チームの伝統的なカラーが対称的で、技術のレベルも相当なものだった。なにより戦う姿勢が素晴らしく、テレビ観戦の日本のファンにも、相手側の強い強い気持ちに対して日本選手の負けず嫌い、勝ちたいという気持ちがテレビ画面にもあらわれていたから、見ていて非常に面白い試合だった。これで得点があれば、もっと良かったのだが…

――アルベルト・ザッケローニ新監督は、まず合格点ですね。

賀川:初めての強化試合シリーズ、8日のキリンチャレンジカップ 対アルゼンチンが1-0、12日のこの試合が0-0。ホームで勝ち、アウェーで引き分け。2試合とも無失点だからネ。

――対韓国でも得点できればさらに株が上がったでしょう。

賀川:得点するかどうかはその場にいる選手のプレーによるところが大きい。もちろん、そこに誰を配するかは監督の仕事といえなくもないし、またそういう能力を持つタレントを発掘し、あるいはトレーニングで磨くのも監督コーチの責任でもあるのですヨ。しかし今回は、まずは日本チームに良い結果をもたらしたことで、いい監督といわれて当然でしょう。

――2010年の2月と5月に岡田監督の下で日本代表は韓国に1-3、0-2で敗れています。どちらもホームでした。

賀川:このときは全体の調子が落ちていた。5月の韓国戦のあと、岡田監督はチームの変革に取り組み、それが成功してワールドカップの1次リーグ突破につながった。韓国との戦いは、こちらのチーム状況を映す鏡ともいえる。

――今度もそうでしたか?

賀川:たとえば香川真司。対アルゼンチンでは彼のドリブルも効いたように見えた。実際には2人目で潰されることが多かったから、私は必ずしも彼が良かったとは言わないが、自らドリブルで開拓しようという姿勢は、“天下”のアルゼンチン相手だから成否にかかわらず日本の進化の一つとみて良い。しかし、それが韓国が相手となるとそうはゆかなくなった。

――韓国側の気合の問題ですかねぇ。

賀川:一つひとつの局面での奪い合いなどで、韓国は対日本となれば、いつも以上に力を出すことが多いハズ。

――そういう韓国側の一人ひとりの粘り強さに、チーム全体が押される感じになるのですね。

賀川:まだ試合の状況を見ていないけれど、最近の大会で男子のU-19が韓国との試合で2-0とリードしながら最後は2-3で敗れた。女子もU-17ワールドカップの決勝で同点からPK負けした、というのも偶然の一致ではないでしょう。

――今回のフル代表はベストメンバーとはいえませんでしたが、負けないという気迫が見えていました?

賀川:そう言えるのじゃないかな。イレブンの一人ひとりが強い気持ちを持ち続けた。もちろん守りのときのポジショニングなども良かった。身長差が一つの懸念でもあったが、ゴール前でそのヘディングからヒヤリとした回数は少なかった。

――アルゼンチン戦でも本田圭佑の守りでの働きが目立っていました。それから長谷部誠の攻守の運動量もそうでした。

賀川:本田は今回も、攻めも守りにも、いつも“勝ちたい”という気迫にあふれていた。気迫を表面に出すことでチーム全体を引っ張ろうとしている感じもある。遠藤保仁という渋味のある選手と、無口だが自ら走りまわって範を示すキャプテン長谷部と、若いが目立つ本田といったチームの中でのリーダーの組み合わせがうまくいっている。
 駒野友一がせっかくの試合の早いうちに相手のファウルでケガをしたのは気の毒だし、もったいないけれど、内田篤人が交代で入って、第1戦とあわせて昨今の不調を脱したように見えたのは収穫。左のDFの長友佑都は守備でいよいよ自信を深めてきたようで頼もしい。ただし、攻撃に関してはまだまだ上達してもらわなくてはなるまい。

――懸念していたCDFは?

賀川:ザック監督は、長身の栗原勇蔵と、上背は低くても守りの感覚の鋭い今野泰幸の2人でこのシリーズ2試合を守り切った。今後をどうするかだね。もちろん、南アフリカ大会の2人は故障があってもまだ現役には違いないが、長身DF陣をどう作るか。

――2試合を終えて、これからザック監督がどういうメンバーを組み、どのような試合展開を考えるかが楽しみですね。

賀川:香川に本田、それに松井大輔も元気だったし、岡崎慎司もアルゼンチン戦の1ゴールで少し自信を取り戻したハズだ。前田遼一を第1戦の途中交代でピッチに立たせ、第2戦ではフルに働かせた。シュートはなかったが、前田が自分でどう切り開くかという楽しみもある。

【つづく】

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【Result】10月12日 日本代表 vs 韓国代表

2010/10/12(火)

国際親善試合
10月12日20時00分キックオフ(韓国・ソウルワールドカップスタジアム)
日本代表 0(0-0、0-0)0 韓国代表

【日本代表メンバー】
GK: 21西川周作
DF: 3駒野友一→6内田篤人(15分)5長友佑都、20栗原勇蔵
MF: 7遠藤保仁→14中村憲剛(85分)15今野泰幸、17長谷部誠(cap)
FW: 8松井大輔→16金崎夢生(79分)11香川真司→13細貝萌(72分)12前田遼一、18本田圭佑
SUB:23権田修一、28曽ヶ端準、24槙野智章、25伊野波雅彦、2阿部勇樹、19森本貴幸、27関口 訓充

【韓国代表メンバー】
GK: 1チョン・ソンリョン
DF: 4チョ・ヨンヒョン、14イ・ジョンス、15ホン・ジョンホ
MF: 2チェ・ヒョジン→22チャ・ドゥリ(82分)8ユン・ピッカラム、12イ・ヨンピョ(Cap)17イ・チョンヨン、20チェ・ソングッ→19ヨム・ギフン(66分)→9ユ・ビョンス(82分)23シン・ヒョンミン→16キ・ソンヨン(46分)
FW: 10パク・チュヨン
SUB:21キム・ヨングァン、3ファン・ジェウォン、5クァク・テフィ、6キム・ヨングォン、13ク・ジャチョル、18チョ・ヨンチョル、11イ・スンリョル、24キム・シヌク

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ヨハン・クライフの“弟子”と“後輩”の戦いにクライフの心情を思う(上)

2010/07/14(水)

――一番間近な決勝、オランダスペインはどうでしたか

賀川:スペイン・サッカーでバルセロナFCが現在のようなスタイルに変わり、そして、それが今のスペイン代表の流儀のようになったのはヨハン・クライフがバルサの監督となってからでしょう。

――1992年のトヨタカップでバルセロナが欧州チャンピオンとして南米のサンパウロと戦いましたが、そのときの監督がクライフでしたね。

賀川:そう。試合は2-1でテレ・サンターナ監督のサンパウロが勝ったが、そのとき初めてバルサを見て、これはオランダサッカーだと、クライフの指導力に改めて感服したものだ。

――それまでトヨタカップにスペイン勢は来ていなかった。

賀川:ヨハン・クライフとオランダ代表が74年ワールドカップ(W杯)で世界に衝撃を与えた試合ぶり、中盤でのプレッシング(囲い込み)と第2列、3列の選手もチャンスにはどんどん飛び出して前へ上がってゆく、いわゆるトータル・フットボールは世界に広まっていったが、イタリアでは1980年代の末からACミランがアリゴ・サッキ監督によってオランダ流つまり現代流への変化が始まり、スペインではクライフのバルサでの変革によってリーグ全体にも浸透したといえるだろう。

――そのクライフの弟子によって変化し進歩したバルサ・モデルのスペインと、クライフの後輩というべきオランダ代表がはるばる欧州を離れた南アフリカで戦うというのも不思議な話ですね。

賀川:あまり古い話を持ち出すとみなさんは退屈されるだろうが、サッカーも、今の形のプレーが行なわれるようになったのにはきっかけがあり流れがある。そうした歴史に目を向けることもまたスポーツの楽しみですから。

――クライフはどんな気持ちで見ていたのでしょう。

賀川:「オランダは醜く低俗だった」と言っているらしい。

――バルセロナでは、今では「クライフがこう言った」というのがまるで昔の「孔孟の教え」のような感じもありますからね。

賀川:ボクは試合の中継テレビを見ながら、スペインのサッカーが長い間のオランダ、ドイツという先進的サッカーからの遅れをクライフによって新しくし、その基盤の上にさらに進化させたのに、オランダはクライフ時代に世界の先端をゆきながら32年ぶりでW杯決勝に進んだ今もクライフの時代をこえていないのではないか――という気がした。
 もちろん、基礎技術などはずいぶん上がっていて、それぞれの選手たちは素晴らしいが、代表チームともなるとちょっともったいない気がする。


【つづく】

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ワールドカップ・南アフリカを終え

2010/07/13(火)

――日本が勝った、次はオランダデンマークだといっているうちにグループリーグが終わり、ノックアウトシステムの1回戦はPK戦で負けてテレビの前で涙しました。南米勢が強いのかと思ったらブラジルがオランダに敗れ、アルゼンチンもドイツに完敗。最後にスペインとオランダの決勝となり、スペインの優勝で閉幕しました。
 南アフリカ大会は大きな事件もなく大成功――。日本でもたくさんの人がテレビ観戦を楽しんだから、まずは良かったということでしょうか。

賀川:私自身はナマで見るためには体調が整わず、今回は何十年ぶりかで日本で見るワールドカップ(W杯)となったが、テレビや新聞をはじめメディアの克明な報道のおかげでずいぶん楽しんだヨ。民放各局とNHKの番組表を、その日の早朝の新聞のテレビ欄で見て録画をするのが大事な日課になっていた。なんだか現地で取材したこれまでの大会より今回の方が一日一日が忙しかったような気がする。

――深夜~早朝までありましたからね。

賀川:大会の前に産経新聞に、「今度の大会に治安が悪いとか運営がどうとか懸念する声もあるが、いつの大会にも懸念材料があり、その都度それを克服してサッカーは大会とともに発展してきた」と書いたが、まずはその通りに――。
 一部のメディアがブラッターFIFA会長についていろいろ批判し、それに追随する日本のジャーナリストもいないわけではなかったが、批判は批判としても、今回の南アフリカ大会はネルソン・マンデラさんに共鳴したブラッター会長をはじめとするFIFAの実力のあらわれと言えるだろう。閉会のときに会長は、FIFAではなく南アフリカに讃辞が贈られるべきだと、南アフリカと全アフリカの人たちの力を強調していた。

――そういう意味でも、賀川さんには現地で見てほしかったですね。

賀川:とても残念だが、現地に行っておれば、私にとっては交通や治安より問題は寒さだったかもしれない。しかし、まだ元気なうちに1ヶ月間の大会を国内で経験し、日本でのW杯報道を報道する側でなく注視する側にいたこともまた、おおげさにいえば85年の生涯でのありがたい経験ですヨ。
 まして今回は、私たちシックスのメンバーがJFA MOBILEのお手伝いをすることになって、日本の試合についてはその仕事の関係もあり仲間とともに深夜の我が家で一緒に対カメルーン、オランダ、デンマーク、パラグアイとテレビ観戦したのだから、とても面白かった。

――日本代表の岡田監督と23人の選手たちについては?

賀川:誰もがそれぞれの立場で努力し、その成果が出たのだからネ。欲をいえばもう一つ勝ってほしかったが、それまでの基礎技術やその基礎の力の習得にかけた努力の総体からゆけば、まあ16強1回戦敗退がいいところだったね。せっかくのチャンス、伸びるときだったから本当はもう一試合やらせたかった。

――その点では、パラグアイ戦は悔いが残ると

賀川:そのことについてはまた別の機会に話したいのだが……。まあ、これも日本サッカーの実力の一つでしょう。

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1次リーグ初戦、対カメルーン(下)

2010/06/18(金)

2010FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会
6月14日23時キックオフ(日本時間)
日本代表 1(1-0、0-0)0 カメルーン代表
 得点 日本:本田圭佑(39)



――その間に、はじめ中央少し右寄りにいた本田圭佑が中央へ、そして松井大輔の切り返しからキックの間にファーポスト側へ移動しました。

賀川:はじめ外にいた大久保嘉人は、松井のキックのときには内にいた。その大久保よりボールに近いところにDFが2人いて、大久保にヘディングされないようジャンプヘディングを試みた。大久保もジャンプした。しかしボールは3人を越え、その外側にいた本田の足元へ落ちた。

――まさにクロスパスという感じでした。会場が高度1,400mにあったからボールが伸びたという解説もありましたが、実際はどうだったでしょう。松井はそれも計算したのかどうか……

賀川:それはとにかく、本田は左足でボールを止め、落ち着いて左足でシュートを決めた。

――テレビのリピートを見ると、立ち足(右足)にボールが当たりましたが、本田は慌てることなく落ち着いていました。

賀川:ボクが名古屋グランパスで最初に見たときの印象は、彼は突っ立ったまま左足で強いボールを蹴れる、またボールの下を叩いて浮かすボールも蹴れるということだった。当時、グランパスにいた長身の外国人選手に長いクロスを蹴って合わせていた。走り込んで蹴るというより、立ったまま蹴れることに強い印象を受けたのだから、本田選手にとってはこういう場面は、いわば十八番(おはこ)でしょう。だから、相手GKの姿勢を見て、左サイドキックで小さく浮かせてポストとGKの間――本田側からいえば左を、GKの右手側を抜いている。

――試合前に監督から何か指示されたか、という(試合後の)質問に、「点を取れ」だけだったと本人は言っています。

賀川:彼の体がしっかりしていて、こういうときにもバランスを保てること、キック(シュート)の強さ正確さを知っている監督の起用だからネ。

――中央から右への展開、右の松井のひと呼吸ののちのクロス、そのボールの飛ぶコース、落下点、シューターの位置とシュートそのもの、何度見てもいいゴールでしたね。

賀川:ビッグゲームでのゴールというのは、どんな泥臭い得点でもやはり美しいけれど、このゴールは組み立てからフィニッシュまで、ちょっとした交響曲のように選手の個性や技術が組み合わされて生まれた――という感じですネ。

――この1点がなければ勝てなかったのですが、これを守る戦いもまた大変でした。

賀川:誰もがひるむことなく、あるいはどこかで気を緩めるということもなくしっかり戦った。もちろんミスもあったけれど、それを互いにカバーした。

――カメルーンはエトオが十分に働けませんでした。

賀川:カメルーンの選手はフランスリーグにたくさんいる。フランスにいる友人によると、フランスの新聞もテレビも「カメルーンが良くなかった」と言っているようです。もちろん、アレクサンドル・ソングという中盤の要(かなめ)になる選手が欠場して彼らのベストメンバーではなかったが、フランステレビの解説者の言う「退屈」な試合になったのはカメルーン側にスペクタクルなプレーをさせなかった日本側の追い方、詰め方、囲み方などが良かったからだろう。それでも、何回かはヒヤリとした。

――GKの川島永嗣もいいセーブをしました。

賀川:調子のいいプレーヤーを試合に出すのは当然ではあっても、安定感のある楢崎正剛でなく川島を起用したのも監督の決断というか思い切りだネ。

――テレビのスポーツ番組だけでなく、ニュース・ショウをはじめ色々なところでこのゴールシーンを画面に出し、勝因を語っているのを見ると、とても嬉しいと同時に、勝てばこんなにも扱いが違うのかと思います。

賀川:それは当然ですヨ。どこかのニュース・ショウの司会者が「手のひらを返すようですネ」と言っていたくらいだから。
 40年前に1970年のワールドカップ・メキシコ大会に取材にゆけなかったとき、日本で外電を読むのとテレビニュースを見るだけだった。この大会の予選に日本代表も出場したが、釜本邦茂が肝炎で試合に出られなくなり、68年のメキシコ・オリンピック代表チームも結局、彼なしではW杯アジア予選では敗れてしまった。もし出場して1勝していても、新聞に載る程度でテレビ報道もほとんどなかったでしょう。
 テレビ東京のプロデューサーだった寺尾皖次さんの話だと、70年大会はカラーのVTRを940万円で購入して、大会後に1年かけて録画放送したそうですよ。

――いまはスカパーが全試合を、NHKが地上波で22試合(生中継)BSで44試合(録画含む)、民放でも22試合の生中継があります。そして先ほどの話にある、ニュース・ショウやら大会の企画番組などがあって、まさにテレビ花盛りのW杯です。

賀川:それだけに、1次リーグの日本の1勝の値打も上がるわけだ。監督、コーチ、選手にもとりあえずご苦労さんと言いたいが、彼らにとっての実際の試合はこれからだからネ。

――オランダのスナイダー選手が、「日本は手強い相手にになるだろう」と語っているそうですから。強い相手と戦い、自分たちの力をフルに発揮してもらいたいものですね。


【了】

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1次リーグ初戦、対カメルーン(上)

2010/06/17(木)

2010FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会
6月14日23時キックオフ(日本時間)
日本代表 1(1
-0、0-0)0 カメルーン代表
 得点 日本:本田圭佑(39)



――対カメルーンから3日経ちました。日本代表の勝利で日本中がずいぶん明るくなった感じですね。日本で見るワールドカップ(W杯)も、まんざらではないでしょう。

賀川:4回連続出場、3回目の2006年ドイツ大会は期待が大きかっただけに1次リーグ3敗はショックだった。イビチャ・オシム監督のもとでの新しい日本代表のスタートは彼の病でストップし、監督を引き受けた岡田武史監督のもとでアジア予選を突破した。それは素晴らしいことだが、予選突破の後のキリンチャレンジカップなどの強化試合で日本代表の調子が悪く、大会直前まで不安視されていた。

――それが、第1戦で強敵カメルーンを破った。これまでの大黒柱・中村俊輔を不調のためにメンバーから外すという思い切ったチーム編成でした。

賀川:多くのファンを心配させただけに、1-0の勝利の喜びも大きいネ。

――そういえば、大会前に岡田監督とお話したとか?

賀川:彼が日本を出る前に、電話で話したヨ。メンバー編成で色々考えていたようだ。ボクは、ともかくオシムの後を引き受けてアジア予選を突破したことでまずひと仕事をした、そのおかげで6月のW杯を日本のファンも楽しめるわけだから、自信を持って、自分で考えたことを実行すればいいんだ――と言っておいた。

――他にも色々、具体的な話もあったのでしょうけれど、まあ、ここでは聞かないことにします。また何年か経ったら……

賀川:対カメルーンは、故障で調子の上がらない中村俊輔を休ませ、対イングランドでテストした布陣を基礎にメンバーを組んだ。カメルーンにはこのメンバーで、このやり方でゆくのだという監督の意図と選手の気持ちが一つになって、ほぼチーム全員が描いていた結果になったのだと思う。

――本田圭佑の起用も当たりました。

賀川:本田は前残りのセンターフォワード(CF)的な役割に最適というわけじゃないが、少なくても、今の日本代表の攻撃メンバーの中で体が一番しっかりしていて、後方からのボールをカメルーン選手と競り合っても、そう簡単に負けない強さがあるし、ボールを受けてもすぐ潰されない技術と体がある。頑張り屋の大久保嘉人の速さと長いランへの意欲が加われば、相手には威力となるだろう。
 右に起用された松井大輔はドリブルができるから、DFからのパスを受けてもすぐは取られない。だから、そこからたとえ有効な攻めにゆけないときでも、彼のボールキープによってDF陣は攻めを跳ね返した後、ちょっと一息つき、マークの再確認する余裕ができる。

――当然、カメルーン相手に守勢が続いたときでも、そういう選手がいるということは守りにも大きく貢献します。

賀川:これまで高い位置からのプレッシングを強調し、そこで奪うと効果的な攻撃へ移ることができる――といってきた。そういう積極的な考えもいいが、押し込まれるときに何かちょっとした救いになるか――ということも大切なんですヨ。

――サッカーは走り回ることも大切だが、ボールキープも重要で、それは1930年代から誰もが知っていること――と、以前言っていましたよね。

賀川:1956年のメルボルン五輪予選の対韓国1回戦(日本2-0)のとき、圧倒的な韓国の攻め込みに耐えたのは、鴇田正憲がボールを受けるとタッチラインを背にして独特のフェイクでボールをキープした。その間にGK古川好男やDF小沢通宏は、マークを再確認し次の攻撃に備えたと言っている。

――最近の日本では、そういうサイドでのキープが攻撃だけでなく守りにも有効という考えはないようですね。

賀川:解説者やコーチはたいてい、このことは知っていますヨ。それをできるプレーヤーがいなかったのだと思う。

――今回は松井がいた。松井は守備面の効果だけでなく、得点となるクロスを送っていわゆるアシストをしました。

賀川:それが本来の彼の仕事ですヨ。あの先制点であり決勝点であった本田圭佑のシュートは、後方からのロングボールをまず本田が競って自分のものにし、後方中央の遠藤保仁に渡したところから始まっている。

――遠藤や長谷部誠がわりあい高い位置にいましたね。

賀川:これは阿部勇樹を2人のセントラルディフェンダー(CDF)田中マルクス闘莉王中澤佑二の前へ置く形にしたことで、それまでの4FBのときのボランチ(守備的MF)と違ってきたからね。とくにこの時間帯は、こちらも攻め、相手も攻めるという行ったり来たりの状態になって、やや中盤でのスペースが広がっていた。

――ボールを本田から受けた遠藤が小さなフェイクを入れておいて、右サイドの松井へ送りました。

賀川:速いグラウンダーで、松井には受けやすいボールだった。相手のアスエコットとは少し間合いがあった。松井が一つ持って右足でクロスを蹴るというジェスチャーをすると、相手はこれに引っかかって背を向けた。松井は右足で左へ切り返し、また一つ持って左足でクロスをゴール前へ送った。

――賀川さんがいつも言う、どの位置から蹴るかで効果が違うということですね。

賀川:NHKの解説で、山本昌邦・元日本代表コーチもよく言ってますヨ。たとえばバルサの攻撃でペナルティエリアぎりぎりからクロスがくると、近くからのクロスだから、タッチラインからのクロスと違ってボールがすぐにやってくる(時間が短い)。だから相手のDFの対抗が難しいとね。
 もう一つ、今回は松井のキック力でゆくと左のクロスだったらタッチラインからではファーポスト近くの目標へ正確に届けるのは難しいハズ。それで大きなフェイクで相手DFをかわして少し中へ持って蹴ったのだろう。


【つづく】

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コートジボワール戦を終えて(続)

2010/06/10(木)

◆ゴールを背にした選手が簡単にバックパスを選ぶ。なんともったいないことだろう


賀川:前回は本番への気持ちの問題について申し上げたが、もう少し、サッカーの細かい技術についても。この話があるいは参考になるかもしれない。

――コートジボワール戦のどこかの場面についてですか?

