「キリンチャレンジカップの楽しみ」 を更新
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U-23日本代表 0-2(0-1)韓国代表
――3位決定戦の日韓の対決は韓国のものとなりました。44年ぶりの銅メダルはまたお預けですね。
賀川:惜しい試合で、折角ここまで勝ち上がってきた選手たちにはメダルを取ってもらいたかった。しかし負けは負け。成長期の彼らには次のチャンスもある。
同時にJFA(日本サッカー協会)にとっても、オリンピックという大きなイベントで勝つことの効果がわかっただろうし、成長期にあるU-23代表の強化への力の入れ方を工夫しなければいけないでしょう。
――そのためにも試合を振り返ってみましょう。前半の中ごろには攻勢が続いた時間帯がありましたね。
賀川:韓国ははじめロングボールとドリブルで押し込みながらファウルが多かったが、キャプテンマークを付けたク・ジャチョルが再三ファウルをするのでエキサイトは見せかけで、こちらを挑発しているのかと疑ったくらいですよ。
――まあ気合いがはいっていたのですかね。
賀川:裏にスペースがないだけ、永井の俊足を活かすスペースは少なかったが、彼の瞬間のダッシュや、小回りのきく敏捷さは狭いスペースでも役立つと思うのだが…
――たとえば?
賀川:清武のシュートをGKが防いで、そのボールを右のペナルティエリアの根っこで東が取った。永井がエリア内にいて、近くにDFもいたがパスをしても面白かったように思う。
――東はクロスを中へ送ろうとしてDFの足に当たった。
賀川:CKを取る気だったのか、それとも本当に中に入ってくる誰かに渡すつもりだったのかな。
――CKでは酒井が左ポストぎりぎりに強いボールを叩いたのがあった
賀川:右CKの扇原のボールをファーポスト側でヘディングした分ですね。左ポスト20センチほど外れたのが惜しかった。まあ、そうしたチャンスらしき場面はあったが、結局は得点できないまま時間が過ぎ、日本の左からの攻めを防いだ右DFの オ・ジェソクのロングボールで試合は韓国側に一気に傾いてしまう。
――大津がドリブル突破を仕掛けて倒れた。日本側はファウルだと一瞬動きを止めたが、オ・ジェソクはロングボールを蹴った。
賀川:ハーフウェイライン手前で落下したボールは、高くバウンドして吉田の頭を越え、一人だけ残っていたパク・チュヨンのところへ。
(1)ハーフウェイラインから5メートル日本側へ入った右タッチ近くで、パク・チュヨンはボールを取り、高く上がったボールを走りながらコントロールした。
(2)日本は守りにいるのは鈴木一人。右サイドの酒井も吉田も、MFの山口もバックアップを急ぐ。
(3)パク・チュヨンはまず鈴木に向かい、次いで右へのフェイントをかけ、続いて左へ行くと見せかけた後、右へターン。右足アウトサイドで右のスペースへボールを動かし、右足インステップで強く叩いた。
(4)パク・チュヨンの動きについてゆけず鈴木は左足に体重がかかったままの状態でパクがシュートの構えに入ってゆくのを防げず、追走の山口もバランスを崩してしまった。
(5)パクの右足で叩かれたシュートは、権田の右を抜いてゴールに飛び込む。
――CFがドリブルシュートを決める、古くからあるDFとの1対1の勝負ですね。
賀川:韓国とすれば、攻め込まれていた、あるいは攻めさせていたということになるかもしれないが、日本が前がかりになってDFライン後方に大きなスペースがある時間帯が一番のチャンス。だからDFからロングボールを送り、たまたま日本側のヘディング失敗で1対1の場面が生まれ、それがゴールになった。
――韓国との試合になれば、ロングボールは必ずと言っていいほど相手の戦術にあるわけだから、準備はしていたはずですね。
賀川:ロングボールを含めて、ヘディング対策で吉田というオーバーエイジの適役を加えた。鈴木もヘディングは弱い方ではない。ところがこの場面は、ドリブルでの1対1となった。
――それもあり、と予想していたのでしょう。
賀川:実際にどういうふうにディフェンダーは考え、相手を想定し、準備をしたかでしょうね。
――たとえば?
賀川:パク・チュヨンは右利き。そうすると、右を押さえることが先だろう。左は右に比べてどれくらいできるか、など、まずシュートの型を頭に入れて、そしてドリブルの癖なども、もちろんスピードもそうだが。
――しかしパク・チュヨンは簡単にドリブルし、シュートしたように見えます。
賀川:右利きのシューターはその右のスペースを空けさせるためにシュートの前に左へ行くと見せかけるのが普通です。マラドーナと同時代のアルゼンチンの左利きのシューター、ラモン・ディアスは、まず右へ行き、そして左を空けて左へ持ち出してシュートした。ユースのときも、大人になってもそうだった。パク・チュヨンは自分のいい形でシュートするために左に行って右を空けた。そしてその左へゆくステップの前に少し右へ牽制した。
そういういろいろな手を使うようだが、最後は自分の得意へ持ってくる。もし左足でシュートするなら、たいていは得意の右より振りも遅いし、強さも正確さも違う。効き足でない足でいいシュートをする人も多いが、多くは角度がひとつだから、効き足よりはゴールキーパーには読みやすいはずです。
――ゴールキーパーとの協調、協力が大切
賀川:そう。この場合は、相手は一人だけ、こちらはゴールキーパーを含めて2人いるのだから、冷静に対処して防ぐというのがディフェンスの考え方です。まあ、第三者は理屈はこねるが実際は難しいものだろうかね。
――だけど実例もあると
賀川:いくつでもありますよ。74年ワールドカップの時にベッケンバウアーは1対1でなくて2人を相手にゴールキーパーと協調して防ぎましたよ。
――あの人は別格でしょう
賀川:相手も別格のヨハン・クライフともうひとりはストライカーのヨニー・レップだった。
――それはすごい
賀川:詳しくはいまさら言わないが、ぼくはその場面を何べんも録画で見て頭に入れた。だから、31年後に彼が日本に来た時に話を聞いた。彼もよく覚えていて答えてくれました。一番先に思ったのは、彼の前にドリブルしてくるクライフをスローダウンさせることだったと言っていた。自分がクライフにかわされないよう間合いをとりつつ、クライフがレップにパスを出すように仕向けた。レップがシュートした時には、ゴールキーパーのゼップ・マイヤーが前進守備でシュート角度を消して止めてしまった。
――1人で2人を防いだ。もちろんゴールキーパーと協力して
賀川:まあそんな古い話でなくても、いいDFはそういうプレーを積み重ねていますよ。
――現代のサッカーは前からのディフェンスが大切とコーチはおしえてくれます
賀川:だからと言って、前からの守りで攻撃をいつも防御できるとは限らない。万一ということもある。この大一番で万一が起こったわけですよ。
――まあ選手もコーチも、日本全体でこうした場面の勉強をし、防ぐことが大切ですね。
賀川:やや押し込まれそうだった韓国は、このパク・チュヨンのシュートで一気に勢いが出た。自分たちのやり方に自信を持った。何と言ってもオーバーエイジのパクが点を取ったことは、U-23の選手たちにもすごくプラスになるはずですよ。
――後半は日本のボールポゼッションが増えた
賀川:1-0だから日本は攻勢に出る。韓国はしっかり守ってカウンターということになれば、思うつぼと考えたでしょう。そしてその通りになる。
――ずっと日本が攻勢に出ていた後半12分でした。
賀川:ゴールキーパーのキックをパク・チュヨンがヘッドで後ろへ落とし、ク・ジャチョルが飛び出して、日本DFに競り勝ってシュートを決めた。
――これも日本が攻めて、大津がエリア内まで入ってシュートするときにすべって失敗した直後です。
賀川:彼が地面を叩いて口惜しがっているのがテレビ画面に映っている間に、ゴールキーパーのキックが一気に日本人30メートルに落下し、パクと吉田が競り、ボールはク・ジャチョルの前へ落ちた。彼はゴール正面、ペナルティエリアに入って5メートルのところでシュートした。鈴木は追走し、右足を伸ばしたが、ク・ジャチョルが右足で叩いたボールは、鈴木の右足に当たり、足の下を通ってゴールへ転がり込んだ。権田がセービングで伸ばした右手も防げなかった。
――勝負ありですね
賀川:スペインを前からの攻撃的守備、いわゆる前方からのプレッシングで倒して以来、この一手で戦ってきた。それが無失点につながってきたわけだが、ゴールキーパーや最後列のDFからのロングボールで一気に攻められ、その局面での奪い合いに勝てずにゴールを奪われるという形になってしまった。
――こうなると、U-23代表だけの問題じゃない
賀川:もちろん、ここまで勝ってきたのも監督、コーチ、選手たちの功績だし、この敗戦もまた、このチームの責任ですよ。ただし、この試合のシュートひとつとっても、2ゴールの韓国選手のミートはしっかりインステップで叩いているのに、日本のシュートはほとんどインサイドキックで押している。そういう基本的なことになると、育成期からの問題のようにも見える。
U-23というチームは短時間でのメンバー構成になる。それをここまで作り上げた関塚監督の仕事は立派だが、JFAの技術関係者全体にU-23の強化をどうするのか、もっと工夫することになるでしょう。何といってもオリンピックでの勝負けはサッカーにとっても大事なことですからね。
――その技術の問題の基本的なことは、なでしこの分もあわせて、またの機会にお願いします
賀川:しかしこんな話ができるのも、U-23がここまで試合を戦うまで成長してくれたからなんですよ。選手たちは得るところが大きかったはずで、次のステップへのきっかけになることと思っています。
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賀川:閉会式のテレビを見ましたよ。サッカーの選手は銀メダルのなでしこも、4位のU-23代表も帰国していますが、この閉会式に日本の女子バレーやレスリングの選手たち約200人が出席しました。
――賀川さんは東京オリンピックの閉会式の原稿を書きましたね
賀川:半世紀近く前のことですが、今も覚えていますよ。開会式を親友の北川貞二郎記者(当時デスク、のちのサンケイスポーツ社長)が書き、閉会式は私が担当することになっていた。北川さんは選手の入場行進を同じ場所での1940年の学徒出陣の入場行進に思いをはせてすばらしい原稿を書いた。同じ戦中派のぼくも開会式はそういうテーマになるだろうと思っていたが、やはり読んでジーンときた。新聞社のなかでも評判になった。
――閉会式の担当も力が入りますね。
賀川:私はその6年前の第3回アジア大会の閉会式を書いて、ずいぶんほめられた。ちょっとセンチメンタルだったが…
それが東京の閉会式はイメージとは全く違った。入場が行進ではなく選手がバラバラに入ってきた。歩くもの、走るもの、踊るものもあった。笑うもの、スタンドにカメラを向けるもの…
――いまもそういう感じですよ
賀川:閉会式の入場はこのときに変わったのですよ。時のIOCのアベリー・ブランデージ会長が「無秩序で好ましくない」と言ったくらいです。
――書き手としてはとまどったでしょう。テーマはどうしました?
