セルビア、ベラルーシ 2つの敗戦から
――日本代表の10月のアウェー強化試合は、11日の対セルビアは0-2、15日の対ベラルーシは0-1で敗れました。ファンの間からも不満の声があがっています
賀川:対セルビア戦のテレビの画面を見ながら、セルビアのような強い相手と戦うためのチーム全体の準備もひとりひとりの選手の心と体の準備も出来ていないと感じました。今年アジア予選を突破した後、コンフェデレーションズカップの第1戦でブラジルと対戦した時も、テレビから「天下のブラジル」と戦うのだという高揚感が感じられなかった。それとよく似ています。
――第1戦を見ながら、真司のコンディションがよくないとつぶやいていましたね
賀川:まあ、昔のユーゴスラビア連邦国家のころから、セルビアは東欧のブラジルと言われていたほど、ボールテクニックが高く、同時に伝統的に1対1の奪い合いの時の狡猾さは感心するほどです。体はしっかりしていて、ヤバいと思った時はごく自然にファウルプレーで止める。
――ワールドカップの欧州予選A組の3位で本番へは出られないセルビアだが、実力は高いということですね
賀川:その強チームを相手に新しいストライカー柿谷曜一朗を加えた攻撃のテストをし、あわせて積極的守備(前からのプレッシング)で守備力アップの自信を深めたい――そんな意図だったらしいが…
――それには相手が上だった
賀川:セルビアのCDFのイバノビッチはプレミアリーグのチェルシーのDF、もうひとりのナスタシッチもマンチェスター・シティのCDFですよ。後半はじめに日本が左サイドで攻め、本田が柿谷へスルーパスを送ったのをイバノビッチは読んでいて先にボールを取り、ライン際で柿谷が奪いに来るのをヒールでの切り替えしで内へ外して、左足アウトサイドで仲間に短いパスを送った場面があったでしょう。
――ふーむ
賀川:背が高く、体がしっかりしていて、柿谷がぶつかっても通じそうにないディフェンダーが日本のFWのように、かかとで切り返し、大きな足のアウトサイドを使ってパスを出すのですよ。彼のプレーを見て一瞬スウェーデン代表のセルビア系FWズラタン・イブラヒモビッチを思い出しましたよ。
――ああ、バルサにもいた、いまはパリ・サンジェルマンの
賀川:2人のCDFがプレミアリーグのトップチームのCDFであることだけでなく、真司と同じマンチェスター・ユナイテッドにヴィディッチ(ケガで昨シーズンはあまり働いていないが)がいることも忘れてはいけません。
――今年の欧州チャンピオンズリーグを戦う32チームに、確かセルビアの選手は合計10人いるはずです
賀川:そういう個人レベルの高いチームを相手にするためには、日本代表はまず何をするか。
――技術を生かし、組織力で戦うことですか?
賀川:そのためには走ること。運動量を多くすることが大切です。柿谷が相手の裏を狙う一発勝負だけでは通じないのですよ。
――今回は柿谷が代表攻撃陣の一角を担うかどうかが注目でした
賀川:清武をなぜ右サイドで使わなかったのかが不思議のひとつ。柿谷のボールタッチのうまさを生かすためにも、パスの出所を増やすことが必要で、特にこの日は真司と遠藤の調子が落ちていて、左サイドが起点になりにくかった。
――賀川さんは岡崎を買っていますよね
賀川:岡崎のゴール前に飛び込む果敢さと、粘り強い守りとキープはすばらしいが、柿谷という新しい力を試す、それもプレミアリーグのレギュラーCDFを相手にしてということになれば、こちらもいいパスの出し手を揃えることでしょう。
――68分に柿谷に代えて、清武が登場しました。入れ替わりでした
賀川:清武は香川よりも長いボール、高いボールを蹴ることができる。香川と違った視野の広さもある。
――そういえば、香川、柿谷、本田、清武の揃ったナイジェリア戦は悪くなかった。それでもザックさんは岡崎に固執しましたね
賀川:その理由はそのうちに明らかになるでしょうが、柿谷にも代表にも大事なチャンスを失したと思っていますよ。
――失点は
