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赤トンボと号隊始末記(中)

2010/08/14(土)

※この記事は、航空碑奉賛会 発行 『続・陸軍航空の鎮魂』に寄稿したものです

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賀川浩、出征の日。
実兄・太郎が、いつも胸ポケットに入れていた写真



◆と号もマスプロ体制

 95式一型練習機、いわゆる赤トンボを黒く塗り替え、後座席をタンクに改造して燃料増積をするようにし100キロ爆装でゆくのだといわれたときは、正直、えらいことだナと思った。それはまた、と号部隊戦闘要領という小冊子を受取ったときの感慨とも似ている。

 この小冊子はその冒頭にある
「と号部隊ノ目的ハ航行マタハ舶地ニ於ケル敵艦船艇ニ驀進衝突シ、コレヲ必沈シテ敵ノ企図ヲ覆滅シ、以テ全軍制勝ノ根基ヲ確立スルニアリ」という第一項以外はほとんど覚えていない。突撃開始点、角度、急降下攻撃、急降下水平攻撃などが図入りで説明されていたが、ガリ版でなく、ちゃんとした活版印刷であったことで、特別攻撃隊がマスプロ体制に入ったことを知った。特攻は、すでに特別なものではなく、と号隊は、戦闘機隊や、爆撃隊と同様に陸軍航空の一分科となったという印象を受けた。そしてこの戦争もいよいよ、ここまで来たという感を強くした。

 宙543部隊、つまり海州の教育飛行隊はこうして12隊のと号隊を編成した。他の3期の見習士官は、このあと温井里(戦闘)会文里(爆撃)に移って、次の過程に進み迎陽飛行場には、と号と、少年飛行兵の教育隊と、飛行場大隊だけになった。
 兵舎の一棟の半分、6室を借りる形になり1室に2隊(12人)が寝起きした。川上隊と同室の大島隊は3期(本城、小袋、伊藤、斉藤、富田)の隊員ばかりで、他の10隊は2~3の特操3期と、3~2の特幹の伍長で編成されていた。食事は将校集会所。設備は粗末だが、待遇は心のこもったものだった。魚の刺身もときには出た。何より嬉しかったのは燃料はアルコール100%とはいえたっぷりあり、飛行機は(当然ながら)一人に一機ずつ。整備は大刀洗飛行学校時代からのベテランの軍属がいて頼りになった。

 昭和20年6月1日から合同訓練がはじまり、5航軍から則安少佐が、各隊を統括指導するために来られた。加藤戦隊の生き残りという少佐のおかげで、演習は純技術的になり、内容も充実したものだった。
 急降下攻撃、超低空飛行、二機編隊の一目標への急降下攻撃、夜間離着陸、洋上飛行、爆装離着陸などが主な課目。降下角35~30度の急降下攻撃はスピードを増せば機は浮力を増す。ために目標の上を飛び越す公算も大きい。突撃開始のときには所定の角度より浅く入った方が良いようだった。開始の高度は演習では800mだったか。

 相手に接近するまではレーダー並びに敵戦闘機を避けるために超低空ということで、これはみっちり行なった。畑の一軒家の軒下や海州港にいた船の舷側より低く飛んだりするものだから教育隊付の小暮准尉が「あんな遅い機で、低く飛ぶと、いざというときに急上昇できないから、充分注意しなさいヨ」と風呂で会ったときに忠告してくれた。戦闘機乗りの熟達の准尉から見れば、わたしたちの飛行ぶりは無鉄砲に見えたに違いない。
 夜間飛行は海辺の飛行場特有の横風と霧に悩まされた。事故もあった。アルコール100%だから、レバーを絞って、さて急に入れるとブルブルストンと止まってしまう。レバーを絞り切らないように(急降下のときも着陸のときも)することが大切だった。


◆格納庫の屋根が上の方に見えた

 6月の末に53航空師団長の査閲があった。「良好」との評だったが、このとき飛行場のT型布板に対する急降下攻撃で川上隊の前田明見習士官が地面に激突寸前まで降下して皆に冷や汗をかかせた。
 布板の横で角度を測っていたわたしは、いつになく布板から軸線の外れている前田機を見ていた。これは命中せずの採点になるゾと思っていたら、引き上げ高度に来ているのに尾翼が動かない。危ないと思う間もなく、彼の機は布板から少し離れた師団長や幕僚の天幕へ――。地面に座り込んでいたわたしの目からは、彼の機は天幕の向こうに隠れた。「やった」と立ち上がったとき、前田機は急上昇していた。
 頭上をかすめられて天幕の中から参謀が飛び出し、そのわきにウロウロしていた犬が頭を蹴飛ばされてキャンキャンわめくなど、ちょっとした喜劇だった。さすがに師団長はイスから腰を浮かしただけだった。

 着陸した前田が報告する「前田見習士官、急降下攻撃終わりました」則安少佐が聞く、「どれくらい降下したと思うか」前田「引き上げる途中、左側にある格納庫の屋根がずいぶん上の方に見えました」少佐は「それくらい落ち着いていればよろしい」とニヤリと笑った。


【つづく】


(航空碑奉賛会 『続・陸軍航空の鎮魂』 昭和57年4月発行 より)

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