賀川:0-1となってから23分頃だったか、右サイドで阿部と本田でボールを奪い、本田が突っかけた。そこからしばらく攻勢が続いた。ペナルティエリア左外で、遠藤がボールを受けて中央左寄りの大久保に渡し、大久保はシュートできるとみて中央の阿部に渡した。

――阿部も相手に詰められました。

賀川:それでもシュートして、正面のDFに当たった。そのリバウンドがエリア内で左へ転がった。そこに日本選手がいた。相手側の5人、ペナルティエリア中央から右(日本側から見て)の方へ偏っていて、ボールが転がったところには日本側一人だけ。走り込んでいた長友だった。彼はゴールを背にした姿勢で、このボールを後方の大久保にバックパス。大久保はキープして左サイドに開いていた長谷部へ送り、長谷部がクロスを中へ入れたが、仲間に合わなかった。

――それで、

賀川:僕が不思議だったのは、ゴールを背にしてボールにタッチした長友が、ためらうことなくバックパスしたことだ。大久保もフリーでゴールの方に体が向いていたから正解のようだが、僕はバックパスでなく、何故このボールを受けて反転してシュートへ持ってゆかなかったのだと思った。
 自分がチームの一番先端にいる。周囲に敵もない(いても、少し距離がある)となれば、ターンしてゴールの方を向けばノーマークシュートになったハズ。もしターンが遅くて相手が潰しに来たとしても、相手側をギクリとさせることになったハズだ。とてももったいない瞬間に見えた。
 もちろん、テレビの画面で見る互いの距離感覚は実際のピッチ上とは違う場合もあるから、私の見方が合っているかは現地にいた人たちに聞いてみなくては分からないが、少なくとも私のように古い世代のサッカーをやった者は、せっかくペナルティエリアの中にいて、偶発的にボールが自分の足元に転がってくれば、体がどちらを向いていようとまずシュートする方に気がゆくのだが……。
 サッカーは複雑な競技でもあるが、きわめてシンプルなスポーツでゴール近くでボールをもらえばまずシュートだろうと思っている。

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コートジボワール戦を終えて(下)

2010/06/09(水)

◆全力をつくせば、これまで蓄積してきたプレーのいいところが自然に出てくるもの


――それにしても、対セルビア0-4、対韓国0-2、対イングランド1-2、対コートジボワール0-2と、4試合で1得点ですからね。

賀川:今の日本代表は、全員がベストの体調でしっかりと気合が入る試合をしなければ、どこと戦っても簡単にゴールを奪うことはできない。点を取るというのは、どうして取るかという前に、誰が取るかというのがあるわけ。それを確立しなければね。

――岡崎慎司が一番多く取っています。

賀川:ほとんどが相手の裏へ走り込む、外からあるいは後方からのボールへのダイビングが一つの型ではあるが、一つの型だけだから相手には読まれてしまう。成功するためには、その前の仕掛けに意外性がなければならない。

――高い位置でのボール奪取というのもその一つなんですね。

賀川:まあそうでしょう。そういう条件がそろったときに、日本のゴールが生まれる。

――“誰が”といえるほどのストライカーがいれば、その選手の能力というかプレーの幅というか、そういうもののアローワンスで、完璧のパスワークでなくても点を取る可能性がある。

賀川:そう、そういう国際舞台で通用するストライカーが出てこない。あるいは育ててこなかった10数年の影響が出ているのだから、いまさらそれを悔やんでも仕方がない。

――ということは、この大会は絶望的?

賀川:いや、そうでもない。先に言ったように、全員のコンディションが整って、日本らしく、これまで追求してきたランプレーを気迫を込めて戦えば、このチームはいいチャンスも作れるし、ピンチにも頑張れる。サッカーというのはバルサのように一試合に何度も何度もエリア内に侵入してチャンスをつくるようなチームはそうたくさん世界にない。試合中に3~4回、何人かのプレーヤーの呼吸が合って、パスとドリブルなどの組み合わせが上手くゆくとチャンスになる。そしてそういうときに、シューターがいい位置に入れたり、いい形でボールを蹴ると、ゴールが生まれる。ときには相手側がミスすることもあって、そこがサッカーの面白いところですヨ。

――そんなものですか

賀川:そのためには、そのゴールに至る経路やゴール前へのシューターの入り方などを反復し、また夢にまで見るように体に染み込ませれば、先に言ったバルサやメッシほどでなくても一試合に1点や2点取ることができる。



◆せっかくのチャンスに悔いのない試合をすること。その気迫が勝ちを生む

――今も覚えているのは2002年のとき、次がいよいよトルコ戦という日に、デットマール・クラマーさんにどちらが勝つかと聞いたら「勝利への執念が強い方だ」と言われました。

賀川:今度も同じですヨ。1936年のベルリン・オリンピックで日本代表は優勝候補のスウェーデンに逆転勝ちした。このとき、本番前の練習試合で1勝もできなかった。それで、試合の日は皆、全力を出して勝とうと誓った。リードされて迎えたハーフタイムでも、イレブンは開き直って清々しい気分だったそうだ。今の日本代表にも、カメルーンといういい相手に対して生涯悔いのない試合をしてほしいと思っている。


【了】

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コートジボワール戦を終えて(上)

2010/06/08(火)

国際親善試合
6月4日12時25分キックオフ(現地時間)スイス・シオン
日本代表 0(0-1、0-1)2 コートジボワール代表
 得点 コートジボワール:オウンゴール(13)コロ・トゥーレ(80)



――コートジボワール戦、2失点はともにFKからでした。1点目はペナルティエリア外のFKをディディエ・ドログバが蹴り、壁に入った岡崎慎司に当たった。そのボールがエリアの中央近くにいた田中マルクス闘莉王の足に当たって方向が変わり、オウンゴールとなった。
 2点目は後半35分だったか、ペナルティエリア右角外10m辺り、右寄りのコートジボワールのFKをシアカ・ティエネが左足でゴールに向かう速いカーブボールを蹴って、ファーポストのゴールエリア内に落下し、コロ・トゥーレが決めた。

賀川:1点目はリバウンドを止めようとした闘莉王に当たったわけだから、彼がそこにいたポジションはほぼ当たっていた。ただし、ボールが予想より速かったのかもしれない。2点目は相手の蹴ったボールのコースの読み違いでしょう。GK川島永嗣の仕事になるだろうが、一般論でいえば、左サイドでプレーしている左利きのティエネが右サイド(相手側の)へ行って蹴るのだから、いわゆるフックボール(カーブ)で曲げてくることは予想しなければいけないハズです。
 カメルーンと戦うための準備試合なのに、コートジボワールの個々の選手についての情報の集め方ももう一息のように見えた。

――コートジボワールとは2年前、2008年のキリンカップで南米のパラグアイと日本代表とともに3チームのグループリーグに参加して、日本代表は1-0で勝っています

賀川:このあとのパラグアイ戦を0-0で引き分けて、キリンカップ優勝ということになった。イビチャ・オシムの病で岡田武史監督となってから8戦目だった。
 このとき、コートジボワールは主力の7人が来日しなかった。そのときと今度の対戦に出場していたのは5人だね。ドログバやカルー、ヤヤ・トゥーレといった有名選手はいなかったが強いチームだった。

――今度はそれが本番前で顔をそろえてきました。プレッシングもしっかりやってきた。

賀川:今回、日本側は高地対策をはじめフィジカルトレーニングをしっかり行なった後だから、全員の調子はまだ高まっていない。そのこともあって、前半の早いうちはボールを持たせてもらえなかった。
 コートジボワールがFKでゴールし、すぐその後にドログバが負傷退場して一息つく恰好になり、日本側がキープできるようになった。先制されたゴールのFKも、こちらの横パスが相手のプレッシングで奪われ、そのあと後手後手(ごてごて)に回って起きたファウルからだった。



◆本番に向けて選手それぞれの調子も把握できた


――中村俊輔が後半に出場しました。

賀川:実のところ、今の日本代表の一番の問題は彼の調子がどうか――ということだろう。足の故障が完全に回復しているのか、故障の足だけでなく彼の体全体に疲れがたまっているのではないか――と心配する向きは多い。岡田監督にとっても、俊輔中心でこれまでやってきたチームを彼ナシで本番を戦うのかどうかということになる。

――岡田監督は98年にも三浦知良、カズの難問がありました。

賀川:そういうこともあったネ。遠藤も決していい状態とはいえない。休めば回復するのかどうか――。

――大変ですよね。

賀川:しかし、大会直前であるとしても、本番前に主力選手の調子がいいにしろ悪いにしろ、監督コーチがそれをしっかり把握するのはとても大事なこと。その点では、今年に入ってキリンチャレンジカップなどで日本選手のコンディションを見ることができたのはチームのスタッフにはとてもいいことだ。選手の調子を掴めば、今度はチーム構成、選手の組み合わせを変え、守りや攻めの方策を立て直すことになる。充分ではないが、そのテストもコートジボワールを相手に試すこともできたでしょう。

――だから、負けても決して悪いばかりではないと……

賀川:監督にすれば、選手たち一人一人の状態を掴めたと思う。

――しかし、中村俊輔をもし不調で試合に出さない方がいいと判断するようなことになれば、すごいことですね。

賀川:あらゆる点を考慮して決定するだろう。もう1週間あれば完全回復ということもあるかもしれないしネ。そこは監督の決心でしょう。


【つづく】

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イングランド戦後半(下)

2010/06/04(金)

――ここまでの日本の仕上がりはどうでしょうか

賀川:逆説的な言い方ですが、何といってもキリンチャレンジカップのセルビア、韓国戦で選手も監督もとてもいい経験をした。サポーターたちからの不評を買って、自分たちが何をすべきか分かった。同時に、私たちの大きな財産である中村俊輔の調子がとても良くなかったこと、そしてまた、遠藤保仁のような特異なタイミングを持つプレーヤーも調子がガタ落ちになっていたことを、はっきりと見ることができたのも大きい。だから、このイングランド戦は選手の配置を変えた。

――イングランドを相手にしたとき、それが上手くいったわけですね。

賀川:そう。もう一度上手くゆくかどうかは分からないが、これで少し士気は上がるだろう。同時に自分たちはまだチームとしてワールドカップ本番を戦うのにまだ未完成だということも分かった。

――それは大変じゃないですか

賀川:いやいや大会に向かっては、チームの調子が上がって臨むより、上向きでまだもう少しというときに大会に入る方がいい。これは、日本より上のクラスでも同じことですヨ。

――俊輔、遠藤たちの体調が心配……

賀川:そのために優秀なフィジカルスタッフがいる。岡田監督も、彼らの調子を慎重に見ているでしょう。彼らだけでなく、23人の選手一人ひとりがどのような状態にあるか、体調の維持管理が大切になる。南アフリカは冬で涼しいハズだから、ヨーロッパのチームも彼らの好きな気候で動きの量も落ちないハズ。ドイツ大会のときのように、試合のときに調子が落ちていたのでは困りますからネ。

――攻撃についてはどうでしょう

賀川:イングランド戦でも、長友がせっかく走ってゴールライン近くでクロスを蹴りながらボカーンと出してしまったのがあった。もう少し食い込んでエリア近くからクロスを出せるかどうかもあるだろう。

――イングランド戦は未完成の魅力がありましたが、コートジボワール戦は

賀川:45分を3回、頭の2回――つまり90分を試合の記録として残すらしい。変則練習試合の形を、お互いのチームが望んだのだろうネ。それによって控えの選手にも出番があって、テストもできる。今のチームは、私に言わせれば、選手たちはこれまでよくやってきた。確かに皆マジメでしっかり練習してきたと思う。
 しかし、23人もいて、この中にスローインのときにロングスローを正確に強く投げる者がいるかといえばそうでもない――というふうにまだ不満もいっぱいあるチームだ。

――今野あたりが、ロングスローを隠し持っていないでしょうか…

賀川:何といっても日本のなかで優れた技術と体力と戦う気持ちを持ったプレーヤーの集団なのだから、いい相手に恵まれて、いい試合をすれば一気にそれぞれの力が上がり、個人もチームもステップアップできるのですヨ。私は、2002年の日韓大会で宮本ツネ(恒靖)が第2戦の対ロシアで一段レベルアップしたプレーをしたのを見てとても嬉しかったことがある。稲本潤一もそうだった。今度の大会では、故障だった俊輔も含めて皆がレベルアップを感じる大会にしてもらいたいと思っている。岡田監督と日本代表は45試合も戦ってきたのですよ(イングランド戦含む)。それだけの経験を積みつくりあげたチームなのだから、選手たちも、自分たちのこれまで蓄積してきたもの、潜在力に自信を持ってほしいと思います。


【了】

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イングランド戦後半(中)

2010/06/04(金)

――左サイドから攻められた2点目もオウンゴールでした。

賀川:速いクロスを蹴ったアシュリー・コールに対して、今野が間合いを詰められなかった。これはこちらのゴールキックが相手側の深くに飛び、相手のGKからプレーが再開されたのだが、ハーフラインから10m入ったところでまず本田がDFにアプローチしたが自由にパスを出され、ノーマークの相手が左のアシュリー・コールにパスを出す。広いスペースにいるA.コールは、接近しようとする今野に対して、まず、縦に動いて自らのスピードで脅しをかけ、いったん切り返すと見せてストップ、再び縦に持ち出して強く速いクロスを送った。今野の間合いでは足で止めることはできず、狙い通りのコースへボールが飛ぶ。ゴール正面にルーニーともう一人いた。中澤がインターセプトしようとしたが、中澤の前で落下し小さくバウンドしたボールが足に当たって方向が変わりゴールへ。

――惜しい失点、残念な場面でしたが……

賀川:引いて守れ、というと日本ではすぐ守りの姿勢になるのか――というふうに決めつける。全体の流れの中で、しばらくは手厚く、狭いスペースで守って力を温存した方がいいということも試合中にはある。相手が勢いづいているときに、それをひっくり返す動きができることもあるが、そのときにしばらく耐えることも必要なんですヨ。
 相手ボールでディフェンダーが安定してキープ(近ごろはボールポゼッションという)しているときに、ハーフラインから向こう10mあたりで取りに行くと、ペナルティエリア――いわゆる相手のシュートレンジ近く――まで縦50mほどのスペースが生まれる。そこをバンバン走られれば、守る側は消耗してしまう。奪いにゆくのをハーフライン手前からにすれば、そのスペースが小さくなる。

――日本も、アジアの試合で相手に引かれてゴールを奪うのに苦労しました。

賀川:先日の韓国戦でも、韓国はリードした後半には攻めて出てきたあとサーッと引き上げハーフラインから抵抗線(防御ライン)を引いていたでしょう。

――そういうのは守りの姿勢とかいう根本理念の問題ではなくて……

賀川:単なる試合中の戦術ですヨ。走り回ることは日本サッカーの特徴だが、ムダに消耗するのは損だ。

――そうすれば、攻めのときにも力を発揮できる。

賀川:攻めに関しては森本の出番を考えるべきだろうし、彼も、この大会でもう一段上のクラスに上がるためにはもう少し身につけなければいけないこともある。相手を背にしたときのプレーがある程度できるのだから、それをもっと高めること。シュートのコース(型)をもう一つ増やすことだろうね。それを大試合で掴めば将来のプラスになりますヨ。
 本田も、このところゴールしていないのは何故か自分で考えているでしょう。


【つづく】

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イングランド戦後半(上)

2010/06/03(木)

国際親善試合
5月30日14時15分キックオフ(現地時間)オーストリア・UPCアレナ
日本代表 1(1-0、0-2)2 イングランド代表
 得点 日本:田中マルクス闘莉王(7)
     イングランド:オウンゴール(72、83)



――少し間があきましたが、イングランド戦の続きを。

賀川:1-2で負けはしたが、ゴールをしたのが全て日本選手だったということで、イングランド代表についてのメディアの扱いが面白かったネ。

――現地からの報道にもありましたが、「闘莉王中澤がベストストライカーだ。しかし彼らは日本選手だった」なんていうのも、点を取れないイングランドの裏返しの皮肉ですね。それから、右サイドのセオ・ウォルコットが代表メンバーから外されました。長友佑都に封じられたのが響いたという噂ですよ。

賀川:試合の後半の頭から、イングランドは5人を交代させた。GKをデービッド・ジェイムズからジョー・ハートに、右DFのグレン・ジョンソンをジェイミー・キャラガー、MFのハドルストンをスティーブン・ジェラードに。この下がったのは3人とも失点のときに関係したプレーヤーだ。
 さらに、右サイドのMFウォルコットをショーン・ライトフィリップスに、FWのダレン・ベントに代わってジョー・コールが入った。

――ジェラードとフランク・ランパードの2人をMFで同時に起用するのがカペッロ監督のやり方。ケガで休ませていたジェラードが出てきたので、一気にベストメンバーとしてのイングランドの“格”が高くなりました。

賀川:「相手にとって不足はない」と日本選手は思ったろうね。

――後半はじめから、彼らもどんどん前掛かりになってきた。

賀川:こういうときは、押し込まれるけれどカウンターのチャンスは大きい。だから、逆に日本側にも勝機はあると考えるのが普通なのだが……。特にGK川島永嗣がこの日すごく好調だったからネ。

――それでは、やはり相手が強かった?

賀川:岡田監督はハーフタイムに、2点目を取りにゆこうと言ったという。

――だから前方の守備をしっかりし、高いところで奪おうとした。

賀川:押し込まれ、相手FKを本田が手を挙げて止めるハンドの反則をしてPKを取られた。そのランパードのPKを川島が防いだ。本来なら、このPKの成功で相手が勢いづくのだが、GKのファインセーブで日本はまだリードを保つことになった。

――この幸運を勝ちに結び付けたかったですね。

賀川:PKを川島が防いだのは読み勝ちだが、ランパードともあろう大選手としてはちょっとおかしなPKの蹴り方ですヨ。今は詳しくは言わないが、あのアプローチの角度で右サイドキックなら、相手のGKは読みますヨ。
 イングランドの選手はワールドカップや欧州選手権のPK戦で負けが多いのに、どうもPKのキックについてあまり真剣じゃない感じがしましたネ。天下のランパードのキックを見てネ……。

――ランパードの不運あるいは不勉強は、日本の幸運。それを生かすには……

賀川:このあたりになると、疲れもたまってくる。しかも相手は新手(あらて)が5人。雨が降っていてピッチは滑りやすい。徐々に動きの範囲を小さくして、さあというピンチ、さあというチャンスのときに余力を残そうという考えになって当たり前でしょう。

――それでも、日本はかなり前からプレスにいきました。

賀川:日本流の考えは、攻めるためには人数をかけることにある。多数で攻めに出て、途中でボールを奪われればまた長い距離を走って帰らなくてはならない。だからどこかで休み、どこかで走るというプレーをしなければならないのです。

――相手に走り勝つといっても、もっと要領よく、というわけですか。

賀川:一度左サイドで3人でパスを回し、遠藤がファーポストへクロスを送ったシーンがあった。これは岡崎とは合わなかったが、サイドを使ってラストパスまで行った。その次に、今度は早いうちに中央で縦に送ってカットされて一気にカウンターを食らい、右からのクロスを中澤が懸命にヘディングでクリアする場面が続いた。

――21分に左サイドでパスをつないだあと、本田がキープして右へ、ファーポスト側へパスを送り、森本貴幸(大久保に代わって入った)がシュートしました。いい攻撃でしたが……

賀川:そして27分に闘莉王のオウンゴールが出た。右からのジョー・コールのクロスをダイビングヘッドで止めようとして、自分のゴールへ入れてしまった。GK川島がコースに構えていた。川島は声をかけていたハズだが、闘莉王に届いたかどうか――。
 実はこの前に、ハーフライン近くの中央でライトフィリップスがキープしたのに長友、長谷部、阿部の3人がかわされている。そこから右の広大なオープンスペースにパスが送られ、ジョー・コールが取って右から速いクロスを送ったもの。ジョー・コールはノーマークでキープしたから、闘莉王は終始、彼を注視することになり、自分の背後、ゴール正面の様子が分からなかったかもしれない。彼のヘディングとともに、ここはハーフラインでの相手一人を拘束できなかった“囲み”の不手際を反省しなければなるまい。

【つづく】

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イングランド戦前半、アンカー・阿部の成功(下)

2010/06/02(水)

国際親善試合
5月30日14時15分キックオフ(現地時間)オーストリア・UPCアレナ
日本代表 1(1-0、0-2)2 イングランド代表
 得点 日本:田中マルクス闘莉王(7)
     イングランド:オウンゴール(72、83)



