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2009年6月

日本代表 vs カタール代表(5)

2009/06/17(水)

――最終戦の前に気になることは?

賀川:うーん。対オーストラリア云々とは別に、いくつかの問題がある。それはJリーグにも通じるものですヨ。

――ストライカーがいない、Jの個人得点ベストテンはほとんど外国人で占めていると、よく賀川さんは言っていますね。

賀川:得点できる選手がいれば、チームに大きなプラスになることは皆よく知っている。だからこそ、外国人のゴールスコアラーを補うわけだ。だけど、自分たちの手で、いいストライカーを生み出してみようと思わないのがネ……。ストライカーの話とは別に、たとえば、Jのチームに何人、スローインで遠くへ投げられる選手がいるのかな。昔、ヴィッセルに一人いたがネ。

――投げるだけではダメでしょう。

賀川:日本代表は皆サッカーがうまいが、一人くらいロングスローのできる選手がいてもいいだろうに。これも体格の問題でなく練習の問題でしょう。色々な技術を身につけてゆかなければならないのに、選手に新しい技をつけるようにコーチたちはアドバイスしているのかね?

――うーん。ロングスローは確かに武器ですよね。

賀川:阿部勇樹今野泰幸のカタール戦のプレーを見ていると、彼らが気の毒になった。

――消極的に見えたから?

賀川:阿部は、ジェフ市原(当時)にいて、オシムさんにキャプテンに指名されたころから見ている。177センチでそれほど大きくもなく、足がうんと速いわけではない。特色は右足のキック、日本人には珍しく長い距離のボールを蹴れる。CKを蹴ると、ファーポストへ届くボールをコントロールキックできる力があった。彼よりも上の世代、たとえばカズ、三浦知良はキックの精度の高い選手だが、コントロールの距離はCKならニアポストだった。

――イングランド戦のCKで、井原だったかがヘディングで決めましたね。

賀川:古いファンなら皆覚えているでしょう。カズのコントロールキックと井原のヘディングの合作が生んだ、ウェンブリースタジアムでの日本の歴史に残るゴールですヨ。ただし、そのカズでさえ、ファーポストへのキックとなると精度はいまひとつ。それはキック力、ゴルフでいえば300ヤードを楽に飛ばせる人は250ヤードはコントロールショットになるのと同じ理屈ですよ。
 長蹴力ということになると、日本人選手は外国選手に劣るのは仕方ないが、だからこそ、長蹴力のある選手は武器としてみることが大切――。

――前にも一度うかがいましたね、この意見。

賀川:ここからはちょっと踏み込んで言わせてもらおう。
 その阿部は、DFもとりあえずこなせるものだから、ポジションが一定せず色々な使われ方をする。長いキック力を生かせるコントロールキックのパスを使うチャンスがなくて、ここしばらく伸びが止まっている。

――というと…

賀川:早い話が、スクリーニングという身のこなし、あるいは動作は、古い時代はCF(センターフォワード)の技術のことだった。背後からセンターバックにマークされていてボールを受けるから、それを止めて、仲間に渡すポストプレーとともに相手の出方によってはボールと相手の間に自分の体を置いて、ターンして抜き去るとか、抜くと見せてキープして時間(間)を稼ぎ、仲間へ有効なパスを出す。そのスクリーニングは、いまの世界のトップのサッカーではどのポジションの選手もできるようになっている。もちろん、一流チームでもDFの選手がクリスチアーノ・ロナウドほど上手にスクリーニングできるわけではないが……。
 アジアでも、もうディフェンシブハーフも後方からのパスを受けることも多くなって、スクリーニングが上手にできなければならない。カタール戦では、阿部が相手のプレッシングで簡単にボールを失ったのは、日頃こういう動きを必要としていないからだろう。つまり、代表のボランチをするのに、そのポジションに必要なプレーを自分のチームで蓄えてきていない、と言える。

――ほかには?

賀川:阿部は私の好きなプレーヤーの一人。だからあえて言うと、右のすごいキック力があるのだから、若いうちに左足のキックをもっと練習すべきだった。左足で蹴れば、そのときは右足で立つことになる。だから相手とのボールの奪い合いでも体のバランスが良くなって強くなるのだヨ。

――いまからでもできるようになるでしょうか。

賀川:ローター・マテウス。あのドイツ代表のキャプテンとして90年ワールドカップに優勝した名選手も、右足の強いシュートだけでなく、左でも蹴れたが、それは27~28歳になってから練習したと言っている。

――どんな得がありますか?

