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ワールドカップ オランダ戦 らしさの出始めたなでしこジャパン

2015/06/27(土)

2015年6月23日(日本時間6月24日)
FIFA女子ワールドカップ ラウンド16
日本 2(1-0、1-1)1 オランダ

――なでしこジャパンがオランダに勝ちました。第2ステージのノックアウトシステムに入っての1回戦です。次の準々決勝の相手はすでに決まっていて、オーストラリアです

賀川:オランダは初出場だが、良いプレーヤーがそろっていた。当然のように背が高く、空中戦をどうするか、という心配もあったが長身相手の日本の守りもよかったし、攻撃展開もよかった。

――日本らしいパス攻撃ができたので、見て楽しいという点ではこの大会に入って一番でした

賀川:佐々木則夫という練達の監督さんは、大会の1次リーグの相手、そしてこの対オランダと、それぞれの試合ごとに、勝ちながら徐々にチームの攻撃展開まとめてきたという感じです。

――前半10分という早いうちに先制できたので、あとが楽になったでしょう。左の宮間からのクロスでしたね

賀川:日本のキックオフで始まり、初めは日本側の高い位置からのプレッシングが目立った程度で、双方にチャンスらしいものは生まれず、一度だけオランダの7番をつけたメリスが日本のDFラインの背後へ抜け出す、ピンチの場面があっただけ。

――彼女は足が速いから一瞬ヒヤリとしました

賀川:なでしこ側がハーフライン右タッチよりで相手の反則でFKをもらったが、例によって宮間あやが、相手が構えるより早く短いパスを出そうとした

――それが相手に奪われた

賀川:すぐ近くの宇津木に渡そうとしたのに宇津木は受ける気がなく、相手のFWが気付いて奪ってしまった。FKで攻めに出ようというときに奪われたのだから大変ですよ。

――このあたりまで、まだどちらも、体がほぐれていない感じもあった。いよいよノックアウト戦というので緊張もあったのかな

賀川:ボールを奪ったオランダ側もそうだったかもしれない。ペナルティエリア内にノーマークで入ったメリスが左足でシュートに入ったが、これがなんと空振り。勢い余って倒れてしまった。

――おかげでホッとしました

賀川:その2分後にチャンスがきた。

――左タッチラインのスローインが攻めの始まりでした

賀川:日本のDFラインから左の宮間へ渡そうとした長いパスを相手がヘディングしてタッチラインを割った。鮫島が後方へ投げて、もう一度リターンパスをもらい、タッチ際で前方の宮間にパスをした。

――テレビを見ながら“うまい”と言っていましたね

賀川:パスの選択肢は他にもあったが鮫島は宮間を選んだ。

――サイド攻撃の日本ですからね

賀川:接近してくる相手の足の上を小さく浮かせて宮間へボールを送った。鮫島はこういうスタンディングのままのプレーも上手だからね。

――宮間は?

賀川:内側にいた大野にパスを出した。大野はワントラップして宮間に戻す。宮間は少しスピードを上げ、中央へ速いパスを送った。

――左タッチラインから5メートル内側、ゴールラインから10mあたり

賀川:オランダは3人のDFがペナルティエリア内にいた。なでしこは中央、おそらくPKマークのあたりに大儀見が一人だけいた。ペナルティエリア左角近くに大野が走り込もうとしていた。正面のPKマークから9m15のラインいっぱいに川澄がいた。

――宮間の左足からのクロスは一番手前のDFを越え、大儀見をマークしていたCDFも触れず、大儀見が姿勢を低くしてヘディングした

賀川:ゴールキーパーのフルツは全くボールには触れず、ボールはバーを叩いて地面へ落ち、転がった。川澄は取れないなと思ったら、後方から走り込んできた有吉佐織が右足でシュートした。ボールはすごい勢いでGKの右手をかすめ、ネットに飛び込んだ。

――サイドからのクロス、大儀見のヘディング、ポストのリバウンドを有吉がシュートと、爽快でしたね

賀川:大儀見も、前へ出る気配をみせてCDFのヘディングのタイミングを狂わせ、自分のところへ来た低いライナーをヘディングでとらえるところは、さすがだった。それでもゴールにはなっていないのだが、その二つの的確なプレーのあとが、こぼれ球のクリーンシュートという、また胸のすくシュートだった。

――前から転がってくるボールはキックの練習の基本なのに、大試合でよくゴールをオーバーするのを見ますが…

賀川:そのたびに、ヨーロッパのプロのクセに…などと思うのだが、有吉はしっかりと蹴ってくれた。

――速攻への妙味の一つですね

賀川:ペナルティエリア内にこちらの人数も少ないが、相手も少ない、だからこぼれ球も扱いやすい。ただし、最初はその少ない仲間にパスをあわさなければいけないのは当然ですが、宮間-大儀見という2人の攻撃のエキスパートがつくり、ほとんど完成に近かったゴールを新しいなでしこのレギュラー有吉が締めくくったと言えるでしょう。

