日本代表(A代表)

ヨハン・クライフの“弟子”と“後輩”の戦いにクライフの心情を思う(上)

2010/07/14(水)

――一番間近な決勝、オランダスペインはどうでしたか

賀川:スペイン・サッカーでバルセロナFCが現在のようなスタイルに変わり、そして、それが今のスペイン代表の流儀のようになったのはヨハン・クライフがバルサの監督となってからでしょう。

――1992年のトヨタカップでバルセロナが欧州チャンピオンとして南米のサンパウロと戦いましたが、そのときの監督がクライフでしたね。

賀川:そう。試合は2-1でテレ・サンターナ監督のサンパウロが勝ったが、そのとき初めてバルサを見て、これはオランダサッカーだと、クライフの指導力に改めて感服したものだ。

――それまでトヨタカップにスペイン勢は来ていなかった。

賀川:ヨハン・クライフとオランダ代表が74年ワールドカップ(W杯)で世界に衝撃を与えた試合ぶり、中盤でのプレッシング(囲い込み)と第2列、3列の選手もチャンスにはどんどん飛び出して前へ上がってゆく、いわゆるトータル・フットボールは世界に広まっていったが、イタリアでは1980年代の末からACミランがアリゴ・サッキ監督によってオランダ流つまり現代流への変化が始まり、スペインではクライフのバルサでの変革によってリーグ全体にも浸透したといえるだろう。

――そのクライフの弟子によって変化し進歩したバルサ・モデルのスペインと、クライフの後輩というべきオランダ代表がはるばる欧州を離れた南アフリカで戦うというのも不思議な話ですね。

賀川:あまり古い話を持ち出すとみなさんは退屈されるだろうが、サッカーも、今の形のプレーが行なわれるようになったのにはきっかけがあり流れがある。そうした歴史に目を向けることもまたスポーツの楽しみですから。

――クライフはどんな気持ちで見ていたのでしょう。

賀川:「オランダは醜く低俗だった」と言っているらしい。

――バルセロナでは、今では「クライフがこう言った」というのがまるで昔の「孔孟の教え」のような感じもありますからね。

賀川:ボクは試合の中継テレビを見ながら、スペインのサッカーが長い間のオランダ、ドイツという先進的サッカーからの遅れをクライフによって新しくし、その基盤の上にさらに進化させたのに、オランダはクライフ時代に世界の先端をゆきながら32年ぶりでW杯決勝に進んだ今もクライフの時代をこえていないのではないか――という気がした。
 もちろん、基礎技術などはずいぶん上がっていて、それぞれの選手たちは素晴らしいが、代表チームともなるとちょっともったいない気がする。


【つづく】

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ワールドカップ・南アフリカを終え

2010/07/13(火)

――日本が勝った、次はオランダデンマークだといっているうちにグループリーグが終わり、ノックアウトシステムの1回戦はPK戦で負けてテレビの前で涙しました。南米勢が強いのかと思ったらブラジルがオランダに敗れ、アルゼンチンもドイツに完敗。最後にスペインとオランダの決勝となり、スペインの優勝で閉幕しました。
 南アフリカ大会は大きな事件もなく大成功――。日本でもたくさんの人がテレビ観戦を楽しんだから、まずは良かったということでしょうか。

賀川:私自身はナマで見るためには体調が整わず、今回は何十年ぶりかで日本で見るワールドカップ(W杯)となったが、テレビや新聞をはじめメディアの克明な報道のおかげでずいぶん楽しんだヨ。民放各局とNHKの番組表を、その日の早朝の新聞のテレビ欄で見て録画をするのが大事な日課になっていた。なんだか現地で取材したこれまでの大会より今回の方が一日一日が忙しかったような気がする。

――深夜~早朝までありましたからね。

賀川:大会の前に産経新聞に、「今度の大会に治安が悪いとか運営がどうとか懸念する声もあるが、いつの大会にも懸念材料があり、その都度それを克服してサッカーは大会とともに発展してきた」と書いたが、まずはその通りに――。
 一部のメディアがブラッターFIFA会長についていろいろ批判し、それに追随する日本のジャーナリストもいないわけではなかったが、批判は批判としても、今回の南アフリカ大会はネルソン・マンデラさんに共鳴したブラッター会長をはじめとするFIFAの実力のあらわれと言えるだろう。閉会のときに会長は、FIFAではなく南アフリカに讃辞が贈られるべきだと、南アフリカと全アフリカの人たちの力を強調していた。

――そういう意味でも、賀川さんには現地で見てほしかったですね。

賀川:とても残念だが、現地に行っておれば、私にとっては交通や治安より問題は寒さだったかもしれない。しかし、まだ元気なうちに1ヶ月間の大会を国内で経験し、日本でのW杯報道を報道する側でなく注視する側にいたこともまた、おおげさにいえば85年の生涯でのありがたい経験ですヨ。
 まして今回は、私たちシックスのメンバーがJFA MOBILEのお手伝いをすることになって、日本の試合についてはその仕事の関係もあり仲間とともに深夜の我が家で一緒に対カメルーン、オランダ、デンマーク、パラグアイとテレビ観戦したのだから、とても面白かった。

――日本代表の岡田監督と23人の選手たちについては?

賀川:誰もがそれぞれの立場で努力し、その成果が出たのだからネ。欲をいえばもう一つ勝ってほしかったが、それまでの基礎技術やその基礎の力の習得にかけた努力の総体からゆけば、まあ16強1回戦敗退がいいところだったね。せっかくのチャンス、伸びるときだったから本当はもう一試合やらせたかった。

――その点では、パラグアイ戦は悔いが残ると

賀川:そのことについてはまた別の機会に話したいのだが……。まあ、これも日本サッカーの実力の一つでしょう。

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1次リーグ初戦、対カメルーン(下)

2010/06/18(金)

2010FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会
6月14日23時キックオフ(日本時間)
日本代表 1(1-0、0-0)0 カメルーン代表
 得点 日本:本田圭佑(39)



――その間に、はじめ中央少し右寄りにいた本田圭佑が中央へ、そして松井大輔の切り返しからキックの間にファーポスト側へ移動しました。

賀川:はじめ外にいた大久保嘉人は、松井のキックのときには内にいた。その大久保よりボールに近いところにDFが2人いて、大久保にヘディングされないようジャンプヘディングを試みた。大久保もジャンプした。しかしボールは3人を越え、その外側にいた本田の足元へ落ちた。

――まさにクロスパスという感じでした。会場が高度1,400mにあったからボールが伸びたという解説もありましたが、実際はどうだったでしょう。松井はそれも計算したのかどうか……

賀川:それはとにかく、本田は左足でボールを止め、落ち着いて左足でシュートを決めた。

――テレビのリピートを見ると、立ち足(右足)にボールが当たりましたが、本田は慌てることなく落ち着いていました。

賀川:ボクが名古屋グランパスで最初に見たときの印象は、彼は突っ立ったまま左足で強いボールを蹴れる、またボールの下を叩いて浮かすボールも蹴れるということだった。当時、グランパスにいた長身の外国人選手に長いクロスを蹴って合わせていた。走り込んで蹴るというより、立ったまま蹴れることに強い印象を受けたのだから、本田選手にとってはこういう場面は、いわば十八番(おはこ)でしょう。だから、相手GKの姿勢を見て、左サイドキックで小さく浮かせてポストとGKの間――本田側からいえば左を、GKの右手側を抜いている。

――試合前に監督から何か指示されたか、という(試合後の)質問に、「点を取れ」だけだったと本人は言っています。

賀川:彼の体がしっかりしていて、こういうときにもバランスを保てること、キック(シュート)の強さ正確さを知っている監督の起用だからネ。

――中央から右への展開、右の松井のひと呼吸ののちのクロス、そのボールの飛ぶコース、落下点、シューターの位置とシュートそのもの、何度見てもいいゴールでしたね。

賀川:ビッグゲームでのゴールというのは、どんな泥臭い得点でもやはり美しいけれど、このゴールは組み立てからフィニッシュまで、ちょっとした交響曲のように選手の個性や技術が組み合わされて生まれた――という感じですネ。

――この1点がなければ勝てなかったのですが、これを守る戦いもまた大変でした。

賀川:誰もがひるむことなく、あるいはどこかで気を緩めるということもなくしっかり戦った。もちろんミスもあったけれど、それを互いにカバーした。

――カメルーンはエトオが十分に働けませんでした。

賀川:カメルーンの選手はフランスリーグにたくさんいる。フランスにいる友人によると、フランスの新聞もテレビも「カメルーンが良くなかった」と言っているようです。もちろん、アレクサンドル・ソングという中盤の要(かなめ)になる選手が欠場して彼らのベストメンバーではなかったが、フランステレビの解説者の言う「退屈」な試合になったのはカメルーン側にスペクタクルなプレーをさせなかった日本側の追い方、詰め方、囲み方などが良かったからだろう。それでも、何回かはヒヤリとした。

――GKの川島永嗣もいいセーブをしました。

賀川:調子のいいプレーヤーを試合に出すのは当然ではあっても、安定感のある楢崎正剛でなく川島を起用したのも監督の決断というか思い切りだネ。

――テレビのスポーツ番組だけでなく、ニュース・ショウをはじめ色々なところでこのゴールシーンを画面に出し、勝因を語っているのを見ると、とても嬉しいと同時に、勝てばこんなにも扱いが違うのかと思います。

賀川:それは当然ですヨ。どこかのニュース・ショウの司会者が「手のひらを返すようですネ」と言っていたくらいだから。
 40年前に1970年のワールドカップ・メキシコ大会に取材にゆけなかったとき、日本で外電を読むのとテレビニュースを見るだけだった。この大会の予選に日本代表も出場したが、釜本邦茂が肝炎で試合に出られなくなり、68年のメキシコ・オリンピック代表チームも結局、彼なしではW杯アジア予選では敗れてしまった。もし出場して1勝していても、新聞に載る程度でテレビ報道もほとんどなかったでしょう。
 テレビ東京のプロデューサーだった寺尾皖次さんの話だと、70年大会はカラーのVTRを940万円で購入して、大会後に1年かけて録画放送したそうですよ。

――いまはスカパーが全試合を、NHKが地上波で22試合(生中継)BSで44試合(録画含む)、民放でも22試合の生中継があります。そして先ほどの話にある、ニュース・ショウやら大会の企画番組などがあって、まさにテレビ花盛りのW杯です。

賀川:それだけに、1次リーグの日本の1勝の値打も上がるわけだ。監督、コーチ、選手にもとりあえずご苦労さんと言いたいが、彼らにとっての実際の試合はこれからだからネ。

――オランダのスナイダー選手が、「日本は手強い相手にになるだろう」と語っているそうですから。強い相手と戦い、自分たちの力をフルに発揮してもらいたいものですね。


【了】

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1次リーグ初戦、対カメルーン(上)

2010/06/17(木)

2010FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会
6月14日23時キックオフ(日本時間)
日本代表 1(1
-0、0-0)0 カメルーン代表
 得点 日本:本田圭佑(39)



――対カメルーンから3日経ちました。日本代表の勝利で日本中がずいぶん明るくなった感じですね。日本で見るワールドカップ(W杯)も、まんざらではないでしょう。

賀川:4回連続出場、3回目の2006年ドイツ大会は期待が大きかっただけに1次リーグ3敗はショックだった。イビチャ・オシム監督のもとでの新しい日本代表のスタートは彼の病でストップし、監督を引き受けた岡田武史監督のもとでアジア予選を突破した。それは素晴らしいことだが、予選突破の後のキリンチャレンジカップなどの強化試合で日本代表の調子が悪く、大会直前まで不安視されていた。

――それが、第1戦で強敵カメルーンを破った。これまでの大黒柱・中村俊輔を不調のためにメンバーから外すという思い切ったチーム編成でした。

賀川:多くのファンを心配させただけに、1-0の勝利の喜びも大きいネ。

――そういえば、大会前に岡田監督とお話したとか?

賀川:彼が日本を出る前に、電話で話したヨ。メンバー編成で色々考えていたようだ。ボクは、ともかくオシムの後を引き受けてアジア予選を突破したことでまずひと仕事をした、そのおかげで6月のW杯を日本のファンも楽しめるわけだから、自信を持って、自分で考えたことを実行すればいいんだ――と言っておいた。

――他にも色々、具体的な話もあったのでしょうけれど、まあ、ここでは聞かないことにします。また何年か経ったら……

賀川:対カメルーンは、故障で調子の上がらない中村俊輔を休ませ、対イングランドでテストした布陣を基礎にメンバーを組んだ。カメルーンにはこのメンバーで、このやり方でゆくのだという監督の意図と選手の気持ちが一つになって、ほぼチーム全員が描いていた結果になったのだと思う。

――本田圭佑の起用も当たりました。

賀川:本田は前残りのセンターフォワード(CF)的な役割に最適というわけじゃないが、少なくても、今の日本代表の攻撃メンバーの中で体が一番しっかりしていて、後方からのボールをカメルーン選手と競り合っても、そう簡単に負けない強さがあるし、ボールを受けてもすぐ潰されない技術と体がある。頑張り屋の大久保嘉人の速さと長いランへの意欲が加われば、相手には威力となるだろう。
 右に起用された松井大輔はドリブルができるから、DFからのパスを受けてもすぐは取られない。だから、そこからたとえ有効な攻めにゆけないときでも、彼のボールキープによってDF陣は攻めを跳ね返した後、ちょっと一息つき、マークの再確認する余裕ができる。

――当然、カメルーン相手に守勢が続いたときでも、そういう選手がいるということは守りにも大きく貢献します。

賀川:これまで高い位置からのプレッシングを強調し、そこで奪うと効果的な攻撃へ移ることができる――といってきた。そういう積極的な考えもいいが、押し込まれるときに何かちょっとした救いになるか――ということも大切なんですヨ。

――サッカーは走り回ることも大切だが、ボールキープも重要で、それは1930年代から誰もが知っていること――と、以前言っていましたよね。

賀川:1956年のメルボルン五輪予選の対韓国1回戦(日本2-0)のとき、圧倒的な韓国の攻め込みに耐えたのは、鴇田正憲がボールを受けるとタッチラインを背にして独特のフェイクでボールをキープした。その間にGK古川好男やDF小沢通宏は、マークを再確認し次の攻撃に備えたと言っている。

――最近の日本では、そういうサイドでのキープが攻撃だけでなく守りにも有効という考えはないようですね。

賀川:解説者やコーチはたいてい、このことは知っていますヨ。それをできるプレーヤーがいなかったのだと思う。

――今回は松井がいた。松井は守備面の効果だけでなく、得点となるクロスを送っていわゆるアシストをしました。

賀川:それが本来の彼の仕事ですヨ。あの先制点であり決勝点であった本田圭佑のシュートは、後方からのロングボールをまず本田が競って自分のものにし、後方中央の遠藤保仁に渡したところから始まっている。

――遠藤や長谷部誠がわりあい高い位置にいましたね。

賀川:これは阿部勇樹を2人のセントラルディフェンダー(CDF)田中マルクス闘莉王中澤佑二の前へ置く形にしたことで、それまでの4FBのときのボランチ(守備的MF)と違ってきたからね。とくにこの時間帯は、こちらも攻め、相手も攻めるという行ったり来たりの状態になって、やや中盤でのスペースが広がっていた。

――ボールを本田から受けた遠藤が小さなフェイクを入れておいて、右サイドの松井へ送りました。

賀川:速いグラウンダーで、松井には受けやすいボールだった。相手のアスエコットとは少し間合いがあった。松井が一つ持って右足でクロスを蹴るというジェスチャーをすると、相手はこれに引っかかって背を向けた。松井は右足で左へ切り返し、また一つ持って左足でクロスをゴール前へ送った。

――賀川さんがいつも言う、どの位置から蹴るかで効果が違うということですね。

賀川:NHKの解説で、山本昌邦・元日本代表コーチもよく言ってますヨ。たとえばバルサの攻撃でペナルティエリアぎりぎりからクロスがくると、近くからのクロスだから、タッチラインからのクロスと違ってボールがすぐにやってくる(時間が短い)。だから相手のDFの対抗が難しいとね。
 もう一つ、今回は松井のキック力でゆくと左のクロスだったらタッチラインからではファーポスト近くの目標へ正確に届けるのは難しいハズ。それで大きなフェイクで相手DFをかわして少し中へ持って蹴ったのだろう。


【つづく】

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コートジボワール戦を終えて(続)

2010/06/10(木)

◆ゴールを背にした選手が簡単にバックパスを選ぶ。なんともったいないことだろう


賀川:前回は本番への気持ちの問題について申し上げたが、もう少し、サッカーの細かい技術についても。この話があるいは参考になるかもしれない。

――コートジボワール戦のどこかの場面についてですか?

賀川:0-1となってから23分頃だったか、右サイドで阿部と本田でボールを奪い、本田が突っかけた。そこからしばらく攻勢が続いた。ペナルティエリア左外で、遠藤がボールを受けて中央左寄りの大久保に渡し、大久保はシュートできるとみて中央の阿部に渡した。

――阿部も相手に詰められました。

賀川:それでもシュートして、正面のDFに当たった。そのリバウンドがエリア内で左へ転がった。そこに日本選手がいた。相手側の5人、ペナルティエリア中央から右(日本側から見て)の方へ偏っていて、ボールが転がったところには日本側一人だけ。走り込んでいた長友だった。彼はゴールを背にした姿勢で、このボールを後方の大久保にバックパス。大久保はキープして左サイドに開いていた長谷部へ送り、長谷部がクロスを中へ入れたが、仲間に合わなかった。

――それで、

賀川:僕が不思議だったのは、ゴールを背にしてボールにタッチした長友が、ためらうことなくバックパスしたことだ。大久保もフリーでゴールの方に体が向いていたから正解のようだが、僕はバックパスでなく、何故このボールを受けて反転してシュートへ持ってゆかなかったのだと思った。
 自分がチームの一番先端にいる。周囲に敵もない(いても、少し距離がある)となれば、ターンしてゴールの方を向けばノーマークシュートになったハズ。もしターンが遅くて相手が潰しに来たとしても、相手側をギクリとさせることになったハズだ。とてももったいない瞬間に見えた。
 もちろん、テレビの画面で見る互いの距離感覚は実際のピッチ上とは違う場合もあるから、私の見方が合っているかは現地にいた人たちに聞いてみなくては分からないが、少なくとも私のように古い世代のサッカーをやった者は、せっかくペナルティエリアの中にいて、偶発的にボールが自分の足元に転がってくれば、体がどちらを向いていようとまずシュートする方に気がゆくのだが……。
 サッカーは複雑な競技でもあるが、きわめてシンプルなスポーツでゴール近くでボールをもらえばまずシュートだろうと思っている。

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コートジボワール戦を終えて(下)

2010/06/09(水)

◆全力をつくせば、これまで蓄積してきたプレーのいいところが自然に出てくるもの


――それにしても、対セルビア0-4、対韓国0-2、対イングランド1-2、対コートジボワール0-2と、4試合で1得点ですからね。

賀川:今の日本代表は、全員がベストの体調でしっかりと気合が入る試合をしなければ、どこと戦っても簡単にゴールを奪うことはできない。点を取るというのは、どうして取るかという前に、誰が取るかというのがあるわけ。それを確立しなければね。

――岡崎慎司が一番多く取っています。

賀川:ほとんどが相手の裏へ走り込む、外からあるいは後方からのボールへのダイビングが一つの型ではあるが、一つの型だけだから相手には読まれてしまう。成功するためには、その前の仕掛けに意外性がなければならない。

――高い位置でのボール奪取というのもその一つなんですね。

賀川:まあそうでしょう。そういう条件がそろったときに、日本のゴールが生まれる。

――“誰が”といえるほどのストライカーがいれば、その選手の能力というかプレーの幅というか、そういうもののアローワンスで、完璧のパスワークでなくても点を取る可能性がある。

賀川:そう、そういう国際舞台で通用するストライカーが出てこない。あるいは育ててこなかった10数年の影響が出ているのだから、いまさらそれを悔やんでも仕方がない。

――ということは、この大会は絶望的?

