――EURO2012もあっという間にベスト4まで来ました。準々決勝でポルトガルがチェコを1-0、スペインがフランスを2-0、ドイツがギリシャを4-2、イタリアがイングランドを0-0(PK戦4-2)で退けて準決勝へ進んだ。ほぼ予想通りですかね?
賀川:ベスト4の各チームの登録選手を見て、納得されるサッカーファンは多いでしょう。
――スペインがやはり?
賀川:まあ、いま世界のトップのチームだと自他ともに認めているバルセロナからリオネル・メッシ(アルゼンチン)」が抜けているだけという感じでしょう。23人の登録メンバー19人がリーガ・エスパニョーラ、つまりスペインリーグで4人がプレミアリーグ(イングランド)に所属している。
――そうですね。バルサからFWのペドロ、MFのシャビ、イニエスタ、セスク・ファブレガス、セルヒオ・ブスケス、DFのピケ、GKのバルデスの合計7人が参加しています。
賀川:GKはレギュラーで出ているのはレアル・マドリードのカシージャスで彼とともにレアルからMFのシャビ・アロンソとDFのセルヒオ・ラモス、ラウル・アルビオル、ジョルディ・アルバの4人がいて、合計5人がレアル勢、これにリバプールのGKレイナやマンチェスター・シティのフェルナンド・トーレスが加わっている。2008年スイス・オーストリア大会で優勝した時のスペイン代表はバルサが3人、レアルはカシージャスとセルヒオ・ラモスの2人だけだった。
――バルサがスペインサッカーの主流であることを示しています。
賀川:バルサの考え方がスペインに浸透し、選手たちにも影響して、この大会でも選手たちはまるで何年間も同じチームでやってきたようにバルササッカーになっているでしょう。
――得点数はメッシがいない影響ですかね
賀川:個人のキープ力と短いパスのつなぎで圧倒的なボール保有率のスペインの得点が少ないのはひとつには無理やりに攻め込んでシュートまでゆこうとしないこと。アイルランドから4点取ったが、これはまあ力の差、スタイルの違いがゴールにあらわれたものでしょう。なんといっても、ボールをキープ(ポゼッション)する時間帯は相手に攻められないから安全なんですよ。まずその安全の上にたって相手の守りの隙間をつくり広げて、シュートを決めるやり方のようですね。
――バルサ、スペイン流をもっと聞きたいが、他のチームについても話してください。ポルトガルは?
賀川:スペインはスペインリーグの選手が主力。ドイツもブンデスリーガ、がほとんど。イタリアもそうです。しかしポルトガルは自国リーグは8人、スペインリーグが7人のほかにイタリア3人、トルコ2人、イングランド2人、ロシア1人となっています。いわばポルトガル、スペインリーグの選手を主力に合計6カ国のリーグ連合軍ですが、それだけに個性的な質の高い選手が揃っています。
――クリスチャーノ・ロナウドという最高のFWがいます。マンチェスター・ユナイテッドのナニというすごいサイド攻撃のタレントもいる。レアルの3人を含んでいるスペインリーグの7人はバルサ流についてもよく知っているわけですね。
賀川:私は今年のスペインリーグでバルサを倒して優勝したレアル・マドリードの選手たちが久しぶりの大仕事の後で、どれくらい回復するか、いささか心配もしていた。大会の途中からのロナウドの働きを見るとよくなってきているように見えるので、彼を切り札にするポルトガルのスペインへの挑戦はとても面白いでしょう。
――レアルといえば、バルサ戦で貢献したエジルがドイツ代表にいます。
賀川:そのエジルが復調してくればドイツもまたスペインに対していい戦いを仕掛けられるでしょう。
――その前にイタリアとの試合があります。
賀川:ドイツ対イタリアを久々に大舞台で見られるのはサッカーファンにはとてもうれしいことですよ。1970年のワールドカップ準決勝で、若かりしベッケンバウアーたちをファケッティたちのイタリアとの死闘を思い出します。このときはイタリアが勝ち、2006年のワールドカップ準決勝でもイタリアがドイツを2-0で破った。イタリアはこの大会で190センチの長身を3人メンバーに入れるというこれまでにないやり方で成功しチャンピオンとなった。ピルロの活躍はまだ目に残っていますよ。
――そのピルロが今度もイタリアの中心です。
賀川:ベスト4に残った4チームのうち、3チームはピレネー山脈の西南、アルプス山脈の南、つまりヨーロッパの南側の国々で、北側の国はドイツだけです。一般的に北方東北のヨーロッパはゲルマン系、スラブ系で体格は立派です。これまでのユーゴスラビアは別としてボールテクニックよりもスピードを活かそうとする傾向が強かった。その中でドイツとオランダが技術力アップに力を入れ、今度のドイツもスペインほどでなくても、ボールを止める、蹴るの技術は高くなっていて、このイタリア戦でその技術と体力をどのように活かすか楽しみですよ。
――イタリアはイングランドにPK戦で勝ちました。
賀川:イングランドはこの大会でもよくはなかった。プレミアリーグが外国人選手を多く抱えていいチームをつくり出しているが、イングランドの選手の育ちが遅いようです。イタリアにはバロテッリという、これまでほとんどいなかったアフリカ系のFWがいるでしょう。彼の独特のスタイルがドイツを悩ませるのかどうかという個人への興味もあります。シュバインスタイガーの負傷のうわさもきにかかりますが。
――ごひいきのウェイン・ルーニーは1点どまりでした。
賀川:攻撃の組み立てという点ではイングランドはもうひといきだった。それとイタリアの老獪さにてこずったかな。ルーニーのヘディングのチャンスにイタリアの選手はホールディングしておいてジャンプするという時に手を離す。つかんでいるとPKだからね。しかし、その瞬間までのホールディングはルーニーのヘディングにも影響していたようにみえる。そういう際どいイタリアの個々の駆け引きは今度もドイツ側を悩ますかも知れない。
――それもこのクラスのサッカーのひとつですね。
賀川:そうそう。イタリアとイングランドのPK戦だが、どちらもPKはもともと強くはないし、大舞台でも負けている。
――イングランドは特にそうです。
賀川:今度は、そのイングランドがリードした。それを3人目のピルロがゴールキーパーの動きを見て「フワリ」ボールで決めた。このフワリはイタリアを落ち着かせるためだったのかもしれないが、ここから流れが変わって、イングランドに失敗が出てしまう。古代ローマ帝国以来、権謀術数の伝統かもしれない。
――ヨーロッパのサッカーを見る面白味ですね。
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