賀川:それぞれの国の選手たちの大会終了への思いが違った表現になったこと、そこに世界の広さがあり、それぞれの国や民族の違いがある。それがこの大会中ひとつになった…というふうに考えつくまでちょっと時間がかかりました。
――ロンドンの閉会式は?
賀川:開会式、閉会式でのショーはいまやオリンピックという祭りのあと先の大ページェントですからね。開会式はブリテン島の古代から始まる歴史絵巻だったが、こんどはミュージシャン総動員でロックのオンパレードというところでしょうか。私のような老人にはいささか長くて見るのに体力が必要でした。やはり、英国式というべきか、選手の入場は行進でなくても東京より節度があった。
――五輪旗が降ろされて、ロンドン市長からIOC会長を経て、ブラジルのリオデジャネイロの市長に渡されました。2016年の会場への引き継ぎでした。オリンピックが次にも続くのだなぁという実感ですね。
賀川:五輪旗は、1914年にクーベルタンが制定し、1920年のアントワープ大会から使用された。開催都市が次の4年間保管するのだが、1936年のベルリン大会の後、大戦になってベルリン市庁舎にあるはずの五輪旗はどうなったか心配された。市庁舎は市街戦などで破壊されたからね。するとベルリン銀行の地下の大金庫に無事に保管されていたことが分かって、関係者はすごく喜んだ。1948年のロンドンオリンピックの時に掲げられたのは、その時残った五輪旗です。
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賀川:後半はじめも日本が攻めた。アメリカも攻め返して見ている第三者にはとても面白い展開になった。
――こういうときが日本側には危険でもある
賀川:日本サッカーの攻撃は短いパスをつないでゆく。だから攻めるのに人数をかける。攻め込んでボールを失ったときが危険になる。
――アメリカの2点目はそれだった
賀川:澤から左の川澄にボールが出て、川澄がキープし、追い越した鮫島が左サイドのかなり深いところ(ゴールラインから10メートル)から左足クロスを送った。それを相手DFがヘディングで防ぎ、落下点での奪い合いの末、アメリカ側がボールを取った。
――ワンバックでしたね
賀川:攻撃参加に前進していた熊谷の前でワンバックが高いバウンドをヘディングで奪った。このボールを中央のモーガンがワントラップの後、左に開いていたラピノーに渡した。
(1)左サイドでボールを受けたラピノーは、ドリブルでハーフウェイラインを越え、右へ走り上がってきたロイドにパス。
(2)センターサークルあたりで受けたロイドはそこからドリブルする。
(3)モーガンが左へ走り抜け、ワンバックが右に開いたために生まれた中央のスペースへロイドはドリブルで進んだ。
(4)彼女を阪口が迎え撃つ形になったが
(5)ロイドは右斜め前へドリブルして、ペナルティエリア近くで右足シュートした。ボールはライナーで左ポストをかすめてネットに飛び込んだ。
(6)ロイドのスピードに阪口はついてゆけず
(7)近賀や熊谷はモーガン、ワンバックを警戒してロイドに詰めなかったため
(8)ロイドはさながら無人の地を走るごとくで、その勢いを乗せてのシュートだったから福元にも絶望的だった。
(9)それにしても自分のペナルティエリアから発進し、センターサークルあたりでボールを受けてからの30メートルの高速ドリブルとシュートを成功させたロイドの強さには脱帽のほかはない。
――こういう個人技を見て、日本選手と比べると、改めてサッカーの世界で戦う大変さを知ることになります。
賀川:このことは何十年も前から誰もが理解しているはずです。サッカーは体力や技術だけでなく、智力やチームワークの戦いでもあります。だから1930年の極東大会や、1936年のベルリン・オリンピックを足場に日本流サッカーを積み上げてきたのです。なでしこジャパンもその流れにあって、このアメリカ戦はいわば本領発揮の大一番なのですよ。
もちろん局地での1対1のボールの奪い合いに勝とうという気迫がなくてはなりません。特に攻撃のときはボールを持っている方が、有利だと思わないと現代の発達した守りを崩してゴールすることはできません。
――なでしこもその強い気持ちで10分後に1ゴールを返しました。
賀川:まさになでしこという見事な攻撃からのゴールだった。
――福元からのゴールキックから始まり、DF間のパスから左サイドに渡り、大野が仲にドリブルして右へ大きく振って近賀に渡すところから攻めの仕掛けらしくなった
賀川:(1)ゴールから35メートルあたり右タッチ近くの近賀は
(2)田中(59分に阪口と交代)にパスし、自分は前進
(3)田中は右外に開いていた宮間にパス
(4)宮間は飛び出した近賀をおとりにして大野とパス交換
(5)その大野の飛び出しにあわせて、ぴたりとパスを届けた
(6)ペナルティエリア内、右寄りでパスを受けた大野はエリア内斜め後方、中央に入ってきた澤にパス
(7)澤のダイレクトシュートはDFの足に当たり
(8)そのリバウンドを澤がスライディングで取りにゆき、相手ともつれてゴール前にボールが転がるのを大儀見が決めた
(9)こういうボールが来るところにいるのがストライカー大儀見の感覚ですね。
――大野の飛び出し、そこへの宮間からのスルーパスは白眉でした
賀川:まるでシャビのようだった。その前の右サイドでの縦横のボールと日本選手の相手の動きに惑わされて大野の飛び出したスペースもパスコースも空けてしまった。澤がエリア内に入っているのにノーマークだったからね。
――1-2になって期待も高まった
賀川:ゴールはなかなかだった。岩渕や丸山の投入も追加点を生むまでにはゆかない。
――相手のカウンターもあり、ピンチも増えた
賀川:CKやFKのチャンスも防がれた。ひとつ象徴的だったのは左CKで宮間のシュートコーナー、川澄へのパスを奪われたこと。
――狙われていた?
賀川:それもあるが、U-23も含めてインサイドキックの強さの問題、あるいは使用頻度の問題があるかもしれない。まあ育成部門のこともあるから別の機会に、としておきましょう。
――72分の右FKは宮間の蹴ったボールのリバウンドを熊谷がシュートするチャンスがあった。
賀川:難しいリバウンドによく合わせたが、DFに当たって防がれてしまった。
――日本の武器のひとつだったFKやCKも追加点には結びつかなかった。
賀川:宮間のプレースキックは女子の世界では第一級で、そのコントロールの良さは申し分ないが、相手がアメリカほどになってくると、そう簡単にミスの誘発というわけにはゆかない。となると、空中戦の強さをもう一度考えなくてはならないでしょう。長身のプレーヤーを含めてね
――澤が完調ならヘディングもチームの大事な武器でしたが…
賀川:ここまで回復できたことは天に感謝すべきことでしょう。そういう意味ではこのメンバーでここまできたのは、やはり立派な業績ですよ。大儀見はじめ、何人かの進歩もあったが、リベンジを狙うアメリカ側の進化がが一歩先だということかな。
――なでしこジャパンの、ロンドン終戦にあたっての感慨は?