賀川:いや、そうでもない。先に言ったように、全員のコンディションが整って、日本らしく、これまで追求してきたランプレーを気迫を込めて戦えば、このチームはいいチャンスも作れるし、ピンチにも頑張れる。サッカーというのはバルサのように一試合に何度も何度もエリア内に侵入してチャンスをつくるようなチームはそうたくさん世界にない。試合中に3~4回、何人かのプレーヤーの呼吸が合って、パスとドリブルなどの組み合わせが上手くゆくとチャンスになる。そしてそういうときに、シューターがいい位置に入れたり、いい形でボールを蹴ると、ゴールが生まれる。ときには相手側がミスすることもあって、そこがサッカーの面白いところですヨ。

――そんなものですか

賀川:そのためには、そのゴールに至る経路やゴール前へのシューターの入り方などを反復し、また夢にまで見るように体に染み込ませれば、先に言ったバルサやメッシほどでなくても一試合に1点や2点取ることができる。



◆せっかくのチャンスに悔いのない試合をすること。その気迫が勝ちを生む

――今も覚えているのは2002年のとき、次がいよいよトルコ戦という日に、デットマール・クラマーさんにどちらが勝つかと聞いたら「勝利への執念が強い方だ」と言われました。

賀川:今度も同じですヨ。1936年のベルリン・オリンピックで日本代表は優勝候補のスウェーデンに逆転勝ちした。このとき、本番前の練習試合で1勝もできなかった。それで、試合の日は皆、全力を出して勝とうと誓った。リードされて迎えたハーフタイムでも、イレブンは開き直って清々しい気分だったそうだ。今の日本代表にも、カメルーンといういい相手に対して生涯悔いのない試合をしてほしいと思っている。


【了】

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コートジボワール戦を終えて(上)

2010/06/08(火)

国際親善試合
6月4日12時25分キックオフ(現地時間)スイス・シオン
日本代表 0(0-1、0-1)2 コートジボワール代表
 得点 コートジボワール:オウンゴール(13)コロ・トゥーレ(80)



――コートジボワール戦、2失点はともにFKからでした。1点目はペナルティエリア外のFKをディディエ・ドログバが蹴り、壁に入った岡崎慎司に当たった。そのボールがエリアの中央近くにいた田中マルクス闘莉王の足に当たって方向が変わり、オウンゴールとなった。
 2点目は後半35分だったか、ペナルティエリア右角外10m辺り、右寄りのコートジボワールのFKをシアカ・ティエネが左足でゴールに向かう速いカーブボールを蹴って、ファーポストのゴールエリア内に落下し、コロ・トゥーレが決めた。

賀川:1点目はリバウンドを止めようとした闘莉王に当たったわけだから、彼がそこにいたポジションはほぼ当たっていた。ただし、ボールが予想より速かったのかもしれない。2点目は相手の蹴ったボールのコースの読み違いでしょう。GK川島永嗣の仕事になるだろうが、一般論でいえば、左サイドでプレーしている左利きのティエネが右サイド(相手側の)へ行って蹴るのだから、いわゆるフックボール(カーブ)で曲げてくることは予想しなければいけないハズです。
 カメルーンと戦うための準備試合なのに、コートジボワールの個々の選手についての情報の集め方ももう一息のように見えた。

――コートジボワールとは2年前、2008年のキリンカップで南米のパラグアイと日本代表とともに3チームのグループリーグに参加して、日本代表は1-0で勝っています

賀川:このあとのパラグアイ戦を0-0で引き分けて、キリンカップ優勝ということになった。イビチャ・オシムの病で岡田武史監督となってから8戦目だった。
 このとき、コートジボワールは主力の7人が来日しなかった。そのときと今度の対戦に出場していたのは5人だね。ドログバやカルー、ヤヤ・トゥーレといった有名選手はいなかったが強いチームだった。

――今度はそれが本番前で顔をそろえてきました。プレッシングもしっかりやってきた。

賀川:今回、日本側は高地対策をはじめフィジカルトレーニングをしっかり行なった後だから、全員の調子はまだ高まっていない。そのこともあって、前半の早いうちはボールを持たせてもらえなかった。
 コートジボワールがFKでゴールし、すぐその後にドログバが負傷退場して一息つく恰好になり、日本側がキープできるようになった。先制されたゴールのFKも、こちらの横パスが相手のプレッシングで奪われ、そのあと後手後手(ごてごて)に回って起きたファウルからだった。



◆本番に向けて選手それぞれの調子も把握できた


――中村俊輔が後半に出場しました。

賀川:実のところ、今の日本代表の一番の問題は彼の調子がどうか――ということだろう。足の故障が完全に回復しているのか、故障の足だけでなく彼の体全体に疲れがたまっているのではないか――と心配する向きは多い。岡田監督にとっても、俊輔中心でこれまでやってきたチームを彼ナシで本番を戦うのかどうかということになる。

――岡田監督は98年にも三浦知良、カズの難問がありました。

賀川:そういうこともあったネ。遠藤も決していい状態とはいえない。休めば回復するのかどうか――。

――大変ですよね。

賀川:しかし、大会直前であるとしても、本番前に主力選手の調子がいいにしろ悪いにしろ、監督コーチがそれをしっかり把握するのはとても大事なこと。その点では、今年に入ってキリンチャレンジカップなどで日本選手のコンディションを見ることができたのはチームのスタッフにはとてもいいことだ。選手の調子を掴めば、今度はチーム構成、選手の組み合わせを変え、守りや攻めの方策を立て直すことになる。充分ではないが、そのテストもコートジボワールを相手に試すこともできたでしょう。

――だから、負けても決して悪いばかりではないと……

賀川:監督にすれば、選手たち一人一人の状態を掴めたと思う。

――しかし、中村俊輔をもし不調で試合に出さない方がいいと判断するようなことになれば、すごいことですね。

賀川:あらゆる点を考慮して決定するだろう。もう1週間あれば完全回復ということもあるかもしれないしネ。そこは監督の決心でしょう。


【つづく】

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イングランド戦後半(下)

2010/06/04(金)

――ここまでの日本の仕上がりはどうでしょうか

賀川:逆説的な言い方ですが、何といってもキリンチャレンジカップのセルビア、韓国戦で選手も監督もとてもいい経験をした。サポーターたちからの不評を買って、自分たちが何をすべきか分かった。同時に、私たちの大きな財産である中村俊輔の調子がとても良くなかったこと、そしてまた、遠藤保仁のような特異なタイミングを持つプレーヤーも調子がガタ落ちになっていたことを、はっきりと見ることができたのも大きい。だから、このイングランド戦は選手の配置を変えた。

――イングランドを相手にしたとき、それが上手くいったわけですね。

賀川:そう。もう一度上手くゆくかどうかは分からないが、これで少し士気は上がるだろう。同時に自分たちはまだチームとしてワールドカップ本番を戦うのにまだ未完成だということも分かった。

――それは大変じゃないですか

賀川:いやいや大会に向かっては、チームの調子が上がって臨むより、上向きでまだもう少しというときに大会に入る方がいい。これは、日本より上のクラスでも同じことですヨ。

――俊輔、遠藤たちの体調が心配……

賀川:そのために優秀なフィジカルスタッフがいる。岡田監督も、彼らの調子を慎重に見ているでしょう。彼らだけでなく、23人の選手一人ひとりがどのような状態にあるか、体調の維持管理が大切になる。南アフリカは冬で涼しいハズだから、ヨーロッパのチームも彼らの好きな気候で動きの量も落ちないハズ。ドイツ大会のときのように、試合のときに調子が落ちていたのでは困りますからネ。

――攻撃についてはどうでしょう

賀川:イングランド戦でも、長友がせっかく走ってゴールライン近くでクロスを蹴りながらボカーンと出してしまったのがあった。もう少し食い込んでエリア近くからクロスを出せるかどうかもあるだろう。

――イングランド戦は未完成の魅力がありましたが、コートジボワール戦は

賀川:45分を3回、頭の2回――つまり90分を試合の記録として残すらしい。変則練習試合の形を、お互いのチームが望んだのだろうネ。それによって控えの選手にも出番があって、テストもできる。今のチームは、私に言わせれば、選手たちはこれまでよくやってきた。確かに皆マジメでしっかり練習してきたと思う。
 しかし、23人もいて、この中にスローインのときにロングスローを正確に強く投げる者がいるかといえばそうでもない――というふうにまだ不満もいっぱいあるチームだ。

――今野あたりが、ロングスローを隠し持っていないでしょうか…

賀川:何といっても日本のなかで優れた技術と体力と戦う気持ちを持ったプレーヤーの集団なのだから、いい相手に恵まれて、いい試合をすれば一気にそれぞれの力が上がり、個人もチームもステップアップできるのですヨ。私は、2002年の日韓大会で宮本ツネ(恒靖)が第2戦の対ロシアで一段レベルアップしたプレーをしたのを見てとても嬉しかったことがある。稲本潤一もそうだった。今度の大会では、故障だった俊輔も含めて皆がレベルアップを感じる大会にしてもらいたいと思っている。岡田監督と日本代表は45試合も戦ってきたのですよ(イングランド戦含む)。それだけの経験を積みつくりあげたチームなのだから、選手たちも、自分たちのこれまで蓄積してきたもの、潜在力に自信を持ってほしいと思います。


【了】

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イングランド戦後半(中)

2010/06/04(金)

――左サイドから攻められた2点目もオウンゴールでした。

賀川:速いクロスを蹴ったアシュリー・コールに対して、今野が間合いを詰められなかった。これはこちらのゴールキックが相手側の深くに飛び、相手のGKからプレーが再開されたのだが、ハーフラインから10m入ったところでまず本田がDFにアプローチしたが自由にパスを出され、ノーマークの相手が左のアシュリー・コールにパスを出す。広いスペースにいるA.コールは、接近しようとする今野に対して、まず、縦に動いて自らのスピードで脅しをかけ、いったん切り返すと見せてストップ、再び縦に持ち出して強く速いクロスを送った。今野の間合いでは足で止めることはできず、狙い通りのコースへボールが飛ぶ。ゴール正面にルーニーともう一人いた。中澤がインターセプトしようとしたが、中澤の前で落下し小さくバウンドしたボールが足に当たって方向が変わりゴールへ。

――惜しい失点、残念な場面でしたが……

賀川:引いて守れ、というと日本ではすぐ守りの姿勢になるのか――というふうに決めつける。全体の流れの中で、しばらくは手厚く、狭いスペースで守って力を温存した方がいいということも試合中にはある。相手が勢いづいているときに、それをひっくり返す動きができることもあるが、そのときにしばらく耐えることも必要なんですヨ。
 相手ボールでディフェンダーが安定してキープ(近ごろはボールポゼッションという)しているときに、ハーフラインから向こう10mあたりで取りに行くと、ペナルティエリア――いわゆる相手のシュートレンジ近く――まで縦50mほどのスペースが生まれる。そこをバンバン走られれば、守る側は消耗してしまう。奪いにゆくのをハーフライン手前からにすれば、そのスペースが小さくなる。

――日本も、アジアの試合で相手に引かれてゴールを奪うのに苦労しました。

賀川:先日の韓国戦でも、韓国はリードした後半には攻めて出てきたあとサーッと引き上げハーフラインから抵抗線(防御ライン)を引いていたでしょう。

――そういうのは守りの姿勢とかいう根本理念の問題ではなくて……

賀川:単なる試合中の戦術ですヨ。走り回ることは日本サッカーの特徴だが、ムダに消耗するのは損だ。

――そうすれば、攻めのときにも力を発揮できる。

賀川:攻めに関しては森本の出番を考えるべきだろうし、彼も、この大会でもう一段上のクラスに上がるためにはもう少し身につけなければいけないこともある。相手を背にしたときのプレーがある程度できるのだから、それをもっと高めること。シュートのコース(型)をもう一つ増やすことだろうね。それを大試合で掴めば将来のプラスになりますヨ。
 本田も、このところゴールしていないのは何故か自分で考えているでしょう。


【つづく】

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イングランド戦後半(上)

2010/06/03(木)

国際親善試合
5月30日14時15分キックオフ(現地時間)オーストリア・UPCアレナ
日本代表 1(1-0、0-2)2 イングランド代表
 得点 日本:田中マルクス闘莉王(7)
     イングランド:オウンゴール(72、83)



――少し間があきましたが、イングランド戦の続きを。

賀川:1-2で負けはしたが、ゴールをしたのが全て日本選手だったということで、イングランド代表についてのメディアの扱いが面白かったネ。

――現地からの報道にもありましたが、「闘莉王中澤がベストストライカーだ。しかし彼らは日本選手だった」なんていうのも、点を取れないイングランドの裏返しの皮肉ですね。それから、右サイドのセオ・ウォルコットが代表メンバーから外されました。長友佑都に封じられたのが響いたという噂ですよ。

賀川:試合の後半の頭から、イングランドは5人を交代させた。GKをデービッド・ジェイムズからジョー・ハートに、右DFのグレン・ジョンソンをジェイミー・キャラガー、MFのハドルストンをスティーブン・ジェラードに。この下がったのは3人とも失点のときに関係したプレーヤーだ。
 さらに、右サイドのMFウォルコットをショーン・ライトフィリップスに、FWのダレン・ベントに代わってジョー・コールが入った。

――ジェラードとフランク・ランパードの2人をMFで同時に起用するのがカペッロ監督のやり方。ケガで休ませていたジェラードが出てきたので、一気にベストメンバーとしてのイングランドの“格”が高くなりました。

賀川:「相手にとって不足はない」と日本選手は思ったろうね。

――後半はじめから、彼らもどんどん前掛かりになってきた。

賀川:こういうときは、押し込まれるけれどカウンターのチャンスは大きい。だから、逆に日本側にも勝機はあると考えるのが普通なのだが……。特にGK川島永嗣がこの日すごく好調だったからネ。

――それでは、やはり相手が強かった?

賀川:岡田監督はハーフタイムに、2点目を取りにゆこうと言ったという。

――だから前方の守備をしっかりし、高いところで奪おうとした。

賀川:押し込まれ、相手FKを本田が手を挙げて止めるハンドの反則をしてPKを取られた。そのランパードのPKを川島が防いだ。本来なら、このPKの成功で相手が勢いづくのだが、GKのファインセーブで日本はまだリードを保つことになった。

――この幸運を勝ちに結び付けたかったですね。

賀川:PKを川島が防いだのは読み勝ちだが、ランパードともあろう大選手としてはちょっとおかしなPKの蹴り方ですヨ。今は詳しくは言わないが、あのアプローチの角度で右サイドキックなら、相手のGKは読みますヨ。
 イングランドの選手はワールドカップや欧州選手権のPK戦で負けが多いのに、どうもPKのキックについてあまり真剣じゃない感じがしましたネ。天下のランパードのキックを見てネ……。

――ランパードの不運あるいは不勉強は、日本の幸運。それを生かすには……

賀川:このあたりになると、疲れもたまってくる。しかも相手は新手(あらて)が5人。雨が降っていてピッチは滑りやすい。徐々に動きの範囲を小さくして、さあというピンチ、さあというチャンスのときに余力を残そうという考えになって当たり前でしょう。

――それでも、日本はかなり前からプレスにいきました。

賀川:日本流の考えは、攻めるためには人数をかけることにある。多数で攻めに出て、途中でボールを奪われればまた長い距離を走って帰らなくてはならない。だからどこかで休み、どこかで走るというプレーをしなければならないのです。

――相手に走り勝つといっても、もっと要領よく、というわけですか。

賀川:一度左サイドで3人でパスを回し、遠藤がファーポストへクロスを送ったシーンがあった。これは岡崎とは合わなかったが、サイドを使ってラストパスまで行った。その次に、今度は早いうちに中央で縦に送ってカットされて一気にカウンターを食らい、右からのクロスを中澤が懸命にヘディングでクリアする場面が続いた。

――21分に左サイドでパスをつないだあと、本田がキープして右へ、ファーポスト側へパスを送り、森本貴幸(大久保に代わって入った)がシュートしました。いい攻撃でしたが……

賀川:そして27分に闘莉王のオウンゴールが出た。右からのジョー・コールのクロスをダイビングヘッドで止めようとして、自分のゴールへ入れてしまった。GK川島がコースに構えていた。川島は声をかけていたハズだが、闘莉王に届いたかどうか――。
 実はこの前に、ハーフライン近くの中央でライトフィリップスがキープしたのに長友、長谷部、阿部の3人がかわされている。そこから右の広大なオープンスペースにパスが送られ、ジョー・コールが取って右から速いクロスを送ったもの。ジョー・コールはノーマークでキープしたから、闘莉王は終始、彼を注視することになり、自分の背後、ゴール正面の様子が分からなかったかもしれない。彼のヘディングとともに、ここはハーフラインでの相手一人を拘束できなかった“囲み”の不手際を反省しなければなるまい。

【つづく】

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イングランド戦前半、アンカー・阿部の成功(下)

2010/06/02(水)

国際親善試合
5月30日14時15分キックオフ(現地時間)オーストリア・UPCアレナ
日本代表 1(1-0、0-2)2 イングランド代表
 得点 日本:田中マルクス闘莉王(7)
     イングランド:オウンゴール(72、83)



賀川:前半5分40秒に、最後列の中澤佑二が前方の岡崎慎司の足元へボールを送った。相手DFを背にして戻り気味に受けた岡崎から、前進してきた阿部にボールが渡り、阿部がダイレクトで前方へ高いパスを送った。そこへ左サイドにいた大久保嘉人が走り込んでいた。彼を追走したグレン・ジョンソン(182cm)が、このボールをヘディングしてCKに逃げた。
 この、中澤から岡崎に当てるパスと、岡崎が残して阿部がダイレクトで前へ送る――大久保が突進する、相手DFがコーナーキックへ逃げる、という一連のパス攻撃が、シンプルだが非常にリズミカルだったから、それまでウェイン・ルーニーの大きなランからのゴール前へのパスや、フランク・ランパードの強いシュート(闘莉王が体で止めた)、あるいは右サイドのセオ・ウォルコットの力強いドリブルなどに押し込まれる感のあった日本側は、この歯切れの良い3本のワンタッチパスの攻めで、おそらく気分が盛り上がったのだと思う。

――それが遠藤の右CK、グラウンダーの闘莉王へのパスとなる。

賀川:遠藤のキックも素晴らしかったし、キックの前に阿部がニアサイドで受けようとスタートした。相手DFの一人が阿部の手を掴んで追走した。そのあとのスペースへ遠藤のボールが入ってきた。カーブキックで理想的なコースへ来た。闘莉王は少し膨らむように走って、グレン・ジョンソンよりもわずかに早くこのボールを右足で蹴った。シュートも見事だった。

――闘莉王の強い気持ちと得点力が、仲間との連動でゴールを生んだわけですね。

賀川:その前に、余計なようだがもう一つ加えておきましょう。実はこの、中澤→岡崎のいわゆる「トップへ当てる」パスの前に、長谷部が本田圭佑からパスを受けて小さく外へターンしたプレーがあった。長谷部はこのターンを時々するのだが、どちらかというと前へ前へ出る彼としては珍しいプレーの一つ。今回はその小さなターンでボールが一度右寄りに小さく動いたことで、彼から中澤に渡ったとき、中澤から岡崎への間に誰もおらず“当てる”パスが出しやすかったのだと思う。

――連動が上手くゆくときは、一つひとつの動作がそれぞれ効いているわけですね。

賀川:そう、阿部のことを少し長めに話したのは、左外からの大久保の突進を感じて岡崎からのボールをダイレクトで彼が前へ送ったこと、それも相手の危険地帯へのボールだったから、ジョンソンはためらいなくコーナーキックへ逃げて、こちらの最初のチャンスとなったのですヨ。こういうところで必要な技術を発揮することが何よりなんですヨ。

――いつも賀川さんが言っているポジションプレーですね。

賀川:各クラブから選んで日本代表をつくりあげるときに、それぞれのポジションで必要な技術がある。その基礎ができていれば、防ぐのも攻めるのも協調や連動をしやすくなるのだが、各位置で必要なキックや必要な動きができなければ、いくらたくさん走っても効果は薄い……。テレビの解説でも、コメンテイターは元代表MFだけあって「阿部が良く利いている」と注目していた。

――俊輔のケガで、いつもと違う代表チームのシステムになり、それが守りだけでなく攻撃にも上手く結びついたのを見たわけですが、こういういいゴールを取ったけれど、イングランド相手に勝つことはできませんでした。

賀川:こういう展開になれば、勝ちにつなげたいし、悪くても引き分けでゆきたいところだが、そうはゆかなかった。もちろん、南アフリカ大会の優勝候補といわれるイングランドに勝つのは難しいこと。実力は向こうが上だが、サッカーの面白さは、力の上の相手にも勝つところだからネ。それについては後にお話しましょう。
 1点取ったからこそ、昨日は日本全体が、負けても多少はいい気分でおれたハズです。その1点の意味ということで、阿部の起用が守りだけでなく先制ゴールにも結び付いたというところをまず申し上げたのです。


【了】

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イングランド戦前半、アンカー・阿部の成功(上)

2010/06/01(火)

国際親善試合
5月30日14時15分キックオフ(現地時間)
オーストリア・UPCアレナ
日本代表 1(1-0、0-2)2 イングランド代表
 得点 日本:田中マルクス闘莉王(7)
     イングランド:オウンゴール(72、83)



――日本代表、やりましたね。イングランド相手に先制し、2-1で敗れはしましたが最後まで気迫のこもったいい試合をしました。

賀川:韓国戦が悪かっただけに、代表チームはどうなるんだという心配が高まっていたが、田中マルクス闘莉王が戻ってきて、中澤佑二とのCDF(セントラル・ディフェンダー)のところがしっかりしたからチーム全体が良くなった。もちろん、闘莉王の闘志を表に見せる試合ぶりや彼の持つ明るさなどがチーム全体に与えるいい影響もあっただろうしネ。

――岡田武史監督がアンカーに阿部勇樹を置いたのも、効果があったように見えます。

賀川:阿部はこのポジションの適役ですヨ。もともと彼は中盤の、古い言い方でゆけば守備的MF役が本業のハズだが、どこでもこなせるという賢さのために最後のDFラインにまわったりしている。
 彼は若い頃から、日本のプレーヤーとしては珍しく長いボールを正確に蹴れるのだから、ボールを拾ったときには大きな威力となる。その個性を生かさないテはないと、リーグでも代表でもボクは不満に思っていた。彼自身ももう少し自分の良さを仲間にアピールした方がいいのだが、日本の代表になろうかという選手なら、彼の「得意ワザ」を他の選手も理解すべきだと思うネ。

――というと、例えば

賀川:韓国戦のタイムアップ直前に、カウンターからPKになって2点目を奪われたことがあったでしょう。

――確か、こちらが攻め込んで中央左寄りのFKのチャンスがあって、そのボールが相手に渡ってのカウンターでした。

賀川:そう。確か森本貴幸がゴールラインから25~30m辺りの左寄りの位置でファウルされたFKを、長谷部誠がボールをプレースする前に日本のDFに上がれ上がれと声をかけた。

――ラストのチャンスと見たのでしょうね。

賀川:それはいい。だから、中澤佑二と阿部勇樹も上がってきた。こういうときのためにと投入していた矢野貴章もいたハズだ。そのFKを長谷部が蹴った。低いボールで、一番近い相手側に当たって再び長谷部が拾い、もう一度蹴った。ボールはゴール前へ届いたが、中澤はヘディングできずにボールは流れ、相手の左サイドからの攻めに転じそこからFWに渡って中央を突破され、楢崎が止めたときにファウルとなって、PKで2点目を失った。

――そこで、

賀川:ラストチャンスの攻めだと思ったのなら、阿部に蹴らすべきではなかったか。長谷部はもちろん、ドイツのボルフスブルクで試合をしているレベルの高いプレーヤーではあるが、阿部のプレースキックを選択する気はなかったか――と思ったネ。

――近ごろ阿部は、自分のチームでもFKを蹴っていないのじゃないですか

賀川:若いころ、ジェフユナイテッドでは蹴っていた。コーナーキックをファーポストへコントロールキックできた選手ですヨ。浦和では近ごろ少し攻撃的な役柄もしているけれど、もっともっとクラブも代表も生かせる場所があると思っていた。

――それが、今度のアンカー役だった?

