Anything can happen in football
FIFAワールドカップ2018ロシア
アジア第2次予選
日本 0-0 シンガポール
――引き分けでした。0-0。20本以上のシュートがゴールできず、埼玉に集まった5万7千余りのサポーターもテレビの前の全国のファンも不満のままの90分でした
賀川:シンガポール側から見れば、会心の試合。サッカーでは実力が違っても、こういう結果をも生み出せることの良い実例でしょう。
――サンスポに賀川さんの観戦記が掲載されていました。「選手同士で考える」という見出しでしたね。
賀川:こういう試合を振り返ると、その原因はいろいろあります。まず、いつも言い続けていることですが、いい監督さんが来て、その影響力が強いと、監督の指示通りの試合をやろうとする。それが、その日の相手と合わないときには自分たちで考えることが大切でしょう。そうは言っても、簡単なことではない。
――賀川さんは元々、そういう心の問題や抽象論よりも具体的にどのプレーが…との指摘が多かったと思いますが
賀川:そう、根本的なところの話も面白いが、サッカーはゴールを相手より多く奪えば勝つという単純な競技ですからね。
――となると、23発のシュートが1点にもならなかったことから、シュートの話になりますか
賀川:もちろんそのシュートを蹴る当事者が、良い条件でシュート体勢に入れるかどうかというところに攻撃の妙味はあります。しかしそれでもシューターの問題も多いでしょう。
――試合後の談話で岡崎慎司が「ゴールキーパーに調子づかせてしまった。もっとも相手がそうなっても、ゴールを決めないといけないのだが…」と言っていました
賀川:ストライカーだけあって、ゴールキーパーのこともよく分かっていますね。開始早々の本田のロングシュートがGKイズワンのいい予備運動になりました(強い球であったが、グラウンダーで正面へ来た)。次に香川真司が後方からのパスをうまいトラッピングで受けて、前を向き右足でシュートした。これをGKイズワンは右へ(シューターから見れば左へ)飛んで左手で防いだ。良いシュートだったがイズワンの読み通りの方向だったし、高さも強さもGKには防ぎやすいところへ飛んだ。
――あのシュートコースは香川の形ですね
賀川:落ち着いたストライカーなら、右のニアサイドへ蹴ることもあるが、香川は自分の一番得意な形で蹴った。
――賀川さんの頭の中には、釜本の得意の形だったという思いがあるでしょう
賀川:彼が自分の形でシュートしたら、ボールの速さが違うから同じ位置へ飛んでもGKは取れないだろうね。まぁ、こういうシュート議論がメディアの間で交わされるようになればね。
――スポーツ紙では、シュートの解明をしようとの動きも出ています
賀川:それは結構なことですよ。そう、3本目は岡崎のシュート、宇佐美のドリブルからのパスが出て、岡崎が左足でシュートした。
――イラク戦でも、同様のシュートチャンスがありました。岡崎は決めましたが
賀川:同じ経験で作ったチャンスでも、相手の守りの人数が多い分、シューターも余裕がなくなっていたはずです。この岡崎のシュートでもGKイズワンは良いセービングができた。こうなって来るとゴールキーパーは調子づくものです。
――日本でも、オリンピックの対ブラジル戦で川口が難しいのを何回も防いで、逆に1-0で勝った一大番狂わせを演じました
賀川:そう、原因を突き詰めて、基礎的な考えに到ることもありますが、ピッチの上ではまず相手GKイズワンが調子づいたことが一つ、相手の最終防御ラインの引き方、そのラインの前進後退と、その前の5人の中盤での守りがうまくと統制されていた。
――そこへスルーパスを出しても、通らないし、裏へ出てもオフサイドの場合もある。やっと届いたと思うと相手は次の選手もきているということもあった
賀川:日本選手が欧州勢と試合するときは、相手の大型プレーヤーよりも「敏捷」という特色を生かす…という。シンガポールのような東南アジアのプレーヤーは、体のばねもあり、敏捷な動きができる上に、ボールテクニックも上手だ。今度のシンガポールは体も良くなっていた。
――思っていたより、やり難い相手だった
賀川:シュートが入らなかったのはGKイズワンの好プレーと、日本の不運もあった、とシンガポールのドイツ人の監督さんは言っていた。
賀川:1992年の欧州選手権でデンマークが予想を裏切って優勝したが、このときのデンマークのGKピーター・シュマイケル(マンチェスター・ユナイテッド)の働きは素晴らしかった。見ていてこれは、ちょっと点は取れないなという感じでした。
――それにしても、これだけ攻めて入らないとね
賀川:ヨーロッパの攻撃陣なら高さを利しての空中戦でいくとか、上げて競り合っての力強さでいくとかあったでしょう。日本でもそういうやり方で点を取ったこともあります。終盤には相手選手に足の痙攣を引き起こす者が増えていたでしょう。体力で勝つのも一つの手でありますが、別の見方をすれば、ボールテクニック、ときにパスの精度、つまりキックの精度がクロスを含めてまだ高くないこともあります。
――宇佐美は
賀川:こういう大事な試合で目立ってもらわなければいけない選手ですが、まぁこの次まで待ちましょう。
――なでしこで折角盛り上がったサッカーが、この0-0でちょっとトーンダウンします
賀川:シンガポールという、小さい国だが豊かで元々サッカーも盛んなところが、本格的に強化策に乗り出してきた。日本を相手に負けないサッカーをしてやろうというところに、今のアジアのレベルアップがあると言えます。日本は今やアジアではそういう目で見られていることを改めて知ったのも今度の試合のプラスです。1980年代、当時ヨーロッパでトップにあった西ドイツ代表のデアバル監督はこう言っていました。ワールドカップの予選でアルバニアなどの小国に1-0の僅差で勝ったりする、ドイツのメディアにガンガン叩かれる、万一、引き分けでもしたらまるで「この世の終わり」みたいに書かれてしまう…。
――釜本さんを指導してくれた、80年のEURO優勝、82年ワールドカップで準優勝の監督ですね
賀川:そんなときどうするのか…と聞いたら、彼は「Anything can happen in football」とね。サッカーではどんなことでも起こり得る…ということですね。
――そのハプニングの一つ一つを今後も見ていきましょう。
固定リンク | ワールドカップ | コメント (0) | トラックバック (0)
コメント