賀川:終戦ではなく、銀メダル獲得でしょう。彼女たちは1年少しの間にワール
ドカップのチャンピオンとオリンピックのランナーズアップとなった。 昨年は
ドイツ、今年は英国という本場のヨーロッパの中でも中心となる王国で、すごい
業績を残したわけです。彼女たちのおかげで、日本サッカー全体 が活気づきま
した。もちろん選手たちには未熟なところもあります。体力強化を含めての個人
技術、個人力アップも大事な仕事になるでしょう。
――なでしこのロンドン大会の総まとめは
賀川:サッカーの楽しさをオリンピックという多種目のスポーツ大会の中で私た
ちは味わうことができた。ここまで勝ち上がってくれたおかげですよ。 これま
でも多くの試合を見てきた87歳の私が新しいサッカーの魅力に気がつきました。
サッカーの基本となるキックの種類といったことに改めて思い 当ることもあり
ました。そういう私自身の内省を含めて、まずは関係者の皆さんに、
よかったね ありがとう ご苦労さま
というところです。
オリンピックはロンドン以降も続くように、このブログもまだ続けたいと思って
います。
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第30回オリンピック競技大会(ロンドン/2012)決勝
なでしこジャパン 1-2(0-1)アメリカ女子代表
◆最高の舞台での歴史に残る日米対決
――残念ながら銀メダルに終わりました。しかし、とてもいい試合でしたね。
賀川:ウェンブリー・スタジアムという壮大な舞台で、女性フットボーラーの最高の試合が演じられた。3度目のオリンピック開催地ロンドンが21世紀の世界に送ったすばらしい勝負として歴史に残るでしょう。
――両チームとも闘志あふれるプレーで、技術的にも戦術的にも高いレベルでした。
賀川:試合の流れはアメリカが左サイドの速攻からモーガンのクロスをロイドが飛び込んで先制ゴールし、後半9分にはカウンター攻撃からロイドのドリブルシュートで2点目を加えた。日本はその10分後にみごとなパス攻撃から1点を返し、なお数多くのチャンスを作ったが同点ゴールは奪えなかった。
――その7分のアメリカのゴールを振り返ってください
賀川:日本のDFから左の川澄へのパスがタッチラインを割って、アメリカの右サイドのスローインから攻撃が始まる。右から左へ横パスが通って、
(1)左DFのオハラが受けて前方のヒースへ送る
(2)日本の右DF近賀は内側にいてヒースは全くノーマークで受け、ドリブルで前進
(3)日本の4DFは横一線の守備ラインでペナルティエリア10メートル前後からヒースのドリブルを見ながら後退してゆく
(4)ヒースはペナルティエリア外3メートル、ゴールラインから10メートルあたりかで中へグラウンダーのクロスを送った
(5)そのクロスにあわせて走りこんできたのがモーガン
(6)岩清水の前に入り、左足でボールを止め、
(7)止めたボールをゴールエリアの根っこ近くから左足でクロスを蹴った
(8)ボールは日本DFの岩清水、熊谷を越えて、ファーポスト側のワンバックへ
(9)ワンバックがボレーシュートの体勢に入った時
(10)後方からロイドがダッシュし、頭から飛び込んでヘディングで決めた
――ものすごいダッシュでした
賀川:申し分ないフィニッシュで、クロスに対して第2列からの飛び込みというコースの模範例のようだったが、そのひとつ前のモーガンのトラッピングとその後のプレーが山場でもあった。パスが少し後ろに来て、左足で止めたのが大きく左へ転がった。彼女はすぐボールに追いついたが、日本のDFは岩清水をはじめ誰も間合いを詰められなかった。その一瞬の空白の時間にモーガンは左足でいいクロスを送ったのですよ。
――反転してのクロスだった
賀川:モーガンのトラップが大きくなったのは、止めそこなったのか自分でそうしたのかはわからないが、日本のDFには予想外の形になって、すぐ体がついてゆかなかったのだろう。この時私は、74年ドイツワールドカップでのゲルト・ミュラーの決勝ゴールを思い出した。彼が右からのボンホフのパスをアウトサイドで止めたとき、ボールは後方へ大きく流れた。止めそこなったらしいが、そこから彼はお家芸ともいうべき戻りながらの反転シュートを演じて勝ち越しの2点目を決めた。ボールを止めた方向がオランダDFには予想外だったから、シュートチャンスをつぶせなかった。
――想定外のトラッピングだった
賀川:そう、ミスであっても今度も先に動いたモーガンの勝ちだからね。フランス戦でのピンチのひとつにゴール前でネシブがボールを受けてシュートし、福元がファインセーブしたのがあったでしょう。ネシブはミスなく止めてシュートという動作に入っていたが、こちらのDFも体を着けて守っていたからシュートコースは限定され、福元が防いだ。
――きちんと手順よくプレーしても得点にならず、ミスまがいのプレーが得点につながる?
賀川:だからサッカーは面白いし、油断ができない。その不意の瞬間に体が動くように訓練するのだが…
――モーガンは速い上に右も左も蹴りますからね。
賀川:モーガンに言葉を費やしたが、このチャンスでの展開はアメリカの進化を示すものでしょう。そう、フィニッシュのところでもワンバックの左足ボレーシュートよりも、飛び込んできたロイドのヘディングシュートの方が防ぎにくかったといえる。
――なでしこにも川澄の左からの攻め込みとシュート、大儀見のヘディングなどもあったが…
賀川:アメリカのDFもよく守ったね。ゴールカバーに入るとか、危ないところは2人3人と複数で防いでいた。もちろんGKのソロはご存じのように優秀なゴールキーパーだから、彼女のレンジを外すか、シュート前にゆさぶるかしないと、そう簡単にはいきません。彼女たちは日本のやり方も知っていて、男子も含めての日本チームのバックパスの多いことや、横パスのスピードが遅いことも知っているようで、何本かを奪われた。
――中盤でワンバックが日本のバックパスを奪ったりするので驚きましたよ
(続く)
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――U-23日本代表はロンドンオリンピックの3位決定戦で、隣国であり、ライバルである韓国と顔をあわせます。
賀川:アジアの二強の対決は世界も注目していますが、他ならぬサッカーの本家、英国が舞台というのもすばらしいことです。
――というと
賀川:韓国にとっては1948年のロンドンオリンピックがその代表の国際初舞台でした。日本でも有名な金容植さんも選手兼コーチで出場したのです。
18カ国参加のノックアウトシステムの大会で、韓国は8月4日にメキシコと対戦し、5-3で勝ちました。オリンピックの初勝利でした。
――今度も1次リーグで評判の高いメキシコと引分けました。
賀川:次の準々決勝(8月6日)の相手がスウェーデンだった。のちにセリエAで活躍する選手もいた強豪で、12-0で敗れた。金容植さんにとっては、1936年に自分も出場した日本対スウェーデンの逆転劇のことを考えがんばったが、前半4-0、後半8-0と大きく開いてしまった。
――スウェーデンはこの後デンマーク、ユーゴスラビアをやぶって優勝した。
賀川:大敗に終わったロンドン大会だが、初めて独立国のチームとして出場した意義は大きかった。もちろん選手たちにはとてもいい経験になった。
――敗戦国で参加できない日本より一歩早く大戦後の世界へ目を向けたのですね。
賀川:金容植さんは1960年に私が会ったとき「私は英語が得意だったから、この時サッカーの本をたくさん買って帰った」と言っていた。サッカーの神様と韓国の人たちに尊敬された金さんたちの48年ロンドン大会参加はその後の韓国サッカー進歩の基盤となったのです。
――国際デビューの48年大会から64年後の大会で3位決定戦ですね
賀川:日本サッカーにも、このロンドン大会で銅メダルを獲得するのはとても大事なことです。英国はサッカーの母国であるだけでなく、私たちの日本サッカー協会(JFA)設立にも関わっています。
JFAの創立は1921年ですが、その2年前にロンドンのFA(イングランドサッカー協会)からシルバーカップが贈られてきた。駐日英国大使館の要請に応じてFAが製作して日本に送り届けたのだが、このカップを受け取る競技団体としてJFAが1921年に誕生したのです。同時に全国優勝大会(現天皇杯)が創設され、勝者にシルバーカップが贈られることになったのです。
――なるほど、ロンドンからのカップで日本は協会が誕生し、韓国にはロンドンが国際デビューの地というわけです
賀川:そうした歴史の意味を考えつつ、両国の若者のすばらしいプレーを期待しましょう。日韓サッカーには両国の歴史も加わって、独自の雰囲気がありますが、ここはスポーツ発祥の地、スポーツでジェントルマンを作るところです。特有の戦闘的プレーは当然ですが、スポーツマンシップのある試合展開を見たいと思っています。
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賀川:日本の先制ゴールが12分、相手のCKからの同点ゴールが31分、この20分間は日本のシュートは15分の山口の1本だけだった。相手の守備ラインの前でパスをつなぎ、今度は第2列の山口が前進して東からのパスをダイレクトシュートしたが、右足のスイングで正確にボールを捉えられず得点にはならなかった。
――この山口のシュートの動作について意見があるのでしょう。
賀川:それは次の機会にして、試合の流れとしては
(1)相手が深い守備ラインをとった
(2)そのため、その前のスペースで日本はボールをキープし、シュートまで持ってゆけた。
――メキシコ側はこれは困ると…
賀川:じゃ中盤でプレッシングにゆけ、となる。
