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2011年1月

AFCアジアカップ カタール2011 準々決勝 vsカタール(下)

2011/01/25(火)

――カタールに取られた1点目はどうです?

賀川:いつも言っているように、組織防御をいくら強調しても、守りの基本は1対1の対応にある。この場合はテレビでは見にくいが、オフサイドをかけ損なったのか、あるいはレフェリーが見逃したのか、いずれにせよセバスティアン・スリアにDFラインのウラに走られ相手の後方からのロングパスで一気に突破されてしまった。

――それでも、左ポスト近くでセバスティアンが中へ切り返したときに吉田麻也が追いついたように見えました。長友もいたかな。

賀川:せっかくシュートコースに立ちはだかったように見えたが、セバスティアンの左足シュートは吉田の足の間を抜けてゴールへ飛び、GK川島永嗣は左手に当たったが防げなかった。

――1対1の能力アップを監督も選手も口にしています。

賀川:攻撃も強い相手との対応が大切だが、こちらの方はボールを持っている(味方がボールを持てば攻撃だが)形で、それについての練習はある程度自分たちで工夫できる。だが、守りでは強い相手あるいは適当な相手との対応を経験することが上達の一番の早道ですヨ。もちろん、肉体的な素質やそれを鍛える努力も大事だが、いろいろな強い相手との対決によって経験を積むのがいい。
 吉田にとってこの日のウルグアイ人(カタール国籍に帰化した)のセバスティアンは体も大きく、ボールの競り合いも狡猾でちょっとやりにくい相手だったろう。密着マークを逆手にして体を寄せられ、そのためにファウルを取られたりもした。

――10人になって2-1とリードされるという大ピンチを跳ね返したことについては素晴らしいですね。

賀川:成長過程のこのチームと選手に不満もあるし、まだまだ改良点はいっぱいあるが、ハンディのなかで自分たちの力を信じて攻めに出たところは立派なもの。その体力と気力は誇っていいと思う。そしてそのゴールにも、こちらの個々の選手の良さが組み合わされているのが良かった。

――2点目、3点目はまた後ほど解析してもらいましょう。

【了】

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AFCアジアカップ カタール2011 準々決勝 vsカタール(上)

2011/01/24(月)

◆10人での逆転勝ち。気力・体力と攻めへの意欲の強さが逆境を跳ね返した

――スゴイ試合でした。前半1-1、後半、日本側に退場者(吉田麻也、2枚のイエローカード)が出て10人となり、しかもその反則によるFKで2点目を失った。後半18分でした。その10人の日本が8分後に同点にし、44分に3点目を奪って勝った。

賀川:スリル満点。とても面白かったし見どころの多い試合だった。
 10人で逆転勝ちだから素晴らしいね。2失点については当然、反省・工夫の余地は大いにあるのだが、勝とうという意欲でゴールを奪いにゆく気持ちを全員が持ち続けたのは立派なものだ。

――香川真司が得点したのも、チーム全体の大きな活力になるでしょう。

賀川:この前の試合のときにも少しふれたが、テレビ画面で見るだけではあるが、動きの小さいのが気になっていた。だがこの試合ではそれがよくなっていた。

――サウジ戦でハットトリックした岡崎慎司が調子を上げているのも心強いですね。

賀川:まあテレビ画面からの想像にしか過ぎないが、サウジ戦の岡崎の飛び込みヘディングを香川が自分のパスで演出したときに、ボクは、彼が自分の一番得意な形のクロスパスが得点につながったことで少し自信を取り戻すだろうと思っていた。
 直接に話を聞いているわけではないが、初めてのヨーロッパのトップリーグで半年以上プレーを続け、日本に戻ってチームに合流し、また、コンディションの違うカタールへ出かける。普通の旅行者やボクたち取材する人にも、この時差と気候の変化は厄介なものだったし、コンディションの維持が難しかったのだと思う。

――真面目な彼はその調整についても真剣に考えたでしょうか。

賀川:特にヨーロッパでプレーする日本選手には、このコンディショニングの難しさがあると思う。あの中村俊輔のような大選手でも、2006年も2010年のワールドカップもベストの体調で迎えることができなかった。

――そういう点の、個々の選手へのバックアップ体制も大切ですね。


◆1点目に香川の復調を見た ~ドリブルかパスのチョイスと長い疾走~
 攻撃に見る連動と個々の得意技の組み合わせ

賀川:選手のことを考えると、つい話がそれてしまう。話を香川に戻すと、日本の1点目はその香川の“冴え”が戻ってきた証とみている。

――というと?

賀川:このゴールは香川が中央左寄り、ペナルティエリアの左角から10mほどハーフラインに寄ったところで
(1)香川がボールをキープしたことから始まる。その前に日本の攻めで、カタールはエリア付近に後退して7人が守っていた。
(2)長友佑都からパスを受けた香川は、いったん戻りながらターンして右足でボールをキックして前を向く。例の左肩を前にした得意の持ち方ですよ。
(3)ペナルティエリアより前にいた相手の3人が彼の突破を警戒して囲もうとした。
(4)このときの香川には選択肢が3つはあった。
   A:3人の隙間を見つけてドリブルするか
   B:右に開いている岡崎の動きに合わせたパスを出すか
   C:本田圭佑に渡すか

