ロンドンオリンピック準決勝 フランス女子代表戦(前半)
なでしこジャパン 2-1(前半1-0)フランス女子代表
◆フランスの猛攻に耐えたなでしこサッカー
――準決勝を突破しました。ブラジルに続いてフランスも破りました。2位以内、メダルも決まりです。
賀川:90分で相手のシュートは27本だがこちらは4本か5本でしょう。前半32分と後半4分にそれぞれFKからゴールを奪って2-0としたけれど、ゲーム全体ではフランスの攻勢、日本の守勢でピンチの連続という場面もあった。しかも後半28分には1点返された。
――ブラジル戦以上の大苦戦だった
賀川:33分にはPKを取られる大ピンチがあって、ここで同点と誰もが覚悟しただろうが、シュートは右ポストをかすめて外へ出た。この後もフランスの猛攻が続いたが、耐えきった。ペナルティエリアの外からのシュートの多いフランスだったが、エリア内への侵入も多くて追加点を取られないのが不思議なくらいだった。
――ハラハラ、ドキドキの連続
賀川:ピンチのひとつひとつのプレー、シュートコースへの入り方、ジャンプヘッドされても体をくっつけて、自由にはさせなかったこと、GKの福元が落ち着いていたこと、など守りのすばらしさは、そのひとつひとつを書き残しておきたいほどですよ。
――その守りも、いつも賀川さんが言うように先に点を取っていたからこそ持ちこたえれた。しかも2ゴールをね。その話からゆきましょうか。
賀川:アディショナルタイムの4分の最後のところでもゴール前に落下したボールを相手の長身のルナールが右足のアウトで蹴ったシュートがあった。それを福元が止めたのだが、これでも少し集中力が鈍っていたら同点ゴールになったかもしれない。そういう影の功労がとても重要なことをまず強調しておいて、ゴールシーンを見てみよう。
◆宮間あやのFKの精度とそのアイデア
――2ゴールともFKからで宮間のキックがすばらしかった
賀川:日本が一番警戒していた187センチのCDFルナールのファウルによるFKだった。彼女はその前にもタックルの際に大野の足を自分のソール(シューズの裏)で押さえてイエローをもらっている。この時は大儀見へのキッキングの販促だった。
――距離は40メートルくらい、ハーフウェイラインより少し相手側、ほぼ中央少し右寄りの地点だった。
賀川:この大会で宮間は流れの中ではパスをよく失敗していた。前にも話したかな、大儀見の進化で中央へボールを出しやすくなったこともあるのだが、もう少しサイドを使った方がよい場面でも中へ出してとられることが多かった。しかしプレースキックに関してはCKもFKもやはりスペシャリストらしく、正確な右、左だった。この時も彼女の右足のキックがチャンスを生んだ。
――キックの地点からゴールまではかなり距離があった
賀川:(1)相手のDF陣はロングボールが来ると見て
(2)熊谷と阪口、大儀見の3人が白ユニフォームの相手4人の中に入っていた。熊谷をルナールが背後からマークしていた。
(3)キックは相当なスピードでゴールエリアへ飛び、
(4)そこへゴールキーパーが飛び出してジャンプキャッチした、と思ったら両手でつかめずファンブルした。
(5)ボールはゴール前3メートルに落ちた。そこに大儀見がいて、左足でボールに触れた。相手は2人いたが、誰もこれを止められなかった。
――ファンブルしたのが命取り
賀川:まずそうでしょうね。しかしボールが速かったのと、ルナールが目の前にいたのにゴールキーパーは気が取られたかもしれない。すごいのは大儀見ですよ。彼女は宮間のキックの前は、日本の3人では一番左にいたのだが、キックの直前に右へ出ようとした。スローで見るとルナールに突き飛ばされた熊谷がよろめいて大儀見と当たりそうになり、それを大儀見が左手で押し返し、その反動で右へ走った。だからボールが落下した時、人ごみのなかから一番早く到達し左足にあった。
――なるほど
賀川:こういうところがストライカーのカンだろうね。昨年から今年へのなでしこで一番進歩が目立つ彼女の一面をこの場面はよくあらわしていますよ。
――宮間はそこまでイメージした?
賀川:彼女に聞いてみたいが、ゴール正面には187センチのルナールと手を使えるゴールキーパーがいることはわかっていても、あえてそこへボールを送り込む。飛び出してくるゴールキーパーは、前から飛び込んでくる日本側と戻ってくるフランスDFたちと交錯する形になる場面も起こる。そんなイメージがあったと思う。そして、その通りのボールを蹴った。
――熊谷、阪口、大儀見の3人も同じことを考えていた?
賀川:驚いたのはボールがゴールに入った時には、左側に澤も走り込んでいたことですよ。すごい感覚です。
――日本の守り重視のやり方をブラジル代表の監督さんは批判していたようだが、こういう正確なキックやイメージの共有するチームということも知っておいてほしいですね。
賀川:フランス代表の監督さんも、体力でも速さでも突進力でもシュート力でも上の自分たちがなでしこに負けるとは考えていなかったでしょう。オリンピックという多種目の競技大会を見て、それぞれのスポーツの特徴を見ればサッカーのチーム競技のおもしろさがよくわかり、このスポーツが世界で最も盛んになったことも理解できるでしょう。このFKもまさにその技術と瞬間の判断という、人間の持つ特性が見れるのですからね。
――2点目は後半の4分でした。前半はじめにフランスは前からのプレッシングに来ないで、割合深い守りで慎重な構えでした。失点してから攻勢に出たのですが、後半はじめもちょっと慎重に見えましたね。
賀川:日本代表はなでしこも男子のフル代表も前からプレッシングをガンガンやられると案外弱いところがある。韓国はそのことをよく知っているのだが…
――プレスが弱いとパスが回り、日本が攻め込み、宮間のシュートもありました
賀川:相手をかわして左足シュートしたが、高く上がった。前へ踏み出せず、体重がうしろにかかって、しっかり叩けなかったのだが、その後のFKになるとこれも素晴らしいボールを蹴った。
――大儀見へのファウルのFKで、今度は前の位置より少し右寄りでゴールから40メートルくらいのところだった。
賀川:ペナルティエリアの外、ペナルティーアークあたりに相手の守備線があった。今度もその裏を狙ったが、コースは少し変えて右へ流れてボールを蹴った。
(1)例によって相手の白ユニフォームの前に熊谷、阪口、大儀見、澤の4人がいて
(2)キックの時に大儀見が右へ走り、阪口と澤が左へ開いた
(3)相手の4人は中央の熊谷をルナールともう一人がマーク、大儀見に一人がついた
(4)左側に一人いたがそのニアサイドに阪口が入ってヘディングした
(5)自分の後方へ落下してくるボールのヘディングだからやさしくはないが、強いヘディングシュートがゴール右ポスト内側へ入った。
――ビューティフルゴールでした。
賀川:修羅場のピンチの局面とは違って、ゴール場面の再現は技術の組合せに見えるが、阪口の身体や首の強さがこのヘディングの大きなポイントでもあることを強調するとともに、その阪口のところへ祝福に集まってくる大儀見たちの笑顔を見ると、彼女らがチームとしての動きでFKを得点にしていったという実感がテレビを通しても伝わってきますよ。
――この後のフランスの攻撃はまことにすごかった
(続く)
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