ロンドンオリンピック決勝 アメリカ女子代表戦(後半)
賀川:後半はじめも日本が攻めた。アメリカも攻め返して見ている第三者にはとても面白い展開になった。
――こういうときが日本側には危険でもある
賀川:日本サッカーの攻撃は短いパスをつないでゆく。だから攻めるのに人数をかける。攻め込んでボールを失ったときが危険になる。
――アメリカの2点目はそれだった
賀川:澤から左の川澄にボールが出て、川澄がキープし、追い越した鮫島が左サイドのかなり深いところ(ゴールラインから10メートル)から左足クロスを送った。それを相手DFがヘディングで防ぎ、落下点での奪い合いの末、アメリカ側がボールを取った。
――ワンバックでしたね
賀川:攻撃参加に前進していた熊谷の前でワンバックが高いバウンドをヘディングで奪った。このボールを中央のモーガンがワントラップの後、左に開いていたラピノーに渡した。
(1)左サイドでボールを受けたラピノーは、ドリブルでハーフウェイラインを越え、右へ走り上がってきたロイドにパス。
(2)センターサークルあたりで受けたロイドはそこからドリブルする。
(3)モーガンが左へ走り抜け、ワンバックが右に開いたために生まれた中央のスペースへロイドはドリブルで進んだ。
(4)彼女を阪口が迎え撃つ形になったが
(5)ロイドは右斜め前へドリブルして、ペナルティエリア近くで右足シュートした。ボールはライナーで左ポストをかすめてネットに飛び込んだ。
(6)ロイドのスピードに阪口はついてゆけず
(7)近賀や熊谷はモーガン、ワンバックを警戒してロイドに詰めなかったため
(8)ロイドはさながら無人の地を走るごとくで、その勢いを乗せてのシュートだったから福元にも絶望的だった。
(9)それにしても自分のペナルティエリアから発進し、センターサークルあたりでボールを受けてからの30メートルの高速ドリブルとシュートを成功させたロイドの強さには脱帽のほかはない。
――こういう個人技を見て、日本選手と比べると、改めてサッカーの世界で戦う大変さを知ることになります。
賀川:このことは何十年も前から誰もが理解しているはずです。サッカーは体力や技術だけでなく、智力やチームワークの戦いでもあります。だから1930年の極東大会や、1936年のベルリン・オリンピックを足場に日本流サッカーを積み上げてきたのです。なでしこジャパンもその流れにあって、このアメリカ戦はいわば本領発揮の大一番なのですよ。
もちろん局地での1対1のボールの奪い合いに勝とうという気迫がなくてはなりません。特に攻撃のときはボールを持っている方が、有利だと思わないと現代の発達した守りを崩してゴールすることはできません。
――なでしこもその強い気持ちで10分後に1ゴールを返しました。
賀川:まさになでしこという見事な攻撃からのゴールだった。
――福元からのゴールキックから始まり、DF間のパスから左サイドに渡り、大野が仲にドリブルして右へ大きく振って近賀に渡すところから攻めの仕掛けらしくなった
賀川:(1)ゴールから35メートルあたり右タッチ近くの近賀は
(2)田中(59分に阪口と交代)にパスし、自分は前進
(3)田中は右外に開いていた宮間にパス
(4)宮間は飛び出した近賀をおとりにして大野とパス交換
(5)その大野の飛び出しにあわせて、ぴたりとパスを届けた
(6)ペナルティエリア内、右寄りでパスを受けた大野はエリア内斜め後方、中央に入ってきた澤にパス
(7)澤のダイレクトシュートはDFの足に当たり
(8)そのリバウンドを澤がスライディングで取りにゆき、相手ともつれてゴール前にボールが転がるのを大儀見が決めた
(9)こういうボールが来るところにいるのがストライカー大儀見の感覚ですね。
――大野の飛び出し、そこへの宮間からのスルーパスは白眉でした
賀川:まるでシャビのようだった。その前の右サイドでの縦横のボールと日本選手の相手の動きに惑わされて大野の飛び出したスペースもパスコースも空けてしまった。澤がエリア内に入っているのにノーマークだったからね。
――1-2になって期待も高まった
賀川:ゴールはなかなかだった。岩渕や丸山の投入も追加点を生むまでにはゆかない。
――相手のカウンターもあり、ピンチも増えた
賀川:CKやFKのチャンスも防がれた。ひとつ象徴的だったのは左CKで宮間のシュートコーナー、川澄へのパスを奪われたこと。
――狙われていた?
賀川:それもあるが、U-23も含めてインサイドキックの強さの問題、あるいは使用頻度の問題があるかもしれない。まあ育成部門のこともあるから別の機会に、としておきましょう。
――72分の右FKは宮間の蹴ったボールのリバウンドを熊谷がシュートするチャンスがあった。
賀川:難しいリバウンドによく合わせたが、DFに当たって防がれてしまった。
――日本の武器のひとつだったFKやCKも追加点には結びつかなかった。
賀川:宮間のプレースキックは女子の世界では第一級で、そのコントロールの良さは申し分ないが、相手がアメリカほどになってくると、そう簡単にミスの誘発というわけにはゆかない。となると、空中戦の強さをもう一度考えなくてはならないでしょう。長身のプレーヤーを含めてね
――澤が完調ならヘディングもチームの大事な武器でしたが…
賀川:ここまで回復できたことは天に感謝すべきことでしょう。そういう意味ではこのメンバーでここまできたのは、やはり立派な業績ですよ。大儀見はじめ、何人かの進歩もあったが、リベンジを狙うアメリカ側の進化がが一歩先だということかな。
――なでしこジャパンの、ロンドン終戦にあたっての感慨は?
賀川:終戦ではなく、銀メダル獲得でしょう。彼女たちは1年少しの間にワール
ドカップのチャンピオンとオリンピックのランナーズアップとなった。 昨年は
ドイツ、今年は英国という本場のヨーロッパの中でも中心となる王国で、すごい
業績を残したわけです。彼女たちのおかげで、日本サッカー全体 が活気づきま
した。もちろん選手たちには未熟なところもあります。体力強化を含めての個人
技術、個人力アップも大事な仕事になるでしょう。
――なでしこのロンドン大会の総まとめは
賀川:サッカーの楽しさをオリンピックという多種目のスポーツ大会の中で私た
ちは味わうことができた。ここまで勝ち上がってくれたおかげですよ。 これま
でも多くの試合を見てきた87歳の私が新しいサッカーの魅力に気がつきました。
サッカーの基本となるキックの種類といったことに改めて思い 当ることもあり
ました。そういう私自身の内省を含めて、まずは関係者の皆さんに、
よかったね ありがとう ご苦労さま
というところです。
オリンピックはロンドン以降も続くように、このブログもまだ続けたいと思って
います。
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