――エリアいっぱい、正面やや左に前田遼一がいました。長友はボールを渡してすぐ左サイドへ前進していた。

賀川:
(5)その3つの選択肢のなかで、香川のチョイスは本田の足元だった。
(6)スクエアパス――いわゆる横パスを送った。一番安全で取られないパスだった。
(7)そのパスが足元に来たとき、右サイドの岡崎がスタートした。本田はダイレクトで――近ごろはワンタッチというらしいが――左足で前方へ蹴った。
(8)本田は立ったままノーステップで左足を正確に使える選手で、これは彼が高校から名古屋グランパスに来た時以来、私が感心しているプレーの一つ。
(9)本田のパスは少し浮いて、右へカーブを描きながら落下した。相手のDFには取られずに岡崎の走る前へ落ち、
(10)そのリバウンドを岡崎が足を伸ばして捉え、飛び出したゴールキーパーの上を抜いた。
(11)ふわりと上がったボールがゴール左上隅近くへ落下してゆくところへ
(12)香川が走り込んでジャンプヘッドしてこれを押し込んだ。
(13)スロービデオのリピートを見ると、香川は本田にパスを出したあと一気に前方へスタートし、ゴールまでスピードを緩めなかった。相手DFの一人が気づいて追走したが、香川のスピードが勝っていた。

――香川は「岡ちゃん(岡崎)のゴールみたいなものです」と言っていましたが

賀川:これこそ、今の日本の攻撃陣の“あうん”の呼吸とそれぞれの持ち味の出たゴールだった。岡崎の飛び出しを生かす本田のワンタッチパス、香川の長いランが生きた。

――香川が本田にパスを出したとき、この展開を読んでいたのでしょうか。

賀川:そこのところは想像でなく本人に聞いてみたいネ。ただ、彼はパスを出してすぐ前方へスタートを切ったところがいい。そして途中で疾走を止めないところが素晴らしかった。もちろん、本田-岡崎ラインは見事に冴えていたけれど、香川にとってもこれに絡んだことで「ご馳走さま」のゴールではなかったといえる。

【つづく】

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川本泰三、賀川浩に写真を追加 ~日本サッカーアーカイブ~

2011/01/21(金)

人物史:川本泰三賀川浩に釣りの写真を追加!

ベルリン五輪のCF川本泰三さんは、釣りの名人でもあったそうです。

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“ベルリンの奇跡”公式記録の写真を公開 ~日本サッカーアーカイブ~

2011/01/20(木)

ベルリンの奇跡”(1936年ベルリン五輪 日本vsスウェーデン)の公式記録の写真をアップ!

鈴木重義監督、CF川本泰三のページでご覧下さい。

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AFCアジアカップ カタール2011 vsサウジアラビア(下)

2011/01/20(木)

――3点目は前田でした。

賀川:左サイドで柏木が深いスルーパスを送り、長友は疾走し止めないで左足のクロス、前田がニアサイドでジャンプボレーで合わせて叩き込んだ。柏木のパスから長友のクロスまでが速かったのとコースが良かったので、相手のDFオサマ・アルハルビの動きが遅れて前田は速いダッシュでノーマークとなったのだが、まあドンピシャリのタイミングだった。

――10分ほどの間に3得点して、一気に勝負が見えたという感じになりました。

賀川:サウジは攻撃にはかなり熱心だったが、守りとなると球際での粘りも強さも速さもなかった。それだけ気落ちしていたのだろう。
 日本が韓国にいつも苦戦するのは韓国のプレッシングが強いからで、この大会の第1戦、第2戦でもヨルダンもシリアもファウルも辞さない激しさでボールの奪い合いをしたが、そういう試合に比べるとこの日はいわゆる相手のプレッシングが強くなかったから日本選手は余裕があり技術を発揮できた。
 こうなるとパスワークは上手い。特にスピードアップを心がけたようだ。この左からのクロスへの前田の飛び込みに見る通り、走り込んでのシュート(ヘディング)という形が出ていた。

――後半に内田に代わった伊野波雅彦が右サイドを突破してクロスを送り、前田がニアサイドでヘディングしたのもそうですね。

賀川:5点目の岡崎のペナルティエリアの中での反転しての左足シュートもいいゴールだった。それから4点目、長身のセンターフォワードと期待されている前田がヘディングでゴールを取ったことも、本人にもチーム全体にも嬉しいことだ。

――香川があまり上手くいっていないという声もあります。

賀川:得点がないからそういう声も出るのだろうが、かなり彼のプレーは光っていますヨ。生真面目な方だから、ザックの言葉の範囲内でプレーしようとしているのかもしれないけれど、まあ自分で解決するでしょう。ちょっと動きが小さいのが、テレビを見ていて気になるけれどネ。

――準々決勝の相手は開催国カタールですね。

賀川:ここで勝てば、この後は準決勝。ベスト4ということはさらに2試合できる勘定になる。選手にとってもザッケローニ監督にとっても、アジアのトップクラスのタイトルマッチでの難しさやイヤらしさを肌で感じるいい機会。2014年のブラジル・ワールドカップといってもアジア予選を勝たなければいけないのだから、この後の試合で日本が成長することが大切でしょう。オーストラリアや韓国といったしっかりしたチームもベスト8へ上がってきたようだから、いよいよアジアカップの終盤は楽しみですヨ。


【了】

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AFCアジアカップ カタール2011 vsサウジアラビア(上)

2011/01/19(水)

――5-0とはやりましたね。岡崎慎司がハットトリック、賀川さんが気にしていた前田遼一が2得点です。

賀川:サウジアラビアは、このアジアカップで日本と並んで3回優勝の実績を持つアラブのサッカー大国。この大会の開幕前の予想ではグループBでは日本の一番の強敵だと言われていた。2007年大会でもイビチャ・オシムと日本代表は準決勝でサウジに2-3で負けている。

――2007年はベトナムなどが会場で、イラクが戦争のハンディを乗り越えて優勝しました。そのときの決勝の相手がサウジでしたね。

賀川:そうした過去の実績があっても、今度はB組で連敗してグループリーグ突破の望みは無くなっていた。

――そういう相手に対しての岡崎の先制ゴールは効きましたね。

賀川:それまでに日本は前田遼一に2度シュートチャンスがあった。1本目は岡崎からのボールを受けて、DFをかわしてシュートした。GKワリード・アブドゥラの正面だった。2本目は左の香川真司からのパスを受けてのもの。右へパスを送るテもあるがシュートを選んだ。だが相手に絡まれシュートできなかった。そんな惜しいチャンスと、その後の嬉しくない内田篤人へのイエローのあとで1点目が生まれた。

