アラブの強国UAEに敗戦
日本代表 1(1-1、0-1)2 UAE戦
――楽しみにしていたワールドカップ予選の第1戦は1-2でした
賀川:最終予選だから、アジアの強いチームとの対戦になるとはファンの皆さんも覚悟はしていたはずですが、いきなりそれを見せつけられました。UAE(アラブ首長国連邦)のしっかり守ってカウンターという形が成功した。もちろん彼らの一人ひとりが局面の競り合い、ゴール前でのマークを確実に行ったことが彼らの成功となった。
――前半入ってすぐ、日本がボールを支配するようになり、前半11分に右FKから本田のヘディングで先制しました
賀川:FKの位置はペナルティエリア右外2から3メートルだった。キッカーの清武にはコントロールキックの範囲で、自信のある距離だった。彼は高くあがりつつファーポイント側へ落下するボールを蹴った。一番左外にいた本田が飛び込んでヘディングして、ボールは左ポスト内側に飛び込みました。
――テレビの前で、たくさんの人がこれで楽になると思ったでしょうね
賀川:UAEは20分に同点にしました。日本ゴールから9分後です。彼らが諦めることなく、日本のボールを奪いにくるプレーを続けていたのが生きました。
――この失点の少し前にも、日本は岡崎がDFラインの裏へ出て、シュートするチャンスもあったのです
賀川:そうですね。だが、岡崎のそのチャンスの前にもUAEのFKがあった。彼らの守りから攻めへの転換はなかなかのものという印象でした。
――その「守りから攻め」が20分のFKとゴールを生みます
賀川:日本が右側から攻め、本田がドリブルして一旦後方に戻って、バックパスした。これを長谷部が取り、すぐ右の大島に渡した。大島は右タッチライン際の酒井宏にパスした。この時の左足のインパクトが弱くて、パスのスピードが遅く、酒井に届く前に相手が一人潰しに来た。酒井は奪われまいと強く蹴り、これが中央へゴロでころがってUAEの10番のオマル・アブドゥラフマンのとこへ行った。アブドゥラフマンはすぐ中央へ来たマブフートにパスした。マブフートが突進し、吉田が止めようとしてファウルをとられた。
――マブフートが倒れたので、おやっと思ったらレフェリーが近寄り吉田にイエローカードを提示した
賀川:スロービデオを見ると吉田がマブフートのシャツを握ったところが映されていた。
――FKを蹴る前にUAEが色々かけ引きをしましたね
賀川:大切なFKだった。ボール際に3人が集まり、11番のハリルが右足で蹴った。シュートはゴール右上の方へ上がってから落下した。GK西川は両手で止めようとしたが左手にあたったボールはゴール内に落ちて1-1となった。
――西川は代表で難しいシュートを止めてきた実績があったが、今度は止められなかった
賀川:シュートの直前に西川は右へ(キッカーからみれば左)にステップしたように見えた。UAEが誰がどこへ蹴るかを読ませまいと事前のところに工夫をしたこともあった。
――レベルの高い戦い。さすがに最終予選だと改めて思いました
賀川:1-1になったあとも日本はよく攻めた。「これが入らないか」と驚くような場合も一度や二度ではなかった。ファンは前半が同点のまま終わったあとも、後半には何とかしてくれるだろうと期待していた。
――新しい選手もいますからね
賀川:普通なら遠征してきたチームは後半に動きの量が落ちるのだが、UAEはよく動いた。攻められるにつれて、守りの連係も強くなったように見えた。しっかりと準備してきたのでしょうね。
――日本側はヨーロッパ組がシーズン中で、全員がそろったのは2日前だった
賀川:それは初めから予想されたことですが、26本もシュートしながら、1本とったというような攻めが多くはなかった。
――後半9分にペナルティ(PK)のピンチがきた。相手一人に3人が奪いに行って、大島の脚が引っかかって倒し、PKとなった
賀川:PKというのは、私は一般論としてはキッカーが勝つのは当然と思っている。しかし心理面もあってゴールキーパーの方が優位に立つこともあります。PK戦になるとゴールキーパーがPKを防ぐ場面は増えています。
――いつも、GKは先に動くな、と言っていますね
