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2015年7月

最後まで攻めの意欲を持った大会

2015/07/07(火)

FIFA女子ワールドカップ 決勝
日本 2(1-4、1-1)5 アメリカ

――完敗でした。前半5分間の2点が痛かった。これで0-2。14分と16分にも、こちらのミスから2点追加されました。

賀川:アメリカの方が気迫が充実しているように見えましたね。対日本のやり方を工夫していたようです。

――1点目は前半3分の右CKからでした

賀川:正確には2分32秒にラピノが右足で蹴り2分36秒にゴールが入った。

――4秒間になにがあったのか

賀川:ラビノは右足で低い球を蹴った。グラウンダーの速いボールだった。

――CK、FKでアメリカが相手だからなでしこは空中戦を覚悟したでしょう

賀川:速いグラウンダーに誰も触らずゴール正面に入ってきた。そこに岩清水がいた。しかし、岩清水が蹴る前にロイドがダッシュして左足のアウトサイドに当て、ダイレクトシュートがGK海堀の左を抜けた。

――ロイドはCKの直前はどこにいたのですか?

賀川:スロービデオで見直したら、ペナルティエリア正面外、10メートルぐらいのところにいて、キックの瞬間に走り出した。

――キックの瞬間は誰もがボールを注視します

賀川:ゴール中央正面、ボールが飛んでくるところにいた岩清水はキックの瞬間にボールを見る。そのときロイドはスタートを切っていて、ボールにプレーしようとする岩清水のニア(ボール側)に入ってきて、左足に当てた。当てたというよりアウトサイドで押さえたダイレクトシュートといってよいのかな。

――彼女は右左でボールを蹴る、ドリブルも突進も速いから要注意と試合前に賀川さんは言っていました

賀川:誰でも警戒すべき相手の一人と思うでしょう。当然なでしこ側も警戒していたはずだが、見事にやられたね。

――高いボールでなく速いグラウンダーのCK。それをエリア外から走り込んできたロイドが決めるという筋書きだったのでしょうか?

賀川:まぁそうでしょう。日本もCK、FKはいろいろ手を考えるでしょう。同じように相手も工夫しますからね。その相手が速くて、強い、一人だった。

――1点取られ、宮間がキックオフ前に皆を集めて何か言っていました

賀川:落ち着かせようとしたのでしょうね。

――他のスポーツなら監督がタイムを取るところだが、サッカーはできない

賀川:そこでキャプテンやベテランの指示や存在が必要となるのだが、強敵を相手に先制されてしまうと、落ち着けと言っても難しい。

――頭の中が真っ白になるとか

賀川:そんな状態の時にペナルティエリア右外で相手のFKが生まれた。ロイドとホリディの2人の攻撃からだった。

――1点目の右CKより、少し内側つまり、ゴールに近づいたところでのFKだった。

賀川:今度もグラウンダーだった。ボールにニアポスト側のゴールエリア右角(アメリカから見て)手前で小さくバウンドし、それをジョンストンが体の下で右足ヒールに当てた。ボールは密集する選手の上を抜け、ゴール正面、4メートルに落ちた。そこに来ていたのがロイド。今度は右側に回ってから入ってきたからボールを迎える形になった。バウンドしたボールを右足で押さえこんだように落とした。奪いに来た熊谷も、彼女をマークした岩清水も防げず、ボールは熊谷の足の間を通ってゴールへ入った。

――2点目のFKはそれほど速いボールではないように見えたが

賀川:ニアポストのジョンストンに合わせようとしたのかもしれない。1点目のCK、2点目のFKはそれぞれ示し合わせたものだったのでよう。

――2点をリードされた日本は?

賀川:当然、点を取りに行くことになったが、必ずしもパスが上手くつながったわけではない。パスミスがあってボールを奪われると相手の攻めとなり、そこにスピードのある何人かが絡むと難しくなるわけです。

――12分位に鮫島のクロスが一本ありました。これが初めての日本の攻めだった(GKソロがキャッチ)

賀川:ボールをつながずに互いに蹴りあう状態になるのは一番好ましくないこと。そのやりとりの内に相手の3点目が生まれた。13分37秒にアメリカの右サイドから日本のペナルティエリア内にロングボールが来た。そのワンバウンドを岩清水がどういうわけかヘディングで高く上げてしまった。ペナルティエリア中央やや右寄りに落下したところへホリディが走り込んでボレーで蹴った。乗っているチームはこういう偶発的チャンスも決めてしまう。ボレーシュートは見事にゴールに飛び込んだ。3-0。

――こういう状態の時のチーム、そして選手個々のプレーを立て直すのは難しいものですかね

賀川:そんな試合をしている間もなく、今度はハーフラインからのロングシュートが入ってしまうのです。

――キックオフした日本が、ボールを回して右のDFラインから中央の大野に渡り、そこから前方の宮間、そしてバックパスとなったボールが味方に渡らず、相手側に渡った

賀川:奪ったのはロイドだった。彼女は短いドリブルをしてGKがゴールから前へ出ているのを見て、ハーフラインからロングシュートをした。そのボールがなんと、海堀の上を越えてゴールに飛び込んだのですよ。