賀川:中村俊輔を休ませて、イングランドという強敵と戦うために岡田監督が考えたのだろう。前半の先取点は闘莉王と遠藤保仁の素晴らしい合作だが、それに阿部が一役加わっていることを知っておいてほしい。

――ふーむ、阿部ですか。


【つづく】

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日本代表23人が決まり、いよいよ本番へ向かう

2010/05/11(火)

◆代表発表会で

――2010FIFAワールドカップ代表が決定しました。発表会場にも出向いたそうですね。

賀川:岡田武史監督の顔を見ておこうと思って、出かけたんですヨ。

――どうでしたか。

賀川:大仁邦彌JFA副会長(今度の選手団団長)原博実技術委員長と岡田監督と、3人が出席した。ずいぶん多くのメディアが来ていたね。

――人気低迷などと言っていても、やはりワールドカップ(W杯)代表ともなればということですかね。

賀川:まあ、そういうことだろうが……。日本のメディアというのは人事関連ニュースが好きだから。政治の話でも、誰がどんな政策をということより、誰と誰がくっつくか――といった話の方を大きく取り上げる。


◆5月5日の香川、アマラウのゴール

――5月5日のJリーグの試合でも、試合の面白さより代表候補がどんなプレーをしたかということに終始していました。

賀川:セレッソ鹿島アントラーズに2-1で勝った試合でも、香川真司がこの試合のゴールで代表に選ばれるのではないか――といった調子でネ。もちろん、香川はいいシュートをした。新しい型のシュートを決めたということで、これは彼には喜ぶべきことだが……。チームにとっては、この試合でMFのアマラウが積極的に潰しにゆくのが目立った。その彼の姿勢が、1-1からの2点目につながってセレッソの勝利になった。

――鹿島のGK曽ヶ端が野沢(またはその手前の味方選手)に投げたボールをアマラウが奪い取ってシュートしたゴール。

賀川:曽ヶ端がアンダーハンドで30mくらい前方の野沢にボールを送ったところ、それにアマラウがダッシュした。野沢が気付いてコースへ入ろうとしたが、アマラウの方が速かった。このときの接触でアマラウはバランスを崩しかけたが、持ち直して、大きく踏み込んで右足で強く叩いた。弾丸シュートがゴール左に入った。低い弾道、しかも途中で一度バウンドしたから、曽ヶ端のセービングも届かなかった。

――アマラウの積極プレーに驚いたと?

賀川:ときおり見せる右足のシュートに、「強く叩ける」プレーヤーだとは見ていたが、いつも中盤でボールがくるとすぐマルチネスに渡していて、ブラジル人にしては控えめだと感じていた。それが、この試合でははじめから積極的で、曽ヶ端の位置を見てハーフラインからロングシュートをしたりもしていた。

――面白いので、セレッソの話が長くなりました。代表の方へ話を戻しましょうか。

賀川:代表選考への注目が高いために、せっかくのサッカーの試合の面白さが話題にならないのがもったいないと思う。

――それがまた、日本の今のサッカー風景というところなのでしょう。さて、代表の顔ぶれは……それこそ残念ながら香川クンは入らなかった。

賀川:岡田監督といまのチームがやろうとしたサッカーを攻守にわたって最後の詰めをする。そして本番へ持ってゆく――と考えての選考だろうからネ。

――監督のこれまでのやり方から見て、まずは妥当でしょうかね。

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バーレーン戦(下)

2010/03/08(月)

――1-0となった後も、チャンスはありましたね。

賀川:その前にも相当数あった。決定的とはいえないものでも、たとえば10分に左サイドから本田のスルーパスをもらった長友がゴールラインまで持ち込み短いクロスを送った場面があった。長友のリーチと速さからゆくと、この場面では彼はファーへ蹴れるかどうかだから、誰かが(岡崎になるかな)ニアに入るのが定石のハズ。そういう互いの暗黙の了解がボツボツできているころなのだが。これまではトップと左右のサイド、そして第2列の飛び出しなどがあまりできていなかった。

――それが、この試合ではそういうことが目につくほどチャンスも多く生まれそうになった、といえるのでしょうか。

賀川:いや、2月シリーズと違うのは中村俊輔と遠藤が揃っているというミソもあるね。まあ2月はコンディションが悪いからではあるが、やはりここというときに中村俊輔が絡むといい。

――関西人としては、遠藤のことを聞きたいですね。

賀川:実は遠藤保仁の素晴らしさはここのところちょっと恐ろしいほどですヨ。元旦の天皇杯もそうだったが、後方で攻撃展開のための発端をつくり、ときに間(ま)を稼ぎ、ときに自らが攻撃の締めくくりに現れる。その動きの広さ、巧妙さは、いまや随一だろう。サポーターのみなさんも技術指導に関わるコーチたちも、いまの遠藤のプレーを充分、頭の中に残してほしいと思っているくらいです。彼の攻撃展開は日本サッカーの“棋譜”として残ると思いますヨ。

――この試合でも、彼は長・短さまざまなパスを駆使しました。

賀川:ACLで水原とのアウェーで試合をして、中2日でゼロックスの試合を強敵・鹿島アントラーズと戦った。そのときに少し動きすぎじゃないかと心配したが、この試合でも90分しっかりプレーした。その間に、思わず手を叩くような場面が何回もあった。
 後半の44分に、左サイドで本田の前へスルーパスを送った場面があった。日本側の動きが落ちていたときで、玉田が俊輔に代わって入ってきた。その本田へのパスがあまりにいいタイミングだったから、本田も懸命に走った。相手のファウルで倒されてFKとなったが、どちらかというと、かつては立ち止まってのプレーの多かった本田がオランダの経験を積み、CSKAモスクワに移ってロシアのトップ・リーグでのプレーで大きく動くようになってきた。それは彼にも日本代表にもいいことなのだが、その本田の意欲に合わせた遠藤の縦パスはおそらくゴールライン付近でのFKまで想定に入っていただろう。
 パスそのもののキメの細かさは、タイムアップ直前の2点目に表れています。

――内田からのゴールライン近くからのクロスに、森本が飛び込み、彼に当たらずにゴール前に流れたのを本田がヘディングで決めたゴールですね。

賀川:ロスタイムに入ってすぐの右サイドでのプレーで、スローインから遠藤が縦にパスを出し、内田がそれに走り込みながらダイレクトでクロスを蹴った。遠藤のパスの強さといい、コースといい、申し分なかったから、内田は走った勢いをゆるめることなく余裕を持って正確に蹴り、それをニアで合わせようと森本が飛び込んだ。

――1点目は左サイド、2点目は右サイドから。1点目はファーを狙い、2点目はニアで合わせようとして、それがゴール正面へ流れる意外性あるボールとなって本田が決めたわけですね。

賀川:どちらもクロスのラインに2人、3人とプレーヤーが入ってくるのだが、クロスを蹴る者に余裕があれば精度も高まる。それには、そこへのパス、いわばラストパスの一つ手前のパスの質がモノをいう。俊輔や遠藤はマラドーナと同様にそこに絡んでもうまいプレーをする、ということです。

――不満な点は?

賀川:チームとしてはまだまだありますヨ。その前に本田圭佑にふれると――。
 意欲的に、シュートを5本打った。前半は、松井のオーバーヘッドの空振りのあとこぼれ球の小さい左足の振りのシュートと、それから自分で持ってシュート。後半は俊輔からのクロスの競り合いヘディングシュート(GKが防ぐ)と左足のシュート。そしてゴールとなったヘッドがあった。本人も最後に入ったからホッとしたといっていた。シュートそのものについてはまだまだ上達の余地ありというところだろう。

――日本のシュートは17本ありました。バーレーンは8本。

賀川:いまの日本代表は攻めても点を取れないといわれているが、シュートの力を伸ばし、ゴール前で工夫をもっとすることですヨ。それでも、シュートをしなければ点にはならないから、積極的にシュートをすることは悪くない。

――森本貴幸

賀川:後半の22分からで短い時間だったが、2点目に絡むなどゴール前のプレーはしっかりしている。彼のようにストライカーとしての技術や身のこなしを持っているプレーヤーが代表でもう少し多くの試合をこなせればいいと、誰もが思うだろう。

――ちょっと時期が遅いでしょうか

賀川:いくつかのプレーの感覚が仲間と合えば、本番の試合のたびにグングンよくなるという例もある。攻撃陣では、短い時間だったが玉田圭司が自分の特徴を発揮する役柄を覚え始めたようですネ。
 岡崎も昨年に急速に伸びたあと、ここしばらく足踏み状態のようだったが、この試合のゴールでまた上向きになってくれそうだ。

――まずはよかったということですね。この次は海外組なしで、キリンチャレンジカップでセルビアと試合をします(編集注:岡田監督は、海外組を招集したい意向を示している)。

賀川:中村俊輔がJでどのように適応しコンディションをよくしてゆくか、遠藤が昨シーズンからの疲れがたまっているのかどうかなども、1ヶ月後にもう一度見られるわけですヨ。もちろん、2人だけでなく全選手もそうだが……。

――Jリーグの中で、代表が何をプラスしてゆくかも楽しみですね。


【了】

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バーレーン戦(上)

2010/03/07(日)


AFCアジアカップ2011カタール予選
3月3日(愛知・豊田スタジアム)19:01
日本代表 2(1-0 1-0)0 バーレーン代表

――2-0で日本代表が勝ちました。

賀川:ドイツから長谷部誠、フランスから松井大輔、イタリアから森本貴幸ロシアから本田圭佑が参加し、横浜F・マリノスへの移籍の決まった中村俊輔も加わり13人で戦った。いわゆる海外組にとっては最後のテストになる試合だった。個々のプレーヤーにも代表チーム全体にもいい結果が出たといえるでしょう。

――バーレーンと岡田監督の日本代表は5戦して3勝2敗。決してやりやすい相手ではありません。それに2-0で勝ったのですからね。ただし、主力の何人か、アフリカ系の選手が不参加だったという点もあります。

賀川:相手がどうであっても、こちらは自分たちがどれだけ機能的に動けるかが大切だ。久しぶりに俊輔と遠藤が揃って、それに伸び盛りの本田が上のランクのクラブに入り欧州チャンピオンズリーグの試合も経験したのが自信となっているようだった。松井も、ここのところ試合に出ているという感じがしたし、プレーの時間が少なかった森本も終了直前のゴールに絡んで、この前に見たときよりもさらにゴールへの意欲の強さを感じたヨ。海外組を含んで、全体に後半に動きが鈍ってしんどい場面もあったがね。

――一番よかったのは?

賀川:やっぱり俊輔だろうね。スペインで試合に出ていないし、ときたまテレビに映る彼の体が小さくなっているように感じていた。タイミングとして、この時期によく横浜に戻ってきたといえるかもしれない。俊輔らしいプレーが何本かあったが、前半の1点などは彼の精妙なパスから生まれたものですヨ。

――左から松井がクロスを上げて、それをファーで岡崎がヘディングした。

賀川:36分のこのチャンスの前に、得点を生む気配となりはじめていた。このチャンスは、
(1)中村がハーフウェーライン近くでボールを受け、相手一人に絡まれたがキープして中央の本田にパス
(2)自分は前進、本田はもう一度俊輔へ送った
(3)この本田のパスは帰陣する相手DFの間を通ってノーマークの俊輔に渡ったから
(4)俊輔は右へ振る気配をみせつつ、左足で縦にボールを送り込んだ
(5)これが左サイドを走り上がった松井にとって、自分の動きを止めることなく蹴れる――俊輔特有の――配慮のゆき届いたパスだったから
(6)松井は左足でファーポスト側へ高いボールを送った
(7)このクロスに対して遠藤がニアへ、長谷部が中央へ走り込み、ボールは彼ら、そしてその外にいたDFをもこえて岡崎の頭に届いた。

 松井のいいクロスが生まれるために、中村の絡まれながらのドリブルと本田へのパス、そして本田からの相手の意表を突く俊輔へのパス、そして俊輔の松井への丁寧なパスが組み合わされている。

――サイドから攻めても、必ずしも常にいいクロスがゴール前の誰かの頭へ届くとは限りません。

賀川:その、サイドからのクロスの精度については別に譲るとして――。
 クロスを出す者が、いい条件でボールをもらえば、いまの日本選手の技術でもいいボールを送れる可能性がある。この場面がそれで、長身選手の多い相手の上をこえてファーポスト側の仲間の頭へ落ちてきた。

――ゴールの正面とニアへ走った2人の動きも関連ありですね。

賀川:もちろん。こういう動きによって、相手DFのクロスに対するプレーも微妙に変わるからね。日本選手のいいところが集約され、こういうふうにすれば得点できる、という一つの形を確認できるゴールといえる。


【つづく】

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歓迎、中村俊輔!!

2010/03/02(火)

――中村俊輔選手が、横浜F・マリノスへ戻ってきましたね。本当はもっと早い時期に決まっていたハズのものが、今まで延びてしまったのは残念ですが。

賀川:ことしは日本でプレーしたいということらしかった。手違いというのか、うまくゆかなかった話はいろいろ伝わっている。だが、とりあえず、戻ってくるのは結構なことですヨ。本人のためにも日本代表のためにも、ネ。遅れたのはまったく“モッタイナイ”ことをしたのだが、まあこれから彼自身がコンディションを取り戻して南アフリカの本番を目指してほしい。
 それからマリノスも。ビッグスタジアム――それも交通の便の良い――を持っていて、浦和レッズと並んで世界のビッグクラブの仲間入りできる基盤があるのだからね。俊輔のような有能で人気のあるプレーヤーを持つことでクラブの人気も高まるだろう。ビッグクラブへのステップを踏み出してほしい。

――かつての日本代表で、FKの名手――いわばこの点で俊輔の先輩格の木村和司が監督に就任したことも、クラブの前進への意欲の表れとみてよいでしょう。

賀川:フットボールクラブの経営というのは、経済も大事だが、まず良いチームをつくってファンとともに喜びあえる結果を出すこと。そのためには、中心となるべきファンに愛される選手を多く持つことが何よりですヨ。俊輔のように、ここで育って、海外でも尊敬されてきたプレーヤーを軸にいいチームをつくってほしい。現在、すでに相当な力を持つ選手もいるのだから――。

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日本代表、2月4戦シリーズの不成績(下)

2010/02/20(土)

日本代表、2月4戦シリーズの不成績(中)こちら


――相手に守りを固められると、その多数防御を破れないのも同じでしたね。

賀川:この部分――いつも0点に押さえるのは難しいことだ。それより点を取ることを考えた方が易しい。ゴールできそうなFWが出てきたのだから……

――3月のバーレーン戦でどうなるか、見たいですね。

賀川:相手がどこであっても、日本のやり方はこれ――と言ってきたのが、まあある程度できるようになったとしたら、今度は相手のメンバーに合わせてここはこういうやり方で、という課題を持ち、それを選手たちがピッチ上でどう実行するか、という段階だろう。

――俊輔が日本に戻ってくるという話は?

賀川:もともとあった話らしいから――。そうなれば良いが、ヨーロッパにいるにせよ日本に戻るにせよ、体調は大切な問題だからネ。問題はやはり平山相太だろう。しっかりした体とは言い難いが、これからの練習次第でもっと点に絡める選手になるハズだから。もちろん、岡崎慎司もステップアップが必要だ。

――平山なら、例えばどんなところをでしょう

賀川:自分がどこでヘディングすればボールはどこまで行くか。シュートでも、自分がどこで蹴ればゴールのどこへズバッと入るか――といったことだね。本当は昨年にできていないといけないのだが、今でも遅くはない。今の日本のFWにはそれがあまり見られないんだヨ。

――今からでも間に合いますか

賀川:日本代表が、大人の世界大会でとったメダルは1968年メキシコ五輪が唯一。この代表は68年2月にメキシコ遠征し、メキシコのオリンピック代表に0-4で負けている。高度順応を調べる目的もあって、休養明けの選手を集めて太平洋を渡ってメキシコで試合をしたのだが、文句なしの完敗だった。ただ一人、ドイツ留学から合流した釜本邦茂の体調は良かったが、これも高度の影響には苦しんだ。
 それが、10月のメキシコ大会本番の3位決定戦では2-0で勝ったんだヨ。体調不完全、そして高度順応(メキシコは2,500m)できないとどれだけ苦しいかが2月の遠征でよく分かったから、日本国内での高地合宿や高度対策にも選手たちは真剣になり、チーム全体として大会中の体調管理にとても気を配った。釜本は、ドイツでの個人練習の成果をオーストラリアでの3試合(メキシコ遠征後)から発揮し始めた。

――日本代表の一人ひとりが2月の敗戦で目を覚まし、本番に向かってくれるのに期待しましょう。水を飲むのは彼らですからね。だけど……飲まなかったらどうしましょう?