賀川:前半5分40秒に、最後列の中澤佑二が前方の岡崎慎司の足元へボールを送った。相手DFを背にして戻り気味に受けた岡崎から、前進してきた阿部にボールが渡り、阿部がダイレクトで前方へ高いパスを送った。そこへ左サイドにいた大久保嘉人が走り込んでいた。彼を追走したグレン・ジョンソン(182cm)が、このボールをヘディングしてCKに逃げた。
 この、中澤から岡崎に当てるパスと、岡崎が残して阿部がダイレクトで前へ送る――大久保が突進する、相手DFがコーナーキックへ逃げる、という一連のパス攻撃が、シンプルだが非常にリズミカルだったから、それまでウェイン・ルーニーの大きなランからのゴール前へのパスや、フランク・ランパードの強いシュート(闘莉王が体で止めた)、あるいは右サイドのセオ・ウォルコットの力強いドリブルなどに押し込まれる感のあった日本側は、この歯切れの良い3本のワンタッチパスの攻めで、おそらく気分が盛り上がったのだと思う。

――それが遠藤の右CK、グラウンダーの闘莉王へのパスとなる。

賀川:遠藤のキックも素晴らしかったし、キックの前に阿部がニアサイドで受けようとスタートした。相手DFの一人が阿部の手を掴んで追走した。そのあとのスペースへ遠藤のボールが入ってきた。カーブキックで理想的なコースへ来た。闘莉王は少し膨らむように走って、グレン・ジョンソンよりもわずかに早くこのボールを右足で蹴った。シュートも見事だった。

――闘莉王の強い気持ちと得点力が、仲間との連動でゴールを生んだわけですね。

賀川:その前に、余計なようだがもう一つ加えておきましょう。実はこの、中澤→岡崎のいわゆる「トップへ当てる」パスの前に、長谷部が本田圭佑からパスを受けて小さく外へターンしたプレーがあった。長谷部はこのターンを時々するのだが、どちらかというと前へ前へ出る彼としては珍しいプレーの一つ。今回はその小さなターンでボールが一度右寄りに小さく動いたことで、彼から中澤に渡ったとき、中澤から岡崎への間に誰もおらず“当てる”パスが出しやすかったのだと思う。

――連動が上手くゆくときは、一つひとつの動作がそれぞれ効いているわけですね。

賀川:そう、阿部のことを少し長めに話したのは、左外からの大久保の突進を感じて岡崎からのボールをダイレクトで彼が前へ送ったこと、それも相手の危険地帯へのボールだったから、ジョンソンはためらいなくコーナーキックへ逃げて、こちらの最初のチャンスとなったのですヨ。こういうところで必要な技術を発揮することが何よりなんですヨ。

――いつも賀川さんが言っているポジションプレーですね。

賀川:各クラブから選んで日本代表をつくりあげるときに、それぞれのポジションで必要な技術がある。その基礎ができていれば、防ぐのも攻めるのも協調や連動をしやすくなるのだが、各位置で必要なキックや必要な動きができなければ、いくらたくさん走っても効果は薄い……。テレビの解説でも、コメンテイターは元代表MFだけあって「阿部が良く利いている」と注目していた。

――俊輔のケガで、いつもと違う代表チームのシステムになり、それが守りだけでなく攻撃にも上手く結びついたのを見たわけですが、こういういいゴールを取ったけれど、イングランド相手に勝つことはできませんでした。

賀川:こういう展開になれば、勝ちにつなげたいし、悪くても引き分けでゆきたいところだが、そうはゆかなかった。もちろん、南アフリカ大会の優勝候補といわれるイングランドに勝つのは難しいこと。実力は向こうが上だが、サッカーの面白さは、力の上の相手にも勝つところだからネ。それについては後にお話しましょう。
 1点取ったからこそ、昨日は日本全体が、負けても多少はいい気分でおれたハズです。その1点の意味ということで、阿部の起用が守りだけでなく先制ゴールにも結び付いたというところをまず申し上げたのです。


【了】

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イングランド戦前半、アンカー・阿部の成功(上)

2010/06/01(火)

国際親善試合
5月30日14時15分キックオフ(現地時間)
オーストリア・UPCアレナ
日本代表 1(1-0、0-2)2 イングランド代表
 得点 日本:田中マルクス闘莉王(7)
     イングランド:オウンゴール(72、83)



――日本代表、やりましたね。イングランド相手に先制し、2-1で敗れはしましたが最後まで気迫のこもったいい試合をしました。

賀川:韓国戦が悪かっただけに、代表チームはどうなるんだという心配が高まっていたが、田中マルクス闘莉王が戻ってきて、中澤佑二とのCDF(セントラル・ディフェンダー)のところがしっかりしたからチーム全体が良くなった。もちろん、闘莉王の闘志を表に見せる試合ぶりや彼の持つ明るさなどがチーム全体に与えるいい影響もあっただろうしネ。

――岡田武史監督がアンカーに阿部勇樹を置いたのも、効果があったように見えます。

賀川:阿部はこのポジションの適役ですヨ。もともと彼は中盤の、古い言い方でゆけば守備的MF役が本業のハズだが、どこでもこなせるという賢さのために最後のDFラインにまわったりしている。
 彼は若い頃から、日本のプレーヤーとしては珍しく長いボールを正確に蹴れるのだから、ボールを拾ったときには大きな威力となる。その個性を生かさないテはないと、リーグでも代表でもボクは不満に思っていた。彼自身ももう少し自分の良さを仲間にアピールした方がいいのだが、日本の代表になろうかという選手なら、彼の「得意ワザ」を他の選手も理解すべきだと思うネ。

――というと、例えば

賀川:韓国戦のタイムアップ直前に、カウンターからPKになって2点目を奪われたことがあったでしょう。

――確か、こちらが攻め込んで中央左寄りのFKのチャンスがあって、そのボールが相手に渡ってのカウンターでした。

賀川:そう。確か森本貴幸がゴールラインから25~30m辺りの左寄りの位置でファウルされたFKを、長谷部誠がボールをプレースする前に日本のDFに上がれ上がれと声をかけた。

――ラストのチャンスと見たのでしょうね。

賀川:それはいい。だから、中澤佑二と阿部勇樹も上がってきた。こういうときのためにと投入していた矢野貴章もいたハズだ。そのFKを長谷部が蹴った。低いボールで、一番近い相手側に当たって再び長谷部が拾い、もう一度蹴った。ボールはゴール前へ届いたが、中澤はヘディングできずにボールは流れ、相手の左サイドからの攻めに転じそこからFWに渡って中央を突破され、楢崎が止めたときにファウルとなって、PKで2点目を失った。

――そこで、

賀川:ラストチャンスの攻めだと思ったのなら、阿部に蹴らすべきではなかったか。長谷部はもちろん、ドイツのボルフスブルクで試合をしているレベルの高いプレーヤーではあるが、阿部のプレースキックを選択する気はなかったか――と思ったネ。

――近ごろ阿部は、自分のチームでもFKを蹴っていないのじゃないですか

賀川:若いころ、ジェフユナイテッドでは蹴っていた。コーナーキックをファーポストへコントロールキックできた選手ですヨ。浦和では近ごろ少し攻撃的な役柄もしているけれど、もっともっとクラブも代表も生かせる場所があると思っていた。

――それが、今度のアンカー役だった?

賀川:中村俊輔を休ませて、イングランドという強敵と戦うために岡田監督が考えたのだろう。前半の先取点は闘莉王と遠藤保仁の素晴らしい合作だが、それに阿部が一役加わっていることを知っておいてほしい。

――ふーむ、阿部ですか。


【つづく】

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日本代表23人が決まり、いよいよ本番へ向かう

2010/05/11(火)

◆代表発表会で

――2010FIFAワールドカップ代表が決定しました。発表会場にも出向いたそうですね。

賀川:岡田武史監督の顔を見ておこうと思って、出かけたんですヨ。

――どうでしたか。

賀川:大仁邦彌JFA副会長(今度の選手団団長)原博実技術委員長と岡田監督と、3人が出席した。ずいぶん多くのメディアが来ていたね。

――人気低迷などと言っていても、やはりワールドカップ(W杯)代表ともなればということですかね。

賀川:まあ、そういうことだろうが……。日本のメディアというのは人事関連ニュースが好きだから。政治の話でも、誰がどんな政策をということより、誰と誰がくっつくか――といった話の方を大きく取り上げる。


◆5月5日の香川、アマラウのゴール

――5月5日のJリーグの試合でも、試合の面白さより代表候補がどんなプレーをしたかということに終始していました。

賀川:セレッソ鹿島アントラーズに2-1で勝った試合でも、香川真司がこの試合のゴールで代表に選ばれるのではないか――といった調子でネ。もちろん、香川はいいシュートをした。新しい型のシュートを決めたということで、これは彼には喜ぶべきことだが……。チームにとっては、この試合でMFのアマラウが積極的に潰しにゆくのが目立った。その彼の姿勢が、1-1からの2点目につながってセレッソの勝利になった。

――鹿島のGK曽ヶ端が野沢(またはその手前の味方選手)に投げたボールをアマラウが奪い取ってシュートしたゴール。

賀川:曽ヶ端がアンダーハンドで30mくらい前方の野沢にボールを送ったところ、それにアマラウがダッシュした。野沢が気付いてコースへ入ろうとしたが、アマラウの方が速かった。このときの接触でアマラウはバランスを崩しかけたが、持ち直して、大きく踏み込んで右足で強く叩いた。弾丸シュートがゴール左に入った。低い弾道、しかも途中で一度バウンドしたから、曽ヶ端のセービングも届かなかった。

――アマラウの積極プレーに驚いたと?

賀川:ときおり見せる右足のシュートに、「強く叩ける」プレーヤーだとは見ていたが、いつも中盤でボールがくるとすぐマルチネスに渡していて、ブラジル人にしては控えめだと感じていた。それが、この試合でははじめから積極的で、曽ヶ端の位置を見てハーフラインからロングシュートをしたりもしていた。

――面白いので、セレッソの話が長くなりました。代表の方へ話を戻しましょうか。

賀川:代表選考への注目が高いために、せっかくのサッカーの試合の面白さが話題にならないのがもったいないと思う。

――それがまた、日本の今のサッカー風景というところなのでしょう。さて、代表の顔ぶれは……それこそ残念ながら香川クンは入らなかった。

賀川:岡田監督といまのチームがやろうとしたサッカーを攻守にわたって最後の詰めをする。そして本番へ持ってゆく――と考えての選考だろうからネ。

――監督のこれまでのやり方から見て、まずは妥当でしょうかね。

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バーレーン戦(下)

2010/03/08(月)

――1-0となった後も、チャンスはありましたね。

賀川:その前にも相当数あった。決定的とはいえないものでも、たとえば10分に左サイドから本田のスルーパスをもらった長友がゴールラインまで持ち込み短いクロスを送った場面があった。長友のリーチと速さからゆくと、この場面では彼はファーへ蹴れるかどうかだから、誰かが(岡崎になるかな)ニアに入るのが定石のハズ。そういう互いの暗黙の了解がボツボツできているころなのだが。これまではトップと左右のサイド、そして第2列の飛び出しなどがあまりできていなかった。

――それが、この試合ではそういうことが目につくほどチャンスも多く生まれそうになった、といえるのでしょうか。

賀川:いや、2月シリーズと違うのは中村俊輔と遠藤が揃っているというミソもあるね。まあ2月はコンディションが悪いからではあるが、やはりここというときに中村俊輔が絡むといい。

――関西人としては、遠藤のことを聞きたいですね。

賀川:実は遠藤保仁の素晴らしさはここのところちょっと恐ろしいほどですヨ。元旦の天皇杯もそうだったが、後方で攻撃展開のための発端をつくり、ときに間(ま)を稼ぎ、ときに自らが攻撃の締めくくりに現れる。その動きの広さ、巧妙さは、いまや随一だろう。サポーターのみなさんも技術指導に関わるコーチたちも、いまの遠藤のプレーを充分、頭の中に残してほしいと思っているくらいです。彼の攻撃展開は日本サッカーの“棋譜”として残ると思いますヨ。

――この試合でも、彼は長・短さまざまなパスを駆使しました。

賀川:ACLで水原とのアウェーで試合をして、中2日でゼロックスの試合を強敵・鹿島アントラーズと戦った。そのときに少し動きすぎじゃないかと心配したが、この試合でも90分しっかりプレーした。その間に、思わず手を叩くような場面が何回もあった。
 後半の44分に、左サイドで本田の前へスルーパスを送った場面があった。日本側の動きが落ちていたときで、玉田が俊輔に代わって入ってきた。その本田へのパスがあまりにいいタイミングだったから、本田も懸命に走った。相手のファウルで倒されてFKとなったが、どちらかというと、かつては立ち止まってのプレーの多かった本田がオランダの経験を積み、CSKAモスクワに移ってロシアのトップ・リーグでのプレーで大きく動くようになってきた。それは彼にも日本代表にもいいことなのだが、その本田の意欲に合わせた遠藤の縦パスはおそらくゴールライン付近でのFKまで想定に入っていただろう。
 パスそのもののキメの細かさは、タイムアップ直前の2点目に表れています。

――内田からのゴールライン近くからのクロスに、森本が飛び込み、彼に当たらずにゴール前に流れたのを本田がヘディングで決めたゴールですね。

賀川:ロスタイムに入ってすぐの右サイドでのプレーで、スローインから遠藤が縦にパスを出し、内田がそれに走り込みながらダイレクトでクロスを蹴った。遠藤のパスの強さといい、コースといい、申し分なかったから、内田は走った勢いをゆるめることなく余裕を持って正確に蹴り、それをニアで合わせようと森本が飛び込んだ。

――1点目は左サイド、2点目は右サイドから。1点目はファーを狙い、2点目はニアで合わせようとして、それがゴール正面へ流れる意外性あるボールとなって本田が決めたわけですね。

賀川:どちらもクロスのラインに2人、3人とプレーヤーが入ってくるのだが、クロスを蹴る者に余裕があれば精度も高まる。それには、そこへのパス、いわばラストパスの一つ手前のパスの質がモノをいう。俊輔や遠藤はマラドーナと同様にそこに絡んでもうまいプレーをする、ということです。

――不満な点は?

賀川:チームとしてはまだまだありますヨ。その前に本田圭佑にふれると――。
 意欲的に、シュートを5本打った。前半は、松井のオーバーヘッドの空振りのあとこぼれ球の小さい左足の振りのシュートと、それから自分で持ってシュート。後半は俊輔からのクロスの競り合いヘディングシュート(GKが防ぐ)と左足のシュート。そしてゴールとなったヘッドがあった。本人も最後に入ったからホッとしたといっていた。シュートそのものについてはまだまだ上達の余地ありというところだろう。

――日本のシュートは17本ありました。バーレーンは8本。

賀川:いまの日本代表は攻めても点を取れないといわれているが、シュートの力を伸ばし、ゴール前で工夫をもっとすることですヨ。それでも、シュートをしなければ点にはならないから、積極的にシュートをすることは悪くない。

――森本貴幸

賀川:後半の22分からで短い時間だったが、2点目に絡むなどゴール前のプレーはしっかりしている。彼のようにストライカーとしての技術や身のこなしを持っているプレーヤーが代表でもう少し多くの試合をこなせればいいと、誰もが思うだろう。

――ちょっと時期が遅いでしょうか

賀川:いくつかのプレーの感覚が仲間と合えば、本番の試合のたびにグングンよくなるという例もある。攻撃陣では、短い時間だったが玉田圭司が自分の特徴を発揮する役柄を覚え始めたようですネ。
 岡崎も昨年に急速に伸びたあと、ここしばらく足踏み状態のようだったが、この試合のゴールでまた上向きになってくれそうだ。

――まずはよかったということですね。この次は海外組なしで、キリンチャレンジカップでセルビアと試合をします(編集注:岡田監督は、海外組を招集したい意向を示している)。

賀川:中村俊輔がJでどのように適応しコンディションをよくしてゆくか、遠藤が昨シーズンからの疲れがたまっているのかどうかなども、1ヶ月後にもう一度見られるわけですヨ。もちろん、2人だけでなく全選手もそうだが……。

――Jリーグの中で、代表が何をプラスしてゆくかも楽しみですね。


【了】

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バーレーン戦(上)

2010/03/07(日)


AFCアジアカップ2011カタール予選
3月3日(愛知・豊田スタジアム)19:01
日本代表 2(1-0 1-0)0 バーレーン代表

――2-0で日本代表が勝ちました。

賀川:ドイツから長谷部誠、フランスから松井大輔、イタリアから森本貴幸ロシアから本田圭佑が参加し、横浜F・マリノスへの移籍の決まった中村俊輔も加わり13人で戦った。いわゆる海外組にとっては最後のテストになる試合だった。個々のプレーヤーにも代表チーム全体にもいい結果が出たといえるでしょう。

――バーレーンと岡田監督の日本代表は5戦して3勝2敗。決してやりやすい相手ではありません。それに2-0で勝ったのですからね。ただし、主力の何人か、アフリカ系の選手が不参加だったという点もあります。

賀川:相手がどうであっても、こちらは自分たちがどれだけ機能的に動けるかが大切だ。久しぶりに俊輔と遠藤が揃って、それに伸び盛りの本田が上のランクのクラブに入り欧州チャンピオンズリーグの試合も経験したのが自信となっているようだった。松井も、ここのところ試合に出ているという感じがしたし、プレーの時間が少なかった森本も終了直前のゴールに絡んで、この前に見たときよりもさらにゴールへの意欲の強さを感じたヨ。海外組を含んで、全体に後半に動きが鈍ってしんどい場面もあったがね。

――一番よかったのは?

賀川:やっぱり俊輔だろうね。スペインで試合に出ていないし、ときたまテレビに映る彼の体が小さくなっているように感じていた。タイミングとして、この時期によく横浜に戻ってきたといえるかもしれない。俊輔らしいプレーが何本かあったが、前半の1点などは彼の精妙なパスから生まれたものですヨ。

――左から松井がクロスを上げて、それをファーで岡崎がヘディングした。

賀川:36分のこのチャンスの前に、得点を生む気配となりはじめていた。このチャンスは、
(1)中村がハーフウェーライン近くでボールを受け、相手一人に絡まれたがキープして中央の本田にパス
(2)自分は前進、本田はもう一度俊輔へ送った
(3)この本田のパスは帰陣する相手DFの間を通ってノーマークの俊輔に渡ったから
(4)俊輔は右へ振る気配をみせつつ、左足で縦にボールを送り込んだ
(5)これが左サイドを走り上がった松井にとって、自分の動きを止めることなく蹴れる――俊輔特有の――配慮のゆき届いたパスだったから
(6)松井は左足でファーポスト側へ高いボールを送った
(7)このクロスに対して遠藤がニアへ、長谷部が中央へ走り込み、ボールは彼ら、そしてその外にいたDFをもこえて岡崎の頭に届いた。

 松井のいいクロスが生まれるために、中村の絡まれながらのドリブルと本田へのパス、そして本田からの相手の意表を突く俊輔へのパス、そして俊輔の松井への丁寧なパスが組み合わされている。

――サイドから攻めても、必ずしも常にいいクロスがゴール前の誰かの頭へ届くとは限りません。

賀川:その、サイドからのクロスの精度については別に譲るとして――。
 クロスを出す者が、いい条件でボールをもらえば、いまの日本選手の技術でもいいボールを送れる可能性がある。この場面がそれで、長身選手の多い相手の上をこえてファーポスト側の仲間の頭へ落ちてきた。

――ゴールの正面とニアへ走った2人の動きも関連ありですね。

賀川:もちろん。こういう動きによって、相手DFのクロスに対するプレーも微妙に変わるからね。日本選手のいいところが集約され、こういうふうにすれば得点できる、という一つの形を確認できるゴールといえる。


【つづく】

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歓迎、中村俊輔!!

2010/03/02(火)

――中村俊輔選手が、横浜F・マリノスへ戻ってきましたね。本当はもっと早い時期に決まっていたハズのものが、今まで延びてしまったのは残念ですが。

賀川:ことしは日本でプレーしたいということらしかった。手違いというのか、うまくゆかなかった話はいろいろ伝わっている。だが、とりあえず、戻ってくるのは結構なことですヨ。本人のためにも日本代表のためにも、ネ。遅れたのはまったく“モッタイナイ”ことをしたのだが、まあこれから彼自身がコンディションを取り戻して南アフリカの本番を目指してほしい。
 それからマリノスも。ビッグスタジアム――それも交通の便の良い――を持っていて、浦和レッズと並んで世界のビッグクラブの仲間入りできる基盤があるのだからね。俊輔のような有能で人気のあるプレーヤーを持つことでクラブの人気も高まるだろう。ビッグクラブへのステップを踏み出してほしい。

――かつての日本代表で、FKの名手――いわばこの点で俊輔の先輩格の木村和司が監督に就任したことも、クラブの前進への意欲の表れとみてよいでしょう。

賀川:フットボールクラブの経営というのは、経済も大事だが、まず良いチームをつくってファンとともに喜びあえる結果を出すこと。そのためには、中心となるべきファンに愛される選手を多く持つことが何よりですヨ。俊輔のように、ここで育って、海外でも尊敬されてきたプレーヤーを軸にいいチームをつくってほしい。現在、すでに相当な力を持つ選手もいるのだから――。

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日本代表、2月4戦シリーズの不成績(下)

2010/02/20(土)

日本代表、2月4戦シリーズの不成績(中)こちら


――相手に守りを固められると、その多数防御を破れないのも同じでしたね。

賀川:この部分――いつも0点に押さえるのは難しいことだ。それより点を取ることを考えた方が易しい。ゴールできそうなFWが出てきたのだから……

――3月のバーレーン戦でどうなるか、見たいですね。

賀川:相手がどこであっても、日本のやり方はこれ――と言ってきたのが、まあある程度できるようになったとしたら、今度は相手のメンバーに合わせてここはこういうやり方で、という課題を持ち、それを選手たちがピッチ上でどう実行するか、という段階だろう。

――俊輔が日本に戻ってくるという話は?

