ゴールのひとつひとつに選手の個性と技術と組織プレーの確かさを見た
◇日本代表の完勝。前半10分にCKから遠藤保仁のキックにあわせ、中澤佑二が飛び込んでヘディング。強いシュートを叩き込み、この12分後にも中村俊輔のロングボールから田中マルクス闘莉王のヘディングパスと大久保嘉人のシュートが組み合わされて、2点目が生まれ、前半半ばで2-0となった。日本は後半にも中村俊輔の“右足”シュートで3-0とし、点差を詰めようとするオマーンの攻めを押さえて、まず3次予選の6月シリーズ第1戦で勝ち点3をもぎとった。
◇オマーンが故障やイエローカード2枚による出場停止処分でベストメンバーから主力が抜けていることを考えると、“喜びも中くらい”となるが、この日の試合には選手ひとりひとりの勝とうとする気迫があり、ボールの奪い合いにもその気持ちがあらわれていたことが、何よりだった。技術面では、キリンカップの2試合で欧州組の松井大輔、長谷部誠、中村俊輔の3人と、Jリーグ組のそれぞれの相互理解が深まったようだ。プレーヤー個々の特色が結びついた3ゴールにそれがあらわれていた。
バーレンでの敗戦とふがいない試合ぶりからチームを立て直し、この日の試合のように見る側にも戦う姿勢を伝え、巧みな連係と個人の特色の生きたゴールをプレゼントしてくれた---選手たちと岡田武史監督をはじめとするスタッフ、バックアップのJFA関係者に感謝したい。
この後には、この日とは全く異なる暑さを背景に、彼らがベストメンバーをそろえるはずのマスカットでのオマーン戦、さらにはバンコクでのタイとの試合が控えている。代表は体調をしっかり整えて、アウェイ戦を乗り切ってもらいたいものだ。
◇さて試合を振り返り、3ゴールのすばらしさと、その時に選手が演じた個性の組合せの妙を眺めよう。
<1点目 左CK、遠藤、闘莉王、中澤>
遠藤のキックは、速いボールでニアの選手たちをこえ、ゴール正面のゴールエリア線上へ、それを中澤佑二がCDFナビル・アシュールに競り勝ってジャンプ・ヘッド。強く叩かれたボールはGKアリ・アルハブシの右を抜いてネットへ飛び込んだ。遠藤のキックもパーフェクトなら、中澤の気迫あふれるジャンプ・ヘッドもすばらしかった。ニアサイドへ走ってジャンプした闘莉王にイサム・ファヤル中央からニアに、そしてもう一人も加わったから、中央部に空白が生まれ、そこへアシュールとせりながら中澤が内側(ゴール側)に体を入れて、ジャンプ・ヘッドした。一番のニアサイドには、長谷部、ファーサイドには大久保という配置だったが、キックの前から闘莉王の気迫にオマーン側は引き付けられ、彼のニアへの走りとジャンプはまことに効果があった。
実はこの左CKは、左タッチラインぎわでの、遠藤~長友佑都の短いパス交換と、その後に続く松井からのスルーパスで生まれた。長友のダッシュの相手は、スライディング・タックルで逃れようとしたが、蹴ったボールはコーナーフラッグのすぐそばを通ってラインを割ってCKとなったのだった。試合前の雨(後半にまた降雨)でスリッピーなピッチは、このときは日本の味方となった。
遠藤のCKを闘莉王と中澤というヘディングの強い2人のDFの協力で奪い取った1点目は日本代表のひとつの特色でもあるが、22分の2点目もまた、CDF闘莉王の飛び出し、それも最後列から相手ペナルティエリアへの“長駆”とそれへ俊輔の正確なロングパスというこのチームの中核の2人の個性が作り上げたチャンスだった。
◇ この少し前の形勢は、リードされたオマーンが攻めに出る回数が増え、CKやシュートもあった後、20分に日本が俊輔の右前へ出したスルーパスを受けて、駒野のクロスが飛び、それを大久保がヘディング・シュートした。攻撃に加わった松井に当たってGKに拾われた。惜しいチャンスの後のGKのキックを自陣内で奪うところから日本の攻めが始まった。順を追ってゆくと、1)奪った長谷部がドリブルして2)右タッチ際に開いた玉田にパス。3)相手DFを背にして受けた玉田はしっかりキープして4)もう一度後方の長谷部にバックパス5)ハーフラインでこのボールをトラップした長谷部の前方へ闘莉王が走りあがる。6)長谷部はボールを持ち替え、相手の接近を見ながら、右後方タッチライン近くの中村に渡した。7)中村はさり気なく止めて、さり気なく左足でボールを叩くと、高く上がってペナルティエリアいっぱいのところにいた闘莉王の上に落ちた。8)高いジャンプでこのボールを頭でとらえた闘莉王はゴールを背にしてエリア内の右のスペースへボールを落とす。9)そこへ大久保が走りこみ、ノーマークでシュートをしっかり決めた。右ポストよりやや外で10メートルの距離、この角度は得意だから前進守備のGKアルハブシの左側(大久保から見て)を低いライナーで抜き、ボールは左ポスト際に飛び込んだ。