――遠藤保仁からのパスでしたね。

賀川:
(1)左タッチ際の長友佑都から香川-柏木陽介と渡り
(2)柏木が後方の遠藤に戻したのを
(3)遠藤がダイレクトで右足で蹴って相手DFラインの背後へ落とし
(4)右から中へ走り込んだ岡崎がノーマークで取って
(5)バウンドしたボールをボレーでタッチして浮かせ
(6)飛び出してきたGKワリードの上を抜いてゴールへ入れた。
 飛び出し屋の岡崎の特長を生かした見事な遠藤のパスだった。

――遠藤は冴えていますね。

賀川:第2戦の不利な状態のときにも冷静だった。香川や前田、岡崎たちのそれぞれの特長を見ながら、どのようにボールを配るかができるプレーヤーだからね。このプレーは実はスロー映像で見直すととても興味があるのだが、長くなるから2点目にゆこう。

――13分には香川がドリブルして左タッチ際から中へドリブルして送ったクロスを、ファーポスト側にいた岡崎がダイビングヘッドで決めました。

賀川:これはセレッソ時代から香川が見せていた十八番(おはこ)のドリブルとパスのコースですヨ。相手の攻めを中盤で日本が奪って、遠藤が左に開いていた香川にパスを送ったところからこの攻撃が始まった。
(1)遠藤からボールを受けた香川は、相手ゴールラインから40m、左タッチラインの内側数mのところでゆっくりキープ。相手側2人が向かってくると
(2)縦にドリブルし、その外を長友が走る。
(3)香川は右足アウトで内側(いったん後方へ)へ切り返し
(4)ペナルティエリア左角の数mの位置から中央へクロスを送る。ペナルティエリア内には前田が中央、左外に岡崎、そしてそれぞれに一人ずつ相手のマークがついた。
(5)ボールは前田を越えて、その背後へ走り込んだ岡崎へ。岡崎は飛び込むような形でヘディングし、ゴールキーパーの右を抜いた。

【つづく】

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AFCアジアカップ カタール2011 vsシリア

2011/01/17(月)

――すごい試合でした。日本代表は対ヨルダン戦よりも速い動きが見えて、前半に長谷部誠のシュートで1-0。この他にもチャンスをつくったから、後半もこの調子でゆけると見ていたのに、76分(後半31分)にPKで同点とされた。しかもGKの川島永嗣がレッドカードを出されて10人になってしまいました。それを、この場面の少し前から(香川真司との)交代で入っていた岡崎慎司が相手のペナルティエリアで反則をもらい、今度は本田圭佑が決めて2-1として一人少ない劣勢を切り抜けて勝点3をつかみました。

賀川:シリアは第1戦で強豪サウジアラビアに勝って勝点3を取っている。この日この試合の前に行なわれた試合でヨルダンがサウジを破って勝点4となっていたから、日本はこの試合に勝っておかないと非常に後が苦しい立場にあった。

――まあ、最後には勝って勝点は合計4。得失点でこのグループの首位(2位はヨルダン)となり、一歩前進して一息つきました。まだ最終戦にサウジを残していますが、1次リーグ突破の有利な状態にあるのは確かです。
 それにしても、日本が失ったPKの場面、線審はオフサイドの旗を挙げていたし、私もそうかと思っていたのに、イラン人の主審はPKにしました。この説明から始めて下さい。

賀川:ヨルダン戦に比べてまず右サイドの松井大輔、内田篤人の動きが良くなり、初めからどんどん仕掛けた。左の長友佑都も前へ出るようになり、本田圭と香川真司との関係もよくなって攻めはヨルダンのときより良くなっているようだった。
 35分のゴールは
(1)本田がエリアいっぱいのところを縦にドリブルして
(2)ゴールラインから中へ――エリア中央に転がったボールを
(3)香川が左から中へ走り込み
(4)右へDFを外したあと、切り返して
(5)左足でシュートした
(6)前進していたGKモサブ・バルフスが手を伸ばして防ぎ
(7)そのボールがペナルティエリアから外へ転がってゆくときに
(8)松井が走り寄って短くパスを出して、自分は相手DFの前に立って長谷部のシュートコースをあけた
(9)長谷部の右足のシュートはゴール右に飛び込んだ

――攻撃に関わった一人ひとりの仕事が素晴らしかったです。

賀川:あとでまた説明したいが、このときの連係ぶりや個々のプレーのスピードなどはなかなかのものだった。

――これなら大丈夫かなと、テレビの前のサポーターは思ったでしょう。

賀川:もちろん、この前にも後にもチャンスがあった。この勢いのあるときに複数ゴールが取れない代表チームにはやはり痛いツケがまわってくる。

――シリアの後半の頑張りもすごかった。

賀川:後半はじめに10番をつけたフィラス・アルハティブが入る(MFサメル・アウアドと交代)とスタンドの歓声が大きくなった――とテレビは伝えていた。スター選手なんだろうね。前半からシリアの意気込みはなかなかで、中東らしく手を絡める、足を蹴るなど結構ラフだったが、後半はさらに激しくなる。
 日本の攻めを防いでボールが自分のモノになると、前半よりもロングボールを多用するようになった。日本側はそれをヘディングで跳ね返すのだが、そのジャンプの際に相手が体をひっつけ、腕を絡めてくるものだから、跳ね返すボールの勢いも弱くなる。それを拾われる、という場面が増えた。

