« 2012年2月 | トップページ | 2012年7月 »

2012年6月

バルサ流スペイン vs ロナウド・ナニの個性派ポルトガル、技術を高めた北方巨人のドイツ vs 老獪イタリア

2012/06/27(水)

――EURO2012もあっという間にベスト4まで来ました。準々決勝でポルトガルがチェコを1-0、スペインがフランスを2-0、ドイツがギリシャを4-2、イタリアがイングランドを0-0(PK戦4-2)で退けて準決勝へ進んだ。ほぼ予想通りですかね?

賀川:ベスト4の各チームの登録選手を見て、納得されるサッカーファンは多いでしょう。

――スペインがやはり?

賀川:まあ、いま世界のトップのチームだと自他ともに認めているバルセロナからリオネル・メッシ(アルゼンチン)」が抜けているだけという感じでしょう。23人の登録メンバー19人がリーガ・エスパニョーラ、つまりスペインリーグで4人がプレミアリーグ(イングランド)に所属している。

――そうですね。バルサからFWのペドロ、MFのシャビ、イニエスタ、セスク・ファブレガス、セルヒオ・ブスケス、DFのピケ、GKのバルデスの合計7人が参加しています。

賀川:GKはレギュラーで出ているのはレアル・マドリードのカシージャスで彼とともにレアルからMFのシャビ・アロンソとDFのセルヒオ・ラモス、ラウル・アルビオル、ジョルディ・アルバの4人がいて、合計5人がレアル勢、これにリバプールのGKレイナやマンチェスター・シティのフェルナンド・トーレスが加わっている。2008年スイス・オーストリア大会で優勝した時のスペイン代表はバルサが3人、レアルはカシージャスとセルヒオ・ラモスの2人だけだった。

――バルサがスペインサッカーの主流であることを示しています。

賀川:バルサの考え方がスペインに浸透し、選手たちにも影響して、この大会でも選手たちはまるで何年間も同じチームでやってきたようにバルササッカーになっているでしょう。

――得点数はメッシがいない影響ですかね

賀川:個人のキープ力と短いパスのつなぎで圧倒的なボール保有率のスペインの得点が少ないのはひとつには無理やりに攻め込んでシュートまでゆこうとしないこと。アイルランドから4点取ったが、これはまあ力の差、スタイルの違いがゴールにあらわれたものでしょう。なんといっても、ボールをキープ(ポゼッション)する時間帯は相手に攻められないから安全なんですよ。まずその安全の上にたって相手の守りの隙間をつくり広げて、シュートを決めるやり方のようですね。

――バルサ、スペイン流をもっと聞きたいが、他のチームについても話してください。ポルトガルは?

賀川:スペインはスペインリーグの選手が主力。ドイツもブンデスリーガ、がほとんど。イタリアもそうです。しかしポルトガルは自国リーグは8人、スペインリーグが7人のほかにイタリア3人、トルコ2人、イングランド2人、ロシア1人となっています。いわばポルトガル、スペインリーグの選手を主力に合計6カ国のリーグ連合軍ですが、それだけに個性的な質の高い選手が揃っています。

――クリスチャーノ・ロナウドという最高のFWがいます。マンチェスター・ユナイテッドのナニというすごいサイド攻撃のタレントもいる。レアルの3人を含んでいるスペインリーグの7人はバルサ流についてもよく知っているわけですね。

賀川:私は今年のスペインリーグでバルサを倒して優勝したレアル・マドリードの選手たちが久しぶりの大仕事の後で、どれくらい回復するか、いささか心配もしていた。大会の途中からのロナウドの働きを見るとよくなってきているように見えるので、彼を切り札にするポルトガルのスペインへの挑戦はとても面白いでしょう。

――レアルといえば、バルサ戦で貢献したエジルがドイツ代表にいます。

賀川:そのエジルが復調してくればドイツもまたスペインに対していい戦いを仕掛けられるでしょう。

――その前にイタリアとの試合があります。

賀川:ドイツ対イタリアを久々に大舞台で見られるのはサッカーファンにはとてもうれしいことですよ。1970年のワールドカップ準決勝で、若かりしベッケンバウアーたちをファケッティたちのイタリアとの死闘を思い出します。このときはイタリアが勝ち、2006年のワールドカップ準決勝でもイタリアがドイツを2-0で破った。イタリアはこの大会で190センチの長身を3人メンバーに入れるというこれまでにないやり方で成功しチャンピオンとなった。ピルロの活躍はまだ目に残っていますよ。

――そのピルロが今度もイタリアの中心です。

賀川:ベスト4に残った4チームのうち、3チームはピレネー山脈の西南、アルプス山脈の南、つまりヨーロッパの南側の国々で、北側の国はドイツだけです。一般的に北方東北のヨーロッパはゲルマン系、スラブ系で体格は立派です。これまでのユーゴスラビアは別としてボールテクニックよりもスピードを活かそうとする傾向が強かった。その中でドイツとオランダが技術力アップに力を入れ、今度のドイツもスペインほどでなくても、ボールを止める、蹴るの技術は高くなっていて、このイタリア戦でその技術と体力をどのように活かすか楽しみですよ。