――前からのプレッシングは日本の特色だったが
賀川:どの国でもやろうと思えばやりますよ。体力的に続くかどうか。仲間との連携も大切。メキシコのサッカーというより、世界のサッカーの基本は1対1のボールの取り合いから始まっている。それがプレッシングに来るわけだから…
――アジアのチームは日本にプレッシングは効くと思っている
賀川:だから韓国はいつも自信を持っている。他の国々は韓国ほど体がもたないので、いつも仕掛けるとは限らない。
――攻め込み、押し込んでCKから同点にした。メキシコはこれでゆこうと元気も出る。
賀川:後半はじめ、日本が攻めた。右サイドを崩してクロスから山口のシュート、永井のシュートがあった。
――こういう自分たちの得点機に決まらないと苦しいですね。
賀川:相手はドリブルもうまいし、パスの精度も高い、再び押し込まれる形が続いて、後半20分にメキシコが2点目を取った。
――19分にメキシコがハーフウェイライン手前から左サイドへ深いロングパスを送った。タッチ際でチャベスが頭でボールを前へ突いて、ゴールラインぎりぎりから中へ返したが、それをペラルタがダイレクトでシュートした。
賀川:ペナルティエリア左角やや内側からだった。強いシュートが飛び、権田がキャッチした。防いだが、すごく迫力ある攻撃だった。メキシコ側のゴールへの執念と走力と技術が結集されたシーンで、日本DFは置いてゆかれたね。
――そのすぐ後にゴール。
賀川:権田がボールを蹴らずに中央30メートルの扇原に投げた。キックで前に蹴ってもすぐに失うと見たのだろうが。
――実はそこが一番危険だった。
賀川:後方から来るボールを受けた扇原に右からアキノが詰め寄り、扇原がこれをかわすと、そのボールを前方から寄せたペラルタが奪った。すぐシュート体勢に入り、右足で左上隅へ決めた。ボールを奪ってシュートし終わるまでノーマークの状態だったから、ペナルティエリア中央すぐ外からのシュートを代表のストライカーが失敗するはずはなかった。
――2-0になった。扇原は自分の処理がまずかったと悔やみ、権田は狙われている彼のところへボールを送ったのが失敗だと、それぞれ試合後に自分を攻めたようだが…
賀川:一瞬の判断ミス、ボールタッチの失敗が試合を左右する、それがサッカーの恐さでもある。疲れが重なっているところへ、押し込まれ予期しないピンチがあって、権田のセーブでそれを切りぬけたあと、チーム全体に空白が来たのでしょう。そういうのは第三者の見方だが、選手たちにはとても辛い失点となった。
――逆にメキシコは、してやったりですね
賀川:日本は点を取りにゆく。メキシコは守る。
――ここから後は、メキシコがしっかり守り、カウンターで来るというわけですね。
賀川:多数防御を崩してゴールを奪うという試合は、ロンドンの本番ではなかった形勢です。
――東に代えて、長身の杉本を投入し、その後清武に代えて宇佐美、扇原に代えて斎藤と新手を送り込んだが、ゴールを奪えなかった。
賀川:相手が守りに人数をかけたから中盤ではキープできるのにそこでもミスパスが再三出た。相手はファウルもし放題という感じになって、ボールはキープしても苦しいことになる。
――個人的に打開できる選手がいれば…
賀川:宇佐美のドリブルがこういう場面で流れを変えるほどであればいいのだが、そこまではゆかなかった。
――あと5分というところで斎藤が杉本に当ててリターンをもらい、シュートしたのがありました。
賀川:それも自分のいい形でシュートしたのではない。サッカーは恐いものでこちらに勢いがある時は小さな欠点も目につかないが、体勢がおもわしくないとこれまで目立たなかった欠陥があらわれてくる。
――アディショナルタイムがあと1分というところで、右サイドをコルテスに突破されて3点目を失った。
賀川:メキシコの2点目が試合のヤマと言えたが、そこから挽回することはできなかった。
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U-23日本代表 1-3(1-1)メキシコ代表
◆まだ銅メダルのチャンスがある
――先制ゴールを奪いながら負けてしまった。金メダルをめざすという望みは消えて3位決定戦で韓国と対戦することになりました。
賀川:金や銀でなくても、まだ3位のチャンスも残っているのですよ。サッカーの母国でアジアの日本と韓国が3位を争うのは両国のためにもアジアのためにもすばらしいことでしょう。ヨーロッパの人たち、世界の人たちに東アジアにこんなに優れた二つの若いナショナルチームがあることを見せてほしいですね。
――そのためにもまず準決勝を振り返りましょう。試合は最良の教師でもあるとデットマール・クラマーさんも言っていますからね。U-23日本代表は何がよかったのか、何が不足だったのですか。
賀川:試合を流れを見ながら話を進めましょうか。心配された永井がスターティングラインナップに加わったのはよかった。回復ぶりは明らかでなかったが、90分フル出場だった。ただし、これまでの“躍動感”には遠かったと思う。
――彼の速さは攻めにも攻撃的防御にも効き目があった。それが体調不十分とは。
賀川:メキシコがはじめ5分間攻め、そのあとこちらが攻め返した。パスはつながってもスルーパスは通らない。パスそのものが悪いこともあるが、メキシコの守備ラインが後退しているので、裏のスペースが小さいこともあった。永井を警戒してのことだろうね。
――広いスペースに走られるのを嫌がった?
賀川:前半12分の大津の先制ゴールはその引いて守っている守備ラインの前で仕掛けた彼の会心のゴールでしょう。
――パスがよくつながりました。
賀川:永井に対するFKを後方に戻し、そこから再び永井に出て、東にわたって、彼から左サイドにいた大津にまわるというのが攻撃のスタートだった。
(1)大津は東にパス
(2)東~扇原~山口~扇原~徳永とつないで、左外の徳永から
(3)内側の東にパス
(4)その間に大津は東の内側、つまりゴール正面やや左のペナルティエリア外側に移動していた
(5)そして東からのパスが来て、大津はためらうことなくシュート体勢に入り右足で強く叩いた
(6)メキシコのDFはペナルティエリア前に3人いたが、近くの永井を警戒したのだろうか、あるいは大津のシュートを予測しなかったのか、誰も大津を妨害しようとしなかった。
――20メートルほどのすごいライナーがゴール右上に突き刺さりました。
賀川:大津はこのU-23代表のなかではめずらしくインステップ(足の甲)でシュートする選手ですよ。
――近頃の日本ではシュートをインステップで蹴る選手が少なくなってきたと前にも言っていましたね。
賀川:このことはロンドンが終わってから話した方がいいと思う。私たちの神戸一中で日本スタイルのサッカーの原型とも言うべきショートパス攻撃を始めたことは歴史上の定説で、そのショートパスで大切なのはサイドキックだった。それはいまも変わらないはずだが、近頃はシュートにもこれが多いということです。そんななかで、大津はインステップで叩くというシュートの基本の形を持っている選手です。
――小さなバウンドが落ちたところを見事にとらえたすごいシュートでした。
賀川:1点を奪われてもメキシコは気落ちの様子はなく、どんどん攻撃を仕掛けてきた。
――そして31分に彼らの同点ゴールが生まれた。右CKからでした。
賀川:左利きのドス・サントスが蹴ってニアポストのエンリケに合わせ、ゴール正面へ落ちてきたボールをファビアンが頭であわせた。ニアポスト側に永井、吉田、酒井と3人いたが、ボールに触れたのはエンリケ、ファビアンは徳永の前に入っていて、彼らには計算通りだっただろう。
――ドス・サントスはドリブルもうまいがこの短い助走で蹴ったやわらかいニアポスト際へのクロスを見るとキックも一流ですね。
(続く)
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賀川:前半を終わってフランスのシュートは8本(日本は1本)だったのが、後半中ごろには合計20本を超えた。そのうち7割はペナルティエリアの外からだったからあまり脅威ではなかった。
――シュートはうまいはずだが
賀川:ネシブをはじめ、いいキックを持っている選手は多いが、何と言っても女性だからね。それが少しずつペナルティエリアのなかでのシュートチャンスが出てきた。
――少しヤバいと?
賀川:それでも福元のファインセーブや選手たちの体を楯にするなどして防いでいた。
――とうとう後半23分に1点を取られました。
賀川:フランスがメンバーを代え、中盤でのプレッシングを強めたことも日本が奪ってもキープやカウンターにつながらず、すぐまた押し返されるようになった。
――相手のパスがペナルティエリア内でネシブに渡ってシュートされる場面もあった。うまいトラッピングで岩清水を交わしてシュートした。ボールは右ポスト際に飛んだが、福元が左手で止めた。
賀川:大野に代えて安藤を投入した直後に、こちらの左サイドでボールを奪われ、そこからのフランス右サイドの攻めで崩された。中央右寄りでボールを受けたデリが右へドリブルし、ペナルティエリア内へパスを送り、トミがペナルティエリア右の根っこより内側で取って、中へ速いクロスを送り、ルソメル(56分にティネと交代)が強いシュートを決めた。その前にトミの長いドリブルで日本の守備網が破られたのが響いたかもしれない。日本選手たちの足は止まり、ボールをはじき返すのがやっとという状態になっていた時だった。
――その2分後にPKを取られた。
賀川:左サイドからペナルティエリアにドリブルで入ってくるルソメルを止めようとして阪口が体を止めてしまった。誰もが2-2だと思っただろうが、PKのキッカー、ブサグリアのキックは右ポストをかすめて外れてしまった。
――何か問題が?