――女性でハーフラインからゴールへ目がけて蹴ってはいるのですから大したものです

賀川:私はかつてミッシェル・プラティニにインタビューしたとき、彼が16歳のころハーフウェイラインのキックオフマークからゴール目がけてボールを日に何十本と蹴ったと言う話を聞きました。彼の20メートルのFKがコントロールキックである理由「がその時知ったのだが、ロイドのキック力はまさに男勝りですね。

――感心ばかりもしておられないが、こういう選手のいる相手と戦うのがワールドカップですね

賀川:だからこそ、チームワーク、チームプレーが大切と日本のサッカーは対外試合のときに強調し、練習を繰り返してきたのだが、この場面は個人力を見せつけられたところだった。

――4-0といえば絶望的なスコアだが、そこからともかく1点を返そうと攻め始めたのがなでしこでした

賀川:21分の阪口のシュートが初シュートですから、ここまでワンサイドだったことがよくわかります。モーガンの左からの突進を有吉が防げず、左から中へ持ち込んだモーガンのシュートが25分にあった(シュートは弱く、GKがキャッチ)。

――そのあと27分に大儀見がいいゴールを決めた

賀川:右の川澄が中へドリブルしペナルティエリアで中にいた大儀見の足元にパスを送った。相手の4人DFの中央、CDFを背にして大儀見はマークを外して左足で落ち着いて決めた。彼女が実力を見せたいい場面だった。

――テレビの前で日本中が盛り上がったでしょう

賀川:30分には岩清水が相手のパスを奪って出てチャンスをつくり、宮間のシュートがあった。チーム全体の調子が上向きかけた時に、岩清水に代えて澤を投入し、さらに川澄に代えて菅沢を送り込んだ。

――賀川さんは「えっ」と言いましたね

賀川:まぁ岩清水の気分を考えてのこと、川澄は調子が上がっていなかったのだろう。一番近くで見ている監督さんの判断だから正しいのでしょうが…

――交代の効果は?というより、このあと日本のロングボールの攻撃が増えました

賀川:2トップにそれに強い選手を置いたというのかもしれないが、サイドからの攻めの回数は少なくなった

――前半にせめて2-4にしておきたかったが

賀川:後半はじめはアメリカが攻めた。もう1点取って叩きのめそうという気構えでしょう。その攻めが一休みした時、日本にFKのチャンスが来た。ハーフウェイラインから少しアメリカ側へ入ったところ。

――宮間の長いキックが行きました

賀川:競り合ったアメリカ側のヘディングがゴールへ流れてオウンゴールとなって2-4。

――アメリカは再度攻勢に出てきました。このあたりはすごいと思った

賀川:アメリカが左サイドの攻めで例によってゴールラインのニアポスト際まで入り、そのクロスから左CKとなった。キッカーはホリディ、ゴール正面へ蹴ってきた。このボールを叩こうとした海堀の手に当たらず、ボールはファーポストに落ちて、そこにその外にいたブライアンがサイドキックで中央へ折り返し、ヒースが決めた。

――モーガンが飛び込んできましたね

賀川:海堀がボールの落下点を見極めてジャンプの構えに入った時、ニアポスト側へモーガンがジャンプして飛び込んできた。彼女の飛び込みで海堀のフィスティング(こぶしで叩きだす)は不成功、ボールはファーポスト側へ落ちたのですよ。このあたりにこの日のアメリカのCK、FKの手法の多彩があるようにみえた。

――ハーフタイムで確認したかもしれない

賀川:日本から点をもぎとることに執着心が強かったのでしょう。

――宮間キャプテンは、常に「勝ちたいと強く思う方が勝つ」と言っていましたが…

賀川:アメリカは強い気持ちだけでなく、戦術的にも準備をしっかりしてきたのでしょう。点差が3点になっても日本はあきらめなかった。懸命に攻めたが、時間がたつにつれて「ロングボール」一点張りの攻めになった。このやり方では、一見攻め続けているように見えるが、それほど有効ではない。

――気持ちの上では攻めている気になるが…

賀川:岩渕の投入も、サイドからの崩しなどがあって生きるのだが、久しぶりに大儀見のようないいストライカーを持ち、いろいろな個性を集めながら結局それをうまく結びつけるパス攻撃、あるいは組織攻撃が仕上がる前に決勝が来てしまった、という感じだった。言い換えれば、準備期の不足、あるいはチームとしての練習量あるいは時間の不足かな。

――海外でプレーしている選手もいる。なでしこリーグもあるなかでの強化ですね

賀川:そういう大きな流れの話になる前に、もう一度この日の試合、あるいは大会をゆっくり振り返ることが監督、コーチ、選手たちにも大切でしょう。大会の最終日まで私たちを楽しませてくれたことに感謝のほかはない。

