ロンドンオリンピック スウェーデン女子代表戦
なでしこジャパン 0-0(0-0)スウェーデン女子代表
◆技と力 好試合を演じた両チーム
――0-0の引分けでした。
賀川:とても面白い試合だった。パスを組み立てて、守りを崩してシュートにもってゆこうとするなでしこと、そのボールを奪ってドリブルで突進し、ロングボールでゴールに迫るスウェーデンという異なったスタイルの攻撃がめまぐるしく繰り返された。
――サッカーの母国イングランドの人たちの女子サッカーへの興味を高める試合といえますね。
賀川:前半はなでしこのシュートが2本、スウェーデンは4本、後半は日本が8、スウェーデンも8だった。後半の攻防がとりわけ面白かったが、前半の鮫島彩のシュートとヤコブソンのシュートにも互いの特徴が出ていた。
――鮫島は左外から中へドリブルして、右足でシュートして、GKがキャッチした。
賀川:ペナルティエリアの左角から少し内側へ入ったところからのシュートで、この位置からはシューターの定石として(1)右ポスト(遠い方のゴールポスト)の内側を狙うか、(2)ニアポスト側を狙うかの2通りのコースを持つのが定石。彼女はニアを狙った。コントロールされたシュートだったが叩きつける強さに乏しく、GKがキャッチした。
――ヤコブソンは右サイドから内へドリブルして左足で蹴り、ファーポストの外へ外れた。威力があり、場内がどよめいたのがテレビ画面から伝わってきた。
賀川:彼女はペナルティエリア右角の少し内側あたりからの左足シュートだが、ここからなら鮫島の逆で、左ポスト内側いっぱいを狙うコースとニアポスト側に叩きつけるのと2通りあるのだが、ファーポストの方でボールは飛んでいった。
――常識的に左足でフックボール(内側へ曲がる)でなく、アウトサイドにかかって、外へスライスしていった。
賀川:つまり鮫島はコントロールシュートだが球に強さがなく、ヤコブソンは威力のある球だがコントロールされていなかった。
――お得意のシュート理論を展開してほしいところですが
賀川:いや、その技術云々は別として、一方はコントロールする技術を、もう一方には叩きつける力があるとみるところが面白いのですよ。この距離と角度からのシュートがゴールに結びつくためにはどちらももうひとつ工夫がいるということですよ。
――技と力をシュートの場面で見ましたか。スウェーデンには、一人いいシューターがいましたね
賀川:8番をつけたシェリンでしょう。一本、右で蹴ってGK福元美穂の正面へいったのがあったが、いいストライカーですね。日本側の2人のCDF岩清水梓と熊谷紗希が彼女をシュート1本におさえたのがこの試合でのポイントのひとつだった。
――そう、こちらのミスを奪って出てくるときのスウェーデン側の勢いはすごかったが、そういうピンチにもなでしこのディフェンスすばらしかった。
賀川:シュートコースへ入って体で止めたのもあり、シュートチャンスにタックルに入ってつぶしたり、本当にいい守りでしたよ。
◆澤のコンディションは
――大儀見に後半2本のシュートチャンスがあった。
賀川:後半15分から10分ばかりの間にチャンスが続いた。左サイドの川澄奈穂美~大野忍、そしてエリア左根っこからの「もどしのクロス」が澤穂希に渡ったのはすばらしかった。澤は左足ダイレクトで蹴ったが、蹴ったというより足に当たったという感じだった。
――パスのボールの問題
賀川:調子のいい時の澤ならなんとかできたはずだが…第1戦である程度はできた。そのコンディションが維持できているかです。
――本番の第1戦に出場するまで、大変だったからそこでぐっと疲れが出たのかも
賀川:まあ、監督、コーチ、トレーナーの優秀な人がそろっているから、なんとかいいコンディションに持っていってほしいね。
