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アウェーの大ハンデの中で大一番に勝った日本代表の実力(3)

2009/06/10(水)

■岡崎・憲剛が生きた先制ゴール

――それが、大事な試合で出ましたね。

賀川:前半9分のこのゴールは、すでにテレビや新聞で皆さんも何度も注目し、読み直されたことと思う。ピッチが日本向きでなく、レフェリーが明らかに日本側に厳しかったという2つの大ハンディキャップで、見る者にもプレーする選手たちにも不安が出そうなときの先制ゴールだったからネ。

――中村憲剛のパスがうまかった。

賀川:右サイドから裏へ走る岡崎の前へ、少しボールを浮かせてパスを送った。彼はサイドキックでゴロ(グラウンダー)の正確なパスを出すのだが、この日の深い芝の状態を見て、転がすより空中(ライナー)のボールの方が正確に届くと見たのだろう。小さくボールの底を蹴って浮かしたボールを岡崎が走りながら右足のインサイドでピタリと止め、相手DFに追走されながらバウンドに合わせて左足でボレーを叩いた。ボールがGKに当たって跳ね返ったのを、岡崎は前に倒れながらヘディングした。ボールはGKの左を通りすぎてゴールへ飛び込んだ。

――自分で蹴ったリバウンドを決めたのですからね。

賀川:私は、2002年W杯の前にモロッコでの対フランス戦でモリシ(森島寛晃)が決めたゴールを思い出したヨ。

――ああ、DFラインの裏へ飛び出してシュートし、そのリバウンドを決めたゴール。あの大選手ドゥサイイーが、モリシに何か口汚く罵ったそうですね。

賀川:彼らにとっては予期しない出来事で、W杯優勝チームのディフェンダーは驚いたのだろうネ。実はこの岡崎の先制ゴールはかつてのモリシと同じように彼がディフェンスに参加したプレーから始まっているんですヨ。

――へぇー。


■守りのヘディングから岡崎は攻めに転じた

賀川:このチャンスの少し前に、ウズベキスタンが右サイドから攻め込んできた。8番をつけたタフなジェパロフがスローインして味方に当てて、そのリターンを受け、左足で高いボールを中央へ送った。ペナルティエリアすぐ外に落下したボールをジャンプヘディングで取ったのが岡崎だった。

――そこまで戻っていたんですね。

賀川:この少し前、中村がジェパロフにタックルしていたからネ。
(1)岡崎がヘディングで前へ送ったのを
(2)中村憲剛が取ってすぐ前を向き、ドリブルして誰もいないスペースへ持ち上がって
(3)ペナルティエリアへ行くまでに相手の2人に挟まれてボールを奪われた
(4)奪ったウズベキスタンはバックパスをしてDFが前へ蹴った
(5)このボールを長谷部が取った。ノーマークだった
(6)前方右に大久保がいた。岡崎はその前にスタートして右外へ上がろうとしていて
(7)長谷部はすぐ前の中村憲剛に5~6メートルのパスを送った
(8)憲剛はターンをしながら右外側から走り込んでくる岡崎のコース、DFラインの裏へ送った

――自陣ペナルティエリアから相手のゴール前まで岡崎は長いランをした。

賀川:そう、岡崎の走力はすごいが、ただし、このチャンスは中村がドリブルを奪われ、その相手のパスを長谷部が取る。そして長谷部がすぐに相手DFの裏へ出すのでなく目の前の憲剛に渡し、憲剛が裏へ送り込んだから、この間、岡崎のランは間にタメが入っている。この日、中村憲剛をこのトップ下に置いたことの効果がここにも出ていたよ。

――このあとにもチャンスはありましたが、得点にはならず。特に後半は押し込まれて大変でしたね。

賀川:このゴールはまさに、いまの日本サッカーの実力を示す見事な得点だが、その後の苦い時間を防いだのも日本サッカーの実力ですヨ。中澤と闘莉王、それに両サイドのFB、さらには中村俊輔、遠藤、長谷部たちの素晴らしい守りのプレーもまた歴史に残るものだ。

――いくら押し込まれても、その間にもう1点取っておけば楽だったのに…

賀川:それについてはまだまだ、付け加えるべき話もあるし、言いたいこともある。特に攻撃の選手にはネ。ただし、1点差だから相手が元気づいて最後まで試合を諦めなかった。それに対してこちらも気迫で負けなかった。中澤や闘莉王がヘディングで跳ね返し、楢崎がハイボールやシュートに対応しているときの動作を見ていて、日本の守りも強くなったものだと思ったヨ。サッカーはゴールだけで決まるという冷厳なもので、ウズベキスタンもいくら攻めてもシュートがきちんとゴールへゆかなければ点にならないのだから。

――その点でまた、持論のシュート力が出ますね。

賀川:サッカーの基本の大切さは、どちらのチームにも公平なものだ。今回はとりあえずよく勝ってくれてありがとう、アウェーのしんどさ、グラウンドとレフェリーに負けなかったことに感謝するのだが――。
 もう一つだけ言っておくと、日本代表のプレーヤーはトルシエ元監督が手を使うことを自ら範を示して教え込んで以来、手を使うのが当たり前のようになっている。日本の選手の手の使い方は前へ出すから目立ちすぎると思う。だから、レフェリーの“片手落ち判定”のように見える中に、“手を使う”動作が明らかだという言い訳をつくらせているように見える。これまでも、明らかな腕の使用(プッシング、ホールディング)について話したことがあったが、今度のアウェーのハンデを語るときにこの問題を考えておきたいネ。

――残り2つの試合は?

賀川:岡田監督は、この試合までの26試合、キリンカップ、キリンチャレンジカップ、W杯の3次予選と最終予選、アジアカップ予選などのそれぞれの試合で選手を見極め、少しずつチームの強化を図って徐々に狙い通りの代表をつくってきた。選手たちもまた、その効果を感じ始めているだろう。
 本番にゆけることが決まったいま、休養はもちろん大切だが、代表チームの全員が揃って2試合できるというチャンスを生かしてステップアップを図ってくれるでしょう。選手たちは大人だから、十分にそのことを感じているハズだ。


【了】

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