――女子のワールドカップは面白いと多くの人に感じてもらいましたからね

賀川:2011年は堪えて堪えて勝った女子ワールドカップだったが、今回は点差に諦めずに最後まで攻めの意欲を持った大会として記憶に残るでしょう。

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負けない気持ちで今度もファイナルへ

2015/07/02(木)

FIFA女子ワールドカップ 準決勝
日本 2(1-1、1-0)1 イングランド

――前半はPKでともに1点ずつ、後半アディショナルタイムで相手のオウンゴールが決勝点。壮絶な戦いは2-1でなでしこジャパンの勝利となりました

賀川:後半の45分が過ぎてあと3分の表示が出てからのゴールだった。どちらも疲れていた時だが、右サイドからの連動が相手にはアンラッキーな、日本にはラッキーなゴールを生んだ。

――中盤で奪ったボールを奪い返され、相手の体に当たって熊谷のところへ来たボールを彼女は落ち着いて右の川澄に渡した

賀川:このときイングランドの4人のDFラインはそろっていたが、中盤の2人がハーフライン近くにいて、川澄はフリーで受けた。彼女の上前方には大儀見と岩渕がそれぞれ「右寄り」と「左より」の中央にいて宮間が遠く左サイドにいた。

――川澄がドリブルを仕掛けたとき相手は出てこなかった

賀川:だから余裕を持ってクロスを送ろうと判断したのでしょう。ライナーのボールを蹴った。

――大儀見に届くかと見た時に、DFのバセットが右足をのばしてインターセプトしようとした

賀川:クロスはその手前へ落下してバウンドし、そのバウンドボールがもう一度地面に落ちようとするところだった。それにバセットの右足が当たった。多分足の先端部かな。ボールは空中に上がり、GKバーズリーを越えてゴールの右上角に近いクロスバーに当たった。

――当たって下へ落ちた

賀川:大儀見がこのボールに飛び込み、DFも防ごうとした。ボールが蹴りだされたように見えたが、レフェリーが「GOAL」を宣告したらしい。

――スロービデオが画面で、バーに当たったボールが50センチほどゴール内に落ちたことを見せてくれた

賀川:レフェリーがすぐに判定したのはゴール判定機のおかげかな。

――この大会では「ゴールラインテクノロジー」(ゴール判定技術=通称GLT)のひとつであるHawk-Eye(ホークアイ)システムも導入していたからです

賀川:ホークアイ、つまり「タカの眼」という名前ですね。しっかり見つめるわけだ。

――Hawk-Eyeは両ゴールやゴール近くに7台のハイスピードカメラを設置し、それぞれ違う角度からボールの正確な位置を撮影して、映像をソフトウェアが瞬時に解析する。ボールがゴールラインを通過すると審判の公式腕時計に暗号化された信号が送られる。そして公式腕時計が振動すると同時に「GOAL」と表示され、審判にゴール認定を伝える。1秒以内に判定を下すことができる。Hawk-Eyeは1会場について20万ドル費用が掛かるというのです

賀川:その機械導入のおかげで、歴史的なゴールの判定が正確に伝えられたということですね。

――この試合で、例によって岩渕が投入され、彼女の突破力で日本が受け身から盛り返そうとした。それをイングランドは防いではロングボールというシンプルだが彼女らにとっては効果的な展開を続けてきた

賀川:今のなでしこにとってイングランドは、決して戦いやすい相手ではないが、そこを我慢し、堪えることで防いで、こちらの形に持って行こうとした。必ずしもうまくいったわけではないが、最後までゴールを奪おうという強い気持ちが幸運なゴールになったのでしょう。こういうところはやはりなでしこジャパンです。

――これで決勝は、またまたアメリカとなりました

賀川:アメリカとドイツの準決勝はなかなかの好試合でした。アメリカの方が個人技術の上でドイツより少し優れたプレーヤーがいたのが勝ちにつながったが、もしドイツが前半のPKで先制していたら、どうなっていたかわからないような試合でした。

―― 一番上手な選手がPKをはずしましたから

賀川:イングランドは奪い合いの時のホールディングやプッシングの反則が多いので、PKで1点になると思っていたら、前半に有吉のペナルティーエリアへの走り込みからPKをもらった。

――宮間がしっかり決めてくれた。誰もが緊張する場面でしたが…

賀川:PKを蹴るときのボールへのアプローチの角度がドイツのキッカーと比べても理にかなっていた。日本の技術の高さを示すものですよ。こちらもPKを取られたがコーナーキックの競り合いの中から生まれたものだった。空中戦を強いられると、その落下点の競り合いもある。相手はそれを望んできたから大変だった。

――追いつかれて、力攻めで押し込まれてもなんとか持ちこたえた

賀川:イングランドはシュート力もあるが、そのシュートチャンスになでしこは体を寄せていきましたからね。幸運もあったが、彼女たちの負けない気持ちで今度もファイナルへ進めることになったのでしょう。

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