対オーストラリア:日本がハイクロスから得点、相手はライナーのCKで得点。サッカーは一筋縄ではゆかない(2)
ビドゥカという長身頑健なストライカーへの警戒論が、試合前のメディアで取り上げられました。
昨年の経験から、体格の良いオーストラリアを相手にしたセットプレーでの空中戦の劣勢を考えてのことです。
実際に点を取られたのも右CKでしたが、皮肉なことに、ハイボールの空中戦でなく、キューエルの左足キックによる低くて早いボールが左コーナーから日本のゴール前を通り、これをアロイージが足に当てて決めたのでした。
後半24分のこのゴールシーンは(1)ブレシアーノの飛び出しとドリブルから相手の右CKのチャンスとなり(2)キッカーは左利きのキューエル。ゴール前には中央ややニア寄りにブレシアーノ、ファーポストにはアロイージがいました。
(3)キューエルの早い低ボールに対して、ニアポストへミリガンが飛び込んだものの触れず、ボールがそのままゴール前をバウンド。通り過ぎようとしたときにアロイージが来て、マークの巻よりも前に出て右足でタッチしました。
巻と競り合いながら、ともかくボールに当てるところは、やはり体の強さが出ていました。
セットプレーで空中戦に負けないこと。これを心がけていた日本側にとって、この低く早いキューエルのキックは致命傷となりました。
サッカーは面白いもの。考えていたことと全然違った形でのゴールがあり得る――。
私がそう思ったのは1941年の神宮大会・準決勝の対青山師範でした。体格が立派でキック力のすごいこの相手に、私たち神戸一中は3-0で勝ったのですが、その1点目は私が決めました。
それがなんと、私たちのショートパスの崩しではなくDFからのロングボール。チビのCF(センターフォワード)の私は、FB(フルバック)の山中弘が高
いボールを蹴ってきたのを見て、「なんということを」と思いながらもノッポの相手の前へ走っていったら、何のはずみかDFに当たったボールが私の前でバウ
ンド。それをジャンプキックで押えて蹴ったら、ゴールへ入ってしまいました。
16歳と10ヶ月の頃のこの経験で、サッカーでは自分の一番得意なやり方でなくても、相手の予想と違ったときは点を取れる可能性が大きいと知りました。
メルボルンオリンピックで優勝したソ連代表はショートパスの巧みさで知られていましたが、決勝ゴールは一本のロングパスが通っての得点。今度もサッカーの神様は、その皮肉屋の面をチラリチラリと覗かせました。
日本は失点のあと、高原直泰の見事なシュートで同点としました。
ファーポストへのクロスを巻がヘッドで折り返し、相手DFが蹴り損ねたのを拾って、キックフェイントで反転。左足シュートを左ポストいっぱいに叩き込みました。
高原のドイツでの成長を見ることのできるのが、この大会の楽しみのひとつですが、その高原へのボールの経路を考えると、(1)ペナルティエリア左サイド
の外側、タッチ寄りからの中村俊輔のハイクロスが効きました。この俊輔のキックに至るまでには、それこそ、いまの代表らしいパス交換があって、遠藤が俊輔
へタテにボールを流し込むように渡すことで、俊輔のクロスへの体勢が生まれるのですが(2)注目したいのは、これまでCKの多くを空中戦の不利を避けて低
いボールにしていたのを、俊輔が得意の“上げて落とす”高いボールをファーポスト側へ蹴ったことです。
中村俊輔のキックはキリンカップの頃なども申し上げている(http://www.fcjapan.co.jp/KSL/bunko_japan/kirin/)とおり、ターゲット(目標)の上へ落下させることです。
UAE戦のゴールでもそれがありました。
ただしこの試合では互いの力を考えて、それまで出していなかったのを、このときはファーポストの巻を狙って蹴り、それに巻が応え、ヘディングしたボールが運良く高原に渡ったのです。
相手に高さがあってもターゲットに届かせるキック――高い相手の上を越し、目標に落ちる――は、日本では中村俊輔の右に出る者はいないし、欧州でも独特の存在として注目されています。
ファーポストでの折り返しのヘディングというと、1968年メキシコオリンピック1次リーグ・第2戦の対ブラジル。杉山からのクロスを釜本がファーポスト際のヘディングで折り返し、それを渡辺が決めて0-1から引き分けにしたのを思い出します。
この引き分けで1次リーグ突破の目論見が立つ、貴重なものでしたが、今度のこの中村俊輔-巻-高原の折り返しヘディングからのゴールも、歴史に残るひとつでしょう。
今大会の1次リーグ3試合と対オーストラリアを見れば、いまの日本代表の技術レベルは少しずつ伸びてはいても、まだまだ不足部分の多いことに気づかれるでしょう。
これまでもお話しているように、クロスパス、ラストパス、シュートの精度です。
と同時に、サッカーでは1対1の個人力が基礎という考え方。走ることは、日本サッカーの特色から見て組織力を生かすうえで当然ですが、その組織で勝つということと、個人力アップは決して相反するものではありません。
今後の2試合を見ながら、このことをもう一度考えてみたいと思います。
準決勝の相手・サウジアラビアは、オーストラリアより強いように見えます。攻撃的なプレーヤーは、今度は高さや体格の大きさでなく、早さと強さです。もちろん高速でのボール処理力もあります。
ベスト4へ出たおかげで、またタイプの違う強敵と試合できるのは、選手たちにも私たちにも、うれしいことですね。
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