賀川:右足のサイドキックで右ポスト近くを狙う。そのキックに入ってゆく角度としてはちょっと浅かったかな。福元の読みが外れて左へ動いているのだからポスト一杯を狙わなくてもよかったのだが、そこへ蹴るには角度が浅く、したがって足首を強く使いすぎたかもね。
――メキシコと似てきました
賀川:68年の釜本邦茂たちの銅メダルは2-0のリードの後押しまくられて後半にPKを取られた。1点をとられたらガタガタと崩れそうな時だったが、GK横山謙三がコースを読んで防いだ。キッカーの方が重圧でキックを失敗したのですよ。
――そのことをテレビの前でも
賀川:これはこちらのツキかな…と思ったよ
――その後もフランスは攻めました
賀川:ああいうことがあると、ガクンと来るものだが、フランスも頑張った。しかし勢いは少し落ちた。ここであの大儀見のドリブルシュートが決まっていれば文句なしの3-1だがね。
――まあそれではフランスに残酷すぎるかもしれません
賀川:アディショナルタイムにネシブのエリア左外からのシュートを福元がしっかりキャッチし、笛の直前にあった危険な場面も福元が防いで1点差を守った。
――サッカーの聖地ウェンブリーでの歴史に、女子のすばらしい記録と記憶を加えました
賀川:サッカーは体力や技術、頭脳とハートの戦いということを両チームが見せました。その双方の努力に対して、今回はサッカーの神様が日本に勝ちをプレゼントしてくれたのかもしれない。
――もうひとつの準決勝も大激戦でアメリカが延長で4-3でカナダを破りました。
賀川:そのアメリカと戦うために、まずは選手たちはゆっくり休んで調子を整えてほしいですね。
ヨーロッパへ来てから強敵フランスと対戦したのをはじめ、ここまでの準備のひとつひとつが生きている。それを積み重ねるために努力した関係者、バックアップしたスポンサー、選手を後押ししたサポーターたち、このチームを支えてくれたすべての人たちと自分たちのためにいい試合をしてほしい。そうすれば、神様ももう一度微笑んでくださるかも知れません。
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なでしこジャパン 2-1(前半1-0)フランス女子代表
◆フランスの猛攻に耐えたなでしこサッカー
――準決勝を突破しました。ブラジルに続いてフランスも破りました。2位以内、メダルも決まりです。
賀川:90分で相手のシュートは27本だがこちらは4本か5本でしょう。前半32分と後半4分にそれぞれFKからゴールを奪って2-0としたけれど、ゲーム全体ではフランスの攻勢、日本の守勢でピンチの連続という場面もあった。しかも後半28分には1点返された。
――ブラジル戦以上の大苦戦だった
賀川:33分にはPKを取られる大ピンチがあって、ここで同点と誰もが覚悟しただろうが、シュートは右ポストをかすめて外へ出た。この後もフランスの猛攻が続いたが、耐えきった。ペナルティエリアの外からのシュートの多いフランスだったが、エリア内への侵入も多くて追加点を取られないのが不思議なくらいだった。
――ハラハラ、ドキドキの連続
賀川:ピンチのひとつひとつのプレー、シュートコースへの入り方、ジャンプヘッドされても体をくっつけて、自由にはさせなかったこと、GKの福元が落ち着いていたこと、など守りのすばらしさは、そのひとつひとつを書き残しておきたいほどですよ。
――その守りも、いつも賀川さんが言うように先に点を取っていたからこそ持ちこたえれた。しかも2ゴールをね。その話からゆきましょうか。
賀川:アディショナルタイムの4分の最後のところでもゴール前に落下したボールを相手の長身のルナールが右足のアウトで蹴ったシュートがあった。それを福元が止めたのだが、これでも少し集中力が鈍っていたら同点ゴールになったかもしれない。そういう影の功労がとても重要なことをまず強調しておいて、ゴールシーンを見てみよう。
◆宮間あやのFKの精度とそのアイデア
――2ゴールともFKからで宮間のキックがすばらしかった
賀川:日本が一番警戒していた187センチのCDFルナールのファウルによるFKだった。彼女はその前にもタックルの際に大野の足を自分のソール(シューズの裏)で押さえてイエローをもらっている。この時は大儀見へのキッキングの販促だった。
――距離は40メートルくらい、ハーフウェイラインより少し相手側、ほぼ中央少し右寄りの地点だった。
賀川:この大会で宮間は流れの中ではパスをよく失敗していた。前にも話したかな、大儀見の進化で中央へボールを出しやすくなったこともあるのだが、もう少しサイドを使った方がよい場面でも中へ出してとられることが多かった。しかしプレースキックに関してはCKもFKもやはりスペシャリストらしく、正確な右、左だった。この時も彼女の右足のキックがチャンスを生んだ。
――キックの地点からゴールまではかなり距離があった
賀川:(1)相手のDF陣はロングボールが来ると見て
(2)熊谷と阪口、大儀見の3人が白ユニフォームの相手4人の中に入っていた。熊谷をルナールが背後からマークしていた。
(3)キックは相当なスピードでゴールエリアへ飛び、
(4)そこへゴールキーパーが飛び出してジャンプキャッチした、と思ったら両手でつかめずファンブルした。
(5)ボールはゴール前3メートルに落ちた。そこに大儀見がいて、左足でボールに触れた。相手は2人いたが、誰もこれを止められなかった。
――ファンブルしたのが命取り
賀川:まずそうでしょうね。しかしボールが速かったのと、ルナールが目の前にいたのにゴールキーパーは気が取られたかもしれない。すごいのは大儀見ですよ。彼女は宮間のキックの前は、日本の3人では一番左にいたのだが、キックの直前に右へ出ようとした。スローで見るとルナールに突き飛ばされた熊谷がよろめいて大儀見と当たりそうになり、それを大儀見が左手で押し返し、その反動で右へ走った。だからボールが落下した時、人ごみのなかから一番早く到達し左足にあった。
――なるほど
賀川:こういうところがストライカーのカンだろうね。昨年から今年へのなでしこで一番進歩が目立つ彼女の一面をこの場面はよくあらわしていますよ。
――宮間はそこまでイメージした?
賀川:彼女に聞いてみたいが、ゴール正面には187センチのルナールと手を使えるゴールキーパーがいることはわかっていても、あえてそこへボールを送り込む。飛び出してくるゴールキーパーは、前から飛び込んでくる日本側と戻ってくるフランスDFたちと交錯する形になる場面も起こる。そんなイメージがあったと思う。そして、その通りのボールを蹴った。
――熊谷、阪口、大儀見の3人も同じことを考えていた?
賀川:驚いたのはボールがゴールに入った時には、左側に澤も走り込んでいたことですよ。すごい感覚です。
――日本の守り重視のやり方をブラジル代表の監督さんは批判していたようだが、こういう正確なキックやイメージの共有するチームということも知っておいてほしいですね。
賀川:フランス代表の監督さんも、体力でも速さでも突進力でもシュート力でも上の自分たちがなでしこに負けるとは考えていなかったでしょう。オリンピックという多種目の競技大会を見て、それぞれのスポーツの特徴を見ればサッカーのチーム競技のおもしろさがよくわかり、このスポーツが世界で最も盛んになったことも理解できるでしょう。このFKもまさにその技術と瞬間の判断という、人間の持つ特性が見れるのですからね。
――2点目は後半の4分でした。前半はじめにフランスは前からのプレッシングに来ないで、割合深い守りで慎重な構えでした。失点してから攻勢に出たのですが、後半はじめもちょっと慎重に見えましたね。
賀川:日本代表はなでしこも男子のフル代表も前からプレッシングをガンガンやられると案外弱いところがある。韓国はそのことをよく知っているのだが…
――プレスが弱いとパスが回り、日本が攻め込み、宮間のシュートもありました
賀川:相手をかわして左足シュートしたが、高く上がった。前へ踏み出せず、体重がうしろにかかって、しっかり叩けなかったのだが、その後のFKになるとこれも素晴らしいボールを蹴った。
――大儀見へのファウルのFKで、今度は前の位置より少し右寄りでゴールから40メートルくらいのところだった。
賀川:ペナルティエリアの外、ペナルティーアークあたりに相手の守備線があった。今度もその裏を狙ったが、コースは少し変えて右へ流れてボールを蹴った。
(1)例によって相手の白ユニフォームの前に熊谷、阪口、大儀見、澤の4人がいて
(2)キックの時に大儀見が右へ走り、阪口と澤が左へ開いた
(3)相手の4人は中央の熊谷をルナールともう一人がマーク、大儀見に一人がついた
(4)左側に一人いたがそのニアサイドに阪口が入ってヘディングした
(5)自分の後方へ落下してくるボールのヘディングだからやさしくはないが、強いヘディングシュートがゴール右ポスト内側へ入った。
――ビューティフルゴールでした。
賀川:修羅場のピンチの局面とは違って、ゴール場面の再現は技術の組合せに見えるが、阪口の身体や首の強さがこのヘディングの大きなポイントでもあることを強調するとともに、その阪口のところへ祝福に集まってくる大儀見たちの笑顔を見ると、彼女らがチームとしての動きでFKを得点にしていったという実感がテレビを通しても伝わってきますよ。
――この後のフランスの攻撃はまことにすごかった
(続く)
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なでしこジャパン 2-0(1-0)ブラジル女子代表
◆強いブラジルに対してなでしこの本領発揮
――すごい試合でしたが、なでしこらしく粘って耐えて、無失点、技ありの攻撃で2得点しました。超しんどい試合だったが、みごとな勝利ですね。
賀川:なでしこの本領発揮でした。日本が最初に左から攻めて大儀見がボーれ―シュートした。速いプレッシングからの攻撃で、今日は調子が良さそうだと思ったら、このあと20分くらい押されっぱなしになった。
――ブラジル選手は動きは速く、パスも正確でどんどん前へ出てきた。
賀川:現地からの報道で、「相手は12人いるのか思った」という日本側の話があったが、まさにその感じ。ボクも、ブラジルはこんないいチームになっていたのかと思った。
――これはアカンと?