賀川:もともとあった話らしいから――。そうなれば良いが、ヨーロッパにいるにせよ日本に戻るにせよ、体調は大切な問題だからネ。問題はやはり平山相太だろう。しっかりした体とは言い難いが、これからの練習次第でもっと点に絡める選手になるハズだから。もちろん、岡崎慎司もステップアップが必要だ。

――平山なら、例えばどんなところをでしょう

賀川:自分がどこでヘディングすればボールはどこまで行くか。シュートでも、自分がどこで蹴ればゴールのどこへズバッと入るか――といったことだね。本当は昨年にできていないといけないのだが、今でも遅くはない。今の日本のFWにはそれがあまり見られないんだヨ。

――今からでも間に合いますか

賀川:日本代表が、大人の世界大会でとったメダルは1968年メキシコ五輪が唯一。この代表は68年2月にメキシコ遠征し、メキシコのオリンピック代表に0-4で負けている。高度順応を調べる目的もあって、休養明けの選手を集めて太平洋を渡ってメキシコで試合をしたのだが、文句なしの完敗だった。ただ一人、ドイツ留学から合流した釜本邦茂の体調は良かったが、これも高度の影響には苦しんだ。
 それが、10月のメキシコ大会本番の3位決定戦では2-0で勝ったんだヨ。体調不完全、そして高度順応(メキシコは2,500m)できないとどれだけ苦しいかが2月の遠征でよく分かったから、日本国内での高地合宿や高度対策にも選手たちは真剣になり、チーム全体として大会中の体調管理にとても気を配った。釜本は、ドイツでの個人練習の成果をオーストラリアでの3試合(メキシコ遠征後)から発揮し始めた。

――日本代表の一人ひとりが2月の敗戦で目を覚まし、本番に向かってくれるのに期待しましょう。水を飲むのは彼らですからね。だけど……飲まなかったらどうしましょう?

賀川:そのときは、それはそういう選手を生み出した私たちサッカー界が悪いのだろうヨ……。


【了】

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日本代表、2月4戦シリーズの不成績(中)

2010/02/19(金)

日本代表、2月4戦シリーズの不成績(上)こちら


――しかしプロフェッショナルでしょう

賀川:そう、プロフェッショナル――つまり仕事だから倦むこともあるわけですヨ。だからこそ、シーズンとオフとのメリハリなどをいかに上手にするかと思うんだが……。

――疲れて気迫が乏しくて、それでお手上げというのも情けない

賀川:サッカーというのはチームゲームではあるが、もとはといえば一人ひとりのプレーが大切。それも、目の前の相手に対して自分一人で打ち勝とうというところから始まる競技であり、チームスポーツなんですよ。それが、パスが来てボールを止める、目の前に相手がいる、するとそれに突っかかって抜いてゆこうというのでなく味方の応援を待って協調してパスで突破する、というのが日本サッカーだから、皆が同じような(良い)コンディションでなければ困る。

――ボールも人も動く、なんていいますね。

賀川:もちろん、自分より良い位置にいる者に渡した方が、無理に一人で抜こうとするよりはいいだろう。しかし、「まず自分一人で突破してやろう」という気配があれば、相手もそれに反応する。すると、もう一つの選択であるパスもできるようになる。その、一人でやる、あるいはやろうとする気配がはじめから無いために、パスもコースを読まれたりするわけだ。

――個人力での突破をしないのならパス。すると常に走っていなければならない。仲間が互いに意志を通わせていなければならない。そのためには、全員の体調が良くなければならない――と。

賀川:本番まであと4ヶ月という時期に、このようなことを言っているのでは遅いと言われるかもしれないが、いま、自分たちはそういうチームなんだ――ということを再認識できたのはいいことだと思うヨ。

――というと

賀川:いつも言うように、もっと体を強くする。ジャンプの高さを上げる。キックの精度を高める。

――もちろん、人の問題もあります。

賀川:闘莉王中澤佑二のCDFも、韓国戦は良くなかったネ。中澤の寄せも良くなかった。韓国側の長いシュートが背中に当たり、GK楢崎には防ぐのが難しかった。こういう弱点は今まで通りだヨ。交代で入った岩政はまずまずの出来だった……。


【つづく】

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日本代表、2月4戦シリーズの不成績(上)

2010/02/18(木)

――楽しみにしていた日本代表の2月4連戦シリーズが、1勝2分け1敗……。キリンチャレンジカップのベネズエラ戦(0-0)を別にしても、3試合は東アジア選手権決勝大会という公式試合。開催国日本は優勝を狙うハズなのに、対中国0-0、対香港3-0、対韓国1-3とサッパリでした。

賀川:選手たちと監督も手厳しい批判にさらされるだろう。多くのファンの期待を裏切ったのだからね。

――さっそく、監督交代論が出ました。専門誌などでも強い調子で言っていますよ。

賀川:今度の不成績にはいろいろな見方があるだろうが、選手たちは何を感じているだろうか……。

――選手の体調も良くないうえに、何だか気迫が乏しい感じでした。

賀川:キリンチャレンジで、遠来のベネズエラの方が元気だったのに驚いた。中3日で対戦した中国でも、もう一息だった。日本代表というのは全員が揃って、しかも体調を整え、気合が入ってこそのチーム。それがなければ売り物にならない。

――そういうときこそ、監督・コーチ陣の指導がモノを言うのでしょう。

賀川:『馬が水を飲むかどうかは馬の問題』という諺がある。馬を水飲み場へ連れてはゆけるがネ――ということだ。

――そう言ってしまえばそうですが……

賀川:今度の日本代表の試合ぶりを見て、あらためて、昨年のJリーグの終盤の大熱戦を思い出した。開幕当初からACLに4チームが出場し、リーグとカップ戦があり、そのうえワールドカップの予選を戦った。そして、予選突破の安心感もあったのだろう。リーグ戦終了後の休養期間をどのように過ごしたのか。

――休みの間、選手がどんな生活をしていたか、どのような疲れの取り方をして、そのあと、体と気力を2月のこの連戦に向けて盛り上げてきたか、ですね。

賀川:おそらく指示は出ていたハズだが、それぞれの行動をマイクロチップを埋めて観察しているわけじゃないだろうからネ。ボクは昨年の疲れが予想外に大きかったのだろうと見ている。

――だからといって、プロ選手ならピッチに立って相手の顔を見ればもう少しやれそうに思いますが……

賀川:いまの日本代表は、中国にも香港にもとてもいい目標ですヨ。ビデオという材料もあるし、日本選手一人ひとりについて調査し、研究し、チーム戦術を理解して対応等をとる。それでいい試合をすれば、それぞれの国の選手たちにはとてもいい励みになるし、サッカー界全体の励みにもなる。

――韓国は伝統的に日本に負けたくないと思っていますしね。

賀川:監督にとっても選手にとっても、日本戦で勝つか負けるかで評価も違ってくる。そして日本のやり方もよく知っている。

――それなのにこちらは「ボツボツいこか~」という調子だった。

賀川:まさか、それほどでもないだろうが、どこかに緩みか、あるいは試合に倦(う)んでいたかも……。


【つづく】

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日本代表の2月シリーズを追って vs中国(下)

2010/02/11(木)

東アジア選手権2010決勝大会
2月6日(東京・味の素スタジアム)19:17
日本代表 0(0-0 0-0)0 中国代表

――中国戦では、サイドからの攻めもありました。内田篤人のシュートがファーポストに当たった惜しいチャンスも。

賀川:後半に平山相太を送りこんだが、彼の大きさとポストプレーということで、少し良くなった。報道によると、監督がサイドからの攻めの指示をしたとか――。このあたりが私にはよく分からない。
 サイドアタックのできる選手がいて、サイドではボールをキープできるのだから、中央のウラを狙うためにもサイドへボールを散らし、外からのクロスやシュートがあって当然でしょう。外からと中央の攻撃の変化というのは、古くから攻めの常識ですヨ。
 調子を落としている内田が久しぶりに“らしい”プレーを見せたが、あのポストに当てたシュートも、彼ほどの選手ならファーポスト内側を叩いてゴールへ入るボールを蹴ってほしいね。あの位置でそういう蹴り方もあるんですヨ。

――平山は

賀川:相手DFラインのウラへ出て左足のボレーを狙ったが、失敗したのがあった。ボールが落下して自分の左足の一番いい高さにくるのを待てないでスイングした。

――相手が近くにいるかと思って、気がはやったのでしょうか

賀川:あるいはオフサイドだったかも――。しかし、状況がどうでも、ストライカーは自分がシュートするときにはベストのフォームで打つこと。それがゴールにつながるハズだヨ。

――釜本邦茂さんも、そう言っていましたね。

賀川:そうそう。私の記憶ではいまから42年前の68年2月、西ドイツに留学してドイツのデアバル監督のマンツーマン指導を受けたときにそう言われたそうだ。
 彼はすでにシュートの型をいくつか持っていたが、デアバルさんの指導でストライカーとしての基本的な考えを自ら問いつめ、ドイツの若手との練習で2ヶ月間の留学でステップアップした。

――賀川さんがいつもいう、本番前半年の上達ですね。

賀川:平山や岡崎玉田や大久保あるいは佐藤寿人に、そうした急成長のための貯蓄があれば、この2月シリーズさらにはそのあとにも、ゴールへの道を掴んでステップアップする機会はあるのですヨ。

――彼ら以外の若手にも、もちろん彼らにパスを送り、走り上がりシュートするMFたちにも期待しましょう。

賀川:何といってもサッカーは試合をする選手たちが生き生きとプレーをすることが第一だからネ。


【了】

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日本代表の2月シリーズを追って vs中国(上)

2010/02/10(水)

東アジア選手権2010決勝大会
2月6日(東京・味の素スタジアム)19:17
日本代表 0(0-0 0-0)0 中国代表

――2日のキリンチャレンジカップでベネズエラと0-0だった日本代表が、東アジア選手権決勝大会の第1戦で中国と引き分けました(0-0)。2試合連続で無得点です。

賀川:昨年はワールドカップ2010の予選を戦い、キリンカップや海外遠征試合などで徐々にチームらしくなってきた。FWでは岡崎慎司という点を取れる選手も出てきた。イタリアにいる森本も、一度だけだが悪くはなかった。そんなときに平山相太が浮上してきた。少し見通しが明るくなったように見えたが、そうでもなかったネ。

――チャンスがあっても点になりません。

賀川:いつも言っているのだが、誰がフィニッシュのところへ出てくるのか、誰がどういうラストパスを出すのかというところもまだいい加減だ。

――そういえば中国戦の前半、岡崎が右から侵入して短いクロスを出し、大久保や玉田がシュートしていた場面もありました。

賀川:大久保は、スピードがあって、独特のシュートのうまさとカンがあるというのが評価でしょう。玉田は頑丈で速く、ドリブルがうまい。しかし右足のシュートは利かない。左ならいいシュートをする。岡崎はニアサイドでも、ウラへでも飛び込んでくる。体に粘りがあって一つのプレーのあとのセカンドプレー、いわば1の矢に続く2の矢も打てる。

――それで

賀川:ベネズエラも中国も守りの人数が多かったし、こちらのシュート場面でも体を近づけていた。そこへ走り込んで点を取ろうと思えば、いまならフィニッシュには岡崎が一番適任でしょう。

――それぞれの個性に合わせての役割、ということですね。

賀川:ゴール前、ペナルティエリアの中は想像以上に人口密度が高い。相手の体や足にぶつかりながらシュート位置へ行き、そこで点を決めるプレーをする。もちろん、パスを出す者との呼吸、タイミング、コースの意図がうまく合えば、相手のウラをかいてとんでもないノーマークの空白時間や空白地帯もつくれるのだが、いまの日本のやり方ではそうもゆかないから、やはり、(チャンスの)作り手と決め手の役柄が大事だと思う。


【つづく】

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今夜、キリンチャレンジカップ・ベネズエラ戦

2010/02/02(火)

いよいよ2010年の日本代表のワールドカップ準備シリーズが始まる。今日はキリンチャレンジカップの対ベネズエラ戦。

今回、ベネズエラは南米予選を突破できなかった。南米の中で強い国というわけではないが、今の日本代表にとっては相手よりも、まず招集した国内メンバーの組み合わせや調子を見るのが第一となるだろう。その意味で、新しく加わった小笠原満男平山相太の二人が、どんな働きをするかが楽しみ。ベテランと若手、MFとFWというポジションで、どちらも“大物”には違いないからね。

もちろん、全ての選手の今年の調子を見る。休養期間中の過ごし方があらわれるから。ジーコのときはこの休養明けのときに進歩が見えなくて、ガッカリしたのを覚えている。

キリンチャレンジのあとには東アジア選手権決勝大会がある。
この時期に東アジア各国と試合ができれば、いい経験を積める。中国は体格が大きく、韓国は伝統的に対日本戦に強い。今のチームの日本らしさを発揮して勝ちにゆく。まことに結構な相手ですよ。
岡田流の中で、どんな組み合わせや「阿吽(あうん)」の呼吸が生まれるかが見られるだろう。

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オランダ遠征2試合を見て(4)

2009/09/28(月)

~得点への意欲が強まり、第2戦でそれがスコアに表れたのは何より。憲剛をはじめイレブンのレベルアップへの努力に期待~


――中村憲剛を一つの例として、日本サッカーの得点力アップの可能性を話してもらったのですが、遠征全体としては?

賀川:DFで岩政大樹をケガで使えなかったこと、新しいところでは森本貴幸も登場できなかったのは惜しい。
 オランダはかつてのファンバステンライカールトルート・フリットといった超大物はいないが、粒のそろったいいチームだった。プライドの高い彼らが、はじめのうち日本のメチャメチャに走り回るやり方に対応できずイライラしてファウルするのが面白かった。ただし、日本選手には気の毒。俊輔も足をやられたのだからネ。ああいうときに先制ゴールを挙げるためには、動きの落ちたガーナを相手に点を取るのとは少し違う。そのための攻めの仕掛けにも、シュートへの入り方にも、もっと積極的で、もっと賢くなくてはならない。ヨーロッパ人のいう“キツネのように”というプレーですヨ。

――騙すわけですね。

賀川:それも難しいことではない。攻め込んだら、まずボールが来たらシュートする、点を取ろうという気になること。その“気”に相手も反応する。そこでパスが生きるわけだ。はじめからパスの経路を探せば相手はすぐに見破るから……。もちろん、実績あるストライカーがいれば、それだけでも相手に威圧感を与えるけれど、いまはそうはゆかない。

――だから、相手が面食らっている間にゴールする、と。

賀川:そういうこともある。岡崎慎司という“飛び込み”型が一人定着した。シュートへのリバウンドやこぼれ球も狙える。もちろん、シュート力そのものも、いまの若いうちに向上してほしいネ。遠征で活躍できた者も、遠征にゆけなかった者も、まだチャンスはあるし、10月のキリンチャレンジカップにはスコットランドとトーゴが来て相手をしてくれる。その前にアジアカップ予選の対香港もある。

――秋はいよいよ楽しくなりますね。ヨーロッパの秋も楽しみ。レアル・マドリードバルサもすごいですよね。

賀川:プレミアリーグも面白いし、いいサッカーを見られるけれど、そのヨーロッパで中村俊輔がなぜ尊敬されているか、本田圭佑が注目されているかをもう一度考えて欲しい。

――二人とも左利きですが……

賀川:右足、左足はともかく、共通していることはキックの上手さですヨ。本田は若いときから左足で強い球を蹴れた。浮かせるキックもしていた。俊輔については皆さんご存じのとおり。自分のキックの型を持っていて、それがチームの役に立つと、二人とも認められている。もちろん他にいくつも上手なところもあるが、まず基盤となっているのはキックですヨ。

――シュートを含めて、キック全般のレベルを上げろということですね。



【了】

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オランダ遠征2試合を見て(3)

2009/09/27(日)

~得点への意欲が強まり、第2戦でそれがスコアに表れたのは何より。憲剛をはじめイレブンのレベルアップへの努力に期待~


――Jリーグの得点ランキングで、今年はともかく、ずーっと外国人が10位までのほとんどを占めていました。

賀川:今年、日本選手の名が増えてきたのは良いことですヨ。一番大切なのは、日本人はストライカーに向いていないなどと決めてしまうことだ。

――でも、外国の多くのストライカーは少年期からすでに頭角を現している人が多いでしょう?

賀川:私がいまサッカーマガジンで連載している「我が心のゴールハンター ~ストライカーの記憶~」で取り上げている世界のトップクラスは、それぞれ特色はあっても、たいてい少年期からストライカーとして注目されていたことは確かだネ。

――とすれば、いまの日本には……

賀川:確かに、釜本邦茂に比べると中村憲剛はストライカーとしての素材の上では見劣りするかもしれない。しかし、彼のように広く動いて守りも懸命にこなし、中盤でもゴール前でもいいパスを出し、しかもここというチャンスのポイントへ走り込んでゆく選手はこれもまたストライカーとしての大きな素質ですヨ。

――せっかく、そのいい位置へ入ってボールを受けても、そこでシュートに失敗してはね。

賀川:そう、しかしその位置へ入り込んでシュートを決めることができなくても、彼はまたそこへ攻め込んで点を取りに行っている。そのことが一番大切なんですヨ。

――ゴールへの意欲ですか。

賀川:意欲があれば練習をする。いまの日本選手の多くは少年期にボールを蹴っている回数が少ないようにみえる。憲剛も年齢からいけばもっと早くにシュートの型を身につけておくべきだったが、技術というものは年齢(とし)をとってからでも上達し、試合に間に合うものです。私は1990年のW杯でドイツのローター・マテウス(主将)が左ですごいシュートをするのを見、驚いたことがある。彼が後に語ったところによると、バイエルン・ミュンヘンからイタリアへ移ってから左で蹴ることを練習し、上達したと言っていた。

――へぇー、そういうこともあるわけだ。キックやヘディングの上達は練習の回数に比例するといいますね。

賀川:いい位置へ上がって点を取れなかったときの悔しさは、中村憲剛は身にしみているハズで、だからこそ練習を積んでいるのだと思う。最近サッカーマガジンで大分ウェズレイの話を読んだが、彼は名古屋時代からずっと体の使い方やボールの押さえ方など注目していたプレーヤーだった。彼の話によると、ウェズレイはもともとブラジルではMF、ボランチだったらしい。日本でFWをやれと言われて、点取り屋になったということですヨ。いわばプレーヤーとして若いときからストライカーであったのでなくて、経験を重ねてからポジションが変わり、自分の仕事としてポジションプレーに取り組んだということ。それが外国人として100得点の記録となった。

――そういえば、川崎フロンターレジュニーニョにも同じ話がありましたね。

賀川:彼はパスが上手い。組み立てやドリブルに特徴があるとされていたが、やはり得点しようとシュート練習を繰り返してきたし、いまも続けているそうだヨ。
 だから大切なのはゴールへの意欲、シュートの練習で、このことに気付いてもっと練習すれば成果はあがるはずです。

――オランダ戦でノーゴール、ガーナ戦でも45分は無得点だった日本の遠征シリーズ最初のゴールが、中村憲剛の走り上がってのシュートでしたね。

賀川:この試合でも、前半に惜しいチャンスを失敗したが、それにもくじけずにゴールを目指したところがいい。当然、こういうノッているときは失敗についても反省し、工夫し、練習するものですヨ。

――皆が憲剛のようにひたむきに――ということですね。

賀川:これから半年間、もちろんW杯本大会まで短いようで長くもあるから、コンディショニングは充分考えなくてはいけないけれど、自分の技術や体力の向上を個人が心がければ、自身もそうだしチーム全体も伸びる。

――長友佑都の対ガーナ戦、後半の動きはすごかったですからね。

賀川:体力があるのは本人も自分の特色と思っているハズ。サイドの選手というのはそうでなくてはね。イケると見て積極的に突っかけていった。チーム2点目の玉田圭司のシュートは彼のパスからだった。もっとも、相手がフラフラであまりにも上手くゆきすぎた感はあるが……。それも気迫、意欲のおかげですヨ。



【つづく】

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オランダ遠征2試合を見て(2)

2009/09/26(土)

~得点への意欲が強まり、第2戦でそれがスコアに表れたのは何より。憲剛をはじめイレブンのレベルアップへの努力に期待~


賀川:1974年のW杯の決勝(西ドイツ対オランダ)で、私は西ドイツ側の大ピンチを見た。
 相手陣内へボールを持ち上がったDFのフォクツがつぶされ、ヨハン・クライフがドリブルしてフランツ・ベッケンバウアーに向かい、左にはヨニー・レップが展開していた。対応する西ドイツ側は、DFはベッケンバウアー一人だけ。もちろん、ゴールにはGKゼップ・マイヤーがいた。
 ベッケンバウアーはゆっくりクライフと間合いを取りつつ(スタスタという感じで)後退し、クライフの突破をまず防いだ。クライフはレップにパスをして、レップがそれをシュートした。ペナルティエリア左角から少し入ったところだが、それを狙っていたGKマイヤーが飛び出して距離を縮め、シュートを止めた。ベッケンバウアーは1対1どころか1対2の場合を防いだんだからネ。もちろん、GKとの協力あってのことだが……。

――ちょっと話が上のレベルすぎる気もしますが……。まぁ、1対1なら負けて当然というのはダメ、1対2でも防ぎようがある、ということでしょうか。

賀川:昔から日本人は体格のこともあり――私はこれも、日本人全体のことでなくてサッカーを始める人が古い時代から中肉中背あるいは小柄な人が多かった、ということに原因があると思っている。この話をするとまた別のテーマになるからここでやめるがネ。

――ふぅん。その話も面白そうですが、なんとなく分かりますね。昔からサッカーは走り回るものという感じが強く、走れる子ども、すばしっこい少年、つまりあまり大柄でない小中学生が始めたという説を取れば。

賀川:それはともかく、古い時代、例えば1930年の第9回極東大会の日本対中華民国の試合経緯を見ても、こちらはパスをつないで攻め込み得点し、相手は大柄で足の速いCF(センターフォワード)の個人技でゴールして3-3だった。
 1936年のベルリン・オリンピックのあの逆転劇も、体力・走力に優れたスウェーデンの左サイドのドリブル突破で崩され2点を奪われたあと、こちらは走り回ってパスをつないで3点を返して3-2で勝った。
 1968年メキシコ・オリンピックの銅メダルのときの報告書も読んでいますが……

――40年前のですか?

