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個人の決定力 パウリーニョのトーキック

2012/10/23(火)

――10月の日本のヨーロッパ強化試合はフランス代表に相手のホーム、パリで1−0の初勝利(10月12日)、ブラジル代表と中立地ポーランドで0−4の完敗(10月16日)でした。

賀川:相手のシュートが21本(日本は5本)というほとんど守勢だったフランス戦とは違って、ブラジル戦はこちらの攻撃場面も多く、シュートは10、相手は14、CKは日本が10、ブラジルが2だった。互角とまではゆかないが、ボールをキープして攻め込んだ時間もあったのに1点も取れず、終わってみたら4−0だった。

――現地からの選手の声は、フランス戦は「勝ったけれご、納得できない(もう少しボールポゼッションできるはずだったのに…)」、ブラジル戦は「負けたけれど、ある程度自分たちの力を出せた(自分たちのやり方で攻撃、シュート場面をつくれた)」でした。

賀川:どちらの試合も私にはとても面白かった。ネイマールやオスカルといった、若く上手な攻撃プレーヤーのいるブラジル代表が徐々にチームワークがよくなっているのも見えてとてもうれしかった。

――ブラジル代表と日本代表の一番の差はやはり個人技ですか

賀川:Jリーグでのブラジル選手の働きをみれば、ブラジルプレーヤーのレベルの高いことは理解できるでしょう。日本でも放映される欧州チャンピオンズリーグの32チームの約640人の選手のうち、ブラジル人プレーヤーが67人いるのですよ。日本は香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)と内田篤人の2人だけです。

――スペインのバルサやレアル、バレンシア、マラガ、イングランドのチェルシー、マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティ、アーセナルなどが参加しているヨーロッパの最高のリーグのなかに

賀川:そこに一番多く選手を供給しているのがブラジルなのです。

――日本との試合でプレーしたセレソンは、GKがジエゴ・アウベス(バレンシア)、ダビド・ルイス(チェルシー)、アドリアーノ(バルセロナ)、チアゴ・シウバ(パリ・サンジェルマン)、レアンドロ(ローマ)、MFがボランチがラミレス(チェルシー)とパウリーニョ(コリンチャンス)、攻撃的MFが日本にもいたことがあり、現在はロシアのゼニトにいるフッキ、それにオスカル(チェルシー)とカカ(レアル・マドリード)、FWがネイマール(サントス)でした。

賀川:ネイマールは2014年の自国でのワールドカップまではブラジルにいるという話ですが、これも欧州のビッグクラブが欲しがっている選手です。

――国の内外にタレントが満ちあふれているとうわけ

賀川:2014年大会では開催国優勝と全国民が思っているでしょう。メネゼス監督は、2010年からチーム編成にとりかかっています。今年のロンドンオリンピックのU−23チームの監督もつとめて、優勝こそメキシコに奪われたが、ネイマールたちのチームで銀メダルを取りました。

――アジア勢を相手に中国代表に8−0、イラク代表に6−0でで勝っています。個人力のあるチームがチームワークもよくなってきているのでしょうか

賀川:個人力違いと言っても、いろいろな見方があります。それを取り上げていくと一般論になりやすいので試合の経過のなかで見てゆきましょう。

――となるとやはり前半12分の先制ゴールからでしょうか

賀川:この日の日本はザッケローニ監督の「勇気を持ってチャレンジ」を実行し、キックオフから高い位置でのプレッシングを敢行し、攻撃に出ました。

――日本はGK川島永嗣、DFに今野泰幸、長友佑都、内田篤人、吉田麻也、ボランチが遠藤保仁、長谷部誠、第2列に中村憲剛、香川真司、清武弘嗣、ワントップに本田圭佑でした。

賀川:本田の調子が良くなったのは何よりよかった。彼のところでボールの持ちこたえが期待できるからね。

――こちらの動きにブラジル側もちょっと押されたのか、左DFのレアンドロがミスキックする場面もあった

賀川:オヤッという感じだった。しかし長友が仕掛けてアドリアーノを抜けなかった時に“やっぱり”手強いとも思った。1対1での突破よりもパス攻撃の日本は、攻めに出ると攻撃に人数をかける。そのためボールを奪われた時に早いカウンターには守りの人数が少ないことも起こる。その危険を承知で攻撃した。