――良いプレーが出ると賀川さんの口も滑らかですね。オランダにはかなりこの1点はこたえたでしょう

賀川:そのあと、日本のチャンスが立て続けに生まれたでしょう。ちょっと、どう対応してよいかわからなくなっていたのでしょう。

――ここでもう1点取っておけば楽になったのに…

賀川:決定的なのが4つぐらいあったが、まぁサッカーはいろいろあるからね。それより後半に相手が少し調子づいてきた時に2点目を取った力を評価してよいでしょう。

――右サイドで相手ボールを奪っての攻撃でした

賀川:オランダは後半に、前へ前へと意欲を燃やしていた。30分ごろはCKやFKが続いて、なでしこはゴール前に押し込まれ状態が続いた。

――FKがゴール前を通り抜けた時にはヒヤッとした

賀川:そのボールの後のゴールキックから、なでしこが押し戻し、オランダ側へ入って、相手GKフルツからのパスをDFの間でつないで左サイドへ来たとき(日本の右サイド)なでしこは前から奪いにいった。川澄と阪口と岩渕真奈の3人だった。

――岩渕はその前に大野忍に代わっていました

賀川:3人で奪ったボールを岩渕がペナルティエリア前12~13mあたりから中央前方へドリブルした。ドリブルして中央の大儀見にパスを出した。大儀見はマークのCDFに並走するように左側にドリブルして、ペナルティエリア内へ入った。左へ流れながら左足でシュートしていくのかと見ていたら、反転して止まった。相手DFを前にして右に持ち替えた。

――当然、相手は右足シュートを警戒します

賀川:大儀見の左を宮間が走り上がる。その宮間へ大儀見がヒールパスを出した。内へドリブルする気配、シュートする気配を見せてのヒールパスだった。

――ノーマークの宮間は

賀川:左サイドを縦に持って出るのでなく立ち止まって、後方を向き、エリア内へ走り込んできた岩渕にパスした。

――岩渕のシュートがくると相手も、テレビの前の私たちも思ったら…

賀川:岩渕はシュートしないで、ボールは後方へ。

――そこに阪口がいた

賀川:阪口は左足でペナルティエリアいっぱい(ゴール正面)からシュート。ボールは左ポスト際、ネットへ飛び込んだ。

――押されていた形から相手陣内でボールを奪っての一気の速攻、しかも縦に走り、止まってパス、止まってパス、という変幻自在の攻めでした

賀川:なでしこは、こういう攻めもできるのだという攻撃だった。走って止まる彼女たちの動きに大柄なオランダ選手は、すぐ近くにいるのに足を出してタックルすることができなかった。

――日本のシュートパスの典型の一つ、と賀川さんがよく言っている攻めですね

賀川:相手の動きを止めて走り出せば小柄なプレーヤーの方が敏捷で、大型選手にはやり難いはずです。僕が少年時代にプレーした神戸一中(現神戸高校)のシュートパスとドリブルの組み合わせの攻撃というテンポの変化の一例でしょう。

――この攻めで賀川さんは川澄をほめていた

賀川:パスとドリブルの組み立てが始まる前に、相手ボールを3人で奪いにいったとき、阪口と相手とのからみでボールがニュートラルの位置に落ちたときに、川澄がスライディングをしてこのボールを岩渕に渡して、ここから岩渕のドリブルでの前進が始まり、その後の大儀見達との見事な連携プレーになったのです。

――川澄は「ここだ」と感じたのでしょうかね。このボールをなでしこ側が取ることが、どれだけ後に響くか…

賀川:論理的にそう考える時間はもちろんないでしょうが、とっさに川澄はこのボールは相手に渡せない、と感じたのでしょう。こういうときに、無理をして、この場合はスライディングですが、ボールを味方のものにするのが、なでしこジャパンの強さでしょう。おそらくこの能力というか、経験からくる判断力を川澄だけでなく世界で勝ったなでしこジャパンの彼女たちは共有しているのかもしれませんね。

――そこになでしこの強さがあると

賀川:そうは言っても“Anything can happen in football”です。相手のヘディングシュートのバウンドが変わって海堀が取りそこなうこともあるのですからね。

――あとから考えれば、こういうこともあるから、2点目のかくれたきっかけの川澄のスライディングも大切なプレーになってくる

賀川:だからサッカーは面白いのでしょう。

――次の対オーストラリアは

賀川:ハラハラすることは間違いないでしょう。日本に対してプレッシングをすれば、どういう効果があるかは、オランダよりもよく知っているでしょう。強敵と戦って、強くなっているはずだからなでしこも大変です。良い試合が見られると思います。

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