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ロンドンオリンピック 3位決定戦 韓国代表戦

2012/08/15(水)

U-23日本代表 0-2(0-1)韓国代表


――3位決定戦の日韓の対決は韓国のものとなりました。44年ぶりの銅メダルはまたお預けですね。

賀川:惜しい試合で、折角ここまで勝ち上がってきた選手たちにはメダルを取ってもらいたかった。しかし負けは負け。成長期の彼らには次のチャンスもある。

同時にJFA(日本サッカー協会)にとっても、オリンピックという大きなイベントで勝つことの効果がわかっただろうし、成長期にあるU-23代表の強化への力の入れ方を工夫しなければいけないでしょう。

――そのためにも試合を振り返ってみましょう。前半の中ごろには攻勢が続いた時間帯がありましたね。

賀川:韓国ははじめロングボールとドリブルで押し込みながらファウルが多かったが、キャプテンマークを付けたク・ジャチョルが再三ファウルをするのでエキサイトは見せかけで、こちらを挑発しているのかと疑ったくらいですよ。

――まあ気合いがはいっていたのですかね。

賀川:裏にスペースがないだけ、永井の俊足を活かすスペースは少なかったが、彼の瞬間のダッシュや、小回りのきく敏捷さは狭いスペースでも役立つと思うのだが…

――たとえば?

賀川:清武のシュートをGKが防いで、そのボールを右のペナルティエリアの根っこで東が取った。永井がエリア内にいて、近くにDFもいたがパスをしても面白かったように思う。

――東はクロスを中へ送ろうとしてDFの足に当たった。

賀川:CKを取る気だったのか、それとも本当に中に入ってくる誰かに渡すつもりだったのかな。

――CKでは酒井が左ポストぎりぎりに強いボールを叩いたのがあった

賀川:右CKの扇原のボールをファーポスト側でヘディングした分ですね。左ポスト20センチほど外れたのが惜しかった。まあ、そうしたチャンスらしき場面はあったが、結局は得点できないまま時間が過ぎ、日本の左からの攻めを防いだ右DFの オ・ジェソクのロングボールで試合は韓国側に一気に傾いてしまう。

――大津がドリブル突破を仕掛けて倒れた。日本側はファウルだと一瞬動きを止めたが、オ・ジェソクはロングボールを蹴った。

賀川:ハーフウェイライン手前で落下したボールは、高くバウンドして吉田の頭を越え、一人だけ残っていたパク・チュヨンのところへ。
(1)ハーフウェイラインから5メートル日本側へ入った右タッチ近くで、パク・チュヨンはボールを取り、高く上がったボールを走りながらコントロールした。
(2)日本は守りにいるのは鈴木一人。右サイドの酒井も吉田も、MFの山口もバックアップを急ぐ。
(3)パク・チュヨンはまず鈴木に向かい、次いで右へのフェイントをかけ、続いて左へ行くと見せかけた後、右へターン。右足アウトサイドで右のスペースへボールを動かし、右足インステップで強く叩いた。
(4)パク・チュヨンの動きについてゆけず鈴木は左足に体重がかかったままの状態でパクがシュートの構えに入ってゆくのを防げず、追走の山口もバランスを崩してしまった。
(5)パクの右足で叩かれたシュートは、権田の右を抜いてゴールに飛び込む。

――CFがドリブルシュートを決める、古くからあるDFとの1対1の勝負ですね。

賀川:韓国とすれば、攻め込まれていた、あるいは攻めさせていたということになるかもしれないが、日本が前がかりになってDFライン後方に大きなスペースがある時間帯が一番のチャンス。だからDFからロングボールを送り、たまたま日本側のヘディング失敗で1対1の場面が生まれ、それがゴールになった。

――韓国との試合になれば、ロングボールは必ずと言っていいほど相手の戦術にあるわけだから、準備はしていたはずですね。

賀川:ロングボールを含めて、ヘディング対策で吉田というオーバーエイジの適役を加えた。鈴木もヘディングは弱い方ではない。ところがこの場面は、ドリブルでの1対1となった。

――それもあり、と予想していたのでしょう。

賀川:実際にどういうふうにディフェンダーは考え、相手を想定し、準備をしたかでしょうね。

――たとえば?