賀川:たとえば、彼が左サイドでボールを受けたとする。左足のキックができるようになり、走りながら左足クロスを蹴ることができれば、縦にドリブルしてチャンスをつくれる。ドリブルで抜けなくても、パスを出してもらって蹴ることもできる。そして、もし左で蹴るチャンスを押さえられれば、切り返して右で蹴ればいい。そうなれば右の長いコントロールのクロスでファーサイドの味方に届くし、ボールもあるわけだ。

――分かりました。得意の右を生かすためにも、左のキックの能力を上げろ、ということですネ。

賀川:そう。今野は、守備の勘、危険地帯の察知力は高いし、労を惜しまぬランもある。左のキックはしっかりしているハズだが、それも近頃は満点とはいえない。力もそうですヨ。

――一口で言えば、進歩が遅いということ?

賀川:彼らのすぐれた素質から見ればネ。阿部はヘディング力を上げ、今野もそれでチームの特典に貢献しているから進歩はしているのだがネ。もっともっと伸びる人たちですよ。

――俊輔は頑張っていますね。

賀川:素晴らしいネ。しかし、セルティックでフルシーズン戦った後はやはり疲れが残っている感じだね。故障もあるだろうし、彼らしくないプレーもいくつかあった。それだけに、今年の移籍がどうなるのか――気になるね。


【了】

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日本代表 vs カタール代表(4)

2009/06/17(水)

――一つの試合で得点できなかったチャンスを、もう一度振り返ってみることは大切ですね。

賀川:日本の多くの指導者が神様のように思っているデットマール・クラマーも、いつも言っていますヨ。もっとシュートの練習をしろ、とネ。ただし、そのシュートがなぜバーを越えたのか、なぜポストの外へ外れたのか、一本一本の失敗について選手もコーチもよく勉強してほしいと言っている。

――ウズベキスタンでは相手のシュートミスもあったし、カタール戦も、ずいぶんカタールのシュートミスに日本は救われた。それでもPKで1点を取られた。

賀川:あの落ち着いた楢崎正剛が、PKのときヤマをかけて先に左へ(キッカーから見て右へ)動いたのは損だったが……。あれはちょっと聞いてみたいところだネ。

――そのPKとなった原因は、中澤佑二のホールディングでした。“手を使う”ことについて、賀川さんはウズベキスタン戦のときにも日本選手の手の使い方が“あからさま”すぎると言っていましたね。

賀川:そう、フィリップ・トルシエというフランス人の監督が、日本人プレーヤーは手や腕の使い方が下手だといって、代表の練習で教えた。その練習がまたテレビで日本中に映しだされた。トルシエは相手が手を使うことへの対応のつもりだったかもしれないが、「世界中、手や腕を使うのは当たり前で、これが上手にならないといけない」という感じになってしまった。だからJリーグでも手を使う反則は多い。
 そしてどういうわけか、ここのところ後方から手を使う反則にアジアでもレフェリーの判定が厳しくなっているように感じる。

――JFAの審判委員会の見解を聞きたいところですね。

賀川:審判でなくても、それぞれのクラブのコーチたちが試合のビデオを見直して、笛を吹かれたファウルのうち、手を使ったファウルがどれだけあったか調べて数字に表せばいいことですヨ。いまはそういうことを抜き出せる装置も開発されていると聞いている。だが、そんな便利な機械がなくても、きちんと調べれば出てくるはずですよ。
 前にも言ったかもしれないが、昨年のJリーグ終盤の優勝に絡む鹿島アントラーズジュビロ磐田の試合での鹿島の決勝ゴールは、左FKから岩政がヘディングで決めたが、そのファウルはマルキーニョスに対する駒野の後方からのプッシングだからね。大して強く押したわけじゃないが、マルキーニョスの上手なスクリーニングに対して駒野が背後から体を寄せていったときに駒野の手が前に出ていた。接触してマルキーニョスが前に倒れたときに、笛を吹かれた――と覚えている。

――そう言われても、いまから代表選手の手を前に出す癖は直りますか?

賀川:それは心がけ次第。それとともに、若い世代が、相手にかわされたときに簡単に手を使って(ホールディングなので)相手を止めようとすることで、体の反転や足のステップといった身のこなしが発達しなくなるのが問題ですヨ。南米やヨーロッパのトップクラスでも手を使う見苦しいプレーが多い。相手に負けまいとする意識、自分の局面での責任を果たそうとする意欲は大切だが、ものには限度があり、バランス感覚がなくてはならない。手を全く使うなと言っているのではないが、いい選手というのはそういうものだと言いたい。