賀川:そのときは、それはそういう選手を生み出した私たちサッカー界が悪いのだろうヨ……。


【了】

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日本代表、2月4戦シリーズの不成績(中)

2010/02/19(金)

日本代表、2月4戦シリーズの不成績(上)こちら


――しかしプロフェッショナルでしょう

賀川:そう、プロフェッショナル――つまり仕事だから倦むこともあるわけですヨ。だからこそ、シーズンとオフとのメリハリなどをいかに上手にするかと思うんだが……。

――疲れて気迫が乏しくて、それでお手上げというのも情けない

賀川:サッカーというのはチームゲームではあるが、もとはといえば一人ひとりのプレーが大切。それも、目の前の相手に対して自分一人で打ち勝とうというところから始まる競技であり、チームスポーツなんですよ。それが、パスが来てボールを止める、目の前に相手がいる、するとそれに突っかかって抜いてゆこうというのでなく味方の応援を待って協調してパスで突破する、というのが日本サッカーだから、皆が同じような(良い)コンディションでなければ困る。

――ボールも人も動く、なんていいますね。

賀川:もちろん、自分より良い位置にいる者に渡した方が、無理に一人で抜こうとするよりはいいだろう。しかし、「まず自分一人で突破してやろう」という気配があれば、相手もそれに反応する。すると、もう一つの選択であるパスもできるようになる。その、一人でやる、あるいはやろうとする気配がはじめから無いために、パスもコースを読まれたりするわけだ。

――個人力での突破をしないのならパス。すると常に走っていなければならない。仲間が互いに意志を通わせていなければならない。そのためには、全員の体調が良くなければならない――と。

賀川:本番まであと4ヶ月という時期に、このようなことを言っているのでは遅いと言われるかもしれないが、いま、自分たちはそういうチームなんだ――ということを再認識できたのはいいことだと思うヨ。

――というと

賀川:いつも言うように、もっと体を強くする。ジャンプの高さを上げる。キックの精度を高める。

――もちろん、人の問題もあります。

賀川:闘莉王中澤佑二のCDFも、韓国戦は良くなかったネ。中澤の寄せも良くなかった。韓国側の長いシュートが背中に当たり、GK楢崎には防ぐのが難しかった。こういう弱点は今まで通りだヨ。交代で入った岩政はまずまずの出来だった……。


【つづく】

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日本代表、2月4戦シリーズの不成績(上)

2010/02/18(木)

――楽しみにしていた日本代表の2月4連戦シリーズが、1勝2分け1敗……。キリンチャレンジカップのベネズエラ戦(0-0)を別にしても、3試合は東アジア選手権決勝大会という公式試合。開催国日本は優勝を狙うハズなのに、対中国0-0、対香港3-0、対韓国1-3とサッパリでした。

賀川:選手たちと監督も手厳しい批判にさらされるだろう。多くのファンの期待を裏切ったのだからね。

――さっそく、監督交代論が出ました。専門誌などでも強い調子で言っていますよ。

賀川:今度の不成績にはいろいろな見方があるだろうが、選手たちは何を感じているだろうか……。

――選手の体調も良くないうえに、何だか気迫が乏しい感じでした。

賀川:キリンチャレンジで、遠来のベネズエラの方が元気だったのに驚いた。中3日で対戦した中国でも、もう一息だった。日本代表というのは全員が揃って、しかも体調を整え、気合が入ってこそのチーム。それがなければ売り物にならない。

――そういうときこそ、監督・コーチ陣の指導がモノを言うのでしょう。

賀川:『馬が水を飲むかどうかは馬の問題』という諺がある。馬を水飲み場へ連れてはゆけるがネ――ということだ。

――そう言ってしまえばそうですが……

賀川:今度の日本代表の試合ぶりを見て、あらためて、昨年のJリーグの終盤の大熱戦を思い出した。開幕当初からACLに4チームが出場し、リーグとカップ戦があり、そのうえワールドカップの予選を戦った。そして、予選突破の安心感もあったのだろう。リーグ戦終了後の休養期間をどのように過ごしたのか。

――休みの間、選手がどんな生活をしていたか、どのような疲れの取り方をして、そのあと、体と気力を2月のこの連戦に向けて盛り上げてきたか、ですね。

賀川:おそらく指示は出ていたハズだが、それぞれの行動をマイクロチップを埋めて観察しているわけじゃないだろうからネ。ボクは昨年の疲れが予想外に大きかったのだろうと見ている。

――だからといって、プロ選手ならピッチに立って相手の顔を見ればもう少しやれそうに思いますが……

賀川:いまの日本代表は、中国にも香港にもとてもいい目標ですヨ。ビデオという材料もあるし、日本選手一人ひとりについて調査し、研究し、チーム戦術を理解して対応等をとる。それでいい試合をすれば、それぞれの国の選手たちにはとてもいい励みになるし、サッカー界全体の励みにもなる。

――韓国は伝統的に日本に負けたくないと思っていますしね。

賀川:監督にとっても選手にとっても、日本戦で勝つか負けるかで評価も違ってくる。そして日本のやり方もよく知っている。

――それなのにこちらは「ボツボツいこか~」という調子だった。

賀川:まさか、それほどでもないだろうが、どこかに緩みか、あるいは試合に倦(う)んでいたかも……。


【つづく】

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日本代表の2月シリーズを追って vs中国(下)

2010/02/11(木)

東アジア選手権2010決勝大会
2月6日(東京・味の素スタジアム)19:17
日本代表 0(0-0 0-0)0 中国代表

――中国戦では、サイドからの攻めもありました。内田篤人のシュートがファーポストに当たった惜しいチャンスも。

賀川:後半に平山相太を送りこんだが、彼の大きさとポストプレーということで、少し良くなった。報道によると、監督がサイドからの攻めの指示をしたとか――。このあたりが私にはよく分からない。
 サイドアタックのできる選手がいて、サイドではボールをキープできるのだから、中央のウラを狙うためにもサイドへボールを散らし、外からのクロスやシュートがあって当然でしょう。外からと中央の攻撃の変化というのは、古くから攻めの常識ですヨ。
 調子を落としている内田が久しぶりに“らしい”プレーを見せたが、あのポストに当てたシュートも、彼ほどの選手ならファーポスト内側を叩いてゴールへ入るボールを蹴ってほしいね。あの位置でそういう蹴り方もあるんですヨ。

――平山は

賀川:相手DFラインのウラへ出て左足のボレーを狙ったが、失敗したのがあった。ボールが落下して自分の左足の一番いい高さにくるのを待てないでスイングした。

――相手が近くにいるかと思って、気がはやったのでしょうか

賀川:あるいはオフサイドだったかも――。しかし、状況がどうでも、ストライカーは自分がシュートするときにはベストのフォームで打つこと。それがゴールにつながるハズだヨ。

――釜本邦茂さんも、そう言っていましたね。

賀川:そうそう。私の記憶ではいまから42年前の68年2月、西ドイツに留学してドイツのデアバル監督のマンツーマン指導を受けたときにそう言われたそうだ。
 彼はすでにシュートの型をいくつか持っていたが、デアバルさんの指導でストライカーとしての基本的な考えを自ら問いつめ、ドイツの若手との練習で2ヶ月間の留学でステップアップした。

――賀川さんがいつもいう、本番前半年の上達ですね。

賀川:平山や岡崎玉田や大久保あるいは佐藤寿人に、そうした急成長のための貯蓄があれば、この2月シリーズさらにはそのあとにも、ゴールへの道を掴んでステップアップする機会はあるのですヨ。

――彼ら以外の若手にも、もちろん彼らにパスを送り、走り上がりシュートするMFたちにも期待しましょう。

賀川:何といってもサッカーは試合をする選手たちが生き生きとプレーをすることが第一だからネ。


【了】

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日本代表の2月シリーズを追って vs中国(上)

2010/02/10(水)

東アジア選手権2010決勝大会
2月6日(東京・味の素スタジアム)19:17
日本代表 0(0-0 0-0)0 中国代表

――2日のキリンチャレンジカップでベネズエラと0-0だった日本代表が、東アジア選手権決勝大会の第1戦で中国と引き分けました(0-0)。2試合連続で無得点です。

賀川:昨年はワールドカップ2010の予選を戦い、キリンカップや海外遠征試合などで徐々にチームらしくなってきた。FWでは岡崎慎司という点を取れる選手も出てきた。イタリアにいる森本も、一度だけだが悪くはなかった。そんなときに平山相太が浮上してきた。少し見通しが明るくなったように見えたが、そうでもなかったネ。

――チャンスがあっても点になりません。

賀川:いつも言っているのだが、誰がフィニッシュのところへ出てくるのか、誰がどういうラストパスを出すのかというところもまだいい加減だ。

――そういえば中国戦の前半、岡崎が右から侵入して短いクロスを出し、大久保や玉田がシュートしていた場面もありました。

賀川:大久保は、スピードがあって、独特のシュートのうまさとカンがあるというのが評価でしょう。玉田は頑丈で速く、ドリブルがうまい。しかし右足のシュートは利かない。左ならいいシュートをする。岡崎はニアサイドでも、ウラへでも飛び込んでくる。体に粘りがあって一つのプレーのあとのセカンドプレー、いわば1の矢に続く2の矢も打てる。

――それで

賀川:ベネズエラも中国も守りの人数が多かったし、こちらのシュート場面でも体を近づけていた。そこへ走り込んで点を取ろうと思えば、いまならフィニッシュには岡崎が一番適任でしょう。

――それぞれの個性に合わせての役割、ということですね。

賀川:ゴール前、ペナルティエリアの中は想像以上に人口密度が高い。相手の体や足にぶつかりながらシュート位置へ行き、そこで点を決めるプレーをする。もちろん、パスを出す者との呼吸、タイミング、コースの意図がうまく合えば、相手のウラをかいてとんでもないノーマークの空白時間や空白地帯もつくれるのだが、いまの日本のやり方ではそうもゆかないから、やはり、(チャンスの)作り手と決め手の役柄が大事だと思う。


【つづく】

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今夜、キリンチャレンジカップ・ベネズエラ戦

2010/02/02(火)

いよいよ2010年の日本代表のワールドカップ準備シリーズが始まる。今日はキリンチャレンジカップの対ベネズエラ戦。

今回、ベネズエラは南米予選を突破できなかった。南米の中で強い国というわけではないが、今の日本代表にとっては相手よりも、まず招集した国内メンバーの組み合わせや調子を見るのが第一となるだろう。その意味で、新しく加わった小笠原満男平山相太の二人が、どんな働きをするかが楽しみ。ベテランと若手、MFとFWというポジションで、どちらも“大物”には違いないからね。

もちろん、全ての選手の今年の調子を見る。休養期間中の過ごし方があらわれるから。ジーコのときはこの休養明けのときに進歩が見えなくて、ガッカリしたのを覚えている。

キリンチャレンジのあとには東アジア選手権決勝大会がある。
この時期に東アジア各国と試合ができれば、いい経験を積める。中国は体格が大きく、韓国は伝統的に対日本戦に強い。今のチームの日本らしさを発揮して勝ちにゆく。まことに結構な相手ですよ。
岡田流の中で、どんな組み合わせや「阿吽(あうん)」の呼吸が生まれるかが見られるだろう。

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オランダ遠征2試合を見て(4)

2009/09/28(月)

~得点への意欲が強まり、第2戦でそれがスコアに表れたのは何より。憲剛をはじめイレブンのレベルアップへの努力に期待~


――中村憲剛を一つの例として、日本サッカーの得点力アップの可能性を話してもらったのですが、遠征全体としては?

賀川:DFで岩政大樹をケガで使えなかったこと、新しいところでは森本貴幸も登場できなかったのは惜しい。
 オランダはかつてのファンバステンライカールトルート・フリットといった超大物はいないが、粒のそろったいいチームだった。プライドの高い彼らが、はじめのうち日本のメチャメチャに走り回るやり方に対応できずイライラしてファウルするのが面白かった。ただし、日本選手には気の毒。俊輔も足をやられたのだからネ。ああいうときに先制ゴールを挙げるためには、動きの落ちたガーナを相手に点を取るのとは少し違う。そのための攻めの仕掛けにも、シュートへの入り方にも、もっと積極的で、もっと賢くなくてはならない。ヨーロッパ人のいう“キツネのように”というプレーですヨ。

――騙すわけですね。

賀川:それも難しいことではない。攻め込んだら、まずボールが来たらシュートする、点を取ろうという気になること。その“気”に相手も反応する。そこでパスが生きるわけだ。はじめからパスの経路を探せば相手はすぐに見破るから……。もちろん、実績あるストライカーがいれば、それだけでも相手に威圧感を与えるけれど、いまはそうはゆかない。

――だから、相手が面食らっている間にゴールする、と。

賀川:そういうこともある。岡崎慎司という“飛び込み”型が一人定着した。シュートへのリバウンドやこぼれ球も狙える。もちろん、シュート力そのものも、いまの若いうちに向上してほしいネ。遠征で活躍できた者も、遠征にゆけなかった者も、まだチャンスはあるし、10月のキリンチャレンジカップにはスコットランドとトーゴが来て相手をしてくれる。その前にアジアカップ予選の対香港もある。

――秋はいよいよ楽しくなりますね。ヨーロッパの秋も楽しみ。レアル・マドリードバルサもすごいですよね。

賀川:プレミアリーグも面白いし、いいサッカーを見られるけれど、そのヨーロッパで中村俊輔がなぜ尊敬されているか、本田圭佑が注目されているかをもう一度考えて欲しい。

――二人とも左利きですが……

賀川:右足、左足はともかく、共通していることはキックの上手さですヨ。本田は若いときから左足で強い球を蹴れた。浮かせるキックもしていた。俊輔については皆さんご存じのとおり。自分のキックの型を持っていて、それがチームの役に立つと、二人とも認められている。もちろん他にいくつも上手なところもあるが、まず基盤となっているのはキックですヨ。

――シュートを含めて、キック全般のレベルを上げろということですね。



【了】

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オランダ遠征2試合を見て(3)

2009/09/27(日)

~得点への意欲が強まり、第2戦でそれがスコアに表れたのは何より。憲剛をはじめイレブンのレベルアップへの努力に期待~


――Jリーグの得点ランキングで、今年はともかく、ずーっと外国人が10位までのほとんどを占めていました。

賀川:今年、日本選手の名が増えてきたのは良いことですヨ。一番大切なのは、日本人はストライカーに向いていないなどと決めてしまうことだ。

――でも、外国の多くのストライカーは少年期からすでに頭角を現している人が多いでしょう?

賀川:私がいまサッカーマガジンで連載している「我が心のゴールハンター ~ストライカーの記憶~」で取り上げている世界のトップクラスは、それぞれ特色はあっても、たいてい少年期からストライカーとして注目されていたことは確かだネ。

――とすれば、いまの日本には……

賀川:確かに、釜本邦茂に比べると中村憲剛はストライカーとしての素材の上では見劣りするかもしれない。しかし、彼のように広く動いて守りも懸命にこなし、中盤でもゴール前でもいいパスを出し、しかもここというチャンスのポイントへ走り込んでゆく選手はこれもまたストライカーとしての大きな素質ですヨ。

――せっかく、そのいい位置へ入ってボールを受けても、そこでシュートに失敗してはね。

賀川:そう、しかしその位置へ入り込んでシュートを決めることができなくても、彼はまたそこへ攻め込んで点を取りに行っている。そのことが一番大切なんですヨ。

――ゴールへの意欲ですか。

賀川:意欲があれば練習をする。いまの日本選手の多くは少年期にボールを蹴っている回数が少ないようにみえる。憲剛も年齢からいけばもっと早くにシュートの型を身につけておくべきだったが、技術というものは年齢(とし)をとってからでも上達し、試合に間に合うものです。私は1990年のW杯でドイツのローター・マテウス(主将)が左ですごいシュートをするのを見、驚いたことがある。彼が後に語ったところによると、バイエルン・ミュンヘンからイタリアへ移ってから左で蹴ることを練習し、上達したと言っていた。

――へぇー、そういうこともあるわけだ。キックやヘディングの上達は練習の回数に比例するといいますね。

賀川:いい位置へ上がって点を取れなかったときの悔しさは、中村憲剛は身にしみているハズで、だからこそ練習を積んでいるのだと思う。最近サッカーマガジンで大分ウェズレイの話を読んだが、彼は名古屋時代からずっと体の使い方やボールの押さえ方など注目していたプレーヤーだった。彼の話によると、ウェズレイはもともとブラジルではMF、ボランチだったらしい。日本でFWをやれと言われて、点取り屋になったということですヨ。いわばプレーヤーとして若いときからストライカーであったのでなくて、経験を重ねてからポジションが変わり、自分の仕事としてポジションプレーに取り組んだということ。それが外国人として100得点の記録となった。

――そういえば、川崎フロンターレジュニーニョにも同じ話がありましたね。

賀川:彼はパスが上手い。組み立てやドリブルに特徴があるとされていたが、やはり得点しようとシュート練習を繰り返してきたし、いまも続けているそうだヨ。
 だから大切なのはゴールへの意欲、シュートの練習で、このことに気付いてもっと練習すれば成果はあがるはずです。

――オランダ戦でノーゴール、ガーナ戦でも45分は無得点だった日本の遠征シリーズ最初のゴールが、中村憲剛の走り上がってのシュートでしたね。

賀川:この試合でも、前半に惜しいチャンスを失敗したが、それにもくじけずにゴールを目指したところがいい。当然、こういうノッているときは失敗についても反省し、工夫し、練習するものですヨ。

――皆が憲剛のようにひたむきに――ということですね。

賀川:これから半年間、もちろんW杯本大会まで短いようで長くもあるから、コンディショニングは充分考えなくてはいけないけれど、自分の技術や体力の向上を個人が心がければ、自身もそうだしチーム全体も伸びる。

――長友佑都の対ガーナ戦、後半の動きはすごかったですからね。

賀川:体力があるのは本人も自分の特色と思っているハズ。サイドの選手というのはそうでなくてはね。イケると見て積極的に突っかけていった。チーム2点目の玉田圭司のシュートは彼のパスからだった。もっとも、相手がフラフラであまりにも上手くゆきすぎた感はあるが……。それも気迫、意欲のおかげですヨ。



【つづく】

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オランダ遠征2試合を見て(2)

2009/09/26(土)

~得点への意欲が強まり、第2戦でそれがスコアに表れたのは何より。憲剛をはじめイレブンのレベルアップへの努力に期待~


賀川:1974年のW杯の決勝(西ドイツ対オランダ)で、私は西ドイツ側の大ピンチを見た。
 相手陣内へボールを持ち上がったDFのフォクツがつぶされ、ヨハン・クライフがドリブルしてフランツ・ベッケンバウアーに向かい、左にはヨニー・レップが展開していた。対応する西ドイツ側は、DFはベッケンバウアー一人だけ。もちろん、ゴールにはGKゼップ・マイヤーがいた。
 ベッケンバウアーはゆっくりクライフと間合いを取りつつ(スタスタという感じで)後退し、クライフの突破をまず防いだ。クライフはレップにパスをして、レップがそれをシュートした。ペナルティエリア左角から少し入ったところだが、それを狙っていたGKマイヤーが飛び出して距離を縮め、シュートを止めた。ベッケンバウアーは1対1どころか1対2の場合を防いだんだからネ。もちろん、GKとの協力あってのことだが……。

――ちょっと話が上のレベルすぎる気もしますが……。まぁ、1対1なら負けて当然というのはダメ、1対2でも防ぎようがある、ということでしょうか。

賀川:昔から日本人は体格のこともあり――私はこれも、日本人全体のことでなくてサッカーを始める人が古い時代から中肉中背あるいは小柄な人が多かった、ということに原因があると思っている。この話をするとまた別のテーマになるからここでやめるがネ。

――ふぅん。その話も面白そうですが、なんとなく分かりますね。昔からサッカーは走り回るものという感じが強く、走れる子ども、すばしっこい少年、つまりあまり大柄でない小中学生が始めたという説を取れば。

賀川:それはともかく、古い時代、例えば1930年の第9回極東大会の日本対中華民国の試合経緯を見ても、こちらはパスをつないで攻め込み得点し、相手は大柄で足の速いCF(センターフォワード)の個人技でゴールして3-3だった。
 1936年のベルリン・オリンピックのあの逆転劇も、体力・走力に優れたスウェーデンの左サイドのドリブル突破で崩され2点を奪われたあと、こちらは走り回ってパスをつないで3点を返して3-2で勝った。
 1968年メキシコ・オリンピックの銅メダルのときの報告書も読んでいますが……

――40年前のですか?

賀川:当時のコーチ、岡野俊一郎さん(現・JFA最高顧問、IOC委員)の詳しい報告の中に、個人力では相手が上だったが組織力で3位になったとあるヨ。

――もう80年近く前から同じ流れの戦いをしているわけですね。

賀川:もちろん、その長い流れのなかに技術の進歩があり、走力アップがあり、世界のサッカーのレベルアップに日本も懸命についてきた。現在の代表は走力、テクニック、組織力などではアジアではトップ。それでも個人個人を比べると、サウジやオーストラリアの代表の中にいる優秀なプレーヤーとでは速さや強さで、さて1対1となるとしんどい場合がある。

――だから1対1の力もつけろ、と。

賀川:そのとおり。タックルのレンジを5センチ伸ばせるかといったことに努力すること、ヘディングのジャンプ力を高めることなど色々ありますヨ。
 私の先輩のベルリン・オリンピック代表で天才といわれた右近徳太郎さんは肋木(ろくぼく=器械体操用具の一種。柱の間に等間隔に丸い横木を取り付けたもの)に体をぶつけて、競り合いや当たったときの粘りを自分で工夫し鍛えていたと本人から聞きました。
 しかしそれも大事だが、同時に私が言いたいのは、得点力を増すことに努力する方がむしろ近道だし王道だと思う。

――そういえば、ベルリンでも3点、1930年でも3点を取った。メキシコ五輪の3位決定戦でも2点を先取したとよく言っていますよね。

賀川:1930年は当時国内でズバ抜けた点取り屋の手島志郎さん(故人)がいた。1936年にはシュートの名人といわれた川本泰三さん(故人)がいた。68年のメキシコは釜本邦茂がいた。釜本は関東大学リーグで早大1年のときから4年間、連続得点王だった。
 大学リーグで彼の得点記録を新記録と発表しようとしたが、当時の早大の堀江忠男部長(ベルリン五輪代表)が、「川本の得点記録を調べてみないと、釜本の記録を新記録と断定はできない」とアドバイスしたことがあったナ。川本泰三さんはそれくらいの点取り屋だった。いまのように国際比較はできないけれど、やはりズバ抜けたゴールゲッターがいることは、強敵相手に組織攻撃を生かして戦うためには大事なことですヨ。



【つづく】

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オランダ遠征2試合を見て(1)

2009/09/25(金)

~得点への意欲が強まり、第2戦でそれがスコアに表れたのは何より。憲剛をはじめイレブンのレベルアップへの努力に期待~


――オランダ遠征シリーズは第1戦が0-3、第2戦が4-3の逆転勝ちという結果が出ました。ご覧になりましたか?