賀川:パク・チュヨンは右利き。そうすると、右を押さえることが先だろう。左は右に比べてどれくらいできるか、など、まずシュートの型を頭に入れて、そしてドリブルの癖なども、もちろんスピードもそうだが。

――しかしパク・チュヨンは簡単にドリブルし、シュートしたように見えます。

賀川:右利きのシューターはその右のスペースを空けさせるためにシュートの前に左へ行くと見せかけるのが普通です。マラドーナと同時代のアルゼンチンの左利きのシューター、ラモン・ディアスは、まず右へ行き、そして左を空けて左へ持ち出してシュートした。ユースのときも、大人になってもそうだった。パク・チュヨンは自分のいい形でシュートするために左に行って右を空けた。そしてその左へゆくステップの前に少し右へ牽制した。

そういういろいろな手を使うようだが、最後は自分の得意へ持ってくる。もし左足でシュートするなら、たいていは得意の右より振りも遅いし、強さも正確さも違う。効き足でない足でいいシュートをする人も多いが、多くは角度がひとつだから、効き足よりはゴールキーパーには読みやすいはずです。

――ゴールキーパーとの協調、協力が大切

賀川:そう。この場合は、相手は一人だけ、こちらはゴールキーパーを含めて2人いるのだから、冷静に対処して防ぐというのがディフェンスの考え方です。まあ、第三者は理屈はこねるが実際は難しいものだろうかね。

――だけど実例もあると

賀川:いくつでもありますよ。74年ワールドカップの時にベッケンバウアーは1対1でなくて2人を相手にゴールキーパーと協調して防ぎましたよ。

――あの人は別格でしょう

賀川:相手も別格のヨハン・クライフともうひとりはストライカーのヨニー・レップだった。

――それはすごい

賀川:詳しくはいまさら言わないが、ぼくはその場面を何べんも録画で見て頭に入れた。だから、31年後に彼が日本に来た時に話を聞いた。彼もよく覚えていて答えてくれました。一番先に思ったのは、彼の前にドリブルしてくるクライフをスローダウンさせることだったと言っていた。自分がクライフにかわされないよう間合いをとりつつ、クライフがレップにパスを出すように仕向けた。レップがシュートした時には、ゴールキーパーのゼップ・マイヤーが前進守備でシュート角度を消して止めてしまった。

――1人で2人を防いだ。もちろんゴールキーパーと協力して

賀川:まあそんな古い話でなくても、いいDFはそういうプレーを積み重ねていますよ。

――現代のサッカーは前からのディフェンスが大切とコーチはおしえてくれます

賀川:だからと言って、前からの守りで攻撃をいつも防御できるとは限らない。万一ということもある。この大一番で万一が起こったわけですよ。

――まあ選手もコーチも、日本全体でこうした場面の勉強をし、防ぐことが大切ですね。

賀川:やや押し込まれそうだった韓国は、このパク・チュヨンのシュートで一気に勢いが出た。自分たちのやり方に自信を持った。何と言ってもオーバーエイジのパクが点を取ったことは、U-23の選手たちにもすごくプラスになるはずですよ。

――後半は日本のボールポゼッションが増えた

賀川:1-0だから日本は攻勢に出る。韓国はしっかり守ってカウンターということになれば、思うつぼと考えたでしょう。そしてその通りになる。

――ずっと日本が攻勢に出ていた後半12分でした。

賀川:ゴールキーパーのキックをパク・チュヨンがヘッドで後ろへ落とし、ク・ジャチョルが飛び出して、日本DFに競り勝ってシュートを決めた。

――これも日本が攻めて、大津がエリア内まで入ってシュートするときにすべって失敗した直後です。

賀川:彼が地面を叩いて口惜しがっているのがテレビ画面に映っている間に、ゴールキーパーのキックが一気に日本人30メートルに落下し、パクと吉田が競り、ボールはク・ジャチョルの前へ落ちた。彼はゴール正面、ペナルティエリアに入って5メートルのところでシュートした。鈴木は追走し、右足を伸ばしたが、ク・ジャチョルが右足で叩いたボールは、鈴木の右足に当たり、足の下を通ってゴールへ転がり込んだ。権田がセービングで伸ばした右手も防げなかった。

――勝負ありですね

賀川:スペインを前からの攻撃的守備、いわゆる前方からのプレッシングで倒して以来、この一手で戦ってきた。それが無失点につながってきたわけだが、ゴールキーパーや最後列のDFからのロングボールで一気に攻められ、その局面での奪い合いに勝てずにゴールを奪われるという形になってしまった。

――こうなると、U-23代表だけの問題じゃない

賀川:もちろん、ここまで勝ってきたのも監督、コーチ、選手たちの功績だし、この敗戦もまた、このチームの責任ですよ。ただし、この試合のシュートひとつとっても、2ゴールの韓国選手のミートはしっかりインステップで叩いているのに、日本のシュートはほとんどインサイドキックで押している。そういう基本的なことになると、育成期からの問題のようにも見える。

U-23というチームは短時間でのメンバー構成になる。それをここまで作り上げた関塚監督の仕事は立派だが、JFAの技術関係者全体にU-23の強化をどうするのか、もっと工夫することになるでしょう。何といってもオリンピックでの勝負けはサッカーにとっても大事なことですからね。

――その技術の問題の基本的なことは、なでしこの分もあわせて、またの機会にお願いします

賀川:しかしこんな話ができるのも、U-23がここまで試合を戦うまで成長してくれたからなんですよ。選手たちは得るところが大きかったはずで、次のステップへのきっかけになることと思っています。

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