賀川:当時のコーチ、岡野俊一郎さん(現・JFA最高顧問、IOC委員)の詳しい報告の中に、個人力では相手が上だったが組織力で3位になったとあるヨ。

――もう80年近く前から同じ流れの戦いをしているわけですね。

賀川:もちろん、その長い流れのなかに技術の進歩があり、走力アップがあり、世界のサッカーのレベルアップに日本も懸命についてきた。現在の代表は走力、テクニック、組織力などではアジアではトップ。それでも個人個人を比べると、サウジやオーストラリアの代表の中にいる優秀なプレーヤーとでは速さや強さで、さて1対1となるとしんどい場合がある。

――だから1対1の力もつけろ、と。

賀川:そのとおり。タックルのレンジを5センチ伸ばせるかといったことに努力すること、ヘディングのジャンプ力を高めることなど色々ありますヨ。
 私の先輩のベルリン・オリンピック代表で天才といわれた右近徳太郎さんは肋木(ろくぼく=器械体操用具の一種。柱の間に等間隔に丸い横木を取り付けたもの)に体をぶつけて、競り合いや当たったときの粘りを自分で工夫し鍛えていたと本人から聞きました。
 しかしそれも大事だが、同時に私が言いたいのは、得点力を増すことに努力する方がむしろ近道だし王道だと思う。

――そういえば、ベルリンでも3点、1930年でも3点を取った。メキシコ五輪の3位決定戦でも2点を先取したとよく言っていますよね。

賀川:1930年は当時国内でズバ抜けた点取り屋の手島志郎さん(故人)がいた。1936年にはシュートの名人といわれた川本泰三さん(故人)がいた。68年のメキシコは釜本邦茂がいた。釜本は関東大学リーグで早大1年のときから4年間、連続得点王だった。
 大学リーグで彼の得点記録を新記録と発表しようとしたが、当時の早大の堀江忠男部長(ベルリン五輪代表)が、「川本の得点記録を調べてみないと、釜本の記録を新記録と断定はできない」とアドバイスしたことがあったナ。川本泰三さんはそれくらいの点取り屋だった。いまのように国際比較はできないけれど、やはりズバ抜けたゴールゲッターがいることは、強敵相手に組織攻撃を生かして戦うためには大事なことですヨ。



【つづく】

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オランダ遠征2試合を見て(1)

2009/09/25(金)

~得点への意欲が強まり、第2戦でそれがスコアに表れたのは何より。憲剛をはじめイレブンのレベルアップへの努力に期待~


――オランダ遠征シリーズは第1戦が0-3、第2戦が4-3の逆転勝ちという結果が出ました。ご覧になりましたか?

賀川:現地で見たいと思ったが、テレビで我慢したよ。まあ日本にいて、外国での強化試合をテレビで見られるのだから本当にいい時代になったものですヨ。

――サッカーをめぐる環境がどんどん良くなってゆくのに、代表の進歩が目に見えて良くなる――とはゆかないという気もしますが……

賀川:そうかナ。いまの代表はずいぶん良くなってきていますヨ。もちろん、スタート地点が低かったからそんなに高いところまできているわけじゃない。多くのファンやコメンテイターには不満もあるでしょう。

――サッカーマガジンで、賀川さんはオランダ戦の後に中村憲剛に期待すると書いていましたね。

賀川:得点力に問題ありと言われている代表チームの中で、憲剛がここのところ点を取ろうという意欲を燃やしているように見える。自分の口からも、シュート練習をしているなどと言っているようだ。オランダ戦でも、決めることはできなかったが、シュート位置へ入り込んでシュートをしようとしている。その意欲を買ったのだヨ。

――いつも冷静な賀川さんにしてはめずらしく肩入れしていますね。

賀川:いま日本代表はプレッシングとボール奪取と多人数の速い動き、攻めへの絡みによってチャンスをつくることを考え、努力し、工夫して、それでワールドカップ(W杯)予選に勝ってアジアでトップクラスの座を保ってきた。岡田武史監督になってからも、この流儀で相当なレベルのチームを相手にしても通じ始めるようになった。

――ただしチャンスの割合に点が取れない、というのはあまり変わっていません。

賀川:一方では、アジア予選でもたびたび明らかになったように、相手に攻め込まれ、大事なところで1対1の対決となった場合に得点されることがあり、このことは今度のオランダ遠征2試合でも明らかになった。
 オランダは個人力だけでなく組織プレーも上のレベルだから、そのボールの動かし方の上に個人力の差がつく。ガーナの場合は、Jリーグではほとんど無敵に見える中澤佑二が相手FWの突破力に上手く対応できなかった。

――DFの対応が“しんどい”ものだから、GKまでおかしくなった場合もありました。

賀川:ジーコ監督のときもそうだったし、トルシエのときも、あるいは第1次岡田武史監督のジャマイカ戦でも1対1の競り合いでやられ、その受け身の態勢がGKの心理や実際のプレーに影響したこともあった。

――まったく変わっていない、進歩がないわけでしょうか。

賀川:ディフェンダーというのは、失敗があってもそれが失点につながらないと痛い思いをしないことが多い。もちろん、サッカーの選手になるくらいだから負けず嫌いで1対1で抜かれたり、自分が奪われたことでピンチになったり、いったんタックルに行って取れそうになってから姿勢が崩れて相手にシュートを決められたり、といったことを経験すれば自分のどこに原因があるのかと反省して、それの対応に努力するハズなのだが……。

――この国のサッカーでは、点を取られたら「中盤であのとき俊輔が奪われたのがピンチのキッカケになって」とか「あのミスパスをカットされてコーナーキック(CK)を取られ、そこからやられた」などと、まず組織が綻びた原因から始まります。その1対1でやられた実際の場面についての検討が少ない。はじめから諦めているのかなぁ。

賀川:前線からのプレッシングが緩んだり、中盤でのミスで奪われたりすることの反省は大事ですヨ。それはそれで良いんだ。しかし、パスの失敗をなくすこと、失敗してもすぐピンチにならぬようにすること、トラッピングに習熟しスクリーニングの技術を高めることなど、日本代表になってもそれぞれのポジションで高める技術や自分の体の強化などを怠っていけないのは当然だが、中盤で俊輔がボールを奪われればすべてお終い、というわけではないんだから。



【つづく】

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日本代表 vs カタール代表(5)

2009/06/17(水)

――最終戦の前に気になることは?

賀川:うーん。対オーストラリア云々とは別に、いくつかの問題がある。それはJリーグにも通じるものですヨ。

――ストライカーがいない、Jの個人得点ベストテンはほとんど外国人で占めていると、よく賀川さんは言っていますね。

賀川:得点できる選手がいれば、チームに大きなプラスになることは皆よく知っている。だからこそ、外国人のゴールスコアラーを補うわけだ。だけど、自分たちの手で、いいストライカーを生み出してみようと思わないのがネ……。ストライカーの話とは別に、たとえば、Jのチームに何人、スローインで遠くへ投げられる選手がいるのかな。昔、ヴィッセルに一人いたがネ。

――投げるだけではダメでしょう。

賀川:日本代表は皆サッカーがうまいが、一人くらいロングスローのできる選手がいてもいいだろうに。これも体格の問題でなく練習の問題でしょう。色々な技術を身につけてゆかなければならないのに、選手に新しい技をつけるようにコーチたちはアドバイスしているのかね?

――うーん。ロングスローは確かに武器ですよね。

賀川:阿部勇樹今野泰幸のカタール戦のプレーを見ていると、彼らが気の毒になった。

――消極的に見えたから?

賀川:阿部は、ジェフ市原(当時)にいて、オシムさんにキャプテンに指名されたころから見ている。177センチでそれほど大きくもなく、足がうんと速いわけではない。特色は右足のキック、日本人には珍しく長い距離のボールを蹴れる。CKを蹴ると、ファーポストへ届くボールをコントロールキックできる力があった。彼よりも上の世代、たとえばカズ、三浦知良はキックの精度の高い選手だが、コントロールの距離はCKならニアポストだった。

――イングランド戦のCKで、井原だったかがヘディングで決めましたね。

賀川:古いファンなら皆覚えているでしょう。カズのコントロールキックと井原のヘディングの合作が生んだ、ウェンブリースタジアムでの日本の歴史に残るゴールですヨ。ただし、そのカズでさえ、ファーポストへのキックとなると精度はいまひとつ。それはキック力、ゴルフでいえば300ヤードを楽に飛ばせる人は250ヤードはコントロールショットになるのと同じ理屈ですよ。
 長蹴力ということになると、日本人選手は外国選手に劣るのは仕方ないが、だからこそ、長蹴力のある選手は武器としてみることが大切――。

――前にも一度うかがいましたね、この意見。

賀川:ここからはちょっと踏み込んで言わせてもらおう。
 その阿部は、DFもとりあえずこなせるものだから、ポジションが一定せず色々な使われ方をする。長いキック力を生かせるコントロールキックのパスを使うチャンスがなくて、ここしばらく伸びが止まっている。

――というと…

賀川:早い話が、スクリーニングという身のこなし、あるいは動作は、古い時代はCF(センターフォワード)の技術のことだった。背後からセンターバックにマークされていてボールを受けるから、それを止めて、仲間に渡すポストプレーとともに相手の出方によってはボールと相手の間に自分の体を置いて、ターンして抜き去るとか、抜くと見せてキープして時間(間)を稼ぎ、仲間へ有効なパスを出す。そのスクリーニングは、いまの世界のトップのサッカーではどのポジションの選手もできるようになっている。もちろん、一流チームでもDFの選手がクリスチアーノ・ロナウドほど上手にスクリーニングできるわけではないが……。
 アジアでも、もうディフェンシブハーフも後方からのパスを受けることも多くなって、スクリーニングが上手にできなければならない。カタール戦では、阿部が相手のプレッシングで簡単にボールを失ったのは、日頃こういう動きを必要としていないからだろう。つまり、代表のボランチをするのに、そのポジションに必要なプレーを自分のチームで蓄えてきていない、と言える。

――ほかには?

賀川:阿部は私の好きなプレーヤーの一人。だからあえて言うと、右のすごいキック力があるのだから、若いうちに左足のキックをもっと練習すべきだった。左足で蹴れば、そのときは右足で立つことになる。だから相手とのボールの奪い合いでも体のバランスが良くなって強くなるのだヨ。

――いまからでもできるようになるでしょうか。

賀川:ローター・マテウス。あのドイツ代表のキャプテンとして90年ワールドカップに優勝した名選手も、右足の強いシュートだけでなく、左でも蹴れたが、それは27~28歳になってから練習したと言っている。

――どんな得がありますか?

賀川:たとえば、彼が左サイドでボールを受けたとする。左足のキックができるようになり、走りながら左足クロスを蹴ることができれば、縦にドリブルしてチャンスをつくれる。ドリブルで抜けなくても、パスを出してもらって蹴ることもできる。そして、もし左で蹴るチャンスを押さえられれば、切り返して右で蹴ればいい。そうなれば右の長いコントロールのクロスでファーサイドの味方に届くし、ボールもあるわけだ。

――分かりました。得意の右を生かすためにも、左のキックの能力を上げろ、ということですネ。

賀川:そう。今野は、守備の勘、危険地帯の察知力は高いし、労を惜しまぬランもある。左のキックはしっかりしているハズだが、それも近頃は満点とはいえない。力もそうですヨ。

――一口で言えば、進歩が遅いということ?

賀川:彼らのすぐれた素質から見ればネ。阿部はヘディング力を上げ、今野もそれでチームの特典に貢献しているから進歩はしているのだがネ。もっともっと伸びる人たちですよ。

――俊輔は頑張っていますね。

賀川:素晴らしいネ。しかし、セルティックでフルシーズン戦った後はやはり疲れが残っている感じだね。故障もあるだろうし、彼らしくないプレーもいくつかあった。それだけに、今年の移籍がどうなるのか――気になるね。


【了】

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日本代表 vs カタール代表(4)

2009/06/17(水)

――一つの試合で得点できなかったチャンスを、もう一度振り返ってみることは大切ですね。

賀川:日本の多くの指導者が神様のように思っているデットマール・クラマーも、いつも言っていますヨ。もっとシュートの練習をしろ、とネ。ただし、そのシュートがなぜバーを越えたのか、なぜポストの外へ外れたのか、一本一本の失敗について選手もコーチもよく勉強してほしいと言っている。

――ウズベキスタンでは相手のシュートミスもあったし、カタール戦も、ずいぶんカタールのシュートミスに日本は救われた。それでもPKで1点を取られた。

賀川:あの落ち着いた楢崎正剛が、PKのときヤマをかけて先に左へ(キッカーから見て右へ)動いたのは損だったが……。あれはちょっと聞いてみたいところだネ。

――そのPKとなった原因は、中澤佑二のホールディングでした。“手を使う”ことについて、賀川さんはウズベキスタン戦のときにも日本選手の手の使い方が“あからさま”すぎると言っていましたね。

賀川:そう、フィリップ・トルシエというフランス人の監督が、日本人プレーヤーは手や腕の使い方が下手だといって、代表の練習で教えた。その練習がまたテレビで日本中に映しだされた。トルシエは相手が手を使うことへの対応のつもりだったかもしれないが、「世界中、手や腕を使うのは当たり前で、これが上手にならないといけない」という感じになってしまった。だからJリーグでも手を使う反則は多い。
 そしてどういうわけか、ここのところ後方から手を使う反則にアジアでもレフェリーの判定が厳しくなっているように感じる。

――JFAの審判委員会の見解を聞きたいところですね。

賀川:審判でなくても、それぞれのクラブのコーチたちが試合のビデオを見直して、笛を吹かれたファウルのうち、手を使ったファウルがどれだけあったか調べて数字に表せばいいことですヨ。いまはそういうことを抜き出せる装置も開発されていると聞いている。だが、そんな便利な機械がなくても、きちんと調べれば出てくるはずですよ。
 前にも言ったかもしれないが、昨年のJリーグ終盤の優勝に絡む鹿島アントラーズジュビロ磐田の試合での鹿島の決勝ゴールは、左FKから岩政がヘディングで決めたが、そのファウルはマルキーニョスに対する駒野の後方からのプッシングだからね。大して強く押したわけじゃないが、マルキーニョスの上手なスクリーニングに対して駒野が背後から体を寄せていったときに駒野の手が前に出ていた。接触してマルキーニョスが前に倒れたときに、笛を吹かれた――と覚えている。

――そう言われても、いまから代表選手の手を前に出す癖は直りますか?

賀川:それは心がけ次第。それとともに、若い世代が、相手にかわされたときに簡単に手を使って(ホールディングなので)相手を止めようとすることで、体の反転や足のステップといった身のこなしが発達しなくなるのが問題ですヨ。南米やヨーロッパのトップクラスでも手を使う見苦しいプレーが多い。相手に負けまいとする意識、自分の局面での責任を果たそうとする意欲は大切だが、ものには限度があり、バランス感覚がなくてはならない。手を全く使うなと言っているのではないが、いい選手というのはそういうものだと言いたい。

――ちょっと話が深いところへゆきましたが、ともかく、7戦無敗(4勝3分け)でオーストラリアでの最終戦を迎えることになりました。

賀川:岡田監督はチームをうまく導き、選手たちも徐々に力をつけて結果を出してきた。人口1億のサッカー大国の日本という観点からすれば、そのトップである代表チームの実力がこのままであってよいわけではないが、歴史とそのあゆみからゆけば、まずいいところだろう。アジアの代表になったのだから、本番ではそれこそ世界を驚かせてほしい。そのためにも、オーストラリアとはいい試合をして勝ってほしい。中村俊輔が出場できないかもしれないが、それでも勝っても不思議ではない相手だ。


【つづく】

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日本代表 vs カタール代表(3)

2009/06/16(火)

――ゴールというのは、クリーンシュートや豪快ヘッドばかりではないわけですね。

賀川:こういう地味なゴール、相手から頂いたゴールもまた大事な得点の一つですよ。
1960年代のマンチェスター・ユナイテッドの名FWデニス・ロー(Denis Law)も「輝かしいプレーの集積のゴールもあれば、混戦から生まれるものも、オウンゴールもPKもあるが、すべては1点となり、ゴールはとても重大なものだ」と言っている。

――デニス・ロー……いま、サッカーマガジンで連載している『我が心のゴールハンター ~ストライカーの記憶~』の、デニス・ベルカンプ(オランダ)の憧れの人ですね。

賀川:6月10日のこの右サイドの攻めからのオウンゴールも、最後のところは相手選手であっても、その過程はデニス・ローのいう輝かしいプレーの集積だからネ…。それはともかく、このゴールは場内の6万のサポーターを喜ばせ、2点目への期待を高めたが、なかなかそうはゆかなかった。

――9分に、左サイドから攻めて2点目のチャンスがあったのですが…

賀川:これは左サイドの今野泰幸と田中マルクス闘莉王のパス交換から、闘莉王が左前のスペースへロブのボールを送り、玉田圭司がいいタイミングでDFラインの裏へ走り抜けて、ペナルティエリア左からゴールライン近くまで入り込んでクロスを送った。完全に裏を取った玉田の走り込みからノーマークのクロスだったのだが…。

――GKブルハンが体に当て、そのリバウンドを岡崎が走り込んで左足に当てたが、左ポスト外へ出ていった。

賀川:玉田がDFラインの裏でボールタッチしたときには、ニアサイドに岡崎、ゴール正面に俊輔がいた。パスのボールの強さもあったのだろうが、ボールはわりあい速く転がって、玉田はスピーディにエリア内に入り、ゴールライン近くまで来た。

――賀川さんがいつもいうエリア内ゴールライン近く、絶好のチャンスですね。

賀川:ただし、この位置へ来ると角度が狭くなってクロスは難しくなる。GKブルハンは超ノッポときている。通常、このあたりからのクロスは少し後ろ目へ戻すグラウンダーか、GKの上を越えるフワリとしたクロスか、そしてGKとDFラインの間を通す速いクロスかのどれかになる。玉田は自分の位置から見て、GKとDFラインの間を抜こうとしたのだろうが、左足サイドキックで蹴ったボールはGKに当たってリバウンドした。それに岡崎が反応したが、DFに絡まれて出した左足ではきちんと叩けず、足に当たったという感じで左外へ出てしまった。

――こういう場合、評論家は「狙いは良かったが…」という言い方をしますが…。

賀川:左ペナルティエリアの根っこ、つまり左ゴールポストから16.5メートルとゴールエリアの根っこつまり5.5メートルまでの間、ゴールライン近くからのクロスは、先に言ったとおり、DFはCKと同じでボールを見れば相手FWの動きを見失うという難しさがある。だから、正確なパスが味方にゆけば絶好機になるが、この位置へ入り込んできたプレーヤーが何通りかプレーを正確にできなければならない。

――玉田はそれほどのバリエーションは持っていなかった?

