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2003年5月

圧巻、阿部勇樹の長蹴力

2003/05/23(金)

 5月21日 (神戸ウイングスタジアム) 
 19:00  日本 4(2-0 2-0)0 ニュージーランド  

◆ラグビーの代表はオールブラックスの名で世界に知られているが、オフホワイツと呼ばれるサッカー、ニュージランド代表は残念ながらそうはゆかない。  

それでも1982年ワールドカップ・スペイン大会には出場して、1次リーグでブラジル・ソ連・スコットランドと同じ第6組で戦った。このときスコットランドに懸命に食い下がるオフホワイツをマラガのスタジアムで見た。3-0とされてから2点を挽回し、結局、伝統と力の差で5-2で敗れたが、攻撃的で好感の持てる試合ぶりだったのを覚えている。    

彼等の後輩のフル代表は、昨年のオセアニア選手権でオーストラリアを破って優勝し、今年6月のコンフェデレーションカップ(フランス)にも出場し、日本やフランス、コロンビアと第1ラウンドで顔を合わせることになっている。      

◆そんなニュージランドからやってきたU-22のオールホワイツはー。    

U-22といっても、20歳以下が6人(日本は2人)もいるこのチームは、まず、彼らの特色であるハズの体力や体格面でも、決して強くなくて、技術差を補うことができず、試合は日本の一方的なものとなった。      
◆日本の4得点はいずれもビューティフルで、1点目は根本の左からのクロスに中山がファーサイドでヘディングした。ニアに大久保がいて、2人がクロスの線上にはいったのがよかったし、中山のジャンプヘッドは的確だった。    

2点目は左サイドのFKを阿部勇樹がファーポストへ蹴り、これに大久保が飛びこんだもの。    

3点目は後半はじめから登場した森崎浩司がミドルシュートを決め、4点目は山瀬が、田中がDFラインのウラへ送りこんだボールを追ってGKの上を抜いた。      

◆観戦したジーコはもっと多く得点できたハズだーと言ったようだが、それは観戦者のほとんどの感想だろう。    

いまのU-22代表たちは、前の世代よりも若いうちからいい環境でプレーしていて、技術も高く、チームプレーの理解度も高い。それが攻勢を続けるなかからゴールの量産ができないのは、シュートやラストパスの精度の問題もあるが、同時に、シュートへもってゆく展開で、どこでタメをつくり、どこでムリをするかといった、ゴールを奪うための2つがまだつかめていないこともあるだろう。      

◆ただし、シュートやパスの精度という点では、この日に阿部勇樹がFKでみせたロングパスはみごとなものだった。    

たまたまこの試合の1週間ばかり前に、講談社の「フットボールニッポン 夏季号」(6月9日発売)の企画で彼のインタビューを引き受けて話し合ったこともあって、この日とくに注目していた。    

前半24分にペナルティ・エリアのすぐ外、中央やや左よりの位置でのFKは、ゴールの左上角にあたって(ワールドカップでの日本−トルコ戦のサントスのキックと同じところ)ゴールできなかったが、大久保のヘディングゴールを生んだ40分のFKは、この日の圧巻といえた。    

中山が突進して倒されて得たFKの位置は、左タッチラインの内側5メートル、ゴールラインから17メートル。阿部の右足で蹴られたボールは高く上がり、GKの手の届かぬ位置からカーブして、ファーポストぎりぎりに進み、それを狙って大久保がいいジャンプ・ヘッドで決めた。    

コスタリカとの試合で彼は正面右より28メートルあたりのFKを直接決めているが、今度は左サイドから、ファーポストを狙った40メートルを超えるピンポイントのキックだった。オシム監督に、サイドからのFKはゴールの遠い側にはいるように狙えと言われているそうで、そのとおりのキックだが、これだけの距離をコントロールできるキッカーが現れたことでも、日本サッカーのレベルアップの記(あかし)といえる。      

◆コスタリカ戦の直接ゴールと、この日の長大ピンポイントパスだけでも大きな武器であり魅力に違いないが、この正確な長蹴力、強蹴力を試合の流れのなかでも生かせるように期待したい。   