――ちょっと話が深いところへゆきましたが、ともかく、7戦無敗(4勝3分け)でオーストラリアでの最終戦を迎えることになりました。

賀川:岡田監督はチームをうまく導き、選手たちも徐々に力をつけて結果を出してきた。人口1億のサッカー大国の日本という観点からすれば、そのトップである代表チームの実力がこのままであってよいわけではないが、歴史とそのあゆみからゆけば、まずいいところだろう。アジアの代表になったのだから、本番ではそれこそ世界を驚かせてほしい。そのためにも、オーストラリアとはいい試合をして勝ってほしい。中村俊輔が出場できないかもしれないが、それでも勝っても不思議ではない相手だ。


【つづく】

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日本代表 vs カタール代表(3)

2009/06/16(火)

――ゴールというのは、クリーンシュートや豪快ヘッドばかりではないわけですね。

賀川:こういう地味なゴール、相手から頂いたゴールもまた大事な得点の一つですよ。
1960年代のマンチェスター・ユナイテッドの名FWデニス・ロー(Denis Law)も「輝かしいプレーの集積のゴールもあれば、混戦から生まれるものも、オウンゴールもPKもあるが、すべては1点となり、ゴールはとても重大なものだ」と言っている。

――デニス・ロー……いま、サッカーマガジンで連載している『我が心のゴールハンター ~ストライカーの記憶~』の、デニス・ベルカンプ(オランダ)の憧れの人ですね。

賀川:6月10日のこの右サイドの攻めからのオウンゴールも、最後のところは相手選手であっても、その過程はデニス・ローのいう輝かしいプレーの集積だからネ…。それはともかく、このゴールは場内の6万のサポーターを喜ばせ、2点目への期待を高めたが、なかなかそうはゆかなかった。

――9分に、左サイドから攻めて2点目のチャンスがあったのですが…

賀川:これは左サイドの今野泰幸と田中マルクス闘莉王のパス交換から、闘莉王が左前のスペースへロブのボールを送り、玉田圭司がいいタイミングでDFラインの裏へ走り抜けて、ペナルティエリア左からゴールライン近くまで入り込んでクロスを送った。完全に裏を取った玉田の走り込みからノーマークのクロスだったのだが…。

――GKブルハンが体に当て、そのリバウンドを岡崎が走り込んで左足に当てたが、左ポスト外へ出ていった。

賀川:玉田がDFラインの裏でボールタッチしたときには、ニアサイドに岡崎、ゴール正面に俊輔がいた。パスのボールの強さもあったのだろうが、ボールはわりあい速く転がって、玉田はスピーディにエリア内に入り、ゴールライン近くまで来た。

――賀川さんがいつもいうエリア内ゴールライン近く、絶好のチャンスですね。

賀川:ただし、この位置へ来ると角度が狭くなってクロスは難しくなる。GKブルハンは超ノッポときている。通常、このあたりからのクロスは少し後ろ目へ戻すグラウンダーか、GKの上を越えるフワリとしたクロスか、そしてGKとDFラインの間を通す速いクロスかのどれかになる。玉田は自分の位置から見て、GKとDFラインの間を抜こうとしたのだろうが、左足サイドキックで蹴ったボールはGKに当たってリバウンドした。それに岡崎が反応したが、DFに絡まれて出した左足ではきちんと叩けず、足に当たったという感じで左外へ出てしまった。

――こういう場合、評論家は「狙いは良かったが…」という言い方をしますが…。

賀川:左ペナルティエリアの根っこ、つまり左ゴールポストから16.5メートルとゴールエリアの根っこつまり5.5メートルまでの間、ゴールライン近くからのクロスは、先に言ったとおり、DFはCKと同じでボールを見れば相手FWの動きを見失うという難しさがある。だから、正確なパスが味方にゆけば絶好機になるが、この位置へ入り込んできたプレーヤーが何通りかプレーを正確にできなければならない。

――玉田はそれほどのバリエーションは持っていなかった?

賀川:この位置でパスのバリエーションを持っているプレーヤーは日本では少ないヨ。玉田選手は体が強く、ドリブルも速く、またかなり強い持ち方もできる私の好きなタイプのFWだが、得意の左足シュートでもバリエーションは少ない。

――となれば、

賀川:もう少し早く、角度が狭くならないうちに左足でシュートをするか、DFラインとGKの間を速いボールを通すか、だろうね。彼は左足でニアサイドを抜くシュートはほとんどしない。2006年のW杯、対ブラジルの先制ゴールは、彼の数少ないサイドへのシュートの得点だが、その後もほとんど見ていない。練習すれば、彼のように運動能力の高い人ならすぐできるようになるだろうがね。
 もちろん、あの角度でもクロスを出すと見せてニアサイドへシュートすることも熟達したFWならできるはず。大事なことは、この日は裏へ飛び出した彼が自分のフィニッシュプレーをイメージして最初のタッチをしたか、そしてそのイメージが、ゴール前に詰めた岡崎と俊輔と同じものだったかどうか――知りたいところだネ。