――シリアのPKはそうした流れの中から生まれました。

賀川:後半19分頃から相手の左CK、右CKさらには右からのクロスといったチャンスがあり、日本が攻め込んだあと相手のクリアボールが大きくバウンドした。高く上がったボールを日本の吉田麻也がヘディングしようとするとき、サンハリブ・マルキが体をくっつけて妨害に来る。2人が競って落下したボールをアルハティブが拾って前へ出る。今野泰幸がこれを潰しにゆき、25m中央あたりに流れたボールを長谷部が取る。相手2人に対して4人がかりで奪ったのはいいが、そのあと長谷部が中央から右へドリブルして、そこからGK川島へバックパスをした。

――ボールの勢いが弱く一瞬ヒヤリとしました。

賀川:(1)川島がペナルティエリアいっぱい近くまで出てきて左足で蹴ったとき、マルキが足元へ滑り込んできた。
(2)そして川島の蹴ったボールは右斜め前へグラウンダーで転がった。これをアルハティブと今野が競り合って、どちらかに当たったボールがゴールに向かって転がってきた。川島とマルキがこのボールを取りにゆく形になった。

――てっきりマルキがオフサイドだと思ったのにそうではなかった。

賀川:主審のPKのジェスチャーに、日本選手はオフサイドだといった。モーセン主審は、川島の蹴ったボールを今野がまたバックパスをしたと見たらしい。プレーをした選手が相手方であればオフサイドにはならないということで、マルキはオンサイドとなり、そのマルキをファウルで止めた川島はレッドカード、そしてPKということのようだった。

――実際に今野の足に当たったのかどうか……

賀川:近くにいたレフェリーがそう判断したということだね。この問題については、日本代表は納得できないと抗議文を出すと言っていた――手続きの遅れで意見書ということらしいが。

――日本代表はGK川島の退場でFWの前田遼一に代えてGKの西川周作を投入しました。西川はPKは防げなかったが、急の交代出場だったがこのあとしっかり守った。

賀川:同点になったのが76分だから、まだ20分ばかり時間があった。アウェーの、しかも一人少ない条件で2点目を取るという大事な仕事があった。相手側は引き分けでも勝点4だからね。

――賀川さんは、2点目を取れると……

賀川:選手たちが攻めはじめたからネ。すぐに本田圭のシュートがあり、皆の動きも衰えなかった。

――遠藤からのパスを受けた岡崎がペナルティエリア内でファウルをされ、PKをもらいました。

賀川:3番のアリ・ディアブが腕で妨害して岡崎と競り合っているとき、2番のベラル・アブドゥルダイムがそこへ足を出して岡崎を倒した。

――そのPKを本田圭が得意の左足で決めた。

賀川:本田圭ほどの選手でも、ちょっと気持ちが昂りすぎていたのかな。GKモサブ・バルフスが右へ先に飛んだが本田のシュートはそのGKの足をかすめてゴール正面へ入った。足に当たっていたら……まあ彼の気迫で決めたゴールということだろう。

――現地からの話では、岡崎はファウルをよく取ってくれた――という言い方でしたね。

賀川:こういうエキサイティングな試合でああいう微妙な判定のPKで1点を取った後は、シリア側にもPKを取られる危険が大きくなるものですヨ。レフェリーはお返しをするわけではないけれどネ。
 74年ワールドカップ西ドイツオランダのときも、イングランドのテイラー主審は前半早々にオランダにPKを与えた後、西ドイツにもPKがあった。テイラーさんは重要な試合を見事にコントロールしたとして評価が高かったのだが、西ドイツのPKをもらったヘルツェンバインは自分から相手の足に引っかかって反則をもらうことの上手い選手だった。レフェリーも人の子、微妙な心理が働いても不思議はない。

――そのあとはハラハラもしましたが、波乱万丈の第2戦をよく乗り切りましたね。

賀川:選手たちの頑張りや、監督の交代選手の起用なども良かったと思う。ただしロングボールで受け身になったときの落ち着きや処理は、これまでの代表と同じ伝統手な弱さもある。そしてまた、いい攻め込みをしながらゴールが少ないのも改善されていない。

――それにしても、アジアのサッカーは大変ですね。それだけ面白いですが……

賀川:それでも、昔から見ればレフェリーも良くなっているし、グラウンドも悪くはない。西アジアのアラブやアフリカ等のプレーヤーたちと厳しい試合をすることで代表はチームも個人も伸びると思いますヨ。

――2-1としたのが82分、残り13分。それにアディショナルタイムが5分もありました。

賀川:最後のところで岡崎がペナルティエリアすぐ外でファウルされ、そのとき相手のナディム・サバクがイエローを出され、このFKを本田圭がキックするときにサバクがボールに近づいて2枚目をもらって退場になった。試合が終わったときにレフェリーに抗議してアリ・ディアブもイエローをもらった。

――第1戦のヨルダンも今度のシリアも、決して大きな国でもなく、人口も多くないのに、代表チームはなかなか力がありますね。

賀川:ワールドカップの16強に入ったといっても、アジアで勝つのは簡単なことじゃない。サッカーが世界でどれほど盛んで、各国ともにレベルアップに力を入れているかがこの大会でも見ることができる。そして同時に、それぞれの気質によって色々なスタイルのチームや選手をみることができる。その意味でも、アジアカップでテレビ朝日やNHK BSが放映してくれるのはとても嬉しいことですヨ。

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滝二の優勝に思う ~2011全国高校選手権~ (下)

2011/01/14(金)

◆ゴールを奪えるチーム同士の見応えある決勝

賀川:3点目はゴール前に上がったボールに2トップだけでなくもう一人が入って3人が壁のようになったから、久御山のDFもGKも満足にとれず、こぼれ球を本城がシュートして決めた。3-0となっても久御山は諦めずに3分後に1ゴールを返したから試合はさらに面白くなった。

