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ロンドンオリンピック カナダ女子代表戦

2012/07/27(金)

――なでしこが初戦に勝ちました。2-1です。

賀川:欲を言えばもう1点くらい欲しいところだが、グループリーグの第1戦で勝ち点3を取ったのだから、まずは申し分ないといえるでしょう。

――アメリカとフランスとの前哨戦の完敗で心配する人もいましたが、この試合で懸念は消えましたか

賀川:まだまだ不満はあるでしょう。それは選手自身もよくわかっています。ただ澤穂希が彼女らしいプレーを取り戻しはじめていたのが、本番に入ってやっぱり澤だというプレーを見せましたからね。

――何といっても、昨年のワールドカップ最優秀選手、FIFAでメッシと並んで2011年の賞も受けた人ですからね。1点目も彼女のパスから生まれたものでした。

賀川:パスの経路としては、極めてシンプルなもので、
(1)左タッチのスローインを澤が投げ
(2)受けた大野忍が澤へリターンし
(3)それをもう一度澤が“走る”大野の前へ落とし
(4)大野がエリア内の深いところでキープ
(5)左外から走り込んできた川澄奈穂美にソールをを使ったパスわ渡す
(6)そのボールを川澄が右足アウトサイドを使ったトラッピングで止めて、シュート角度を少し広くして
(7)ゴールキーパーの右側(川澄から見て)ファーサイドのネットで高いシュートを決めた

――シュートにかかる川澄のプレーがすばらしかった

賀川:大野のソールパスを受ける時にはシュートだと決めていたのでしょう。トラッピングからシュートへかかる動作が速くて美しかったね。まあ彼女の力からすれば、当たり前みたいなプレーだろうが…

――パスのコースがシンプルだったと

賀川:澤が投げて、そのリターンをもらって、また前へ送る。澤から最初にボールをもらった大野が澤にもどして、自分はすぐ前へ走りだす。言ってみれば、ワンツーパス、サッカーで言えば1930年代あるいは20年代の旧制神戸一中がやっていたパスの基本中の基本。最初にパスを受けた大野がリターンパスを出して、すぐ走り出すのも何十年前からのパターンですよ。ただしその極めてシンプルなボールと人の動きのなかに、やはり女子の世界最高にあるなでしこらしい技が入っていた。

――澤さんのフワリと浮かせたパスですね。

賀川:大野の走るコースをマークしていた9番のライトと競りながらスワーブして目的地へ向かっていた。相手のDFも2人いたから、グラウンダーのパスより浮かせた方が取られないと澤は判断したのでしょう。そしてまた、グラウンダーよりもフワリパスの方が到達するのに少し時間がかかるから、大野には受けやすいとの配慮もあったはず。

――そのあたりが同じシンプルなパスでも丁寧さがある。

賀川:そう。大野がゴールを受けた時には川澄がペナルティエリアとゴールライン際、私の表現では「エリアの左根っこ」だが、そこへ走り込もうとしていた。

――相手の守りの一番痛いところですね。

賀川:これも1930年代からの日本サッカーの定石なんだが、その川澄のh知り込みにあわせて、大野はマーク相手を背にしてボールをコントロールし、ソールで自分の身体の後方へボールを動かした

――完全に相手の意表をつきました

賀川:バルサでイニエスタがいろんな形でパスコースを変えるでしょう。それと同じ効果、いや今回の相手にはそれ以上の効果があった。

――ふーむ

賀川:DFのライトは大野をマークし、ボールを受ける所からずーっとついていて、少し遅れ気味に走っていた。だから大野が弾むボールをゆっくりコントロールしている間も、その後方にいて監視するだけで、川澄が走るのは視野に入っていなかったのじゃないか。

――他の選手だったら

賀川:うーん、大野と川澄の両方を視野に入れる位置のDFもいたのだが、マンマークで最後までついていった彼女には難しい仕事でしょう。もちろん大野のスタートダッシュとその後のスピードで彼女が遅れ気味だったこともあるが…

――澤、大野のいわばシンプルなワンツーパスが高度なテクニックや意表をつくアイデアを織り交ぜて、第3のプレーヤー川澄にわたったということですね。

賀川:オリンピックの歴史に残るゴール場面の一つでしょう。実際にプレーに絡んだのは3人だけだが、その前に左から攻め、防がれて右へ展開し、右の近賀から大儀見を経て、また左へ移り、その左側のキープが相手の強いスライディングタックルでタッチラインを割り、澤のスローインとなった。こうした全体の大きな流れ(主として横のボール回し)からサイドをタテに崩す動きに移るという展開全体も、この攻略の伏線としてよかったといえます。