――試合の後で話し合っているでしょう。

賀川:現代のサッカーは守りの組織が良くなり、守備の選手の個人能力がアップした。特にゴールキーパーの体格が良くなって、守る範囲も広く、体の動きもスピーディになっている。したがって、ゴールを決めるにはシューターの個人能力アップとともに攻撃側の何人かのプレーヤーがフィニッシュについてのイメージを共有することも必要となってくる。この9分のチャンスは、玉田のスピードを生かしての左からの突破であっただけに、モノにしておきたい一つだった。なぜゴールできなかったかを、皆で考えたいところだね。

――こういうチャンスをモノにできれば、試合は楽になる。

賀川:ウズベキスタンでも2点目を取れなかったために苦しくなった。この日も同じ。特に、本番へ行けるという、“ひと山”を越した後だから、疲れるとそれがまともに響いてきた。


【つづく】

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日本代表 vs カタール代表(2)

2009/06/15(月)

――位置は左寄りからですね。

賀川:ハーフライン手前、日本側エンドで左タッチライン寄り10メートルくらい内だった。内へドリブルした憲剛の右、センターサークル中央近くに中村俊輔がいた。憲剛からパスを受けた俊輔はうまいトラップとターンで相手をかわして前へ向いた。記者席から見ていて、俊輔のピポット・ターンに思わず「ウマイ」と叫んでしまった。

――そんなにうまかった。

賀川:中村憲剛のパスが、むしろ俊輔が欲しかった位置より後ろ目に来たのだが、俊輔は左足を伸ばして彼の長い左足のリーチでこのボールを止めた――というより、自分の方へ引き寄せ、相手が一人接近するのを見ながら実に簡単に前へ向いた。

――この場面は、もし好きな方があればビデオでご覧になって下さい――というところですね。

賀川:そうだね。ジネディーヌ・ジダンというフランスのスターは、あの大きな体でのピポット・ターンが有名だが、俊輔のこのときのターンもまた大したものだ。
 ターンをして、そのまま左足で右オープンスペースへグラウンダーのパスをした。ボールを受ける前からノーマークの大きなスペースがあり、内田篤人にここでプレーさせようと考えていたのだろう。スタンドの記者席から見て、少しパスのスピードが遅く、内田が取れるかどうかと見えたが、タシケントで体調を崩し、スタジアムにもゆかずに静養したという内田は元気でスピードを上げて走り、DFのスライディングよりも早くボールを取って縦にドリブルし、ペナルティエリア右外ギリギリで中央へライナーのクロスパスを送った。

――そこへ岡崎慎司が走り込んできた。

賀川:岡崎は日本側エンドでのボールの取り合いに加わって、右足ボレーで叩いて憲剛にボールを渡した後、すぐ前方へ走り出し、左サイドから斜め右、ペナルティエリア中央へ入ってきた。記者席からは、彼が相手の一人とコース取りしながらニアポスト側へ走り寄ってきたところへ、内田からのライナーのクロスが来た。それが岡崎でなく、アハメド・アリ・F・A・アルビナリの体、腹部のあたりに当たってゴールに入った。

――テレビではGKカセム・ブルハンの位置が前に出たように見えました。

賀川:あとでビデオを見ると、カセム・ブルハンは前へ出てクロスを自分で取ろうとしたようだ。だからニアポスト側があいて、アルビナリに当たったボールが入ってしまった。

――岡崎の走り込みも効いたのかな。

賀川:もちろん、オウンゴールだが、内田と岡崎にアシストをつけたいところだネ。ペナルティエリア中央にかかるあたりで左から斜めに走ってきた岡崎がいったんニアに出ようとしたのを、アルビナリが体を寄せて(おそらく腕を使って)押し返しながら併走した。岡崎は粘っこい体だからこういう密着、あるいは絡んでのプレーでそう簡単に譲らないから、何秒間か2人は絡んで併走してきた。そこへ右サイドから速いボールが来た。アルビナリは左手側で岡崎を押さえながら、だから右からお腹の高さに来るボールを足で処理できず、体に当ててしまった。
 次の日の朝日新聞(大阪版スポーツ面)の写真を見ると、彼が左手で岡崎の右腕のシャツを握っているところをバッチリ捉えている。おそらく左手で岡崎の動きを封じていたものだから、体の向きを変えられなかった(体でボールをポストの外へはじくことができなかった)のだろう。ニアサイドへ飛び込むのを得意とする岡崎のニアへの執念が生んだオウンゴールだと言える。


【つづく】

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日本代表 vs カタール代表(1)

2009/06/14(日)