――イタリアはイングランドにPK戦で勝ちました。

賀川:イングランドはこの大会でもよくはなかった。プレミアリーグが外国人選手を多く抱えていいチームをつくり出しているが、イングランドの選手の育ちが遅いようです。イタリアにはバロテッリという、これまでほとんどいなかったアフリカ系のFWがいるでしょう。彼の独特のスタイルがドイツを悩ませるのかどうかという個人への興味もあります。シュバインスタイガーの負傷のうわさもきにかかりますが。

――ごひいきのウェイン・ルーニーは1点どまりでした。

賀川:攻撃の組み立てという点ではイングランドはもうひといきだった。それとイタリアの老獪さにてこずったかな。ルーニーのヘディングのチャンスにイタリアの選手はホールディングしておいてジャンプするという時に手を離す。つかんでいるとPKだからね。しかし、その瞬間までのホールディングはルーニーのヘディングにも影響していたようにみえる。そういう際どいイタリアの個々の駆け引きは今度もドイツ側を悩ますかも知れない。

――それもこのクラスのサッカーのひとつですね。

賀川:そうそう。イタリアとイングランドのPK戦だが、どちらもPKはもともと強くはないし、大舞台でも負けている。

――イングランドは特にそうです。

賀川:今度は、そのイングランドがリードした。それを3人目のピルロがゴールキーパーの動きを見て「フワリ」ボールで決めた。このフワリはイタリアを落ち着かせるためだったのかもしれないが、ここから流れが変わって、イングランドに失敗が出てしまう。古代ローマ帝国以来、権謀術数の伝統かもしれない。

――ヨーロッパのサッカーを見る面白味ですね。

固定リンク | ヨーロッパ選手権 | コメント (0) | トラックバック (0)


ドイツサッカーの力と精密 バルサ・スペイン流とは別の流儀の進化

2012/06/21(木)

――Bグループでドイツとポルトガルが1、2位となり、オランダとデンマークが敗退しました。強豪が集まり「死のグループ」などと言われたが、オランダは残念ですよ。

賀川:2010年ワールドカップの準優勝国ですからね。デンマークとの初戦を0-1で失ったのが痛い。こういう短期決戦では初戦が重要ですからね。

――ファンペルシーもロッベンも、スナイデルもいたのに、そのオランダを第2戦で破ったドイツはいいようですね。

賀川:そのオランダを相手に2ゴールを奪ったのがゴメス。189センチの長身ストライカーで、彼は対ポルトガルでも右からのクロスにあわせてヘディングを決めた。

――右からの攻めで、ボールが外へ動き、エジルがクロスを送ったのがDFにあたってボールが伸びてCDFペペの背後を狙っていたゴメスの上に来た。

賀川:ゴールエリアの外からだったが、ゴメスのヘディングシュートは右上隅へ飛んで、GKは防げなかった。右から攻め込んでから相手の抵抗にあって、いったん後ろの内側へ戻し、シュバインスタイガーがボールを取った。彼はひと呼吸置いて右外のエジルに渡し、エジルがダイレクトで強いクロスを送った。ゴメスという長身のストライカーに合わせることは当然ポルトガルのDFたちも読んでいたはずだが、ボールがDFの体に触れてちょっと高さが変わってゴメスのところへ飛んだ。

--エジルがダイレクトで蹴ったのがポイント?

賀川:それも強い球をね。クロスを防ぐには、そのキッカーに近いDFがコースに入ること、そして落下点で相手にヘディングさせないことだが、エジルが止めないで蹴ったためにコースに体を持ってゆく間もなくボールが来て体をかすめ、ボールのコースが変わったようにみえた。

--ポルトガルはついてなかった

賀川:クロスがはコースとともにキックのタイミングも大切ということでしょう。86年のワールドカップのフランス対ブラジルで右からのフランスのクロスがブラジルのCDFの体に当たって方向が変わってゴール前に流れ、プラティニが決めたゴールがあった。

--ああ、ブラジルがPKで負けた試合、ジーコもソクラテスもいた。

賀川:次のオランダ戦の2ゴールもパスのタイミングということで、ドイツの連係プレーのうまさに感心した。

--というと。

賀川:2ゴールとも右サイドから攻め込み、シュバインスタイガーがペナルティエリアの10〜15メートルあたりからエリアいっぱい、ゴメスにパスを送った。
(1)右タッチ際からミューラーが中へドリブルして
(2)ゴール正面25メートルあたりにいたシュバインスタイガーにパスを送り自分はそのまま中へ走り込む
(3)シュバインスタイガーの前方はゴールまで広く開いていた。彼はノーマークでボールを止め、右足のインサイドキックで自分の右斜め前方にいるゴメスにパスした
(4)DFの2人の間、ペナルティエリアいっぱいでボールを受けてゴメスは反転して右足でシュートした。
(5)オランダ側のDFはオフサイドトラップをかけそこなったのか、シュバインスタイガーのシュートと感じたのか…

--ゴメスはノーマークでシュートしましたね

賀川:名前のとおり、スペイン人の父とドイツ人の母との間に生まれたこのCFはバイエルンミュンヘンでは得点を重ねているが、代表ではもう一つのびないと言われていた。ベテランのクローゼと比較されるからね。彼はこれで自信をつけただろう。仲間の信頼も深まっただろう。

