監督ジーコへの期待 1 ボールの扱い、中でもキック上達を
ジーコの「黄金のクアルテット」の仲間であった“ドトール”ソクラテスが1984年に来日したとき、「あなたがすごいと思うようなプレーヤーはいるのか」と聞いたとき「それはジーコです。彼のようなパーフェクトなプレーヤーは羨ましく思う」という答えが返ってきた。190センチの長身だが、それだけ足も大きく、足首を立てて蹴るインステップは蹴りにくい。ドリブルシュートもPKもすべてインサイドキックであったソクラテスから見れば、173センチの小柄なジーコは、それだけに足の大きさがキックに適当で、それだけに多種多様のキックのできるジーコが羨ましかったに違いない。そのキックをはじめ、多彩なボールテクニックを、パーフェクトにまで高めたプレーヤー、それがジーコだった。
キャプテンシーで仲間から尊敬されていたドトールが感嘆するほどの選手だったジーコは、すでに鹿島でチームとプレーヤーの指導の経験を積んで成果をあげているが、今度、彼が日本代表チームの監督となったことで、私が一番に期待するのは、選手の自主判断や、その技術の特性を大切する彼によって、日本サッカー界全体が、もっと「個人」力アップに向かうことだ。
幸いなことに、日本サッカー界の若年層育成は、優秀な有給コーチと、多くのボランティアコーチの努力によって、そしてまたJリーグという目標のあることで、とてもうまく進んでいるといっていい。学校の先生も、クラブのコーチも、ずいぶん勉強し、選手の個々の能力開発や、チーム戦術の向上などは、わたしが関西サッカー協会の技術委員長をしていた20-30年前とは比べものにならないほど進んでいる。そしてまたサッカーをしたい、サッカーに打ち込んでみたいという多くの若者のなかにはきわめて優秀な素材が加わっている。いい素材が集まり、ぞくぞくと生まれた上質のクラウンドで(たとえ中高生のチームは毎日でなくても)試合や練習ができるいい環境も整ってきた。
日本のサッカーの前途はまことに明るいといえる。
しかし、これだけよくなった環境で、すべてのプレーヤーが、この競技の原点であるボールの扱いに習熟しているか、といえば、そうでもない。とくにキックの技術に関しては、昔にくらべても大幅に進歩しているとはいい難い。
それは、キックやヘディングという、ボールを自分の肉体の一部で叩き、狙った方向へ、狙ったスピードで、狙った高さへ到達させるためには反復練習が必要であり、その繰り返しの練習を重ねていないからだといえる。
ジーコは、幼いころから才能に注目されたが、反復練習によってパーフェクトにまで技術を高めた経験をもっている。彼が中盤に中田、小野、中村、稲本の4人を配置したことや、3DFから4DFにしたことなども大切なことには違いないが、わたしは、まず、日本サッカー界全体が、選手時代のジーコに思いをめぐらせ、個人能力への回帰 — 特にキックの上達に向かうことを期待している。
<つづく>
(写真はドトール/撮影:冨越正秀)
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