賀川:この位置でパスのバリエーションを持っているプレーヤーは日本では少ないヨ。玉田選手は体が強く、ドリブルも速く、またかなり強い持ち方もできる私の好きなタイプのFWだが、得意の左足シュートでもバリエーションは少ない。

――となれば、

賀川:もう少し早く、角度が狭くならないうちに左足でシュートをするか、DFラインとGKの間を速いボールを通すか、だろうね。彼は左足でニアサイドを抜くシュートはほとんどしない。2006年のW杯、対ブラジルの先制ゴールは、彼の数少ないサイドへのシュートの得点だが、その後もほとんど見ていない。練習すれば、彼のように運動能力の高い人ならすぐできるようになるだろうがね。
 もちろん、あの角度でもクロスを出すと見せてニアサイドへシュートすることも熟達したFWならできるはず。大事なことは、この日は裏へ飛び出した彼が自分のフィニッシュプレーをイメージして最初のタッチをしたか、そしてそのイメージが、ゴール前に詰めた岡崎と俊輔と同じものだったかどうか――知りたいところだネ。

――試合の後で話し合っているでしょう。

賀川:現代のサッカーは守りの組織が良くなり、守備の選手の個人能力がアップした。特にゴールキーパーの体格が良くなって、守る範囲も広く、体の動きもスピーディになっている。したがって、ゴールを決めるにはシューターの個人能力アップとともに攻撃側の何人かのプレーヤーがフィニッシュについてのイメージを共有することも必要となってくる。この9分のチャンスは、玉田のスピードを生かしての左からの突破であっただけに、モノにしておきたい一つだった。なぜゴールできなかったかを、皆で考えたいところだね。

――こういうチャンスをモノにできれば、試合は楽になる。

賀川:ウズベキスタンでも2点目を取れなかったために苦しくなった。この日も同じ。特に、本番へ行けるという、“ひと山”を越した後だから、疲れるとそれがまともに響いてきた。


【つづく】

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日本代表 vs カタール代表(2)

2009/06/15(月)

――位置は左寄りからですね。

賀川:ハーフライン手前、日本側エンドで左タッチライン寄り10メートルくらい内だった。内へドリブルした憲剛の右、センターサークル中央近くに中村俊輔がいた。憲剛からパスを受けた俊輔はうまいトラップとターンで相手をかわして前へ向いた。記者席から見ていて、俊輔のピポット・ターンに思わず「ウマイ」と叫んでしまった。

――そんなにうまかった。

賀川:中村憲剛のパスが、むしろ俊輔が欲しかった位置より後ろ目に来たのだが、俊輔は左足を伸ばして彼の長い左足のリーチでこのボールを止めた――というより、自分の方へ引き寄せ、相手が一人接近するのを見ながら実に簡単に前へ向いた。

――この場面は、もし好きな方があればビデオでご覧になって下さい――というところですね。

賀川:そうだね。ジネディーヌ・ジダンというフランスのスターは、あの大きな体でのピポット・ターンが有名だが、俊輔のこのときのターンもまた大したものだ。
 ターンをして、そのまま左足で右オープンスペースへグラウンダーのパスをした。ボールを受ける前からノーマークの大きなスペースがあり、内田篤人にここでプレーさせようと考えていたのだろう。スタンドの記者席から見て、少しパスのスピードが遅く、内田が取れるかどうかと見えたが、タシケントで体調を崩し、スタジアムにもゆかずに静養したという内田は元気でスピードを上げて走り、DFのスライディングよりも早くボールを取って縦にドリブルし、ペナルティエリア右外ギリギリで中央へライナーのクロスパスを送った。

――そこへ岡崎慎司が走り込んできた。

賀川:岡崎は日本側エンドでのボールの取り合いに加わって、右足ボレーで叩いて憲剛にボールを渡した後、すぐ前方へ走り出し、左サイドから斜め右、ペナルティエリア中央へ入ってきた。記者席からは、彼が相手の一人とコース取りしながらニアポスト側へ走り寄ってきたところへ、内田からのライナーのクロスが来た。それが岡崎でなく、アハメド・アリ・F・A・アルビナリの体、腹部のあたりに当たってゴールに入った。

――テレビではGKカセム・ブルハンの位置が前に出たように見えました。

賀川:あとでビデオを見ると、カセム・ブルハンは前へ出てクロスを自分で取ろうとしたようだ。だからニアポスト側があいて、アルビナリに当たったボールが入ってしまった。

――岡崎の走り込みも効いたのかな。

賀川:もちろん、オウンゴールだが、内田と岡崎にアシストをつけたいところだネ。ペナルティエリア中央にかかるあたりで左から斜めに走ってきた岡崎がいったんニアに出ようとしたのを、アルビナリが体を寄せて(おそらく腕を使って)押し返しながら併走した。岡崎は粘っこい体だからこういう密着、あるいは絡んでのプレーでそう簡単に譲らないから、何秒間か2人は絡んで併走してきた。そこへ右サイドから速いボールが来た。アルビナリは左手側で岡崎を押さえながら、だから右からお腹の高さに来るボールを足で処理できず、体に当ててしまった。
 次の日の朝日新聞(大阪版スポーツ面)の写真を見ると、彼が左手で岡崎の右腕のシャツを握っているところをバッチリ捉えている。おそらく左手で岡崎の動きを封じていたものだから、体の向きを変えられなかった(体でボールをポストの外へはじくことができなかった)のだろう。ニアサイドへ飛び込むのを得意とする岡崎のニアへの執念が生んだオウンゴールだと言える。


【つづく】

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日本代表 vs カタール代表(1)

2009/06/14(日)

2010 FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会 アジア最終予選
6月10日(神奈川・横浜国際総合競技場)19:39
日本代表 1(1-0 0-1)1 カタール代表
得点者:オウンゴール(日 2分)アリ・アフィフ(カ 53分)

【日本代表メンバー】
GK: 1楢﨑正剛
DF: 22中澤佑二(Cap.)4田中マルクス闘莉王、6内田篤人
MF: 5阿部勇樹→8松井大輔(58分)、7橋本英郎、10中村俊輔→13本田圭佑(81分)14中村憲剛、15今野泰幸
FW: 9岡崎慎司、11玉田圭司→13興梠慎三(67分)
SUB:18都築龍太 3駒野友一、17山口智、12矢野貴章

【カタール代表メンバー】
GK: 2カセム・アブドゥルハメド・ブルハン
DF: 3ハメド・シャミ・ザヘル、6ビラル・モハメド・ラジャブ(Cap.)13イブラヒム・マジェド・アブドゥルマジェド
MF: 5マジディ・アブドゥラ・シディク、10モハメド・アブドゥラーブ・アルヤジディ、11ファビオ・セサル・モンテシン→8メサド・アリ・アルハマド(70分)
FW: 9アリ・ハサン・ヤハヤ・アフィフ→14ハサン・ハリド・アルハイドス(87分)12マジド・モハメド・ハサン→15ユセフ・アハメド・アリ(54分)16アハメド・アリ・F・A・アルビナリ、17モハメド・ヤセル・モハマディ
SUB:1ババ・マリク・ヌジャイド、4ムサ・ハルーン・ジャマ、7アリ・ナセル・サレ、18ワヒード・モハメド・T・モハメド


――アウェーのウズベキスタン戦(6月6日、タシケント)は、とてもしんどい試合でした。今度はホームの横浜だから、日本代表のホームでの予選最終戦はすっきり…とゆきたかったのに――。大苦戦でした。

賀川:タシケントの試合で、精神的にも肉体的にも疲れたのだろうネ。悪いピッチに気を使い、レフェリーの不愉快な判定に、気持ちの上でもプレーのリズムの上でもひっかかりながらの90分間だった。ぶつかられ、タックルでケガをした者もあっただろう。そんな大苦戦で本番への出場権を勝ち取ったのだから、ホッとするな、気を緩めるな――といってもムリな話。選手たちも監督、コーチも、口でも頭の中でも「本番出場が決まった。いよいよこれからがスタートだ」と言ったり考えていたりしていたハズだが、体は正直なもの。タシケントの試合の前ほどに気持ちが高揚していたかどうか――。もし高揚しても、それが体の端々(はしばし)までみなぎっていたかどうか――。

――相手のカタールは、ドーハで強敵オーストラリアと引き分けています。

賀川:オーストラリア側とすれば、引き分けで出場権を取れるのだから無理をしたかどうか。それでも、カタールにとって、グループ最強のオーストラリアと引き分け、勝点5となったから、日本に勝てば勝点8。6月17日のバーレーン対ウズベキスタン戦の結果によっては、3位となって、プレーオフの望みが出てくる。ブルーノ・メツ監督はもちろん、選手たちの士気も高まっていただろう。

――しかし、日本はキックオフ2分後にゴールを奪った。

賀川:そう、相手が攻めに出ようとするからウラが狙いやすいこともあった。オウンゴールだったが、攻撃の仕掛けもよかった。
 日本のキックオフで始まり、後ろから右へ回して攻めようとして、カタール側に取られ、カタールの右サイドからの攻めのとき、ドリブルをファウルで止めてFKを与えた。右タッチ寄りで35メートルくらいの位置かな。11番をつけたファビオ・セサル・モンテシンが左足で日本のゴール前へライナーを送り込んできた。
 これを阿部勇樹が低い姿勢でヘディングして、その高く上がったボールの落下点でのボールの奪い合いから岡崎慎司がボールを取った。足に当てたボールが中村憲剛にわたって、そこから得点への攻めが始まった。


【つづく】

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アウェーの大ハンデの中で大一番に勝った日本代表の実力(3)

2009/06/10(水)

■岡崎・憲剛が生きた先制ゴール

――それが、大事な試合で出ましたね。

賀川:前半9分のこのゴールは、すでにテレビや新聞で皆さんも何度も注目し、読み直されたことと思う。ピッチが日本向きでなく、レフェリーが明らかに日本側に厳しかったという2つの大ハンディキャップで、見る者にもプレーする選手たちにも不安が出そうなときの先制ゴールだったからネ。

――中村憲剛のパスがうまかった。

賀川:右サイドから裏へ走る岡崎の前へ、少しボールを浮かせてパスを送った。彼はサイドキックでゴロ(グラウンダー)の正確なパスを出すのだが、この日の深い芝の状態を見て、転がすより空中(ライナー)のボールの方が正確に届くと見たのだろう。小さくボールの底を蹴って浮かしたボールを岡崎が走りながら右足のインサイドでピタリと止め、相手DFに追走されながらバウンドに合わせて左足でボレーを叩いた。ボールがGKに当たって跳ね返ったのを、岡崎は前に倒れながらヘディングした。ボールはGKの左を通りすぎてゴールへ飛び込んだ。

――自分で蹴ったリバウンドを決めたのですからね。

賀川:私は、2002年W杯の前にモロッコでの対フランス戦でモリシ(森島寛晃)が決めたゴールを思い出したヨ。

――ああ、DFラインの裏へ飛び出してシュートし、そのリバウンドを決めたゴール。あの大選手ドゥサイイーが、モリシに何か口汚く罵ったそうですね。

賀川:彼らにとっては予期しない出来事で、W杯優勝チームのディフェンダーは驚いたのだろうネ。実はこの岡崎の先制ゴールはかつてのモリシと同じように彼がディフェンスに参加したプレーから始まっているんですヨ。

――へぇー。


■守りのヘディングから岡崎は攻めに転じた

賀川:このチャンスの少し前に、ウズベキスタンが右サイドから攻め込んできた。8番をつけたタフなジェパロフがスローインして味方に当てて、そのリターンを受け、左足で高いボールを中央へ送った。ペナルティエリアすぐ外に落下したボールをジャンプヘディングで取ったのが岡崎だった。

――そこまで戻っていたんですね。

賀川:この少し前、中村がジェパロフにタックルしていたからネ。
(1)岡崎がヘディングで前へ送ったのを
(2)中村憲剛が取ってすぐ前を向き、ドリブルして誰もいないスペースへ持ち上がって
(3)ペナルティエリアへ行くまでに相手の2人に挟まれてボールを奪われた
(4)奪ったウズベキスタンはバックパスをしてDFが前へ蹴った
(5)このボールを長谷部が取った。ノーマークだった
(6)前方右に大久保がいた。岡崎はその前にスタートして右外へ上がろうとしていて
(7)長谷部はすぐ前の中村憲剛に5~6メートルのパスを送った
(8)憲剛はターンをしながら右外側から走り込んでくる岡崎のコース、DFラインの裏へ送った

――自陣ペナルティエリアから相手のゴール前まで岡崎は長いランをした。

賀川:そう、岡崎の走力はすごいが、ただし、このチャンスは中村がドリブルを奪われ、その相手のパスを長谷部が取る。そして長谷部がすぐに相手DFの裏へ出すのでなく目の前の憲剛に渡し、憲剛が裏へ送り込んだから、この間、岡崎のランは間にタメが入っている。この日、中村憲剛をこのトップ下に置いたことの効果がここにも出ていたよ。

――このあとにもチャンスはありましたが、得点にはならず。特に後半は押し込まれて大変でしたね。

賀川:このゴールはまさに、いまの日本サッカーの実力を示す見事な得点だが、その後の苦い時間を防いだのも日本サッカーの実力ですヨ。中澤と闘莉王、それに両サイドのFB、さらには中村俊輔、遠藤、長谷部たちの素晴らしい守りのプレーもまた歴史に残るものだ。

――いくら押し込まれても、その間にもう1点取っておけば楽だったのに…

賀川:それについてはまだまだ、付け加えるべき話もあるし、言いたいこともある。特に攻撃の選手にはネ。ただし、1点差だから相手が元気づいて最後まで試合を諦めなかった。それに対してこちらも気迫で負けなかった。中澤や闘莉王がヘディングで跳ね返し、楢崎がハイボールやシュートに対応しているときの動作を見ていて、日本の守りも強くなったものだと思ったヨ。サッカーはゴールだけで決まるという冷厳なもので、ウズベキスタンもいくら攻めてもシュートがきちんとゴールへゆかなければ点にならないのだから。

――その点でまた、持論のシュート力が出ますね。

賀川:サッカーの基本の大切さは、どちらのチームにも公平なものだ。今回はとりあえずよく勝ってくれてありがとう、アウェーのしんどさ、グラウンドとレフェリーに負けなかったことに感謝するのだが――。
 もう一つだけ言っておくと、日本代表のプレーヤーはトルシエ元監督が手を使うことを自ら範を示して教え込んで以来、手を使うのが当たり前のようになっている。日本の選手の手の使い方は前へ出すから目立ちすぎると思う。だから、レフェリーの“片手落ち判定”のように見える中に、“手を使う”動作が明らかだという言い訳をつくらせているように見える。これまでも、明らかな腕の使用(プッシング、ホールディング)について話したことがあったが、今度のアウェーのハンデを語るときにこの問題を考えておきたいネ。

――残り2つの試合は?

賀川:岡田監督は、この試合までの26試合、キリンカップ、キリンチャレンジカップ、W杯の3次予選と最終予選、アジアカップ予選などのそれぞれの試合で選手を見極め、少しずつチームの強化を図って徐々に狙い通りの代表をつくってきた。選手たちもまた、その効果を感じ始めているだろう。
 本番にゆけることが決まったいま、休養はもちろん大切だが、代表チームの全員が揃って2試合できるというチャンスを生かしてステップアップを図ってくれるでしょう。選手たちは大人だから、十分にそのことを感じているハズだ。


【了】

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アウェーの大ハンデの中で大一番に勝った日本代表の実力(2)

2009/06/09(火)


■史上最強のCDF

賀川:いまの日本代表は、オシムさんが病に倒れ、岡田監督に代わってから1年半、最初の公式試合は2008年1月26日のキリンチャレンジカップだった。以来、W杯予選の3次予選、最終予選、AFCアジアカップ2011予選、そしてキリンチャレンジカップやキリンカップなど26試合を重ねて、タシケントでの戦いが27試合目。それらを通じて、チームは次第に整備され強化されてきた。
 中央のDFに、中澤佑二田中マルクス闘莉王の2人が揃った。GKは楢崎正剛が故障回復で戻ってきた。ゴールキーパーを含めてこの3人の守りは、身体の大きさや技術そして経験の面から見て史上最強だろう。その控えがまだ必ずしも同レベルにはないとしても、大型DFが揃うようになった。

――阿部勇樹今野泰幸もいます。

賀川:彼ら2人はボランチ役が適所だが、どこでもやれるし、長身とはいえないがヘディングは強い。何でもできるために損な使われ方をしているが、得難い才でもある。特に2人はもともとキックがうまいので、ディフェンダー全体のキック力アップにつながっているとも言える。

――ふーん、そういう見方もありますか。サイドバックにも新しい2人を加えましたね。

賀川:これは監督の“目”だろうネ。内田篤人の適性は誰もが認めるところだったが、長友佑都というプレーヤーの性格と体力、技術に着目した点はすごい。

――これまでの駒野友一もいて、まず後方が固まりました。


■速くて機敏なFW

賀川:中盤は多士流々の日本だが、FWは誰が見ても適格者が少なかった。

――小さくても速くて積極的に仕掛けられる選手をどんどん登用しましたね。

賀川:もちろん、小さいというのは欠点ではなく特徴だが、ヘディング、高いボールの取り合いとなると長身者に比べてハンデはある。日本ではかつての釜本邦茂のように、大きくて強くてシュートは右も左も蹴れるといったFWがなかなか出てこない。

――1960~70年の182センチという釜本さんの大きさは、いまのサッカーなら186~190センチという感じですからね。

賀川:Jのクラブのコーチの中にも、ストライカーが日本で育つのは難しいなどという人もいるくらいで、なかなか育ってこない。それも困りものだが、日本人でチームをつくらなければならない岡田監督は、日本人の特徴である機敏性あるFWを選んだ。
 ちょうど2008年の欧州選手権(EURO)でスペイン代表が優勝した、小柄なミッドフィルダーと攻撃メンバーのプレーが世界に大きな衝撃を与え、小柄な選手と、それを抱える指導者たちにも大きな自信を与えた。岡田監督は自分自身の考えを大事にする人だから、スペイン流に飛びついたわけではないだろうが、腹の中ではニヤリとしたかもしれない。

――しかし、その小型で敏捷なFWもなかなか点は取れなかった、そこへ岡崎が現れた。

賀川:興梠も岡崎もそれぞれ特色があるが、岡崎は、前にも言ったとおり、滝川第2の頃からボールを蹴っている回数が多いように見える。ボールを蹴り、走ることを厭わない彼は、自分のプレーの中で自らの粘り腰、あるいは膝の強さという体に備わった素質を上積みしながら蹴る技術をランクアップしてきた。走り込んでシュートするという、最も基本的な点の取り方のできる選手だろう。上背はあまりないのにヘディングが強く、ジャンプのタイミングがいい。ニアに飛び込んでゆく点取り屋の“厚かましさ”もついてきた。


【つづく】

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アウェーの大ハンデの中で大一番に勝った日本代表の実力(1)

2009/06/08(月)

2010 FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会 アジア最終予選
6月6日(タシケント)19:05 (日本時間 23:05)
日本代表 1(1-0 0-0)0 ウズベキスタン代表
得点者:岡崎(日 9分)

【日本代表メンバー】
GK: 1楢﨑正剛
DF: 22中澤佑二(Cap.)4田中マルクス闘莉王、3駒野友一、15長友佑都
MF: 10中村俊輔→6阿部勇樹(91+分)7遠藤保仁、14中村憲剛→13本田圭佑(66分)17長谷部誠
FW: 16大久保嘉人→12矢野貴章(69分)9岡崎慎司
SUB:18都築龍太、5今野泰幸、8橋本英郎、11玉田圭司

【ウズベキスタン代表メンバー】
GK: 12イグナティ・ネステロフ
DF: 3イルホミオン・スユノフ→13サフブ・ジュラエフ(83分)、4イスマル・チュラホジャエフ、5アンズル・イスマイロフ
MF: 2ハムザ・カリモフ、6ジャスル・ハサノフ、8セルヴェル・ジェパロフ(Cap.)9オディル・アフメドフ、10ファルード・タジエフ→11アンヴァル・ソリエフ(62分)18ティムル・カパーゼ
FW: 15アレクサンドル・ゲインリフ→16シャボズ・エルキノフ(75分)
SUB:1ティムル・ジュライェフ、14コモリディン・タディエフ、7アジズベク・ハイダロフ、17スタニスラフ・アンドレイエフ


――やりましたね、日本代表! ワールドカップ(W杯)の本番へ、アジア代表の一つとして出場権を得ました。

賀川:テレビの前の日本サポーターは終了の笛が鳴るまで緊張したでしょう。まぁ、大変な試合だったが、選手たちは頑張ったネ。0泊3日の強行スケジュールで現地へ駆けつけた応援の人たちも、本当にご苦労さんだった。タシケントまで飛んだ甲斐があったネ。チームも応援サポーターも関係の皆さんも、テレビをはじめメディアの皆さんにも、お礼を言いたい。


■ドイツ大会の二の舞にはならなかった


――それにしても、しんどい試合でしたね。

賀川:日本代表の試合は、相手によってこういう形になることもある。2006年のW杯ドイツ大会のグループリーグの第1戦の対オーストラリアの終盤がそうだった。今回はボールを拾われ、相手の攻撃の時間がドイツ大会の対豪州よりも長かっただけに、見ている側はハラハラの時間も長かった。

――それでも、早いうちの1ゴールが利きました。

賀川:いつも話しているように、いくら押し込まれても、いくら攻められても、ゴールへボールを入れられなければ無失点。こちらが一つ点を取れば1-0で勝つのがサッカー。

――これまでは、そのゴールを奪うのがなかなかできなかった。

賀川:岡田武史監督は――キリンカップのところで話したように――岡崎慎司興梠慎三という新しいFWを代表に加えた。昨年10月のキリンチャレンジカップの対UAE戦から起用するようになり、岡崎の働きが目立つようになってきた。玉田圭司や田中達也たちの故障もあり、この試合に岡崎を登用するのにためらいはなかったと思う。そして5月31日のキリンカップ、対ベルギーで中村憲剛をトップ下に置いてみて、その効果を確かめ、この試合でも憲剛を起用した。

――日本の中盤は、中村俊輔遠藤保仁という、攻撃のときのタイミングの取り方のうまさとパスそのものの正確さでは高いレベルの選手がいます。中村憲剛をその中へもう一枚加えると、FWを削ることになりますね?

賀川:憲剛は自分のチームでも、代表に入っても左右にパスを散らし、あるいはズバリとスルーパスを出すといったプレーには定評がある。しかし、彼にはもう一つ、第2列からトップ下へ飛び出してゆくという魅力がある。

――第2列から前へ飛び出してゆくところですか。

賀川:うん、そうだ。

――そのときに必ずしも決定力が高いとは、賀川さんは見ていなかったのではありませんか?

賀川:中村憲剛のうまさは、前にも言った、ミッドフィールドでDFラインからのクリアあるいはパスを受けてそこからドリブルするかパスを出すかを判断して実行すること。そのためにボールを受けたときに前を向くプレーがうまい。そのために、第2列から飛び出して相手の危険地帯へ入ったときにボールを受けたときに余裕があって、周囲が見え、パスもできるしシュートもできる。
 いまの日本の攻撃は相手のペナルティエリアに多数の選手を送り込もうというやり方だから、その相手の危険地帯へ走り込んでから、多芸の中村憲剛をどういう風に生かすかを、おそらく監督は考えていたに違いない。

――そこに、岡崎という新しいFWのキャラクターが現れた。

【つづく】

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チーム全体の進歩で堂々たる勝利。個人力向上は日本全体の問題(下)

2009/04/03(金)

――いい攻めをしても追加点は生まれない。相手に1点取られれば引き分けで大変なことになる――と思いませんでしたか、このあたりで。

賀川:終盤に入って、長谷部に代えて橋本英郎(76分)玉田に代えて松井大輔(79分)田中に代えて岡崎慎司(86分)を投入した。こういう交代も、適切と言えるだろう。選手たちは、自分で攻め込むときと時間稼ぎをするときの考えも一致して、それほど危ない感じはなかったね。

――1点しか取れないということは…?