――彼女に代わって田中明日菜、大野に代わって岩渕真奈が登場しました。
賀川:田中が入って中盤での運動量が上がってから攻勢が続いたでしょう。
――左サイドだけでなく、右サイドからも攻めましたね。
賀川:近賀ゆかりは斜め前に送るクロスのタイミングと、コースを掴んできている。大儀見にはいいパートナーになりそうだ。
――テレビで宮間あやのプレーにブツブツ言っていましたね。
賀川:チームを仕切っている感じはいいが、ちょっと一発でのキラーパスにこだわっている感もある。彼女にとってもこの大会は、もう一段のステップアップの大切な試合が続きますよ。
◆ボールが走らない芝への工夫
――チーム全体に芝の影響があるのでは
賀川:さきほどの近賀のパスなどは、ちょっとスピードが鈍っているように見える
――全体になでしこのパスが弱くてカットされることが多かった。
賀川:まあサイドキックのせいもあるが、近賀の場合、遠い距離からのクロスやパスでなく、もう少しパスの起点を近づけて(内側にする)ことも考えるべきでしょう。
なでしこの選手たちは経験が豊富で適応力があるはずだから、この程度の芝の滑りの違いをハンデだと思わない方がいい。それよりも大儀見に少しボールが集まって左右に広く散らすという感覚が薄れている気がします。
――ともかく1勝1分で勝点4をとった。準々決勝へ出られる見込みがついたのだから。それにしてもF組何位でゆくかとか、この試合は勝った方がいいのか引き分けた方がいいのか、という話が試合直前に監督の話としてメディアに載ったのは驚きでしたね。
賀川:準々決勝ではF組の順位によってフランスのような強い相手と当たることも考えられる。次の組合せを監督やコーチがいろいろ考えるのは当然ののことですよ。選手はどの試合も勝ちたいのは当然だが、コーチはいかに有利に勝ち上がるか、試合会場の場所や相手との相性を考えるものですよ。ただしそれは監督、コーチの胸のなかの話だけのこと。
――それがメディアやインターネットに出て選手はそこで驚かされた。
賀川:それが今様(いまよう)ですね。まあ、メディア側が監督の胸の内を探ろうといろいろ仕掛けるからね。
――1968年の釜本邦茂、杉山隆一たちのメキシコ五輪銅メダルチームにも1次リーグで引き分ける作戦がありましたね。
賀川:第1戦を勝ち、第2戦に強敵ブラジルに先制されたのを追いついて引分けにして、1勝1分。第3戦は強いスペインだった。これに勝てばこの組の1位で準々決勝は開催国メキシコと当たる。2位になれば、フランスと対戦する。長沼健、岡野俊一郎の監督・コーチはフランスの方がやりやすいと見た。しかしスペインに負けると、もうひとつのブラジル対ナイジェリアの試合結果次第で三すくみになることもある。
――だから第3戦の試合の進んでいる途中で決断した
賀川:引分けを狙っても負けては困るところに、この時の難しさがあった。
――結局、引き分けて狙い通り2位となり、準々決勝でフランスに勝ってベスト4へ進みました。
賀川:この試合中のな監督の指示や選手の反応にはとても面白いエピソードがある。ここでは長くなるので、ちょうどサッカーマガジンで連載中の「日本とサッカー90年」がこの時期に来ているので、そこを読んでもらうことにしましょう。
――まあこの時は直前まで監督の心の中はメディアに出なかった。
賀川:なでしこは団結して取り組める明るさと大らかさがある。まあ、どんな相手にも勝ちにいくという選手の気迫が大切で、勝つためにはどのプレーが必要かという技術的な積み上げをチーム全体でしてほしいね。
オリンピックの本番でひとつひとつ勝ってゆく難しさはすでに見えている。なでしこもU-23も期待が大きいだけに大変だが、今の気迫を続けてほしいね。
固定リンク | オリンピック | コメント (0) | トラックバック (0)
コメント