2010 FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会 アジア最終予選
6月10日(神奈川・横浜国際総合競技場)19:39
日本代表 1(1-0 0-1)1 カタール代表
得点者:オウンゴール(日 2分)アリ・アフィフ(カ 53分)

【日本代表メンバー】
GK: 1楢﨑正剛
DF: 22中澤佑二(Cap.)4田中マルクス闘莉王、6内田篤人
MF: 5阿部勇樹→8松井大輔(58分)、7橋本英郎、10中村俊輔→13本田圭佑(81分)14中村憲剛、15今野泰幸
FW: 9岡崎慎司、11玉田圭司→13興梠慎三(67分)
SUB:18都築龍太 3駒野友一、17山口智、12矢野貴章

【カタール代表メンバー】
GK: 2カセム・アブドゥルハメド・ブルハン
DF: 3ハメド・シャミ・ザヘル、6ビラル・モハメド・ラジャブ(Cap.)13イブラヒム・マジェド・アブドゥルマジェド
MF: 5マジディ・アブドゥラ・シディク、10モハメド・アブドゥラーブ・アルヤジディ、11ファビオ・セサル・モンテシン→8メサド・アリ・アルハマド(70分)
FW: 9アリ・ハサン・ヤハヤ・アフィフ→14ハサン・ハリド・アルハイドス(87分)12マジド・モハメド・ハサン→15ユセフ・アハメド・アリ(54分)16アハメド・アリ・F・A・アルビナリ、17モハメド・ヤセル・モハマディ
SUB:1ババ・マリク・ヌジャイド、4ムサ・ハルーン・ジャマ、7アリ・ナセル・サレ、18ワヒード・モハメド・T・モハメド


――アウェーのウズベキスタン戦(6月6日、タシケント)は、とてもしんどい試合でした。今度はホームの横浜だから、日本代表のホームでの予選最終戦はすっきり…とゆきたかったのに――。大苦戦でした。

賀川:タシケントの試合で、精神的にも肉体的にも疲れたのだろうネ。悪いピッチに気を使い、レフェリーの不愉快な判定に、気持ちの上でもプレーのリズムの上でもひっかかりながらの90分間だった。ぶつかられ、タックルでケガをした者もあっただろう。そんな大苦戦で本番への出場権を勝ち取ったのだから、ホッとするな、気を緩めるな――といってもムリな話。選手たちも監督、コーチも、口でも頭の中でも「本番出場が決まった。いよいよこれからがスタートだ」と言ったり考えていたりしていたハズだが、体は正直なもの。タシケントの試合の前ほどに気持ちが高揚していたかどうか――。もし高揚しても、それが体の端々(はしばし)までみなぎっていたかどうか――。

――相手のカタールは、ドーハで強敵オーストラリアと引き分けています。

賀川:オーストラリア側とすれば、引き分けで出場権を取れるのだから無理をしたかどうか。それでも、カタールにとって、グループ最強のオーストラリアと引き分け、勝点5となったから、日本に勝てば勝点8。6月17日のバーレーン対ウズベキスタン戦の結果によっては、3位となって、プレーオフの望みが出てくる。ブルーノ・メツ監督はもちろん、選手たちの士気も高まっていただろう。

――しかし、日本はキックオフ2分後にゴールを奪った。

賀川:そう、相手が攻めに出ようとするからウラが狙いやすいこともあった。オウンゴールだったが、攻撃の仕掛けもよかった。
 日本のキックオフで始まり、後ろから右へ回して攻めようとして、カタール側に取られ、カタールの右サイドからの攻めのとき、ドリブルをファウルで止めてFKを与えた。右タッチ寄りで35メートルくらいの位置かな。11番をつけたファビオ・セサル・モンテシンが左足で日本のゴール前へライナーを送り込んできた。
 これを阿部勇樹が低い姿勢でヘディングして、その高く上がったボールの落下点でのボールの奪い合いから岡崎慎司がボールを取った。足に当てたボールが中村憲剛にわたって、そこから得点への攻めが始まった。


【つづく】

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アウェーの大ハンデの中で大一番に勝った日本代表の実力(3)

2009/06/10(水)

■岡崎・憲剛が生きた先制ゴール

――それが、大事な試合で出ましたね。

賀川:前半9分のこのゴールは、すでにテレビや新聞で皆さんも何度も注目し、読み直されたことと思う。ピッチが日本向きでなく、レフェリーが明らかに日本側に厳しかったという2つの大ハンディキャップで、見る者にもプレーする選手たちにも不安が出そうなときの先制ゴールだったからネ。