賀川:試合の後の記者会見で、ずいぶん攻めてチャンスもあったが“点が入るような気がしなかった”という辛辣な質問もあったが、岡田監督は「入りそうにないかもしれないが、これを繰り返す以外にないと思う。日本人に何が欠けているのかを検討する気はない。今は目標に向かうだけだ」と言っていた。

――JリーグでもFWは外国人が多い現況ですよね。

賀川:監督はそうも言っていた。だからといって、そのことについて論じるよりも、自分は今の日本人全体の戦力の中でどうするかだけだ、ということだろう。
 岡田監督は、オシムが病で倒れた後を引き受けてここまでいいチームづくりをして、手応えを感じ、ワールドカップ出場へも一歩ステップを進めた。まことに立派な仕事をしてきたと思う。

――ワールドカップでベスト4に入って世界を驚かそうという高い目標を掲げていますね。

賀川:得点力不足について、とくに困るのは大型ストライカー。大型で優れたFWについては、日本人の資質の問題に置き換えてしまう専門家の多いことだ。

――そうではないのですか?

賀川:その前に、今の練習法、育成法でいいのかどうか、そしてまた、大型でなくても点を取れる選手はどうして育ってくるのか――についても、日本全体にまだよく勉強していないのじゃないかナ。クロスをはじめパスの精度にしても、練習の質と回数だからネ。
 この話は近々しっかりと話したいが、今のサッカーマガジンに連載している「我が心のゴールハンター ~ストライカーの記憶~」での釜本邦茂シリーズを読んでもらえば、ヒントはあると思っている。

――勝って気分がいいのだし、その話もまた聞かせて下さいね。



【了】

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チーム全体の進歩で堂々たる勝利。個人力向上は日本全体の問題(中)

2009/04/02(木)

――47分(後半2分)の1ゴールだけだったから、相手の攻撃のときはヒヤリとしたんじゃないですか。

賀川:前半に一度、後半にもあったネ。しかし全体としては守りはしっかりしていた。奪われたらすぐ奪い返すというこのチームの考えと、それを実行する力はすごいネ。後半にはいくつかの決定的なチャンスも作った。

――内田(篤人)のノーマークシュートがバーに当たったのも惜しかったです。

賀川:まず、チーム全体としては

(1)久しぶりに楢崎正剛がゴールキーパーとして代表メンバーに戻りピッチに立ったこと。ケガで休んでいた間のコンディショニングが良かったとみえて、むしろ元気になって動きも良かった。
(2)中澤佑二田中マルクス闘莉王の2人のCDFもしっかりしていた。
(3)左の長友佑都は前半は攻めに絡み、後半もしっかり守るだけでなく得意の長走も見せた。
(4)右の内田篤人は、守りはともかく攻めで得意のドリブル突破ができず、前半はちょっと苛立っている感じだった。足に故障があったとかだが、相手も速くて、縦に抜けなかった。今日は調子は良くないぞと見ていたら、後半に3度もビッグチャンスに絡んだ。やはりいい選手だよ。
(5)遠藤保仁は、俊輔とは別の面での“うまさ”を発揮した。守りのポジショニングを見るだけでも、ヒザを打つ思いがするのだが、攻め込まれたあと味方が取ったボールを前へつなぐときのプレーもまたホレボレしたネ。

――遠藤が下がり目で、長谷部誠が飛び出しましたね。

賀川:彼はドイツのブンデスリーガへ行ってから、接触プレーに強さと粘りが出ていたことは、前にもお話したハズだが、それの守りと、前へ出る動きでいい働きをした。激しいというよりファウル・タックルの多い相手とやり合う強さはこのチーム全体の心意気を表していた。全体にエリア内に人数を多く入れてゆくという今のやり方の中で、彼がもう少し遠いところからシュートを狙う回数を増やせば、もっと変化が出るかもしれないし、そうした能力をつけて欲しいところだ。

――同じドイツにいる大久保は?

賀川:いつも試合に出ている状態ではない――というところがプレーにも出ていた。ワンタッチパスでいい場面を作ったり、守りでもよく働いていたが…

――本領のゴール奪取は…というところですね。

賀川:大久保に限らず、いや大久保以上に田中達也や玉田圭司の速さと、前述の奪われたら奪い返すプレーの連続には感服する。しかし、今のFWはこの守備の要求もこなして、なお得点もしなければならないので大変だ。

――そのFWよりも内田にビッグチャンスが後半3回ありました。

賀川:後半10分ごろだったかに、相手に攻め込まれ左寄りからのFKというピンチがあった。このカウンターから内田が飛び出してペナルティエリア内でロングパスを受けたのだが、トラップミスで相手GKサイド・モハメド・ジャファルにボールを取られてしまった。このカウンターはFKを取った楢崎から遠藤に渡り、ここから長谷部―遠藤―田中と右サイドでパスを交換して前進し――こういうときの遠藤のタイミングの計り方のうまさは絶品といえる――田中からリターンをもらった遠藤がボールをペナルティエリア内に送ると、その落下点に内田が走り込んでいた(内田の動きを見たから、遠藤がボールを送った)。
 相手FKのときに、味方ゴール前でたしかサルマン・イサをマークしていたハズの内田が、右でパス交換しての持ち上がりが進んでいる間に長走して相手ペナルティエリア内に侵入したひらめきと動きは素晴らしいものだったが、残念なことに落下してくるボールを右足アウトサイドでタッチして、それが大きく体から離れてしまった。

――テレビで見た者には一瞬、「内田がそこにいた!!」という感じでした。

賀川:決めておけば歴史に残るプレーだネ。このすぐ後に、今度は田中達也のドリブルシュートがあった。中村俊輔の見事なパス、日本の左を警戒していた逆をとってのアイデアからだが、田中のシュートがGKの体に当たって2点目にはならなかった。
 先ほどの内田のバーに当たったシュートは、このあと少したって65分(後半20分)ごろかな。これもバーレーンの右CKを防いだ後のカウンター攻撃。日本側のヘディングのクリアを拾った俊輔が左の玉田へ、玉田はドリブルで中央へ持ち込み、右サイドの内田にパス、ノーマークの内田はとラッピングしたあと強いシュート。ボールはGKの手をかすめ、バーに当たって跳ね返った。うまい攻めといいシュートではあったが、今度もゴールを奪えなかった。

――決定機でしたね。

賀川:内田はこの後にも、今度はペナルティエリア外からノーマークでダイレクトシュートするチャンスがあった(これは左ポストの外に外れた)。この攻撃は長友の縦パスから田中―玉田―中村―大久保とつないで、大久保が俊輔からのロブのパスを落下点でダイレクトで右へ振った。これをダイレクトで蹴ったところは内田らしいともいえるが、エリアの外からでもあり、私にはちょっと疑問が残った。



【つづく】

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チーム全体の進歩で堂々たる勝利。個人力向上は日本全体の問題(上)

2009/04/01(水)

2010FIFAワールドカップ南アフリカ アジア最終予選
2009年3月28日(埼玉スタジアム2002)19:20
日本代表 1(0-0 1-0)0 バーレーン代表

【日本代表メンバー】
GK: 1楢﨑正剛
DF: 15長友佑都、4田中マルクス闘莉王、2中澤佑二(Cap.)6内田篤人
MF: 7遠藤保仁、17長谷部誠→12橋本英郎(76分)10中村俊輔、16大久保嘉人
FW: 11玉田圭司→8松井大輔(79分)9田中達也→13岡崎慎司(86分)
SUB:18都築龍太、3駒野友一、5阿部勇樹、14中村憲剛

【バーレーン代表メンバー】
GK: 1サイド・モハメド・ジャファル
DF: 7モハメド・フバイル、14サルマン・イサ、16サイド・モハメド・アドナン
MF: 4アブドゥラ・ファタディ、10モハメド・サルミーン(cap.)12ファウジ・アイシュ→11イスマイール・アブドゥルラティフ(89分)13マムード・アブドゥルラフマン、15アブドゥラ・オマール→2アブドゥラ・アブディ(75分)3アブドゥラ・マルズーク
FW: 8ジェイシー・ジョン
SUB:18アッバス・アハメド、6ダウード・サード、17イブラヒム・メシュハス、5アブドゥラ・アルダキール、9アハメド・ハッサン

――日本代表、やりましたね。勝点3を積み上げて、5戦3勝2分けの無敗で勝点11。現時点でオーストラリアを抜いてグループ1位になりました。メディアの中には“王手”の見出しも出ました。

賀川:いい試合だったし、見事な勝利だったから、とても嬉しいが、まだ予選突破は決まったわけではない。もちろん、3試合を残している6月シリーズのうち一つ勝てば勝点14となって2位以内が確定するから、近づいているとは言える。

――4月から6月までの2ヶ月間、岡田監督の進退問題の記事が出ないだけでもいいんじゃないですか。

賀川:そうだネ。日本のサッカーファンでも悲壮感なしに6月を迎えられるからネ。何より選手たちは今のやり方で少しずつチームになっていることを実感しているハズですヨ。今度のバーレーン戦は色んな意味で一つのヤマと言えるかもしれない。

――となると、勝利の一番具体的な原因、中村俊輔のFKから話して下さい。

賀川:前半にもチャンスはあった。開始早々、田中達也がDFラインのウラへ走り込んで右ポスト近くからシュートしたのもあったし、24分だったか、遠藤保仁の右CKを中澤佑二がヘディングしたのもあった。田中のシュートは右ポストの外へ、中澤のヘッドは相手DFのカバーに防がれたが…。

――記録を見ると、日本のシュートは8本。相手は2本でした。やはりシュート力ですか。

賀川:バーレーン側の守りもしっかりしていた。試合直前の両チームのスタートリスト(先発メンバー)を見ると、バーレーン側は生年月日は記入されているが、身長・体重はなかった。

――日本側は書いているのに…ですか。

賀川:そうね。まぁ体格というのは一つの情報だからネ。74年ワールドカップのあのオランダ代表も身長は書かなかったネ。それはともかく、したがって、彼らの正確な高さは分からないが、明らかに185以上は数人いた。平均して脚が長く、それが速く動く。リーチもある。いい攻めをしても最後のシュートのところで体を寄せられ、足を出されて、いい形でシュートできなかった。だから後半はどこでFKを取るだろうかと見ていたら、いきなり玉田がゴール正面20mでファウルをもらった。

――いい位置でした。

賀川:玉田圭司はもともと足が速く、ドリブルには自信を持っている。代表でも名古屋グランパスでもFWで得点を期待されているが、ボールを持ち出しての突破そのものに威力があるプレーヤー。このときは右から中へペナルティエリアの外を横にドリブルした。右から中へだから、左足でシュートもできる形になる。相手はファウルで止めた。それまでペナルティエリア内で日本選手が走り込んで倒された中にはファウル気味のもあったが、この場合はペナルティボックスの外でもあり、レフェリーの笛が鳴った。

――カベに当たりましたね。

賀川:ゴール正面、20m少しあったかナ。カベには5人入っていた。中村俊輔はすぐそばの遠藤保仁に渡し、遠藤が止めたのを左足で蹴った。

――少しポイントをずらしたわけですね。

賀川:キックの位置を動かしたことでカベが割れ、俊輔の蹴ったボールは左から2人目の3番をつけたアブドゥラ・マルズークの頭に当たって高く上がり、方向が少し変わってGKの上を越えゴール右上隅に落下した。

――理想的なコースになりました。まさに好運。

賀川:俊輔も狙ったのだろうが、私はマルズークがヘディングで防ぐときに頭を下げたのが一つのポイントと思った。場内の大画面で映し出されたのを見ると、はじめに目を開いてジャンプした彼はボールに当たる瞬間に腕でカバーするようにして頭を下げた。

――真正面から9メートル15のところで蹴ったボールが向かってくれば、怖いでしょう。

賀川:ボールが接近したときに、そのボールから目を離したハズだ。頭を下げたためボールは頭をかすめて、日本側にとっては理想的な曲線を描いてゴールへ入った。

――ヘディングの鉄則は、ボールから目を離すな――と、いつか言っていましたね。

賀川:ボクは、日本代表のストライカーの中で最もヘディングの上手だった釜本邦茂選手のプレーを何度も生で見たし、1秒間25コマ撮りのフィルムを見たが、彼のヘディングは常にボールをとらえる前、とらえたとき、その後も、ボールを見ていた。もちろんボールが当たった瞬間、衝撃で目をつむることはあるが、直前、直後、しっかり見つめていた。
 有名なアーセナルとの試合でのダイビングヘッドの場面では、ボールをとらえ、自分は地面に落下して横倒しになったまま、まだボールを見ている写真も残っている。

 この3番の選手は、スタートリストではFWと記載されていた。長身の丸坊主が目立つプレーヤーで16番のサイド・モハメド・アドナンとともに中央部をしっかり守っていたが、このFKのときは気の毒な役割になってしまった。

――それによって俊輔の功が割り引かれることはなくても、ですね…。

賀川:もちろん、彼の球筋あってのことだし、前述の玉田のドリブルあってのFKということ。つまりチームの意志で、このチームの一番の武器であるFKを生かしたことには変わりない。
 余談だが、今度の試合も中村俊輔のキープとパスのうまさには何度も感心させられた。メモを見ると、「思わずウマイと声が出た」という書き込みもあるヨ。



【つづく】

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オーストラリア相手にチャンスをつくった。決定的な形もあった。それで得点できないのには、不運だけではなく理由がある

2009/02/18(水)

2010 FIFAワールドカップ 南アフリカ アジア最終予選
2009年2月11日(横浜・横浜国際)19:20
日本代表 0(0-0 0-0)0 オーストラリア代表

【日本代表メンバー】
GK: 18都築龍太
DF: 15長友佑都、4田中マルクス闘莉王、2中澤佑二(Cap.)6内田篤人
MF: 7遠藤保仁、17長谷部誠、8松井大輔→16大久保嘉人(57分)10中村俊輔
FW: 11玉田圭司、田中達也→13岡崎慎司(83分)
SUB:1川島永嗣、3寺田周平、5今野泰幸、14橋本英郎、12巻誠一郎

【オーストラリア代表メンバー】
GK: 1マーク・シュウォルツァー
DF: 2ルーカス・ニール(Cap.)3クレイグ・ムーア、
MF: 4ティム・ケーヒル→9ジョシュア・ケネディ(85分)5ジェイソン・カリナ、8ルーク・ウィルクシャー、11スコット・チッパーフィールド、13ビンチェンツォ・グレラ、16カール・ヴァレリ、18マーク・ブレシアーノ→10デービッド・カーネイ(92分)
FW: 14ブレット・ホルマン→7リチャード・ガルシア(64分)
SUB:12マイケル・ペトコヴィッチ、15ジェイド・ノース、6マイケル・ジェディナク、17スコット・マクドナルド

――0-0、残念でしたね。

賀川:いい試合だった。オーストラリアはアウェーで引き分けたのだから満足だったろう。日本が勝てなかったのは残念なことだが、私は、日本対オーストラリアというカードが、日韓戦とはまた別の新しいアジアのビッグカードとなったのは両国のためにもアジアのためにもとてもいいことだと思っている。スタジアムを6万5,000余りの観客が埋め、テレビでもたくさんの人が見たのだから。

――テレビ朝日の中継放送の視聴率は22.9%といいます。

賀川:プロ野球が、本来ならシーズンオフなのにワールドベースクラシック(WBC)と称する国際大会で話題づくりができるようになってきた。大リーグで活躍する選手たちも日本代表に入って、注目度も高くなっている。そうしたときに、ワールドカップ(W杯)のアジア予選の、それも第1クールでこれだけ盛り上がっているのだから……

――大きな目で見ればそうも言えますね。

賀川:イビチャ・オシムという、日本のメディアの間で信仰に近い人気を持っていた監督が病に倒れたあと日本人の岡田武史監督に代わって、1年少々の間にチームは徐々に変化して力もついてきた。そのことを、今度の対オーストラリアで見せたと思う。

――オーストラリアのピム・ファーベーク監督は、日本がよく動くこと、パスワークがいいこと、早いことなどは全て想定内だったと言っています。

賀川:危機感を盛り上げることで団結してゆこうという日本側と、1週間前からやって来て内外に聞こえるように“自信満々”と言いふらして弱味を見せまいとする相手側との対比も面白かったネ。双方とも“度”が過ぎると見た人もあるだろうし、適当だったと見る人もあるだろう。そういう中で日本代表が少しずつ進化してゆくのが大事なことです。

――日本のシュートは11、相手は3。

賀川:イングランドのプレミアリーグでも得点しているティム・ケーヒルエバートン)、あの4番をつけて最先端にいたスリムな選手を中澤佑二が完封した。闘莉王との協力も良かった。1本、フリーにして中距離シュートされる場面もあったがGK都築龍太の正面だった。
 相手は守りを重視してまず無失点に、チャンスがあれば攻撃に出て点を取ろう――と。そのときの中心になるのがケーヒルで、その彼に仕事をさせなかったのだから。

――3本のシュートのうち、もう1本はノッポのムーアのヘディングでした。

賀川:前半42分に、右CKからのプレーだった。もう1本は後半(84分)の、ブレシアーノのFK(オーバー)。
 前半はじめに日本が攻めてチャンスが続いたあと、しばらくオーストラリアのプレッシングが効いて日本が受け身になる時間があったが、それ以外は日本側がコントロールした。

――何が良かったのでしょう。

賀川:点を取りにゆこう、という意欲が強いこと。そして、サイドへ散らして外から、あるいは中央部を――と、色々なテを使ったこと。もちろん、一人ひとりの技術の高さやスピードもある。その典型的なのが前半5分の玉田圭司のシュートだった。

――田中達也が相手バックラインの裏へ走ったチャンスでした。

賀川:右サイドの中村俊輔から中央やや右寄りの玉田の足元へパスが出て、玉田は戻りながら長谷部誠へバックパス。このとき中央左寄り前方にいた田中達也が右斜め前へ走り出す。長谷部が、玉田からのバックパスがバウンドしたのを高い位置のボレーでとらえてポーンとバックラインの裏へ送り込んだ。
 バウンドしたボールをダイレクトで蹴ったのが長谷部のうまいところで、田中はオフサイドにならず全くノーマークで走り抜けてゴールライン近くからよく狙ってスピードを殺したクロスを送った。玉田が足の速さを見せつけて相手DFのニアで取り、シュートは右ポストの外へはずれた。左利きの彼らしく、右から来るボールを左足でタッチしてニアサイドを突くつもりだったのだろうが、そうはゆかなかった。田中達也にボールが渡ったところまではパーフェクトだったが…。

――これが決まっていれば、ずいぶん変わった展開になったでしょうね。

賀川:この3分後に、今度は内田篤人がゴールエリア左外へ走り込んでパスを受けるというすごい場面もあった。内田が右から中央部へドリブルし、遠藤保仁に渡して、そのまま中へ走り込む遠藤から玉田へ。玉田はそれを内田へ送った。相手は一人ついてきたが、少し遅れていた。
 私は内田のシュートチャンスと見たが、彼はキープし、後方の松井大輔にパス。松井のシュートは相手に当たってゴールへ届かなかった。

――これも、エリア内に侵入してボールを受けるところまでは良かったと?

賀川:この、5分と8分の2つの相手DFラインの裏へ走り込んでのチャンスづくりは、おそらく、攻めの動きのパターンのうちに入っているハズで、練習していたものだと思う。ただし、この形になったときに決定的な場所でボールを受けた者が何をするかが最重要ポイントとなる。玉田がニアへ走り込んだとき、右足でボールを叩くか、左足でタッチするのか。内田がゴールエリア左外へ走り込んでボールを受け、左足でシュートするのか、ダイレクトで誰かにパスをするのか。それがゴールになるかどうかなのだと思う。

――2つのチャンスが、今の日本代表チームの性格を表している?

