――平成21年、2009年もアッという間に日を重ね、一昨日12日は高校選手権大会の決勝でした。しばらくご無沙汰しましたが、年末・年始にかけてを振り返ることにしたいと思います。
賀川:昔のトヨタカップがFIFAクラブワールドカップ(CWC)となって、12月が忙しく、またそれだけに過ぎてゆくのが早くなりました。腰椎を痛めて体の動きが遅くなった私自身にとって、サッカーと世間の移り変わりはいささか早すぎる感はありますが、2008Jリーグの終盤、優勝争いから、トヨタプレゼンツのFIFA CWCそして天皇杯さらには高校選手権と面白い試合が続きましたネ。
――一番間近の高校選手権、ことしは鹿児島城西高校の大迫勇也が大きく取り上げられましたね。決勝は広島皆実高校に負けましたが、大迫のプレーはどうでしたか。
賀川:素晴らしいプレーヤーですヨ。しかし高校選手権を語るなら、まず優勝した広島皆実からでしょう。
――“堅守強攻”がテーマとテレビでしきりに言っていましたが、その通りでしたね。
賀川:テレビといえば11日、日曜朝の毎日テレビ(東京ではTBS)の関口宏さんの『サンデーモーニング』で高校サッカーを取り上げ、大迫選手の大会個人得点記録などを紹介していたときに、コメンテーターの張本勲(はりもと・いさお)さんがちょっと強い口調で、「スター選手のこともいいが、(相手となる)広島皆実高校もいい学校ですよ。進学校で、ボクも広島時代に行きたいと思ったところ。ボクは勉強ができなくて入れなかったが……そういう学校がこの大会の決勝にまで出てくるというのは素晴らしいことなんだから」と言った。
プロ野球の強打者であった張本さんには私自身、記者時代に直接会ったり取材したりしたことはなかったが、なにしろ天下のスラッガーでサンケイスポーツの評論家であった球界の大先輩・松木謙治郎さんが監督であったときの教え子(張本さん入団当時は打撃コーチ)でもあり、よく聞かされた名――。そのハリさんのコメントと口調に、一方的にスタープレーヤーを大きく取り上げる風潮への批判と広島人の郷土愛をのぞき見した気がした。
皆実高のイレブンの個人能力の高さと、それが交代を含めて揃っているのに感心した。特に、攻守にわたってサッカーの学識を心得ているという点が、広島地域全体の、この地方のレベルの高さを見る気がした。
――皆実高イレブンのうち6~7人が中学年齢までサンフレッチェの下部組織にいたそうです。
賀川:広島は戦前からサッカーが根付いていたところで、60~70年代の戦後の興隆期にも東洋工業という強いチームがあり、また高校も全国で埼玉、静岡と並んで「御三家(ごさんけ)」とまで言われた時代もあった。広島経済の地盤沈下とともに停滞した時期もあったが、プロ化でサンフレッチェ広島が誕生すると、当時の中心だった今西和男さんがいち早く若年層の育成に手をつけ、その下部組織から毎年優秀なJリーガーが育っている。
そして、中学年齢から高校年齢に移るとき、サンフレッチェへ残れなかった選手はそれぞれ高校のチームへ移るのだが、その高校の指導者とサンフレッチェの指導者との間の連携もよく、この年齢層でも互いに交流して実力アップに努めている。
したがって、高校生チームも自分たちより個人技の高い相手との戦いも十分経験している。それだけに、組織的に守り、攻めるという、サッカーの基本的な常識が高いのだと思う。
その個々の“常識”の上に立つ“判断力”そしてボールテクニックという基礎的な力が本大会で試合を重ねて一つひとつ勝ってゆくうちにどんどん成長して決勝で素晴らしいプレーをしたのだろう。
――決勝での3ゴールのうち2ゴールは、サイドからの攻撃を中央の金島悠太が決めました。
賀川:大迫に先制ゴールを取られてすぐ取り返した1-1の同点ゴールは、左サイドをオーバーラップして攻め上がった浜田晃のクロスを右から走り上がった佐々木進がヘッドで折り返し、それを金島が右足ボレーで右上へ決めた。