賀川:1961年に日本のアマチュア代表が初めてユーゴスラビア代表と東京で試合したのを見て以来、ユーゴスラビア系のプレーヤーのボールの持ち方のうまさはいつも見て楽しいもの。逆に相手側にはやっかいなものだと思ってきた。彼らの特色のひとつに「切り返し」のうまさと「深さ」がある。74年のワールドカップでドラガン・ジャイッチが足元でのキープと切り返しでブラジルやスコットランドのDFを翻弄するのを見たが、今度のセルビアの先制ゴールは、右サイドの18番バスタの切り返しが効果的だった。
――相手のハーフウェイライン近く、右寄りのFKからでした
賀川:ロングボールを警戒した日本の守備ラインを見て、右サイドの浅いところでボールをつなぎ、バスタが右外へドリブルすると見せかけて内へターンして長友をかわし、ペナルティエリアに入ってさらにもう一度切り返した。日本側は長友、遠藤、香川といたが、バスタは右足でシュートを敢行。そのボールがゴール正面にいたタディッチの足元へ飛んだ。タディッチが左足で止め、右足でニアポスト側にシュートを決めた。
――バスタの2度の切り返しからのシュートとそのシュートをしっかり止めて正確に蹴ったタディッチの2人のプレーが見事に組み合わされた。タディッチの近くに今野と吉田がいたが、タックルできなかった
賀川:ゆっくりパスを回していたのが、バスタの切り返しから一転してシュートへ持って行ったテンポの変化などはなかなかのものですよ。まあ、はじめに言ったように香川の動きの鈍いのも、こういうところで響いていた。
――遠藤の間合いの詰め方に問題という報道もありました
賀川:故障で前日まで別メニューで練習していたとか聞いたが…
コンフェデの時にも申し上げたが、新しい強化シリーズに入るときのコンディショニング―心構えも含め―がよくないのが気になりますよ。シーズン中で故障の多いのは致し方ないとしても、いい控えもいるわけだから…
――マンチェスター・ユナイテッドで少なくとも昨年は注目されていた香川がセルビア勢を相手に1対1で苦労しているのを見ると、世界は広いと思いましたね
賀川:だから日本にはラン―走ることが必要なんですよ。自分たちの敏捷性を生かすためにも…
――2点目を失ったのは後半の終了前に日本が攻めこんだ後、前方へのクロスを細貝が失敗して、相手DFの最前列にカットされ、一気にカウンターを食いました
賀川:日本が攻めるというのは、人数を多く前方へ送り込むわけだから、パスの失敗があると大変ですよ。相手はこのカウンターからゴールを左から右へ、右から中へと動かしてヨイッチが決めた。速いカウンターの攻め上がりの後、ゴールをサイドへ散らし、サイドからのボールを決めるという、点を取るための定石を知っているという感じですね。
――日本にもチャンスはあったが
賀川:前半に本田―長谷部―香川と渡り、香川は相手の守備ラインの裏でボールを取った。香川、本田に長谷部と3人になったのが生きたが得点にはならなかった。
――香川は長谷部からのパスを左足でシュートしたが、GKストイコビッチに防がれました
賀川:相手守備ラインの裏へパスを通して走りこむ攻めは、このところゴールに結びついていない。狭いスペースで相手のゴールキーパーも前進してくることもあり、これまで指摘してきたことだが、裏へ走りこんだ選手の工夫、そのパスのタイミングやスペースにも工夫があっていい。これについては、またお話ししたいと思っています。
――せっかく個人的に強い、チーム戦術のいいセルビアと対戦しながら、存分に戦ったという印象のないまま終わりました
賀川:レベルの高いチームを相手に、攻撃を組み立てて、ゴールを奪って自らの攻撃力に自信を持つという狙いは外れましたね。前半2本、後半5本のシュートのうち、ゴールの枠へ行ったのは、本田のFKと香川、柿谷の各1本(いずれもGKが防ぐ)だった。シュートそのものに原因があるのか、ラストパスに問題があったのか、精度うんぬんという抽象的な言い方でなく、何が悪かったかをプレーヤーやコーチがしっかり突き詰めることだ。
――右のCKをショートCKにして、本田―香川と渡り、香川が右ペナルティエリア根っこに持ち込み、岡崎へのパスを出してシュートしたチャンスがありました。
賀川:その岡崎へのパス、岡崎のシュート体勢にコースがあったかどうか、選手自身もテレビを見たファンも考えること、工夫することが本番でのゴール力アップにつながると思います。
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