――点を取ろうと前掛かりになってくる相手の裏へ浜口が飛び出し、一発のパスを受けて4-1。誰もが勝負あったと思ったでしょう。

賀川:このあと滝二は同じようにノーマークシュートの場面をつくりながら追加できず、久御山が後半の31分と39分に2点を取って追い上げたのはすごかったネ。

――中盤でドリブルの多かった久御山がパスで中盤を攻め上がり、ゴール近くでドリブル主体で攻め込むようになりました。

賀川:新聞の見出しに“京都のバルサ”とあったが……ドリブルの集団性という点ではアルゼンチンのようでもあった。それはともかく滝二のディフェンスも体が効かなくなった。

――テレビの「守り抜けるでしょうか」という声を聞きながら、賀川さんは「5点目を取らなアカン」と言っていましたよね。

賀川:相手は攻めてくるのだから、ここで1点取ればいいんですヨ。

――その1ゴールを樋口が取った。

賀川:アディショナルタイムに入っていた。中盤でパスをつないでいた久御山が、またドリブルするようになった。それを滝二が奪い返して攻める――というやり取りが2~3回続いて、交代で入っていた恵龍太郎が久御山側の25メートル右寄りあたりで相手ともみ合ったとき、後方から樋口が走り込んできた。競り合ったボールが高く上がって、ペナルティエリア内に落下するのを樋口が先に落下点に入り、飛び出してきたGK絹傘を右に外してシュートした。彼の得意の角度だったから、シュートは強く、ゴールカバーに入ろうとした久御山のDFも取れなかった。

――最後まで白熱した試合は、樋口のゴールで勝負ありでしたね。

賀川:前半のようにパスが上手くつながって、というのでなく、力づくで取った感じだったが、ここにも滝二のカラーがあったように思う。

◆全国にいチームがたくさん出来、いいプレーヤーがたくさんいた大会

――関西人、神戸一中OBとして、また黒田先生を神戸FC時代から知るサッカーの先輩として、色々な思いがあるでしょう。もちろん、この若者たちのプレーに不満な点もあるでしょうが、それはまた次の機会にして今回は……

賀川:まず滝二のみなさん、おめでとう。兵庫のみなさん、関西のみなさんおめでとう。近畿勢の決勝を国立でやれたということも嬉しいことですヨ。
 今年の高校選手権ではたくさんのいいプレーを見せてもらった。日本サッカーの若年層の育成がいよいよいい時代に入っているように感じ、とても楽しい大会のテレビ観戦だった。

――ヴィッセルもJ1で戦えること、香川真司という誇るべきプレーヤーが伸びる年でもあり、2011年は神戸も関西もいい年になるでしょう。


【了】

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滝二の優勝に思う ~2011全国高校選手権~ (上)

2011/01/13(木)

――滝川第二高校、やりましたね。高校チャンピオンです。

賀川:決勝戦はすごかった。5-3の攻め合い、最後まで力を振り絞ってのプレー、サッカーの面白さをいっぱい見せてもらった。

――兵庫県の、しかも優勝経験もある神戸一中のOBとしても嬉しいでしょう。

賀川:時代は違うけれど、古い神戸人にはサッカーのプライドがありますからね。私が診てもらっている歯科医院の大先生は旧制神戸三中で兵庫の故・高砂嘉之元会長と同期で、もちろんヴィッセルのファン。サッカーの話になると昔の神戸三中は強かったのに……とおっしゃる。

――神戸三中は全国準優勝(昭和15年、1940年)しています。それにひきかえ今は……ということですね。

賀川:まあ、そんな古い話はともかく。滝川第二高校サッカー部は私たちの親しい黒田和生さん(ヴィッセル神戸育成担当)がつくり上げたもので、その黒田先生のあとを受けた栫裕保監督によって初の栄冠をつかんだ。だからテレビ観戦にも力が入りましたヨ。


◆粒ぞろいの滝二のチーム全体の攻撃に感嘆

――滝二の良かったところは?

賀川:この年代の3年間のチームで、この大会へ向かって見事にまとまったところでしょうね。個人的にも、もちろん伝統的にいい選手の集まってくるところだが、それだけに監督さんにも大変だろうと思う。
 2トップを支援するサイドへ出てくるMFも、左が小柄な(161センチ)ドリブラー白岩涼、右が本城信晴で、これもしっかりしている。

――1点目は左からのロングボールをファーポスト側で本城がヘディングで折り返して浜口孝太が決め、2点目は右サイドのオープンスペースへ走った本城へのパスを受けて中へ入れたのを樋口寛規がワントラップシュートを決めました。2点とも本城からのパスを2トップがそれぞれ決めています。

賀川:本城のヘディングパスを浜口がゴール正面で相手DFを背にしてターンし左足で決め、樋口はグラウンダーの右からのパスを小さくさわってすぐ右足でGK絹傘新の左を抜いた。落ち着いたプレーだったネ。

――前半はじめに久御山にチャンスがありましたが、徐々に滝二の運動量が目立つようになった。



【つづく】

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いいパスも展開もすべてゴールを奪うため(下) ~AFCアジアカップ カタール2011 vsヨルダン~

2011/01/12(水)

◆多数防御のヨルダンに手を焼き苦戦したが、0-1から1-1にしたのでまずまず

――前半の終了直前にゴールされたのですが、日本側にもいくつかチャンスはありましたね。

賀川:前半15分頃に、長谷部誠からのクロスが本田圭佑に渡ったが、相手2人に体を寄せられモノにできなかった。

――南アフリカの対カメルーン戦の再現!! と思ったのですが…

賀川:ゴール正面だったし、相手の守りの厚いところだからね。あとから考えれば、長谷部は外にいた香川へクロスを送るべきだったかな……。しかしこの辺り、ヨルダンはしっかり守っていた。
 25分には左CK(遠藤)の相手クリアから長谷部のボレーシュートがあり、GKアメル・シャフィが防いだリバウンドを吉田麻也が決めたがオフサイドだった。