賀川:今の日本代表というより、ここ何年かの日本代表。というより日本選手のスタイルだね。実に見事にパスを組み立て、決定的な瞬間を迎えるが、フィニッシュは成功しない。

――内田は、14分にこぼれ球をロングシュートして超オーバーしました。

賀川:たしか、玉田のドリブルから生まれたFKのあとだった。相手DFのヘッドのクリアが中央にいた内田のところへ来たのだが、大きなバウンドにスイングが合わず、ボカーンと蹴ってしまった。落ち着いて処理してから蹴っても良かった。早いうちに蹴っておけ――ということになっていたのかも知れないが。

――前半、玉田がエリアぎりぎりあたりからのシュートを浮かせてしまいましたね。

賀川:右サイドからの内田のパスを、長谷部がジャンプしてヘッドだったか胸だったかで後ろへ落とした。玉田が走り上がって左足でシュートしたが、高く上がってバーを越えた。少し難しいボールだったが、近くに相手がいたわけでもないのだから落ち着いて処理すれば良かった。ビデオのリピートを見ると、バウンドボールの2つ目をショートバウンドで押さえようとしたのが少し遅れたために上がってしまったのだろう。彼は左でのボレーを好む方だが、自分の一番いい形でシュートすることはストライカーの要件の一つだと思う。ドリブルや俊足での突破などで相手に脅威を与えることのできるFWだから、このフィニッシュがもう一つステップアップすれば――と、誰もが思っている。

――彼は後半にも惜しいヘディングがありました。

賀川:長友佑都の左からのクロスに飛び込んだ、79分のチャンスだネ。比較的近い距離からの早いボールだったから、玉田には難しいボールだったかもしれない。ただし、この長友―玉田のプレーを、互いに、どのボールをくれ、どのボールを出すからという連係の極意というか、あうんの呼吸で演じるのがサッカーの面白さだから――。
 今ここで言うと、迷う選手も出てくるかもしれないが、この試合では攻撃のこういうときのテンポが“急”ばかりで、合わせるポイントは「一つだけ」、というサッカーをやっているところにゴールを奪う難しさがあったともいえる。

――「緩」と「急」についてはまたの機会にして……。
 後半の玉田のシュートの少し前に、遠藤がすごいシュートを見せましたね。GKマーク・シュウォルツァーが防いでCKになりました。

賀川:そうそう。後半に入って、57分(後半12分)に松井に代わって大久保嘉人が登場した。MFの左サイド、松井と同じポジションだが、当然、彼はゴール前にも現れる。玉田や田中達也との連動も楽しみになる。
 その大久保が、68分に右ポスト際で反転してシュートをした場面があった。左足のシュートは弱くて、GKシュウォルツァーがキャッチした。
 そのあと、今度は70分に遠藤がペナルティエリア外からシュートした。GKに防がれたが、いいシュートだった。これは、左から遠藤が大きく振って内田へボールを送り、内田が余裕をもってキープしている間に中央へ遠藤が入り込み、内田から横パスをもらってダイレクトシュートしたのだった。2人による長い横のワンツーからのシュートだった。
 遠藤と内田という柔らかいプレーをする2人の合作チャンス。いいシュートだったが、もう少しどこを狙うかを決めて欲しかったネ。何といっても遠藤だから……。

――テレビを見ていて、岡田監督が一番口惜しがったのは86分の長谷部のシュートでしたね。

賀川:クロスを上げても長身の相手DFに跳ね返される。CKやFKも成功しないという流れが、この頃になるとオーストラリア側の動きが鈍ってきて、クロスに対してもGKとDFが重なったり、シュウォルツァーのパンチがペナルティエリア内に落ちたり――といった守りの乱れも出始めていた。
 これだけ攻められれば、徐々に綻(ほころ)びるのはどこも同じだと見ていたとき、相手の攻撃でのFKを防いだあと、大久保が中央で拾い中村俊輔に渡し、俊輔のドリブルでカウンターが始まった。その俊輔から右サイドの内田にボールが出て、内田がクロスをファーに送った。落下点には長谷部がいて、相手のDFの上を越えて落ちてくるボールをボレーで叩いた。シュートはゴール前へ飛んだが、ゴール正面にいた大久保に当たって左ポスト外へ出てしまった。
 相手に攻め込まれたあとのカウンターから、中村俊輔のドリブルと内田へのパスの間にゴール前へ大久保と長谷部も走り込んで、その長谷部がファーポスト側にいてノーマークでシュートするという理想的な形だったが……。

――大久保に当たったのが不運だったでしょうか。

賀川:なぜ大久保に当たったか。大久保はどう反応すればゴールインになったのかも考えることになるだろうし、また、ボレーを押さえてゴロのシュートにしたのがいいのか、ライナーあるいは高い強い球を蹴るのがいいのか。これからはそこまで考えたり議論したりすることになるだろうし、なって欲しい。

――チャンスがなぜ点にならないかを――ですね。

賀川:ストライカーという人種は、点が取れなかったことをくよくよ思わないそうだが、それは、1試合に1点ずつ、あるいは60試合で50得点といったクラスの話だろう。そこへゆくまでは、“何故”入らなかったか――を考え、点を取るための練習をするハズだ。

――チームは良くなっていると言いましたね。

賀川:例えば内田篤人。キリンチャレンジカップのあとで、内田がチャンスを生むパスを出せるようになってきたと語り合ったでしょう。この日も彼からいいパスが出た。だから右サイドの攻めに変化が出て、多彩になった。

――FK、CKが得点に結びつきませんでしたが……

賀川:中村俊輔のFK、CKはいつも期待を持たせてくれるが、この試合では得点にならなかった。それでも、彼のきめ細かいパスの技は堪能できた。

――例えば?

賀川:前半に長谷部がペナルティエリアの右のラインに走り込んで、俊輔からのパスを受けてチャンスを作った場面があった。俊輔は相手DF2人を前にして、顔は中央に向け、ボールは左足で小さく浮かせてDFが伸ばした足の上を通して長谷部にボールを渡している。これはビデオのリプレーでも映っているから、多くの選手の参考になるだろうが、彼のこうした熟練の技と各選手のランでチャンスづくりのバリエーションは先述のとおりどんどん増えている。

――あとはシュート練習だけですね。

賀川:そう、シュートですヨ。シュート場面で冷静に、正確に蹴れる。処理する選手になるということだが、もう一つ、シュートの場面とタイミングのつくり方もある。これについては、また別の機会にしよう。

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モリシの引退に思う

2008/11/04(火)

 モリシのニックネームでセレッソ大阪と日本代表で多くのファンに親しまれてきた“小さな大選手”森島寛晃(もりしま・ひろあき)が引退した。
 昨年3月に首の痛みが発生してから1年以上試合から遠ざかったまま調子は回復せず、10月30日に引退を発表、31日に記者会見を行なった。

 1991年の高校卒業後、ヤンマーに入り、94年にセレッソ大阪となってからJ1、J2リーグで合計13年間(J1―318試合94得点、J2―42試合12得点)。ヤンマー、セレッソ大阪ひとすじでプレーしてきた幸福と、その間2度、リーグ優勝を目前に敗れ(2000年J1・1st、2002年J2)、また天皇杯でも3度(1994、2001、2003)準優勝に終わった無念――などを記者たちの質問に応じて丁寧に語った。

 驚くべき運動量と、チームへの献身的なプレーは、ゴール前の穴場を見つける独特の感性とともに日本代表でもJリーグでも天皇杯でも発揮され、味方ゴール近くで守備に回っていたところから一気にサイドを駆け上がってチャンスをつくり、あるいは中盤で相手ボールを懸命に追っていたかと思うと次にはゴール前のポカリと空いたスペースに入り込んでゴールを決めた。

 モリシのヤンマー、セレッソでの足跡は、かつてのスーパースター釜本邦茂と同じように、その1試合1試合がこのクラブの貴重な歴史として残るものだが、私が特に印象深いのは2000年前半(サントリーシリーズ)での西澤明訓とのペアプレーの完成期だった。
 日本人のCF(センターフォワード)としては柔軟で特異な反転プレーを生かしつつ、ボールを受けては左右に散らし、あるいはヘディングで自在にパスを出した西澤と、中盤でのボール奪取に絡んでいて突如として相手ゴール前の最も危険な地域に現れるモリシによって、セレッソのサポーターはペアプレーの面白み、サッカーでの「あ・うんの呼吸」つまり息のあったプレーの楽しさを知り、それが得点を生むことに拍手喝采した。

 ゴール前でのチャンスの回数に比べてシュートミスもあったモリシが、自らの工夫でシュートの確実性を増したことが、サントリーシリーズでの優勝を争うことにつながった。だが残念なことに、川崎Fとの最終戦をモノにできず(2000年5月27日、1-2、長居)優勝を逃してしまう。
 さらに残念なことに、名声を上げた西澤明訓がこの年のセカンドステージの後半にスペインリーグ移籍の意向を示し、そのためにチーム全体が浮足立ってしまい、次の2001年にJ2に降格してしまった。
 西澤のスペイン行きは本人にも好結果を生まなかったが、モリシ・西澤の2人が2000年のファーストステージで見せたペアプレーの完成への努力を次のシーズンも続けていれば、日本と関西のサッカーがどれほど楽しいものになったか――いま思い出しても、もったいない気持ちがする。

 彼の能力は95年に日本代表に選ばれてから2002年のワールドカップKOREA/JAPANに至るまで代表チームの一つの重要なアクセントとなっていた。
 95年のアンブロカップで日本代表が聖地ウェンブリーでイングランド代表と対戦したとき、小柄なモリシの俊敏なドリブルにピーター・ベアズリーがたまらずトリッピングのファウルで倒したことがあった。あのあとで英国の大記者ブライアン・グランビルがやってきて「キミが言うとおり、モリシマは素晴らしいネ。ベアズリーのファウルは、本当ならイエローものだからネ」と言っていた。

 2000年前半のモリシ・西澤の好調は、モロッコでのハッサン2世杯でも発揮され、あのジダンやデサイーのフランス代表相手に2点を奪った(2-2、PK2-4)。1点目はモリシの飛び出しとシュートのあと、GKバルテズに当たったリバウンドを自ら決めたもので、その見事なダッシュのあとを追うハメになったデサイーが、失点のあとすごい形相でモリシを睨みつけたのだった。

 2002年の日韓共催ワールドカップのチュニジア戦でのモリシの先制ゴールは、会場が長居だっただけに、関西のファンには記憶に新しい。
 謙虚なモリシ自身は、「98年大会はほんのわずか出場しただけだったが、2002年は大阪で後半頭から出場させてもらい、ゴールを取れて本当にうれしかった」と言っているが、フィリップ・トルシエ監督(当時)がもっとモリシのプレーを理解し、評価しておれば…。対トルコ戦に西澤を使うという予想外の起用をしながら(これもおかしいが)その西澤を生かすのであれば、なぜモリシを同時起用しなかったのか――いまも不思議に思っている。
 この大会を観戦したデットマール・クラマーは初めてモリシを見て、「試合の流れを変えることのできるプレーヤー」と言っていたのだが…。

 森島寛晃という選手の素晴らしさは、釜本のようにパワフルでもなく、ロナウジーニョのように巧妙でもないが、ズバ抜けた機動力で、小さな体でありながらサッカーという競技のスケールの“大きさ”を表現したこと――左サイドの自陣で守りに絡んでいたかと思うと、味方が次にボールを取ったときにははるか離れた右サイドのタッチ際を走ってパスを受けるスペースをつくっていた――。まさに、寛晃(ひろあき)の名のとおりだった。

 同時に、中盤で守備に絡んでゴール前へ飛び出すときの最初の一歩、二歩の踏み出す方向によって自分の行き先を相手に悟らせず、ゴール前に走り込む前に、いったん相手DFの視野から消える上手さはまさに絶品といえた。
 かつて大阪が生んだストライカーでベルリン・オリンピック(1936年)の対スウェーデン逆転劇のヒーローの一人となった川本泰三さん(故人)は、自分のシュートスペースへ入るときに相手の視野から“消える”名人だった。1968年のメキシコ・オリンピックの得点王・釜本もまた、ここというシュートチャンスに入ってくるときに“消えて”から現れる上手さがあった。

 森島もまた、ストライカーの本能的に消える上手さを持っていたが、一つには、彼の中盤でのディフェンス、ボール奪取への熱意がホンモノであったために、相手DFがマークを怠ってはいけないハズのモリシへの意識が薄れたのだろうとも思っている。ボール奪取の絡みにも、ピンチに戻るランにも、一つひとつのプレーに気がこもっているところに彼のプレーの神髄があったといえる。
 Jリーグでのオールスター戦で、彼はいつも輝いて見えた。手抜き感覚の出場者の多いなかで、いつもと同様に走り、相手を追い、ボールを追い、スペースへ走る彼の動きが目立たぬハズはない。オールスター常連のピクシーことストイコビッチがモリシの動きに見事なパスを合わせたから、2人のコンビは多くのファンを心から喜ばせるものとなっていた。

 ピクシーはいま名古屋グランパスで成功への道を歩んでいる。それは彼が常にサッカーにひたむきであった延長線上に現在の仕事を置いているからだといえる。ピクシーにも好かれ、その才能を買われ、常に努力を重ねてきた森島寛晃の第2のサッカー人生が、選手時代と同様に輝くものであってほしい――と願わずにいられない。

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想定外の相手に苦戦。それでも俊輔の名人芸パスと大久保・玉田の気迫で同点ゴール。不満ながら1勝1分け、無敗を保つ

2008/10/21(火)

081021mdp

2010FIFAワールドカップ アジア最終予選
10月15日(埼玉スタジアム2002)19:32
日本代表 1(1-1 0-0)1 ウズベキスタン代表
得点者:シャツキフ(ウ 27分)玉田(日 40分)

【日本代表メンバー】
GK: 18楢崎正剛
DF: 6阿部勇樹、4田中マルクス闘莉王、2中澤佑二(Cap.)15内田篤人
MF: 7遠藤保仁、17長谷部誠、13香川真司→8稲本潤一(76分)10中村俊輔
FW: 16大久保嘉人→12岡崎慎司(62分)11玉田圭司→13興梠慎三(81分)
SUB:1川口能活、5高木和道、3駒野友一、14中村憲剛

【ウズベキスタン代表メンバー】
GK: 12イグナチー・ネステロフ
DF: 2アンズル・イスマイロフ、5アスロル・アリクロフ、11アンバル・ガフロフ
MF: 14ビタリー・デニソフ、9オディル・アフメドフ→アジズベク・ハイダロフ(72分)18チムル・カパーゼ、10イルダル・マグデーエフ→ルスラン・メルジジノフ(57分)6ジャスル・ハサノフ、8セルベル・ジェパロフ
FW: 16マクシム・シャツキフ(Cap.)→アレクサンデル・ゲインリフ(72分)
SUB:1ガイラトジョン・ハサノフ、3ヒクマトジョン・ホシモフ、4サホブ・ジュラエフ、13バギス・ガリウリン

081021
試合前の両チームと、バックスタンドのサポーターによる日の丸


――84歳になって、芦屋から埼玉スタジアムへ出かけるのは大変でしょう。

賀川:今度はインターネットの路線検索で予定表をつくり、それに従ったのでとても楽だった。15日夜に宿泊する東京のホテルにはチェックインは夜の12時を過ぎると連絡しておいて、東京駅からJRの京浜東北線の大宮行き快速に乗り王子で降りて改札を出て、地下鉄の「東京メトロ南北線(普通)浦和美園行き」に乗った。プリントアウトした予定表どおり王子駅15時33分着、地下鉄の駅で15時38分の電車が入ってきた。

――地下鉄は座れましたか

賀川:浦和美園駅着が16時05分、キックオフの3時間以上前の電車でも王子駅で満席だった。観戦の人たちも乗っていた。そのうちの若い人が私に席を譲って下さった。しばらくして隣の席が空いて、その方も座ったので少し話をした。自分がプレーするのは野球で、日本代表のサッカーをナマで見るのは初めてとのことだった。美園駅で別れるときに、「初の日本代表を楽しんで下さい」と言った。そのあとについ、よけいな一言をつけ加えた。

――何と?

賀川:楽しいだけでなくイライラするかもネ――と。もう一人、かなりのサッカー通(つう)らしいその人の連れがフッフッと笑ったが……



0810213
和田アキ子さんの「君が代」は、堂々たる歌いぶりが場内スクリーンでも映し出された



――試合はそのとおりイライラした……

賀川:キックオフ直後から日本の選手たちがスリップしてバランスを崩し、ミスが多かった。関西は前の日に雨だったが、埼玉のピッチはこんなに水はけが悪かったカナと思ったほどだ。

――日本の早いパス回しに合うように、芝の長さを22ミリに短くして、水をまいたとか……

賀川:そうらしい。ところが、その自分たちに合わせたハズのピッチで滑ってバランスを崩したところへ、相手側がはじめからプレスをかけてきた。

――試合後の記者会見で、これまでのウズベキスタンはそういう試合ぶりではなかったから予定外だという話も出たそうですネ

賀川:ウズベキスタンのクラブ(クルブチ)の監督となったジーコ(元日本代表監督)のアドバイスがあったということだが、ジーコでなくて日本が中盤のプレッシングに弱いことは、どこも知っているだろう。早いうちからのプレッシングは体力がどこまで持つかということもあるのだが、気候が涼しくなってきたからウズベキスタンにも好都合だった。

――かなり激しく体をぶつけてきた

賀川:はじめのうち、そういう条件が重なってミスも多く、見る側にもイライラはあった。

――27分に先制されました

賀川:高いボールを田中マルクス闘莉王がボレーで蹴って、それがミスキックで高く上がって落下するのを、イルダル・マグデーエフが中央右寄りで前方へヘディングした。これをチムル・カパーゼが取って日本のゴール前を斜めに横切る早いボールを送り、長身のストライカー、マクシム・シャツキフが左足に当てて先制ゴールを奪った。
 蹴り損なったボールが高く上がって、そのヘディングからアッという間の出来事だった。

――それでも前半のうちに同点ゴールを取った!!

賀川:中村俊輔が執拗にマークされ、何度もファウルで倒された。それでもやはり、見事なスルーパスを送ってチャンスをつくっていた。香川真司がゴールエリア右角辺りに走り込んでいいパスをもらって反転シュートしたが、くっついてきたDFに当たった。ああいうところでの“間”(ま)の使い方を覚えるといいんだが……。
 内田篤人も、右から相手ウラへ走り込んでゴール近くまで行った。パスを出したが、シュートをして欲しかった。

――香川が走り込んで取れなかったチャンス?

賀川:彼ともう一人入ったが、オフサイドのポジションだった。ああいう形の練習をしたのだろうが、ボールを持ち込んだ内田はパスとシュートの両方を選択できたハズだ。

――そういう声はテレビでもありましたネ

賀川:ビデオを見ると、内田はドリブルして持ち込んだとき、インサイドで蹴る形にしていた。だからニアへずばっとシュートは無理だったかも知れない。ボールの受け方と、そのあとの修正という問題もシューターには出てくる。



0810214
この夜は満月がバックスタンドの上方にあった。望遠レンズを使わずに写したら、こんな風に…



――同点ゴールにゆきましょう

賀川:この内田のチャンスの少しあとに、俊輔が右サイド寄りでファウルで倒され、そのFKを短くつないだあと、彼はスタスタとボールから離れた。ボールが動いて、闘莉王からパスをもらったとき、俊輔は左サイドに寄ったところ、ペナルティエリアより少し離れたところにいた。彼は後方からのパスをノーマークでもらい、反転して前を向くとすぐに右のゴールポスト外のオープンスペースへクロスパスを送った。相手側の届かぬ地点へ大久保がすごい勢いで走り込み、バウンドしたボールをスライディングしながら右足を高く上げて叩いた。ゴール正面へバウンドしてゆくボールに玉田が走り込んで、これも左足のボレーで叩いた。相手のGKイグナチー・ネステロフにはどうしようもなかっただろう。

――大久保、玉田のランが生きた

賀川:スルーパスが得点を生まなかったから、今度は早いクロスにしたのだろう。ノッポぞろいのウズベキスタンのDFへ、高いクロスを送っても取られやすいから、早いボールで、しかもファーポスト側を使った。それも、後方からボールを受けて、振り向きざまのクロスパスだからネ。その気配に応じた2人のFWも良かったが、厳しいマークを巧みな移動でかわし(消え)後方からボールを受けたときにこのクロスを出す意志を示しつつ、相手の意表を突くタイミングで送り込むのだから、やはり中村俊輔。天下のパスの名人だネ。

――そのあと長谷部の右サイド突破からのシュート(GKネステロフの体に当たる)、闘莉王のヘディング(ゴール右外へはずれる)といったチャンスも続いたが、追加点は取れず、1-1で後半へ……

賀川:後半はじめから日本の攻勢があって、玉田が2本、大久保が1本、それぞれシュートしたが得点できず、62分に大久保に代えて岡崎慎司、76分に香川に代えて稲本潤一、81分には玉田に代えて興梠慎三が起用された。

――玉田、大久保の2人はここしばらくずっと出場していた

賀川:大久保は例の退場事件での出場停止のために9月6日(アウェーのバーレーン戦)は出られなかったが、まず彼と玉田の2人がここしばらくの攻撃の主軸となっていた。
 大久保はシュートと切れ味という点で、玉田はドリブル突破に魅力がある。第2列からパスを出しウラへ飛び出すのは大久保にとっての働き場所だが、相手が少しずつ上の力を持つDFとなると、彼自身の強さが必要だろう(もちろん本大会でも)。
 玉田は何といっても左足のシュートの型、ニアとファーへ蹴り分ける技を持つことだ。もちろん、もっと若いうちに習得すべきものだが、今からでも遅くはない。この選手くらいスピードもあり、力もあれば、心がけ次第でステップアップするハズだ。

――岡崎、興梠をもう少し早く起用すべきという意見も? 2人は先のキリンチャレンジカップのときほど目立たなかった

賀川:あるだろうが、監督さんは選手たちとの信頼関係もあるだろうしネ。ボクはむしろ、その慎重さに感心した。

――終盤は相手側に足に“けいれん”を起こす選手が続出。一方、日本は闘莉王を前線に上げてロングボール、彼のヘディングボールの落下点を狙うというパワープレーに出た

賀川:体の大きいウズベキスタン相手に力勝負に出るのだから、日本もある意味では大したものだといえる。ただし、どんなテを使っても、低い早いクロスにせよ、最後にシュートチャンスをつくり、それを決める。あるいはそのシュートのリバウンドを押し込むことでゴールが生まれる。どんなやり方でもゴールを生まなければ勝てないのだから……。

――シュートは合計14本(日本)と5本(ウズベキスタン)。得点は1点ずつでした

賀川:中村俊輔は2本のFKがあって、この日は得点できなかった。日本の武器といっても、必ず、いつでも入るわけではない。
 いい攻撃をつくり、シュートチャンスを生み出しているのだから、それがなぜゴールにならないかを皆でもっと考えるべきだろうネ。
 シュートに入る姿勢かもしれない、シュートそのものかもしれない。ボールを蹴るフォームの問題なのか、インパクトの問題なのか。シュートへ入ってゆくコースの問題なのか、体の力の問題なのか――。

――ともかく1勝1分け、2戦して負けなしです

賀川:チームづくりは進んでいるように見える。ただし、長友佑都が欠けると、左サイドで疾走しながらクロスを送ってくる選手が一人もいないのも困るだろう(香川が1本、左足でクロスを出しはしたが…)。
 10月16日、東京駅でいくつかのスポーツ紙に「岡田監督解任か」の大きな見出しがあったのには驚いた。

――ゴールを奪って勝てば、そのヒーローが大見出しになるのにネ

賀川:それだけに、サッカーの1ゴール、1得点、1本のシュートが大切なのだ。昔のことをいうと皆笑うだろうが、ちょうどサッカーマガジンの連載に釜本邦茂のことを書いている。今よりも競技人口がうんと少ないときに、世界に誇るストライカーの出たことも忘れないでほしいネ――。

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