――なるほど、シンプルだが高度な技と読みをともなうパスワークとシュートの1点。それも大きな展開の後のタテへの崩しというわけですね。

賀川:オリンピックというのは20いくつの競技があって、多くはその競技の最高を争うものになる。多くは個人競技だがね。

――そのひとりひとりの努力や工夫のあとをメディアが報道していて、それもスポーツ発展をあらわすものといえる。

賀川:そういうトップクラスの他のスポーツと比べても、サッカーという競技が世界で最も盛んなスポーツであり、しかもチームゲームであるだけに、個々の走力や技術も非常に高く、またその連係プレーを成功させるための瞬間の判断には、人間の持つ頭脳という高度な機能を働かせることになります。そこにその競技の面白さがあるのですよ。いままで日本のスポーツ界で、今年ほどオリンピックのなかでサッカーに関心を集めている時期はないでしょう。サッカー好きの皆さんもこのサッカー特有の楽しみを多くのオリンピックファンの友人に伝えてほしいと思っています。

――その個人の力アップという点で、これまでのところ賀川さんはちょっと不満のようですね

賀川:何度もこの欄で申し上げ、また雑誌などにも書いているように、昨年の大仕事(ワールドカップ優勝)の後、身体能力や技術の面で個人的に特に目立つという選手が少なかった。それでも私は昨年につかんだ自信はとても大きいと思っています。

――大儀見優季の進化をほめていましたね

賀川:ドイツでプレーを続ける大儀見は得点能力の上に、強い体を活かしてのポストプレー、ボールを受け、チームの攻撃の起点をつくるプレーが上手になった。男子フル代表の本田圭佑とタイプは違うが、同じように重要な役割です。この競技では攻撃メンバーのなかに彼女(彼)のところにボールがゆけば、相手には奪われないというプレーヤーがいるかいないのかで全く違ってきます。

――カナダ戦でも目立っていましたね

賀川:ボールを受け、キープし味方に渡す、という目立たないが、重要な仕事をし続けていた。シュートチャンスに点を取れなかったのは本人も口惜しいだろうが、この試合の2点目も私には彼女の存在が大きかったと思っています。

――左の鮫島のロングボールを相手DFとGKが防ごうとしたが、ボールを取れずに宮間あやがヘディングしてゴールを決めた。

賀川:鮫島からの高いクロスが飛んできたとき、ゴール前に大儀見がいた。彼女にそのヘディングを度々取られている相手DFは、大儀見のところへ3人も集まった。彼女への恐怖からでしょう。その3人だけでなくGKも飛び出してきて参加した。手を使えて有利なはずのGKは仲間の3人が邪魔になってボールに届かず、その背後にボールが落ちた。そこに宮間がいた。

――宮間は鮫島のキックを見て落下点へ入っていた?

賀川:大儀見の動きにつられて3人のDFとGKが同じ所でジャンプした。スローを見ると大儀見はボールが落下してくるときには人ごみから抜け出している。ここでは取れないと判断していたのだろうね。その彼女につられたのがカナダには災難。宮間と日本にはしてやったりのゴールですよ。

――一人のプレーヤーの進歩はチームにとっての大きな戦力アップといつも言っているとおりですね。

賀川:1968年メキシコ・オリンピックの銅メダルの時には釜本邦茂という大会得点王のストライカーがいたが、彼もその年の冬から一段上のプレーヤーになったのだからね。

――それでチームは銅メダル。

賀川:だから今回の大会前に選手の個々の能力が少しでも伸びれば日本を目標として進歩の速い各国に対しても優位を保てると踏んでいた。

――それが必ずしもそうではなかった

賀川:カナダのレベルアップ、川澄が左サイドで相手のDFを一人で一度もドリブルで抜き切れなかったところにもあらわれている。失点の場面も、ここの左サイドで続けて2度パスを奪われ、その後のボールを奪い返そうとして結局とられて、ここからの相手の右サイドによる速いクロスにしてやられた。

――コンディションの問題も

賀川:細かくみていくと不満もあるし、やっぱりなぁーと思うこともある。得意のパス攻撃と言ってもペナルティエリアの根っこへ攻め込んだのは2回だけだった。

――カナダより一段上のチームには苦しいと

賀川:いやいや、何といっても澤が調子を取り戻したのが大きい。まあ6試合持つかどうかは神に祈るとしてもね。チーム全体にもよくなっているところもある。そしてまず勝ち点3を取ったことで、気持ちに余裕が出るだろうから、彼女たちの本来のものが姿を現すだろうと思っている。

――そうなると、しめたものですが…コベントリーのスタジアムにも日本のサポーターが多かった

賀川:コベントリーは工業都市でね、第2次大戦でドイツ空軍の爆撃を受けて、壊滅的な打撃を受けたことがある。大戦中、コベントリーを破壊に結び付けてコベンタライズという言葉が生まれたほどですよ。

――その破壊された街のすばらしいスタジアムでの試合でした。

賀川:この街のクラブ「コベントリー・シティ」はマンチェスター・ユナイテッドのようなビッグクラブではないが、100年以上の伝統があり、日本代表もここで試合したことがある。

――1978年でしたか

賀川:釜本が代表から退き、永井良和、細谷一郎たちがFWにいた。そうそう、いまNHKでいつもいい解説をしてくれる山本昌邦さんがまだ若くて国士舘大学の学生だったときに、この遠征に参加していますよ。

――ゆかりの街でのなでしこのロンドン五輪初勝利、まずここを足場にメダルへの道を進んでもらいましょう。

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