見る者をハラハラさせながら、ともかくセカンドステージへ
――なでしこジャパンが2勝でCグループのトップに立ち、ノックアウトシステムのセカンドステージへ進むことが決まりました
賀川:初戦の対スイスが1-0、対カメルーンが2-1と1点差の際どい勝負でした。スイス戦の後半も、第2戦の後半も、相手に何度かチャンスもあって、ハラハラしました。それだけに勝った喜びも大きいのですが…
――まさに、なでしこジャパンの試合というところでしょう。カメルーン戦は前半の早いうちに見事な攻めで2点取ったから3点目を取れば楽になると誰もが思ったでしょう
賀川:バンクーバーまで駆けつけたサポーターもテレビの前の皆さんもそう思ったでしょうね。2-0の試合は次の3点目をどちらが取るかで形勢が変わることが多い。この試合の3点目はカメルーン側だったが、試合の終り頃だった。
――それでも勢いに乗ったカメルーンは残り時間でも惜しいチャンスを作った
賀川:足をつって海堀に助けられていたエンガナムットのヘディングシュートが左ポストぎりぎりに飛びましたからね。試合前にカメルーンの選手たちが国家を歌う姿や、スタンドのカメルーンサポーターらしき人たちを見ていると、女子のワールドカップが急拡大して24チームになったのも悪くはないと思いました。大戦後の1960年に独立したこの国は、男子のサッカーではすでにアフリカの強国のひとつになっているが、女子のワールドカップでも大西洋を渡り、カナダの西端までやってきて、太平洋岸のバンクーバーで試合をする、その会場でサポーターも選手も国家を歌うのですよ。
――今年は戦後70年だから、賀川さんのような戦中派には格別な思いがあるのかも…
賀川:大戦中はヨーロッパの植民地だったアフリカ諸国が戦後に続々と独立し、国家としての経営がうまくいっているところも、そうでないところもあるようですが、サッカーのこうしたひのき舞台で、しかも女子のチームがプレーするようになったのを見ると…
――なんのかの言っても、世界は少しずつ良くなっていると?
賀川:そう思わない人もいるらしいが、私たちのようにフットボールにかかわってきた者には、少しサッカーが誇らしげに思いますよ。
――ただし試合を見ながらカメルーンのファールの多さにぶつぶつ言っていましたよ
賀川:74年から98年までのアベランジェ会長、さらに98年から今まで続いているブラッター会長のもとで、FIFAは世界中のサッカーの浸透を図りました。2010年南アフリカでのワールドカップもそのひとつですが、その拡大策にFIFAがもうひとつ掲げる「フェアプレー」の浸透が追いついていない…という感じもあります。
――FIFAの内部にフェアプレーでないものがあって事件になっています
賀川:そういう芳しくない事件と併行しての女子ワールドカップです。だからこそ、前回チャンピオンのなでしこジャパンは、フェアで気持ちのいいフットボールをすることが大切でしょう。
――前半の2点は日本の技術、戦術の高さを見せてくれました
賀川:この試合は、第1戦のメンバーとは先発を5人変えました。GK海堀、DFラインは右から近賀、岩清水、熊谷、宇津木、MFに川澄、阪口、宮間、鮫島、2トップは大儀見と菅沢でした。近賀と川澄がスタートから出場したことで、右サイドからの攻めが目立ったでしょう。宮間がトップ下にいたので、パスの距離が短くなって、有効な組み立てができた。
――1点目は右タッチ近くで宮間-近賀-川澄とわたり、少し内側でボールを取った川澄はノーマークでゴール前へ速いクロスを送り込みました
賀川:中央の大儀見が飛び込み、タッチできそうだったがボールに触れず、左へ流れたのを鮫島が走り込んで左足でゴールへ叩き込みました。
――ゆっくりしたペースパスから、川澄の速いクロスがあり、大儀見の飛び込みのところに相手DFが2人引っ張られて鮫島はフリーになっていた
賀川:左MFに鮫島を配置したのは、佐々木監督にとってはテスト済ですが、鮫島は左利きですから速いクロスのバウンドにもしっかり足を合わせることができました。監督は腹のなかで、ニコリとしたでしょう。
――2点目は左のショートコーナーからでした。キッカーの宮間がショートコーナーにして、戻ってきたパスを受けてペナルティエリア左外から蹴って、高く上がり、右ゴールポスト際へ落下するボールを蹴りました。高く上がったので、飛び出したゴールキーパーはジャンプしても届かず、その外側へ落下したボールを菅沢がヘディングでゴールネットへ叩き込みました
賀川:CKの時、コーナーからファーポストへ蹴ることのできる宮間ですが、やはり距離的に「いっぱい」の感じです。ショートコーナーにしたことで、宮間は少なくともコーナーよりは近い距離からのクロスになり、コントロールキックを蹴るときも余裕が生まれます。こうなれば、彼女のクロスは高さもスピードも意のままで、世界的なぎじゅるが発揮できるのだと思います。
――1点目は右サイド、2点目は左サイド、パス攻撃の流れの中と、CKという停止球からの攻めに違いはありますが、どちらもサイドからの攻めでした
賀川:サイド攻撃での2ゴールです。そうそう、ショートコーナーは、キッカーにとって距離が近くなるだけでなく、一つパスがサイドで入ることで、それだけ相手DFの目がサイドに向けられるので、攻撃側はマーク相手の視線から「消える」動きもできるのです。
――だから、ファーポストの選手がフリーになっていた
賀川:カメルーンのDFたちの守備についての訓練不足もありますが、このサイド攻撃のゴールで、なでしこの自分たちのゴールへの展開に新たな自信を持ったでしょう。
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