賀川:まあこちらは中学生のころから見た目に圧倒されながら勝った試合を何度も経験している。記者になってからも、日本代表が強いときもそうでなかったときも、苦戦、大苦戦の中での勝利を見て来ているから、アカンとは思わず、ほらほら正念場が来た…という感じだった。なでしこは、この前半はじめの守勢を防ぎきったことで、勝利への道を開いた。
――早いうちに左サイドからのアーリークロスにファーポスト際でクリスチアネがジャンプヘッドした。ボールは外へ外れたが、最初のヒヤリでした。
賀川:その後4分にFKがあって、マルタとフランシエレがボールの近くに立った。マルタがボールをまたいで、フランシエレが右足でシュートした。壁の中に入っていた黄色ユニフォーム3人が空けたスペースを通ってゴールへ飛んだ。GK福元の正面だったが、当然のことだがFKにもいくつかの「テ」を持っていて、しっかりやれるのだなと思ったね。ただし、ボクはマルタの左シュートをまず見たかったのだが…
――14分に大ピンチがあった。やはり左からの高いクロスでなでしこはDFも福元も取れずに落下したボールをレナタ・コスタがシュートした。
賀川:彼女ともう一人の長身選手が落下点のゴール正面に入っていた。日本側は人数はいた。競り合ったがヘディングできず落下したボールが相手の体に当たって後方へバウンドした。それをレナタ・コスタがボレーで蹴った。ピンチではあったが、このシュートは難しいもので、入らなくて当たり前だった。
――というのは
賀川:あのリバウンドボールをシュートするにはボールが自分のいい高さに落ちてくるまで待つことになるが、たいていは待ちきれないで蹴る。するとボールの下から力を加えるので、バーを越えてしまう。
――なるほど
賀川:ブラジル代表(男の方ですよ)のジーニョが日本戦で同じような局面でのボレーを決めたのを思い出した。今回のよりは余裕はあったが、自分のいい形になるまで、それもほんの一呼吸か半呼吸を待ってシュートした。(1995年アンブロカップ@リバプール)
――まだ女子はそこまでいっていないと
賀川:いや、マルタがあの場にいたらどうだったかね
――そのマルタがこの20分間にあまりめざましい働きではなかったように見えた
賀川:日本の2人のDFが彼女とクリスチアネをしっかり防いだ。澤も彼女たちを意識してよくつぶした。倒してファウルをもらったこともあった。ひとつには相手の勢いにこちらが押し込まれる形になり、狭い地域での攻防となった。そのためマルタのスピードあるドリブルを活かせるスペースがなくなっていた。
守勢のなかから、ときおり反撃に出たことも守りを助けた。得点できなくてもこちらがキープして攻め込む時間帯があれば、DFは一息つけるし、相手マークの確認もできる。
なでしこの攻撃のプレーヤーは守備もよくがんばったが、持ち前のパスワークや突進で、守り全体に息をつかせた。そうそう、10分に近賀が飛び出して、澤からのパスを追ってペナルティエリアまで走り込んだ。相手2人に防がれたが、相手をヒヤッとさせたはずですよ。
――そういえば、この動きあたりからブラジルの“圧倒”の感じが小さくなった。
賀川:25分にフォルミガのミドルシュートがあった。右足アウトサイドにかかってスライスするいいシュートだったが、福元にはキックの瞬間から見えていたから落ち着いて防いだ。
そのころに左サイドでスローインを3度続けて攻め上がったのも“なでしこ”は賢明だね。体はこれだけ忙しくても、頭もちゃんと働いていると安心したよ。
――スローインはオフサイドがないから、相手の一番嫌な、賀川さんの言うペナルティエリアの根っこまでいきやすいわけですね。
賀川:ハーフウェイライン近くで川澄とマルタが奪い合って丸谷ハンドがあった。彼女は自分から下がってボールをもらいに来たり、中盤でボールの競り合いに加わったりするようになった。だいぶイライラしているのだろうと思っていた。
――このFKを宮間が蹴って大儀見がGKの前でヘッドした。すぐ後に川澄のシュートもあった。
◆大儀見のスタートと丁寧なシュート
賀川:流れが日本側へ来始めたかなという時に、左タッチ際で川澄が倒されてFKとなった。ハーフウェイラインより2メートルくらい相手側、左よりの地点でころがってきたボールを澤が手で押さえ、FKをすばやく前へ送った。
ファウル地点はタッチライン際だったから、ボールのプレース地点はだいぶずれていたが、この早いリスタートが効いた。ボールは15メートル前方の大野を過ぎて、前方へ。それを左に開いていた大儀見が追った。
2人のCDFのラインをすり抜けたボールを大儀見が取ったのはペナルティエリアぎりぎり。追うDFとは2メートル以上開いていて全くノーマークで大儀見は右足でシュート。前進してきたGKアンドレイアの右を抜いた。
――スローで見ると澤が蹴るときには大儀見はスタートしていましたね。左タッチ近く、大野よりは後方だったから、オフサイドは全く問題なしだった。
賀川:まさに「あうん」の呼吸だが、澤のFKの位置がファウルされた地点とは少し離れていた。テレビのカメラはそれが気になったのだろう。最初の画面では澤のキックのすぐあとにレフェリーのアップになった。レフェリーは何か叫んでいるようだったが、笛を吹かなかったので、すぐ大儀見がボールを取ったところに切り替わった。おそらく本場のカメラは澤のキック位置からピンと来て、レフェリーをまず映したのだろうね。ボクは相手の意表をついて早くFKを蹴った澤と大儀見の呼吸になでしこの「チームワークのプロ」を見たが、カメラマンもプロだと思ったね。
――そうでしたか。
賀川:レフェリーのヘイキネンさん(フィンランド)はおそらく流れを止めたくないから、プレイオンとかとか何とか言ったのだろうが、杓子定規な人だったら蹴る前に位置が違うというかも知れない。澤の持つ運の強さかもしれませんね。
――大儀見も丁寧なシュートでした。
賀川:この27分のゴールで勝負は大きくなでしこに傾いた。私は今年のブラジル女子チーム闘争心の強いのに感心した。技術の高いこと、体もよく鍛えていること、さすがは王国、女子もどんどんレベルアップすると感じた。ただし、こういう状況になると、彼女たちの「負けん気」は逆にイライラという形になりやすい。
――なでしこの面々はそういう試合中の相手の心理も読めるのですかね。
賀川:彼女たちはその点、百戦錬磨ですよ。
――昨年から技や体力の進化がなくても調子が回復すれば、と言っていたのはそういう総合力あってのことですか
賀川:もっとも第三者の思惑に関係なく、この後もブラジルは同点にしようと強い意欲でプレーする。
――30分にクリスチアネが鮫島へアフタータックルしたのも、その闘志からくるイライラのあらわれですね
賀川:宮間の珍しいファウルで得たFKをマルタが蹴った左足のいいシュートだが、バーを越えた。彼女は右CKをニアに蹴ってゴールラインを割ったこともあった。前半の終了直前には左サイドの深いところでボールを取り、岩清水と向かい合ったが突破しようとせず、クロスを蹴った。おそらく近賀が後方から助勢に来たこともあるのだろうし、岩清水の手強さを知ったこともあるだろう。
――疲れていた?