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Jの試合から(2) 清水vs磐田

2003/05/09(金)

 4月19日 (静岡スタジアム エコパ)
 第1ステージ第4節
 清水 0(0-0 0-2)2 磐田  

ジュビロ磐田の試合は、ひとりひとりのテクニックを結びつけるパスの技術と、選手の動きを見るだけでも楽しい。    

4月19日静岡エコパで行なわれた“静岡ダービー”では、磐田が後半の20分と24分にゴールを奪って2-0で勝ったが、この1点目も藤田俊哉を軸にした見事なパスワークと藤田その人のエリア内でのフィニッシュに、テレビの前で思わず拍手したほどだった。      

◆このゴールを生む一連の動きは、清水のGK黒河の大きなパントキックが高くバウンドして落下するのを磐田の左DF山西がダイレクトに蹴り返したところから始まった。    

1)左のキックの上手な山西のボレーキックは、ハーフラインを超えた10メートル地点の藤田の頭上へ。  

2)相手と競り合って、藤田が背後(ゴール側)へ落としたボールを、前に出ていた名波が拾う。    

3)名波は左足アウトで後方へドリブルして(藤田よりも深い位置へ戻り)前方のグラウへパス。    

4)グラウはダイレクトに左へ短く藤田に渡し、左前に走り抜ける。    

5)エリア外12メートルの藤田に対して清水の2人が応対、左前(エリア外)のグラウにも、右前の中山にもマークがついている。    

6)相手の守りが厚いとみて、藤田は右足キックフェイントをしてから、左へ切り返し、反転して後方を向き、再び名波に戻す。清水のDFは最終ラインがエリアのすぐ外、その前10メートルに4人が第一防御ラインを作っているが、藤田、名波は妨害もなくボールを受けていた。    

7)名波の持ち方を見たグラウが2歩ほど後退し、名波からのパスを受ける。受けてすぐグラウはダイレクトですぐ右後方の西へ。藤田はすでに前の位置からエリア近く、中央の中山ゴンと並びかける。    

8)グラウからのパスを受け、西はダレクトで中山へ。だが、これは清水DFがはじき返す。    

9)エリアから25メートル、ほぼ中央でこのクリアを拾ったのが福西。ノーマークでゆっくり持って、左へ流れ、いったん右足アウトで右に持ちかえ、体の向きを変える。    

10)そのとき、最前線にいたはずの藤田が中央やや右より、エリアの外10メートルまで戻ってきて、福西のボールを受ける。清水の第一防御ラインは背後から戻ってきた藤田はノーマーク。ボールが渡ってから追い始めるがすでに遅い。藤田の左前に西がペナルティ・サークルのライン近くに。中山がその左前に(エリアギリギリ)、そして右前にグラウがいた。中山とグラウには密着マークがつき、西はフリー。    

11)藤田は自分を迎えうつ森岡に向かってドリブルし、すぐ西にパスを送り、そのまま前へ。    

12)西はいったん止めて一人を引きつけ、藤田の突進に合わせてパス。    

13)グラウのマークからかけつけた清水・村松の前で藤田は、右足でボールを小さく止め、次いで右足アウトで外へ動かして前へ抜いて出て、右足インサイドのシュートでGK黒河の左を抜いてゴール左下へ決めた。      

◆最初の山西のキックから藤田のシュートがゴールに飛び込むまでちょうど30秒。      

◆(9)の福西がボールを取ってから藤田のシュートまで10秒、この短い間にこれだけの各選手のプレーが合い、それぞれの動きとボールの動きがつながるのだからサッカーは面白い。      

◆そしてとくにフィニッシュに持って行った藤田のトラッピングからシュートにかかる動作の見事さは、テレビ解説のキーちゃんこと北澤豪も激賞していた。彼自身もこういう局面の場数を踏んでいるだけに高い評価したのだと思う。若い選手たちも是非見習ってほしい技術でもある。

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Jの試合から

2003/05/07(水)