賀川:相手のキックの方向を読んで蹴るより先に、その方向を防ぐ動きに出るゴールキーパーもいます。PK戦でもその成功例もあります、私はゴールキーパーはヤマはかけても相手が蹴るまで動かない方が得と考えています。1982年のワールドカップで西ドイツとフランスがPK戦で勝敗を決めた時からたくさんのPK戦や試合のPKを見てきた。また自分が選手であったころ、チーム内で試合中のPKは任されていた経験からいけば、GKは先に動かない方が得だと思っています。この試合では日本のGK西川は先に動いてしまい、相手は落ち着いて正面に切り込みました。
――このPKで1-2になりました。前半の互いのゴールはFKからで、3得点ともプレースキック(停止球)からでした。蹴り終わるまで相手がキッカーの「邪魔」をすることのないFK、CK、PKはやはり大きな得点源でした
賀川:1-2となってUAEは「守ってカウンター」に自信を持ったでしょう。
――ボールを保持して攻撃をつづけてから二つのミスでボールを失い、そこから攻め込まれてFKとPKで2点を失った日本ですが、1-2となってから何度も攻撃し、挽回をはかりました
賀川:いいシュートがあっても相手のDFの体に当たることもあり長身のGKエイサの好セーブもあってゴールは生まれないままに時間が過ぎた。
――ゴールキーパーが「のってくる」状態になると守る側にはいいが、攻める側はしんどい
賀川:UAEのイレブンは最後までよく動いて、自分たちのがんばりで勝運をつかんだ。日本側は26本ものシュートを打ちながら、点にならず、ゴールラインを越えたように見えたシュートも得点と認められなかった、相手の粘りに運が味方したということでしょう。
――試合中、何度か声が出ていました
賀川:日本の見事な先制ゴールは誰もが「うまいな」と言うでしょう。清武のクロスと本田のヘディングの合作、チームの動きで相手がゴール正面中央部に気を取られたことなどなど…
――そういう日本の攻めにUAEはよく守りました。ゴール前、ペナルティエリアでの守りだけでなく中盤でのプレスもよかった
賀川:それが日本のミスを起こし、彼らのゴールにつながるのですから。PKとなった場面でもペナルティエリア内で日本の3人を相手に囲まれながら、一旦倒れたあとボールを奪い返し前へ出ようとして日本側のトリッピングの反則を誘発させたのです。アラブ系の選手には年齢を問わず老獪なプレーをする人がいますが、今度のPKもそうでしたね。
――得点が1点に終わったのはやはりシュート力ということですか
賀川:運という言葉もありますが、サッカーではやはり実績がものをいいます。1試合に1点平均とはゆかなくてもそれに近い実績を残して(GKの能力アップでゴールを奪うのは難しくなっていますが…)いるようなストライカーが欲しいと誰もが思っているが、かつての釜本邦茂のような選手はなかなか現れません。
――まぁストライカー得点論、育成論は別に話してもらうとしても、この後の試合はどうですか?
賀川:UAE戦の負けは負けですが選手たちはともかく何度もせめて相手の3倍以上のシュートを打って得点できなかった。しかし、シュート練習は誰であってもしっかりと回数を重ねなければなりません。サッカーの技術の多くを身に付けている代表の選手たちがキックやシュートという最も基礎になるプレーを自分のものにするのは当然のことです。そのポジションに必要なキックを始め、その仕事に必要なキックを習得することはとても大切です。なんといってもサッカーは「蹴球(しゅうきゅう)」と昔から呼ばれ、ボールを蹴ることが重要とされてきました。今度の9月10日にJFAの殿堂入りするベルリン五輪の日本代表16選手の多くはキックの名手であったことを私はよく知っています。そうした先輩たちの後を継ぐ日本代表が練習によってちょっとしたコツを取り戻し、シュート力を向上させることはパスの能力アップやランの向上にもつながり、チーム全体が新しい力を備えることと思って見ています。
――アラブの強国UAEに第一戦を落としたからといって引き下がるわけにはいきませんね
賀川:アジア最終予選を戦うという大きな仕事を全員が一致して乗り切ってほしいものです。次のタイとのアウェイを楽しみたいと思っています。
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コメント
ブラジル大会での敗退以降、日本サッカーは進化していない印象が強いです。
投稿: 烏球亭 | 2016年9月 4日 (日) 12時54分