――前半15分までに日本は清武と本田のシュートがあった。清武のは相手の守備網の外から相手に当たり、本田のは清武ー香川ー本田とつないで、パスを受けてペナルティエリアへ入ってのシュートだった。

賀川:同じ時間帯にブラジルの攻めもあった。ヒヤリとしたのは3分だったか、日本が攻め、左サイドのエリア近くで奪われ、そこからカカのロングパスが前方のネイマールに渡った時だった。50メートルの正確で強いパスをネイマールが受けて、ドリブルして中央へパスした。オスカルとカカが上がった後方のスペースにラミレスがいて、ノーマークだったがシュートをしないで、右のフッキへスルーパスを出して不成功になった。ネイマールは吉田をひとりでかわそうとせずに仲間の上がりを待ち、その2人でなくスペースのあるラミレスに渡したのを見て、ドリブルの名手と言われる彼のパスを選ぶ眼にも感心した。

――この時はフィニッシュまでゆかなかったが、5分にオスカルのボレーシュートがあった。

賀川:右コーナー近くで長友と向き合ってボールをキープしたフッキが左足でフワリと浮かすパスを送った。それをオスカルがジャンプボレーでシュートした。うまくゆかずボールは高く上がってゴールを外れたが、意表をつくプレーでしたね。

そして先述の本田のシュートがあって、その2分後にブラジルの先制ゴールが生まれたのです。

――今日はなんとかいけそうだと勢い込んでいた日本側をピシャリと叩くようなゴール。ブラジルイレブンを落ち着かせる効果も大きかったでしょう。

賀川:ブラジル側がゆっくりボールをまわしたあと、
(1)左DFのレアンドロがまっすぐ前方へボールを送った(ネイマールが目標)
(2)自分に向かって飛んで来たボールを内田がヘディングした
(3)ノーマークのヘディングだが、このボールが内側にいたオスカルに渡ってしまった
(4)ドリブルしたオスカルは外から内田、内側から遠藤がつめてくるのを見ながら内側へパスを出す
(5)日本のDFはペナルティエリアの前に3人いて、相手FWの2人をマーク。ゴール正面20メートルあたりの広いスペースへゆっくりボールがころがり、そこへパウリーニョが走り込んできた
(6)パウリーニョはボールの勢いとコースを見てシュートの体勢に入り
(7)右足のトゥ(つま先)でボールを蹴った。ボールはまっすぐゴール左ポストぎわに飛び、ワンバウンドしてゴールに飛び込んだ
(8)パウリーニョのシュートに対して、川島は左(キッカーから見て)へ飛んでセーブしようとしたが、ボールは川島の右手の前に落下し、バウンドして右手の下を通り抜けた

――トーキックのシュートが一つのポイントですかね

賀川:2002年の日韓ワールドカップで優勝したブラジルのストライカー、ロナウドがトルコ戦でトーキックシュートを決めたのを見たでしょう。

――トーキックは防ぐ方には難しいとか

賀川:インステップやインサイドキックよりもインパクトのタイミングが早い。そしてボールの勢いも違う。また突き方によってはボールが途中で落下するのでGKには難しくなるはずです。

ぼくたちの少年のころ、小さなゴムボールを蹴ったから、トーキックは誰も経験がありますよ。神戸一中と神戸大学で2年上の則武謙さん(故人、第1回アジア大会日本代表)がトーキックが得意で早大WMWとの朝日招待で彼が相手の裏に走り、まっすぐ突進してトーキックで決めたのを覚えています。

――まっすぐ前方へボールを送り込むのに役立つキック

賀川:この場面でパウリーニョがトーキックを選んだのは、至極当然のことでしょう。私はそれと同時にオスカルが内田のヘディングしたボールを止めて、少し内へドリブルして右足アウトサイドでスローなパスを送った時に、彼もやはりここはトーキックだと思ったのじゃないかな。アウトサイドのパスはキックというより押し出しというタッチでパウリーニョが走り上がる前でほとんど停止球と同じ状態でした。パウリーニョは走って来た方向そのままにまっすぐ蹴ればゴールポストぎりぎりにゆくわけです。

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