賀川:現地で見たいと思ったが、テレビで我慢したよ。まあ日本にいて、外国での強化試合をテレビで見られるのだから本当にいい時代になったものですヨ。

――サッカーをめぐる環境がどんどん良くなってゆくのに、代表の進歩が目に見えて良くなる――とはゆかないという気もしますが……

賀川:そうかナ。いまの代表はずいぶん良くなってきていますヨ。もちろん、スタート地点が低かったからそんなに高いところまできているわけじゃない。多くのファンやコメンテイターには不満もあるでしょう。

――サッカーマガジンで、賀川さんはオランダ戦の後に中村憲剛に期待すると書いていましたね。

賀川:得点力に問題ありと言われている代表チームの中で、憲剛がここのところ点を取ろうという意欲を燃やしているように見える。自分の口からも、シュート練習をしているなどと言っているようだ。オランダ戦でも、決めることはできなかったが、シュート位置へ入り込んでシュートをしようとしている。その意欲を買ったのだヨ。

――いつも冷静な賀川さんにしてはめずらしく肩入れしていますね。

賀川:いま日本代表はプレッシングとボール奪取と多人数の速い動き、攻めへの絡みによってチャンスをつくることを考え、努力し、工夫して、それでワールドカップ(W杯)予選に勝ってアジアでトップクラスの座を保ってきた。岡田武史監督になってからも、この流儀で相当なレベルのチームを相手にしても通じ始めるようになった。

――ただしチャンスの割合に点が取れない、というのはあまり変わっていません。

賀川:一方では、アジア予選でもたびたび明らかになったように、相手に攻め込まれ、大事なところで1対1の対決となった場合に得点されることがあり、このことは今度のオランダ遠征2試合でも明らかになった。
 オランダは個人力だけでなく組織プレーも上のレベルだから、そのボールの動かし方の上に個人力の差がつく。ガーナの場合は、Jリーグではほとんど無敵に見える中澤佑二が相手FWの突破力に上手く対応できなかった。

――DFの対応が“しんどい”ものだから、GKまでおかしくなった場合もありました。

賀川:ジーコ監督のときもそうだったし、トルシエのときも、あるいは第1次岡田武史監督のジャマイカ戦でも1対1の競り合いでやられ、その受け身の態勢がGKの心理や実際のプレーに影響したこともあった。

――まったく変わっていない、進歩がないわけでしょうか。

賀川:ディフェンダーというのは、失敗があってもそれが失点につながらないと痛い思いをしないことが多い。もちろん、サッカーの選手になるくらいだから負けず嫌いで1対1で抜かれたり、自分が奪われたことでピンチになったり、いったんタックルに行って取れそうになってから姿勢が崩れて相手にシュートを決められたり、といったことを経験すれば自分のどこに原因があるのかと反省して、それの対応に努力するハズなのだが……。

――この国のサッカーでは、点を取られたら「中盤であのとき俊輔が奪われたのがピンチのキッカケになって」とか「あのミスパスをカットされてコーナーキック(CK)を取られ、そこからやられた」などと、まず組織が綻びた原因から始まります。その1対1でやられた実際の場面についての検討が少ない。はじめから諦めているのかなぁ。

賀川:前線からのプレッシングが緩んだり、中盤でのミスで奪われたりすることの反省は大事ですヨ。それはそれで良いんだ。しかし、パスの失敗をなくすこと、失敗してもすぐピンチにならぬようにすること、トラッピングに習熟しスクリーニングの技術を高めることなど、日本代表になってもそれぞれのポジションで高める技術や自分の体の強化などを怠っていけないのは当然だが、中盤で俊輔がボールを奪われればすべてお終い、というわけではないんだから。



【つづく】

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日本代表 vs カタール代表(5)

2009/06/17(水)

――最終戦の前に気になることは?

賀川:うーん。対オーストラリア云々とは別に、いくつかの問題がある。それはJリーグにも通じるものですヨ。

――ストライカーがいない、Jの個人得点ベストテンはほとんど外国人で占めていると、よく賀川さんは言っていますね。

賀川:得点できる選手がいれば、チームに大きなプラスになることは皆よく知っている。だからこそ、外国人のゴールスコアラーを補うわけだ。だけど、自分たちの手で、いいストライカーを生み出してみようと思わないのがネ……。ストライカーの話とは別に、たとえば、Jのチームに何人、スローインで遠くへ投げられる選手がいるのかな。昔、ヴィッセルに一人いたがネ。

――投げるだけではダメでしょう。

賀川:日本代表は皆サッカーがうまいが、一人くらいロングスローのできる選手がいてもいいだろうに。これも体格の問題でなく練習の問題でしょう。色々な技術を身につけてゆかなければならないのに、選手に新しい技をつけるようにコーチたちはアドバイスしているのかね?

――うーん。ロングスローは確かに武器ですよね。

賀川:阿部勇樹今野泰幸のカタール戦のプレーを見ていると、彼らが気の毒になった。

――消極的に見えたから?

賀川:阿部は、ジェフ市原(当時)にいて、オシムさんにキャプテンに指名されたころから見ている。177センチでそれほど大きくもなく、足がうんと速いわけではない。特色は右足のキック、日本人には珍しく長い距離のボールを蹴れる。CKを蹴ると、ファーポストへ届くボールをコントロールキックできる力があった。彼よりも上の世代、たとえばカズ、三浦知良はキックの精度の高い選手だが、コントロールの距離はCKならニアポストだった。

――イングランド戦のCKで、井原だったかがヘディングで決めましたね。

賀川:古いファンなら皆覚えているでしょう。カズのコントロールキックと井原のヘディングの合作が生んだ、ウェンブリースタジアムでの日本の歴史に残るゴールですヨ。ただし、そのカズでさえ、ファーポストへのキックとなると精度はいまひとつ。それはキック力、ゴルフでいえば300ヤードを楽に飛ばせる人は250ヤードはコントロールショットになるのと同じ理屈ですよ。
 長蹴力ということになると、日本人選手は外国選手に劣るのは仕方ないが、だからこそ、長蹴力のある選手は武器としてみることが大切――。

――前にも一度うかがいましたね、この意見。

賀川:ここからはちょっと踏み込んで言わせてもらおう。
 その阿部は、DFもとりあえずこなせるものだから、ポジションが一定せず色々な使われ方をする。長いキック力を生かせるコントロールキックのパスを使うチャンスがなくて、ここしばらく伸びが止まっている。

――というと…

賀川:早い話が、スクリーニングという身のこなし、あるいは動作は、古い時代はCF(センターフォワード)の技術のことだった。背後からセンターバックにマークされていてボールを受けるから、それを止めて、仲間に渡すポストプレーとともに相手の出方によってはボールと相手の間に自分の体を置いて、ターンして抜き去るとか、抜くと見せてキープして時間(間)を稼ぎ、仲間へ有効なパスを出す。そのスクリーニングは、いまの世界のトップのサッカーではどのポジションの選手もできるようになっている。もちろん、一流チームでもDFの選手がクリスチアーノ・ロナウドほど上手にスクリーニングできるわけではないが……。
 アジアでも、もうディフェンシブハーフも後方からのパスを受けることも多くなって、スクリーニングが上手にできなければならない。カタール戦では、阿部が相手のプレッシングで簡単にボールを失ったのは、日頃こういう動きを必要としていないからだろう。つまり、代表のボランチをするのに、そのポジションに必要なプレーを自分のチームで蓄えてきていない、と言える。

――ほかには?

賀川:阿部は私の好きなプレーヤーの一人。だからあえて言うと、右のすごいキック力があるのだから、若いうちに左足のキックをもっと練習すべきだった。左足で蹴れば、そのときは右足で立つことになる。だから相手とのボールの奪い合いでも体のバランスが良くなって強くなるのだヨ。

――いまからでもできるようになるでしょうか。

賀川:ローター・マテウス。あのドイツ代表のキャプテンとして90年ワールドカップに優勝した名選手も、右足の強いシュートだけでなく、左でも蹴れたが、それは27~28歳になってから練習したと言っている。

――どんな得がありますか?

賀川:たとえば、彼が左サイドでボールを受けたとする。左足のキックができるようになり、走りながら左足クロスを蹴ることができれば、縦にドリブルしてチャンスをつくれる。ドリブルで抜けなくても、パスを出してもらって蹴ることもできる。そして、もし左で蹴るチャンスを押さえられれば、切り返して右で蹴ればいい。そうなれば右の長いコントロールのクロスでファーサイドの味方に届くし、ボールもあるわけだ。

――分かりました。得意の右を生かすためにも、左のキックの能力を上げろ、ということですネ。

賀川:そう。今野は、守備の勘、危険地帯の察知力は高いし、労を惜しまぬランもある。左のキックはしっかりしているハズだが、それも近頃は満点とはいえない。力もそうですヨ。

――一口で言えば、進歩が遅いということ?

賀川:彼らのすぐれた素質から見ればネ。阿部はヘディング力を上げ、今野もそれでチームの特典に貢献しているから進歩はしているのだがネ。もっともっと伸びる人たちですよ。

――俊輔は頑張っていますね。

賀川:素晴らしいネ。しかし、セルティックでフルシーズン戦った後はやはり疲れが残っている感じだね。故障もあるだろうし、彼らしくないプレーもいくつかあった。それだけに、今年の移籍がどうなるのか――気になるね。


【了】

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日本代表 vs カタール代表(4)

2009/06/17(水)

――一つの試合で得点できなかったチャンスを、もう一度振り返ってみることは大切ですね。

賀川:日本の多くの指導者が神様のように思っているデットマール・クラマーも、いつも言っていますヨ。もっとシュートの練習をしろ、とネ。ただし、そのシュートがなぜバーを越えたのか、なぜポストの外へ外れたのか、一本一本の失敗について選手もコーチもよく勉強してほしいと言っている。

――ウズベキスタンでは相手のシュートミスもあったし、カタール戦も、ずいぶんカタールのシュートミスに日本は救われた。それでもPKで1点を取られた。

賀川:あの落ち着いた楢崎正剛が、PKのときヤマをかけて先に左へ(キッカーから見て右へ)動いたのは損だったが……。あれはちょっと聞いてみたいところだネ。

――そのPKとなった原因は、中澤佑二のホールディングでした。“手を使う”ことについて、賀川さんはウズベキスタン戦のときにも日本選手の手の使い方が“あからさま”すぎると言っていましたね。

賀川:そう、フィリップ・トルシエというフランス人の監督が、日本人プレーヤーは手や腕の使い方が下手だといって、代表の練習で教えた。その練習がまたテレビで日本中に映しだされた。トルシエは相手が手を使うことへの対応のつもりだったかもしれないが、「世界中、手や腕を使うのは当たり前で、これが上手にならないといけない」という感じになってしまった。だからJリーグでも手を使う反則は多い。
 そしてどういうわけか、ここのところ後方から手を使う反則にアジアでもレフェリーの判定が厳しくなっているように感じる。

――JFAの審判委員会の見解を聞きたいところですね。

賀川:審判でなくても、それぞれのクラブのコーチたちが試合のビデオを見直して、笛を吹かれたファウルのうち、手を使ったファウルがどれだけあったか調べて数字に表せばいいことですヨ。いまはそういうことを抜き出せる装置も開発されていると聞いている。だが、そんな便利な機械がなくても、きちんと調べれば出てくるはずですよ。
 前にも言ったかもしれないが、昨年のJリーグ終盤の優勝に絡む鹿島アントラーズジュビロ磐田の試合での鹿島の決勝ゴールは、左FKから岩政がヘディングで決めたが、そのファウルはマルキーニョスに対する駒野の後方からのプッシングだからね。大して強く押したわけじゃないが、マルキーニョスの上手なスクリーニングに対して駒野が背後から体を寄せていったときに駒野の手が前に出ていた。接触してマルキーニョスが前に倒れたときに、笛を吹かれた――と覚えている。

――そう言われても、いまから代表選手の手を前に出す癖は直りますか?

賀川:それは心がけ次第。それとともに、若い世代が、相手にかわされたときに簡単に手を使って(ホールディングなので)相手を止めようとすることで、体の反転や足のステップといった身のこなしが発達しなくなるのが問題ですヨ。南米やヨーロッパのトップクラスでも手を使う見苦しいプレーが多い。相手に負けまいとする意識、自分の局面での責任を果たそうとする意欲は大切だが、ものには限度があり、バランス感覚がなくてはならない。手を全く使うなと言っているのではないが、いい選手というのはそういうものだと言いたい。

――ちょっと話が深いところへゆきましたが、ともかく、7戦無敗(4勝3分け)でオーストラリアでの最終戦を迎えることになりました。

賀川:岡田監督はチームをうまく導き、選手たちも徐々に力をつけて結果を出してきた。人口1億のサッカー大国の日本という観点からすれば、そのトップである代表チームの実力がこのままであってよいわけではないが、歴史とそのあゆみからゆけば、まずいいところだろう。アジアの代表になったのだから、本番ではそれこそ世界を驚かせてほしい。そのためにも、オーストラリアとはいい試合をして勝ってほしい。中村俊輔が出場できないかもしれないが、それでも勝っても不思議ではない相手だ。


【つづく】

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日本代表 vs カタール代表(3)

2009/06/16(火)

――ゴールというのは、クリーンシュートや豪快ヘッドばかりではないわけですね。

賀川:こういう地味なゴール、相手から頂いたゴールもまた大事な得点の一つですよ。
1960年代のマンチェスター・ユナイテッドの名FWデニス・ロー(Denis Law)も「輝かしいプレーの集積のゴールもあれば、混戦から生まれるものも、オウンゴールもPKもあるが、すべては1点となり、ゴールはとても重大なものだ」と言っている。

――デニス・ロー……いま、サッカーマガジンで連載している『我が心のゴールハンター ~ストライカーの記憶~』の、デニス・ベルカンプ(オランダ)の憧れの人ですね。

賀川:6月10日のこの右サイドの攻めからのオウンゴールも、最後のところは相手選手であっても、その過程はデニス・ローのいう輝かしいプレーの集積だからネ…。それはともかく、このゴールは場内の6万のサポーターを喜ばせ、2点目への期待を高めたが、なかなかそうはゆかなかった。

――9分に、左サイドから攻めて2点目のチャンスがあったのですが…

賀川:これは左サイドの今野泰幸と田中マルクス闘莉王のパス交換から、闘莉王が左前のスペースへロブのボールを送り、玉田圭司がいいタイミングでDFラインの裏へ走り抜けて、ペナルティエリア左からゴールライン近くまで入り込んでクロスを送った。完全に裏を取った玉田の走り込みからノーマークのクロスだったのだが…。

――GKブルハンが体に当て、そのリバウンドを岡崎が走り込んで左足に当てたが、左ポスト外へ出ていった。

賀川:玉田がDFラインの裏でボールタッチしたときには、ニアサイドに岡崎、ゴール正面に俊輔がいた。パスのボールの強さもあったのだろうが、ボールはわりあい速く転がって、玉田はスピーディにエリア内に入り、ゴールライン近くまで来た。

――賀川さんがいつもいうエリア内ゴールライン近く、絶好のチャンスですね。

賀川:ただし、この位置へ来ると角度が狭くなってクロスは難しくなる。GKブルハンは超ノッポときている。通常、このあたりからのクロスは少し後ろ目へ戻すグラウンダーか、GKの上を越えるフワリとしたクロスか、そしてGKとDFラインの間を通す速いクロスかのどれかになる。玉田は自分の位置から見て、GKとDFラインの間を抜こうとしたのだろうが、左足サイドキックで蹴ったボールはGKに当たってリバウンドした。それに岡崎が反応したが、DFに絡まれて出した左足ではきちんと叩けず、足に当たったという感じで左外へ出てしまった。

――こういう場合、評論家は「狙いは良かったが…」という言い方をしますが…。

賀川:左ペナルティエリアの根っこ、つまり左ゴールポストから16.5メートルとゴールエリアの根っこつまり5.5メートルまでの間、ゴールライン近くからのクロスは、先に言ったとおり、DFはCKと同じでボールを見れば相手FWの動きを見失うという難しさがある。だから、正確なパスが味方にゆけば絶好機になるが、この位置へ入り込んできたプレーヤーが何通りかプレーを正確にできなければならない。

――玉田はそれほどのバリエーションは持っていなかった?

賀川:この位置でパスのバリエーションを持っているプレーヤーは日本では少ないヨ。玉田選手は体が強く、ドリブルも速く、またかなり強い持ち方もできる私の好きなタイプのFWだが、得意の左足シュートでもバリエーションは少ない。

――となれば、

賀川:もう少し早く、角度が狭くならないうちに左足でシュートをするか、DFラインとGKの間を速いボールを通すか、だろうね。彼は左足でニアサイドを抜くシュートはほとんどしない。2006年のW杯、対ブラジルの先制ゴールは、彼の数少ないサイドへのシュートの得点だが、その後もほとんど見ていない。練習すれば、彼のように運動能力の高い人ならすぐできるようになるだろうがね。
 もちろん、あの角度でもクロスを出すと見せてニアサイドへシュートすることも熟達したFWならできるはず。大事なことは、この日は裏へ飛び出した彼が自分のフィニッシュプレーをイメージして最初のタッチをしたか、そしてそのイメージが、ゴール前に詰めた岡崎と俊輔と同じものだったかどうか――知りたいところだネ。

――試合の後で話し合っているでしょう。

賀川:現代のサッカーは守りの組織が良くなり、守備の選手の個人能力がアップした。特にゴールキーパーの体格が良くなって、守る範囲も広く、体の動きもスピーディになっている。したがって、ゴールを決めるにはシューターの個人能力アップとともに攻撃側の何人かのプレーヤーがフィニッシュについてのイメージを共有することも必要となってくる。この9分のチャンスは、玉田のスピードを生かしての左からの突破であっただけに、モノにしておきたい一つだった。なぜゴールできなかったかを、皆で考えたいところだね。

――こういうチャンスをモノにできれば、試合は楽になる。

賀川:ウズベキスタンでも2点目を取れなかったために苦しくなった。この日も同じ。特に、本番へ行けるという、“ひと山”を越した後だから、疲れるとそれがまともに響いてきた。


【つづく】

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日本代表 vs カタール代表(2)

2009/06/15(月)

――位置は左寄りからですね。

賀川:ハーフライン手前、日本側エンドで左タッチライン寄り10メートルくらい内だった。内へドリブルした憲剛の右、センターサークル中央近くに中村俊輔がいた。憲剛からパスを受けた俊輔はうまいトラップとターンで相手をかわして前へ向いた。記者席から見ていて、俊輔のピポット・ターンに思わず「ウマイ」と叫んでしまった。

――そんなにうまかった。

賀川:中村憲剛のパスが、むしろ俊輔が欲しかった位置より後ろ目に来たのだが、俊輔は左足を伸ばして彼の長い左足のリーチでこのボールを止めた――というより、自分の方へ引き寄せ、相手が一人接近するのを見ながら実に簡単に前へ向いた。

――この場面は、もし好きな方があればビデオでご覧になって下さい――というところですね。

賀川:そうだね。ジネディーヌ・ジダンというフランスのスターは、あの大きな体でのピポット・ターンが有名だが、俊輔のこのときのターンもまた大したものだ。
 ターンをして、そのまま左足で右オープンスペースへグラウンダーのパスをした。ボールを受ける前からノーマークの大きなスペースがあり、内田篤人にここでプレーさせようと考えていたのだろう。スタンドの記者席から見て、少しパスのスピードが遅く、内田が取れるかどうかと見えたが、タシケントで体調を崩し、スタジアムにもゆかずに静養したという内田は元気でスピードを上げて走り、DFのスライディングよりも早くボールを取って縦にドリブルし、ペナルティエリア右外ギリギリで中央へライナーのクロスパスを送った。

――そこへ岡崎慎司が走り込んできた。

賀川:岡崎は日本側エンドでのボールの取り合いに加わって、右足ボレーで叩いて憲剛にボールを渡した後、すぐ前方へ走り出し、左サイドから斜め右、ペナルティエリア中央へ入ってきた。記者席からは、彼が相手の一人とコース取りしながらニアポスト側へ走り寄ってきたところへ、内田からのライナーのクロスが来た。それが岡崎でなく、アハメド・アリ・F・A・アルビナリの体、腹部のあたりに当たってゴールに入った。

――テレビではGKカセム・ブルハンの位置が前に出たように見えました。

賀川:あとでビデオを見ると、カセム・ブルハンは前へ出てクロスを自分で取ろうとしたようだ。だからニアポスト側があいて、アルビナリに当たったボールが入ってしまった。

――岡崎の走り込みも効いたのかな。

賀川:もちろん、オウンゴールだが、内田と岡崎にアシストをつけたいところだネ。ペナルティエリア中央にかかるあたりで左から斜めに走ってきた岡崎がいったんニアに出ようとしたのを、アルビナリが体を寄せて(おそらく腕を使って)押し返しながら併走した。岡崎は粘っこい体だからこういう密着、あるいは絡んでのプレーでそう簡単に譲らないから、何秒間か2人は絡んで併走してきた。そこへ右サイドから速いボールが来た。アルビナリは左手側で岡崎を押さえながら、だから右からお腹の高さに来るボールを足で処理できず、体に当ててしまった。
 次の日の朝日新聞(大阪版スポーツ面)の写真を見ると、彼が左手で岡崎の右腕のシャツを握っているところをバッチリ捉えている。おそらく左手で岡崎の動きを封じていたものだから、体の向きを変えられなかった(体でボールをポストの外へはじくことができなかった)のだろう。ニアサイドへ飛び込むのを得意とする岡崎のニアへの執念が生んだオウンゴールだと言える。