賀川:そう、それもあったでしょう。1-0となってからのブラジルのクロス、ハイボール攻撃、どれもゴールにならなかった。
――後半、日本も攻め、ブラジルも攻めた。マルタが阪口と競ったところで、足を上げたとしてイエローを出されて、ものすごい形相をした。
賀川:彼女にすれば、足をあげているところへ阪口が頭から突っ込んできたと言いたいのだろうがね。その後の宮間のFKがオーバーした。ゴール正面のFKをマルタがほとんど助走なしで蹴ったが右へ外れた。一番のピンチは62分の左からのライナーのクロスをクリスチアネがヘッドで合わせたシュート。15センチくらいオーバーだった。
――後半このころからしばらくまた守勢一方となった
賀川:ブラジルは全員が攻撃マインドになっていた。
◆カウンターの範 鮫島、大儀見、大野の2点目
――耐えた後にビッグチャンスがきた。
賀川:左タッチ際でボールを取った鮫島が前方の大儀見へパスを送った。大儀見が空中のボールを胸にあて、相手DFと入れ替わるというすばらしい動作で前へ抜けた。大儀見は左足でDFの上を越える長いパスを送った。すばらしい判断とボールだった。
大野がペナルティエリア内の落下点で追いつき、トラップし、中へ切り替えして追走のDFを内にかわし、左足シュートを決めた。これもまた彼女の判断とシュート技術が発揮された見事なシュートだった。
――いくら攻めても点にならないブラジルと、鮫島から始まる2本の長いパスと、大儀見、大野の対敵動作とキックの力がまことに簡単に見えるゴールにつながった。
賀川:ウェールズの首都カーディフに居座って体を休め、いいコンディションで戦うという戦略は成功したが、監督はこの後大野に代えて安藤、さらには大儀見に代えて高瀬を送りこんだ。最後まで緊迫した試合は、監督と選手たちが描いた考えと願い通りの結果となった。
――ラグビーの聖地カーディフのミレニアムスタジアムから今度はサッカーの聖地ウェンブリーですね。
賀川:このスタジアムは昔はカーディフ・アームズ・パークと言い、99年の大改装で新しいミレニアムスタジアムとなったが、1896年に初めてイングランド代表とウェールズ代表の試合が行われたところ。サッカーの歴史でいえば、最も古い「国際試合」の会場でもあるのですよ。その地に女子サッカーの新しく強くなった日本とブラジルが、最高の試合を展開して、3つの世紀にまたがるスタジアムの歴史に新しい1ページを加えたことは、フットボール史のなかに残ることになるはずです。
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U-23日本代表 0-0(0-0)ホンジュラス代表
◆控えに経験を積ませつつグループ1位を確保
――日本は5人を入れ替え、杉本健勇をワントップに宇佐美貴史、大津祐樹、齋藤学を第2列に、ボランチは山口螢と山村和也にした。DFは中央はこれまで通りの吉田麻也と鈴木大輔、右は村松大輔、左は酒井高徳でGKはいつもの権田修一。
賀川:なでしこの第3戦と同じようにすでに準々決勝への進出は決まっている。ここで控えのメンバーにプレーのチャンスを作るというのは定石でしょう。ただしD組の1位で準々決勝に進みたい。それには失点しないことで、中央の守り2人とゴールキーパーはちょっと休ませるわけにはいかない。
――D組2位ならC組1位のブラジルと当たりますからね。
賀川:メンバー構成に監督さんは苦心したことでしょう。チーム全体は強敵相手に2勝して士気が高まっているだろうからね。その空気を壊したくない思いもあるだろうし、。
――前半39分に大ピンチがありました。
賀川:(1)ホンジュラスのMFマルチネスが日本側の10メートルあたり中央右寄りからフワリとロブのボールを送り
(2)ボールはペナルティエリア内に落下してきた。
(3)トップのベントソンが左から斜めに走り込んで鈴木と吉田の間で胸トラップからシュート
(4)ボールは吉田の足のしたを抜けてゴールへ向かった
(5)権田がセーブ
(6)ゴール前に転がるボールにロサノが村松ともつれながら突っ込んできた
(7)権田が飛びついてしっかり抱え込んでピンチを切り抜けた
――ひやりとしました
賀川:シンプルなロビング攻撃だが、走り込むベントソンとの呼吸が合っていた。ひとつにはマルチネスに渡るまでに右サイドから横パスを2本つないで、こちらのDFラインの足を止めたこともあった。その間に誰もプレスに行かなかった。
――まあ前半はうまくゆかなかった。それでも時間とともによくなりましたが
賀川:宇佐美は大会前のメキシコ戦の前半以来だが、体の強い相手に対してやはりうまいと思わせる場面もあった。ホンジュラスの選手はモロッコほど大きくはないが、速くてボール扱いの上手な選手もいる。接触プレーにもふるまずに来るし、ファウルのやり方もなかなかのもの。そういう相手とのボールの奪い合いは宇佐美にはプラスになったはずですよ。もちろん不満なところもあるけれど、彼のキック力を見られたし、よかったと思う。
――後半に入ると日本側の動きがよくなり、相手の運動量が少し少なくなった。清武を杉本に代え、あと10分のところで、齋藤に代えて永井を送り込んだ。監督は点がほしかったのか。それとも2人の呼吸を確かめてみたかったのか。
賀川:短い時間でも試したいことがあったのだろう。永井は途中から入っても自信に満ち、堂々として見えた。清武からの長いパスをもらって左から侵入してシュートして、GKに防がれた。ボールを受けるのもシュートに入る動作もすっかり板についたという感じだった。
――30分以降だけで5本のシュートがあったが、ゴールできなかった。いいシュートもあったのだが。
賀川:シュートに関しては、ちょっと考えてみたいことが歩けれど、別の機会にしましょう。それよりも英国のピッチでU-23もなでしこもパスのボールが弱くて途中で奪われることが多いのが気になる。中盤での横パスやバックパスを取られてピンチを招いたこともあった。芝生のせいもあるが、大事な場面でボールを失うのはピンチのもとだから準々決勝に入る前に改善しなければならないでしょう。
――控えの実戦もあった。レギュラーも少しは休めた。それでグループ1位になったのだから申し分ない展開です。エジプトとの試合はどうでしょう。
賀川:エジプトはアフリカで最も古くからのサッカー国。オリンピックにも1920年のアントワープ大会に初参加している。当時ではヨーロッパ以外からの唯一の参加だった。1回戦でイタリアに1−2で負けている。メダルを取ったことはないが、私には東京オリンピックに出場し、4位になったことがアラブ連合という当時の国名とともに記憶に残っている。
この大会では、Cグループのブラジル戦(2−3)、ニュージーランド戦(1−1)、ベラルーシ戦(3−1)の成績が示す通り得点力のある強チーム。
――日本はまず守備でがんばらないと
賀川:そうなるだろうが、そのためにも前線からの積極守備が大切でしょう。試合を重ねるごとに厚みの増したU-23の総力戦で、まず第1関門を突破するでしょう。
――会場はマンチェスター・ユナイテッドのオールド・トラフォード。香川真司の新しいホームグラウンドというのも不思議な縁ですね。
賀川:そう。マンチェスターの目の肥えたファンの前で、シンジの母国としていい戦いをしてほしい。シンジを高く評価するユナイテッドのファーガソン監督は、彼の技術とともに頭の良さと労を惜しまないことを強調しています。U-23のシンジに負けない躍動でアフリカの古豪をおさえてほしいものです。
次はウェンブリーだからね。
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なでしこジャパン 0-0(0-0)南アフリカ女子代表
◆控えに経験を積ませ主力は休養
――F組の最終試合は引分けでした
賀川:いろいろな話があったがともかく、1勝2分、勝点5、得失点差2でスウェーデンに次いでF組2位になった。
――F組3位は1勝1分1敗のカナダ、4位は南アフリカになりました。日本は2位でよかったのですか
賀川:この試合に控え選手を送って経験を積ませたこと。レギュラー組に休みが取れたこと。そして会場の移動がないことなど、最良の結果と言えるでしょう。
――GKに海堀あゆみ、DFがいつもの近賀、岩清水、熊谷に左は鮫島ではなく、矢野喬子が出場。MFは宮間と田中明日菜、そして高瀬愛美と岩渕真奈。田中と岩渕はすでに出場はしているが、ツートップに安藤梢と丸山桂里奈を持ってきた。丸山は故障後はじめての登場で、安藤は誰もが知っているベテランだが、この大会でスターティングラインナップははじめてだった。
賀川:控えのメンバーに大会の雰囲気やピッチの状態をプレーさせて肌で知ってもらうのは大切なこと。また試合の感覚をつかむためでもある。もちろん監督が実戦の場での彼女たちの調子を把握できたのは大きなことでしょう。
――賀川さんの目には?