――中村憲剛のパスがうまかった。

賀川:右サイドから裏へ走る岡崎の前へ、少しボールを浮かせてパスを送った。彼はサイドキックでゴロ(グラウンダー)の正確なパスを出すのだが、この日の深い芝の状態を見て、転がすより空中(ライナー)のボールの方が正確に届くと見たのだろう。小さくボールの底を蹴って浮かしたボールを岡崎が走りながら右足のインサイドでピタリと止め、相手DFに追走されながらバウンドに合わせて左足でボレーを叩いた。ボールがGKに当たって跳ね返ったのを、岡崎は前に倒れながらヘディングした。ボールはGKの左を通りすぎてゴールへ飛び込んだ。

――自分で蹴ったリバウンドを決めたのですからね。

賀川:私は、2002年W杯の前にモロッコでの対フランス戦でモリシ(森島寛晃)が決めたゴールを思い出したヨ。

――ああ、DFラインの裏へ飛び出してシュートし、そのリバウンドを決めたゴール。あの大選手ドゥサイイーが、モリシに何か口汚く罵ったそうですね。

賀川:彼らにとっては予期しない出来事で、W杯優勝チームのディフェンダーは驚いたのだろうネ。実はこの岡崎の先制ゴールはかつてのモリシと同じように彼がディフェンスに参加したプレーから始まっているんですヨ。

――へぇー。


■守りのヘディングから岡崎は攻めに転じた

賀川:このチャンスの少し前に、ウズベキスタンが右サイドから攻め込んできた。8番をつけたタフなジェパロフがスローインして味方に当てて、そのリターンを受け、左足で高いボールを中央へ送った。ペナルティエリアすぐ外に落下したボールをジャンプヘディングで取ったのが岡崎だった。

――そこまで戻っていたんですね。

賀川:この少し前、中村がジェパロフにタックルしていたからネ。
(1)岡崎がヘディングで前へ送ったのを
(2)中村憲剛が取ってすぐ前を向き、ドリブルして誰もいないスペースへ持ち上がって
(3)ペナルティエリアへ行くまでに相手の2人に挟まれてボールを奪われた
(4)奪ったウズベキスタンはバックパスをしてDFが前へ蹴った
(5)このボールを長谷部が取った。ノーマークだった
(6)前方右に大久保がいた。岡崎はその前にスタートして右外へ上がろうとしていて
(7)長谷部はすぐ前の中村憲剛に5~6メートルのパスを送った
(8)憲剛はターンをしながら右外側から走り込んでくる岡崎のコース、DFラインの裏へ送った

――自陣ペナルティエリアから相手のゴール前まで岡崎は長いランをした。

賀川:そう、岡崎の走力はすごいが、ただし、このチャンスは中村がドリブルを奪われ、その相手のパスを長谷部が取る。そして長谷部がすぐに相手DFの裏へ出すのでなく目の前の憲剛に渡し、憲剛が裏へ送り込んだから、この間、岡崎のランは間にタメが入っている。この日、中村憲剛をこのトップ下に置いたことの効果がここにも出ていたよ。

――このあとにもチャンスはありましたが、得点にはならず。特に後半は押し込まれて大変でしたね。

賀川:このゴールはまさに、いまの日本サッカーの実力を示す見事な得点だが、その後の苦い時間を防いだのも日本サッカーの実力ですヨ。中澤と闘莉王、それに両サイドのFB、さらには中村俊輔、遠藤、長谷部たちの素晴らしい守りのプレーもまた歴史に残るものだ。

――いくら押し込まれても、その間にもう1点取っておけば楽だったのに…

賀川:それについてはまだまだ、付け加えるべき話もあるし、言いたいこともある。特に攻撃の選手にはネ。ただし、1点差だから相手が元気づいて最後まで試合を諦めなかった。それに対してこちらも気迫で負けなかった。中澤や闘莉王がヘディングで跳ね返し、楢崎がハイボールやシュートに対応しているときの動作を見ていて、日本の守りも強くなったものだと思ったヨ。サッカーはゴールだけで決まるという冷厳なもので、ウズベキスタンもいくら攻めてもシュートがきちんとゴールへゆかなければ点にならないのだから。

――その点でまた、持論のシュート力が出ますね。

賀川:サッカーの基本の大切さは、どちらのチームにも公平なものだ。今回はとりあえずよく勝ってくれてありがとう、アウェーのしんどさ、グラウンドとレフェリーに負けなかったことに感謝するのだが――。
 もう一つだけ言っておくと、日本代表のプレーヤーはトルシエ元監督が手を使うことを自ら範を示して教え込んで以来、手を使うのが当たり前のようになっている。日本の選手の手の使い方は前へ出すから目立ちすぎると思う。だから、レフェリーの“片手落ち判定”のように見える中に、“手を使う”動作が明らかだという言い訳をつくらせているように見える。これまでも、明らかな腕の使用(プッシング、ホールディング)について話したことがあったが、今度のアウェーのハンデを語るときにこの問題を考えておきたいネ。

――残り2つの試合は?