――解説の山本昌邦さんが、「ヨルダンDFが前に出てオフサイドを取ったところが意識統一ができている」と言っていました。

賀川:そういうことをしっかり訓練したのだろうネ。

――27分には左サイドから長友佑都、遠藤保仁とつなぎ長谷部からのパスが右へ出て、内田篤人が胸でトラップしてゴールラインぎりぎりから中へ送ったパスを、FBとGKとに防がれたのがありました。

賀川:大きな揺さぶりのあと、右サイドのゴールラインまで食い込んで、しかもエリア内までという攻め方にはいい形だが、多数防御の相手だから……

――内田のパスをDFが辛うじて左足で止め、それをGKが取った。

賀川:こういうときのパスのスピードだネ。例えば相手に当たることも頭に入れて強いシュート性にするとか、膝の高さに浮かせるとか。

――1936年の話もありますね。

賀川:ベルリン・オリンピックの頃のCF川本泰三さんが、同じ早大の加茂正五さんに要求したのは、ペナルティエリアの根っ子のところから後ろ目のクロスを出せ、それも相手DFのスライディングなどに引っかからない脛(膝)の高さに浮かして――ということだった。まあ、一番のチャンスメークのポイントへ入ってくるようになったワケだが、そこからの出し方もこれからの工夫であり楽しみでもあるわけですヨ。
 その3~4分後に、左から香川がクロスを出している。強いライナーだった。仲間に通らなかったが、彼はおそらくエリア内にたくさん守っている相手を見て強い球を選んだハズですよ。



◆不満はあっても、日本代表のサッカーは面白い

――40分に香川が中央で裏へ出て打ったシュート(GKが防いだ)も惜しかったです。

賀川:ああいう狭いスペースでの彼のプレーの上手さが出たけれど、ここで決めておくべきだっただろう。ゴールに近いところからのシュートは叩きつけるのもいいが、高さがあってもいいし、ファーでなくニアを狙ってもいい。香川にはちょっと口惜しい場面だった。

――その香川が後半、中へ入ってトップ下に、本田が右に移ってからチャンスも多くなりました。

賀川:本田が内へ持ったときには左足のキックという強い武器があるし、彼が左へ流れれば相手にはとても脅威になる。
 香川は、右前へ出るときのスピードとボールタッチの上手さはすでにブンデスリーガで証明されている。それだけでなく、左へ持っても左足のシュートまで行けるようにもなっている。そういう自信は相手にも反映し、相手の対する威嚇にもなる。そういう心理的なものも試合の中では作用してくる。

――攻撃の柱の組み合わせですね。

賀川:監督さんも色々考えて組み合わせるだろう。いま伸び盛りの二人が代表チームの攻撃を担うのだが、その特徴を仲間がしっかり掴むこと、そしてまた岡崎慎司前田遼一、李忠成たちが自分がどこでどういう特色を出すかを工夫していくことでしょう。
 もちろん、この2人にとっても守備は大事ですヨ。守備をすることは次の攻撃の第一歩だからネ。

――DFの吉田は2つの得点に絡みましたが、良かったですね。

賀川:長身でボールを扱う形がいい。やはり新しい日本のサッカー選手だネ。高校選手権を見ても、彼のような選手がいれば滝二のFWのように頑丈でシュートのできる若者もいる。日本のサッカーはいま多彩なプレーヤーが育ち、充実期にある感じがする。だからこそ、アジアカップで、そのいいところを出してほしい。

――今回は、点を取ろうという全員の意欲が最後に吉田のヘディングになって表れ、どうにか引き分け勝点1を取れました。

賀川:引き分けと負けではずいぶん違うからね。その点は選手も監督もしんどい試合をともかく引き分けたのは良かったと思いますよ。
 こちらも疲れ、相手も疲れていたときの左CK、キッカーの香川へ長谷部が駆け上がってニアでもらい、ファーポストへ高いボールを送って吉田が素晴らしいジャンプヘッドでゴールを決めた。その前の右CKのときにキッカー遠藤の方へ香川が寄ってショートコーナーにしようとしたが、途中で止めた。

――この試合では、そういえばショートコーナーは初めてでしたね。

賀川:多数防御の相手に対して、CK一つをとっても手を変え品を変えという工夫や着意が必要なのだが、今回は久しぶりにそういう試合になって、皆の気の配り方が足らなかったのかもしれない。

――いい反省点になったでしょう。

賀川:多数守備を破ることについては、私には前から言っているやり方もあるが、それはまたの機会に。第2戦を楽しみにしておきましょう。

【了】

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いいパスも展開もすべてゴールを奪うため(上) ~AFCアジアカップ カタール2011 vsヨルダン~

2011/01/11(火)


◆あのスペインでも南ア大会でスイスに敗れた例もある。だからいいとは言わないが…

――アジアカップの第1戦、対ヨルダンは1-1の引き分けでした。楽しみにしていたのに、ちょっと当て外れというところでしょうか。

賀川:そう感じる人も多いだろうね。ワールドカップ2010で16強へ進んで、そのあとのアルゼンチン戦をはじめとする国際親善試合でも南アフリカでの蓄積に香川真司の進歩が加わって、日本代表に一種の充実感のようなものがあったからね。