<長谷部の援護>
このシーンは、闘莉王が1)の奪ったときから動き始め、それにあわせて俊輔が得意の「仲間の上へ上げて落ちる」ボールをピタリとあわせたこと、そして闘莉王が専門のセンター・フォワード顔負けのヘディングパス---走って、落下点へ入り、ゴールを背にジャンプしてヘディングパスをするという技術を見せたこと ---それに大久保がフォローして、彼本来の仕事(シュート)を果たしたところがみどころだ。
ただし、もうひとつ見逃せないのは、長谷部のプレー。相手のボールを奪って、玉田へパスを出し、もう一度もらったときに闘莉王の動きは見えたはずだが、あえてそのタイミングを選ばずに俊輔に渡して、彼に委ねたこと。そして、俊輔のキックが妨害されないように、接近しようとする相手のプレーヤーのコースに立ったことだった。
パラグアイとの試合で、俊輔がタッチ際からゴール前へ長いクロスを送って闘莉王のヘディングというチャンスをつくったが、闘莉王のハイボールに対する強さと、そこへボールを送り込むことは、すでに彼の頭の中にインプットされていたはず。その意味で3次予選前のキリンカップ2試合は岡田監督にも選手たちにも、とてもいいドレスリハーサルだったといえる。
<3点目 奪う松井と俊輔の右>
3点目は49分、後半始まって4分だったから、ハーフタイムで気分一新して後半に一矢を報いるはずのオマーンの選手にはいたい失点だったろう。このゴールは1)松井の相手ボールを奪う巧さと強さ2)その後のドリブルによる局面展開のうまさと3)その松井からペナルティエリアの手前でスクエアパスを受けた俊輔が4)相手の予測の裏をかいて右へはずして右足のシュートをゴール下隅に決めた---という2人の個人力によるゴールだった。
<長友のラインと平行のキック>
松井のドリブルからパスの間に玉田や大久保がボールを受ける動きをしたために、相手の守りが引っ張られて、俊輔に渡ったときは集団防御体制が手薄になったこともよかったが、私はそれと同時に、松井がボールを奪うきっかけとなった、長友の左ライン際からのダイレクトキックがタッチラインに沿ってピッチぎりぎりにグラウンダーで走ったことに注目したい。
このコースへのキックは相手側のすぐ攻めにつながらない効果的なクリアであり、パスなのだが、日本の左サイドの選手でこれまでタッチラインと平行に縦のボールを蹴ることのできる選手はなかった。日本代表でも、そうだった。長友はそういう、このポジションプレーの確かさを買われてのことだろう。プロ化してJリーグが生まれて、15年でようやく、この種のキックができる若い選手があらわれたことについては、いずれ稿を改めて語るべきかもしれない。岡田武史監督は、長友はいまJの左サイドで最も輝いている選手、という表現で彼を選んだ理由を語っているのだが。
◇ついでながら、松井が相手の背後からボールを奪うプレーは、まことに驚くべきもの。背後を走る彼の気配で変化する相手の体の動きのスキをつくり、自分の体を入れるところは天性のステップの巧みさと、彼独自上体のひねりや手の使い方にあるのだろうと思う。キリンカップでも見せてもらったが、不思議で、しかも実戦にいきるワザでもある。
◇この日、スタジアムにJFA最高顧問の長沼健さんの訃報がもたらされた。自らも代表選手であり、1968年のメキシコ五輪銅メダルチームの監督でもあり、第8代JFA会長でもあった。日本サッカーの最高人のひとりを失った悲しみは大きいが、選手たちの意欲満々のプレーと高い技術は、健さんにも喜んでもらえただろう---日本選手たちの喪章をみながら、そう思った。
固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
コメント