ロンドンオリンピック決勝 アメリカ女子代表戦(前半)
第30回オリンピック競技大会(ロンドン/2012)決勝
なでしこジャパン 1-2(0-1)アメリカ女子代表
◆最高の舞台での歴史に残る日米対決
――残念ながら銀メダルに終わりました。しかし、とてもいい試合でしたね。
賀川:ウェンブリー・スタジアムという壮大な舞台で、女性フットボーラーの最高の試合が演じられた。3度目のオリンピック開催地ロンドンが21世紀の世界に送ったすばらしい勝負として歴史に残るでしょう。
――両チームとも闘志あふれるプレーで、技術的にも戦術的にも高いレベルでした。
賀川:試合の流れはアメリカが左サイドの速攻からモーガンのクロスをロイドが飛び込んで先制ゴールし、後半9分にはカウンター攻撃からロイドのドリブルシュートで2点目を加えた。日本はその10分後にみごとなパス攻撃から1点を返し、なお数多くのチャンスを作ったが同点ゴールは奪えなかった。
――その7分のアメリカのゴールを振り返ってください
賀川:日本のDFから左の川澄へのパスがタッチラインを割って、アメリカの右サイドのスローインから攻撃が始まる。右から左へ横パスが通って、
(1)左DFのオハラが受けて前方のヒースへ送る
(2)日本の右DF近賀は内側にいてヒースは全くノーマークで受け、ドリブルで前進
(3)日本の4DFは横一線の守備ラインでペナルティエリア10メートル前後からヒースのドリブルを見ながら後退してゆく
(4)ヒースはペナルティエリア外3メートル、ゴールラインから10メートルあたりかで中へグラウンダーのクロスを送った
(5)そのクロスにあわせて走りこんできたのがモーガン
(6)岩清水の前に入り、左足でボールを止め、
(7)止めたボールをゴールエリアの根っこ近くから左足でクロスを蹴った
(8)ボールは日本DFの岩清水、熊谷を越えて、ファーポスト側のワンバックへ
(9)ワンバックがボレーシュートの体勢に入った時
(10)後方からロイドがダッシュし、頭から飛び込んでヘディングで決めた
――ものすごいダッシュでした
賀川:申し分ないフィニッシュで、クロスに対して第2列からの飛び込みというコースの模範例のようだったが、そのひとつ前のモーガンのトラッピングとその後のプレーが山場でもあった。パスが少し後ろに来て、左足で止めたのが大きく左へ転がった。彼女はすぐボールに追いついたが、日本のDFは岩清水をはじめ誰も間合いを詰められなかった。その一瞬の空白の時間にモーガンは左足でいいクロスを送ったのですよ。
――反転してのクロスだった
賀川:モーガンのトラップが大きくなったのは、止めそこなったのか自分でそうしたのかはわからないが、日本のDFには予想外の形になって、すぐ体がついてゆかなかったのだろう。この時私は、74年ドイツワールドカップでのゲルト・ミュラーの決勝ゴールを思い出した。彼が右からのボンホフのパスをアウトサイドで止めたとき、ボールは後方へ大きく流れた。止めそこなったらしいが、そこから彼はお家芸ともいうべき戻りながらの反転シュートを演じて勝ち越しの2点目を決めた。ボールを止めた方向がオランダDFには予想外だったから、シュートチャンスをつぶせなかった。
――想定外のトラッピングだった
賀川:そう、ミスであっても今度も先に動いたモーガンの勝ちだからね。フランス戦でのピンチのひとつにゴール前でネシブがボールを受けてシュートし、福元がファインセーブしたのがあったでしょう。ネシブはミスなく止めてシュートという動作に入っていたが、こちらのDFも体を着けて守っていたからシュートコースは限定され、福元が防いだ。
――きちんと手順よくプレーしても得点にならず、ミスまがいのプレーが得点につながる?
賀川:だからサッカーは面白いし、油断ができない。その不意の瞬間に体が動くように訓練するのだが…
――モーガンは速い上に右も左も蹴りますからね。
賀川:モーガンに言葉を費やしたが、このチャンスでの展開はアメリカの進化を示すものでしょう。そう、フィニッシュのところでもワンバックの左足ボレーシュートよりも、飛び込んできたロイドのヘディングシュートの方が防ぎにくかったといえる。
――なでしこにも川澄の左からの攻め込みとシュート、大儀見のヘディングなどもあったが…
賀川:アメリカのDFもよく守ったね。ゴールカバーに入るとか、危ないところは2人3人と複数で防いでいた。もちろんGKのソロはご存じのように優秀なゴールキーパーだから、彼女のレンジを外すか、シュート前にゆさぶるかしないと、そう簡単にはいきません。彼女たちは日本のやり方も知っていて、男子も含めての日本チームのバックパスの多いことや、横パスのスピードが遅いことも知っているようで、何本かを奪われた。
――中盤でワンバックが日本のバックパスを奪ったりするので驚きましたよ
(続く)
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