賀川:岡田監督は、この試合までの26試合、キリンカップ、キリンチャレンジカップ、W杯の3次予選と最終予選、アジアカップ予選などのそれぞれの試合で選手を見極め、少しずつチームの強化を図って徐々に狙い通りの代表をつくってきた。選手たちもまた、その効果を感じ始めているだろう。
 本番にゆけることが決まったいま、休養はもちろん大切だが、代表チームの全員が揃って2試合できるというチャンスを生かしてステップアップを図ってくれるでしょう。選手たちは大人だから、十分にそのことを感じているハズだ。


【了】

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アウェーの大ハンデの中で大一番に勝った日本代表の実力(2)

2009/06/09(火)


■史上最強のCDF

賀川:いまの日本代表は、オシムさんが病に倒れ、岡田監督に代わってから1年半、最初の公式試合は2008年1月26日のキリンチャレンジカップだった。以来、W杯予選の3次予選、最終予選、AFCアジアカップ2011予選、そしてキリンチャレンジカップやキリンカップなど26試合を重ねて、タシケントでの戦いが27試合目。それらを通じて、チームは次第に整備され強化されてきた。
 中央のDFに、中澤佑二田中マルクス闘莉王の2人が揃った。GKは楢崎正剛が故障回復で戻ってきた。ゴールキーパーを含めてこの3人の守りは、身体の大きさや技術そして経験の面から見て史上最強だろう。その控えがまだ必ずしも同レベルにはないとしても、大型DFが揃うようになった。

――阿部勇樹今野泰幸もいます。

賀川:彼ら2人はボランチ役が適所だが、どこでもやれるし、長身とはいえないがヘディングは強い。何でもできるために損な使われ方をしているが、得難い才でもある。特に2人はもともとキックがうまいので、ディフェンダー全体のキック力アップにつながっているとも言える。

――ふーん、そういう見方もありますか。サイドバックにも新しい2人を加えましたね。

賀川:これは監督の“目”だろうネ。内田篤人の適性は誰もが認めるところだったが、長友佑都というプレーヤーの性格と体力、技術に着目した点はすごい。

――これまでの駒野友一もいて、まず後方が固まりました。


■速くて機敏なFW

賀川:中盤は多士流々の日本だが、FWは誰が見ても適格者が少なかった。

――小さくても速くて積極的に仕掛けられる選手をどんどん登用しましたね。

賀川:もちろん、小さいというのは欠点ではなく特徴だが、ヘディング、高いボールの取り合いとなると長身者に比べてハンデはある。日本ではかつての釜本邦茂のように、大きくて強くてシュートは右も左も蹴れるといったFWがなかなか出てこない。

――1960~70年の182センチという釜本さんの大きさは、いまのサッカーなら186~190センチという感じですからね。

賀川:Jのクラブのコーチの中にも、ストライカーが日本で育つのは難しいなどという人もいるくらいで、なかなか育ってこない。それも困りものだが、日本人でチームをつくらなければならない岡田監督は、日本人の特徴である機敏性あるFWを選んだ。
 ちょうど2008年の欧州選手権(EURO)でスペイン代表が優勝した、小柄なミッドフィルダーと攻撃メンバーのプレーが世界に大きな衝撃を与え、小柄な選手と、それを抱える指導者たちにも大きな自信を与えた。岡田監督は自分自身の考えを大事にする人だから、スペイン流に飛びついたわけではないだろうが、腹の中ではニヤリとしたかもしれない。

――しかし、その小型で敏捷なFWもなかなか点は取れなかった、そこへ岡崎が現れた。

賀川:興梠も岡崎もそれぞれ特色があるが、岡崎は、前にも言ったとおり、滝川第2の頃からボールを蹴っている回数が多いように見える。ボールを蹴り、走ることを厭わない彼は、自分のプレーの中で自らの粘り腰、あるいは膝の強さという体に備わった素質を上積みしながら蹴る技術をランクアップしてきた。走り込んでシュートするという、最も基本的な点の取り方のできる選手だろう。上背はあまりないのにヘディングが強く、ジャンプのタイミングがいい。ニアに飛び込んでゆく点取り屋の“厚かましさ”もついてきた。


【つづく】

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アウェーの大ハンデの中で大一番に勝った日本代表の実力(1)

2009/06/08(月)