--シュバインスタイガーとは同じチームですね。

賀川:この日の先発の7人がバイエルンミュンヘンですよ。2点目は右サイドにゴールキーパーからロングボールが飛んで、ミュラーが競り合い前方へ落ちたのをゴメスがタッチ近くで拾ったところからです。
(1)ボール落下点で相手を背にしてボールを止めたゴメスは
(2)タッチライン際、後方にいるエジルにバックパスした
(3)エジルがボールを後方へ動かす間に
(4)ゴメスは内へ走り込み、マーク相手を置き去りにする
(5)エジルが左足で内側15メートル(ゴールラインから25メートル)にいるシュバインスタイガーにパスを送った
(6)シュバインスタイガーは今度はダイレクトでゴメスの前へパスを流し込む
(7)ゴメスは内側からつめてくるヴィレムスより早く右足でシュートをファーポストいっぱいに決めた。

--シュバインスタイガーのダイレクトのサイドキックの正確さですか

賀川:2ゴールともシュバインスタイガーのラストパスだが、この2本のパスを出す時の局面をスロービデオで見るとパスの丁寧なのが見えますよ。頑丈な体で動きの量もすごい。いわばがんばるドイツの代表格のタイプに見えるこの選手のこういう時のプレーやポジションどりの巧みさを見ると、ドイツサッカーのもうひとつの精密さ、技術を大切にするところが見えてきます。

--その意味、今年のドイツは期待できる。

賀川:ドイツ人の特徴である大きさ(190センチ級がチームの半数)とともに、バルサ、スペイン流と違ったサッカーを追求するドイツのこの後が楽しみです。もちろんスペインもイタリアも、そしてクリスチャーノ・ロナウドが調子を取り戻してくれるだろうし、イングランドはルーニーが戻ってくる…と考えれば、ますます楽しいですね、EURO2012は。

固定リンク | ヨーロッパ選手権 | コメント (0) | トラックバック (0)


EURO2012は面白い

2012/06/18(月)

――6月8日からはじまったEURO2012、テレビ観戦はいかがですか?

賀川:WOWOWのおかげでヨーロッパ選手権の全試合を見られるのだから、ありがたいし、楽しいね。

――1980年のイタリア集結大会から現地取材をしたのは日本では賀川さんだけでしょう?

賀川:30年前は雑誌社の人だけで新聞社の記者は日本から行っていなかったね。フリーのカメラマンたちの方が、数が多くて私は彼らのバイタリティに感心したものですよ。

――今度はポーランドとウクライナの二カ国開催ですね

賀川:1960年にはじまり、1976年までは準決勝に残った4チームがひとつの国に集まってファイナルトーナメントをしていた。80年からそれが8チームによる大会となり、84年フランス大会、88年西ドイツ大会、92年のスウェーデン大会の後、96年イングランド大会から16チームになった。

――ワールドカップの参加国が増えたように拡大していきました。

賀川:規模が大きくなって2カ国開催も増えた。2000年大会はベルギーとオランダ両国で2008年はスイスとオーストリアで。

――2004年はポルトガルでした。

賀川:ギリシャが優勝という大番狂わせだった。決勝で開催国のポルトガルが敗れ、ここの代表を長く支えてきたフィーゴが、デコが涙を飲んだ。若いクリスチャーノ・ロナウドは高い評価を受けた。

――2008年では、細かくつないでエリア内に攻め込むバルサ流のスペイン代表が優勝し、2010年のワールドカップにも勝って、バルサ・スペインのスタイルが世界中を魅きつけました。

賀川:ヨーロッパではチャンピオンズリーグというクラブによるタイトル争いがある。昔はチャンピオンズカップと言ったが、仕組みを変えてビッグクラブ、強豪クラブの参加が増えて、毎年人気を集めている。選手は国籍に関係なく選ばれる。ブラジル、アルゼンチンなどの南米選手、アフリカのプレーヤーも加わって来て、ハイレベルのチームの上位争いは毎年世界の注目を集めている。

――それでも4年に1回の国の代表の試合も人気がありますね。

賀川:何といっても国という単位でのスポーツの試合は、いまのエンターテインメントのなかでの最高のもののひとつですよ。特にヨーロッパのように国や民族の交流に長い歴史のあるところでは、その歴史的背景も加わって、互いに勝ちたいと思うからね。

――だから各国が大会を招致しようとする。

賀川:ポーランドやウクライナは、西欧からみれば、かつての東欧社会主義の国で、ソ連の崩壊で社会の情勢も変わった。UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)は90年代後半からそういう東欧諸国のサッカーに援助もし、発展を助けてきたのですよ。

――いま、欧州全体が苦しんでいますからね

賀川:そういう危機意識のなかで大会が行われ、多くの人が熱狂するのが面白いところですよ。ギリシャにしても何が起こるかもしれないという情勢のなかで、ギリシャ代表チームがこの大会に出場し、A組の第3戦で大国ロシアを倒して8強入りしたのですからね。

固定リンク | ヨーロッパ選手権 | コメント (0) | トラックバック (0)


2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選 オーストラリア代表戦 下

2012/06/16(土)

――レフェリーはひどかったと思いませんか。

賀川:不満を言っているのは日本だけでなく、オーストラリア側も同じでしょう。しかし、はじめに言ったとおり、主審の最低は最終のものです。その裁定について両チームとも異議を申し立てることはできないが、この主審についてはAFC(アジアサッカー連盟)やFIFA(国際サッカー連盟)の審判委員会が注目するでしょう。その問題については、そちらに任せることにして、一般論で行けばホームチームに1人退場という処分をすれば、その相手側に少し厳しくなって不思議はないというのも一般論になりますよ。

――埋め合わせをする、と?

