日本代表 vs カタール代表(5)
――最終戦の前に気になることは?
賀川:うーん。対オーストラリア云々とは別に、いくつかの問題がある。それはJリーグにも通じるものですヨ。
――ストライカーがいない、Jの個人得点ベストテンはほとんど外国人で占めていると、よく賀川さんは言っていますね。
賀川:得点できる選手がいれば、チームに大きなプラスになることは皆よく知っている。だからこそ、外国人のゴールスコアラーを補うわけだ。だけど、自分たちの手で、いいストライカーを生み出してみようと思わないのがネ……。ストライカーの話とは別に、たとえば、Jのチームに何人、スローインで遠くへ投げられる選手がいるのかな。昔、ヴィッセルに一人いたがネ。
――投げるだけではダメでしょう。
賀川:日本代表は皆サッカーがうまいが、一人くらいロングスローのできる選手がいてもいいだろうに。これも体格の問題でなく練習の問題でしょう。色々な技術を身につけてゆかなければならないのに、選手に新しい技をつけるようにコーチたちはアドバイスしているのかね?
――うーん。ロングスローは確かに武器ですよね。
賀川:阿部勇樹や今野泰幸のカタール戦のプレーを見ていると、彼らが気の毒になった。
――消極的に見えたから?
賀川:阿部は、ジェフ市原(当時)にいて、オシムさんにキャプテンに指名されたころから見ている。177センチでそれほど大きくもなく、足がうんと速いわけではない。特色は右足のキック、日本人には珍しく長い距離のボールを蹴れる。CKを蹴ると、ファーポストへ届くボールをコントロールキックできる力があった。彼よりも上の世代、たとえばカズ、三浦知良はキックの精度の高い選手だが、コントロールの距離はCKならニアポストだった。
――イングランド戦のCKで、井原だったかがヘディングで決めましたね。
賀川:古いファンなら皆覚えているでしょう。カズのコントロールキックと井原のヘディングの合作が生んだ、ウェンブリースタジアムでの日本の歴史に残るゴールですヨ。ただし、そのカズでさえ、ファーポストへのキックとなると精度はいまひとつ。それはキック力、ゴルフでいえば300ヤードを楽に飛ばせる人は250ヤードはコントロールショットになるのと同じ理屈ですよ。
長蹴力ということになると、日本人選手は外国選手に劣るのは仕方ないが、だからこそ、長蹴力のある選手は武器としてみることが大切――。
――前にも一度うかがいましたね、この意見。
賀川:ここからはちょっと踏み込んで言わせてもらおう。
その阿部は、DFもとりあえずこなせるものだから、ポジションが一定せず色々な使われ方をする。長いキック力を生かせるコントロールキックのパスを使うチャンスがなくて、ここしばらく伸びが止まっている。
――というと…
賀川:早い話が、スクリーニングという身のこなし、あるいは動作は、古い時代はCF(センターフォワード)の技術のことだった。背後からセンターバックにマークされていてボールを受けるから、それを止めて、仲間に渡すポストプレーとともに相手の出方によってはボールと相手の間に自分の体を置いて、ターンして抜き去るとか、抜くと見せてキープして時間(間)を稼ぎ、仲間へ有効なパスを出す。そのスクリーニングは、いまの世界のトップのサッカーではどのポジションの選手もできるようになっている。もちろん、一流チームでもDFの選手がクリスチアーノ・ロナウドほど上手にスクリーニングできるわけではないが……。
アジアでも、もうディフェンシブハーフも後方からのパスを受けることも多くなって、スクリーニングが上手にできなければならない。カタール戦では、阿部が相手のプレッシングで簡単にボールを失ったのは、日頃こういう動きを必要としていないからだろう。つまり、代表のボランチをするのに、そのポジションに必要なプレーを自分のチームで蓄えてきていない、と言える。
――ほかには?
賀川:阿部は私の好きなプレーヤーの一人。だからあえて言うと、右のすごいキック力があるのだから、若いうちに左足のキックをもっと練習すべきだった。左足で蹴れば、そのときは右足で立つことになる。だから相手とのボールの奪い合いでも体のバランスが良くなって強くなるのだヨ。
――いまからでもできるようになるでしょうか。
賀川:ローター・マテウス。あのドイツ代表のキャプテンとして90年ワールドカップに優勝した名選手も、右足の強いシュートだけでなく、左でも蹴れたが、それは27~28歳になってから練習したと言っている。
――どんな得がありますか?
賀川:たとえば、彼が左サイドでボールを受けたとする。左足のキックができるようになり、走りながら左足クロスを蹴ることができれば、縦にドリブルしてチャンスをつくれる。ドリブルで抜けなくても、パスを出してもらって蹴ることもできる。そして、もし左で蹴るチャンスを押さえられれば、切り返して右で蹴ればいい。そうなれば右の長いコントロールのクロスでファーサイドの味方に届くし、ボールもあるわけだ。
――分かりました。得意の右を生かすためにも、左のキックの能力を上げろ、ということですネ。
賀川:そう。今野は、守備の勘、危険地帯の察知力は高いし、労を惜しまぬランもある。左のキックはしっかりしているハズだが、それも近頃は満点とはいえない。力もそうですヨ。
――一口で言えば、進歩が遅いということ?
賀川:彼らのすぐれた素質から見ればネ。阿部はヘディング力を上げ、今野もそれでチームの特典に貢献しているから進歩はしているのだがネ。もっともっと伸びる人たちですよ。
――俊輔は頑張っていますね。
賀川:素晴らしいネ。しかし、セルティックでフルシーズン戦った後はやはり疲れが残っている感じだね。故障もあるだろうし、彼らしくないプレーもいくつかあった。それだけに、今年の移籍がどうなるのか――気になるね。
【了】
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