【つづく】

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日本代表 vs カタール代表(1)

2009/06/14(日)

2010 FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会 アジア最終予選
6月10日(神奈川・横浜国際総合競技場)19:39
日本代表 1(1-0 0-1)1 カタール代表
得点者:オウンゴール(日 2分)アリ・アフィフ(カ 53分)

【日本代表メンバー】
GK: 1楢﨑正剛
DF: 22中澤佑二(Cap.)4田中マルクス闘莉王、6内田篤人
MF: 5阿部勇樹→8松井大輔(58分)、7橋本英郎、10中村俊輔→13本田圭佑(81分)14中村憲剛、15今野泰幸
FW: 9岡崎慎司、11玉田圭司→13興梠慎三(67分)
SUB:18都築龍太 3駒野友一、17山口智、12矢野貴章

【カタール代表メンバー】
GK: 2カセム・アブドゥルハメド・ブルハン
DF: 3ハメド・シャミ・ザヘル、6ビラル・モハメド・ラジャブ(Cap.)13イブラヒム・マジェド・アブドゥルマジェド
MF: 5マジディ・アブドゥラ・シディク、10モハメド・アブドゥラーブ・アルヤジディ、11ファビオ・セサル・モンテシン→8メサド・アリ・アルハマド(70分)
FW: 9アリ・ハサン・ヤハヤ・アフィフ→14ハサン・ハリド・アルハイドス(87分)12マジド・モハメド・ハサン→15ユセフ・アハメド・アリ(54分)16アハメド・アリ・F・A・アルビナリ、17モハメド・ヤセル・モハマディ
SUB:1ババ・マリク・ヌジャイド、4ムサ・ハルーン・ジャマ、7アリ・ナセル・サレ、18ワヒード・モハメド・T・モハメド


――アウェーのウズベキスタン戦(6月6日、タシケント)は、とてもしんどい試合でした。今度はホームの横浜だから、日本代表のホームでの予選最終戦はすっきり…とゆきたかったのに――。大苦戦でした。

賀川:タシケントの試合で、精神的にも肉体的にも疲れたのだろうネ。悪いピッチに気を使い、レフェリーの不愉快な判定に、気持ちの上でもプレーのリズムの上でもひっかかりながらの90分間だった。ぶつかられ、タックルでケガをした者もあっただろう。そんな大苦戦で本番への出場権を勝ち取ったのだから、ホッとするな、気を緩めるな――といってもムリな話。選手たちも監督、コーチも、口でも頭の中でも「本番出場が決まった。いよいよこれからがスタートだ」と言ったり考えていたりしていたハズだが、体は正直なもの。タシケントの試合の前ほどに気持ちが高揚していたかどうか――。もし高揚しても、それが体の端々(はしばし)までみなぎっていたかどうか――。

――相手のカタールは、ドーハで強敵オーストラリアと引き分けています。

賀川:オーストラリア側とすれば、引き分けで出場権を取れるのだから無理をしたかどうか。それでも、カタールにとって、グループ最強のオーストラリアと引き分け、勝点5となったから、日本に勝てば勝点8。6月17日のバーレーン対ウズベキスタン戦の結果によっては、3位となって、プレーオフの望みが出てくる。ブルーノ・メツ監督はもちろん、選手たちの士気も高まっていただろう。

――しかし、日本はキックオフ2分後にゴールを奪った。

賀川:そう、相手が攻めに出ようとするからウラが狙いやすいこともあった。オウンゴールだったが、攻撃の仕掛けもよかった。
 日本のキックオフで始まり、後ろから右へ回して攻めようとして、カタール側に取られ、カタールの右サイドからの攻めのとき、ドリブルをファウルで止めてFKを与えた。右タッチ寄りで35メートルくらいの位置かな。11番をつけたファビオ・セサル・モンテシンが左足で日本のゴール前へライナーを送り込んできた。
 これを阿部勇樹が低い姿勢でヘディングして、その高く上がったボールの落下点でのボールの奪い合いから岡崎慎司がボールを取った。足に当てたボールが中村憲剛にわたって、そこから得点への攻めが始まった。


【つづく】

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アウェーの大ハンデの中で大一番に勝った日本代表の実力(3)

2009/06/10(水)

■岡崎・憲剛が生きた先制ゴール

――それが、大事な試合で出ましたね。

賀川:前半9分のこのゴールは、すでにテレビや新聞で皆さんも何度も注目し、読み直されたことと思う。ピッチが日本向きでなく、レフェリーが明らかに日本側に厳しかったという2つの大ハンディキャップで、見る者にもプレーする選手たちにも不安が出そうなときの先制ゴールだったからネ。

――中村憲剛のパスがうまかった。

賀川:右サイドから裏へ走る岡崎の前へ、少しボールを浮かせてパスを送った。彼はサイドキックでゴロ(グラウンダー)の正確なパスを出すのだが、この日の深い芝の状態を見て、転がすより空中(ライナー)のボールの方が正確に届くと見たのだろう。小さくボールの底を蹴って浮かしたボールを岡崎が走りながら右足のインサイドでピタリと止め、相手DFに追走されながらバウンドに合わせて左足でボレーを叩いた。ボールがGKに当たって跳ね返ったのを、岡崎は前に倒れながらヘディングした。ボールはGKの左を通りすぎてゴールへ飛び込んだ。

――自分で蹴ったリバウンドを決めたのですからね。

賀川:私は、2002年W杯の前にモロッコでの対フランス戦でモリシ(森島寛晃)が決めたゴールを思い出したヨ。

――ああ、DFラインの裏へ飛び出してシュートし、そのリバウンドを決めたゴール。あの大選手ドゥサイイーが、モリシに何か口汚く罵ったそうですね。

賀川:彼らにとっては予期しない出来事で、W杯優勝チームのディフェンダーは驚いたのだろうネ。実はこの岡崎の先制ゴールはかつてのモリシと同じように彼がディフェンスに参加したプレーから始まっているんですヨ。

――へぇー。


■守りのヘディングから岡崎は攻めに転じた

賀川:このチャンスの少し前に、ウズベキスタンが右サイドから攻め込んできた。8番をつけたタフなジェパロフがスローインして味方に当てて、そのリターンを受け、左足で高いボールを中央へ送った。ペナルティエリアすぐ外に落下したボールをジャンプヘディングで取ったのが岡崎だった。

――そこまで戻っていたんですね。

賀川:この少し前、中村がジェパロフにタックルしていたからネ。
(1)岡崎がヘディングで前へ送ったのを
(2)中村憲剛が取ってすぐ前を向き、ドリブルして誰もいないスペースへ持ち上がって
(3)ペナルティエリアへ行くまでに相手の2人に挟まれてボールを奪われた
(4)奪ったウズベキスタンはバックパスをしてDFが前へ蹴った
(5)このボールを長谷部が取った。ノーマークだった
(6)前方右に大久保がいた。岡崎はその前にスタートして右外へ上がろうとしていて
(7)長谷部はすぐ前の中村憲剛に5~6メートルのパスを送った
(8)憲剛はターンをしながら右外側から走り込んでくる岡崎のコース、DFラインの裏へ送った

――自陣ペナルティエリアから相手のゴール前まで岡崎は長いランをした。

賀川:そう、岡崎の走力はすごいが、ただし、このチャンスは中村がドリブルを奪われ、その相手のパスを長谷部が取る。そして長谷部がすぐに相手DFの裏へ出すのでなく目の前の憲剛に渡し、憲剛が裏へ送り込んだから、この間、岡崎のランは間にタメが入っている。この日、中村憲剛をこのトップ下に置いたことの効果がここにも出ていたよ。

――このあとにもチャンスはありましたが、得点にはならず。特に後半は押し込まれて大変でしたね。

賀川:このゴールはまさに、いまの日本サッカーの実力を示す見事な得点だが、その後の苦い時間を防いだのも日本サッカーの実力ですヨ。中澤と闘莉王、それに両サイドのFB、さらには中村俊輔、遠藤、長谷部たちの素晴らしい守りのプレーもまた歴史に残るものだ。

――いくら押し込まれても、その間にもう1点取っておけば楽だったのに…

賀川:それについてはまだまだ、付け加えるべき話もあるし、言いたいこともある。特に攻撃の選手にはネ。ただし、1点差だから相手が元気づいて最後まで試合を諦めなかった。それに対してこちらも気迫で負けなかった。中澤や闘莉王がヘディングで跳ね返し、楢崎がハイボールやシュートに対応しているときの動作を見ていて、日本の守りも強くなったものだと思ったヨ。サッカーはゴールだけで決まるという冷厳なもので、ウズベキスタンもいくら攻めてもシュートがきちんとゴールへゆかなければ点にならないのだから。

――その点でまた、持論のシュート力が出ますね。

賀川:サッカーの基本の大切さは、どちらのチームにも公平なものだ。今回はとりあえずよく勝ってくれてありがとう、アウェーのしんどさ、グラウンドとレフェリーに負けなかったことに感謝するのだが――。
 もう一つだけ言っておくと、日本代表のプレーヤーはトルシエ元監督が手を使うことを自ら範を示して教え込んで以来、手を使うのが当たり前のようになっている。日本の選手の手の使い方は前へ出すから目立ちすぎると思う。だから、レフェリーの“片手落ち判定”のように見える中に、“手を使う”動作が明らかだという言い訳をつくらせているように見える。これまでも、明らかな腕の使用(プッシング、ホールディング)について話したことがあったが、今度のアウェーのハンデを語るときにこの問題を考えておきたいネ。

――残り2つの試合は?

賀川:岡田監督は、この試合までの26試合、キリンカップ、キリンチャレンジカップ、W杯の3次予選と最終予選、アジアカップ予選などのそれぞれの試合で選手を見極め、少しずつチームの強化を図って徐々に狙い通りの代表をつくってきた。選手たちもまた、その効果を感じ始めているだろう。
 本番にゆけることが決まったいま、休養はもちろん大切だが、代表チームの全員が揃って2試合できるというチャンスを生かしてステップアップを図ってくれるでしょう。選手たちは大人だから、十分にそのことを感じているハズだ。


【了】

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アウェーの大ハンデの中で大一番に勝った日本代表の実力(2)

2009/06/09(火)


■史上最強のCDF

賀川:いまの日本代表は、オシムさんが病に倒れ、岡田監督に代わってから1年半、最初の公式試合は2008年1月26日のキリンチャレンジカップだった。以来、W杯予選の3次予選、最終予選、AFCアジアカップ2011予選、そしてキリンチャレンジカップやキリンカップなど26試合を重ねて、タシケントでの戦いが27試合目。それらを通じて、チームは次第に整備され強化されてきた。
 中央のDFに、中澤佑二田中マルクス闘莉王の2人が揃った。GKは楢崎正剛が故障回復で戻ってきた。ゴールキーパーを含めてこの3人の守りは、身体の大きさや技術そして経験の面から見て史上最強だろう。その控えがまだ必ずしも同レベルにはないとしても、大型DFが揃うようになった。

――阿部勇樹今野泰幸もいます。

賀川:彼ら2人はボランチ役が適所だが、どこでもやれるし、長身とはいえないがヘディングは強い。何でもできるために損な使われ方をしているが、得難い才でもある。特に2人はもともとキックがうまいので、ディフェンダー全体のキック力アップにつながっているとも言える。

――ふーん、そういう見方もありますか。サイドバックにも新しい2人を加えましたね。

賀川:これは監督の“目”だろうネ。内田篤人の適性は誰もが認めるところだったが、長友佑都というプレーヤーの性格と体力、技術に着目した点はすごい。

――これまでの駒野友一もいて、まず後方が固まりました。


■速くて機敏なFW

賀川:中盤は多士流々の日本だが、FWは誰が見ても適格者が少なかった。

――小さくても速くて積極的に仕掛けられる選手をどんどん登用しましたね。

賀川:もちろん、小さいというのは欠点ではなく特徴だが、ヘディング、高いボールの取り合いとなると長身者に比べてハンデはある。日本ではかつての釜本邦茂のように、大きくて強くてシュートは右も左も蹴れるといったFWがなかなか出てこない。

――1960~70年の182センチという釜本さんの大きさは、いまのサッカーなら186~190センチという感じですからね。

賀川:Jのクラブのコーチの中にも、ストライカーが日本で育つのは難しいなどという人もいるくらいで、なかなか育ってこない。それも困りものだが、日本人でチームをつくらなければならない岡田監督は、日本人の特徴である機敏性あるFWを選んだ。
 ちょうど2008年の欧州選手権(EURO)でスペイン代表が優勝した、小柄なミッドフィルダーと攻撃メンバーのプレーが世界に大きな衝撃を与え、小柄な選手と、それを抱える指導者たちにも大きな自信を与えた。岡田監督は自分自身の考えを大事にする人だから、スペイン流に飛びついたわけではないだろうが、腹の中ではニヤリとしたかもしれない。

――しかし、その小型で敏捷なFWもなかなか点は取れなかった、そこへ岡崎が現れた。

賀川:興梠も岡崎もそれぞれ特色があるが、岡崎は、前にも言ったとおり、滝川第2の頃からボールを蹴っている回数が多いように見える。ボールを蹴り、走ることを厭わない彼は、自分のプレーの中で自らの粘り腰、あるいは膝の強さという体に備わった素質を上積みしながら蹴る技術をランクアップしてきた。走り込んでシュートするという、最も基本的な点の取り方のできる選手だろう。上背はあまりないのにヘディングが強く、ジャンプのタイミングがいい。ニアに飛び込んでゆく点取り屋の“厚かましさ”もついてきた。


【つづく】

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アウェーの大ハンデの中で大一番に勝った日本代表の実力(1)

2009/06/08(月)

2010 FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会 アジア最終予選
6月6日(タシケント)19:05 (日本時間 23:05)
日本代表 1(1-0 0-0)0 ウズベキスタン代表
得点者:岡崎(日 9分)

【日本代表メンバー】
GK: 1楢﨑正剛
DF: 22中澤佑二(Cap.)4田中マルクス闘莉王、3駒野友一、15長友佑都
MF: 10中村俊輔→6阿部勇樹(91+分)7遠藤保仁、14中村憲剛→13本田圭佑(66分)17長谷部誠
FW: 16大久保嘉人→12矢野貴章(69分)9岡崎慎司
SUB:18都築龍太、5今野泰幸、8橋本英郎、11玉田圭司

【ウズベキスタン代表メンバー】
GK: 12イグナティ・ネステロフ
DF: 3イルホミオン・スユノフ→13サフブ・ジュラエフ(83分)、4イスマル・チュラホジャエフ、5アンズル・イスマイロフ
MF: 2ハムザ・カリモフ、6ジャスル・ハサノフ、8セルヴェル・ジェパロフ(Cap.)9オディル・アフメドフ、10ファルード・タジエフ→11アンヴァル・ソリエフ(62分)18ティムル・カパーゼ
FW: 15アレクサンドル・ゲインリフ→16シャボズ・エルキノフ(75分)
SUB:1ティムル・ジュライェフ、14コモリディン・タディエフ、7アジズベク・ハイダロフ、17スタニスラフ・アンドレイエフ


――やりましたね、日本代表! ワールドカップ(W杯)の本番へ、アジア代表の一つとして出場権を得ました。

賀川:テレビの前の日本サポーターは終了の笛が鳴るまで緊張したでしょう。まぁ、大変な試合だったが、選手たちは頑張ったネ。0泊3日の強行スケジュールで現地へ駆けつけた応援の人たちも、本当にご苦労さんだった。タシケントまで飛んだ甲斐があったネ。チームも応援サポーターも関係の皆さんも、テレビをはじめメディアの皆さんにも、お礼を言いたい。


■ドイツ大会の二の舞にはならなかった


――それにしても、しんどい試合でしたね。

賀川:日本代表の試合は、相手によってこういう形になることもある。2006年のW杯ドイツ大会のグループリーグの第1戦の対オーストラリアの終盤がそうだった。今回はボールを拾われ、相手の攻撃の時間がドイツ大会の対豪州よりも長かっただけに、見ている側はハラハラの時間も長かった。

――それでも、早いうちの1ゴールが利きました。

賀川:いつも話しているように、いくら押し込まれても、いくら攻められても、ゴールへボールを入れられなければ無失点。こちらが一つ点を取れば1-0で勝つのがサッカー。

――これまでは、そのゴールを奪うのがなかなかできなかった。

賀川:岡田武史監督は――キリンカップのところで話したように――岡崎慎司興梠慎三という新しいFWを代表に加えた。昨年10月のキリンチャレンジカップの対UAE戦から起用するようになり、岡崎の働きが目立つようになってきた。玉田圭司や田中達也たちの故障もあり、この試合に岡崎を登用するのにためらいはなかったと思う。そして5月31日のキリンカップ、対ベルギーで中村憲剛をトップ下に置いてみて、その効果を確かめ、この試合でも憲剛を起用した。

――日本の中盤は、中村俊輔遠藤保仁という、攻撃のときのタイミングの取り方のうまさとパスそのものの正確さでは高いレベルの選手がいます。中村憲剛をその中へもう一枚加えると、FWを削ることになりますね?

賀川:憲剛は自分のチームでも、代表に入っても左右にパスを散らし、あるいはズバリとスルーパスを出すといったプレーには定評がある。しかし、彼にはもう一つ、第2列からトップ下へ飛び出してゆくという魅力がある。

――第2列から前へ飛び出してゆくところですか。

賀川:うん、そうだ。

――そのときに必ずしも決定力が高いとは、賀川さんは見ていなかったのではありませんか?

賀川:中村憲剛のうまさは、前にも言った、ミッドフィールドでDFラインからのクリアあるいはパスを受けてそこからドリブルするかパスを出すかを判断して実行すること。そのためにボールを受けたときに前を向くプレーがうまい。そのために、第2列から飛び出して相手の危険地帯へ入ったときにボールを受けたときに余裕があって、周囲が見え、パスもできるしシュートもできる。
 いまの日本の攻撃は相手のペナルティエリアに多数の選手を送り込もうというやり方だから、その相手の危険地帯へ走り込んでから、多芸の中村憲剛をどういう風に生かすかを、おそらく監督は考えていたに違いない。

――そこに、岡崎という新しいFWのキャラクターが現れた。

【つづく】

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チーム全体の進歩で堂々たる勝利。個人力向上は日本全体の問題(下)

2009/04/03(金)

――いい攻めをしても追加点は生まれない。相手に1点取られれば引き分けで大変なことになる――と思いませんでしたか、このあたりで。

賀川:終盤に入って、長谷部に代えて橋本英郎(76分)玉田に代えて松井大輔(79分)田中に代えて岡崎慎司(86分)を投入した。こういう交代も、適切と言えるだろう。選手たちは、自分で攻め込むときと時間稼ぎをするときの考えも一致して、それほど危ない感じはなかったね。

――1点しか取れないということは…?

賀川:試合の後の記者会見で、ずいぶん攻めてチャンスもあったが“点が入るような気がしなかった”という辛辣な質問もあったが、岡田監督は「入りそうにないかもしれないが、これを繰り返す以外にないと思う。日本人に何が欠けているのかを検討する気はない。今は目標に向かうだけだ」と言っていた。

――JリーグでもFWは外国人が多い現況ですよね。

賀川:監督はそうも言っていた。だからといって、そのことについて論じるよりも、自分は今の日本人全体の戦力の中でどうするかだけだ、ということだろう。
 岡田監督は、オシムが病で倒れた後を引き受けてここまでいいチームづくりをして、手応えを感じ、ワールドカップ出場へも一歩ステップを進めた。まことに立派な仕事をしてきたと思う。

――ワールドカップでベスト4に入って世界を驚かそうという高い目標を掲げていますね。

賀川:得点力不足について、とくに困るのは大型ストライカー。大型で優れたFWについては、日本人の資質の問題に置き換えてしまう専門家の多いことだ。

――そうではないのですか?