賀川:そこまでは言わないがね…私が見た試合では、74年ワールドカップ決勝、西ドイツ対オランダ(2-1)でクライフを倒したドイツ側のファウルにためらうことなくPKを与えたテイラー主審がその後、今度は西ドイツのヘルツェンバインがエリア内で倒されたとしてPKを与え、1-1となったのだが、ヘルツェンバインは自ら相手の足にひっかかって倒れたというのが多くの見方だった。テイラーさんを引き合いに出すのは気の毒のようにも思えるが、そうしたこともありうるのがサッカーですよ。

――だからヨーロッパの監督はよく「サッカーではどんなことも起こりえる」と言いますね。

賀川:ミリガン選手の退場処分が前半だったから、ハーフタイムにザックさんは主審の判定がこちらに厳しくなるかも知れないから、エリア内での競り合いにはファウルと疑われるプレーをしないようにと注意したかもね。

――アウェーでレフェリーの判定など、いろいろあったが、まずは1-1の引分けはよかったということでしょうか?

賀川:日本の方が明らかに進化したサッカーを演じたこと、その進化があってもブリスベンでは相手のパワーサッカーを制圧できなかったことは確かだが、もう少し上達をすれば、こういう相手とのアウェーにも勝ちえるようになると思いますよ。

――そのためには?

賀川:今度も守りもよくがんばった。いいディフェンダーが育っていることも見せてくれた。しかし日本の場合、こういう体力勝負で技術もある相手には1点取られてもと、覚悟しておくべきでしょう。その失点を上回る得点力をつけること。2点目を取ることですよ。

――それにはシュート力向上ですね。

賀川:ヨーロッパでも特典は少なくなっているという人もいるが、日本はもっとシュート技術を磨き、シュートレンジで冷静にその技術を発揮する練習をするべきでしょう。チャンスを生む力はどんどん上がっているのだから、それを決める力を増すことでしょう。

日本サッカー全体の進化の先頭に立つ代表チームが、これまえの積み重ねの上に得点力を積み上げて、各層の選手に大きな刺激を与えてほしいものです。もちろん予選を突破し、本番でもいいプレーをしてほしいと誰もが願っているでしょう。まずは皆さんと6月シリーズはおめでとうと喜びあい、次の試合に期待しましょう。

固定リンク | 日本代表 | コメント (0) | トラックバック (0)


2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選 オーストラリア代表戦 上

2012/06/15(金)

2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選
日本代表 1-1(0-0) オーストラリア代表

◆アウェーでの1-1 いろいろな条件のもとでの勝ち点1は成功

――オマーン戦、ヨルダン戦とは全く違った相手との試合で、オーストラリアに退場者が出て有利になったと思うとPKをとられ、試合が終わるころにはどちらも10人になった。テレビ観戦も疲れましたね。

賀川:試合前のセレモニーを画面で見ながらたくさんの観衆がSOCCERROO(サッカールー)の文字の入ったマフラーを掲げて声援しているのを見 ながら、オーストラリアにもサッカーが根付いているのだなあ、などと感慨もあったがキックオフ直後からの彼らのロングボール攻撃と激しいプレッシングで見 る方も戦闘ムードになってしまった。

――凸凹のピッチやアウェーの雰囲気だけでなく、レフェリーの判断が試合の流れに大きく影響したのもこれまでとは違っていました。

賀川:レフェリーに関してはこの競技ではその裁定が最終のものとなっていて、両チームともそれぞれ不満・不服はあっても、それに従った。当然と言い ながら、まずはよかったと思う。現地で取材したベテラン記者の大住良之さんの話では、主審はずいぶん太っているように見えたそうです。経験のあるレフェ リーだが、運動量や速さがこれまでと違ったかも。

――ふーむ。ビデオで調べてみようかな。それにしてもオーストラリアは徹底的にロングボールできましたね。

賀川:第1に彼らの長所、フィジカルの強さを活かしリバウンドを含む空中戦で優位に立とうとしたのでしょう。第2に中盤でボールをつないでということになると日本特有のプレッシングを受けてボールを失う懸念もある。したがって中盤を省略した方が得策だと見たはずですよ。

――そこで第3列、あるいは第2列の深いところからでも高い、長いゴールを送りこんできた。いまどき流行らないさっかーじゃないですか。

賀川:プロフェッショナルになって技術レベルがアップすると、見て面白いサッカーとは何かを工夫し、見事なパスの展開を楽しませるチームも出てく る。技術的、芸術的そして戦闘的という言い方の当てはまるチームも出てくるが、一方では「パワフル」で売るところもある。ワールドカップの予選は、まず勝 つことだから、オーストラリアが自分たちの長所を全面的に押し出すのにロングボールを使うのはおかしいことではない。日本代表もザッケローニ監督も当然そ の対応を考えていたはずですよ。