――画(え)に書いたような攻撃でした。
賀川:このチームは右DFの村田俊介も早いし、この日のサイドでの攻めに自信を持っていたようだ。20分に(ゴールを)取られて、23分に取り返した。それまでチャンスは皆実の方が多かったのに得点できず、大迫に奪われたからイヤな感じになるところを、この同点ゴールで大いに気持は盛り上がったハズだ。
――そして谷本泰基の2点目。
賀川:このゴールは、まず右サイドの佐々木が左前のオープンスペースへロングパスを送って金島が取るところから始まった。
小さくつないでいて、ボカーンと大きな展開に切りかえるこのチームの攻めての一つ、その特徴が出た。金島からのバックパスを受けた谷本がペナルティエリア内左寄りでシュートし、DFに当たったリバウンドを拾ってもう一度シュートして見事にファーポスト側へ決めた。広い展開のあとフォローした谷本がそのあとのシュート、そしてリバウンドを取ってのシュートと連続した動きの中で姿勢が崩れなかったところがいい。
――2-2となったあとの3点目は
賀川:それまで長いランやドリブル突破でスピード優位を見せていた村田が、右サイドでいいドリブルを仕掛けてDFをタテに抜き、クロスを送った速いボールでGK神園優を越え、そこへ金島が入ってきた。ノーマークで文句なしのヘディングだった。内側へ行くと見せてタテに抜いた村田は自信たっぷりの感じだった。彼にも金島にも会心のプレーだったハズ。
――ディフェンスに定評のある皆実ですが、攻撃も良かったわけですね。
賀川:基本常識というのか攻めのコツというのか――これまでどうだったかは分からないが、最終戦ではそれが開花した感じだネ。
――大迫勇也は?
賀川:いい選手だネ。ボール扱いもいいし、ストライカーとして色々な条件を備えているように見える。182センチと上背もそこそこある。
――そこそこ、ですか。
賀川:日本の高校年齢なら182は長身の方だが、代表チームのストライカーならもう少し高い方がいい。これから背が伸びるか、ジャンプ力がつくか、注目ですネ。
シュートはうまい。すでにゴールの大きさの感覚はつかんでいるようだし、利き足の長いリーチを生かして左へ切りかえし、左でシュートする技も身につけている。シュートのときにボールを注視しているのもいい。それに蹴り足の振りも早いようだ。
――メキシコ・オリンピック得点王の釜本(邦茂)さんと比べてどうです?
賀川:釜本のようなタイプのストライカーになるかどうかは別にして、大迫の方がうまいのは当たり前でしょう。サッカー全体のレベルが今の方が上がっているからネ。ただし、問題はこの年齢から22~23歳までにどこまで伸びるか。
今、私は『週刊サッカーマガジン』の連載「我が心のゴールハンター ~ストライカーの記憶~」で釜本邦茂がその時期にどうして伸びていったかを書いているところ。時代も違い、環境も異なるけれど、まずは基礎練習を積むこと、サッカーを考えること、体をつくること、いい試合やいいプレーを見ること、いいと思うことは何でもやること。
――シュートそのものの練習も、でしょう。
賀川:ここ2年ばかりの高校選手権の試合を見ると、ある時期よりも全体的にキックやシュートの力が伸びてきているように見える。多分、練習の量が増えたのだと思う。しかし、それがJリーグへ入ると途端に練習量が少なくなるらしい。これまでにも、多くの優れたストライカーの素材がJに入ってから足踏みしているのをずいぶん見ている。
――そういえば……平山相太も伸び悩み?
賀川:一番大切な18~22歳のストライカーの素材を伸ばして欲しい。大迫選手のような若手を見ると、心からそう思いますネ。
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