FIFAワールドカップ2015ロシア アジア第2次予選
日本代表 6(2-0、4-0)0 アフガニスタン
――アフガニスタン相手の第3戦は6-0でした。対シンガポール(0-0)、対カンボジア(3-0)。日本の多くのファンは不評、不満だったはずですが、今度はどうでしょう
賀川:アフガニスタンはもう少し攻めに出るかと思ったが、やはり引いて守ることがほとんどでした。選手たちは体格が良く、闘争心もあったが、日本に早いうちの先制ゴールでプレーに落ち着きがでた。まぁ、いいところでしょう。
――9日の朝のサンケイスポーツに賀川さんのコラムが掲載されていました。見出しは「香川が攻撃の起点、特長出し切った日本」でした
賀川:「出し切った」かどうかはともかく、カンボジア戦のように香川が自分で点を取りに行くという気配を見せるのでなく、攻撃のためのパスの起点になり、効果あるつなぎに加わったりした。ドルトムントでの日頃の試合のように、攻撃展開に彼がかかわれば、チャンスを多く生み出せること証明しました。
――もともと、それは誰もが知っていることでしょう
賀川:ハリルホジッチ監督には選手全員を試しつつ、予選を勝ち抜いて行きたいという思いがあるでしょう。しかし仕事の比重が少しパスの起点の方に傾いて、そういうポジションにいた方が、彼のプレーは生きるはずです。そして、もう一つの仕事「ゴールを狙う」も、逆に効果的になるものですよ。
――その香川が先制ゴールをしました
賀川:スターティングラインアップの発表で、カンボジア戦での先発と違ってMFの左サイドに原口元気が入りました。
――前回の試合は武藤で、あとから宇佐美が出ました
賀川:前回の武藤は日本の右サイドからの攻めに合わせて点を取ろうと、左から内へ、中央部へ早く入ってくることが多かった。
――原口は少し違う?
賀川:自分でボールを持ち、ドリブルで仕掛けるプレーヤーです。ドリブルしたときにシュートまで行こうという気迫があるので、相手のDFもそれに反応します。
――前半10分の1点目は原口が内にドリブルして、すぐ内にいる香川にパスを。香川がボールを受けて接近する相手をターンでかわして右足でシュートしました。サイドキックでなく(笑)、右足でしっかり叩きました
賀川:ペナルティエリアの外でしたが、このあたりでボールを受けて内側へドリブルするのは香川の十八番(おはこ)プレーのひとつで、ボールを受けたとき、持ったときの条件が良ければ、自信満々の「持ち方」になります。相手を回転してかわしたときに、彼の得意のキックの型でした。シュートに入り、成功するのは当然のようなものです。
――パスを出した原口が縦に走りました
賀川:そういうまわりの動きも承知でシュートの体勢に入ったのでしょう。
――ボールがゴール左隅に入ったとき仲間が香川に駆け寄りました
賀川:本人もホッとしたが、周囲もカンボジア戦の二度のビッグチャンスでの彼のサイドキック失敗が気になっていたはずです。
――本田がとても喜んでいました。賀川さんもにんまりしていましたね
賀川:一番ホッとしたのはハリルホジッチ監督だったかもしれません。起用した原口の「突っかける姿勢」がこのチャンスのひとつのポイントでしたからね。まじめな人柄で自分のシュートの失敗などが顔に出る方だから、香川が気を楽にしてプレーすることは仲間にとってとても大事なことです。その香川の会心のゴールを原口が引き出すのに一役担いだわけです。
――アフガニスタンは選手たちの体格が良く、接触プレーも強いと聞いていました。そういう相手が引いてくると、崩すのは難しくなるとも懸念したが、思った以上に隙があったように見えました。
