2014年10月14日ブラジル戦(下)
――後半に日本は本田圭佑を投入しました
賀川:本田がなぜ前半プレーしなかったのか。コンディションの問題だったかもしれません。イタリアでは好調で点も取っていたが、このシリーズは波が落ちていましたね。残念なのは本田が入って、テレビ観戦の皆さんが期待を高められただろうに、柴崎のミスからアッという間に2点目を取られたことです。
――後半始まってすぐ、日本にFKのチャンスがあった。ハーフウェイラインから少し相手側へ入ったところだった。柴崎がゴール前へボールを送り込もうとしたが、低くて相手のヘディングにクリアされた
賀川:その後、中盤での奪い合いが続き、時計は2分16秒だった。日本はDFラインでボールをキープし、自陣センターサークル左よりから森重が中央の田中にパスを送った。相手ゴールを背にした形でボールを受けた田中に、2人が間合いを詰めた。田中は右横にいた柴崎に短いパスを出し、自分は前で受けようとした。柴崎はこのボールを右足のアウトサイドで田中へリターンパスしようとしたが、足に当たったボールはコウチーニョ(オスカルと交代で後半に入った)に渡った。奪ったコウチーニョはドリブルし、日本のDFの裏へボールを送り込んだ。ボールは塩谷の右側(相手から見れば左側)を通り、そこへ走りこんできたネイマールが取った。ネイマールはペナルティエリアまでドリブルし、前進してきたゴールキーパーの右側を抜くシュートをゴールに送り込んだ。
――柴崎のミスが痛かった
賀川:森重が田中に縦パスを送った時の両チームの配置は、ブラジルはペナルティエリアから12~13メートル前方に4人のDFラインを引き、その10メートル少々前方に3人のMFがいた。FWの2人とMFの1人はハーフウェイラインにいた。いわば、4人、3人、3人の3つのラインが日本の攻撃に備えていた。
――守備の方として安定していた?
賀川:こういう時は、昔はサイドへボールをまず散らしたものだが、このごろは中央にくさびを入れたがる。それはそれで効果もあるが、ゴールに背を向けてボールを受けるのは奪いにくる相手にはよく、受ける側は相当能力のいる仕事となる。森重の前方には本田がいて、左タッチライン沿いには太田がいた。彼らは半身の構えでボールを受けられるポジションだった。
――受けやすい選手がいるのに、あえて難しい方を選んだと?
賀川:サッカーは時には無理なこともしなければならないが、ボールポゼッションという点なら、まずサイドに出して、そこから入ったばかりの本田に渡しておくのが普通のやり方でしょう。何しろ相手はブラジルですよ。こういうところにチーム全体の若さが出ていた。柴崎だけの問題ではありません。
――人数からみると、ハーフウェイラインから相手側の最終守備線の30メートルの間に日本側は8人、ブラジル側は10人いた。そしてブラジルの2本の守備ライン(4人と3人)に日本は2人と5人が向かっていた
賀川:この態勢で柴崎がボールを奪われた。ブラジル側はコウチーニョのドリブルにあわせて前方へ走ったのはネイマールだけだったが、コウチーニョの後を追った柴崎も、酒井、塩谷、森重の3DFもネイマールのスタートダッシュに完全に置いてけぼりになってしまった。ネイマールのスペースを見つけようとするうまさ、ドリブルからシュートへ入る時の落ち着きなどは、すばらしくてほれぼれするが、コウチーニョのパスも見たでしょう。
――というと
賀川:彼はドリブルしハーフウェイラインでスルーパスを蹴ったが、右足のトーでボールの下を蹴っている。ボールは日本DFの間を抜ける時は小さく空中に浮き、落下した。後はスピードが落ちてネイマールの取りやすいボールになっていた。かつてのパスの名手マラドーナも別の蹴り方でパスの速さを調整していたのを見たが、リバプールで働く22歳のコウチーニョもセレソンらしい、パスの技術を見せていた。
――あとの2ゴールについても、彼らの技術が生きているわけですね
賀川:日本は小林に代えて、武藤を投入しました。
――彼も柴崎もネイマールやコウチーニョと同じ22歳です
賀川:岡崎のシュートがあって、日本側に期待も生まれたが、ブラジルもネイマールの3点目に近いチャンスがあった。彼のポスト際のシュートはポスト左へ外れたが、ドリブルの後の切り返しの深さと大きさに日本のディフェンダーは振り回された。
――このピンチも中盤で奪われてカウンターを受けたものでした。
賀川:ボールを取ってからの彼らの速攻を見習いたいですね。後半20分には日本のファンにも馴染みのロビーニョがジエゴ・タルデッリに代わってFWに入り、カカがエリアスに代わってMFで登場した。
――30歳のロビーニョも、32歳のカカもしっかり仕事をした
賀川:0-2となってもブラジルが点を取りにきた。こういう時にはこちらもチャンスが来るはずだが、ジャマイカ相手に突破力を見せた武藤も、この相手ではなかなかシュートチャンスをつかめない。
――3点目はカカがピッチに入った1分後、日本が攻め込んだ後、ブラジル側にボールが渡った
賀川:ロビーニョが自陣ハーフウェイラインから15メートルの左寄りでクリアボールを拾い、すぐに前方のネイマールへパスを送った。中央から道へ斜走したネイマールはノーマークで右寄り30メートル近くでボールをとり、エリア右角から中央へクロスを送る。シュートもうまいがパスも確かな彼からのクロスをカカがヘディングした。ボールは川島が辛うじてセーブして、ボールはエリア外へ。さらにエリア左角からのシュートを川島がセーブしたが、はじいたボールはゴール前にいたネイマールのところへ。彼は左足でボールをダイレクトにとらえ、ボールはゴールに転がり込んだ。
――ハットトリックのネイマールは、さらに36分にヘディングの4点目を決めました
賀川:この時の左サイドのロビーニョとカカの見事なパス交換と縦への動きは、まさに理詰めの攻撃展開でしたよ。そのチャンスメイクのフィニッシュとなるクロスをカカが丁寧に蹴ったのに感銘を受けた。いわゆるペナルティエリアの根っ子近くからのクロスで、定石ではフワリと上げるのだが、その定石どおりのフワリをしっかりボールの底を蹴ってファーサイドで待つネイマールの頭上に届けた。こうしてみると、日本が弱いというより、久しぶりに強くてうまいセレソンを見せてもらった90分だった。
――セレソンの好プレーは多くの日本ファンや選手にプラスになるのでしょうか
賀川:一昨年のコンフェデレーションズカップの第1戦で、意欲満々で待ち受けるブラジルに日本代表が強烈に叩かれたのをファンは覚えています。格上の相手との試合のやり方は日本代表としての蓄積があるはずだが、4年ごとに監督が代わると、その都度監督にも選手に新しい経験のようになる。ゼロからの出発などという言葉も聞こえています。新しい気持ちという程度のことなのか?これまでの経験や蓄積を全否定してのゼロからなのか?どうだろうね。
――ブラジルのいいプレーの話になりましたが、実際に肌で感じたはずだから選手たちがこの経験を生かすでしょう。日本代表のひとりひとりについては、別の機会に話し合うことにしましょう。
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