賀川:その前に、今の練習法、育成法でいいのかどうか、そしてまた、大型でなくても点を取れる選手はどうして育ってくるのか――についても、日本全体にまだよく勉強していないのじゃないかナ。クロスをはじめパスの精度にしても、練習の質と回数だからネ。
 この話は近々しっかりと話したいが、今のサッカーマガジンに連載している「我が心のゴールハンター ~ストライカーの記憶~」での釜本邦茂シリーズを読んでもらえば、ヒントはあると思っている。

――勝って気分がいいのだし、その話もまた聞かせて下さいね。



【了】

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チーム全体の進歩で堂々たる勝利。個人力向上は日本全体の問題(中)

2009/04/02(木)

――47分(後半2分)の1ゴールだけだったから、相手の攻撃のときはヒヤリとしたんじゃないですか。

賀川:前半に一度、後半にもあったネ。しかし全体としては守りはしっかりしていた。奪われたらすぐ奪い返すというこのチームの考えと、それを実行する力はすごいネ。後半にはいくつかの決定的なチャンスも作った。

――内田(篤人)のノーマークシュートがバーに当たったのも惜しかったです。

賀川:まず、チーム全体としては

(1)久しぶりに楢崎正剛がゴールキーパーとして代表メンバーに戻りピッチに立ったこと。ケガで休んでいた間のコンディショニングが良かったとみえて、むしろ元気になって動きも良かった。
(2)中澤佑二田中マルクス闘莉王の2人のCDFもしっかりしていた。
(3)左の長友佑都は前半は攻めに絡み、後半もしっかり守るだけでなく得意の長走も見せた。
(4)右の内田篤人は、守りはともかく攻めで得意のドリブル突破ができず、前半はちょっと苛立っている感じだった。足に故障があったとかだが、相手も速くて、縦に抜けなかった。今日は調子は良くないぞと見ていたら、後半に3度もビッグチャンスに絡んだ。やはりいい選手だよ。
(5)遠藤保仁は、俊輔とは別の面での“うまさ”を発揮した。守りのポジショニングを見るだけでも、ヒザを打つ思いがするのだが、攻め込まれたあと味方が取ったボールを前へつなぐときのプレーもまたホレボレしたネ。

――遠藤が下がり目で、長谷部誠が飛び出しましたね。

賀川:彼はドイツのブンデスリーガへ行ってから、接触プレーに強さと粘りが出ていたことは、前にもお話したハズだが、それの守りと、前へ出る動きでいい働きをした。激しいというよりファウル・タックルの多い相手とやり合う強さはこのチーム全体の心意気を表していた。全体にエリア内に人数を多く入れてゆくという今のやり方の中で、彼がもう少し遠いところからシュートを狙う回数を増やせば、もっと変化が出るかもしれないし、そうした能力をつけて欲しいところだ。

――同じドイツにいる大久保は?

賀川:いつも試合に出ている状態ではない――というところがプレーにも出ていた。ワンタッチパスでいい場面を作ったり、守りでもよく働いていたが…

――本領のゴール奪取は…というところですね。

賀川:大久保に限らず、いや大久保以上に田中達也や玉田圭司の速さと、前述の奪われたら奪い返すプレーの連続には感服する。しかし、今のFWはこの守備の要求もこなして、なお得点もしなければならないので大変だ。

――そのFWよりも内田にビッグチャンスが後半3回ありました。

賀川:後半10分ごろだったかに、相手に攻め込まれ左寄りからのFKというピンチがあった。このカウンターから内田が飛び出してペナルティエリア内でロングパスを受けたのだが、トラップミスで相手GKサイド・モハメド・ジャファルにボールを取られてしまった。このカウンターはFKを取った楢崎から遠藤に渡り、ここから長谷部―遠藤―田中と右サイドでパスを交換して前進し――こういうときの遠藤のタイミングの計り方のうまさは絶品といえる――田中からリターンをもらった遠藤がボールをペナルティエリア内に送ると、その落下点に内田が走り込んでいた(内田の動きを見たから、遠藤がボールを送った)。
 相手FKのときに、味方ゴール前でたしかサルマン・イサをマークしていたハズの内田が、右でパス交換しての持ち上がりが進んでいる間に長走して相手ペナルティエリア内に侵入したひらめきと動きは素晴らしいものだったが、残念なことに落下してくるボールを右足アウトサイドでタッチして、それが大きく体から離れてしまった。

――テレビで見た者には一瞬、「内田がそこにいた!!」という感じでした。

賀川:決めておけば歴史に残るプレーだネ。このすぐ後に、今度は田中達也のドリブルシュートがあった。中村俊輔の見事なパス、日本の左を警戒していた逆をとってのアイデアからだが、田中のシュートがGKの体に当たって2点目にはならなかった。
 先ほどの内田のバーに当たったシュートは、このあと少したって65分(後半20分)ごろかな。これもバーレーンの右CKを防いだ後のカウンター攻撃。日本側のヘディングのクリアを拾った俊輔が左の玉田へ、玉田はドリブルで中央へ持ち込み、右サイドの内田にパス、ノーマークの内田はとラッピングしたあと強いシュート。ボールはGKの手をかすめ、バーに当たって跳ね返った。うまい攻めといいシュートではあったが、今度もゴールを奪えなかった。

――決定機でしたね。

賀川:内田はこの後にも、今度はペナルティエリア外からノーマークでダイレクトシュートするチャンスがあった(これは左ポストの外に外れた)。この攻撃は長友の縦パスから田中―玉田―中村―大久保とつないで、大久保が俊輔からのロブのパスを落下点でダイレクトで右へ振った。これをダイレクトで蹴ったところは内田らしいともいえるが、エリアの外からでもあり、私にはちょっと疑問が残った。



【つづく】

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チーム全体の進歩で堂々たる勝利。個人力向上は日本全体の問題(上)

2009/04/01(水)

2010FIFAワールドカップ南アフリカ アジア最終予選
2009年3月28日(埼玉スタジアム2002)19:20
日本代表 1(0-0 1-0)0 バーレーン代表

【日本代表メンバー】
GK: 1楢﨑正剛
DF: 15長友佑都、4田中マルクス闘莉王、2中澤佑二(Cap.)6内田篤人
MF: 7遠藤保仁、17長谷部誠→12橋本英郎(76分)10中村俊輔、16大久保嘉人
FW: 11玉田圭司→8松井大輔(79分)9田中達也→13岡崎慎司(86分)
SUB:18都築龍太、3駒野友一、5阿部勇樹、14中村憲剛

【バーレーン代表メンバー】
GK: 1サイド・モハメド・ジャファル
DF: 7モハメド・フバイル、14サルマン・イサ、16サイド・モハメド・アドナン
MF: 4アブドゥラ・ファタディ、10モハメド・サルミーン(cap.)12ファウジ・アイシュ→11イスマイール・アブドゥルラティフ(89分)13マムード・アブドゥルラフマン、15アブドゥラ・オマール→2アブドゥラ・アブディ(75分)3アブドゥラ・マルズーク
FW: 8ジェイシー・ジョン
SUB:18アッバス・アハメド、6ダウード・サード、17イブラヒム・メシュハス、5アブドゥラ・アルダキール、9アハメド・ハッサン

――日本代表、やりましたね。勝点3を積み上げて、5戦3勝2分けの無敗で勝点11。現時点でオーストラリアを抜いてグループ1位になりました。メディアの中には“王手”の見出しも出ました。

賀川:いい試合だったし、見事な勝利だったから、とても嬉しいが、まだ予選突破は決まったわけではない。もちろん、3試合を残している6月シリーズのうち一つ勝てば勝点14となって2位以内が確定するから、近づいているとは言える。

――4月から6月までの2ヶ月間、岡田監督の進退問題の記事が出ないだけでもいいんじゃないですか。

賀川:そうだネ。日本のサッカーファンでも悲壮感なしに6月を迎えられるからネ。何より選手たちは今のやり方で少しずつチームになっていることを実感しているハズですヨ。今度のバーレーン戦は色んな意味で一つのヤマと言えるかもしれない。

――となると、勝利の一番具体的な原因、中村俊輔のFKから話して下さい。

賀川:前半にもチャンスはあった。開始早々、田中達也がDFラインのウラへ走り込んで右ポスト近くからシュートしたのもあったし、24分だったか、遠藤保仁の右CKを中澤佑二がヘディングしたのもあった。田中のシュートは右ポストの外へ、中澤のヘッドは相手DFのカバーに防がれたが…。

――記録を見ると、日本のシュートは8本。相手は2本でした。やはりシュート力ですか。

賀川:バーレーン側の守りもしっかりしていた。試合直前の両チームのスタートリスト(先発メンバー)を見ると、バーレーン側は生年月日は記入されているが、身長・体重はなかった。

――日本側は書いているのに…ですか。

賀川:そうね。まぁ体格というのは一つの情報だからネ。74年ワールドカップのあのオランダ代表も身長は書かなかったネ。それはともかく、したがって、彼らの正確な高さは分からないが、明らかに185以上は数人いた。平均して脚が長く、それが速く動く。リーチもある。いい攻めをしても最後のシュートのところで体を寄せられ、足を出されて、いい形でシュートできなかった。だから後半はどこでFKを取るだろうかと見ていたら、いきなり玉田がゴール正面20mでファウルをもらった。

――いい位置でした。

賀川:玉田圭司はもともと足が速く、ドリブルには自信を持っている。代表でも名古屋グランパスでもFWで得点を期待されているが、ボールを持ち出しての突破そのものに威力があるプレーヤー。このときは右から中へペナルティエリアの外を横にドリブルした。右から中へだから、左足でシュートもできる形になる。相手はファウルで止めた。それまでペナルティエリア内で日本選手が走り込んで倒された中にはファウル気味のもあったが、この場合はペナルティボックスの外でもあり、レフェリーの笛が鳴った。

――カベに当たりましたね。

賀川:ゴール正面、20m少しあったかナ。カベには5人入っていた。中村俊輔はすぐそばの遠藤保仁に渡し、遠藤が止めたのを左足で蹴った。

――少しポイントをずらしたわけですね。

賀川:キックの位置を動かしたことでカベが割れ、俊輔の蹴ったボールは左から2人目の3番をつけたアブドゥラ・マルズークの頭に当たって高く上がり、方向が少し変わってGKの上を越えゴール右上隅に落下した。

――理想的なコースになりました。まさに好運。

賀川:俊輔も狙ったのだろうが、私はマルズークがヘディングで防ぐときに頭を下げたのが一つのポイントと思った。場内の大画面で映し出されたのを見ると、はじめに目を開いてジャンプした彼はボールに当たる瞬間に腕でカバーするようにして頭を下げた。

――真正面から9メートル15のところで蹴ったボールが向かってくれば、怖いでしょう。

賀川:ボールが接近したときに、そのボールから目を離したハズだ。頭を下げたためボールは頭をかすめて、日本側にとっては理想的な曲線を描いてゴールへ入った。

――ヘディングの鉄則は、ボールから目を離すな――と、いつか言っていましたね。

賀川:ボクは、日本代表のストライカーの中で最もヘディングの上手だった釜本邦茂選手のプレーを何度も生で見たし、1秒間25コマ撮りのフィルムを見たが、彼のヘディングは常にボールをとらえる前、とらえたとき、その後も、ボールを見ていた。もちろんボールが当たった瞬間、衝撃で目をつむることはあるが、直前、直後、しっかり見つめていた。
 有名なアーセナルとの試合でのダイビングヘッドの場面では、ボールをとらえ、自分は地面に落下して横倒しになったまま、まだボールを見ている写真も残っている。

 この3番の選手は、スタートリストではFWと記載されていた。長身の丸坊主が目立つプレーヤーで16番のサイド・モハメド・アドナンとともに中央部をしっかり守っていたが、このFKのときは気の毒な役割になってしまった。

――それによって俊輔の功が割り引かれることはなくても、ですね…。

賀川:もちろん、彼の球筋あってのことだし、前述の玉田のドリブルあってのFKということ。つまりチームの意志で、このチームの一番の武器であるFKを生かしたことには変わりない。
 余談だが、今度の試合も中村俊輔のキープとパスのうまさには何度も感心させられた。メモを見ると、「思わずウマイと声が出た」という書き込みもあるヨ。



【つづく】

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オーストラリア相手にチャンスをつくった。決定的な形もあった。それで得点できないのには、不運だけではなく理由がある

2009/02/18(水)

2010 FIFAワールドカップ 南アフリカ アジア最終予選
2009年2月11日(横浜・横浜国際)19:20
日本代表 0(0-0 0-0)0 オーストラリア代表

【日本代表メンバー】
GK: 18都築龍太
DF: 15長友佑都、4田中マルクス闘莉王、2中澤佑二(Cap.)6内田篤人
MF: 7遠藤保仁、17長谷部誠、8松井大輔→16大久保嘉人(57分)10中村俊輔
FW: 11玉田圭司、田中達也→13岡崎慎司(83分)
SUB:1川島永嗣、3寺田周平、5今野泰幸、14橋本英郎、12巻誠一郎

【オーストラリア代表メンバー】
GK: 1マーク・シュウォルツァー
DF: 2ルーカス・ニール(Cap.)3クレイグ・ムーア、
MF: 4ティム・ケーヒル→9ジョシュア・ケネディ(85分)5ジェイソン・カリナ、8ルーク・ウィルクシャー、11スコット・チッパーフィールド、13ビンチェンツォ・グレラ、16カール・ヴァレリ、18マーク・ブレシアーノ→10デービッド・カーネイ(92分)
FW: 14ブレット・ホルマン→7リチャード・ガルシア(64分)
SUB:12マイケル・ペトコヴィッチ、15ジェイド・ノース、6マイケル・ジェディナク、17スコット・マクドナルド

――0-0、残念でしたね。

賀川:いい試合だった。オーストラリアはアウェーで引き分けたのだから満足だったろう。日本が勝てなかったのは残念なことだが、私は、日本対オーストラリアというカードが、日韓戦とはまた別の新しいアジアのビッグカードとなったのは両国のためにもアジアのためにもとてもいいことだと思っている。スタジアムを6万5,000余りの観客が埋め、テレビでもたくさんの人が見たのだから。

――テレビ朝日の中継放送の視聴率は22.9%といいます。

賀川:プロ野球が、本来ならシーズンオフなのにワールドベースクラシック(WBC)と称する国際大会で話題づくりができるようになってきた。大リーグで活躍する選手たちも日本代表に入って、注目度も高くなっている。そうしたときに、ワールドカップ(W杯)のアジア予選の、それも第1クールでこれだけ盛り上がっているのだから……

――大きな目で見ればそうも言えますね。

賀川:イビチャ・オシムという、日本のメディアの間で信仰に近い人気を持っていた監督が病に倒れたあと日本人の岡田武史監督に代わって、1年少々の間にチームは徐々に変化して力もついてきた。そのことを、今度の対オーストラリアで見せたと思う。

――オーストラリアのピム・ファーベーク監督は、日本がよく動くこと、パスワークがいいこと、早いことなどは全て想定内だったと言っています。

賀川:危機感を盛り上げることで団結してゆこうという日本側と、1週間前からやって来て内外に聞こえるように“自信満々”と言いふらして弱味を見せまいとする相手側との対比も面白かったネ。双方とも“度”が過ぎると見た人もあるだろうし、適当だったと見る人もあるだろう。そういう中で日本代表が少しずつ進化してゆくのが大事なことです。

――日本のシュートは11、相手は3。

賀川:イングランドのプレミアリーグでも得点しているティム・ケーヒルエバートン)、あの4番をつけて最先端にいたスリムな選手を中澤佑二が完封した。闘莉王との協力も良かった。1本、フリーにして中距離シュートされる場面もあったがGK都築龍太の正面だった。
 相手は守りを重視してまず無失点に、チャンスがあれば攻撃に出て点を取ろう――と。そのときの中心になるのがケーヒルで、その彼に仕事をさせなかったのだから。

――3本のシュートのうち、もう1本はノッポのムーアのヘディングでした。

賀川:前半42分に、右CKからのプレーだった。もう1本は後半(84分)の、ブレシアーノのFK(オーバー)。
 前半はじめに日本が攻めてチャンスが続いたあと、しばらくオーストラリアのプレッシングが効いて日本が受け身になる時間があったが、それ以外は日本側がコントロールした。

――何が良かったのでしょう。

賀川:点を取りにゆこう、という意欲が強いこと。そして、サイドへ散らして外から、あるいは中央部を――と、色々なテを使ったこと。もちろん、一人ひとりの技術の高さやスピードもある。その典型的なのが前半5分の玉田圭司のシュートだった。

――田中達也が相手バックラインの裏へ走ったチャンスでした。

賀川:右サイドの中村俊輔から中央やや右寄りの玉田の足元へパスが出て、玉田は戻りながら長谷部誠へバックパス。このとき中央左寄り前方にいた田中達也が右斜め前へ走り出す。長谷部が、玉田からのバックパスがバウンドしたのを高い位置のボレーでとらえてポーンとバックラインの裏へ送り込んだ。
 バウンドしたボールをダイレクトで蹴ったのが長谷部のうまいところで、田中はオフサイドにならず全くノーマークで走り抜けてゴールライン近くからよく狙ってスピードを殺したクロスを送った。玉田が足の速さを見せつけて相手DFのニアで取り、シュートは右ポストの外へはずれた。左利きの彼らしく、右から来るボールを左足でタッチしてニアサイドを突くつもりだったのだろうが、そうはゆかなかった。田中達也にボールが渡ったところまではパーフェクトだったが…。

――これが決まっていれば、ずいぶん変わった展開になったでしょうね。

賀川:この3分後に、今度は内田篤人がゴールエリア左外へ走り込んでパスを受けるというすごい場面もあった。内田が右から中央部へドリブルし、遠藤保仁に渡して、そのまま中へ走り込む遠藤から玉田へ。玉田はそれを内田へ送った。相手は一人ついてきたが、少し遅れていた。
 私は内田のシュートチャンスと見たが、彼はキープし、後方の松井大輔にパス。松井のシュートは相手に当たってゴールへ届かなかった。

――これも、エリア内に侵入してボールを受けるところまでは良かったと?

賀川:この、5分と8分の2つの相手DFラインの裏へ走り込んでのチャンスづくりは、おそらく、攻めの動きのパターンのうちに入っているハズで、練習していたものだと思う。ただし、この形になったときに決定的な場所でボールを受けた者が何をするかが最重要ポイントとなる。玉田がニアへ走り込んだとき、右足でボールを叩くか、左足でタッチするのか。内田がゴールエリア左外へ走り込んでボールを受け、左足でシュートするのか、ダイレクトで誰かにパスをするのか。それがゴールになるかどうかなのだと思う。

――2つのチャンスが、今の日本代表チームの性格を表している?

賀川:今の日本代表というより、ここ何年かの日本代表。というより日本選手のスタイルだね。実に見事にパスを組み立て、決定的な瞬間を迎えるが、フィニッシュは成功しない。

――内田は、14分にこぼれ球をロングシュートして超オーバーしました。

賀川:たしか、玉田のドリブルから生まれたFKのあとだった。相手DFのヘッドのクリアが中央にいた内田のところへ来たのだが、大きなバウンドにスイングが合わず、ボカーンと蹴ってしまった。落ち着いて処理してから蹴っても良かった。早いうちに蹴っておけ――ということになっていたのかも知れないが。

――前半、玉田がエリアぎりぎりあたりからのシュートを浮かせてしまいましたね。

賀川:右サイドからの内田のパスを、長谷部がジャンプしてヘッドだったか胸だったかで後ろへ落とした。玉田が走り上がって左足でシュートしたが、高く上がってバーを越えた。少し難しいボールだったが、近くに相手がいたわけでもないのだから落ち着いて処理すれば良かった。ビデオのリピートを見ると、バウンドボールの2つ目をショートバウンドで押さえようとしたのが少し遅れたために上がってしまったのだろう。彼は左でのボレーを好む方だが、自分の一番いい形でシュートすることはストライカーの要件の一つだと思う。ドリブルや俊足での突破などで相手に脅威を与えることのできるFWだから、このフィニッシュがもう一つステップアップすれば――と、誰もが思っている。

――彼は後半にも惜しいヘディングがありました。

賀川:長友佑都の左からのクロスに飛び込んだ、79分のチャンスだネ。比較的近い距離からの早いボールだったから、玉田には難しいボールだったかもしれない。ただし、この長友―玉田のプレーを、互いに、どのボールをくれ、どのボールを出すからという連係の極意というか、あうんの呼吸で演じるのがサッカーの面白さだから――。
 今ここで言うと、迷う選手も出てくるかもしれないが、この試合では攻撃のこういうときのテンポが“急”ばかりで、合わせるポイントは「一つだけ」、というサッカーをやっているところにゴールを奪う難しさがあったともいえる。

――「緩」と「急」についてはまたの機会にして……。
 後半の玉田のシュートの少し前に、遠藤がすごいシュートを見せましたね。GKマーク・シュウォルツァーが防いでCKになりました。

賀川:そうそう。後半に入って、57分(後半12分)に松井に代わって大久保嘉人が登場した。MFの左サイド、松井と同じポジションだが、当然、彼はゴール前にも現れる。玉田や田中達也との連動も楽しみになる。
 その大久保が、68分に右ポスト際で反転してシュートをした場面があった。左足のシュートは弱くて、GKシュウォルツァーがキャッチした。
 そのあと、今度は70分に遠藤がペナルティエリア外からシュートした。GKに防がれたが、いいシュートだった。これは、左から遠藤が大きく振って内田へボールを送り、内田が余裕をもってキープしている間に中央へ遠藤が入り込み、内田から横パスをもらってダイレクトシュートしたのだった。2人による長い横のワンツーからのシュートだった。
 遠藤と内田という柔らかいプレーをする2人の合作チャンス。いいシュートだったが、もう少しどこを狙うかを決めて欲しかったネ。何といっても遠藤だから……。

――テレビを見ていて、岡田監督が一番口惜しがったのは86分の長谷部のシュートでしたね。

賀川:クロスを上げても長身の相手DFに跳ね返される。CKやFKも成功しないという流れが、この頃になるとオーストラリア側の動きが鈍ってきて、クロスに対してもGKとDFが重なったり、シュウォルツァーのパンチがペナルティエリア内に落ちたり――といった守りの乱れも出始めていた。
 これだけ攻められれば、徐々に綻(ほころ)びるのはどこも同じだと見ていたとき、相手の攻撃でのFKを防いだあと、大久保が中央で拾い中村俊輔に渡し、俊輔のドリブルでカウンターが始まった。その俊輔から右サイドの内田にボールが出て、内田がクロスをファーに送った。落下点には長谷部がいて、相手のDFの上を越えて落ちてくるボールをボレーで叩いた。シュートはゴール前へ飛んだが、ゴール正面にいた大久保に当たって左ポスト外へ出てしまった。
 相手に攻め込まれたあとのカウンターから、中村俊輔のドリブルと内田へのパスの間にゴール前へ大久保と長谷部も走り込んで、その長谷部がファーポスト側にいてノーマークでシュートするという理想的な形だったが……。

――大久保に当たったのが不運だったでしょうか。

賀川:なぜ大久保に当たったか。大久保はどう反応すればゴールインになったのかも考えることになるだろうし、また、ボレーを押さえてゴロのシュートにしたのがいいのか、ライナーあるいは高い強い球を蹴るのがいいのか。これからはそこまで考えたり議論したりすることになるだろうし、なって欲しい。

――チャンスがなぜ点にならないかを――ですね。

賀川:ストライカーという人種は、点が取れなかったことをくよくよ思わないそうだが、それは、1試合に1点ずつ、あるいは60試合で50得点といったクラスの話だろう。そこへゆくまでは、“何故”入らなかったか――を考え、点を取るための練習をするハズだ。

――チームは良くなっていると言いましたね。

賀川:例えば内田篤人。キリンチャレンジカップのあとで、内田がチャンスを生むパスを出せるようになってきたと語り合ったでしょう。この日も彼からいいパスが出た。だから右サイドの攻めに変化が出て、多彩になった。

――FK、CKが得点に結びつきませんでしたが……

賀川:中村俊輔のFK、CKはいつも期待を持たせてくれるが、この試合では得点にならなかった。それでも、彼のきめ細かいパスの技は堪能できた。

――例えば?