賀川:アフガニスタンもやはり、大人数がペナルティエリアに入って守っていた。しかし、守りの隊形としては、第2列まで後退しすぎることが多く、日本が押し込んでから、自分たちの守りの外でボールをつなぐのを、それほど強い妨害に出なかった。前の試合では、早いうちにエリア内に入ろうとした香川が、相手の守備網の外でボールを動かしたので、ボールは幅広く移動して、相手側の守りの隙が少しずつ広まったこともある。同時に、第2列、第3列の選手がゴール前へ走り込んだ。このため相手側は、人数はいても、走り込む日本側に対応してマークがずれることもあった。
――2点目はゴール前へ走り込んだ森重でしたね
賀川:その10分前の27分と28分に森重が右足で1本、左足で1本ミドルシュートしました。
――彼は右のキックは強い球を蹴りますね
賀川:その森重のシュートを促すような香川のプレーがとても面白かった。左サイドの開いた位置にいて、二度中央の森重とパスのやりとりをして、森重がしっかり踏み込んでシュートするスペースと時間を作りました。
――27分の森重のシュートがゴールキーパーのすぐ前で地面に落ちてバウンドし、バーに当たって跳ね返ったのは覚えていますよ
賀川:ディフェンダーにも、ゴール正面で狙えるなら、シュートする手もありますよ…という感じのやりとりだった。
――森重の攻撃意欲も強くなりますね
賀川:35分の2点目は、まず、左サイドの原口がドリブルからのクロスで左CKを取ることで始まります。
――左CKは香川が蹴ることになっていました。このときはショートコーナーで原口に渡し、そのリターンをもらって、左タッチライン近くで相手DFを前にゆっくりキープしました
賀川:そこから後方、ゴールから40mあたり、中央左寄りの長友に長いバックパスを送りました。長友は少しキープして、ペナルティエリア内へロブのボールを送りました。ボールはゴールエリア少し手前、正面やや右寄りに落下した。
――そこへ飛び込んでいたのがコーナーキックのためにゴール前まで上がっていた森重でした
賀川:彼のジャンプヘッドのシュートをGKアジジが手に当てて防ぎ、ボールは左ポスト横を外に転がった。ボールが出て、またコーナーキックになりそうなときに本田圭佑が走り込んで、左足をいっぱい伸ばしてゴールライン上でとらえた。
――テレビの前ですごいと叫んでいましたね
賀川:ゴールラインを出て、またコーナーキックかと思ったときに本田が走り込み、スライディングキックでボールを内へ戻したのですよ。ラインいっぱい、目いっぱいプレーする本田のプレーでした。
――そこに森重がいた
賀川:森重が決めたのだが、この時にもゴールキーパーもDFもなんとか食い止めようとしたのには感銘を受けました。相手側の懸命さが伝わってきた。
――森重と一緒に、長友のボールに向かったのが岡崎慎司と本田の2人で、ここにも彼らのゴールへの意欲があらわれていましたね
賀川:カンボジア戦の前半は本田と酒井の右サイドからの攻め込みが多かった。この試合では本田はそれほど目立たなかったが、このゴールライン際のプレーでやはり本田らしいところを見せましたね。前半終わり近くのFKからのシュートが入って入れば、本田ファンは喜んだのだが…
――左ペナルティエリア、縦ラインからのFK、香川とのサインプレーですね。香川からのパスをゴール正面でダイレクトシュートしたが、DFのマークが厳しく、強いボールを蹴れなかった。
賀川:後半は5分に香川の左からの右足シュートで3-0、12分にエリア内へ後方から飛び出した山口にパスが出て、山口が中央へパスをして岡崎が4点目を決めた。岡崎は15分に5点目を決めた。これは本田のシュートがDFに当たったリバウンドのボールを空中でとらえたもの。岡崎だからこそ、とも言える得点。6点目は本田が宇佐美貴史(酒井宏樹と交代)の左からのクロスを決めた。
――香川のシュートはカンボジア戦での失敗が話題になり、この試合では2本のビューティフルシュートが次の日の各紙の見出しになりました
