岡崎慎司の十八番ゴール
――コロンビアは南米予選で2位、世界ランク6位でC組では一番強いとされていました。それに勝つ試合をしなければならなかった
賀川:世界ランキングの順位の差はあまり大きく考えなくてもよいと専門家たちは言います。それはそうですが、コロンビアの代表のひとりひとりはなかなかの選手がそろっています。
――彼らの先発メンバーは第1、2戦とは大幅に違っていました。8人が新しい顔で攻撃の組立て役、ロドリゲスもいなかった
賀川:といって11人のうち9人がヨーロッパで働き、2人がアルゼンチンのリーグです。国内リーグの選手はMFのメヒア(アトレチコ・ナシオナル)だけのはず。1987年の南米選手権でそれまでは評価の低かったこの国の代表が評判になり、90年イタリアワールドカップでは注目のチームでした。私は87年にたまたま南米でバルデラマという金髪のプレーメーカーを見て驚いたものです。イギータという前進してDFのようにドリブルで相手FWをかわすGKもいたが、足の速い攻撃陣が魅力的でした。
――94年アメリカ大会で敗れて帰国した後、選手が殺害されました
賀川:代表が負けたために賭けで損をしたマフィアがらみという話もあった。何しろ当時は麻薬で有名なところだった。いい時期の後の暗い時期を切り抜けて、サッカーのレベルアップが進み、代表も強化された。
――そう。もっと古い話で、ワールドカップ開催国となったが後で辞退した?
賀川:86年大会の開催国に決まっていたのが、経済状態が悪化して大会を返上した。それで70年大会の経験あるメキシコがアメリカと争って開催権を得た。アメリカは94年開催に回ったのです。つまりそれくらいサッカーに熱心な国なのです。87年の南米選手権の時にアルゼンチン代表監督のカルロス・ビラルドさん(86年ワールドカップ優勝)が「人口も多いコロンビアでサッカー強化が進むと、将来は南米でブラジル、アルゼンチンと並ぶ強国になるだろう。ウルグアイやパラグアイは伝統はあるが、人口は少ないからね」と言っていましたよ。
――そのコロンビアが今度の南米予選で評判になった
賀川:先述の通り、いい選手を生み出す素地はブラジルと同じようにあります。今度の代表を指揮したのがアルゼンチンのホセ・ぺケルマン(64歳)、プレッシングサッカーの信奉者らしく、この体力的にきついやり方を選手に厳しくやらせて効果を上げたらしい。
――ぺケルマンさんは2006年のドイツ大会でアルゼンチン代表の監督もつとめました。ドイツとの準々決勝でPK戦で負けましたが…
賀川:粒ぞろいの選手を練達の監督が見て、チーム力を上げたのでしょう。日本戦でも、当然のことながら日本の攻撃プレーに対してしっかり守ってカウンターに出た。守りも積極的で彼ら特有の「足を出す速さ」で日本を苦しめ、狡猾なファウルやアフタータックルで日本の攻撃展開を妨害した。
――日本はPKで1点を失った
賀川:奪ったボールを一つタメて一気にオープンスペースに出す、あるいはタメないでそのまま出す。いずれにしても広い場所で彼らの得意の1対1を仕掛けてきた。
――日本側には一番厳しいやり方ですね
賀川:日本のペナルティエリアの内に入ったところにアドリアン・ラモスがボールを持ちこんだ時、今野がスライディングタックルに行って相手を倒した。今野はボールに届くと判断したのだろうが、相手が右足でボールをカバーして、その足に今野がタックルした形になった。ちょっと厳しすぎるように思えたが、倒れ方がうまかったから笛が鳴ったという感じ。スロービデオで見ても、確かにラモスの右足に今野の足が当たっているから、取られても仕方ないが、身びいきでなく今野には気の毒だった。
――それだけ相手もうまかったし
賀川:エリア内でのタックルは慎重にということでしょう。
――その後相手のファウルに対してレフェリーは厳しくなりました
賀川:PKの基準を上げたからだろうか、日本にはよかった。もう少しファウルした選手に「重いことをしたのだぞ」という態度をみせてもらえばもっとよかったのだが…
――失点の前に、日本の攻撃でチャンスもあった
賀川:大久保のドリブルシュート、長谷部のシュートもあった。
――PKをフアン・クアドラドがど真ん中に決めました
賀川:GKの素人である私たちが言うのはおこがましいが、こういういきなりのチャンスでサイドネットへきっちり蹴るという心臓の持ち主はなかなかいないもの。相手のクアドラドのシュートのデータがどうだったのかは知らないが、蹴る瞬間まで動かない方が得な場合があります。
――岡崎慎司が見事なヘディングで1-1にしました
賀川:これも攻め込まれて奪ったボールを内田がすばらしいドリブルで持ち上がり、外へ開いた本田へパス、本田が左足でゴール正面の岡崎へライナーの低いクロスを送り、慎司が得意のヘディングで決めました。
――内田が自陣のペナルティエリアからドリブルを始め、ハーフウェイラインを越えた時に日本側は右の本田、中央付近に岡崎、左タッチ際に大久保、そしてセンターサークル内に香川がいた
賀川:それに対して相手は、4DFとその前のボランチ2人がいて6人だった。自分たちが攻め込んだ後のカウンターにもこれだけの人数が対応できるのが、前半の戦いぶりだった。それを内田のさらなる前進と本田のパスと、岡崎の十八番でゴールにしたのです。
――内田がドリブルし、相手ボランチの一人を前にして右外タッチ際にいた本田へ。本田が受けた時には、自分の前方には相手の4DFと中央の岡崎と、はるか左の大久保がいるだけだった
賀川:そこから本田がドリブルし、アルメロを前にしてペナルティエリア右角まで持ち込んで、得意のフェイントの後の左足キックでパスを出した。
――後方からペナルティエリア内に香川が切り込んできた
賀川:本田の蹴ったクロスは香川と、それをマークした相手の後方を通って中央へ。
――そこに岡崎がいた
賀川:内田から本田にパスが出た時、岡崎はエリア外10メートル、ほぼゴール正面にいた。本田がエリア右外角からクロスを蹴る前に、相手と位置取りを争いながら、キック直前に一歩後ろ(外へ)に下がり、キックの一瞬前に相手の前へ体を入れて飛んでくるボールに頭を当てた。
――岡崎の真骨頂ですね
賀川:パスが出る瞬間に相手DFの目はボールに注がれる。その少し前に岡崎は体をくっつけ合って位置取りをしていた態勢から相手を離れ、相手の注意がボールに集中するときにニアサイドへ体を持っていったのです。いわゆる消えて、出るストライカーの一瞬の妙技です。
――大一番でそれがゴールになった
賀川:岡崎慎司は滝川二高の時からヘディングがうまく、飛び込みのヘディングは彼の得意芸のひとつだった。
――彼の空中の強さが、得点の原点になっていると前に書いていました。今は足も上手になったが、コロンビア相手に本領が出た
賀川:今、言ってしまうものどうかですが、第一戦のゴールの本田のシュートは本田の一番いい形でボールを蹴る、つまり彼のフォーム、彼の角度で蹴っているのです。今度の相手のように強く、ゴールキーパーも上手な相手との試合で、2ゴールがそれぞれの得意な形であったこと、それだけしか得点できなかったことをよく考えておくべきでしょう。
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