ハーフナー・マイク起用の効果 W杯アジア3次予選 vs北朝鮮(上)
●2014FIFAワールドカップブラジル アジア3次予選 GroupC
第1節 2011年9月2日19時キックオフ
日本 1-0 朝鮮民主主義人民共和国
(0-0、1-0)
●ロンドン・オリンピック アジア最終予選
日本 3-0 タイ(2011年9月1日15時30分 山東スポーツセンター)
日本 2-1 韓国(2011年9月3日19時 済南オリンピックスポーツセンター)
~右CKからの決勝ゴール。時間の迫っているなかでの冷静なショートコーナーに代表の進化を見る~
――90分を過ぎて得点なし、5分のアディショナル・タイムでの、それもあと1分というところで吉田麻也のヘディングで1点を取り1-0で勝ちました。
賀川:ボール・ポゼッション(支配率)が66.1%、シュートは20本、CKも14回もあった。その14回目のCK(右)からの20本目のシュートが決まった。スリル満点の試合だった。
――9月1日から始まったなでしこジャパンのロンドン五輪予選でも、第1戦の対タイ(3-0)はともかく、韓国との第2戦は大接戦でした。2-1で勝ちはしましたが……。やっと――というべきか、テレビ解説の岡田武史前監督のようにすごく盛り上がった――というべきかですね。
賀川:なでしこジャパンと韓国代表のチーム全体の力を比べると、日本の方が少し上だろう。しかし、その差は当日のコンディションや試合のどこかの局面のちょっとした狂いなどがあれば、勝敗どころを変える――ということになる。まあ、それくらいの差ですヨ。
もちろん韓国がいまのままの個人力アップの上にちょっとした試合の工夫をつけ加えれば(いまのままのなでしこと)対等になるだろうし、体に力があるから追い抜くことも可能だね。
――なでしこは、必ずしも万全の状態で中国の済南に乗り込んでいったわけではなさそうですからね。
賀川:ワールドカップ優勝のあとのいろんな行事があって、充分に練習したとはいえないだろう。また、ドイツの大会で力を尽くして、身体的あるいは精神的疲労はそう簡単に取れているかどうか――。
1974年のワールドカップに優勝した西ドイツの主力6人のいたバイエルン・ミュンヘンが半年後に来日して国立でプレーをしたとき、ゲルト・ミュラーをはじめとする代表選手たちのコンディションはひどかったからね。
――そうそう、この年のバイエルン・ミュンヘンはブンデスリーガでもなかなか勝てなかったことを覚えています。
賀川:なでしこが今度のアジア最終予選を切り抜けてロンドンへの権利を取れば、それだけでもすごいと思いますよ。
――彼女たちについては、あとで聞かせてもらうとして、まず「サムライ(SAMURAI BLUE)」の方から――。
賀川:2010年のワールドカップのベスト16はまさに全員の頑張りだが、やはり本田圭佑という新しい攻撃の核ができたことがプラスになった。以来、代表で欠かせぬ攻撃の柱だった本田が故障のために戦列を離れた。攻撃が武器の日本代表で、こういう中心選手が抜ける影響はとても大きい。そうしたなかで、最初の試合で北朝鮮に勝ったのだから、それだけでバンザイですネ。
――といっても、ハーフナー・マイクを投入し空中戦を挑んだやり方で、日本らしくないという声も出ているのじゃないですか?
賀川:本田が出られないという報道があったとき、ハーフナー・マイクを加えたという発表を見て、ボクは、ザッケローニさんはこの手も考えていたかと思いましたよ。
――そういえば賀川さんは長い間、大型FW必要論を唱え、平山相太に執着していましたね。
賀川:いまの多くのファンは、日本人の大型ストライカー・釜本邦茂を見ていないから無理もないが、当時182センチだった彼は右足左足のシュートとヘディング能力が素晴らしかった。もちろん、大きいだけでなくボールの高さを見極める目の確かさ、落下点へ入る速さとうまさ、そして滞空時間の長いジャンプなどが組み合わされ、さらにボールを叩くときのインパクトのうまさもあるのだが、基本的には長身が武器の基礎だった。
74年ワールドカップ優勝チームの西ドイツ代表GKゼップ・マイヤーが182センチだから、釜本は当時のワールドクラスのGKと同じ大きさだったといえるだろう。今はGKは188センチ以上が普通だから、長身のストライカーといえばそれくらいの大きさが欲しいと私は思っている。だからこそ、平山の成長に期待したんですヨ。
――ザックさんはハーフナーに目を留めた。彼は190センチ以上ありますからね。
賀川:ヘディングもシュートも釜本には及ばないとしても、ここのところ上手になりJ2でゴールも増えていた(甲府で昨季J2リーグ戦20得点、今季J1リーグ7得点)。ザックさんが目をつけて当然でしょう。
――ふーむ、2006年ワールドカップでイタリア代表が優勝したとき、賀川さんは190センチが3人いたのがミソだといっていましたね。もともと体の小さい選手の多い神戸一中のショートパス育ちの賀川さんが空中戦好きとは――と、あのとき驚きました。
賀川:ボクのような小さい選手でもヘディングで点を取ったこともあるのですヨ。一つ、この際いっておきたいのは、エリア内にはじめ4人で守り、相手が攻めてくれば6人にも7人にもなる。そしてCKやFKとなると狭いところに双方の10数人がひしめいている、といった現代サッカーで、地上のボールをシュートしても誰かの体に当たって弾き返される。もちろん、誰かの体に当たってGKの意表をついて入ることもあるが、統計上は跳ね返る方が多いハズです。足でシュートするときには、人が混み合っているからスペースも小さく、シュートにかかる動作もスムースにゆかないこともある。
ヘディングというのは、第1に足でいえばダイレクトシュートで、相手GKは予測しにくい。第2に、頭で叩くだけだから頭を振るスペースは地上のボールを蹴るときのスペースより小さくて良い。したがって、キッカーのボールが狙っているところ――高さ、位置――へ落ちてくれば、ジャンプヘディングは理論的にはゴールを奪いやすい有効な手段なのですヨ。
――日本も空中戦を攻めの武器の一つにすればいい、と。
賀川:攻め手は色々ある方がいい。近頃ではFCバルセロナの小柄な攻撃陣の魅力が人気を集めているが、彼らについてはまた別に機会にお話しするとして……
――その空中戦の決勝ゴールに、賀川さんは日本代表の進化を見たとか?
【つづく】
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