賀川:香川の2点目は①左サイドの長友の左ミドルパスが相手に奪われたのを奪い返し、②本田から左前方の香川へ、③香川からすぐ後方の原口へと渡す、④原口は相手DFに囲まれながら前方の香川にパス、香川がドリブルして、左足のシュートで決めた。ボールを受けてからの一連のスムースで正確な技と、3人の相手を引き付けて意表をついた原口のヒールパス技術が楽しかった。香川が左足のシュートでしっかりと蹴り足を振り、しっかり叩いていたのは、彼のシュートをネタに仲間たちにゴール前でのサイドキックシュートが難しくて案外不成功が多く、足を縦に振るインステップでの方が成功しやすい、などと話している私としては、とてもうれしいことだった。
――4点目の岡崎のゴールはその前の山口の飛び出しで「勝算あり」という感じでした
賀川:ペナルティエリア外、やや右寄りで、本田からのパスを香川が受けた時、その右外を後方から山口が走りあがり、その山口の前のスペースへ香川が左足のサイドキックで見事なスルーパスを送り、ノーマークの山口がゴール正面ノーマークの岡崎にパスをした。飛び出した山口に向かったゴールキーパーのいないがら空きのゴールに岡崎はボールを送り込んだ。
――こういうプレーを見るとまさに「チーム」という感じですね
賀川:ハリルホジッチ監督はこのあと、武藤嘉紀、宇佐美貴史、遠藤航を投入しました。宇佐美については、すでにプレーも知っているし、武藤も同じだから、ゴールする、あるいはチャンスに絡むことで自信を持たせたかったのかも。遠藤選手は私もこういう場で見たいひとりでした。
――全体として、予選の3戦目でようやくチームの形が整い始めたと言うところでしょうか
賀川:アフガニスタンは国内の事情もあって、普通ならこういう場に代表を送り込んでくるのもなかなかのことだと思います。練習環境などが必ずしも満足いかないのは彼らのプレーを見ていれば察しがつきます。戦中派でサッカーをする日本の環境が今よりはるかに悪かった時代のものとしては、アフガニスタンの選手たちの立場には同情します。しかし、相手の事情がどうあれ、サッカーの国際試合の場を踏みながら、日本代表は自分たちの力を少しずつ伸ばし、チーム力を積み重ねていかなければならないでしょう。
――アフガニスタンとは戦後間もないころに試合をしています
賀川:1951年ニューデリー(インド)での第1回アジア競技大会で、日本のスポーツは国際舞台に復帰しました。戦争を引き起こした国として、第2次世界大戦後、国際試合ができなかったのを、アジアの仲間たちから復帰が認められたのです。
――たしか賀川さんの兄、太郎さんも日本代表でした
賀川:私の母校の神戸一中の卒業生から10人の代表が選ばれ、16人のチームの主力になりました。準決勝でイランと引き分け、再試合で2-3で敗れ、3位決定戦でアフガニスタンを破って、アジアの3位になりました。いまから64年前のことです。私たちには国際舞台復帰の記念すべき年であり、記念すべき試合でした。
――その時戦ったイランの首都で、3位を戦ったアフガニスタンとの試合でした
賀川:大会の3試合を経て、ようやくハリルホジッチ監督と日本代表が、前2試合の不評から抜け出すのも、何かの因縁かもしれません。
――それはそうと、9月7日に東京で日本スポーツ学会の表彰式に出席、スピーチをしたとか
賀川:立派な賞を頂きました。スピーチの後先、日本代表の話題も多くありました。
――余計なことですが、8日の帰宅の際に台風は
賀川:新幹線で途中一部徐行があっただけで無事でした。それよりも台風が伊勢湾に向かって知多半島を直撃して北上したのには少し驚き心配しました。
――えっ、何故
賀川:サッカー和尚さんとして有名な鈴木良韶さんのお寺が知多半島なのです。被害はなかったかと、電話しました。特に難しいこともなかったということでした。
――和尚さんは
賀川:イランへ日本代表の応援に出かけて留守でした。私よりもずっと多くの日本代表の試合を応援し、世界のサッカーを見ている和尚さんですからね。
――鈴木和尚さんも6-0で、テヘランへ行かれた甲斐もあったでしょうね