――しかし前半はじめは押し込まれ、危ない場面もあった。

賀川:体と体のぶつかることもある。接触プレーの多いサッカーではその相手の体の強さ、重さ、粘り強さなどはまず現実に当たってみてわかるもの。頭で前もって理解していたつもりでも実際となるとね。

――ケーヒルはすごかったですね。

賀川:彼はその前のオマーン戦には出なかったそうだ。暑い土地での消耗を避けて、涼しい母国での大一番に備えたのだろう。

――なるほど。それで日本側はすこしたじたじとなった。

賀川:ケーヒルは2006年にも日本からゴールを奪っている。上背はそれほどでもないが、ガッチリしていてジャンプ力もあって、高いボールにも強い。強いだけでなく、その空中のボールに対する駆け引きも狡猾でもある。しかも足のシュートもうまいからね。

――15分までに相手のシュート6本、こちらは本田のシュートが2本、16分にはこちらのゴール前で「やられたか」という場面も。

賀川:内田と栗原がゴールカバーし、栗原が倒れたままボールを蹴りだした。ヒヤリとしたね。その後、日本もキープし攻勢に出ることもあって互角の形 となった。MFのベテラン、ブレシアーノという選手が故障でミリガンに代わったのは相手側には誤算だったかな。日本は自分たちのペースでボールを動かせる ようになりはしたが、相手のプレッシングはしっかりしていた。

――ファウルをともなう激しいタックルもあったが…

賀川:深い鋭いスライディングタックルをしてきたね。内田のノーマークのシュートチャンスもスライディングで防がれた。日本代表はこの6月シリー ズでサイドからの攻めを習熟するかと期待したが、この試合では少なかったね。ひとつには第1、2戦ほどには長友、内田を前に出せなかったかもしれ ない。

――あるいは出さなかったのかも…

◆日本代表の進化は続く


賀川:それでもこちらの1点は右CKをショートコーナーにして本田が右からエリア内に侵入し、ニアポスト近くからのクロスを入れて、ファーポストの栗原が決めた。サイド攻めの一つで本田のアイデア、その本田からボールを受け、本田へもう一度戻した長谷部のうまさなどが重なった。

――相手のゴールキーパーはそう簡単に崩せない名手ですが、ゴールラインに沿ってドリブルする本田に対しては難しい守りとなった。

賀川:これまでも語っている通りパスで崩してゴールを奪うやり方のなかで、昔も今も変わらないものに、ペナルティエリア周辺あるいはエリア内に入ってからのラストパスがある。そのなかでもエリアのラインとゴールラインの交わるところ…私はエリアラインの根っこと呼んでいるが、そこへ持ち込んでからのパスが効果ありとされてきた。

――というと

賀川:ゴールライン近く、それもペナルティエリアぎりぎりだから、相手の守りの目はそこに注がれる。

――いつも言う、外に目がいく

賀川:だからゴール前にいる攻撃側はボールに目を注いでいる守備者の視野から消えやすい。いったん消えてニアサイドに現れると効果は大きい。あるいは、またファーポスト側にいても、相手はニアポスト側を見ていて見えなくなっている。

――ただし、攻撃側も工夫をしないと、エリア内にいる守備陣にパスがひっかかってしまう。

賀川:したがって、エリアの根っこに持ち込んだときは、
(1)斜め後方へのパスをして仲間にシュートさせる
(2)フワリと浮かせたクロスをファーポストへ上げてヘディングを打たせる
(3)ゴールラインと平行に強い球を送りこみ、ワンタッチでのゴールを狙う。
というのが、ここへはいってきたものの常識というのか、基本的なパスコースとなっている

――なるほど

賀川:こういうサイドからの攻めの常識は、1930年代もいまもあまり変わっていない。もちろんディフェンダーの能力、ボールテクニックや身のこなし、組織での守り方など進化はしている。攻める側の技術も高くなっているはずだが、いまでもこの3つのコースをきちんと蹴れない場面をよく見ますよ。

――本田選手はその平行の短くて速いパスを選んだ?

賀川:それも、うんとニアポストに接近するということで相手の意表をついた。だから速いグラウンダーは相手DFの足の間を通り、GKも手で止めることができなかった。このペナルティエリア内に入ってからのパスの効果について、NHKの解説者で元日本代表のコーチをしていた山本昌邦さんが折に触れて言っているはずです。パス(クロス)の距離が短いために守る側は対応しにくい(遠くからのクロスであればそれだけ時間があって守る側も対応しやすい)とね。

――その意味で、本田圭佑はサイドからの攻めについて自らのアイデアを表現した

賀川:本田の右CK、ショートコーナーからの攻めの棋譜のひとつとなるでしょう。香川真司は6月シリーズの第1戦で左のエリア根っこに入って来て、斜め後方へのパスとフワリのクロスを見せた。フワリの方は本田のヘッドの後、岡崎のゴールになったのはご存じのとおり。彼は不得手なはずの左足でこれをやっている。(本田のこの試合も右足サイドキックだった)