賀川:前半に長谷部がペナルティエリアの右のラインに走り込んで、俊輔からのパスを受けてチャンスを作った場面があった。俊輔は相手DF2人を前にして、顔は中央に向け、ボールは左足で小さく浮かせてDFが伸ばした足の上を通して長谷部にボールを渡している。これはビデオのリプレーでも映っているから、多くの選手の参考になるだろうが、彼のこうした熟練の技と各選手のランでチャンスづくりのバリエーションは先述のとおりどんどん増えている。

――あとはシュート練習だけですね。

賀川:そう、シュートですヨ。シュート場面で冷静に、正確に蹴れる。処理する選手になるということだが、もう一つ、シュートの場面とタイミングのつくり方もある。これについては、また別の機会にしよう。

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モリシの引退に思う

2008/11/04(火)

 モリシのニックネームでセレッソ大阪と日本代表で多くのファンに親しまれてきた“小さな大選手”森島寛晃(もりしま・ひろあき)が引退した。
 昨年3月に首の痛みが発生してから1年以上試合から遠ざかったまま調子は回復せず、10月30日に引退を発表、31日に記者会見を行なった。

 1991年の高校卒業後、ヤンマーに入り、94年にセレッソ大阪となってからJ1、J2リーグで合計13年間(J1―318試合94得点、J2―42試合12得点)。ヤンマー、セレッソ大阪ひとすじでプレーしてきた幸福と、その間2度、リーグ優勝を目前に敗れ(2000年J1・1st、2002年J2)、また天皇杯でも3度(1994、2001、2003)準優勝に終わった無念――などを記者たちの質問に応じて丁寧に語った。

 驚くべき運動量と、チームへの献身的なプレーは、ゴール前の穴場を見つける独特の感性とともに日本代表でもJリーグでも天皇杯でも発揮され、味方ゴール近くで守備に回っていたところから一気にサイドを駆け上がってチャンスをつくり、あるいは中盤で相手ボールを懸命に追っていたかと思うと次にはゴール前のポカリと空いたスペースに入り込んでゴールを決めた。

 モリシのヤンマー、セレッソでの足跡は、かつてのスーパースター釜本邦茂と同じように、その1試合1試合がこのクラブの貴重な歴史として残るものだが、私が特に印象深いのは2000年前半(サントリーシリーズ)での西澤明訓とのペアプレーの完成期だった。
 日本人のCF(センターフォワード)としては柔軟で特異な反転プレーを生かしつつ、ボールを受けては左右に散らし、あるいはヘディングで自在にパスを出した西澤と、中盤でのボール奪取に絡んでいて突如として相手ゴール前の最も危険な地域に現れるモリシによって、セレッソのサポーターはペアプレーの面白み、サッカーでの「あ・うんの呼吸」つまり息のあったプレーの楽しさを知り、それが得点を生むことに拍手喝采した。

 ゴール前でのチャンスの回数に比べてシュートミスもあったモリシが、自らの工夫でシュートの確実性を増したことが、サントリーシリーズでの優勝を争うことにつながった。だが残念なことに、川崎Fとの最終戦をモノにできず(2000年5月27日、1-2、長居)優勝を逃してしまう。
 さらに残念なことに、名声を上げた西澤明訓がこの年のセカンドステージの後半にスペインリーグ移籍の意向を示し、そのためにチーム全体が浮足立ってしまい、次の2001年にJ2に降格してしまった。
 西澤のスペイン行きは本人にも好結果を生まなかったが、モリシ・西澤の2人が2000年のファーストステージで見せたペアプレーの完成への努力を次のシーズンも続けていれば、日本と関西のサッカーがどれほど楽しいものになったか――いま思い出しても、もったいない気持ちがする。

 彼の能力は95年に日本代表に選ばれてから2002年のワールドカップKOREA/JAPANに至るまで代表チームの一つの重要なアクセントとなっていた。
 95年のアンブロカップで日本代表が聖地ウェンブリーでイングランド代表と対戦したとき、小柄なモリシの俊敏なドリブルにピーター・ベアズリーがたまらずトリッピングのファウルで倒したことがあった。あのあとで英国の大記者ブライアン・グランビルがやってきて「キミが言うとおり、モリシマは素晴らしいネ。ベアズリーのファウルは、本当ならイエローものだからネ」と言っていた。

 2000年前半のモリシ・西澤の好調は、モロッコでのハッサン2世杯でも発揮され、あのジダンやデサイーのフランス代表相手に2点を奪った(2-2、PK2-4)。1点目はモリシの飛び出しとシュートのあと、GKバルテズに当たったリバウンドを自ら決めたもので、その見事なダッシュのあとを追うハメになったデサイーが、失点のあとすごい形相でモリシを睨みつけたのだった。

 2002年の日韓共催ワールドカップのチュニジア戦でのモリシの先制ゴールは、会場が長居だっただけに、関西のファンには記憶に新しい。
 謙虚なモリシ自身は、「98年大会はほんのわずか出場しただけだったが、2002年は大阪で後半頭から出場させてもらい、ゴールを取れて本当にうれしかった」と言っているが、フィリップ・トルシエ監督(当時)がもっとモリシのプレーを理解し、評価しておれば…。対トルコ戦に西澤を使うという予想外の起用をしながら(これもおかしいが)その西澤を生かすのであれば、なぜモリシを同時起用しなかったのか――いまも不思議に思っている。
 この大会を観戦したデットマール・クラマーは初めてモリシを見て、「試合の流れを変えることのできるプレーヤー」と言っていたのだが…。

 森島寛晃という選手の素晴らしさは、釜本のようにパワフルでもなく、ロナウジーニョのように巧妙でもないが、ズバ抜けた機動力で、小さな体でありながらサッカーという競技のスケールの“大きさ”を表現したこと――左サイドの自陣で守りに絡んでいたかと思うと、味方が次にボールを取ったときにははるか離れた右サイドのタッチ際を走ってパスを受けるスペースをつくっていた――。まさに、寛晃(ひろあき)の名のとおりだった。

 同時に、中盤で守備に絡んでゴール前へ飛び出すときの最初の一歩、二歩の踏み出す方向によって自分の行き先を相手に悟らせず、ゴール前に走り込む前に、いったん相手DFの視野から消える上手さはまさに絶品といえた。
 かつて大阪が生んだストライカーでベルリン・オリンピック(1936年)の対スウェーデン逆転劇のヒーローの一人となった川本泰三さん(故人)は、自分のシュートスペースへ入るときに相手の視野から“消える”名人だった。1968年のメキシコ・オリンピックの得点王・釜本もまた、ここというシュートチャンスに入ってくるときに“消えて”から現れる上手さがあった。

 森島もまた、ストライカーの本能的に消える上手さを持っていたが、一つには、彼の中盤でのディフェンス、ボール奪取への熱意がホンモノであったために、相手DFがマークを怠ってはいけないハズのモリシへの意識が薄れたのだろうとも思っている。ボール奪取の絡みにも、ピンチに戻るランにも、一つひとつのプレーに気がこもっているところに彼のプレーの神髄があったといえる。
 Jリーグでのオールスター戦で、彼はいつも輝いて見えた。手抜き感覚の出場者の多いなかで、いつもと同様に走り、相手を追い、ボールを追い、スペースへ走る彼の動きが目立たぬハズはない。オールスター常連のピクシーことストイコビッチがモリシの動きに見事なパスを合わせたから、2人のコンビは多くのファンを心から喜ばせるものとなっていた。

 ピクシーはいま名古屋グランパスで成功への道を歩んでいる。それは彼が常にサッカーにひたむきであった延長線上に現在の仕事を置いているからだといえる。ピクシーにも好かれ、その才能を買われ、常に努力を重ねてきた森島寛晃の第2のサッカー人生が、選手時代と同様に輝くものであってほしい――と願わずにいられない。

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想定外の相手に苦戦。それでも俊輔の名人芸パスと大久保・玉田の気迫で同点ゴール。不満ながら1勝1分け、無敗を保つ

2008/10/21(火)

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2010FIFAワールドカップ アジア最終予選
10月15日(埼玉スタジアム2002)19:32
日本代表 1(1-1 0-0)1 ウズベキスタン代表
得点者:シャツキフ(ウ 27分)玉田(日 40分)

【日本代表メンバー】
GK: 18楢崎正剛
DF: 6阿部勇樹、4田中マルクス闘莉王、2中澤佑二(Cap.)15内田篤人
MF: 7遠藤保仁、17長谷部誠、13香川真司→8稲本潤一(76分)10中村俊輔
FW: 16大久保嘉人→12岡崎慎司(62分)11玉田圭司→13興梠慎三(81分)
SUB:1川口能活、5高木和道、3駒野友一、14中村憲剛

【ウズベキスタン代表メンバー】
GK: 12イグナチー・ネステロフ
DF: 2アンズル・イスマイロフ、5アスロル・アリクロフ、11アンバル・ガフロフ
MF: 14ビタリー・デニソフ、9オディル・アフメドフ→アジズベク・ハイダロフ(72分)18チムル・カパーゼ、10イルダル・マグデーエフ→ルスラン・メルジジノフ(57分)6ジャスル・ハサノフ、8セルベル・ジェパロフ
FW: 16マクシム・シャツキフ(Cap.)→アレクサンデル・ゲインリフ(72分)
SUB:1ガイラトジョン・ハサノフ、3ヒクマトジョン・ホシモフ、4サホブ・ジュラエフ、13バギス・ガリウリン

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試合前の両チームと、バックスタンドのサポーターによる日の丸


――84歳になって、芦屋から埼玉スタジアムへ出かけるのは大変でしょう。

賀川:今度はインターネットの路線検索で予定表をつくり、それに従ったのでとても楽だった。15日夜に宿泊する東京のホテルにはチェックインは夜の12時を過ぎると連絡しておいて、東京駅からJRの京浜東北線の大宮行き快速に乗り王子で降りて改札を出て、地下鉄の「東京メトロ南北線(普通)浦和美園行き」に乗った。プリントアウトした予定表どおり王子駅15時33分着、地下鉄の駅で15時38分の電車が入ってきた。

――地下鉄は座れましたか

賀川:浦和美園駅着が16時05分、キックオフの3時間以上前の電車でも王子駅で満席だった。観戦の人たちも乗っていた。そのうちの若い人が私に席を譲って下さった。しばらくして隣の席が空いて、その方も座ったので少し話をした。自分がプレーするのは野球で、日本代表のサッカーをナマで見るのは初めてとのことだった。美園駅で別れるときに、「初の日本代表を楽しんで下さい」と言った。そのあとについ、よけいな一言をつけ加えた。

――何と?

賀川:楽しいだけでなくイライラするかもネ――と。もう一人、かなりのサッカー通(つう)らしいその人の連れがフッフッと笑ったが……



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和田アキ子さんの「君が代」は、堂々たる歌いぶりが場内スクリーンでも映し出された



――試合はそのとおりイライラした……

賀川:キックオフ直後から日本の選手たちがスリップしてバランスを崩し、ミスが多かった。関西は前の日に雨だったが、埼玉のピッチはこんなに水はけが悪かったカナと思ったほどだ。

――日本の早いパス回しに合うように、芝の長さを22ミリに短くして、水をまいたとか……

賀川:そうらしい。ところが、その自分たちに合わせたハズのピッチで滑ってバランスを崩したところへ、相手側がはじめからプレスをかけてきた。

――試合後の記者会見で、これまでのウズベキスタンはそういう試合ぶりではなかったから予定外だという話も出たそうですネ

賀川:ウズベキスタンのクラブ(クルブチ)の監督となったジーコ(元日本代表監督)のアドバイスがあったということだが、ジーコでなくて日本が中盤のプレッシングに弱いことは、どこも知っているだろう。早いうちからのプレッシングは体力がどこまで持つかということもあるのだが、気候が涼しくなってきたからウズベキスタンにも好都合だった。

――かなり激しく体をぶつけてきた

賀川:はじめのうち、そういう条件が重なってミスも多く、見る側にもイライラはあった。

――27分に先制されました

賀川:高いボールを田中マルクス闘莉王がボレーで蹴って、それがミスキックで高く上がって落下するのを、イルダル・マグデーエフが中央右寄りで前方へヘディングした。これをチムル・カパーゼが取って日本のゴール前を斜めに横切る早いボールを送り、長身のストライカー、マクシム・シャツキフが左足に当てて先制ゴールを奪った。
 蹴り損なったボールが高く上がって、そのヘディングからアッという間の出来事だった。

――それでも前半のうちに同点ゴールを取った!!

賀川:中村俊輔が執拗にマークされ、何度もファウルで倒された。それでもやはり、見事なスルーパスを送ってチャンスをつくっていた。香川真司がゴールエリア右角辺りに走り込んでいいパスをもらって反転シュートしたが、くっついてきたDFに当たった。ああいうところでの“間”(ま)の使い方を覚えるといいんだが……。
 内田篤人も、右から相手ウラへ走り込んでゴール近くまで行った。パスを出したが、シュートをして欲しかった。

――香川が走り込んで取れなかったチャンス?

賀川:彼ともう一人入ったが、オフサイドのポジションだった。ああいう形の練習をしたのだろうが、ボールを持ち込んだ内田はパスとシュートの両方を選択できたハズだ。

――そういう声はテレビでもありましたネ

賀川:ビデオを見ると、内田はドリブルして持ち込んだとき、インサイドで蹴る形にしていた。だからニアへずばっとシュートは無理だったかも知れない。ボールの受け方と、そのあとの修正という問題もシューターには出てくる。



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この夜は満月がバックスタンドの上方にあった。望遠レンズを使わずに写したら、こんな風に…



――同点ゴールにゆきましょう

賀川:この内田のチャンスの少しあとに、俊輔が右サイド寄りでファウルで倒され、そのFKを短くつないだあと、彼はスタスタとボールから離れた。ボールが動いて、闘莉王からパスをもらったとき、俊輔は左サイドに寄ったところ、ペナルティエリアより少し離れたところにいた。彼は後方からのパスをノーマークでもらい、反転して前を向くとすぐに右のゴールポスト外のオープンスペースへクロスパスを送った。相手側の届かぬ地点へ大久保がすごい勢いで走り込み、バウンドしたボールをスライディングしながら右足を高く上げて叩いた。ゴール正面へバウンドしてゆくボールに玉田が走り込んで、これも左足のボレーで叩いた。相手のGKイグナチー・ネステロフにはどうしようもなかっただろう。

――大久保、玉田のランが生きた

賀川:スルーパスが得点を生まなかったから、今度は早いクロスにしたのだろう。ノッポぞろいのウズベキスタンのDFへ、高いクロスを送っても取られやすいから、早いボールで、しかもファーポスト側を使った。それも、後方からボールを受けて、振り向きざまのクロスパスだからネ。その気配に応じた2人のFWも良かったが、厳しいマークを巧みな移動でかわし(消え)後方からボールを受けたときにこのクロスを出す意志を示しつつ、相手の意表を突くタイミングで送り込むのだから、やはり中村俊輔。天下のパスの名人だネ。

――そのあと長谷部の右サイド突破からのシュート(GKネステロフの体に当たる)、闘莉王のヘディング(ゴール右外へはずれる)といったチャンスも続いたが、追加点は取れず、1-1で後半へ……

賀川:後半はじめから日本の攻勢があって、玉田が2本、大久保が1本、それぞれシュートしたが得点できず、62分に大久保に代えて岡崎慎司、76分に香川に代えて稲本潤一、81分には玉田に代えて興梠慎三が起用された。

――玉田、大久保の2人はここしばらくずっと出場していた

賀川:大久保は例の退場事件での出場停止のために9月6日(アウェーのバーレーン戦)は出られなかったが、まず彼と玉田の2人がここしばらくの攻撃の主軸となっていた。
 大久保はシュートと切れ味という点で、玉田はドリブル突破に魅力がある。第2列からパスを出しウラへ飛び出すのは大久保にとっての働き場所だが、相手が少しずつ上の力を持つDFとなると、彼自身の強さが必要だろう(もちろん本大会でも)。
 玉田は何といっても左足のシュートの型、ニアとファーへ蹴り分ける技を持つことだ。もちろん、もっと若いうちに習得すべきものだが、今からでも遅くはない。この選手くらいスピードもあり、力もあれば、心がけ次第でステップアップするハズだ。

――岡崎、興梠をもう少し早く起用すべきという意見も? 2人は先のキリンチャレンジカップのときほど目立たなかった

賀川:あるだろうが、監督さんは選手たちとの信頼関係もあるだろうしネ。ボクはむしろ、その慎重さに感心した。

――終盤は相手側に足に“けいれん”を起こす選手が続出。一方、日本は闘莉王を前線に上げてロングボール、彼のヘディングボールの落下点を狙うというパワープレーに出た

賀川:体の大きいウズベキスタン相手に力勝負に出るのだから、日本もある意味では大したものだといえる。ただし、どんなテを使っても、低い早いクロスにせよ、最後にシュートチャンスをつくり、それを決める。あるいはそのシュートのリバウンドを押し込むことでゴールが生まれる。どんなやり方でもゴールを生まなければ勝てないのだから……。

――シュートは合計14本(日本)と5本(ウズベキスタン)。得点は1点ずつでした

賀川:中村俊輔は2本のFKがあって、この日は得点できなかった。日本の武器といっても、必ず、いつでも入るわけではない。
 いい攻撃をつくり、シュートチャンスを生み出しているのだから、それがなぜゴールにならないかを皆でもっと考えるべきだろうネ。
 シュートに入る姿勢かもしれない、シュートそのものかもしれない。ボールを蹴るフォームの問題なのか、インパクトの問題なのか。シュートへ入ってゆくコースの問題なのか、体の力の問題なのか――。

――ともかく1勝1分け、2戦して負けなしです

賀川:チームづくりは進んでいるように見える。ただし、長友佑都が欠けると、左サイドで疾走しながらクロスを送ってくる選手が一人もいないのも困るだろう(香川が1本、左足でクロスを出しはしたが…)。
 10月16日、東京駅でいくつかのスポーツ紙に「岡田監督解任か」の大きな見出しがあったのには驚いた。

――ゴールを奪って勝てば、そのヒーローが大見出しになるのにネ

賀川:それだけに、サッカーの1ゴール、1得点、1本のシュートが大切なのだ。昔のことをいうと皆笑うだろうが、ちょうどサッカーマガジンの連載に釜本邦茂のことを書いている。今よりも競技人口がうんと少ないときに、世界に誇るストライカーの出たことも忘れないでほしいネ――。

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