2010 FIFA ワールドカップ 南アフリカ大会 アジア最終予選
6月6日(タシケント)19:05 (日本時間 23:05)
日本代表 1(1-0 0-0)0 ウズベキスタン代表
得点者:岡崎(日 9分)

【日本代表メンバー】
GK: 1楢﨑正剛
DF: 22中澤佑二(Cap.)4田中マルクス闘莉王、3駒野友一、15長友佑都
MF: 10中村俊輔→6阿部勇樹(91+分)7遠藤保仁、14中村憲剛→13本田圭佑(66分)17長谷部誠
FW: 16大久保嘉人→12矢野貴章(69分)9岡崎慎司
SUB:18都築龍太、5今野泰幸、8橋本英郎、11玉田圭司

【ウズベキスタン代表メンバー】
GK: 12イグナティ・ネステロフ
DF: 3イルホミオン・スユノフ→13サフブ・ジュラエフ(83分)、4イスマル・チュラホジャエフ、5アンズル・イスマイロフ
MF: 2ハムザ・カリモフ、6ジャスル・ハサノフ、8セルヴェル・ジェパロフ(Cap.)9オディル・アフメドフ、10ファルード・タジエフ→11アンヴァル・ソリエフ(62分)18ティムル・カパーゼ
FW: 15アレクサンドル・ゲインリフ→16シャボズ・エルキノフ(75分)
SUB:1ティムル・ジュライェフ、14コモリディン・タディエフ、7アジズベク・ハイダロフ、17スタニスラフ・アンドレイエフ


――やりましたね、日本代表! ワールドカップ(W杯)の本番へ、アジア代表の一つとして出場権を得ました。

賀川:テレビの前の日本サポーターは終了の笛が鳴るまで緊張したでしょう。まぁ、大変な試合だったが、選手たちは頑張ったネ。0泊3日の強行スケジュールで現地へ駆けつけた応援の人たちも、本当にご苦労さんだった。タシケントまで飛んだ甲斐があったネ。チームも応援サポーターも関係の皆さんも、テレビをはじめメディアの皆さんにも、お礼を言いたい。


■ドイツ大会の二の舞にはならなかった


――それにしても、しんどい試合でしたね。

賀川:日本代表の試合は、相手によってこういう形になることもある。2006年のW杯ドイツ大会のグループリーグの第1戦の対オーストラリアの終盤がそうだった。今回はボールを拾われ、相手の攻撃の時間がドイツ大会の対豪州よりも長かっただけに、見ている側はハラハラの時間も長かった。

――それでも、早いうちの1ゴールが利きました。

賀川:いつも話しているように、いくら押し込まれても、いくら攻められても、ゴールへボールを入れられなければ無失点。こちらが一つ点を取れば1-0で勝つのがサッカー。

――これまでは、そのゴールを奪うのがなかなかできなかった。

賀川:岡田武史監督は――キリンカップのところで話したように――岡崎慎司興梠慎三という新しいFWを代表に加えた。昨年10月のキリンチャレンジカップの対UAE戦から起用するようになり、岡崎の働きが目立つようになってきた。玉田圭司や田中達也たちの故障もあり、この試合に岡崎を登用するのにためらいはなかったと思う。そして5月31日のキリンカップ、対ベルギーで中村憲剛をトップ下に置いてみて、その効果を確かめ、この試合でも憲剛を起用した。

――日本の中盤は、中村俊輔遠藤保仁という、攻撃のときのタイミングの取り方のうまさとパスそのものの正確さでは高いレベルの選手がいます。中村憲剛をその中へもう一枚加えると、FWを削ることになりますね?

賀川:憲剛は自分のチームでも、代表に入っても左右にパスを散らし、あるいはズバリとスルーパスを出すといったプレーには定評がある。しかし、彼にはもう一つ、第2列からトップ下へ飛び出してゆくという魅力がある。

――第2列から前へ飛び出してゆくところですか。

賀川:うん、そうだ。

――そのときに必ずしも決定力が高いとは、賀川さんは見ていなかったのではありませんか?

賀川:中村憲剛のうまさは、前にも言った、ミッドフィールドでDFラインからのクリアあるいはパスを受けてそこからドリブルするかパスを出すかを判断して実行すること。そのためにボールを受けたときに前を向くプレーがうまい。そのために、第2列から飛び出して相手の危険地帯へ入ったときにボールを受けたときに余裕があって、周囲が見え、パスもできるしシュートもできる。
 いまの日本の攻撃は相手のペナルティエリアに多数の選手を送り込もうというやり方だから、その相手の危険地帯へ走り込んでから、多芸の中村憲剛をどういう風に生かすかを、おそらく監督は考えていたに違いない。

――そこに、岡崎という新しいFWのキャラクターが現れた。

【つづく】

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