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ヴィッセルが川崎に勝つ。久しぶりに宮本恒靖を見た(中)

2009/03/19(木)

賀川:FM放送といっても、試合の実況はアナウンサーと加藤寛くんがした。私は試合前に少しだけ、神戸のサッカーについて話しただけですヨ。はじめからその予定で、試合はじっくり、一人で放送ブースとは別のところで見ていた。

――宮本恒靖は?

賀川:ヴィッセル神戸をナマで見たのは久しぶりだったが、ずいぶん良くなっていた。その一つは“宮本効果”、もう一つはカイオ・ジュニオールのおかげカナ。

――新しい監督さんですね。

賀川:練習を実際に見たわけではないから、彼のやり方を本当に理解するのはまだ今後のことになるが、選手たちがそれぞれの特徴を見せていた。ボールを持つか、ダイレクトでパスするかなどを自分の判断でしているように見えたのが楽しかった。点をとることと、そのシュートへの段取りには、監督さんは自分の考えを持っている人のように見えた。選手が割合にノビノビと、自分の得意なプレーを発揮しようとしていたのが良かったネ。

――宮本も、宮本らしかったと……

賀川:宮本恒靖という選手は、ガンバ大阪にいたときからよく見ていた。関西出身の出色のプレーヤーだからネ。かつての釜本邦茂、最近引退した森島寛晃ほど接触はしていないが、好きな選手の一人だった。
 それがオーストリアへ移ってからは一度も見ていなかったので、どれくらいやれるのか、彼のためにもヴィッセルのためにもいいプレーをして欲しいと思いつつも、不安はないでもなかった。むしろ大きかったと言える。

――それが実際は……

賀川:良かったネ。2002年のワールドカップの1次リーグ、対ロシア(1-0)の後で、「今日はパーフェクトだったネ」と彼に言ったことがあるが、この日の対川崎戦も、パーフェクトとは言えないにしても立派な試合ぶりだった。

――川崎の攻撃を1点に押さえたのですからね。

賀川:CF(センターフォワード)格の鄭大世(チョン・テセ)、ジュニーニョとヴィトール・ジュニオール、レナチーニョの3人のブラジル人が絡むこのチームの攻撃力は、Jでもトップだし、神戸よりは一段上だろう。彼らの支援には中村憲剛や谷口博之がいる。
 試合前のFM放送の最後に、今日の予想は? と聞かれて、ここで予想する以上勝って欲しいと言うことになる。それには2点得点することと言っておいた。 相手は強力だから、無失点というわけにはゆかない。しかしたくさん取られれば勝てない。だから勝つためには2点が至上命題というわけだった。

――そのとおり、2-1の勝利でした。

賀川:相手にはACLの疲れがあった。日本のサッカーは何といってもランプレーで動きの量が大きい。1週間に3試合は大変ですヨ。神戸は2試合だからネ。
 試合の流れも神戸には非常にうまくいった。前半は相手の動きが速くて、巧くて、神戸はそれになんとかついていったというところ。10本以上シュートされ、2点ぐらいはとられそうなのを、GKの榎本達也をはじめ一人ひとりの粘りで何とか防いだ。それが45分続いて、ロスタイムのところで1点とられた。
 これは、神戸側のFW須藤大輔がドリブルしているのを井川祐輔に奪われたところからはじまって、ジュニーニョからのクロスを鄭大世にヘディングで決められたのだが、ジュニーニョに渡る前にはヴィトール・ジュニオールだったかのヒールパスもあって、なかなか見事な攻めだった。何しろ、ジュニーニョがノーマークでボールを受けてドリブルしはじめたら、彼を食い止めるのは難しい。小林久晃が詰めたが結局クロスボールを蹴られてしまう。そのクロスも、ニアをカバーしようとする宮本恒靖の頭上を越え、鄭大世の上へピタリと合わせてきた。これはここまで防いできたGK榎本も防げなかった。

――前半を0-0でいっておけばと、スタンドのサポーターも思っていたでしょう。

賀川:そうだろうね。しかし、これが逆に川崎には前半ようやくにしても1-0にしたという安心となり、ホッとしたのかもしれない。それが後半に影響するということもあるからね。その不思議なところが、後半2分(47分)のヴィッセルのゴールに表れていたとも言える。
 そうそう、宮本恒靖という選手のうまさは守備での統率力、DFラインの前進後退やプレーのその時々での仲間へのアドバイスや後方からの指示などと語られるが、ここでボールを奪うことが攻めにつながる点を読み、実行するのもとてもうまい。前半のヴィッセルのシュートは7本あったけれど、スタンド全体が沸いたのは33分の吉田孝行のヘッドのときだった。これは宮本が相手のパスをインターセプトしてそのままドリブルで持ち上がり、ボッティに渡して、そのリターンを受けて右サイドへ送り、そこからのクロスに吉田が飛び込んだ。彼の攻め上がりのうまさと、ボールを持って出たときの形がいいから、ボッティも宮本にまたボールを預けたのだろう。
 後半の1点目は、須藤大輔が巧みなシュートで前へ出てきたGK川島永嗣の上を抜いたビューティフル・ゴール。須藤の前のスペースへ落とした吉田のパスもまた見事だったが、この攻めの起点も宮本から――。彼のヘディングだった。その展開は、
(1)相手のヘディングのハイボールを宮本がヘディングして高いボールを送るところからはじまる。
(2)これを追った河本裕之――後半はじめからボッティと交代――が左サイドの35メートル辺りでバウンドしたボールをとらえ、
(3)右足のアウトサイドで浮き球を中央へ送った。
(4)ボールは相手DFを越え、中央のペナルティエリア外5メートルに落下、そこへ走り込んでいた吉田が、これもバウンドしたボールをボレーでやわらかく右足で左前へ落とした。
(5)エリア内にトントンとバウンドしてゆくボールに須藤が走り込み、飛び出してきたGK川島の前で下から蹴って頭上を抜いたのだった。

――ボッティというチャンスメーカーを引っ込めて河本を起用した監督の交代策も当たりましたね。

賀川:ボッティはドリブルも上手で攻撃の組み立てには大切な選手だが、故障から回復したところで体調不十分とみてのことだったろう。彼の他にも2人のブラジル人がいるのだが、これも故障ということだ。ともかく、宮本のヘディングにはじまったこの1点目は、すべてワンタッチプレー、いわゆるダイレクトパスの連続だったから、川崎のDF陣も防ぐのが難しかっただろう。


【つづく】

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