余談だが、こういうところで原則的、あるいは常識的であっても、そのうちのコースをその時々に応じて選択でき成功させる選手がヨーロッパで評価されるということになるのでしょう。

続く

固定リンク | 日本代表 | コメント (0) | トラックバック (0)


2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選 ヨルダン代表戦 下

2012/06/10(日)

(承前)

――31分の3点目はこれも遠藤が右のオープンスペースへ振ったボールを岡崎がひとつ内側にかわして左足シュートし、DFに当たってファーポストにボールが流れ、そこに本田がつめていて押し込んだ。35分の4点目は香川でした。

賀川:これは右から攻め込んだ後、ゴール正面エリアぎりぎりで、内田からパスをもらった香川が右足のシュートを決めたのだが、ぼくは内田→香川のパスの前の日本のカウンターに日本の伝統の労を惜しまないすばらしさを見た気がしましたよ。

――攻撃の発端は

賀川:中盤でボールの奪い合いがあって、ヨルダンのハイルが右タッチぞいにドリブルしたのを香川が追って長友と協力して左コーナー近くでボールを奪って、そこからの香川のドリブルで日本の攻撃が始まったのですよ。
(1)香川は自陣のペナルティエリア左角あたりまで持ち上がって遠藤に渡し
(2)右へ振って内田へ
(3)内田がドリブルで一気にハーフウェイラインを越え右タッチ際の岡崎へ
(4)岡崎はドリブルし相手DFにからまれながら外の内田へパス
(5)内田はキープの後、内側後方の本田へ
(6)本田は左足アウトのダイレクトパスを右サイドの深いところへ送り
(7)長谷部がゴールラインぎりぎりからクロスを上げる
(8)ニアで岡崎が競り高く上がったボールを
(9)前田とGKアメル・シャフィが競って
(10)アメル・シャフィが叩いたボールを
(11)エリア内に入っていた内田が拾って中央の香川にパス
(12)香川がエリアぎりぎりからシュートし、ボールはゴール左隅へ。ゴールカバーに入っていたDFが足を伸ばしたが防げなかった。

――ひとつひとつのプレーの結果になるわけですが、自陣のコーナー近くからの攻撃開始というところが、まさに現代のサッカーですね。

賀川:セレッソの賀川の先輩、森島寛晃の大きな動きを思い出したね。

――後半8分にPKで本田、44分にCKから栗原勇蔵がヘディングで決めた

賀川:栗原は吉田の故障で交代で入った。彼にはいい経験だが、吉田の故障はこのあとチームにも本人にも心配なことですよ。栗原のヘディングはファーポストだった。遠藤がショートコーナーにして長友が右足で蹴ったところにこのCKの面白さがあるでしょう。本田のPKは前田がペナルティエリアで仕掛けてファウルされたもので、本田が譲り受けてハットトリックとなった。

――大量点ですが、不満は?

賀川:相手のコンディションがどうだったのか。もちろんシュートにも攻めの構成にも注文もあるが、今のこのチームは監督さん、選手たちの工夫でどんどん積み上げていけるから見ていて期待は高まりますよ。オーストラリア戦で何を見せてくれるか楽しみですよ。

固定リンク | 日本代表 | コメント (0) | トラックバック (0)


2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選 ヨルダン代表戦 上

2012/06/09(土)

2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選
日本代表 6-0(4-0) ヨルダン代表



――6-0の圧勝でした。前半27分にヨルダンの14番をつけたアブダル・ディーブが2枚目のイエローで退場し、10人となったこともあって、見ている側としては安心もしたが、ちょっと緊張感がゆるんだといえば贅沢ですかね?

賀川:選手たちは第1戦と同じように緊迫感をもってゲームをはじめて、それが先制ゴールにつながった。厚く守る相手から、早いうちに点を取りたいという狙いが第1戦と同じように成功した。

――その先制ゴールが前田遼一のヘディングでしたね。

賀川:試合の前にピッチに入ってきたヨルダンの選手を見て、オヤッと思った。第1戦のオマーン先週に比べて長身が少ないことだった。いまごろこんなことを言うのは不勉強でもあるが、そのとき瞬間的に今日はヘディングゴールもありと思ったね。そのあと、すぐオヤッが2つ続いた。

――何が?

賀川:4分に相手の背後へ遠藤保仁のみごとな浮き球のスルーパスがあった。岡崎慎司が右斜めから走り込んで受けた。ちょっと速く入ったものだからゴールを背にして受ける形になって…

――ああ、オーバーヘッドキックのシュートが決まりませんでしたね。

賀川:あれを決めれば最高だが、それよりも第1戦ではやや調子のよくなかったヤット(遠藤)の体調がもどったな、と感じた。もうひとつのオヤ?はその時の右CKを本田圭佑が蹴ったことだ。

――日本のCKは右も左もここのところ遠藤でしたからね。

賀川:彼は名古屋グランパスでデビューしたころから左足のキックは目立っていた。ノルウェー人のFWの上へアーリークロスのいいのを送っていたからね。

――右CKを左利きがければゴールに向かうボールも蹴れますね。

賀川:本田のキック力はCKの場合にファーポストまで狙って蹴れるでしょう。古い話だが、カズ(三浦知良)もキックは上手で、95年にウエンブレーの対イングランド戦の左CKを蹴ってニアサイドの井原正巳のヘディングでゴールを奪ったことがある。ただし、カズを含めて日本の選手のキック力ではファーポストまで楽にコントロールというわけにはゆかない。