【ゴールを向かう姿勢】    

日韓戦(4月16日、ソウル)で永井の幸運の決勝点が生まれてから、気のせいかJでも自らの突破によるゴールが増えているようだ。4月29日のガンバ対鹿島で1-1のあと、鹿島が奪った決勝ゴールは、タイムアップ直前の深井のドリブルを止めようとした反則によるPKだった。仙台対磐田の後半36分の仙台の同点ゴールは、仙台エデーの突破を防ごうとした鈴木の反則によるPKだった。    

シュート・レンジ(シュートを決められる距離)にはいっているのにパスを出そうと受け手を探すよりも、自らシュートか突破をはかる姿勢が大切(そこで変化が生まれればパスも効果がある)とは、言われ続けてきたことでもある。    

◆中盤にはいいプレーヤーが輩出するのにストライカーがなかなか出てこない。プロになって、これだけサッカー人口が増え、これだけ優秀なコーチがいるのに、まだ釜本邦茂(1968年メキシコ五輪得点王)を超えるものはいないという声もあり、FCJAPANの掲示板にも、そうした意見が寄せられている。     

◆セレッソ大阪のマッチデープログラムのコラム「蹴球・足球・フットボール」で私は大久保嘉人の「ゴールへの意欲」の強さと、そこへはいってゆく「図々しさ」について紹介したが、これは少なくとも私が見てきた日本の歴史に残るストライカーは、釜本邦茂をはじめ、この気持ちの強い選手だったからでもある。     

◆ゴールへの意欲が強いからこそ、シュートの反復練習をする。それも、相手がいなくても、1本1本、自らイメージを描き、実戦のなかに身をおくのと同じ気持ちで回数を重ね、失敗があれば、なぜ右に外れたか、なぜバーを超えたか、なぜGKの正面をついたかなどを自らチェックし工夫をするのである。    

ヘディングも同様だ。(ヘディングは誰かに蹴ってもらうか、投げてもらうかしなくてはならない。)    

釜本邦茂はボールが蹴られた瞬間にその落下点を読むのが天下一品だった。それは大学生のとき、GKからのロングボールの落下点へ入り、ヘディングをする練習を繰り返したからでもある。大リーグのイチローが外野フライの落下点へ、いち早く入ってゆくのと同じことなのだ。      

Tphoto030503okubo ◆大久保はそうしたゴールへの“欲”が自らの技術アップを早めてきた。もともとドリブルが上手で、体がしっかりしていて、バランスがよい。デビュー早々の試合で、エリア近くのFKを自分で志願して蹴ったほど。(その態度に反発した古い仲間もいたらしい)1年目にインタビューをしたとき、「シュートの体勢にはいろうとして、蹴らなかったのは相手に妨害されたのか」との私の問いに、「周囲からの“パスをよこせ”という声が気になった」と答えたこともある。「自分がシュートしようと思えば、シュートすればよい。年齢には関係ないことだ」と言っておいたが・・・。      

◆セレッソのチーム状態がよくなってきたのも、今年の大久保にはプラス。なんといっても、モリシが再びモリシになったのが第一。スペインでの苦い経験と、その後の不調をバネに西澤が盛り返したのも大きい。徳重にデンソー時代のゴールゲッターの感覚がもどったこと、長身バロンが加わったことでチーム全体の攻撃力があがり、また布部、廣長、久藤といった経験ある中盤がそろって、パスの経路やタイミングが多彩になったことも、大久保の技術力を引き出すのによい環境になっている。    

対浦和戦で、坪井を背にし、廣長のうまいパスから左へ流れるとみせて、右足のトラップ(自分の股下を通す)で反転し、得意の右足シュートを決めたのは素晴らしいが、この試合で、彼が右から2度、ゴールライン際にドリブルし、短い距離のチョップキックで、高いボールをゴール前へ送ったのにも舌を巻いた。相手のリーチであっても、その足を越えてクロスが届くように急角度で上がるボールを蹴ったのだ。    

◆U-22の対ミャンマー、第1戦でもドリブル・シュートで1ゴールした。    

◆ジュビロの復調と藤田俊哉の絶妙のパス・アンド・ゴールに続くトラップとシュートについては、のちほど。 

(撮影:冨越正秀)

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