賀川:丸山が相手ペナルティエリアのゴールライン付近でうまいターンをを見せた時には会場で歓声があがったでしょう。昨年のドイツ戦の得点者の回復も監督の目にはまずまずと映ったはずです。それぞれのプレーに特徴が出ていたから、彼女たちのファンも安心したのじゃないかな。僅かな時間しか出場のチャンスがなかった安藤が長い時間ピッチに立ったのは彼女のためにもチーム全体にもよかった。
――ノックアウト戦に入って、いよいよ総力戦ですからね。
賀川:これからの試合は、90分で終わらない場合もある。延長もあればPK戦もある。体力を消耗するだけでなくケガやカードのこともあって、18人の総力戦となる。98年ワールドカップで開催国フランスが優勝した時も、1次リーグ2勝で16強への進出が決まった時にフランスは第3戦でがらりとメンバーを替えた。このデンマーク戦にも勝ったがエミール・ジャケ監督は1次リーグ終了時で登録22人のうちGKの控え以外の20人すべてに出場経験を積ませた。
※賀川サッカーライブラリー
フランスが3戦3勝20人が大会の経験積む
◆移動なしで試合できるF組2位の魅力
賀川:優勝チームにはそういう周到さも必要な時代になっている。この第3戦はまた、各グループの順位が決定し、それによって準々決勝の組み合わせが決まる日でもある。
――順位が決まるのは、同じ組のもうひとつの試合の結果にもよりますね。
賀川:そう。監督さんはおそらく、まずF組2位になろうと考えたはずだ。
――というのは
賀川:F組2位は準々決勝(8月3日)でE組2位とカーディフで対戦する。
――同じ試合会場ですね
賀川:F組1位なら遠いグラスゴーまで動く。相手はG組2位でおそらくフランスです。フランスには大会前に手合わせして負けている。私はフランスにも欠点があって、アメリカほど強いとは思わないが、グラスゴーへの移動はずいぶん時間がかかる。それよりも居座った方がはるかに体は休まる。もしここで勝つと次の試合はロンドンで、カーディフからの移動もグラスゴーからよりはずっといい。
――まず会場の問題からですね。E組の順位は同じ日の英国-ふら汁戦で決まる。日本の試合が終わる時にはまだ決まっていない。
賀川:開催国イギリスと当たる場合もあるが、そうした相手のことよりまず自分たちがいいコンディションで試合できる方を優先したのでしょう。Fの2位になると言ってもスウェーデンとカナダの試合の結果はどうなるのか、カナダがもしスウェーデンに勝てば2勝1敗、日本が南アフリカに負ければ3位になってしまう。だから引分けがいいとなる。引分けと思っても何かのはずみで南アフリカのロングシュートが決まったりすることもある。だからそれをいつ決めて、いつ選手に伝えるかが難しいところでした。
――サッカーは何が起こるかわかりませんからね。
◆監督の苦心の判断
賀川:テレビを見ていたら後半5分ぐらいにチームは監督の近くに集まっているとアナウンサーが伝えた。その後ですぐ2-1だったスウェーデン-カナダが2-2となった。試合が再開されると、日本をボールをキープするだけで攻め込まなくなった。佐々木監督が0-0の引分けを指示したのだなと思いました。
――川澄が投入され、阪口が宮間と代わった。それぞれ点を取らないようにという意向を伝えたのだろうと想像しました
賀川:さあ、決定的なことでなく、ニュアンスを伝えたかもね。
――となると前半に得点がなかったのがよかったことになりますね
賀川:まあ、こういう試合の難しさはそこにありますね。監督にとっては本来の勝負でなく、引分けて2位にするという難しいテーマをともかくも成功したのはなかなかの仕事ですよ。
――メキシコ五輪の釜本さんたちの銅メダルも1次リーグは1勝のあと2引分でした。第2戦でブラジルはリードされたのを、準々決勝の相手が開催国のメキシコよりフランスを選んだ。幸いなことにその順位は前日に決まっていた。それでも当日のもうひとつの同じ組のブラジル-ナイジェリアの得点をにらみながら、まず無失点の引分けを考え、後半25分に引分けにしようと長沼監督は決断し、交代に送った湯口を通して「引分けに持ち込む」ことを全員に伝えたのだった。そしてフランスに快勝した後、ずーっとアステカに居座って試合できる条件に恵まれた。
――日本のシュートがポストを叩いて、長沼監督がヒヤリとしたという話も残っています。
賀川:湯口の指示が必ずしも全員に理解できなかったらしい。
――つまり引分け狙いと簡単に言ってもやさしいものではないということ
賀川:メダルへ勝ち上がっていくためにあらゆる条件を考え、最良の道をとるのが監督、コーチの仕事だが、こういう大会では、その時々に苦心するものですよ。
――もちろんテレビで深夜に見る人たちはゴールを奪うシーンを見たいし、その放送を計画した関係者ならなおさら点を取るために賢明にプレーする姿を見せたいでしょう。しかしこれもサッカーのひとつということでしょうか。
賀川:こういうのを面白いと思うか、好きじゃないかと言うかは見る人それぞれでしょうが、こうした監督と選手が自分で描いたプランを足場に次のブラジル戦でいい試合をしてくれることが何よりと思っています。
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U-23日本代表 1-0(0-0)モロッコ代表
◆作戦通り関塚監督とイレブンの勝利
――U-23日本代表、2勝目をもぎとりました。モロッコから。1次リーグは初戦で勝った後の2戦目が大切だということを実行してくれました。
賀川:先日我が家を訪ねてきてくれた後藤健生さんとモロッコ戦の話をした。彼はスペインよりは下だろうし、揺さぶれば弱いと言っていた。私は不勉強でモロッコについてはあまり知らないが、ゴールキーパーにいい選手が出る所だから、もしそうなら日本のシュート力では点を取るのはむずかしくなる、というような会話を交わした。CKはひとつのチャンスであると見ていたが。
――なぜ?
賀川:モロッコはワールドカップの開催地にも立候補するほど、フランスの影響を受けてサッカー熱の高いところだが、人種的にはベルベル人、アラブ人でサハラ以南のいわゆる黒人種とは違う。体格は良いがバネという点では黒人ほどではないからヘディングは日本は取れる可能性ありとみていた。
――だからCKはチャンス
賀川:ヘディングシュートというのは、「頭でのダイレクトシュート」でそれも足のようにスイングは大きくないから、ゴールキーパーにとっては難しいものになる。だからCKはどの国にも大気なチャンスなのですよ。
――そのゴールキーパーのファインプレーで前半の鈴木大輔のヘディングシュートを食い止められた
賀川:ゴールラインからもう少し中へ入っていたら先制だった。まあゴールキーパーを褒めないとね。
◆清武のパスのタイミング
――ゴールキーパーの働きもあり、日本はいい攻めをしながらゴールできなかったが、後半39分に永井謙佑が見事な得点をものにした。
賀川:このゴールは相手ゴールキーパーの自陣からのFKを鈴木がヘディングではじき返し、鈴木~清武~永井のわずか2本の速効で生まれたものです。そのFKもやはり永井が突進して相手DFともつれ彼がファウルを取られたことからなんですよ。
(1)ゴールキーパーのキックが日本側のペナルティエリア15メートルあたりに飛び、それを鈴木がヘディングで前方へ送った。
(2)ボールはセンターサークルに落下し、清武がトラップし、相手ゴールに対して後ろ向きの姿勢から、前方へ浮かせたパスを送った
(3)センターサークル内にいた永井がスタートした。
(4)相手のバックラインは3人、そのうち一人は永井のすぐ後方にいたが
(5)永井は一気に追い抜き
(6)ペナルティエリア数メートル手前でボールに追いついて
(7)飛び出してきたゴールキーパーのすぐ前で右足アウトサイドでバウンドボール蹴った
(8)ボールはゴールキーパーの上を越え、ゴールの3メートル前に落ちてゴールへ。
――永井の速さ、突進力、ボレーのボールにうまくあわせた技が光った。
賀川:鈴木のヘディングがいいパスになって中盤の清武に届いたこと。そしてその後の清武のパスがすばらしかった。
――コースが
賀川:まず後ろ向きでボールを受け、コントロールするとそのままの姿勢で浮かせたスルーパスを相手DFラインの後ろへ出したことですよ。これはスルーパス成功のひとつのパターンで、相手ゴールを背にしているとか、横を向いているというタイミングでボールを蹴り、パスを出すと相手側はタイミングが読みづらい。
――つまり自分たちの読みより、一呼吸早くパスが出てくる
賀川:2006年のワールドカップでオランダがセルビア・モンテネグロと対戦したとき、右タッチぎりぎりにいたファンペルシーが横向きの形のままスルーパスを送って俊足ロッベンを走らせてこの試合唯一のゴールが生まれるのを見た。
――ファンペルシーが
賀川:それまで彼のことはよく知らなかったが、このパスの出し方がとても印象に残っていた。ストライカーとして成長したのだが、彼のシュート感覚にもこの意表を突く左足のタイミングが残っている。
――ロッベンと永井、超高速選手の突進を生み出すパスの出し方がファンペルシーと清武と同じだったと
賀川:清武は周囲がよく見えていて、パスを出すセンスはずば抜けている。私はもう一歩その後前に出て、自分も点を取るようになってほしい。そのことがパスの巧さをさらに高めることになると思っている。
――そういえば、彼のことをあまり褒めませんでした。
賀川:能力からみて、まだまだ伸びるプレーヤーだと思っているからね。それにしてもこのタイミングで永井の走る前にうまく落ちるボールを蹴ったのだからスゴイ選手ですよ、彼は。
――永井もスペイン戦でも再三チャンスがありながら得点できなかたのが、この大事な第2戦でみごとな決勝ゴールをつかんだ。
賀川:ロンドン大会は永井が世に問うチャンスと言ってきた。もちろんもう一歩上に上がるためには、技術的に工夫の必要なところがあるが、なにより自分がムダにも見えるほど走りまわってきたのがムダでないことも体得しただろうし、彼のストライカーとしての能力はいよいよ高まるでしょう。
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