――本田はそれができる、と。

賀川:右CKを本田が蹴ることになったのは、本田自身の発想なのか、監督の提案かは知らないが、第1戦と違う変化のひとつだった。

DFに吉田麻也という高い選手がいて、FWに前田がいるから、攻撃陣の中では長身でヘディングの強い本田にキッカーをさせてもよいという計算もあったと思う。

――本田の右CKは速いボールでゴール正面あたりで高いところから落ちましたね。

賀川:いわゆる無回転でなく、キリキリ回転しながら高く上がってから落ちてくる、中村俊輔の十八番に似た軌道だった。前田はしっかりとジャンプし、相手と競り合って自分の肩に当てた。その体の勢いでボールはゴールに飛び込んだ。

――この1点はききましたね。

賀川:ヘディングというより肩で押し込んだ直後に前田がコーナーの本田に駆け寄り、仲間も一斉に集まって祝福した。それを見ながら、本田のこのチームでの存在感とともに、右CKを彼が蹴ることにした意義をイレブンが理解し、期待していたあらわれのような気がしたね。

――22分に今度は本田が遠藤からのスルーパスを決めた。第1戦は2点目までに時間がかかったが、今度は4分後だった。

賀川:その前にもいくつかチャンスがあった。前の試合でも話したように、岡崎のパスを出すタイミングやコースがよくなって、右からの攻めもあった。長谷部誠の飛び出しも目立っていた。左側からの香川の強いパスを本田がダイレクトシュートし、場内がどよめくシーンもあった。

――香川は本田のダイレクトシュートを予想したのかな

賀川:ペナルティエリア近く、ゴール正面右寄りにあらわれる本田へ、強いグラウンダーを送ったから本田はノーマークで止める余裕もあり、そうなると次に香川は自分がもう一度受けることもできる。いろんなチョイスのための速いパスだったと思う。本田はそのボールの速さを利用して、左足でダイレクトシュートした。面白かった。これが入っておれば、彼にも香川にも日本サッカーにも新しい棋譜になるところだった。

――2点目も棋譜として残るでしょう

賀川:このゴールへの攻めは右タッチラインの本田のスローインから始まった。この直前に右でキープしパス交換があって、本田がボールを取ろうとした時に相手がスライディングタックルに来た。足を痛めるおそれがあったからだろう、本田はそこでがんばらずにマイボールのスローインにして、自分が投げた。
(1)すぐ後方の長谷部に渡し、
(2)長谷部は後ろへドリブルして内田へ
(3)内田は本田に渡そうとしてDFにカットされ、そのボールが
(4)より内側の後方、相手ゴールから30メートルやや右寄りの遠藤の前に転がった。
(5)内田のパスのインターセプトの後ボールは(ヨルダンから見て)前へころがったものだから守備配置にいたヨルダンの選手の目はすべて前を向いていた
(6)その守備ライン4人の中央にできたスペースへ向かって本田が右から走り出すと遠藤がダイレクトでパスを出した
(7)フワリと上がり、ヨルダンの第1防御ラインの上を越えたボールはペナルティエリアの1メートル前に落下
(8)本田はMFアブダラー・ディーブの前をすり抜け、
(9)DFアナス・バニヤシーンが伸ばした足の前を通ってきたボールを
(10)左足で正確にプッシュし
(11)GKアメル・シャフィの左わき下を抜いてゴール左下すみへ決めた。

――ボールがいったん相手側からはじき返され、相手選手の目が前を向いたときに本田が裏へ走り、そのスペースへ遠藤からのスルーパスが出た。構図として簡単ですが、バルサのシャビとメッシのそれに似ています。

賀川:そこまで言うとセルジオ越後に相手が弱すぎるといわれるかもね。さて、2-0となってまずこちらは気分的にも(高揚しつつ)落ち着く。相手は焦る。そういうなかで、2枚目のイエローカードでヨルダンに退場者が出た。

――長谷部とのヘッドの競り合いのときに長谷部の頭に相手の肘が当たった。腕を使ったという判断でした。

賀川:アフタータックルや腕を使うファウルなどが少し目立っていたからレフェリーもイエローを出したのだろうが、2枚目だったからここで試合としてはヤマが見えてしまった。

――もちろん日本を手を緩めずにプレーしたからではあるが、まず危なげなかった。

(続く)

固定リンク | 日本代表 | コメント (0) | トラックバック (0)


2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選 オマーン代表戦

2012/06/08(金)

 2014FIFAワールドカップブラジル アジア最終予選
日本代表 3-0(1-0) オマーン代表

――すばらしい試合でした。3-0

賀川:本番の6月シリーズの3試合をひかえた5月23日のキリンチャレンジカップ 対アゼルバイジャン戦でザッケローニ監督は選手のテストをした。長いケガの後(ロシアではリーグ戦に出ていたが)日本代表に久しぶりに復帰した本田圭佑の体調が回復していただけでなく、彼特有の進化を止めていなかったことにザックさんだけでなく、日本中が安心した

