ありがとう澤さん 90歳の人生の晩年にいいサッカーを見せてもらいました
――澤さん、澤穂希さんが引退しました。長いサッカー人生の最後の公式試合となった皇后杯全日本女子サッカー選手権大会決勝の対仙台で唯一のゴールを澤さん自身がヘディングで決めたのもすばらしいフィナーレでした
賀川:6歳の時にお兄さんの影響でサッカーを始め、男の子と一緒にプレーし、男子に負けないぞということからスタートしたと聞いています。15歳で日本代表になりましたが、その前に読売クラブという比較的自由な空気のなかでプレーを続けたのもよかったのでしょう。今の女子の環境から見れば、決して恵まれたと言えませんが、当時の少女、澤さんにはよかったのでしょうね。
――引退が決まると、まずフジが澤さんの引退特集番組を組みました。とてもよかったのですが、その後NHKが1時間半という長い引退特集を放送してくれました。後半部にカズ(三浦和良)さんとの対談形式があって、しっかり充実したものでした。この民放とNHKの二つの澤特集番組で、アメリカのアビー・ワンバックさんがインタビューで澤さんを讃えていたのがとても印象的でした
賀川:そうですね。ワンバックさんの澤さんへの尊敬と愛情がこもっていましたね。昨年のバロンドールの授賞式がチューリヒで行われ、私もFIFA会長賞の受賞のために出席したのですが、その時、澤さんは前回の女子最優秀選手としてプレゼンター役で来ていました。式の前に澤さんとワンバック、そしてブラジルのマルタの3人が一緒にいて楽しそうだったのを眺めていましたよ。ワンバックさんはアメリカというサッカーがまだメジャーになっていない土地で女子を強くすることで、女子サッカーだけでなくサッカー全体の人気を高める努力をしてきました。日本の女子サッカーの先頭に立ってきた澤さんは、ライバルであるとともに、女子サッカー興隆の「同志」であったかもしれません。
――澤さんが引退したことで、なでしこジャパンは大きなリーダーを失うことになります
賀川:実績といい、プレーヤーの格といい、別格のプレーヤーだった。もちろんどのようなすぐれた選手でもピッチを去る時は必ず来るのですが。
――賀川さんも日本でも世界でも、トップスターの引退を何度も見て来たでしょう
賀川:そうですね。ペレさんにもベッケンバウアーにもグラウンドを去る時が来ました。釜本邦茂も84年に去りました。いまFIFAの騒動の中にいるプラティニもすばらしいプレーヤーでした。彼の後継者ジダンはレアル・マドリードの監督で少し目立つことになるのかな…。まあ大選手は引退した後も、それぞれの大切な仕事があるでしょう。
――釜本の引退試合を計画し、開催にかかわったのも賀川さんでしたね
賀川:そういえば、澤さんの引退試合はどうするのですかね。
――公式試合の結末があまりにも美しかったから、引退試合はどうでしょうか
賀川:釜本選手の引退試合をした1984年は日本サッカーが停滞の時期でした。そうした空気のなかで、もう一度、釜本邦茂という選手の引退にあたって、なぜ釜本のような選手が生まれ育ったのかをサッカー界の皆さんに考えていただくきっかけになると考えてヤンマーディーゼルの山岡浩二郎部長と相談し、JFAや日本サッカーリーグの支援で開催しました。
――国立競技場が超満員になりました
賀川:あらためて釜本の人気に感嘆しました。彼の働きや、ストライカーそのものについて、日本全体で考えてくれたかどうかは、いまもってよくわかりませんが。
――澤さんという偉大なプレーヤーをもう一度見つめなおす機会として、引退試合があってもいいでしょうね
賀川:それはともかく、私自身はこのブログ上でも折に触れて、サッカー選手としての澤さんを皆さんと語りあいたいと思っています。あれだけ、世界中から尊敬されたのは、人柄もあるでしょうが、何といってもアビー・ワンバックさんの言うように、世界最高の技術を持ったサッカー選手ですからね。ボールを止める、蹴る、パスを出す。相手のボールを奪う…そしてまた、空中戦の強さのもととなったヘディングなども解明していきたいと思います。あの2011年のワールドカップ決勝、対アメリカの左CKに飛び込んで右足に当てたゴールも、彼女の空中のボールに対する強さや感覚にサッカーの神様がくれたご褒美でしょうし、引退ゴールとなった皇后杯決勝の、蹴った川澄奈穂美さんがボールを呼び込んだヘディングと言ったプレーの原点はどこにあるのでしょう。いろいろと考えたいものです。
――そういえば、釜本さんは、引退試合でもゴールしましたね
賀川:今の澤さんと違って、釜本さんはあのころは足に故障をかかえていて、万全ではなかった。それでも引退試合という舞台でゴールしたから一緒にプレーしたペレやオベラーツ(西ドイツ)たち大スターも楽しんでいましたよ。
――澤さんの引退によって女子サッカーの歩みが止まるのでなく、前進の速度を速めるくらいになってほしいものですね
賀川:長い間ご苦労さんでしたが、これからもまだまだ女子サッカーのために、大事な人ですよ。私自身も、91歳まで長生きできたおかげで、人生の晩年に澤さんのサッカーを見せてもらうことができました。ほんとに有難うと言いたいですね。
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