――ヨルダンは守りを厚くして、局面の競り合いでも非常に激しく、足や体にぶつかるのは当然という感じでやってきましたから、日本代表もやりにくかったでしょう。

賀川:だからこそ、サッカーは面白い。ワールドカップの1次リーグで日本と戦った相手・カメルーンオランダデンマークは国際的にも名の通った選手もいたし、全体的にレベルが高い。したがって、ボールポゼッションは相手が上で、こちらはまずそのボールを奪うこと、危険地域で潰すことに力を注ぎ、チャンスに攻めに出ることになる。
 それがアジアカップのような大会の1次リーグでの戦いはその逆の立場になるからね。

――そういうことは、分かっていても難しいものなんですかね。

賀川:南アフリカのワールドカップの1次リーグで、あのスペインが初戦でスイスに負けたでしょう(0-1)。もちろん、フェルナンド・トーレスの調子が悪かったこともあったが、彼らだってほぼベストに近いメンバーでスイスにしてやられたのだから……

――ふーむ。だからといって、日本がヨルダンと引き分けていいというわけじゃないでしょう。

賀川:もちろんそうだ。今度の代表のスターティングラインナップにヨーロッパ組が8人いた。フィールドプレーヤー10人のうち7人が欧州組ですヨ。

――レベルの高いところにいるのだから、ヨルダンぐらいなら……と考えたくなります。

賀川:ヨルダンの選手は意気込みがまず強かった。モチベーションの高め方が良かったのだろうね。日本はそれを始めに叩いておくことができなかった。

――というと

賀川:キックオフからすぐ、本田圭佑がドリブルで右コーナーまで持ってゆき、2人に絡まれ、また持ち直して内へ上がってきた内田篤人にパスをした。内田はペナルティエリアすぐそばから中へパスして、そのパスが仲間に渡らずに奪われてしまった。ボクはあのときテレビの前で失望した。内田がシュートをするかシュートの構えに入るかと期待したのだが。

――本田が個人的な強さを見せつけたのだから、そのあとのプレーも強気でゆけというわけですか。

賀川:もちろん試合中は選手はそういう風に理論的に考えるわけではないが、あの勢いに乗った本田の動きのあと、内田にも勢いに乗りシュートしてほしかった。走り込んだときに彼にはシュートのつもりがあったのかどうか。

――日本選手ならあの位置で仲間を探しますよ。

賀川:「兵は勢いなり」と昔からいうが、ボクはあそこでシュートの気を起してほしい。もし前が詰まっていてパスを選択するとしても、シュートの気配を見せることでコースも開け、タイミングも違ってくる。

――なるほど

賀川:得点になってもならなくても、本田の突破とそれに続く内田のシュートでヨルダン側から見れば「お主(ぬし)やるナ」という感じになるハズ。


◆気候風土がすっかり変わる西アジアでの試合の経験はザッケローニ監督にとってもいい経験になる

――前田遼一がワントップでしたね。

賀川:10分までに相手ゴール前でヘディングシュートをしたのと、本田からのパスを受けて左足でシュートした。ヘディングは弱くてDFに胸でカットされ最後はGKにキャッチされ、左足シュートは右ポストの外へ出た。彼らしいプレーだと思ったヨ。

――Jでの2年連続得点王ですからね。

賀川:このプレーヤーはストライカーとして上背も(日本人の中では)あるし、色々な技術もあって相手を背にしたプレーもできる。ただし今のJリーグでは、CDFはほとんどが日本選手で外国人プレーヤー独特の大きさとか重さとか、あるいは速さ、イヤらしさといったものに出会うことが少ない。彼にとっては、こういうチームは格下だが、結構激しくて強い西アジアの選手を相手に良い経験を積んでゆくだろう。

――後半には李忠成が交代で入りました。

賀川:ザッケローニ監督は色々試したいのだろう。何といっても、攻撃での大事なところだからね。

――しかし、テレビを見ていて、ヨルダンもなかなかやるなと思いました。

賀川:日本の方が技術は上だという声もあるけれど、それはチームプレーを構成するという点では日本の方が統制されているが、今ここでシュート、とか、ここで相手をかわすといった局面での個人プレー、つまり試合の流れで役に立つプレーについてはヨルダンの方が日本より下手とはいえない。
 前半終了間際に奪われた得点はパスの成功からでなく、当たったリバウンドを奪われ、そこから間合いが遠かった遠藤がスライディングに行ったのをハサン・アブデルファタにかわされ、そのアブデルファタの左足シュートに足を出した吉田麻也に当たってコースが変わりゴールへ飛び込んだ。

――吉田選手は気の毒でした。

賀川:ヨルダンは偶発的にも見えるチャンスをモノにしたわけだが、それでも、その一つひとつのプレーはしっかりしたものですヨ。

【つづく】

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2011年 新春問答(下)

2011/01/08(土)

◆年男たちの充実と代表の底上げを
 いいときほど用心深く足元を見つめ、個人力を高めよう


――1987年生まれの卯年は、つまり今年の誕生日で満24歳、いま23歳ですね。

賀川:本田圭佑(CSKAモスクワ)が86年6月13日生まれ、興梠慎三(鹿島アントラーズ)や岡崎慎司(清水エスパルス)も86年だから、彼らと香川真司(89年/ボルシア・ドルトムント)内田篤人(88年/シャルケ04)森本貴幸(88年/カターニャ)たちの間ということになる。

――アジアカップ(1月7日-29日、カタール)の日本代表候補に選ばれた50人を見ると、87年生まれは槙野智章(サンフレッチェ広島→1.FCケルン)森重真人(FC東京)西大伍(アルビレックス新潟)たちDFと浦和のMF柏木陽介、それにガンバのFW平井将生がいます。柏木と平井は賀川さんと同じ12月生まれだから、ことし11月までは23歳ですが。