――本田のメドが立ったからザックさんはやりやすくなったでしょう。

賀川:この試合から本番第1戦までに10日というこれまでにない長い期間、合同合宿ができた。だからベストメンバーでの攻撃のパターンの反復練習もできたはずです。

――それが先制ゴールを生んだ左サイドのパス攻撃ですね。

賀川:右から攻め込んで防がれた後、今野がハーフウェイライン近くの左よりでボールをとり、そこから前田-香川-前田-長友とつながって、長友がゴールライン近くから中へクロスを送り、本田が左足ボレーで決めた。サイドを崩すパスの見本のようだった。

――試合を見ながら前田と香川のパス交換があったのがよい…と言っていましたね

賀川:ワンタッチの早いテンポのなかで、タテへ出すだけでなく、内へ(横へ)入れてそこで一呼吸、間(ま)を置いたのは、こういう早いテンポでボールを動かしながらタイミングをずらせる間を稼げるチームになったのか…と、とてもうれしかった。

――パスのテンポや間という点についての詳しい話は後に譲るとしてチーム全体の動きはよかったのですか?

賀川:とてもよかった。まだベストの調子でない選手もいたが、攻撃の核の本田が安定し、香川がドルトムントでの働きぶりそのままの好調だったね。いわば攻撃の2本の柱が実力を出し、前田が日ごろJでやっているとおりの前で張るプレーをしたからボールはスムースに動いた。

――岡崎は?

賀川:前半はいささか気合いが入りすぎたというシーンもあったが、パスの出し方などもうまくなっていた。ゴール前の大事なところへちゃんと詰めてところは相変わらずえらいものですよ。オマーンのゴールキーパーのような高い守備力を持つ相手にはボレーシュートのようにタイミングのつかみにくいプレーそしてリバウンドに反応するFWなどが大切になるんですよ。

――DF陣は?

賀川:左の長友の実力には驚きのほかはない。右の内田は相手のファウルに気を悪くしていた。交代で出た酒井は勢いはあったが、クロスのミスがあったね。中央の守りは吉田、今野ともにまずまずだった。吉田は高さの面でも力を出していた。

――ザックさんはサイドの攻めにこだわった?

賀川:相手は後退して厚い守りをひくことを予測し、サイドから崩すことを考えたのでしょうね。当然のことですよ。昔から攻めはサイドからだった。かつてのウイングプレーヤーのような特殊技能を持つサイドのアタッカーが少なくなっている(世界的にも)が、グループのボールキープパス交換でサイドを崩し、そこからチャンスボールを送るのが近頃のやり方になっている。今回は相当それに力を入れたのでしょう。

――前田が2点目、3点目は前田のシュートのこぼれ球を岡崎が決めた。香川のゴールはなかった。

賀川:前田がゴールし、3得点すべてにからんだという結果は、彼のためにもチームのためにもうれしいことですよ。長いこと国内で実績を重ねストライカーとしてのゴール数も多いのにちょっと地味な感じだったのが、本田、香川といったいい仲間との協調動作で結果を出したのだから…なんでもできるけれど、国際舞台ではどこか物足りないと思っている人たちにも彼の良さを示した試合だったね。

――で、香川は

賀川:点を自分で決めるシーンはなかったが、この日の香川を見て、私はつくづくサッカーを長く見てきてよかったと思った。ヤンマーやセレッソでメキシコ五輪得点王の釜本邦茂、そして小柄で試合の流れを変える森島寛晃たちの若いころから、引退までを見た。そして、いままた香川がぐんぐん伸びて欧州のトップチームで注目されるプレーヤーになるのを見続けている。試合中そう思ったらうれしくて一人で笑みがこみ上げて来ましたよ。

2点目の前田へ送ったパスは自分のドリブルの進路で、ドリブルシュートのコースでもあったのだが、相手にその意識を持たせておいてパスを送り、突如としてそのコースへ出てきた前田に通した。パスは低いライナーで、エリア内にいる相手のDFがスライディングしても取れない高さで、前田の足のところでちゃんと足元へ落ちたね。

そういう技術の丁寧さと周囲の情勢を把握する力がどんどん高くなっているのがすばらしい。相手ゴールに背を向けているときにも見えているという感じにみえる。マラドーナの若いころを思ったね。

――ターンがよいとか。

賀川:もともと小さなターンはうまいので、右へも左へも反転する。中盤からゴール前のプレーヤーではあの98年大会優勝のフランスのジダンのピボットターンが有名。彼のは足の裏を使うのだが、香川はそうではなく、抱え込むやり方でしかもジダンのように小さな反転でターンするところがすごい。

――そういえば相手の3人が置き去りにされましたね

賀川:まあ、3点目の前に左サイドで香川と長友がドリブルで突破するのかキープするのか、相手を困惑させた後で中央へボールを送った場面があった。それを見ながら日本サッカーもここまで来たかと思いました。

――第2戦も期待できる

賀川:サッカーは相手あってのもの。今度はオマーンよりも強いらしい。また日本を研究し、本田や香川対策も考えてくるから、それほどやさしくはないはずだが、それをどう崩すか。

だからサッカーは面白い。

固定リンク | 日本代表 | コメント (0) | トラックバック (0)


« 2012年2月 | トップページ | 2012年7月 »