賀川:早くから芽を出す選手もいて、必ずしも年齢は基準にならないが、それでも長い目で選手を見ていると、当たり年の24歳はある意味で最盛期・充実期の大切な節目といえる。
 釜本邦茂がメキシコ・オリンピックの得点王となり銅メダル獲得の主役となったのが24歳だった。昨年の2010年に大活躍して大ヒーローになった本田圭佑もまさに24歳、長友もそうだった。大分からセレッソへ移ってチームの中心としてリーグ3位に働いた家長昭博(現・マジョルカ)も本田と同じ86年6月13日生まれで24歳だった。

――せっかくの当たり年の皆さんには充実した2011年であってほしい、と……

賀川:彼らのあとさき、ベテランも若い選手もザッケローニ監督はまず50人を選んで、その時々にコンディションのいい選手を組み合わせてゆくだろう。

――今度のアジアカップはそういう意味でもワクワクしますね。

賀川:昨年から日本サッカーは全体に上げ潮ムードになっている。そして、その中で選手たちは代表であってもクラブであっても、チームは心を一つにして“戦う”ことの大切さを知った。と同時にワールドカップで、個人力をもっと高めないといけないことを選手たちが知ったハズ。その個人力アップをどうするかについては、JFAの技術担当の人たちも充分考え工夫していると思う。
 いまドイツでも評判の香川真司に3年ほど前にインタビューしたとき、この若者のサッカーへのひたむきさに感心した。いまそのときのメモを読み返すと、この選手の成長は当然のような気がしてくる。

――香川くんの大ブレークで関西全体に勢いがついてきた感じです。

賀川:釜本が山城高から早大へ入って1年目から関東大学リーグの得点王となったとき、次の天皇杯のときにスタンドに「釜本頑張れ」のノボリを持って応援するグループが現れた。その頃のサッカーでは初めての現象だった。いい選手の活躍は出身地域全体を明るくしますヨ。

――大学選手権で関大が優勝し、女子も勝ちました(INAC/全日本女子サッカー選手権大会)。高校選手権でも滝川第二と京都の久御山が国立での決勝に勝ち上がっています。

賀川:滝川第二は黒田和生監督の最後の年に全日本ユース(高円宮杯)で優勝したが、高校選手権ではまだ優勝はない。面白いのは、前のチームと同じように今度のチームも遠くからシュートを打っている。この学校のクラブは蹴ることを重視するようになってから、大会でも一段上へ進めるようになったのだが、今度もそれが生きているようだ。もちろん、走力もあるし、競り合いの粘りもある。他の学校にはズバ抜けたプレーヤーも見受けられたが、滝二の勝ち上がりを見ていると、戦前の神戸を思い出して嬉しいね。
 サッカーは何が起こるか分からないのだが、高校選手権もアジアカップもとても楽しみですヨ。

【了】

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2011年 新春問答(上)

2011/01/07(金)

◆2010年の上げ潮からさらに前進を


――2011年、まずは新年おめでとうございます。

賀川:昨年はいろいろありました。私自身の殿堂入りということもあり、また、そのあとの祝賀会にもたくさんの人が集まって下さった。旧年中はお世話になりました――という言葉は、今年は特に強く感じます。まずは、本年もどうぞよろしくお願いします。

――年末年始は生(ナマ)の試合観戦はしましたか?

賀川:寒気の強い日もあって、スタジアムにはゆかず、もっぱらテレビでした。

――年末年始は試合の放映もスポーツの企画も盛りだくさんでしたからね。

賀川:それに、殿堂入りの余波ということもあって、私のところへ取材に来られる雑誌や新聞の人たちも増えたから、結構忙しかったのです。

――そういえば、昨年12月29日の誕生日で満86歳になられたのですよね。今年はいよいよ87歳に向かっての年、干支(えと)は卯(う)でウサギの年です。

賀川:私は干支は子(ね)、十二支の一番目。ここから丑(うし)寅(とら)ときて4番目が卯ということで、方角でいえば子が北ですから卯は東になるでしょう。私の妹の清子(故人)が卯年でした。私より3歳下、1927年生まれでした。

――1927年といえば昭和2年、日本サッカー史では第8回極東大会(上海)で日本代表が初めてフィリピンに勝った年です。

賀川:いま週刊サッカーマガジンに連載中の「日本とサッカー90年」を読んでくれているのですネ。JFA(日本サッカー協会)が創立された1921年(大正10年)からわずか6年で、国際舞台で1勝したのです。

――その次の卯年というと1939年(昭和14年)そして1951年(昭和26年)1963年(昭和38年)1975年(昭和50年)1987年(昭和62年)1999年(平成11年)そして今年となります。

賀川:大戦が終わって6年目の1951年は第1回アジア大会がインドのニューデリーで開催され、日本のスポーツが国際舞台への復帰を果たした年で、サッカーは3位になっている。

――卯年はウサギにかこつけてジャンプを願う人が多いですが、今年は年初の株価が上がりました。サッカーの話題も昨年から明るい感じがします。

【つづく】

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南アW杯コラム「心は南アフリカへ」を更新

2011/01/04(火)

新コーナー心は南アフリカへ ~40年ぶりに日本で見るワールドカップ~を更新

  • パラグアイ0-0(PK5-3)日本 PK戦の日本敗退を惜しみ、監督、選手一体のチーム成果を喜ぶ
  • パラグアイ0-0(PK5-3)日本 日本サッカー史の中に新しい彩りを加えた岡田武史監督の強運とそれをつかむ努力
  • ヨハン・クライフ流を受け継ぎ、頂点に立ったスペインのショートパス
  • ドゥンガ、マラドーナの南米2強敗退。遠藤保仁のJ再開
  • 3位ドイツに見る技術向上の意欲。「走る」重視とともに1対1の能力アップが不変

  • ※このコラムは『週刊サッカーマガジン』に2010年6~8月号に掲載されたコラムのバックナンバーです

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